主にオリ主も含めたSICK HACKと伊地知家の過去話になりますが、少しでもこの世界線の各キャラの解像度を上げる一助になれれば良いなと思います。
#1 君と出会えた奇跡
私は自分が嫌いだ。
取り立てて勉強や運動が出来るわけでもなく、秀でた特技もない。
根暗で、友達もいなくて、熱中できる物もない。
普通の存在にすらなれず、自分で自分に落胆し続ける毎日。
現状を変えたくても、何をすればいいのか分からない。
何も出来ない。
何もしない。
そんな自分が──廣井きくりという人間が、私は大嫌いだった。
まだまだ夏の暑さが残る二学期の初日。
教室の自分の席で、周りから気配を遮断する様に私は本を読んでいた。
友達がいない私にとって学校での時間は苦痛以外の何物でもない。
あぁ……早くも夏休みが恋しい。合法的に学校に行かなくて良い夏休みは数少ない癒しの期間だったのに。
オアシスから砂漠に叩き出されたかの絶望感をまた味わう日々が来ると思うと、更に鬱々とした気分になる。
「ねぇ聞いた? うちのクラスに転校生が来るらしいよ」
「いや初耳。男子? 女子?」
「噂だと女子みたい」
「女子かー。イケメン男子転校生だったら良かったのになー」
「仮にそうだったとしてもあんたにはワンチャンも無いから安心しなさい」
「それを言ったら戦争だろうが!」
ふと女子グループの会話が耳に入った。
転校生が女の子だと聞いて男の子達は色めき立っているけど、私には関係ない話だ。
別に転校生の一人や二人増えた所で、私の人生には何の影響もしない。
……こうして転校生と友達になれないかな、といった発想すら出てこない自分にまた嫌気がさす。そもそも私みたいな根暗ぼっちと友達になりたいっていう人なんて稀有な存在だろうけど。
はあ、と溜息を吐いた所で丁度チャイムが鳴った。
ほどなくして担任の先生が教室に入って来て、その後に続く形で同じ制服姿の見知らぬ女の子も入って来て教壇の前に立つ。
第一印象は、快活そうな美人さん、だった。
背中くらいまでに伸びた艶やかな黒髪、運動部に居てもおかしくない引き締まったスラリとした体格。
そして、整った顔立ちと、遠目からでも感じられる強そうな意志が宿った綺麗な瞳。
すれ違ったら思わず振り返ってしまう程の美少女と言える転校生の姿に、性別関係なく教室中のクラスメイトがざわつき始める。
「はいはい。静かに」
先生が手をパンパン叩いて静粛を促す。
うちの学校はわざわざ先生に反抗する様な不良もいないので、全員大人しくその指示に従った。
「二学期からうちのクラスに新しい子が入る事になりました。それでは藤原さん、自己紹介をお願いします」
「はい!」
先生の指示と共に転校生は一歩前に出て自己紹介を始めた。
「アメリカから帰国してきました、藤原美空と申します! 趣味と特技はバンド活動、ただいまメンバー募集中です!」
良く通る声を歌う様に響かせ、太陽を思わせる輝かしい笑顔でVサインを掲げる転校生の姿に、私の目は奪われる。
──そしてこれが、私の人生を変えてくれた、親友との出会いだった。
「アメリカから来たって事は、藤原さんってもしかしてハーフなの?」
「ううん、純粋な日本人だよ。父さんの仕事の都合で小学校から向こうに居ただけって話」
「アメリカのどこら辺に住んでたの?」
「いわゆる西海岸かな。ハリウッドとかラスベガスなんか割と近かったよ」
「向こうってやっぱり派手でゴージャスな感じ?」
「とにかくスケールがデカイ! って感じだね。スポーツ強豪校だと東京ドームより大きいスタジアムを学校が持ってたりするんだよ」
休み時間になって話しかけてきてくれたクラスメイト達の質問にサラサラと答える。
ふぅ、思ったよりノリの良さそうな人達でよかったよかった。仮に誰も話しかけてこなくても関係作りを出来る自信はあったけど、向こうから来てくれた方が労力が少なくて済むからね。
この感じなら上手く馴染めそうかなーと考えていたら、
「藤原さん! 突然でごめん!」
何やら焦った様子の男女が人波をかき分ける様に近づいて来た。
「藤原さん、バンド活動をしてるって言ってたけどライブの経験ってあったりする?」
「もちろん。路上でもライブハウスでも学校のイベントでも何でもござれよ」
自信満々に答えると二人の表情はパァっと明るくなった。
「僕たち来月の文化祭の実行委員なんだけど、お願いがあるんだ」
「毎回軽音部以外の有志も募集してライブをやるんだけど、今年は集まりが悪いの」
「有志が居なくても軽音部の出場枠を広げれば開催自体は出来るんだけど、それだとただの軽音部の発表会になっちゃうから困ってたんだ。盛り上げる為に、どうかライブに出てくれないかな?」
「出るとしたら私、バンド自体はまだ組めてなくてギター以外は音源流すだけになっちゃうけど、それでもいいの?」
「全然オッケー! 今までもそういう人いたみたいだし大丈夫!」
『なので、お願いします!』
「ふむふむ。なるほど」
最後は二人とも声と手を揃えて拝むように頼み込んできた一方で私は少し考え込む。
ライブに出る事自体は問題ない、むしろ願ったり叶ったりだった。
少しでもお祭りを皆で楽しめるようにしたいというのは大いに賛成だし、ここで断るなら未来のスーパーアーティストの名が廃るというものだ。
当然自分の腕に自信はあるけど、向こうはとりあえず私が経験者って事だけで頼んでるから、やっぱり一回どれくらいのレベルかは見てもらった方が安心できると思うのよね。
向こうにもこっちにもメリットを提示しつつ今後の布石を打ちたいから……よし、いっちょ行ってみるか。
「分かった。その話、是非とも乗らせて頂きます」
『ありがとう!』
「けど、代わりに一つだけ私からもお願いしていい?」
そう言いつつ、私は鞄から封筒に入っていたチケットを取り出す。
「来週末に新宿のライブハウスで色んなバンドが集まってライブをやるんだけど、私も出させてもらうんだ。チケット代は要らないから、これを観に来てくれないかな?」
「え。それはもちろん良いけど、タダだったら藤原さんが損しちゃうんじゃない?」
「そこは私の気持ちかな。文化祭ライブの前に一回はちゃんと私の腕前を観てもらって判断してくれた方がお互い不安が無くなると思うのよね。それに経験者だからってお眼鏡に叶うレベルかはまた別だし、ガッカリさせちゃうレベルだったら申し訳ないからタダで良いよ」
「いやいや、こっちが急なお願いしてるのにタダは申し訳ないからちゃんとお金払うよ」
「そうそう。それにちゃんとライブハウスでやるくらいなら藤原さんの腕前は保証されてるって事でしょ? ライブハウスに行った事ないから、文化祭の話とは別で楽しませてもらうね」
二人は制服のポケットからお財布を取り出し、お金と引き換えにチケットを快く交換してくれた。
おぉ、マジか! タダで良いのは本心だったし、むしろ私の知名度を少しでも上げるための先行投資くらいの感覚だったけどまさかちゃんとお金を払ってくれるとは。
チケット代も安いわけじゃないのに優しいクラスメイトに恵まれたなぁ、と感動していると周りから更に声が掛かった。
「藤原さん! 俺もライブ観に行っていいかな!?」
「あ、待ちやがれ! 俺も行きたい!」
「俺も俺も! ちゃんとお金払うからさ!」
主に男子達が何やら鼻息荒くしてチケットを求めて来てくれた。
ふふーん? これはアレかな? 私と少しでもお近づきになりたいというきっかけ作りが狙いかな?
かー辛ぇわー! 自分の美少女っぷりが怖いわー! いいぜ、私の演奏で全員虜にしてまとめて抱いてやるよ!
……なんて思わず浮かれそうになったけど、表に出ないようギリギリの所で抑える。
まぁ、不純な動機であろうともライブを観に来てくれるならそれでよし! 逆にそういう層を引き入れてこそ本物のアーティストよ! 未来の金づr……ファンは優しく沼に沈めないとなぁ!
「ありがとう皆! 楽しめるように頑張るから宜しくね!」
心の中で悪魔が舌なめずりしながら札束を数えつつ、天使の様な笑顔を浮かべ私はお礼を言った。
過去編は本編の進み具合を見て補足的な意味合いで投稿して行きます。
ただ、本編以上にノリと勢いだけで書いているので矛盾を見つけても「大人は嘘つきではないのです。間違いをするだけなのです」の精神でスルーして頂けると幸いです……。