夢への旅路   作:梅のお酒

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 ぼざろ二次創作名物(?)ぽいずん懐柔RTA


第40話 Venom(前)

 「ひぃ、ひぃ……。疲れた……」

 「はぁー……。やっぱりひたすらぶっ通しで合わせは疲れますね」

 「でも、何だか初めて美空さんに見てもらった時の事を思い出しませんか?」

 「あ、それあたしも思った。初心忘れるべからずって気分になるよね」

 「ふふ、ありがとう。まぁ、集中力の維持は慣れとフィジカル的な部分もあるから、続けて行けばまた体が順応してくるよ」

 

 未確認ライオットに向けて新しいメニューとなった練習を終え、皆で談笑をしながらスタジオを出る。

 今日はバイトは無いし反省会も終えたから後は解散するだけなんだけど、なにやらPAさんが見知らぬ人と押し問答をしているのが見えた。

 

 「すいません、アポは取っていらっしゃいますか?」

 「ごめんなさ~い、取ってないですぅ☆ ちゃちゃっと終わらせますんで結束バンドさんとお話させてくれませんか~?」

 

 ん? 今結束バンドって言ったか? 話って事は、もしかして取材か何かか? でもそんな事は誰からも聞いていないしな。

 

 「星歌さん、あれ何ですか?」

 「……どこの誰だか知らんが、一応ライターでお前たちに御用らしいぞ。アポ無しでいきなり押しかけてイイ度胸してやがる」

 

 こめかみに青筋を浮かべた大層不機嫌な顔で星歌さんは答えた。

 あ、これ久しぶりに見たけどマジ切れする一歩手前だな。

 ただ、確かにPAさんと話しているライターさんとやらは遠目で見た感じ妙にファンシーな格好で怪しいし、そもそもアポ無しで突然来て取材させろは普通にブチ切れ案件だというのは私も同意だ。

 

 「え、取材!?」

 「やだ、どうしましょう虹夏先輩! お化粧道具貸してもらえませんか!?」

 「えへへぇ。取材料っていくら位貰えるんですかね?」

 「一本十万くらいはいけるんじゃね? やったぞぼっち、今日は焼肉だ」

 

 一方、ライターが来たという事で結束バンドの皆は浮かれまくっているが、私の脳内には瞬間的に嫌な予感が閃いた。あれだ、某ニュータイプがキュピーンって頭に閃光が走るみたいなやつ。

 正直、今の結束バンドで話題になる要素と言ったら文化祭のひとりちゃんダイブが悪目立ちしている感は否めない。もしかしたらその事をネタにしてやろうという気かもしれないし、杞憂であって欲しいけどずっと懸念していた「ひとりちゃん=ギターヒーロー」に気付いた人間でもあるかもしれない。

 どちらにせよアポ無しで来やがる得体の知れない人間に何も準備しないで取材を受けさせるのはリスクが大きすぎる。今の時代、ネットを使えば誰でも記事は書けるしライターって名乗る事も出来るからなおさらだ。

 

 「皆、奥で待ってて。私が話を聞いてくるから終わるまで出てきちゃ駄目よ。いい?」

 「は、はい……。分かりました」

 

 皆を囲う様に腕を回し、意識して低い声音と強い口調で指示を出すと困惑しながらも虹夏ちゃんが返事をしてくれた。

 練習でも出した事ない圧力で話したから怖がらせてしまった事は申し訳ないけど、下手に結束バンドを危険に晒すよりかは何倍もマシだ。

 皆に背を向けて、フゥと息を一つ吐き社会人モードに切り替える。

 時間外労働は真っ平御免だけど、こういう時こそ大人の私の出番だ。

 背筋を正した状態でPAさん達に近づき、私は声を掛けた。

 

 「PAさん、どうかされましたか?」

 「あ、藤原さん。この方が結束バンドとお話したいとかで」

 「はじめまして♪ ばんらぼってサイトでライターをしてますぽいずん♡やみ17歳で~す☆」

 

 埒が明かないと思ったのか、PAさんを押しのける勢いでぽいずん何某は私に矛先を向けて来た。ふざけた自己紹介にイラっと来たけど、私に矛先を向けるならそれはそれで好都合なので我慢して対応する。

 っていうか17歳って何だよ、何処の教祖様だお前。

 

 「初めまして、結束バンドのコーチを務めています藤原美空と申します」

 「ご丁寧にありがとうございます~。あ、こちら名刺どうぞ」

 「恐れ入ります。あいにく私の名刺は切らしてしまっていまして、申し訳ありませんが有難く頂戴いたします」

 

 差し出された名刺を両手で形だけ丁寧に受け取る。今日は仕事帰りでスーツを着ていたのが功を奏したのか、向こうもそれなりに丁寧な対応をしてくれたのは助かった。

 なお、私の名刺を切らしたというのは嘘だ。だって怪しい人間に情報渡して万が一にも会社に迷惑なんてかけたくないし。

 そして、受け取ったドギツイ配色とデザインの名刺を見て、色々ツッコミたくなる衝動を必死に抑えた。

 うわぁ……何だこの怪しすぎる名刺。

 風俗業って言われた方が説得力あるし、彼〇島のクソみてぇな旗の方がよっぽどセンスあるぞ。

 ちら、とPAさんの方を見ると同じ心境なのか、ぽいずん何某には見えない背後で思いっきり顔をしかめていた。

 ずるいっすよPAさん、私も同じ顔したいのに我慢してるんですよ……。

 既に精神がゴリゴリ削られているけど、結束バンドとお店の看板がある以上ここで下手に追い返したら何を書かれるか分からない。面倒な客と一緒でこういうのは適当な事を言いつつやり過ごすのに限る。

 

 「ご足労頂きましてありがとうございます。恐縮ですが、結束バンドの取材をご希望という事でよろしいでしょうか?」

 「はい! 下北沢で活動中の若手バンド特集記事を書こうと思っていまして、ぜひ結束バンドさんのお話を聞かせて頂けないかと!」

 「ありがとうございます。ちなみに、彼女達の事はどうやってお知りになりましたか?」

 「SNSにあげてらっしゃるライブの切り抜き動画とかを見てです。すごい将来性を感じましたので、お願いできないでしょうか~?」

 

 ふむ、言っている事自体は一応筋が通っている。まぁ、第一印象が最悪すぎるからどの道取材させる気なんてないけど。

 

 「なるほど。そうなりますと今日は彼女たちも門限がありまして、明日以降もバイトや練習スタジオの予約の兼ね合いで時間を確保するのが出来ない状態なんですよ」

 「あ、そうですよね。でしたら、どうにか日程調整をして頂いてご都合のよろしい日に改めて取材をさせて頂けないでしょうか?」

 

 ちっ、やっぱり簡単には引き下がらないか。まぁ、アポ無しで来る人間がこの程度でスゴスゴ帰る根性をしているワケないよね。

 

 「承知しました。では、メンバーと取材を受けるかどうかも踏まえた日程調整を前向きに検討させて頂きます。こちら、私の名前と連絡先ですので結果は改めてご連絡いたします」

 「……はぁい、ありがとうございます♪ 今日は突然のご対応ありがとうございました☆」

 

 メモ用紙に私の連絡先を書いて渡すと、ぽいずん何某は踵を返してひとまずは立ち去ってくれた。

 この野郎、振り返り際にチッて舌打ちしたみたいな表情しやがったのちゃんと見てるんだからな。

 塩でも撒いてやろうかと思ったけど、穏便に済まさないとお店も含めて迷惑が掛かるから想像の中でボコボコに叩きのめすアンガーマネジメントで我慢する。

 不幸中の幸いなのは、向こうも下手に強硬手段を取ろうとすると逆に警察沙汰になったり旗色が悪くなる事を理解している頭はあるくらいだったか。

 

 「ありがとうございます藤原さん。助かりました」

 「いえいえ、構いませんよ。店員じゃない私が対応した方が何かあった時お店は無関係だと主張出来ますからね」

 「けどお前、自分の連絡先渡すのは危ねぇんじゃないのか? それに取材を受けるにしても怪しすぎるだろ」

 「前向きに検討をすると言っただけで取材を受けるとは言っていないですよ。どちらにせよもう一度コンタクトは取らないといけないですし、皆のリスクを考えるなら必要経費です」

 「……何かあったら遠慮しないで相談しろよ。商店街の伝手で弁護士とか紹介してもらうから」

 「ありがとうございます。別に星歌さんが対応してくれてもよかったんですよ?」

 「話す前に蹴り入れてたから絶対無理だわ」

 

 三人でぐったりしながら話すと、奥の方から結束バンドの皆がパタパタと近寄って来た。

 

 「美空さん、どうして断っちゃったんですか?」

 「そうですよー。未確認ライオットに向けて宣伝するチャンスだったじゃないですか」

 「焼肉チャンスが……」

 

 口々に皆が不満を言ってくる。

 まぁ、私も高校の時だったら嬉々として飛びついていただろうけど、今回はお説教が必要かなと考えていたら

 

 「馬鹿かお前たちは!!」

 

 と星歌さんの叱責が飛んできた。

 その本気の声音に結束バンドの皆は肩をビクッと震わせて固まってしまった。

 

 「ライターは資格が必要な職業じゃねぇし、このご時世ネットがあれば誰でも記事を書ける。だからこそ、迷惑系オーチューバーみたいにクソ人間がアクセス稼ぎの為に悪意のある記事を書く可能性だってあるんだ」

 

 腕を組んだ仁王立ちで星歌さんは話を続ける。

 

 「お前らはメジャーデビューを目指すんだろ? お前たちの実力が伸びて人気が出れば、その御利益にあやかろうと擦り寄ってくる悪い大人だって居るんだ。演奏の腕を上げる事だけじゃなくて、信頼出来る人間かどうか見極める目と世の中の事も勉強するんだな」

 「皆、今回は星歌さんが正しいと思う。曲解された記事が書かれて、嘘なのに大勢の人が信じたらそれが事実になってしまうリスクが一番怖いの。宣伝に繋がるからって手放しに取材を簡単に受ける事は出来ないわ」

 『……ごめんなさい』

 

 お説教が終ると、皆は水をかけられた蠟燭みたいに目に見えてシュン……と落ち込んでしまった。

 言いたい事は先に全部星歌さんに言われてしまったし、今回の件に関しては全面的に同意なので皆の肩を持つ事もしない。

 ただ……喜多ちゃんが言ったみたいに宣伝のチャンスであったかもしれないのは否めないのよね。

 もし万が一、いや兆が一の確率であのぽいずん何某がまともな記事を書ける人間だったら、一縷の望みあるかもしれない。

 そうと決まれば早速行動だ、私は結束バンドの皆に努めて穏やかな口調で話しかけた。

 

 「ねぇ皆。この件、ひとまず私に任せてくれない?」




 一話五千文字くらいを目安に書いているのですが大幅に超えそうなので分割します。
 続きをあげるのはそう時間は掛からないと思いますので近日中に投稿します。
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