夢への旅路   作:梅のお酒

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 ご無沙汰しております。

 下手の考え休むに似たりと言いますがそれでも自分なりに考えた結果、ちゃんと終わらせなきゃ後悔すると思い投稿活動を再開しました。
 以前のようなペースで投稿するのは難しいと思いますが、少しずつ完結に向けて進めていきますので改めて宜しくお願い致します。

 ※43話中盤のぽいずん氏との会話シーンを少し修正しました。
 


第44話 揺れる心の錬金術師

 「見て見て! あたし達の事本当に記事になってる!」

 「『期待の新星現る』ですって! こういう風に注目されるなんて人生初めてです!」

 「えっと……『結束バンド、結成から日はまだ浅いが急成長中の注目株。未確認ライオットにも参加表明をしており台風の目となるか』、ですか。……よかった、ギターヒーローの事はちゃんと秘密にしてくれたんだ」

 「……けどこの記事、絶賛っていう程褒めてくれてもなくない? 扱いもダークホースって感じで本命視されてはいないみたいだし」

 「むぅ……。言われてみればそうだけど、そこは受け入れなきゃ。むしろ一年も活動してないあたし達をここまで好意的に書いてくれた事をポジティブに捉えて頑張って行こう」

 「虹夏ちゃんの言う通りだね。千里の道も一歩から、そもそも記事の対象に選ばれる事自体ほんの一握りのバンドしか出来ないんだから」

 「私もそう思います。それに、あんまし手放しに褒められても記者さんとの癒着だの案件だの疑われるかもしれないから、今はこれくらいが丁度良いかなって……」

 「ひとりちゃん、前向きなのか後ろ向きなのか反応に困るわね」

 

 そんな会話をしながら、あたし達は美空さんも交えてぽいずんさんが書いてくれた記事の事を話していた。

 最初は本当に記事が出来た事に浮かれちゃったけど皆と話すと一旦熱が冷めて、現実を見据えて次はどうすればいいか、という思考になってくる。

 

 「よし、じゃあ次の事を考えよう。引き続き路上ライブと自分達主体の宣伝活動はもちろん継続、SNSの方は任せたよ喜多ちゃん」

 「了解です先輩!」

 「次に曲だけど、今の手持ちのオリジナル曲は少ないし、審査を勝ち抜くためにはどうしても新曲が必要。だから、次の曲は最高の一曲を作ろう。そしてそれをデモ審査に送る。大変だと思うけどぼっちちゃん、リョウ、二人に託すよ」

 「分かりました。必ずやり遂げてみせます」

 「……ん。了解」

 

 ……? 何かリョウの反応に違和感。表情はいつもと変わらないけど上の空っていうか。

 

 「リョウ、どうかした?」

 「いや別に。賞金と印税を何に使おうかなって考えてただけ」

 「気が早すぎるわ!」

 

 もー、まだどうなるか先の事なんて全然分からないのに。けどひとまずはいつものリョウらしい発言でよかった。

 

 「曲が出来たらMVも作ってより宣伝効果を高めないとね。そこら辺の手法や相場もあたしが調べておくよ」

 「そういうのってかなりお金必要そうですけど、今の私達でも作れるんですかね?」

 

 喜多ちゃんが疑問を口にしたら美空さんが一つの例を答えてくれた。

 

 「ちゃんとした出来を求めてフリーのクリエイターに頼むとしたら、一曲分でも30万円は見といた方がいいかも」

 「ぐわー。最近はノルマに余裕も出来てきたけどそれでも辛すぎる」

 「レコーディングの方は梶原店長にお願いすれば融通を利かせてくれるかもしれない。撮影の方も誰か紹介してくれないか私から相談してみるね」

 「ありがとうございます美空さん~」

 「いいのよ気にしないで。私も昔は銀次郎さんに助けられたからね」

 「あの、美空さんはどんな感じで進めたんですか?」

 「正直、MVに関しては作詞作曲よりもしんどかったかな……。考えなくなくちゃいけない事が多すぎるし時間も足りなかったから、最終的には色んなアーティストのMVオマージュって感じでゴリ押したわ」

 「知識があるからこそのパワープレーですね……」

 「いずれCDも作るとしたらそっちの方は結構何とかなるけど、MVの方はやっぱり専門家に手伝ってもらった方が良いっていうのが私の意見かな」

 

 その後もあれこれ話をして、今後の方針を改めて確認して皆で共有をする。

 やらなくちゃいけない事は山積みだけど、それでも皆で一緒に一歩ずつ前に進めているという充実感とやりがいが、あたしにはとても嬉しかった。

 

 

 

 けれど数週間後、一つの事件が発生した。

 

 

 

 「え、リョウちゃん学校にも来てないの?」

 「はい……」

 

 あたしからの相談内容に流石の美空さんも目を丸くして驚いていた。

 事の発端は週の頭、突然リョウから『少しだけ休む』とだけロインが来た。

 その時は風邪でも引いたのかなと思って軽く返事だけしたけど、今になっても既読が付いていないし、学校にもバイトにも来ていない。何かがおかしいと思って電話もしたけど一向に繋がらなかった。

 

 「ん~。流石に病気だったら親御さんから連絡が来るはずだけど、そうじゃないのであれば本人の精神的な問題かもしれないね」

 「……だとすると、新曲作りの事……?」

 

 頭の中に、以前リョウの表情から感じた違和感が思い起こされる。

 

 「あたしが最高の曲を作るなんて言ったから、それが余計なプレッシャーになっていたんだ……。作るのはあたしじゃないのに、軽々しくそんな事を言ったから……」

 「虹夏ちゃん、それは違います!」

 

 胸の中に負の感情が広がると、成り行きを見守っていてくれたぼっちちゃんが呼び止めてくれた。

 

 「リョウさんはそれだけ真剣に考えてくれてるんだと思います。誰よりも音楽に対してストイックなのがリョウさんですし、普段は表情に出さないですけど結束バンドの事を想っていてくれてるからそれだけ悩んでいるんじゃないでしょうか」

 「ぼっちちゃん……」

 「……そうだよ、虹夏ちゃん」

 

 ぼっちちゃんの後に、今度は美空さんがそっと両肩に手を添えて言葉をかけてくれた。

 

 「虹夏ちゃんはリョウちゃんを信じて曲作りを託したんでしょ? リーダーだからって安易に全てを自分のせいだって抱え込む必要はないんだよ」

 「そうですよ虹夏ちゃん。な、なんだったら、リョウさんのお家に行って直接話に行きましょうよ」

 「え?」

 

 まさかのぼっちちゃんが提案してきた事に、思わず驚きの声が出てしまった。

 

 「そもそも文化祭の後に一人で悩んでいた私にお説教したのはリョウさんじゃないですか! なのに自分も悩んでいる時は誰にも何も言わないなんておかしいですよ! こ、今度は私がリョウさんのほっぺを引っ張っちゃうんですから!」

 

 手をパタパタ振り回しながらぷんすこぷんすこ怒るぼっちちゃんという非常に珍しい光景が見れてしまった。まぁ、怒りっていう感情を発散するのに全然慣れてないからなのか、レッサーパンダの威嚇みたいで怖さよりも可愛さが先にきちゃったんだけどね。

 でも、ありがとうぼっちちゃん。おかげでやる事が決まった。

 

 「うん、直接リョウと話をしよう」

 

 さっきとは違いクリアになった視界と共に美空さんに向けて頭を下げた。

 

 「美空さん、リョウの家に行って話をしてきます。急で申し訳ないですけど、今日だけ練習をお休みにしていいですか」

 「うん、いってらっしゃい」

 

 折角お店まで来てくれたのに嫌な顔を欠片もせず、美空さんは笑顔で答えてくれた。

 

 「話せるチャンスがあるんだったら絶対にそっちの方が良いよ。お互いに正直な気持ちをたくさん話して、後悔の無いようにやってごらん」

 「はい、ありがとうございます」

 「あと、ほら。直接状況確認しなきゃアレもどうにもできないと思うし……」

 「あぁ、はい。アレですね……」

 

 二人揃ってなるべく視界に入れないようにしていた存在に恐る恐る目を向ける。

 

 「リョウ先輩はどこ……? ここ……? ……絶対男だわ! 突然の変化は男が原因って相場が決まっているもの!! どうしてリョウ先輩!? 私という存在がいながらー!!」

 

 視線の先にはリョウ欠乏症を発症して床をのたうち回りながら情緒不安定になっている喜多ちゃんがいた。ぼっちちゃんだったらそんなに珍しくないけど、喜多ちゃんが白目向きながら叫んでると恐ろしいね……。

 

 「あの、喜多ちゃん落ち着いて。リョウさんがそんな簡単に男の人に靡くとは思えないじゃないですか」

 「……よしんば相手がお金持ちだったら?」

 「……あ、ありえるかも」

 「やっぱりそうなのよー! 世の中お金が全てなの!? お金さえあればどうだ明るくなったろうって人の心に火をつける事も出来るって言いたいんですか先輩ー!!」

 「ぼっちちゃん、フォローするならもう少し頑張って」

 「ひぃん、ごめんなさい!」

 

 ここまで妄想にエネルギーを使えるって一周回って大丈夫なんじゃないかと思えるけど、放置して捨て置くわけにはいかない。

 

 「とにかくリョウの所に行こう喜多ちゃん。直接確認すればスッキリするって」

 「うぅ、ぐすっ……。そうですね虹夏先輩。もし原因が男だったらその人を殺して私も死にます」

 「やらせねぇよ!? おら! いいからさっさと行くぞ!」

 

 埒が明かないので喜多ちゃんの首根っこを引っ掴んで、そのまま引きずりながらぼっちちゃんと一緒にリョウへの家へと向かった。

 

 リョウの馬鹿。辛い時はあたし達を頼ってくれてもいいじゃない。

 四人揃っての結束バンドなんだから。

 だから早く帰って来て、また一緒に進んで行こうよ。

 ……じゃないと、鬼の形相のお姉ちゃんに殺されちゃうし。

 

 

 

 

 

 「むぅ……んん……。駄目だ……」

 

 ため息と共に譜面を足元に投げ捨てる。もう何回目かも分からない。

 部屋の床に軽く目配せすると、ぐしゃぐしゃになった譜面の海が広がっていた。

 それを見るとまた憂鬱な気持ちになり、ため息が出てしまう。

 自分の限界を思い知らされているようで、嫌になる。

 

 「今日はもう止めよう……」

 

 自分に言い聞かせるように呟き、ベッドに倒れ込む。

 そのまま寝て、起きたらインスピレーションが働く事を期待するけどここ数日そんな気配は全くなかった。おまけに頭の使い過ぎで今となっては変な熱を持っていて、全然眠気すらやってこない。

 

 未確認ライオットに向けて最高の一曲を作る。

 

 虹夏に言われる前から、皆で参加すると決めた時から構想は練っていた。

 でも何故か、今回に限っては今までの様な閃きが出てこない。

 作曲はインスピレーションの比重が大きいから、最初はそういう日もあるだろうと受け入れていた。

 けど今までには無かった、一か月も経って全く何も浮かばない事に焦りを感じ始めた。

 らしくもなく自分の体に鞭を打ち、パソコンの前で作業を始めて思うがままに片っ端から作ってみたけど納得の出来にならない。

 色んな音楽からエッセンスを得ようと持ってるCDも聴きまくってみたけど、却って曲作りのやり方すらも忘れてしまったかのような泥沼に嵌ってしまった。

 

 「どうすればいいの……」

 

 自分以外誰も居ない部屋に言葉を投げかけても、答えは無い。

 練習も学校もバイトもサボって作曲に没頭しているのに一向に先が見えない。

 そこまでやって何も生み出せない自分が途轍もなくかっこ悪くて、視界がぼやけそうになった時。

 

 ピロン。

 

 枕元の携帯から音が鳴り、不意打ち気味だったから体がビクッと跳ねてしまった。

 そして反射的に、怒り任せに取り画面を見ると今度は顔から血の気が引くのを感じた。ロインメッセージの受信で表示されていた名前は、美空さんだったからだ。

 ……別に私は美空さんを嫌っているわけじゃない。

 私は音楽が好きな人が好きだ。その点、美空さんは音楽の造詣も演奏技術も文句ないし、何より心から音楽を愛している事が伝わってくる。

 自分の生活もあるのに毎日のように練習を見てくれて、自分達の音楽とメジャーデビューという目標を両立して活動できているのは美空さんのアドバイスがあるから。高いレベルを目指しながらも、音楽の楽しさを忘れないで活動できている事は感謝している。好き嫌いをメーターで表示するなら、好き寄りの人だ。

 でも、他の三人に比べて私にだけ妙に厳しいのは納得いかない。

 やれお金遣いがどうだの、ちゃんとバイトしなさいだの、終いには一人っ子なんだからちゃんと自立しないと将来大変だよとか説教ばっかり。私は本気を出せばできる子で普段はエネルギーを使うからやらないだけなのに全く心外だ。

 今回も練習に出てない事に業を煮やして連絡してきたのかと思ってスルーしようと思ったけど……悲しいかな、後が怖いから恐る恐るメッセージを開いてみた。

 

 『悩むのはそれだけ真剣だって証拠』

 『もし本当に苦しくなったら、いつでもお店にいらっしゃい』

 

 怒られると思ったから、予想とは違った内容に驚きと困惑が生まれ、それが過ぎ去った後に来たのは、嬉しさだった。

 短くも暖かい言葉が、摩耗した心に染み渡る。

 少し震える指先で文字を入力し、返信した。

 

 『美空さんが普段から先輩として~とかって言うからこんなに苦労してるんですけど』

 『それだけ軽口が言えるなら大丈夫だね』

 

 心の靄が少しずつ晴れた気がして、また返す。

 

 『曲が出来たら頑張ったご褒美にご飯連れてってください』

 『しょうがないにゃあ、いいよ』

 『うわキッツ』

 『じゃあご飯は無しね』

 『うそうそ! 美空さん大好き!』

 

 そんなやり取りに、無意識に笑みが出た。

 

 『体には気を付けてね。頑張って』

 『ありがとうございます』

 

 最後に既読マークが付いた状態で、メッセージは終わった。

 天井を見上げながら深呼吸をする。

 明日、一回STARRYへ行ってみよう。

 前にぼっちへ言っといて、自分で忘れていた。

 バラバラな個性が集まって、一つの音楽になるんだって事を。

 結束バンドだから、今こうして音楽を嫌いにならないで続けられているんだって事を。

 ……まぁ、たぶん虹夏にはすごい怒られるだろうけどそれはいつもの事だからしょうがない。

 とりあえずやる事が決まって少しスッキリした気持ちに浸っていると。

 

 『やーまーだくん。あそびましょ♪』

 

 地の底から響いたみたいな声が外から聞こえてきた。

 な、なんだこの二十○紀少○のとも〇ちみたいな声は!?

 驚いている暇もなく、今度はバタバタとこっちに向かってくる足音が聞こえた。

 あ、まさか虹夏達が来たのか!? とようやく思いついて急いで鍵を閉めようとドアに駆け寄ろうとしたけど、遅かった。

 蹴破られたくらいの勢いでドアが開き、その奥からは恐ろしい表情の三人が出て来た。

 

 「へぇい山田くぅん。ちょっとお話しようぜぇ」

 「そ、そうですよリョウさぁん。逃げちゃ駄目ですよぉ」

 「男はどこですか先輩!? 先輩を誑かす輩は私が始末してあげますから!!」

 

 ビキビキと青筋を浮かべた虹夏、薄目でにちゃにちゃと笑っているぼっち、瞳孔が開いたガンギマリな郁代。

 女子高生がしちゃいけない表情を浮かべる三人に、私はあっという間に追い詰められた。

 

 「ま、待って皆。話せば分かる」

 

 恐竜に手を掲げて宥めるク〇ス・プ〇ットみたいなポーズで止めようとしても効果は全然なかった。

 

 「じゃあ、最初から話せばよかったでしょ!!」

 

 虹夏が吠えたと思ったら風の様な速さで視界から消え。

 

 「せいやぁ!」

 

 掛け声が聞こえ、見ている世界が一周した瞬間。

 

 「ぐぇっ!?」

 

 背中やお尻に痛みが走り、うめき声が勝手に出た。

 ……この感じはあれか、投げられたのか。

 虹夏め、今からでも柔道選手を目指した方がいいんじゃないか。なんて考えていたら、逆さまに映った当の本人の怒り顔が視界を覆った。

 

 「人には相談しろって言っといてさ! 自分だって同じことしてるじゃない!」

 「に、虹夏ちゃん。だからって投げ飛ばすのはやりすぎですよ」

 「大丈夫ですか先輩」

 

 なおも怒声を飛ばす虹夏をぼっちが宥め、郁代が傍に来て体を起こしてくれる。

 人間が出来た後輩だな素晴らしい、と心の中で満足げに頷きながら立ち上がったんだけど。

 

 「あ、でも気持ちは分かるので私も抓っちゃいますね」

 「へ?」

 

 安心した所でまさかのぼっちからの攻撃で反応が出来なかった。

 すかさずそのままぼっちは私の頬っぺたを両手で摘まむと、縦縦横横と力一杯引っ張って、最後にペチンと音が鳴るくらい引っ張ってようやく解放した。

 

 「ぼ、ぼっちのクセに生意気だぞ」

 「むっ。そう言うリョウさんだって、前に今のリョウさんと同じ感じだった私の頬っぺを引っ張ったんですから、お相子です」

 「先輩、突然の事だから皆心配したんですよ」

 

 まさかのぼっちからの実力行使とは反対に、支えるように傍に立っていてくれた郁代は優しい声を掛けてくれる。

 安心したぞ郁代、私を労わってくれるのは郁代だけだ。なんて思わず縋り付きそうになったけど、やっぱりそうは問屋が卸さなかった。

 慈愛の笑顔から一変、瞳孔を開いた真顔で私の両肩を思いっきり郁代は掴んで来た。

 

 「先輩をここまで追い詰めた男は何処ですか? 安心してください、ちょっとお話した後に東京湾でお魚の餌になってもらうだけですから」

 

 いででで! 指が肩にメリメリ食い込んでる!? 郁代、恐ろしい子! 表情も込みで一番命の危機を感じるぞ!

 

 「お、男って何? あいにく、私はそんな簡単に男に靡くほど安くないよ」

 「よしんば相手がお金持ちだったら?」

 「……まぁ考えなくはないかな」

 「その流れはもうええわ!!」

 

 また虹夏が吠えると何処から取り出したのか、でかいハリセンで郁代の頭をスパーンと叩いた。ちっ、お笑い空間にすれば誤魔化せると思ったけどそうはいかないか。

 ……でも、何日も経っている訳では無いのに、久しぶりなこのドタバタした感じが心地よかった。

 皆の顔を見れた事で安堵感を覚えている自分が居て、素直な気持ちを吐き出しても良いんだと思えるようになった。

 

 「……心配かけてごめん。納得いく曲作りじゃなくてつまらない曲しか出来なかったから……」

 「そんな事言わないでください。リョウさんの曲があってこそ私の歌詞もあるんですから、いつも通りにやれば良い曲が」

 「いつも通りじゃ駄目なんだよ……!」

 

 体の奥が荒波みたいに騒めき、抑える事が出来ずに出てしまった言葉が部屋の中で妙に大きく響いて、傍に居たぼっちがビクッと体を震わせたのが目に入ってしまった。

 

 「……怒鳴ってごめん。でも、優勝を目指すならSIDEROSだけじゃない、他の強豪バンドともやりあえるくらいの曲を作らないと。こんなつまらない曲じゃ絶対に落とされる」

 「リョウ……」

 「……つまらなくなんかありません!!」

 

 重苦しい空気の中、それを吹き飛ばし家の外にまで貫かんばかりの郁代の声が響き渡った。

 

 「皆リョウ先輩の曲があるから前に進めるんです! そんな先輩の曲をつまらないなんて、私は認めたくないです!!」

 

 やけくそ気味に叫ぶ郁代は勢いのまま背負っていたケースから自分のギターを取り出し、床に転がっていた譜面をガサガサ漁り始めた。

 

 「ほら、これなんか良くないですか!? えっと、譜面がこうだから……こんな感じで!」

 「あ、じゃあそれに合わせるなら……バッキングはこんな感じですかね」

 

 そしてぼっちも自分のギターを取り出して、郁代と合わせ始める。

 普段とは逆のポジションで弾いても形になっているという光景に心の底から驚いて呆けていると、郁代から声をかけられた。

 

 「先輩、そんな顔しちゃってどうしたんですか」

 「あ、いや……。郁代、いつの間に譜面読めるようになったんだって……」

 「先輩ひどいです! 私だって自主的に色々音楽の勉強してるんですよ!」

 「ご、ごめん」

 

 ぴえんと効果音が聞こえる涙目で郁代が泣きついて来たので素直に謝る。

 ぼっちの即席セッションはまだしも、まさか郁代がここまで成長していたとは。

 経験値の割には器用なタイプだと思っていたけど、その上で誰に言われるまでもなく自分で更なる努力をする。

 後輩がそこまでバンド活動に情熱を注いでくれているという事実が、嬉しかった。

 

 「あら、良い曲じゃない」

 

 唐突に開けっ放しだったドアの方から聞こえた声に振り向くと、母親が何故か重ねたバケツを持ちながら笑顔で立っていた。

 

 「はい、虹夏ちゃん。バケツってこんな感じで大丈夫かしら?」

 「ありがとうございます! ちょっと騒がしくなりますけどいいですか?」

 「もちろんオッケーよ。防音対策はちゃんとしてるから遠慮しないでね」

 

 それじゃごゆっくりー、と嬉々とした声音と足取りで母親は去って行った。

 そして虹夏が床に裏返したバケツをセットし軽くトコトコと鳴らした後、私に向かって言ってきた。

 

 「ほら、リョウも一緒にやろうよ。皆でセッションしてみないと良し悪しなんて分かんないでしょ?」

 

 親友の屈託の無い、陽だまりのような温かさを持つ笑顔に私も自然と笑みが零れ。

 

 「……うん」

 

 やってみたい、という偽りない自然な気持ちのまま、愛用のベースを手に取り輪へ加わった。

 

 アンプもエフェクターもマイクも無い、大道芸じみたセッション。

 でも、皆が一瞬一瞬を全力で演奏して、意見を出し合ってブラッシュアップして、また試してみる。

 一人で悩んでいた時が嘘みたいに私の中で曲が形作られ、やがてストンと、これなら行けるという閃きと熱量が生まれた。

 

 「ふふ……」

 

 皆に気付かれないように、小さく笑う。

 あれだけ悩んでいたのに、改めて皆とセッションしたらインスピレーションが湧いてきた。それこそ、向こう数曲はいけるんじゃないかってくらいに。

 

 ──バラバラの個性が合わさるから、音楽は無限の可能性が生まれるんだ。

 

 だから私は音楽の虜になって、今もこうして続けているんだ。

 そして、その楽しさはこのメンバーだからこそなんだ。

 

 (ありがとう。皆)

 

 やっぱり聞こえないように、でも想いはベースに乗せて、そっと皆への感謝を伝えた。

 

 

 

 

 「リョウさん、今の曲とか良い感じだったんじゃないですか?」

 「……そうだね。これなら納得する形に出来ると思う」

 「やったぁ! ほら、やっぱりリョウ先輩の曲はすごいんですよ!」

 

 ぴょんぴょん飛びながら喜ぶ郁代を見るとほんのり胸の奥が暖かくなった。

 文化祭の時もそうだったけど、最近は郁代が何かしらの突破口を開いてくれる事が多くてその成長が頼もしかった。……今度時間が空いたらこっちから何処かお茶に誘ってみるか。

 

 「じゃあ、忘れない内に今のを煮詰めたいから今日はひとまず帰ってちょうだい」

 「だってさ二人とも。あたしはほんの少しだけ用があるから先に帰ってて」

 「いや虹夏も一緒に帰って欲し……」

 「あ”ぁ”?」

 「ナンデモナイデス」

 

 店長以上の睨みを利かせた形相に体が竦み、何も言い返せなかった。

 

 「お邪魔しました。お先に失礼します」

 「お邪魔しましたー。先輩、そろそろお店に来てくれないと寂しくて私死んじゃいますからね」

 「分かった分かった。ちゃんと顔を出すから」

 「それじゃあね二人とも。今日はありがとう」

 

 ぼっちと郁代を玄関で見送って、ドアがパタンと閉まる。

 

 「それで虹夏、用って何……」

 

 二人だけしかいない玄関で虹夏の方に向き直ると、唐突に虹夏が私の体に力一杯抱き着いて、まるで小さい子供みたいに頭を胸元にグリグリ押しつけてきた。

 

 「リョウの馬鹿。心配したんだよ」

 「……ごめん」

 

 私も虹夏の背中に手を回し、ポンポンと優しく叩く。

 

 「前にリョウだってあたしが相談しなかった事に怒ったじゃない。それと同じだし、あたしだって……リョウがいないと嫌なんだから」

 「ごめん、もうしないから。次なにかあったらその時は相談する」

 「約束だよ。……それと、あたしも軽々しく最高の曲だなんて言って、ごめんね」

 「気にしないでいいよ。作曲は私の領域だし、私が勝手に自分を追いつめていただけだから」

 

 皆で決めた大きな目標。それを達成するためには常に今までの曲を超える意気込みが必要だし、私の領域を他の三人に譲る気持ちも無いけれど──。

 

 「虹夏」

 「うん」

 「皆とのセッション、楽しかった。私は、この四人でやる音楽が好きだ」

 「……えへへ。あたしも同じ」

 

 そう言ってお互い体を離して、二人して笑った。

 

 

 これから先に待つ道は険しい物には変わらない。

 だからといって与えられた役目を果たそうと、私だけで全てを背負う事も無い。

 一回立ち止まってすぐ近くを見れば、最高の仲間たちがいるのだから。

 

 

 そしてその後は『サボらないか今日一日見張ります!』とか言って居座ろうとする虹夏に押し切られてしまい、あまつさえ一緒のベッドで寝る事も要求された。

 落ちないようにとか言って虹夏がぎゅうぎゅう体を押し付けて来て寝苦しくなるはずだったんだけど、不思議とその日は久しぶりに、一回も目を覚まさず穏やかに眠る事が出来た。




 この世界線では美空さんがいるので喜多ちゃんがぼっちちゃんに勉強を教える負担が減って、その分音楽方面のレベルアップがなされているという形です。
 そしてここまで明確に喜多ちゃんだけにフォーカスされたエピソードがありませんが、喜多ちゃん個別のパワーアップイベントはもう少し先でやりますので少々お待ちください。
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