夢への旅路   作:梅のお酒

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 この物語にR-15タグが付いているのは今回の話が原因の一部です。


#3 寂しがりライオン

 藤原さんが転校してきて早くも一週間が経った。

 彼女はその持ち前の明るさで瞬く間に、それこそ私なんかとは天と地ほどの差もあるくらいクラスへ馴染み、今も周りの人達と談笑している。

 

 「藤原ー頼むよー。バスケ部に入ってくれよー」

 「ふっ、ごめんなさい。今の私は音楽が恋人なの。本職の人にそう言って貰えるのは嬉しいけどね」

 「ちぇー。藤原が入ってくれたら大会も良い線いけると思うんだけどな」

 「藤原さん、本当に上手かったけどアメリカで習ってたの?」

 「習ってはいないけど四大スポーツは嗜みだからね。遊びでも負けたくなかったし自分よりデカイ相手とマッチアップが当たり前だったから鍛えたのよ」

 「あれだけ上手かったら志麻様にも勝てるんじゃね?」

 「へ? 誰それ?」

 「隣のクラスの子なんだけど見た事ない? 短めの黒髪でかっこいい感じの」

 「あ~、宝塚とかに居そうな感じのあの子か。よく女子に囲まれてる」

 「そうそう。ちょいちょい運動部の助っ人に入ってくれるんだ」

 「へー、それは楽しみ。体育祭あたりで勝負できないかな」

 「じゃあ体育祭の時になんとか当たらないか工作してみるわ」

 「おっ、サンキュー」

 「っていうか、助っ人に頼らないといけないうちの運動部弱すぎない?」

 「ククク……ひどい言われようだな。まぁ事実だからしょうがないけど」

 

 運動部の人達という陽キャ軍団と気兼ねなく話すその姿は眩し過ぎて、陰キャの私には目が潰れかねない光景だった。

 ちなみに藤原さんの運動神経は抜群で体育のバスケでは本職のバスケ部員すらも圧倒していた。

 汗をかきたくないから適当に流す女子もいる中、そんなのお構いなしにハツラツと動く藤原さんはキラキラと輝いていて、おまけに平気な顔で体操着をパタパタしてお腹を晒したりしていたから男子達から凄いガン見されていた。

 

 「藤原さーん。今週のライブ楽しみにしてるね」

 「ふふん、任せて頂戴。文化祭の前哨戦としてバッチリ決めてみせるわ」

 「うん、楽しみにしてるね。やるのは藤原さんが自分で作った曲なの?」

 「いや、今回はコピーだね。流石に自分のバンドを組んでもいないのにオリジナル曲はどうかと思ったし」

 

 彼女の傍にまた一人、文化祭実行委員の子が話しかけた。そう言えば今週末にライブするって言ってたっけ。

 ……私も行ってみたいな。うぅ、でもライブハウスなんていうそれこそ陽キャの巣窟みたいな所に行く勇気は持てないし、ぼっちの私が行ったせいで「何でお前いるの?」みたいな空気になったら申し訳ないし……。

 ……うん、やっぱり辞めよう。藤原さんと私は生きる世界が違うんだ。私は私で誰にも注目されないでひっそり生きるのがお似合いなんだ。

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

 やがてチャイムが鳴り、それぞれが席に着こうと動き始める。

 その時、急に藤原さんがくるっと振り向いてこっちを見た。

 

 「えっ……!?」

 

 突然の事に頭が真っ白になった上に、思いっきり藤原さんと目が合ってしまった。

 

 「っ!」

 

 首がグキっとなる勢いで私は顔を窓の方に背けた。

 び、ビックリした……! もしかして私みたいな陰キャがジロジロ見てんじゃねぇよって釘を刺しにきたのかな? 

 ひぃ! ごめんなさい! 確かに見ていたけど悪気は一切ないんですぅ……!

 

 結局その日は一日、狩られる事に怯える小動物の様に、いつも以上に気配を消して過ごしていた。

 

 

 

 

 

 チャイムが鳴って皆が席に着こうとする中、なんとなく視線を感じた方向に顔を向けると三つ編みを結っている女の子と目が合った。

 えっと、確か廣井さんだっけ? クラスメイトの名前は一通り覚えたけど、まだ話した事はないんだよなぁ。折角だから今話しかけようとしてもチャイム鳴っちゃったし、おまけに凄い勢いで顔を逸らされちゃったし……。

 彼女、遠目から見ても可愛いと思うけど、いつも一人でジッと本を読んでるんだよね。

 それが悪いなんて言うつもりは一切無いけど……どことなく寂しそうな雰囲気がして、アメリカに転校した頃の自分を見ているみたいだった。

 うーん……。あの時はクラスメイトが音楽を勧めてくれた事が切っ掛けで友達の輪に入れたけど、だからといってそれを真似したらドン引きされそうな可能性が高い気がする。

 まぁ、焦らずに何かしらのイベントで一緒になったりしたら話してみますか。次にライブやる時はクラス全員に私からチケットのお誘いをする計画だから、そこで声を掛けてみるのも良いかもね。

 

 

 

 

 

 

 そしてやってきましたライブ当日。

 体のコンディションはバッチリ。適度に緊張はしているけど寝れなかったっていうレベルじゃなく、偉大なるスーパーアーティストへの第一歩というワクワクの方が大きい。

 意気揚々と中へ踏み込んで行き、お店の主たる人物へ挨拶をした。

 

 「おはようございます銀次郎さん。今日はよろしくお願いします!」

 「おはよう美空ちゃん。こちらこそ今日はよろしくね」

 

 暖かく出迎えてくれたのはパンクスタイルなオネエ、もといこのお店新宿FOLTの店長・銀次郎さんだ。

 

 「ちゃんとチケットノルマを達成できて偉いわね。今だから言うけど、引っ越してきたばっかりだから半分まで行けば合格ってくらいの気持ちだったのよ」

 「今後はここを贔屓にさせてもらうつもりですから、最初からキッチリこなさないと信頼してもらえないと思いましたので。ただ正直、今回は周りにすごい恵まれました」

 「そういう運もトップを目指す人には備わっているものよ。そしてそれはあなたの人柄あってこそだから自信を持って、けど驕らずに頑張ってね」

 「はい。ありがとうございます」

 

 身が引き締まる思いで頭を下げると銀次郎さんはニコリと微笑んでくれた。

 

 「おう藤原、やっとお出ましか」

 「やっほー美空。応援に来たよ」

 「美空ちゃん、初ライブ頑張ってね」

 「え、何で星歌さん達もう中にいるんですか?」

 

 横から声をかけられてその方向に目を向けると、まだ開店まで時間があるのに星歌さんのバンドメンバーと緑さんが既にいた。

 

 「銀次郎さんのご厚意で入れてくれたんだよ。あとはプレッシャー掛けの冷やかしだな」

 「……ほ~ん。まぁ別に~? バイト入ったばっかの後輩にマウント取ろうとして返り討ちにあった人のプレッシャーなんて屁でもないですけど~?」

 「へ、星歌ってば何やったの?」

 「それがですねリナさん。この人、ギター出来んなら何か弾いてみろよって無茶ぶりして来たんですよ。だからヴァン・ヘイレンのギターソロ弾いて黙らせました」

 「うはははは! 星歌だっせぇ!」

 「もーやめてよ星歌、大人気なさすぎでしょ」

 「うっせぇ、躾だよ躾。上下関係を叩き込むのが大事なんだよ」

 「人を犬扱いすんなし」

 「そもそも都合のいい時だけ上下関係を持ち出す人が言ってもねぇ」

 

 やんややんやと星歌さん達と話をするけど、心の中では来てくれた事に嬉しさが一杯だった。

 実は、このお店は星歌さんが紹介してくれたのだ。

 武者修行と売り込みを図るために何処か知りませんかと相談した所、銀次郎さんと会わせてくれた。最初はお店を預かる立場として銀次郎さんの眼も厳しくオーディションを受けさせられたけどそこは流石私、一発でオーケーを貰う事に成功した。

 それ以来すっかり銀次郎さんとは良い関係を続けさせてもらい、練習にスタジオを使わせてもらったり定期的に通わせてもらっている。まぁ銀次郎さんの素の性格は本当に善い人だし、最初は厳しかったのも店長の立場上仕方なかった事だと今は納得している。

 

 「美空ちゃん、そろそろ音合わせしたいんだけどいいかしら?」

 「あ、はい。分かりました」

 「今日はトップバッターだから、期待しているわね」

 「つまり、私がしくったら今日は雰囲気悪いまま進んじゃうって事ですよね。責任重大だ」

 「あら、美空ちゃんなら出来ると思ったのよ。それとも、自信無い?」

 「まさか。むしろ燃えますよ」

 

 悪戯っぽく微笑む銀次郎さんに笑って返す。

 今日の持ち曲は二曲と正直物足りないけど、それでもオーディションを突破して出させて貰う身だ。

 たとえソロでもこの状況を突破出来なきゃメジャーデビューには届かないという事を、銀次郎さんなりに試練として与えてくれたんだろう。

 プレッシャー以上に、そこまで目をかけてくれている事に嬉しくなる。

 

 「さぁて、いっちょ行きますか」

 

 ステージへと歩みを進めながら本気モードにスイッチを入れるべく、私は髪留めで自分の髪を結いあげた。

 

 

 

 

 

 

 週が明けた最初の登校日、授業前に私はライブに来てくれたクラスメイト達に囲まれていた。

 

 「藤原さん、ライブすごかった~! これなら文化祭も文句なしだよ!」

 「サンキューサンキュー。お眼鏡に叶ったようでなにより」

 「はー、そんなに良かったのか?」

 「うんうん。上手いのもそうだし、すっごく格好よかったの。なんだっけ、『ドワナクローズマイアーイ』って映画のやつ」

 「エアロスミスか。よく声出せるな」

 「あはは。ぶっちゃけ結構ギリギリだったのよ」

 「あとあれ、筋肉ムキムキ芸人さんのテーマ曲みたいなやつ。小ネタで同じポージングしたの面白かった」

 「ボン・ジョヴィか。ちゃんと粉チーズかけた?」

 「やりたかったけど止められたわ」

 「それはお店が正しい。それにしても、見事に英語の曲ばっかだな」

 「まぁ私的に気分が乗って、かつ皆知ってそうな曲ってチョイスだったからね。文化祭では有名どころな日本の曲で行くからご心配なく」

 

 そんな感じで、週末のライブに関してあれこれ話をしている。

 結論から言うとライブは成功で特にミスも無く音を外したりもせず、無事に歌い切る事が出来た。クラスの子達と星歌さん達も含めたお客さんの反応、それに銀次郎さんからも上々な評価を得られたから次に繋がりはするだろう。

 

 「なー藤原―。今ギター持ってるならちょっと弾いてみてくれない? 部活の練習で行けなかったのが何か悔しい気がしてきた」

 

 と、そこで願ったり叶ったりな言葉をかけられた。

 内心しめしめと思いながら、表面上は冷静に振る舞う。

 

 「うん、いいよ。どうせなら来れなかった人にも聴いてもらいたかったし」

 

 そう言いながら、傍らに置いてあったケースからギターを取り出す。

 

 「あれ、エレキじゃないんだ」

 「作曲の時はアコギを使うのよ。バイトまでの時間でちょっと曲作りしようかなーって思ったから今日はこっちを持ってきたの」

 

 半分は建前で本音は売り込みだ。

 こんな事を想定して弾き語りが披露できるようにアコギを持って来ていて、文化祭の前にもうワンプッシュしておく事で今後の集客に繋げる。どんな時でもさり気なくアピールを欠かさない営業の鑑ってわけよ!

 

 「じゃあ、時間が無いので手短に。BUMP OF CHICKENの『ダンデライオン』やりまーす」

 

 そう宣言してちょっとした拍手の後、私はギターを奏でた。

 この曲だったら短くてアコギでの弾き語りに丁度良いし、ギター一本でも分かりやすいメロディーをしているから知らなくても聴きやすいだろうしね。

 

 「寂しがりライオン吊り橋を渡る サバンナじゃ皆に嫌われた」

 

 歌い出すと、遠くにいた人も興味を持ってくれたのか視線が集まるのを感じた。

 

 「お前は俺が怖くないのか? 逃げないでいてくれるのか?」

 

 途中、何となく廣井さんの方をチラ見すると、彼女も聴いてくれているようだった。

 お、ちょっと脈ありかな? と嬉しくなる。

 

 『この元気な声が聴こえるか この通り全然平気だぞ 濡れた頬の冷たさなど 生涯お前は知らなくていい』

 

 そして途中から、曲を知っている人も一緒にコーラスの様に歌い始めてくれた。

 いいねいいね! この皆で盛り上がっていく感じ!

 体の奥から熱がグワっと沸き上がり、私は反射的に椅子を階段みたいに駆け上がり机の上に乗ってギターを弾いていた。

 

 『お前の様な姿に なれれば愛して貰えるかなぁ』

 

 教室の壁をぶち抜く勢いで、本番さながらの勢いで私は声を出し続けた。

 それに呼応するように、クラスの皆も一緒に歌ってくれた。

 

 『一面に咲くタンポポの花 ライオンによく似た姿だった』

 

 そして最後に短いストロークを入れて、締める。

 すると教室全体から拍手が送られ、本番にも負けない一体感が得られた事を感じた。

 

 「イェーイ! 皆ありがとー!」

 

 笑顔でVサインを作ると、ふと実行委員の子が何やら慌てているのが見えた。

 

 「あの、藤原さん。机の上に乗ると、その……スカートが」

 「あぁ、ヘーキヘーキ」

 

 なんだそんな事か、と思いながら私はスカートを掴んでたくし上げてみせた。

 

 「スパッツ履いてるからパンツ見えませーん! 残念でしたー!」

 

 ほれほれどうだ男子共―! スーパー美少女アーティストのお色気ショットやぞー! 今夜のオカズにいかがすかー?

 

 ってドヤ顔していたら

 

 

 しーん……。

 

 

 「……あり?」

 

 全員がドン引きしている目で見ていた。

 ……あ、あれぇ? もしかして、スベった?

 嫌な汗が体中から吹き出るのを感じると

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 とチャイムが鳴った。

 それに合わせて、波が引くように静かに皆自分の席に着いていく。

 

 「あ、えっと……。じゃあ藤原さん、リハーサルとかあるからその時はまた声をかけるからよろしくね……」

 「アッハイ」

 

 最後にいたたまれない表情でそそくさと去って行く実行委員の子に私は生返事をするしか出来なかった。

 

 ……なお、後日聞いた話だとクラスを通り越して学年全体で私は『音楽の話題で釣ったらパンツを見せてくれる女』と噂されていたらしい。

 ざっけんじゃねぇぞコラ!! 人をビッ〇扱いしてんじゃねぇよオォン!?

 

 

 

 

 

 

 皆がぞろぞろと席に着く中、私は藤原さんの一連の行動にドキドキしていた。

 藤原さんすごいなぁ。皆の前であんな事しちゃうなんて、あれがロックンローラーってやつなのかな。

 最後の大胆なパフォーマンスもそうだけど、それ以上に音楽の腕前もすごかった。

 上手く言えないけど、私みたいな素人でも……こう体が熱くなって、一緒に歌いたくなる衝動に駆られたもの。

 

 『お前の様な姿に なれれば愛して貰えるかなぁ』、か。

 

 ……私も音楽を始めれば、あんな風になれるのかな。

 

 ふとそんな考えが浮かんだけど、頭を振って打ち消す。

 もしかしたら藤原さんはプロになる事を夢見て頑張っているのかもしれない。

 いくらバンドメンバーを募集しているからって、それなのに私みたいな自分探しが動機の人間に入れてくださいなんて言われたら、絶対怒るに決まっている。

 言ったじゃないか、彼女と私は住む世界が違うんだって。

 そう決めたはずなのに……私の頭の中は、彼女の輝かしい演奏姿が忘れられなかった。




 これ以降美空さんの学校での評判は『美人だけど彼女にはしたくない』という珍獣扱いになります。なお本人は開き直る模様。


 では、年内の更新はこれが最後になります。
 何度でも言いますがここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
 今年一番嬉しかったのはちょっとだけランキングに載った時があった事でした。スクショに保存して見返してモチベーションを上げています。今更ですが本当にありがとうございます。
 来年もどうかよろしくお願い致します、良いお年を。
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