【カオ転三次】連木で腹を切る 作:苺ベリー
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段々と冷え込みも厳しくなってまいりましたので、皆様もお体にはお気を付けてお過ごしください。
「巫山戯るなっ!」
「自分達が何をしたのか判っているのか!これがどんな事態を呼び込むのか理解しているのか!」
少女の怒声が華美な内装を揺らす。
シックで高級感のある机、それに合わない革地のソファ。少女に向かい合う形でソファに腰掛ける老人が1人と背後に付き従うように立つ青年が1人。
3人、それがこの部屋にいる人数だ。
「あの子達に何の説明もなく!」
「無知を利用して命を奪ったんだ!」
「何故そんな事ができる!」
少女が机に新聞を一部叩きつける。
その新聞の見出しは『連続猟奇殺人事件の犯人逮捕』の文字が大きく書かれている。
「もう、こうする他なかったのです」
酷く窶れた老人が絞り出すように言葉を零す。
「……もう?」
「何でっ!何で!私達より先に諦めてるんだ!」
「お前達は自分の責任から逃げただけだ!」
怒髪天を突くとは、この少女の事を言うのだろうと分かる。
「もう、私達にできることはないのです」
枯れたような声が老人から発せられる。
理智を宿していたはずの瞳は暗く淀み、身に纏うのは朽木のような白白としたものだ。
「【悪魔】による被害は、あまりにも大きい」
「【根願寺】からの支援はなく、【魔女一門】も此方に人手を割ける余裕はない。そして、我ら【大赦】は神樹様の加護にすら応えられないのです」
死人のような顔で重々しく言葉を発する老人は、財政界に大きな影響力を持つ人間だ。老人の一声でどれだけの人員と金が動くのかは、想像することすら難しい。
しかし、そのような立場の人間が一人の少女に対して、下手に出ている。
「もはや、法の力は市民を護るには力不足となってしまっている。今、事が起きてしまえば致命的な被害が出てしまうのです」
「我々には、希望が必要なのだ」
「なら!あの子達の権利は奪って良いのかっ!」
「たとえ、法が機能しなくとも!人には守るべき道理があるだろう!」
この地獄のような現状を打開しようと、声を上げ立ち上がった一人であり。霊能の才に恵まれずとも、政治の世界で名を挙げ、そしてより深い絶望を知っただけの老人が眼の前の人間だ。
「彼女達は、何も知らない一般人です!」
「今回の件で、彼女達は満足に外出も出来なくなるかも知れない、逃げることも難しくなる!」
「御本人からは、了承を得ております」
「それは脅迫だと理解してるのか!孤立させ、皆のためだと唆し!了承させる!それが人道に反していないと言えるのか!」
声を荒げる少女は、神によって選ばれた戦士である。いまだ年若く、男を知らぬ無垢な少女だ。いつか贄とするために、大切に管理された子供だ。
「……では、どうすればよかったのですか」
声を上げたのは、老人の後ろに立つ青年であった。その表情は、罪悪感と後悔を滲ませる。
「今、民衆は脅威に晒されています」
「【悪魔】には、自衛隊の装備ですら効果を発揮しませんでした。小銃も戦車の榴弾砲もです。もはや、国家の脅威は他国などではなく、暗闇から来る怪物なのです」
「不甲斐ないことに、我々は国を護ることすら叶わないのです」
「全て、我々の不徳の致すところでございます」
少女に向けて、腰を深く折る。
「わかっています。判っているのです!我々は、皆様に犠牲になれと強いている!」
「ですが、それは全ては無辜の民を護るためのこと!例え、どれだけ罵られようも、こればかりは……!」
「どうか、どうか……!」
男の顔を伺うことは出来ない。
それでも、酷く歪んでいるのだろうと分かるような、絞り出すような声で懇願する。
「なら、その無辜の民という彼女達を呪った私達は何なんだ。これでは、ただの人殺しでないか……」
その柔らかい椅子へと崩れ落ちるように少女が腰を落とす。目尻には僅かに光るものを抱えて、小さく自嘲の笑みを浮かべた。
「彼女達の尊い犠牲のおかげで、かの御人の気質はある程度は計れました」
1枚の写真を老人がテーブルの上に置く、濡羽色の髪を結った美しい少女の姿を写している。今年の春頃から、香川へと移り住んだ少女だ。その名は、郡千景。
「2001年2月3日、『郡ハルノ』『郡ヒサト』の間に第一子として生まれる。家庭環境は悪く、幼少期から両親の喧嘩は絶えず、家庭内暴力も少なからずあったと見ていいでしょう。
現在は、両親は離婚し親権は母親の『郡ハルノ』の下へ移動しています」
「また、学生生活も良くはなかったようです
学校側としては事実を認めてはいまんせんが、いじめがあったのは確認できています。また、3年前に犯罪被害に遭っていることも確認されました」
「そして、加害者2名と関係者1名は変死しています」
老人は、A4サイズの書類の束とケースに入ったDVDをテーブルへと置く。それを向かい合う少女が受け取り、1枚1枚しっかりと読み込んでいく。
「加えて、この資料を制作するにあたって、巫女3人を動員し、遠隔での霊視を試みました。結果としては、3名とも後遺症の残る形となりました」
「……誰が霊視を?いや、後遺症はどのような?」
「花本、篠原、香西の3名となっております。
花本氏は、両目失明。
篠原氏は、半身麻痺。
香西氏は、意識不明。
3名とも回復の兆しはありません」
少女の顔色は、文字を追うごとに悪くなり、僅かに震える手で書類を一度テーブルへと戻した。
「資料は、決して外部へは持ち出さぬように
全てここで記憶し、破棄してください」
その書類は、一人の少女の人生を公的に記されたものだ。少なくとも、そういった組織内部に協力者が居なければ用意は出来ないだろうというのが分かる。
「今、かの御人の側には【魔女】がおります」
「ただの偶然であれば良いのですが、【魔女一門】の人間が我々よりも先に情報得て、かの御人の取り込みにかかった可能性もありえます」
老人は、顳顬に指を当て頭痛をこらえるように眉間に皺を深く作る。おまけに、重々しく肺腑の全てを絞り出すような溜息を吐き出す。
「もし、かの御人が【魔女一門】へと取り込まれるようなことがあれば、我ら【大赦】とのパワーバランスは容易く崩れるでしょう。そうなれば、待っているのは……」
「わかっている。
それで、私は何をすれば良い」
老人の脅すような口調の語りを遮り、少女は結論を急ぐ。
「かの御人を籠絡していただきたいのです」
「……はぁ?」
少女の喉から思わず漏れ出た困惑の声。
頭の中に渦巻いていた不満や怒りが、ガタリと崩れていった。
「その、私は女ですよ……?」
「かの御人は、調べによると同性愛者の可能性が非常に高いと考えられます。そうでなくとも、過去の経歴を考えるに男性に対しては良い感情を持ち得ぬかもしれません」
少女は、もう一度写真へと手を伸ばした。
写っているのは、美しい少女だ。
美しい濡羽色の髪、象牙のような白く美しい肌。琥珀のような瞳、長い睫毛、形の良い唇。同じ女でも美しいと感じるような容姿をしている。
「乃木若葉様」
「これは、我等【大赦】の命運を握る御役目となります」
「どうか、お願いいたします。
大きな災いを呼ぶ前に手を打たねばなりません」
老人が、深々と頭を垂れる。
それは、正体不明の怪物の下へと差し出す人身御供。
多数を救うために、一人の少女を犠牲にする行いだった。
「……わかりました。
この御役目、必ず全うしてみせます」
だが、少女の顔には迷いはなかった。
たとえ、無残に喰い散らかされる定めだとしても、犠牲になった人々に報いるためなら、その身を捧げる覚悟があった。
旧理科室内は、薄暗く蒸し暑い。
この季節に窓を閉め切った密室は、人の生活出来るような環境ではない。
しかし、その密室内には3人の少女がいた。
フルーティーなコーヒーの香りが立つマグカップを置いている。
「せんぱい……っ」
「ふふ、どしたんですか?」
「そ、そこ……っ、ダメですっ」
2人の少女の影が重なっている。
四角い椅子を並べた硬いベットに千景を組み伏せて、その月光を溶かした銀髪をカーテンのようにかける。
「どうしてですか?
千景さんが、私にした事をそのまましているだけですよ?ふふ、まさか私に酷いことをしていたんですか?」
「ち、ちがっ……」
栞が、組み伏せた千景の首筋に顔を埋める。
猫がするように頬を擦り付けて、普段は髪に隠れた耳を撫でる。耳輪から耳朶へと指を這わせる。キラリと光るピアスを細い指が撫でた。
「ピアスは校則違反ですよ」
「千景さんは、悪い子ですね」
「はぅ……っ!」
その妖精のような端正な顔が、花をほころばせている。そんな顔で「悪い子ですね」は千景には破壊力が高すぎた。
「顔、赤くなってますよ?」
「はわわ……!」
「ふふ、前にオススメしたヘアオイル使ってくれてるんですか?」
濡羽色の髪を指でもて遊び、鼻先に持ってきてスンスンと匂いを嗅いでいる。
「あんたら、よーやるわ……」
そんな二人を横目に、テーブルに突っ伏して暑さに溶けているのが、新たにオカルト研究部に所属した犬吠埼風である。
割れた窓の取り替えが完了し、部室を元の旧理科室へと戻しての活動だが、あいも変わらず窓は閉ざされ、暗幕が降りている。
「犬吠埼先輩もどうです?」
「熱中症になって倒れるわよ……」
千景が、視線と片腕を犬吠埼風へと向けて広げる。真夏の密室で押しくら饅頭をご希望である。
「犬吠埼さんも、その……」
「……熱中症になって倒れるわよ」
僅かに恥じらいながら、栞もまた同じく片腕を広げて見せる。間に挟まれというお誘いである。
「はぁ、あの時の2人何処に行ったのかしら」
【コックリさん】を祓った時の毅然とした姿の栞も、掴めない雰囲気の千景も、どこにもないのだ。朝から、この調子でベタベタとくっついているのだ。
「あと、3分くらいで戻ってきますので」
「1日30分のハグの権利です」
「そ、そうなの」
とはいえ、風を放ったらかしにしているのも申し訳なくなってきたのか、心惜しげにゆっくりと2人の距離は離れた。
「満足できましたか?」
「ふぅ、取り敢えずは1日分の栞先輩成分を補給を出来ました」
2人は軽く制服と髪の乱れを直してから、実験台の上に放置されていたマグカップへと手を伸ばした。この暑い密室で、熱いコーヒーである。
「やーっと、戻ってきたわね」
犬吠埼風が、オカルト研究部に入部して活動に参加してから初めての部活動である。その間に数日何もない日が挟まったが、その間は、特に何事もなく平穏無事に過ぎていた。
「あっ、そうです。
犬吠埼先輩これどうぞ」
何かを思い出したように、千景はスクールバッグからお年玉袋を一つ取り出して、その中身を風へと手渡す。小さなもので、風の手のひらの上にちょこんと乗せられた。
「御守りです。
犬吠埼先輩と妹さん分で2つ」
「効果は、霊的な隠蔽です。
『土星の護符』と呼ばれるものを私が少しだけ、手を加えています」
「土星の護符?」
不思議そうに手のひらの上の御守りを覗きながら、その奇妙な刺繍を撫でる。手作りとは思えない精巧な作りに感心しながら、友人からの贈り物に少しだけ風は頬を緩めた。
「前みたいな【悪魔】に対する魔除けです。
効果は十分に発揮されると思うので、できれば肌身離さずに持ち歩いてくれると嬉しいです」
「そんなすごい物もらって良いの?」
「えっと、本当に御守り程度ですからね。
こう、自分から【悪魔】に近寄っていったり、話しかけたり、召喚したりしたら意味ないですからね?」
「わ、わかったわ」
非常に心配そうに、御守りを持つ手を上から握ってしっかりと持たせる。その様子を微笑ましげに見ている栞へ、千景が向き直り。同じくお年玉袋を手渡した。
「わ、私にもですか……!?
どうしましょう!?
お返しできるものがなくて!
ぁ、すごく嬉しいです!ありがとうございます!
私!お友達からプレゼント貰うの初めてで!」
「はぅ!かわわっ……!」
頬を赤らめて、お年玉袋を宝物のように抱き締めて、栞は満開の笑みを見せていた。千景は、ご満悦である。気軽に上げたプレゼントが、すごい好感触で帰ってきて嬉しくなっちゃったのである。
取り敢えず、あまりの可愛さにノックアウト気味の千景は精神を落ち着けるために栞のつむじを吸っている。ハグを許してから、肉体的接触に遠慮がなくなってきている。
「アンタ達って、何時もそのテンションで生活してるの……?」
「何時もの千景さんは、もう少し落ち着いてますよ?
今日は一段と甘えたさんなだけです」
「そ、そうなのね。
てっきり入部したのは馬に蹴られる案件かと……」
胸を撫で下ろして、ホッと息を吐いてる風を横目に千景が周囲をキョロキョロと見渡す。
「どうかしましたか?」
「……いえ、何か来ましたよ」
そう千景が言うと、示し合わせたかのように扉からノックの甲高い音が響いた。この『オカルト研究部』という、余人が近寄らぬ場所への客人である。
それは、厄介事の音であった。
覚醒者:LV-26
休日にレベリングしてきた。
黒札4人体制(式神無し)のガチパでの荒行だった。
レベルアップに伴いNewSkill【ディア】を習得した!
ちなみに、ピアスは左耳の軟骨に開けられている。
小6頃に悪いお姉さんの手によって、バチっといかれた。
【大赦】
地方霊能組織が、GHQとメシア教によって根切りされた後に、僅かに残った霊能関係の知識がある表の人間が集まって形成された組織。
構成員は、複数の伝統ある家系と覚醒者が中心となって構成されている。非覚醒者の神官は全員が枝を天に伸ばす樹木を描いた仮面で素顔を隠している。
組織規模としては、非常に大きい。
香川県を中心として、四国全域にその勢力を広げている。
しかし、構成する人員の多くが非覚醒者であり、【悪魔】に対抗する術は少ない。
しかし、その一方で表社会への影響力は強く。
財政、警察機関、地方公共団体等々に人員が多く配置されている。個人情報の取り寄せたり、その他にも色々出来る。
また、組織規模に伴い複数の部署を設けているため、完全な一枚岩ではない。千景へ接触を図っているのは『元老院』と呼ばれる財政担当のトップの独断である。
全ては『あれ?香川って良いとこかも?ドキドキ郷土愛作戦♥️』のシナリオ通り───