相変わらずお尻までの構成は完成しきっていないですが、「ここまでなら書ける」と判断した所まで随時投下していきます。
「さて、文化祭ライブの総括なんだけど……その前にちょっとだけいい?」
反省会も最後の詰めになった所で、美空さんがそう切り出してきた。
いつもだったらサクサク進める部分を中断したので皆が珍しそうに注目すると、美空さんは自分のタブレットに何かを表示して私達に見せてきた。
「今後の目標なんだけど、これに出てみない?」
四人で亀みたいに首を伸ばして画面を見ると、そこには『未確認ライオット』という何かのイベント名が表示されていた。
「十代アーティスト限定のロックフェスでね、ここからメジャーデビューする人も出ているんだ」
「あ、ヨヨコちゃんから聞きました! 文化祭終わった後にこれ出ないかどうかロインで送ってくれたんです」
あれ、虹夏ちゃんがいつの間にか大槻さんを名前で呼んでる。
いつそんなに仲良くなったんだろうと思ったけど、そう言えば前に交流会した時に同じ学年でリーダー同士だから結構虹夏ちゃんからコミュニケーション取ってたっけ。
流石虹夏ちゃん、大槻さん気難しそうな性格なのにもう打ち解けてるとかマジ天使。
「大槻さん、文化祭ライブの感想送ってくれたりこの件だったり、何かとアドバイスしてくれますよね」
「あれじゃない。『勘違いするなよ。貴様達を倒していいのは私だけだ』みたいなライバルキャラ特有のツンデレ?」
「そんなベ〇ータじゃないんですから」
気持ち男性みたいな声を出してモノマネをするリョウさんに喜多ちゃんがツッコむ。
でも実際、私達が課題を修正しても更に上を行くんじゃないかって実力がSIDEROSにはある。そして大槻さん達も未確認ライオットに出るなら、対決は避けられない。
思わず固唾を呑むと、美空さんがゆっくりと続きを説明してくれた。
「ひとまず流れを確認するね。順番にデモ審査があってこれの締め切りが四月。その後にウェブ投票、ライブ審査があって、最終審査はフェス形式の予定だね」
「来年の四月ですと、まだ余裕はありそう?」
「ブブー。ひとりちゃん甘い。審査に向けて新曲も作らなきゃいけないし、少しでも投票をして貰うために宣伝活動もしなくちゃいけない。更に自分達のレベルアップもしなくちゃいけない上に、学校もあるから半年なんてあっという間よ」
「うっ……。すいません、そう考えるととてつもなく忙しくなりますね」
見積もりが甘かった事を謝るけど、美空さんに言われると改めて超ハードスケジュールになる事を実感して自然と他の三人の表情も引き締まった。
「もちろん、参加しないで別の道でメジャーデビューを目指す方法もある。ひとまず今週一杯くらいで皆で相談して欲しいんだけど」
『やります!!』
「お、おぉ……!」
奇しくも皆の声が重なり、美空さんも驚いたみたいで体をのけ反らせた。
「メジャーデビューが狙える道があるならやらない選択肢は無いです」
「他の方法を探すのも手間だし、さっさと動かないと時間が厳しいしね」
「結果がどうなっても本気でやれば後に続く力になると思います」
「そ、それに、これに出なかったらずっとSIDEROSだけじゃなくて他のバンドからも逃げ続ける事になっちゃう気がします」
虹夏ちゃん、リョウさん、喜多ちゃん、私がそれぞれの考えを口にすると、美空さんは笑顔で頷いてくれた。
「よし! じゃあ今後は未確認ライオットを目指して頑張ろう! それも併せた方針なんだけど、まず虹夏ちゃん。文化祭ライブの総括をお願いできる?」
「はい。今回の良かった点は、お客さんのリアクションに流されないで自分達がお互いの事を気に掛けつつ更なるベストを追求した事だと思います。でもヨヨコちゃんの感想にもあった通り、頭からフルで最高の完成度を通せなかった事が課題で、これが出来ないとそれこそ未確認ライオットだと命取りになると思います」
淀みなく虹夏ちゃんがスラスラ答えると、美空さんもOKと言いながら頷いてくれた。
「素晴らしいまとめありがとう。じゃあ、ここからは全員に訊きたいんだけど、課題を克服するためにはどうすれば良いと思う?」
「とにかくライブ、ライブあるのみ。一回のライブに頼っては駄目。万のライブで経験を積むのだ」
「リョウの言いたい事は分かるけど、お店のライブだとお金の問題もあるし、毎日やってるわけでもないからまずは路上ライブの頻度を増やす方向かな」
「そこなんですけど、お店でのライブも路上ライブも遠征とか出来ないですかね? 下北沢の固定ファンも大事にしなくちゃいけないですけど、投票があるなら新規のファンを増やす為の作戦を立てないといけないと思います」
「あの、すいません。私は基礎を疎かにするのも駄目だと思います。曲を作る側からしたら個々のレベルアップもしないと新曲の幅が広がり辛いですし、土台がしっかりすれば一旦出来上がった曲の調整もスムーズに行きますので」
皆であーでもない、こーでもないと意見を出し合う。
美空さんの教えだと目標から逆算して考えるのが大事だって言われたけど、未確認ライオットっていう大きな目標の前だとどれも大事に思えて選べなくなっちゃう……!
結局皆で『どんな事をするべきか』という案は出せたけど、『どこから手を付ければいいのか』という部分は結論が出なかった。
「美空さ~ん。どうすればいいですか?」
「大丈夫大丈夫。まずは皆で案を出す事が大事だったから、今話し合った事は無駄じゃないよ」
虹夏ちゃんが力無く助けを求めると美空さんは笑顔で頭を撫でて労わってくれた。
そして、お決まりの人差し指を立てるポーズで話を始めた。
「結論から言うと、今皆が話した事は全てが大事でやらなくちゃいけない事。限られた時間の中で最大効率を得るためにスケジュールを組まなくちゃいけないんだけど、それでも時間はいくらあっても足りない。だから、時間の絶対量を増やす為に、自分達が使える時間を全てバンド活動に費やすくらいハードな日程になる事は覚悟して」
真剣な表情と力強い口調で話す美空さんに全員の喉がゴクリと鳴る。
「まず、これからのスタジオ練習は実戦形式の合わせだけにする。今まではウォーミングアップがてら私が個々のパートを見て疑問点の相談に乗っていたけど、それは無しにします」
「そうすると、個々の練習は自分達の裁量って事ですか?」
「その通り。その上で意識して欲しいのは、短い時間でも習慣化する事。例えば寝る前の10分とかでもクロマチックやチェンジアップをやるとかね。例え短い時間でも毎日の積み重ねが後々の大きな力になる事を絶対に忘れないで」
『はい!』
「もし疑問点があったらロインのテレビ電話だったり録画した動画を私に送って。可能な限り見て添削するから。次にスケジュールだけど、週末こそバンド漬けになると考えて。例えば今は夏と違って涼しいからお昼過ぎから路上ライブ、終ったらスタジオで反省会と練習、その後はバイトって感じでね」
「し、死んじゃう」
美空さんが一例を提示するとリョウさんが青ざめた顔で呟いた。
「文句言わないリョウ。美空さんだって自分の時間をあたし達の為に使ってくれてるんだから」
「私の事は遠慮しないで。それと路上ライブは都内だけじゃなくて神奈川や埼玉にも行く事を視野に入れておいた方が良いかもね」
「FOLTでライブ、はお願い出来ないですかね?」
「駄目だよ喜多ちゃん。吉田店長は優しい人かもしれないけど、顔見知りってだけで交渉したら相手に失礼だし、あそこでやらせてもらうにはあたし達はまだレベル不足だよ。だから、FOLTでやらせてもらうくらいになるっていうのを中間目標として練習して行こう。路上ライブに良さげな場所や他のライブハウスの伝手はお姉ちゃんにも相談してみる」
「ごめんなさい。ライブハウスに関しては私も他に伝手が無いから、せめて練習のサポートはしっかりやらせてもらうね」
「いいんですよ美空さん。OLさんやりながらここまでやってくれてるのにいつもありがとうございます」
「そうです美空さん。あの、勉強まで見てもらってる私が偉そうに言える立場じゃないですけど、本当にありがとうございます」
虹夏ちゃんがお礼を言ったのに合わせて、私も一緒に頭を下げる。
「……ありがとうね、二人とも」
お礼を言う美空さんの瞳は、少し揺れていた。
その後は改めて練習スケジュールを紙に書きながら整理して、一つの計画書が出来上がった。
平日は学校とバイトもあるから内容はあまり変わらないけど、土曜日はお昼から路上ライブ、その後に反省会とスタジオ練習、夕方からはバイト。日曜日はそのままの勢いで午前中にスタジオ練習という形になった。日曜日の午後を空けているのは曲作り、宣伝活動、学校の宿題を消化したりといった時間を確保するためだ。
「あ、改めて書き出すと途轍もない忙しさですね……」
「そうだよー喜多ちゃん。これからは何々映え~とか言ってオシャレな画像をアップする暇なんてないよ」
「ひぃん、そんなご無体な! わ、私の映え投稿が結束バンドのフォロワーを支えている部分もあるんですよ!?」
喜多ちゃんが悲痛な面持ちで抗議の声をあげる。
実際、喜多ちゃんが結束バンドアカウントでSNSに投稿しているオシャレなカフェだったり化粧品といった写真は反応が良いらしい。
最初の頃はそのおかげで結束バンドのフォロワーが増えていたけど、どうも美容アカウントの類として見られていたみたいで、美空さんが来てくれてバンドの事メインで投稿するようになってからようやく『本当にバンド活動していたんですね』と認知され始めた。
「ふぅ、しょうがない。ここは私が一肌脱ぐか。郁代、練習頑張ったらご褒美で私と一緒にカフェ巡りしたりしよう」
「しゃあっ先輩とのデート!!」
「騙されないで喜多ちゃん! どさくさに紛れて奢ってもらう魂胆だよ!」
「私のお金でリョウ先輩が幸せになる。何の問題ですか?」
「駄目だこいつ、早く何とかしないと……!」
久しぶりに見せた喜多ちゃんの偏愛っぷりに虹夏ちゃんが頭を抱えてしまった。
「まぁ、ずっとバンド活動の事ばっかり考えても息が詰まっちゃうしね。偶にだったら練習の強度を落として気分転換してもいいよ」
「……はぁい。頑張ります」
美空さんが妥協案を出すと、喜多ちゃんも本来の目標を疎かにしたくはないのかショボンとしながらも頷いた。
少し意見を言う隙間が出来たので、私は私で一つ相談をする。
「虹夏ちゃん、このスケジュールだと日曜日の朝が辛いのでご迷惑じゃなければお泊りとかしてもいいですか?」
「もちろんオッケーだよ! ぼっちちゃん、やっぱり家が遠いってだけでかなりハンデあるよね」
「あらひとりちゃん、よかったら私の家にも泊まっていいわよ?」
「へ、美空さんのお家ですか? い、いやぁ、美空さんは普段からお世話になってるから一人でゆっくり出来る時間を邪魔しちゃ悪いかなぁって……」
「(´・ω・`)」
「美空さん、大人げ無いリアクションは止めてください」
「あ。で、でも、虹夏ちゃんの家にお泊りばっかだと店長さんに申し訳ないから偶には美空さんの所にお泊りさせてもらっていいですか?」
「(`・ω・´)」
「美空さん! ぼっちちゃんに気を遣わせないでください!」
「ぼっち、痴女に百合乱暴されないように気をつけろよ」
「あ、リョウちゃんはこの前出来なかった文化祭ライブの打ち上げ不参加でいいのね」
「冗談冗談! 美空さん大好き!」
やっぱりいつも通りのわちゃわちゃした空気になったけど、新しい目標も決まってどこまで行けるか楽しみになっている自分もいた。
──これから人生で一番大変と言えるくらいの壁が立ちはだかるだろうけど、必ず皆と一緒に乗り越えてみせる。
「え……。もしかして、この人……!?」
今日も今日とて記事のネタ探しにネットをさまよっていると、あたしの体にビビっと電流が走った。
発端は何処かの高校の文化祭ライブで、内容はギターの子が突然ダイブして床に叩きつけられるというものだった。
コントみたいな一幕にこれをネタにしてやろうと思って件の『結束バンド』とやらをもう少し調べていたら、段々とお宝へ近づいているような高揚感を覚えた。
幸い、宣伝活動は結構マメにやっているみたいで、その上こんな名前のバンドなんて一つしかないから特定は簡単だった。
そしてSNSに上げられた練習やライブハウスでの切り抜き動画を何個も見返して、あたしの疑惑は確信へと変わった。
「間違いない、ギターヒーローさんだわ!」
文化祭ではギターが変わっていたけど、その前の動画で使われているのは黒いギブソンのレスポールカスタム。
服装も違うけど髪型と背格好は同じだし、なにより所々見える演奏のクセはアップされている動画で何回も見た物と同じ!
最近はオーチューブの更新が前に比べて減ったけど、それと反比例するようにバンドの動画が増えているから、自分でバンドを組んで活動を始めたというのなら辻褄が合う。
神様ありがとう! 毎日毎日アクセス稼ぎの為のクソ記事を量産する日々だったけど、堪え難きを堪え忍び難きを忍んだ甲斐があったわ! 遂にあたしにも運が回ってきた!
惜しむらくは周りのレベルが低いせいでギターヒーローさん本来の力が発揮出来ていない所だけど、あたしが見つけたからにはもう大丈夫!
「待っててねギターヒーローさん! この超敏腕ライター・ぽいずん♡やみがあなたを相応しいステージに引き上げてあげるわ!」
原作だと一回結束バンドの演奏を観てぽいずん氏はギターヒーローの正体に気付いてますが、この世界線だとマメに宣伝活動をしている故に検証材料が増え動画だけで気づいたという流れです。
ぶっちゃけこうした方が展開がスムーズというメタ的な理由と、何だかんだでぽいずん氏が音楽に対しては有能だという描写になると思いました。