夢への旅路   作:梅のお酒

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 ちゃんと大人のお姉さんしてる星歌さんを書いてみたいなと思いました。
 ダメ人間はそれっぽく書けると思いますが、若い子に対してちゃんと大人らしく振る舞う大人を書くのは難しいです。


第45話 GO!!!

 「十代アーティストの登竜門、未確認ライオットかー。なんか行く所まで行っちゃったって感じだな」

 「そんな大袈裟よ、さっつー。部活動じゃない私達が対外的な成果を出すなら必然的にこうなっただけって話」

 「でもさ、逆に言えば部活じゃないなら特に成果を求めずのんびりやってもいいわけじゃん? 喜多が目標を持って頑張ってくれているだけでお姉ちゃんは嬉しいよ」

 「……ツッコまないわよ」

 「ノリ悪いなー。なぁ後藤、この子ちゃんと上手くやれてる?」

 「はへ? え、えっと、喜多ちゃんはいつも頑張ってて私も負けてられないなって思ってます、ささささん」

 「……後藤も後藤でなんかウチに対してよそよそしくない?」

 「あんたが馴れ馴れしすぎるだけなのよ」

 

 お昼休み、喜多ちゃんとよく過ごしている階段下のスペースでささささんも一緒にご飯を食べていた。向こうから一緒にご飯を食べないか提案してくれてもう何回かお昼ご飯会を開いているんだけど、一軍女子オーラを纏っている彼女にはどうも腰が引けちゃっていた。

 ごめんなさいごめんなさい、陰キャは普段接点が無い人と打ち解けるのは時間が掛かるんですぅ~。

 そんな風に私がウジウジしていると何か思いついたのかささささんが別の話を振って来た。

 

 「こういうのに参加するって事は新しい曲作ったりしてるって事だよね? 作詞担当としては大変じゃない後藤?」

 「そ、そうですね。確かに大変ですけど、今回はインスピレーションが湧いてフェス用の新曲が無事に出来たんですよ」

 「へー、すごいじゃん。ゼロから何かを生み出せる人って尊敬するわー」

 「あへへぇ。いやぁそれほどでもないですよぉ、むほほ」

 「ひとりちゃん、すっごいそれほどでもあるって顔してるわよ」

 「んふふ。やっぱり後藤って面白いね」

 

 あれ? もしかして私って犬みたいな存在だって思われてる?

 で、でもささささんってサッパリしてて私が話しやすい話題を振ってくれるから良い人なのは間違いないんだよね。

 よ、よし。今度は前みたいに変な詰め方しないで私から話を振ってみよう。

 

 「あの、ささささんは好きなバンドとかってあるんですか?」

 「あ、ごめん。ウチはヒップホップ専門なんだ」

 「ひぃん」

 

 撃沈しました。美空さん、会話ってやっぱり難しいです……。

 

 「気にしなくていいわよひとりちゃん。さっつーはこういうマイペースな人だから」

 「ごめんってば。でも結束バンドを応援しているのは本当だからさ、また大きい会場とかでやる時は応援に行くよ」

 「あ、ありがとうございます」

 

 そんな感じで和やかに話しつつ、身近で応援してくれる人の存在を再確認しながら、新曲が出来た事に浮かれないで今後も頑張って行こうと私は心の中で決意したのであった。

 

 

 

 

 

 「遂に新曲が出来ましたー! タイトルは『グルーミーグッドバイ』!」

 

 放課後、お店でミーティングの開始と共に虹夏ちゃんがそう告げて皆でパチパチと拍手を鳴らした。

 

 「それでは早速聴いてみよう!」

 

 虹夏ちゃんが持ってきたパソコンでCDを再生して、聴き終わると四人とも満足気に息を吐いた。

 

 「今回の曲、何か新境地を開けたって気がしない?」

 「あ、何となく分かります。今までと比べて爽やかって感じがしました」

 「私の家でやったセッションが良い感じに化学反応を起こしたかな。歌詞は相変わらずぼっちらしいけど、曲調を上手く変えれば歌詞の印象もまた変わるっていう良い経験になったと思う」

 「流石ですリョウさん。私もいい加減に陰キャ臭がする歌詞から脱却しないと曲の幅を広げられないから頑張ります」

 「んー。まだそこまで深刻に考えなくて良いと思うよ。作詞って作曲より思想がダイレクトに反映されるから、もっと色んな事を経験してぼっちの幅を広げればいいんじゃない?」

 「うー……ん~……。わ、分かりました。自分の気持ちと向き合いながら色々と試してみます」

 「そうそう。その上でバラバラの個性が集まるから音楽は面白いっていうのを大事にして行こう」

 「ですね。えへへ」

 「虹夏先輩~! また二人で良い雰囲気になってます~! これがNTRってやつなんですか!?」

 「寝てから言いなよ」

 

 また喜多ちゃんが変な事言ってる……。虹夏ちゃんも最近は面倒くさくなってきたのか、特に慰めたりしないで半開きの目で適当にやり過ごすだけだし。

 

 「ま、それはさておき。この曲が現状のベストなのは意義が無いと思うけど、それでもデモ審査まで少し時間があるんだよね。もしまだアイディアがあって比べたいとかあったら考えるけど、作曲組どう?」

 「私は曲のアイディア自体はあるけど、勝負したいのはこの曲かな。初めて皆で意見を出し合って形になった曲だし、どんな結果になっても受け入れられると思う」

 「私もリョウさんと同じです。皆とセッションしたおかげで今回の曲は自分の中で今までになかったインスピレーションが湧いたので、この曲を大事にしたいなって気持ちが大きいです」

 「それに、期間ギリギリまで粘ったからってそっちの方が良い曲になるとも限らないしね」

 「うんうん。喜多ちゃんはどう?」

 「私もこの曲に愛着が湧いたので、二人の気持ちを尊重したいです」

 「よし。じゃあ四人共意見は一緒だね。後はPVを作りたいんだけど……ごめん、まだ手法とか予算とかのバランスが詰め切れてないんだ……」

 「だ、大丈夫ですよ虹夏先輩。まだ十二月に入ったばっかりで余裕はあるんですから、美空さんにも相談してみましょう」

 

 リョウさんに最高の曲を要求した事が尾を引いているのか、PV作りの案を出せていない虹夏ちゃんのアホ毛が気持ちを表すみたいにショボンと垂れ下がっていた。

 ちなみに、美空さんは今日はまだ来ていない。

 前に私に言った通り、美空さんは曲作りには一切口出ししない事を貫いていて『私が居なくても話を進めていいからね』と事前に連絡を貰っていた。今までの曲に対しても譜面を見て、そこから起こりえる失敗を予測して私達に弾き方や練習方法をアドバイスするだけだったから、仮に今この場に居たとしてもそのスタンスは変わらないはず。

 ……美空さんと深い所まで曲の事について話せないのは少し寂しさを感じる時もあるけど、これも美空さんなりの愛の鞭だと思って頑張ろう。

 

 「お疲れ様でーす……」

 

 そんな風に美空さんの事を考えていたら、ちょうど本人の声が入口から聞こえて来た。でも、いつもと違って元気が無いような?

 

 「あ、美空さんお疲れ様です……って」

 「やっほー諸君! 毎日頑張っているかい?」

 「え、何で廣井さんがいるんですか?」

 「ちょっと妹ちゃん、その反応はお姉さん傷つくなー」

 「ツケ踏み倒そうとしたんだから当然です」

 

 そちら側に顔を向けると、げんなりした顔の美空さんの腕にお姉さんが抱き着きながら一緒にお店の中に入って来た。

 

 「きくり、何か用があって来たんでしょ。スーツにお酒の匂いが付くから離れなさい」

 「ちぇー。皆してそんな邪険に扱わなくてもいいじゃない」

 

 タコみたいに口をブーブー尖らせながらも用事があるのは本当なのか、お姉さんは美空さんから離れると服のポケットをガサゴソと漁り始めた。

 

 「えーっと、どこにやったっけ……あったあった!」

 

 ホッとした様子でお姉さんは何やらクシャクシャの封筒を取り出すと、それを虹夏ちゃんに渡した。

 他の三人と一緒に虹夏ちゃんの傍に寄って封筒を見ると、新宿FOLTの文字が印刷されていた。

 

 「何でFOLTから?」

 「まぁまぁ、とにかく開けてみなって」

 「はぁ」

 

 ニコニコと笑いながら促すお姉さんとは対照的に訝しげに虹夏ちゃんが封筒を開け、中に入っていた書類を広げて読み始めた。

 

 「何々? 新宿FOLTクリスマスライブの出演依頼……って」

 『え“え”え“え”え“え”え“え”え“!?』

 

 読み上げて内容を把握した瞬間、皆揃って驚きの声が出てしまった。

 え、私達にあの大きなライブハウスでの出演依頼!? 何故に? ホワイ?

 

 「いやー皆ナイスリアクション。来た甲斐があったねー」

 

 頭に疑問符しか湧かない中、お姉さんはケラケラと笑っている。

 

 「へ、えっと、あの、どうしてあたし達に依頼が?」

 「どうしてって、それだけのバンドだって銀ちゃんが見込んだからだよ」

 「でも、まだFOLTに出させてもらうような実績なんて……」

 「ん~、そう言われてもねぇ。あ、この前連絡先交換していたなら直接銀ちゃんに訊いてみたら? 今なら出てくれると思うよ」

 「は、はいっ」

 

 慌てて虹夏ちゃんがスマホを取り出して吉田店長に電話をかけると、向こうはすぐに出てくれた。

 

 『はいは~い、銀次郎よ』

 「吉田店長、お疲れ様です! 結束バンドの伊地知です!」

 『はい虹夏ちゃん、お疲れ様~。もしかしてきくりから封筒を受け取ってくれた?』

 「あ、はい。その事でお話したいんですけどお時間よろしいですか?」

 『もちろん。あ、折角だからテレビ電話にしてもらっていいかしら』

 「はい、分かりました」

 

 ロインのテレビ電話に切り替えた後、画面にはニコニコ笑顔を浮かべている吉田店長が映った。

 

 「銀ちゃ~ん、ちゃんとお使いしたよ~」

 『はいお疲れ様きくり。もう帰っていいわよ』

 「扱いが雑!」

 『冗談よ、今度一杯だけご馳走してあげるわ。あ、ごめんなさいね虹夏ちゃん。それでお話って?』

 「この出演依頼なんですけど、本当にあたし達で良いんですか? あたし達、まだFOLTに出させてもらう程のレベルだとは……」

 『あら、そんな弱気にならなくてもいいじゃない』

 

 戸惑う私達とは逆で、吉田店長はあっけらかんと言い放った。

 

 『これでも店長として、有力バンドの動向はチェックしているのよ。順調にフォロワーを増やしているみたいだし、記事も書かれているじゃない。単に顔見知りってだけじゃなくて、その努力を評価してあなた達に依頼をかけたのよ』

 

 その言葉を聞いて私の心の奥に湧いたのは嬉しさと、使命感。

 私達の事をそれだけ評価してくれている人がこうして呼びかけてくれたのだから、その期待を棒に振りたくないと思った。

 そして一つ、気になる事が頭に浮かんだので吉田店長に尋ねてみる。

 

 「すいません、吉田店長」

 『何かしら、ひとりちゃん』

 「そのライブ、SIDEROSも出ますか?」

 『えぇ、もちろん』

 

 答えを聞くと尚更、このライブから逃げたくなくなった。

 私が皆の表情を見ると、全員がお互いに力を込めて頷いた。

 

 「ありがとうございます吉田店長。必ず相応しいパフォーマンスをしますので、依頼を受けさせてください」

 『こちらこそ、喜んで。楽しみにしているわ』

 

 代表して虹夏ちゃんが返事をすると、吉田店長もお姉さんも、見守っていた美空さんも優しい笑顔を浮かべてくれた。

 

 『そうなると、段取りとかの打ち合わせをしたいから一回こっちに来てくれるとありがたいんだけど大丈夫?』

 「もちろんです!」

 

 その後は皆で予定を確認しながら話を進め、週末に全員でFOLTに行く事が決まった。

 

 「それでは、当日はよろしくお願いします」

 『はい、よろしくお願いね。それじゃ、お疲れ様でした』

 『お疲れ様でした!』

 

 最後に皆で挨拶をしてテレビ電話が終わった瞬間、皆同時に力がドッと抜けたような表情になった。

 

 「皆、ごめん。なんかあたしだけで決めたみたいになっちゃったけど……」

 「大丈夫です虹夏ちゃん。私も出たいと思いましたから」

 「SIDEROSとのレベル差を計る良い機会だしね」

 「未確認ライオットに向けての前哨戦ですね! 燃えてきました!」

 

 メジャーデビューを目指すならこの大きな経験を逃す手はない。

 今の私達に失う物なんて無いんだから、恐れずにやれるだけぶつかってみればいいんだ。

 どうやら皆気持ちは同じだったみたいで、それぞれの想いを口にすると皆が笑顔になった。

 

 「よし、そうなるとPVはひとまず後回しで。その代わり、クリスマスライブに向けて一点集中で練習するよ!」

 『おー!!』

 「ふふ、皆やる気だね。それじゃ、早速今日の練習から頑張ろうか」

 「どれどれ、折角だから私も稽古をつけてしんぜよう」

 「え、別にきくりはいいわよ」

 「だから扱いが雑ぅ!」

 

 美空さんがにべもなく言うと、お姉さんは子供みたいに美空さんに抱き着いて頭をグリグリと押し付けて来た。

 

 「わざわざ来たのにお使いだけなんて嫌だよ~。ほれほれ、トップバンドのメンバーに教えてもらう機会なんてそうそうないんだぞ~?」

 「自分で言うなし」

 

 美空さんも観念したのか、はぁと溜息を吐いて妥協案を提示した。

 

 「じゃあ、リョウちゃんを重点的に見てもらっていい? 同じパートだし、きくりからならリョウちゃんも新しい刺激が入って良いでしょ」

 「了解~。宜しくね山田ちゃん」

 「よろしくお願いします」

 

 あ、珍しくリョウさんの目がキラキラしてる。けど好きなバンドのメンバーに教えてもらうってなったらそうなるのも当然だよね。

 

 そうして始まった今日の練習はトップバンドとして君臨しているお姉さんのアドバイスもあって、また一つレベルが上がったと実感できる良い時間になった。

 

 

 

 

 

 「はい、皆お疲れ様。クリスマスライブは既存の曲で勝負する事になるけど、もう弾けるからって油断しないで、今一度完成度を求めるのを忘れないでね」

 『はい!』

 「うんうん、皆初めて会った時から何段もレベルが上がったね。あ、ちなみにクリスマスライブは私達も当然出るからよろしく~」

 

 SICK HACKも出る事を聞くと皆の表情が引き締まった。

 FOLTの二枚看板がどちらも出るなら私達にとってはアウェーもアウェーだけど、メジャーデビューを目指すならそんな事態の方が当たり前になる。

 どんな状況でも自分達のベストを尽くす、それは美空さんにもずっと言われている事なんだから。

 

 「きくり、今日はありがとうね」

 「ふふふ、若人に助言するのも力を持つ者の義務よ。ところで美空ぁ~」

 

 さっきまでは真剣な表情で私達の練習を見ていてくれたのに、あっという間に普段のデロンとしただらしない顔に変形してお姉さんは美空さんに猫なで声を出しながら擦り寄った。

 

 「きくりちゃん、今日はお使いにコーチも頑張ったからぁ~。ご飯ご馳走して欲しいなぁ~」

 

 ま、まさかご飯奢ってもらう為に私達の練習を見てくれたの……? どうやら皆も思っている事は同じで、呆れた表情で見ている。

 そして相変わらず甘える猫みたいに美空さんに頬ずりして指で体をツンツン突いてるお姉さんとは対照的に、明日お肉になっちゃう豚さんを見るような目で美空さんは冷たく言い放った。

 

 「虹夏ちゃんから聞いたんだけど、お風呂とか晩御飯とかたかってるみたいじゃない。先にその分のお金を清算出来るならいいけど?」

 「……残り80円、もうだめぽ」

 「酒飲んでんじゃねーよハゲ!!」

 

 遂に美空さんの火山が噴火して、お姉さんは追い立てられる家畜みたいにお尻をバシバシ叩かれながらお店を追い出された。

 

 その後はお姉さんが戻って来るとか特に何事もなく解散になって、美空さんはゲッソリした表情でお疲れモードだったので早々に帰った。

 

 ……一連の流れを見て思ったんだけど、美空さんってお姉さんの事をどう思っているんだろう?

 そりゃお姉さんが人としてアレなのは否定できないけど、お姉さんが美空さんの事を大好きなのは間違いないと思う。

 でも、私にはどうも接し方が分からないっていうのか、美空さんはお姉さんを避けている様に見えてしまった。

 

 思い出されるのは、前にFOLTでのライブで見せた表情。

 嬉しさと悲しさを持った、複雑そうな感情。

 あくまで私の想像でしかないけど、美空さんは自分の都合でバンドを抜けた事にまだ罪悪感があるんじゃないのかな。

 けれど病気だったらどうしようもないし、それは美空さんの責任だなんて誰も思って無いはず。交流会の時に志麻さんもイライザさんも、そんな事全然気にしてなさそうに接していたんだから。

 そもそも私が心配なんかしても余計なお世話なのは分かってるんだけど、私にとっての恩人同士が折角再会できたのにギクシャクしてるのを見て見ぬふりをするのは嫌だって心が言ってるし……。

 

 「う~……! む~……!」

 

 だ、駄目だ……。ぼっちだった私じゃ人の仲を取り持つなんて出来ない……。

 こうなったら誰かに相談で、二人の事をどっちもよく知ってそうな人は……居た。

 う、うぅ。怖いけど、モヤモヤしたままなのはもっと嫌だ……! えぇい、ままよ!

 

 「あの、店長さん。ちょっとだけいいですか……?」

 「ん“ん”っ!? ど、どうしたぼっちちゃん?」

 

 私が話しかけると店長さんは凄い目力でこっちを見てきた。

 ひぃ! ふたりは優しいお姉さんなんて言ってたけど、やっぱり陰キャにヤンキーは相性不利ですぅ!

 最初の一撃で早くも食いしばりが発動しちゃったけど、頑張れ私。以前の私だったらここで何も言えなくてとんぼ返りしていたけど、今は違うんだ!

 

 「その、もしかして美空さんって、お姉さんの事が嫌いなんですか?」

 「……あ~~~、そうだなぁ」

 

 慌てていたのもあったからダイレクト過ぎる質問になっちゃったけど、店長さんは何かを察してくれたみたい。珍しく本気で困った様子で腕を組みながらウンウン唸って天井を見上げている。

 少しの間店長さんは考え込んでいると、さっきとは違う幾分か柔らかい表情で答えてくれた。

 

 「まぁ、昔と比べて別人みたいにクズになったのは確かだけど、だからって嫌ってるわけじゃないよ。むしろ、どうしてぼっちちゃんはそう思ったんだ?」

 

 二人の事をよく知っている人からそう言って貰えひとまず安心したけど、今度は私が訊き返されてしまった。

 

 「アレな事ばっかりしているお姉さんに愛想を尽かしてるって言われたらそれまでかもしれないですけど、私には美空さんがお姉さんを意図的に避けている様に見えるんです」

 「んー、何かそう思う事でもあったの?」

 「思い当たるのは前にFOLTでライブを観た時、美空さんお姉さん達をどこか悲し気な表情で観ていたんです。それで、もしかして自分の都合でバンドを抜けた事を気にしてるんじゃないかって」

 「……そうか。そういう事があったのか」

 「あの、余計なお世話なのは分かっているんですけど、私にとって二人とも恩人だから知らんぷりしてるのも嫌でそれでどうしようって……!」

 「あはは、大丈夫だって。ぼっちちゃんは優しいね」

 

 ワタワタしてる私の頭を、店長さんは優しい笑顔でポンポンと撫でてくれた。

 

 「ぼっちちゃんがそうやって他人を想う事が出来るのはぼっちちゃんの強さなんだから、それで良いんだよ。ただ、今回だけはもうしばらく様子見してあげてくれないかな」

 「はい……。ごめんなさい。私、お節介でした……」

 「違う違う。ぼっちゃちゃんの気持ちは嬉しいけど、これは藤原が自分で気持ちを整理しなくちゃいけないんだ。それに、言葉に出来なくてもぼっちちゃんには音楽があるだろ?」

 

 え? と私が疑問符を浮かべていると、店長さんはニカッと笑顔で答えてくれた。

 

 「藤原だってバンドマンなんだ。結束バンドが頑張れば、音楽を通じてあいつだっていつか自分自身にケリを付ける事が出来る。ぼっちちゃんだって、バンド活動を通じて変わる事が出来ただろ? それと一緒だ」

 「あ……。は、はいっ!」

 「あいつにとって、君たちが頑張る姿が一番の薬になるはずだ。ひとまず、今のあいつは素直になれない面倒なツンデレだとでも思っとけば大丈夫さ」

 「誰かさんにそっくりですね」

 「お前給料減らすぞ」

 

 後ろに居たPAさんがからかうと店長さんはギロリと睨んで、でもそのやり取りが私の心を軽くしてくれた。

 ……今だったら、ふたりが言った事が分かるかもしれない。

 

 「ま、まぁ。もしあいつらの昔話とか聞きたいんだったら一緒に飯でも食いながら話すけど……」

 「ありがとうございました店長さん! 私、もっともっと頑張ります!」

 

 なんだか猛烈に練習したい気分になり、失礼します、と声をかけて私は足早にお店を後にした。

 

 私だって、音楽を通じて変わる事が出来たんだ。

 だったら美空さんにも、音楽を通じて幸せになって欲しい。

 自分のバンドマンとしての成長が、美空さんへの恩返しになるんだ。

 そしていつか……美空さんがまたステージに立つ日を見てみたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……」

 「店長、流石に藤原さんをダシにしてご飯に誘うのは人としてどうかと思いますよ……」

 「違うぅ~~~!!! そんなつもりじゃなかったんだぁ~~~!!!」




 星歌さんはこの物語では結構キーマンだったりするのですがそれはそれとしていじられキャラとしても愛でたいと思います。
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