夢への旅路   作:梅のお酒

53 / 53
 過去編は本編から約10年ほど前の時間軸なのですが、今回それに照らし合わせるとまだその年代に生まれていない曲が出てきます。どうしてもこの曲でやりたかったので、演出の一環という事でスルーして頂けると幸いです。
 


#4 お前は走り出す

 「それじゃ、今週末の文化祭は皆で頑張って行きましょう」

 『はーい!』

 「それと、文化祭ライブでは藤原さんが出演するから手が空いている人は応援しに行きましょう」

 『いえーい!』

 「藤原―、勢い余ってスカートおっぴろげんなよー」

 「やらんわ!!」

 

 朝のホームルームで文化祭のアナウンスが行われ、クラスメイトの冗談めかした一言にツッコむと周りからもゲラゲラと笑い声が生まれた。

 うぎぎ……! ちくしょ~、この前の一件以降美少女転校生からすっかり女芸人みたいな扱いが当たり前になってしまった。

 ……いや、ここは冷静になるのよ美空。逆に考えるんだ、いじられちゃってもいいやと考えるんだ。

 幸いな事にナメられてイジメにあってるなんて事は全く無いし、これはまだ愛のあるいじりの範疇だ。将来バラエティ番組とかに出る事も考えると、むしろこういう経験を積む方が美味しいはず。転んでもただでは起きない精神こそ大事なんだ、うん。

 とは言え、いじられっぱなしなのもやっぱり悔しいのでライブでは絶対に度肝を抜いて汚名返上してやる! 未来のスーパーアーティストのステージがタダで観れる事を幸運に思うがいい!

 

 

 

 

 

 

 はい、そしてあっという間にやって来ました文化祭当日。

 この一週間は打ち合わせ、練習、バイトと忙しくてキ○グ・ク○○ゾンでもくらったみたいな時間の流れだった。

 今は自分よりも一個前のバンドが曲を披露していて、舞台袖でスタンバイしているところだ。

 カーテンの隙間から外を見ると、全校集会までとはいかなくとも想像より人が集まっているのが目に入った。

 そしてなにより、ステージ上の演者も、オーディエンスも、皆が一体となって楽しんでいる空気が否応なく私の心を熱くさせてくれた。

 やっぱり音楽は良いものだ。

 国境も、人種も、言語の垣根を越えて人々を一体化させるパワーがある。

 この学校の生徒も明るくてノリが良い人達ばかりで、今日みたいなやりがいのあるステージに推薦してくれたクラスメイトに感謝の気持ちも込めて、絶対にやりきってやる!

 

 「やる気満々だな、藤原さん」

 

 上がり続けるボルテージを抑えようと準備運動をしていたら声を掛けられ顔を向けると、黒髪ショートのイケメーンな雰囲気の女の子が居た。

 

 「まぁね。こんだけの熱気に応えられなきゃメジャーデビューなんか出来やしないのよ、志麻様」

 「志麻様はやめてくれ」

 

 私の言葉に志麻様、もとい岩下さんは苦笑を浮かべた。

 彼女は以前聞いていた隣のクラスの子で、文化祭実行委員の一人でもあった。

 文武両道の才色兼備で、どうやら一年生の実行委員の中ではリーダー的なポジションも務めているらしい。(本人曰くなってしまった、みたいだけど)

 私も打ち合わせとリハーサルを通して話をしたけど、気配りの出来る爽やかな子で『あ~、確かにこれは女の子に囲まれるわ』としみじみ納得してしまった。

 

 「けど、メジャーデビューか……。夢があって羨ましいよ」

 

 と、なにやら急に物憂げな表情でポツリと呟いた志麻様。

 

 「別にいいんじゃない? 夢の有り無しで人の優劣が決まる訳じゃないし」

 

 それに対して私はスパっと返す。

 今夢を持ってなくても後から付いてくるかもしれないし、人間の可能性なんて幾らでも存在する。

 他ならぬ私自身、まさか自分がバンド活動を始めてメジャーデビューが夢になるなんて小学生の頃には微塵も思っていなかったのだから。

 と、そこで私の頭の中でピコンと電球が点いた。

 

 「よかったら志麻様も一緒にバンド活動しない? 今メンバー募集中だから、一緒に良い夢見ようぜー」

 「ははは、嬉しいお誘いだがやめておくよ。経験の無い私が入っても足手まといだからな」

 「そんなの気にしなくていいのに。ちゃんと一から教えるからさー」

 

 そこまで言った所で一つ大きな歓声が上がり、前のバンドの演奏が終わった事に気が付いた。

 

 「あ、すまない。演奏前に邪魔をしてしまった」

 「全然! むしろ良い感じにリラックス出来たよ!」

 

 申し訳なさそうに謝る志麻様に笑顔で答える。

 実際、程よく力が抜けたから無問題。これならバッチリ行けるぜ!

 

 「そんじゃ志麻様、特等席でしっかり観てて頂戴!」

 「あぁ。楽しみにしてるよ」

 

 そう言葉を交わし私が片手を上げてハイタッチを求めると、彼女も片手を上げて答えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 えっと、藤原さんの演奏は次だよね?

 人だかりの隅っこ、かつあまりステージが見えにくすぎない位置で私は藤原さんの登場を待っていた。

 キラキラと輝いてパフォーマンスを繰り広げるバンドマンと盛り上がる生徒たち。陰キャの私には目が潰れて吐きそうな光景だったけど、今日だけはなけなしの勇気を振り絞って会場に足を運んだ。

 そ、そもそも私だって同じ学校の生徒なんだし観に行く権利はあるよね。忍者みたいに気配を消すのは得意で目も良いから周りに迷惑をかけない位置に居られるし。まぁ私の場合は陰キャだから忍者じゃなくて隠者なんですけどね、ぶへへ。……自分で言ってて悲しくなってきた。

 一人でおバカな事を考えていると、ステージの幕が上がり藤原さんが拍手で出迎えられた。

 

 「どうもこんにちはー! 二学期から転入しました一年の藤原美空でーす!」

 

 良く通る声で挨拶するとクラスメイトと、たぶんリハーサルを通じて仲良くなった他のクラスの子たちの声援。それとドヨドヨって感じの何やら畏怖めいた声も聞こえてきた。

 

 『あれが噂のパンツ女……』

 「だまらっしゃい! 人を妖怪みたいに言うな!」

 

 どうやら藤原さんにも聞こえたみたいで額に青筋を浮かべながら注意する。

 そしてゴホンと咳ばらいをした後、気を取り直してライブを進行し始めた。やっぱり人前に出るのが慣れているだけあってメンタル強い……。

 

 「えー、この学校に来て日は浅いですけど、やるからには真面目に、全力全開で演奏させて頂きます。皆一緒に、盛り上がって行こうぜ!!」

 

 その一言を皮切りに、会場から歓声が上がる。

 何でか分からないけど、藤原さんの声には言った事が実現するんじゃないかっていう不思議なパワーとカリスマ性を持っていた。

 教室とは違う、音響も整った体育館で演奏するとどうなるのか。

 その先が早く観たいと、私の心臓は高鳴っていた。

 

 「それじゃあ、まずは一曲目! シュガーソングとビターステップ!」

 

 そう宣言した後、軽快なメロディーと共に藤原さん自身もダンスみたいにステップを踏みながら演奏を始めた。

 軽やかな指捌きから紡がれる流麗なギターの音色と、体の軸がぶれない綺麗なフットワーク。

 明らかに前の組のバンドとは桁が違うパフォーマンスに、すぐさま虜になってしまった。

 

 【超天変地異みたいな狂騒にも慣れて こんな日常を平和と見間違う】

 

 曲の間隔を完全に把握しているから出来るのか演奏の切れ目ピッタリにマイクの前に戻り、次に聴こえて来た歌声はさっきまで踊っていたとは思えないほど息切れ一つも無い綺麗なものだった。

 

 【宵街を行く人だかりは 嬉しそうだったり 寂しそうだったり】

 

 かと思えば、またその場で少しステップを踏みながら、かつマイクから離れすぎない位置をキープしてダンスを始めた。

 私は音楽に詳しくないけど、それでも直感的に山場が来ているんだという事を感じた。

 そして少し、貯めるような余韻を残して歌うと

 

 【ママレード&シュガーソング、ピーナッツ&ビターステップ 甘くて苦くて目が回りそうです!】

 

 会場を余すことなく響かせる歌声と、共に繰り出される豪快なダンス。

 ステップを踏みこんで、マイクにもケーブルにも当たらない絶妙な位置で大きく足を前に蹴り出す。一瞬、まるで藤原さんの他にも横に人が並んでいて、一緒に肩を組んで踊っているのが見えた気がした。

 

 【I feel上々 連鎖になってリフレクト!】

 

 そして、タップダンスみたいな高速のステップワークで締める。

 目も、耳も、いや全ての感覚をも震わせる圧巻のパフォーマンスに会場は大盛り上がりだった。

 中盤に披露されたギターソロでも歌詞が無いのを逆手に取って藤原さんはより派手に、ステージを縦横無尽に駆け巡り、それがまた熱狂を生む。

 周りを見ると、いつの間にか観客の人達も隣同士で肩を組みながら踊っていたりしていて、さながらダンスホールの様相だった。

 

 【I feel上々 連鎖になってリフレクション goes on 一興去って一難去ってまた一興!】

 

 最後もやっぱり高速タップダンスを繰り出して、タンッと足音を響かせて終わりを強調した。

 一瞬の静けさが訪れた後……グワッと今日一番の歓声が会場に響いた。

 

 「Yeah! どうよ皆!!」

 

 片手を突き上げて観客に呼びかけると、声を揃えて皆が

 

 『最高ーー!!!』

 

 と答えた。

 一方私は、目の前で繰り出されたパフォーマンスが圧巻すぎて声を出す事すら出来なかった。

 ただただ、心臓が早鐘の様に脈打ち、もっと観てみたいという願いだけが加速する。

 そんな私の願いが届いたのか、藤原さんは汗を軽く拭い、太陽を思わせる輝かしい笑顔で話し始めた。

 

 「ありがとう! えー、それでですね。嬉しい事にもう一曲やらせてもらう事になっております。あ、疲れたのでもう踊りながらなんて出来ませーん」

 

 えー、と皆が残念がると藤原さんはニヤリと……さっきとは違うまるで獰猛な獣みたいな笑みを浮かべた。

 

 「その代わり、一曲目以上に激しく行くわよ! 最後の曲は……紅だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 藤原さんのシャウトと共に、限界だと思っていた観客のボルテージもまた一段上がった。

 さっきよりも激しいってどんな曲なんだろうと身構えると、聴こえてきたのは予想とは違うしっとりとしたメロディーだった。

 

 【I could not look back,you'd gone away from me】

 

 混乱の中、今度は藤原さんの声が響いた。

 英語が得意な彼女らしい、綺麗な発音で紡がれる歌声。雰囲気作りが上手いのもあってか、優しいその声はすぐに耳に馴染んだ。

 けれど、その甘い歌声は、何か大きな破壊力を秘めたものが来るんじゃないかという、嵐の前の静けさの様にも感じた。

 

 【I started running into the night to find the truth in me】

 

 一瞬静かになる会場。

 まさか、終わりじゃないよね? と思った瞬間。

 

 暴風雨の様に叩きつける音の波が、会場全体を襲った。

 

 【嵐吹くこの街がお前を抱く 吹き抜ける風にさえ目を閉じる】

 

 その音の波に負けないくらい、藤原さんの歌声もまた苛烈だった。

 一曲目とは違って踊りながらじゃないとはいえ、ギアが一段を通り越して三段上がったかのような強さ。

 文字通り、目を閉じてしまいかねない嵐だったけど。

 

 【すれ違う心は溢れる涙に濡れ】

 

 それでも私は、一瞬でも見逃したくなかった。

 

 【紅に染まったこの俺を 慰める奴はもういない】

 

 何をやっているのか想像もつかない指捌きから繰り出されるギターも。

 会場を突き破って世界に轟かせるんじゃないかっていう歌声も。

 輝かしい彼女の姿を、全てを眼に焼き付けたかった。

 

 【Oh, Crying in deep red】

 

 一滴もエネルギーを残さない、正に燃え尽きた炎の様に藤原さんは歌い切った。

 そして、彼女の勇姿を讃えようと、会場の全員が盛大な拍手と声援を送った。

 

 「いいぞ藤原ー!!」

 「将来はメジャーデビューだ!!」

 「パンツ見せてくれー!」

 「あ“ぁ”!? 誰だ今パンツ言った奴! 未来のスーパーアーティストはそんな安売りしねぇんだよ! どうしても欲しけりゃ十万持って来い!」

 

 ……何かどさくさ紛れに変な事が聞こえた瞬間、藤原さんは般若みたいな顔して中指を突き立てた。そしたら今度は一転して、さっきまでの声援がブーイングになっちゃった。

 

 「うっせバーカバーカ! そんな態度取るんだったら将来ビッグになってもチケット売ってやんねーからな!」

 

 なおもマイクを通して吠え続ける藤原さんに業を煮やしたのか、舞台袖から実行委員の子達が出て来てそのまま取り押さえられながら彼女はステージを去って行った。

 

 「……あはは」

 

 それがコントみたいで面白くて、いつぶりか分からない笑い声が出てしまった。

 ダンスも、苛烈な曲も、屈託の無い笑顔も、子供みたいな言動も。

 全てが裏表のないコインみたいで、どこまでも真っすぐな藤原さんを表していると感じた。

 だからこそ観ていた他の皆も引き込まれ、ブーイングはすれどそれは負の感情ではなく、微笑ましい愛情から来るものだと察する事が出来た。

 

 「ふぅ……」

 

 余韻を冷まそうと息を整えてみるけど……一向に収まる気配はなかった。

 それどころか、私の中に芽生えた願いが、体の中で大きく唸り声を上げているのを感じた。

 

 ──もっと傍で、彼女の音楽を感じたい。

 

 言語化されて自覚した瞬間、血液が沸騰したかの様な錯覚に陥る。

 それが意味する事を分かっているのか?

 彼女と自分は住む世界が違うんだ、そう諦めたばかりじゃないか。

 理性が押しとどめようとするけど……私は初めて、自分で自分の鎖を引きちぎる感覚を味わった。

 考えるよりも先に足が動き、体育館を飛び出して藤原さんを探し回る。

 何かに追われるよう、私は駆け出した。

 あっという間に息が切れるけど、そんなのお構いなしに会場の周りを駆け回ると裏口から出てくる藤原さんが見えた。

 

 「藤原さん!」

 

 息も絶え絶えで呼びかけると、心底驚いた表情で彼女はこっちを見た。

 

 「あれ……? えっと、廣井さんだよね。同じクラスの」

 

 話したことも無いのに名前を知っていてくれた事に感動すら覚えるけど、今はそこじゃない。

 言うんだ、きくり。

 ここで本能に、心の底からの願いを選択しないと、絶対後悔する。

 体全部に、呼吸すらも渾身の力を込めて。

 藤原さんから真っすぐ目を逸らさずに、言い放った。

 

 「私を、バンドに入れてください!!」

 




 次回はもう一話この続きを入れて、その次に一度本編を進める予定です。
 亀進行で申し訳ないですが、お付き合い頂けると幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

下北沢の大天使をデロデロに甘やかしてドロドロに依存させたい(作者:百合好きの獣)(原作:ぼっち・ざ・ろっく!)

虹夏ちゃんかわいいよね……好き……▼甘やかしの聖母気質なのに本質は寂しがりやで甘えん坊なのかわいいね……好き……▼いっぱい甘やかしてあげたいね……好き……▼でも虹夏ちゃんメインヒロインの二次創作少ないね……悲しい……▼そんな思いから生まれた怪文書。▼


総合評価:5071/評価:8.6/連載:20話/更新日時:2025年12月30日(火) 12:00 小説情報

TSアルビノ美少女inわたなれ(作者:ガテル)(原作:わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?))

▼前世陰キャで二度目の人生もコミュ力よわよわなTSアルビノ美少女をわたなれにぶち込んだだけのお話。


総合評価:2611/評価:8.47/連載:9話/更新日時:2026年02月09日(月) 20:57 小説情報

オーバーロードにTS転生者を叩き込んでみた(作者:連載として再構築)(原作:オーバーロード)

▼鈴木亜理紗はアーコロジーの下級階層の民として、鈴木悟の妹として生まれた。▼▼人の命が非常に軽いアーコロジーにおいて、必死に生きて、今を、自分の周りを少しでも良くしようと奮闘する亜理紗だったが、その運命は容赦なく彼女を襲う。▼▼アリサは、定められた運命を変えることができるのだろうか。▼▼過去投稿したTS転生者物です。見切り発車だったのでプロットなど組みなおし…


総合評価:3731/評価:8.05/連載:57話/更新日時:2026年02月10日(火) 08:55 小説情報

TSエルフ、赤ん坊を拾う(作者:面相ゆつ)(オリジナルファンタジー/日常)

ちょっとした事情で故郷を離れたTS薬師エルフさんが森で赤ん坊を拾って子育てやら何やらでわちゃわちゃする話。▼


総合評価:4245/評価:8.81/連載:32話/更新日時:2026年05月09日(土) 08:37 小説情報

最強の盾は橘福福しか見えなくなる。〈旧題:最強の盾〉(作者:カブトムシの相棒)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

▼大姉弟子に一目惚れをした男を書いてみたくなったんや。


総合評価:1598/評価:9/連載:15話/更新日時:2026年05月07日(木) 01:52 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>