夢への旅路   作:梅のお酒

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 平素は本作をお読み頂きありがとうございます。
 突然で申し訳ありませんが、体調が芳しくなく執筆時間が減少してしまいました。
 そのため短い時間で書き上げる必要があり、今後は読んでいて展開が巻きだなと感じる事が多いと思います。
 休み休み間を空けて書いているといつかモチベーションを本当に消失する事が一番怖く、ここまで来たら最後まで書き上げたいと思っていますのでどうかご了承を頂けますと幸いです。


第43話 YOU GET TO BURNING

 数日後、結束バンドのライブに招待してもらったあたしは改めてライブハウスSTARRYを訪れた。

 

 「ぽいずんさん、こんにちは」

 「藤原さんこんにちは。今日はありがとうございます」

 「こちらこそ恐縮です。紹介しますね、こちらが店長で私の学生時代の先輩でもある伊地知星歌さんです」

 「……どうも、店長の伊地知です」

 

 笑顔で対応してくれる藤原さんとは対照的に、胡乱な目であたしを見てくる店長さん。お店の責任者からしたら前にアポ無しで来た人間がまた来たらこういう態度になるわよね。

 だからといってこれに腹を立てたらお膳立てしてくれた藤原さんに申し訳ないし、自業自得だと思って挨拶を返す。

 

 「改めまして、ライターのぽいずん♡やみと申します。前回は突然の訪問でご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした」

 「まぁ、それに関しては以後気を付けてもらうという事でお願いします。では、準備の件でスタッフ達への指示があるので失礼します」

 

 軽く会釈した後に、早々と店長さんは踵を返しスタッフさん達の所へ向かって行った。

 

 「ごめんなさいね、不愛想で。普段は子供達にもイジられてるくらいには隙があるんですけど」

 「いえ、大丈夫です。お店に入れてもらえるだけでも有難いです」

 

 藤原さんが苦笑しながらフォローしてくれ、それに対してあたしは落ち込むわけでも苛立つわけでもなく、ただただ自分の立場を受け入れて静かに返すだけしか出来なかった。

 

 「……ふふ」

 「な、なんですか?」

 

 唐突に藤原さんが子に対して向ける親の様な、微笑ましいものを見るかの微笑を浮かべた。

 

 「いや、ぽいずんさん仕事だと雰囲気変わるなって」

 「だってそりゃ仕事ですし、やるからにはキッチリ取材をしないとライターとしてのプライドが……」

 「変にキャラ作りするより普段からそっちの方が断然格好いいと思いますよ」

 「うぐっ……。そ、そこら辺の事は追々修正を考えて行きます……」

 「芸事の世界って埋もれないために個性が大事ですけど、その塩梅も難しそうですよね」

 「そうなんですよ~。あたしなんて実績ないからそれでも何とか覚えてもらえないか必死で……」

 「ぽいずんさん、素材はかなり良いから普通のスーツでも綺麗に見えると思いますよ」

 「あ、ありがとうございます?」

 

 よくサラリと臆面も無くそんな事言えるなこの人……。

 なんか藤原さんの方を見るのが恥ずかしくなってしまったので鞄から手帳を取り出し、軽く深呼吸をして仕事の準備を始める。

 

 記事を書いて得られるお金だの評価だの関係ない。

 自分の心とも、ステージ上のバンドとも本気で向き合い、感じたままを記事にする。

 今日はあたしにとって、改めてライターとしての一歩を踏み出さなくちゃいけない日なんだ。

 

 『佐藤、結束バンドをよく観ておけ。上っ面の技術がどうって話じゃねぇ、それを通り越した何かがあの子達にはある』

 

 自分が目指す道は何なのか。

 梶原さんの言葉を胸に秘め、あたしはライブが始まるのを待った。

 

 

 

 

 

 

 そして数時間後。

 結束バンドも含めた全てのバンドを観終えたあたしは、藤原さんと話をしにお店の外へ出ていた。

 

 「実は、梶原店長も観に来てくれた時こうやってお店の外で感想を貰ったんですよ」

 「ぐぬっ。鳥肌が立つ事を言わないでください」

 「あはは、ごめんなさい。それで……どうでした? 彼女達の演奏は」

 「……そう、ですね」

 

 ほんの少し間を空けて、自分が感じたありのままの気持ちを思い返して話を始めた。

 

 「映像で観るのとは全然違いました。高校生バンドとしては高いレベルにあると思いますが、それでもSIDEROSを始めとしたトップ層と競い合うにはまだ足りない所も多いです。……なのに」

 

 胸に手を添えて、心臓の鼓動を抑えるかの如く握り締める。

 

 

 「彼女達が、とても輝いて見えたんです」

 

 

 目を閉じなくても浮かぶ、ステージの上で演奏する結束バンドの姿。

 後先考えずに、ただ目の前のお客さん達に楽しんで欲しいと懸命に奏でる少女たち。

 今はまだ、遠くで辛うじて光っているのが分かるくらいの小さな星。

 けれどやがて、それは見ている人々を引き付ける程の大きな輝きを放つ一番星になるのではないかという期待と高揚感。

 夢に向かって全身全霊で駆け抜けるその姿が、とても眩しかった。

 

 「あたし、ギターヒーローさんはソロの方が輝けると思っていたんです。でも、今日のステージを観たら……結束バンドじゃないと、この四人だからこそ、ここまでの情熱は出せないと思いました。彼女達には、観ている人を奮い立たせ、その人たちの希望になれる可能性を感じました」

 

 頭を下げて、藤原さんに告げる。

 

 「ありがとうございます。自分がどうしたいのか、何でライターを志したか改めて心に刻む事が出来ました」

 

 まだアルバイトだった頃、やってみろと言われて書かせて貰った初めての記事。

 ほんの片隅でも雑誌に載せてもらって、後にそのバンドが注目されるようになった、あの喜び。

 自分が良いと思ったバンドを知ってもらい、そのバンドの成長と感動を共に分かち合いたい。

 何処かで置き去りにしてしまっていた情熱を蘇らせてくれた彼女達には、感謝しかなかった。

 

 「そんなに畏まらなくて大丈夫ですよ。むしろ、こちらこそありがとうございます」

 

 藤原さんの声に顔を上げると、彼女は穏やかな笑顔を浮かべ、あたしに一礼をしてくれた。

 

 「今日一日ぽいずんさんを見て、凄い熱心に取材をしてくれるなって思いました。一瞬でも見逃さない様に彼女達を記録して、その上でそこまでの評価をしてくださった事がとても嬉しいです」

 「その、自分で言うのもアレですけど……そんなに信用していいんですか……? はっきり言ってあたしの第一印象、最悪だったと思うんですけど」

 「最初はそうでしたけど、今は違いますね。この前一緒に話をして、音楽に対して純粋だけど色々と空回りしちゃっているだけなのかなって。記事を読んで、心の底では情熱が燻っている、だから音楽を通じて話せば分かりあえる人なんじゃないかなって思えたんです」

 「……すいません。本当にありがとうございます」

 

 今まで一人でがむしゃらにやって来たから、久しぶりに感じた暖かさに少し涙ぐんでしまう。

 そして、恥を忍んで頭を下げてお願いした。

 

 「藤原さん。もしそちらがよろしければ取材と記事の件、私にやらせてもらえないでしょうか?」

 

 藤原さんは一瞬驚いたようで目を瞬かせた後、変わらない優しい笑顔で答えてくれた。

 

 「はい。今日のぽいずんさんの仕事ぶりならお願いしたいですし、メンバー達にも事前に確認は取っています。あ、でもギターヒーローの事は絶対書かない事を約束してください」

 「も、もちろんです! そんな事してギターヒ……後藤さんも、結束バンドも全て台無しにするような事は絶対にしたくないです」

 「お願いしますね。もし約束を破ったら、その時は梶原店長と協力して都内のライブハウスは出禁にしてもらえないか呼び掛けるつもりなので」

 「発想が怖い!」

 

 変わらない笑顔のはずなのに、藤原さんから悪魔の触覚や翼が生えた幻覚が見えた気がした。梶原さんも一緒なら本当にやっちゃいそうなのが恐ろしい。そもそも約束を破るなんて絶対にやらないしやりたくもないけど。

 

 「あ、それと参考に具体的な問題点もお伺いしていいですか?」

 

 続いて飛んできたマイペースな質問にズッコケそうになってしまう。

 

 「本当に鋼メンタルですね……」

 「だってぽいずんさん、評価に関しては忖度しないんですよね? 評価が生業な人の意見を頂いて次に繋げないと勿体ないですし」

 「分かりました。では、少し待っててくださいね」

 

 一言入れて、手帳に書いた所感にざっと目を通し整理する。そして改めて藤原さんに顔を向けると、彼女も同じ様に手帳とペンを構えていた。

 

 「ギターボーカルの子が一番のネックに感じました。素材は良いと思います。ですが、音に負けている感が否めないのに加えて、最低限の事をこなすので精一杯でメンタル的な成長も必要かと。ギターの方は及第点ではあります」

 「あー、やっぱり……。ボーカル部分よりも先にギターの方を何とかしなくちゃいけないと思ってそっち優先でやっていたんですけど、上を目指すならもっと両輪で何とかしなくちゃいけないか」

 「それと、後藤さんもですね。こっちはそれ以上にメンタルの問題なんですかね? 動画とはかけ離れ過ぎてて……」

 「バンドを組む前まではずっとソロでやっていたから場数の問題はありますね。なので今はひたすら実戦形式の練習でその穴埋めをして、作曲部分で彼女のソロに重きを置く事で少しでも宝の持ち腐れを防いでいます」

 「ですが、後藤さんの本当の実力が発揮出来るようになっても周りが付いて行けなくては意味ないですよ?」

 「重々承知しています。だからこそ、個人練習の動画を送ってもらったりして私がそれをチェックする事で他の三人のレベル上げも図っています。皆モチベーションが高くて毎日の様に意見を求めてくれます」

 

 あたしの質問に対して藤原さんも淀みなく返す。

 こちらを真っすぐ見据える瞳は力強く、本当に日々試行錯誤と努力を繰り返しているのが感じられた。やっている本人たちと同じくらい情熱を持っていて、これだけ頼りがいがあったら結束バンドの成長力も納得だ。

 お互いが影響し合う良い関係が見えた事に、僅かに口角が上がってしまう。

 

 「藤原さんみたいな頼もしい大人がコーチに就いてくれて彼女達も嬉しいでしょうね」

 「うーん、どうでしょう? 年寄りの冷や水でもしかしたら内心ウザがられているかもしれないですよ」

 「年寄りって……あたしと二、三歳くらいしか違わないでしょ」

 

 変に自虐ネタ入れたり、掴みどころの無い人ね……。

 でも少し空気が緩んだ所で、ふとあたしは感じた疑問を藤原さんに問いかけた。

 

 「藤原さん」

 「はい?」

 「その、どうしてそこまであの子達の為に働きかける事が出来るんですか?」

 

 すると……さっきまで穏やかだった藤原さんの雰囲気が、少し変わった気がした。

 

 「……私も昔はメジャーデビューを目指していたんですけど、道半ばで諦めたんです。けど、たまたま再会した星歌さんの縁で、あの子達と出会いました」

 

 「こんな私を頼ってくれて、教えた事を実践してくれて上手くなっていく彼女達を見るのが嬉しくて、新しい生きがいをくれた事に感謝しています」

 

 「だから決めたんです。あの子達がメジャーデビューするまで、力の限り支えるって」

 

 まるで歌うかのように結束バンドへの想いを口にする。

 彼女の想いは本物のはずで、惜しげも無くそれを伝える姿はどこまでも純粋に見えた。

 

 「まぁ単純な話、頑張っている若い子を応援したいってだけなんですけどね」

 

 最後に、照れくさそうに、お茶目な年上のお姉さんといった笑顔を浮かべてみせたけど。

 その笑顔の奥底に、泣きそうな憂いを秘めているように見えたのは、あたしの思い過ごしだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから更に次の週、STARRYでお客さんの居ない時間帯にぽいずんさんの取材をセッティングしてもらった。

 

 「それじゃ、改めて紹介するね。この方が今日皆の取材をしてくださるぽいずん♡やみさんです」

 「フリーライターのぽいずん♡やみです。よろしくお願いします」

 『よろしくお願いします?』

 

 結束バンドの皆が挨拶をするけど、何故か怪訝な様子だった。

 

 「あの、何か……?」

 「いや、この前ここに来た時とかネットで見た格好と随分違うなって」

 「痛々しいファンシーな服からスーツ姿になったら誰でもビックリする」

 「でもぽいずんさん似合ってますよ! 馬子にも衣裳ってやつですね!」

 「会って早々容赦が無いわねあなた達!?」

 「はいはい皆、ぽいずんさんも忙しい中来てくれてるんだからそこまでにしなさい」

 『はーい』

 

 私が手を叩いて取材に進むよう促す。

 ではお願いしますね、とぽいずんさんに一声を掛け、離れたカウンター沿いの椅子に座っている星歌さんの隣に座る。ちなみにひとりちゃんはやっぱり取材の緊張と人見知りがダブルに発動しているおかげで(・_・)って感じの虚無顔で沈黙している。

 

 「ありゃどういう風の吹き回しだ?」

 「彼女なりの誠意だそうです。まずは第一印象から改善していくみたいですよ」

 「ならペンネームも変えろよ。そもそも昨日の今日で信用していいのか?」

 「大丈夫と思ってなきゃ取材はしませんよ。まぁ約束破った記事書いたら梶原店長と協力して色んな場所に出禁の圧力をかけるって脅……釘を刺してはいます」

 「梶原さんって何者なんだ?」

 「元音楽ライターでぽいずんさんの師匠です。やり手だったみたいで色々と繋がりがあるらしいですよ」

 「ほーう。だがまぁ、あんな奴でも業界側の人間とコネを持っとくのは大事だからな。金と実力は後から付けられるかもしれないが、コネはそれ以上に運が必要だ。底辺ライターでも底辺なりの情報網も持っているから、懇意にしとくのは悪くないかもな」

 「そういう側面も視野に入れて彼女とコンタクトを取りました。我ながらドライだと思いますけどね」

 「気にすんな。芸の世界なんて綺麗事だけで生きていけねぇ。あの子達もこういう機会でそれを学ぶ必要があるし、お前には感謝している。ありがとうな」

 「どういたしまして。それにほら、ぽいずんさんもまだまだ若いんだし皆と同じように応援してあげましょうよ」

 「どうした急に、年寄りみたいなこと言い始めて」

 「べ、別にいいじゃないですか。……若造だからって相手にしない人がいても、その逆で応援する人がいたって」

 

 そんな風に星歌さんと話をしながら皆を見守る。

 やがて取材も佳境に入った所で、ぽいずんさんが一層真剣な表情でひとりちゃんに質問をした。

 

 「一つお伺いさせて頂きたいのですが、リードギターの後藤さんは、もしかしてギターヒーローという名前で動画を投稿していませんか?」

 「っ! は、はい」

 

 事前にその事を訊かれるかもしれないと皆で想定はしていたけど、空気に緊張が走る。

 

 「失礼は承知ですが、あなたのギターの腕前ならソロで今すぐにでもデビュー出来ると思います。それでも、このバンドでないと音楽を続ける意味はないのでしょうか?」

 「──もちろんです」

 

 目を逸らさず、真っすぐに向き合ってひとりちゃんは言い切った。

 

 「私は臆病なので外の世界は今でも怖いです。でも、皆と出会えたから一人じゃ出来ない、皆で作る音楽の楽しさを知る事が出来ました。苦しくても怖くても、その先にある光を求めて進む勇気を貰えました。だから、今の私の夢は、この四人でメジャーデビューをする事です」

 

 ひとりちゃんの答えを聞いたぽいずんさんは、優しい笑みを浮かべた。

 

 「ありがとうございます。おかげで良い記事が書けそうです。あ、藤原さんと約束していてギターヒーローの事は絶対書かないのでご心配なく」

 

 そうぽいずんさんが告げた所で、空気が柔らかい物に戻った。

 ふふ、ひとりちゃん。格好良かったよ。

 

 「……なぁ、藤原」

 

 ふと、星歌さんも真剣な面持ちで問いかけて来た。

 

 「お前は今、楽しめてるか?」

 

 ……急に何を言ってるんだか、この人は。

 

 「何をいまさら。楽しいに決まってるじゃないですか」

 「……そうか」

 

 当然私は、星歌さんに対して笑顔で答えた。

 




 この物語の終点が未確認ライオットという事を考えると、ぽいずん氏と和解するのが終盤も終盤になってしまうのでこのタイミングで和解するしかないと思いこういう展開にしました。
 次回は補足説明回として美空さんと梶原店長の出会いを書いて、その後は足並みを揃えるため過去編7:本編3くらいの割合で投稿する予定です。
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