【カオ転三次】連木で腹を切る 作:苺ベリー
鏡に少女が映る。
その少女は美しかった。
美しい濡羽色の髪を腰の位置で結って、柔らかな白磁器の様な肌を見せる。アーモンド形の瞳は琥珀のように吸い込まれるような魅力を持っている。長い睫毛、形の良い唇。まるで神が手掛けた芸術品のような容貌は、人形の様に美しい。
鏡に映るのは、自分自身だ
可愛らしいワンピースタイプの制服を着て、髪を結い、女学生らしい出立ちの少女。
それが、私だ。
そう、私には前世の記憶がある。
その記憶を辿るなら、私は、どこにでもいるような男だった。特筆すべきものはなく、大学を出て、夢だった仕事に就いて、気付けば転生していたのだ。
転生して初めに感じたのは、母の産道を通った時の激痛だった。次いで、泣き叫ぶ自分の声の煩わしさ。
『転生モノ』なんて、飽きるほど読んでいたが、自分が転生するとはつゆにも思わなかった。ましてや、TS転生モノとは。読み物としては好きだが、自分がその立場にいるのは少々複雑だ。
───ちかげ〜、ご飯冷めちゃうわよ〜!
「……は〜い!」
ぼんやりと鏡を見つめながら、思案に耽っていれば、部屋の外から、母の大きな呼び声が聞こえる。一瞬迷った末に返事を返した。トボトボと自室を後にして、リビングに向かう。
「おはよう、母さん」
「おはよ、今日から夏休みでしょ?だらしなく過ごさないの!」
「はーい」
「まったく気をつけなさいね。
ほら、冷めちゃう前に食べなさい」
母に促されるままに、席につき、準備されていた朝食を見る。一汁三菜の健康的な朝食だ。
「やった、呉汁だ」
「千景、これ好きよね」
「この味噌汁が一番美味しい」
温かい食事を取れば、朝の気怠げな気分も忘れてしまうものだ。
その後は、特に会話も無く黙々と食事をとっていく。黙々と食事をして、ある程度食べ終わり、サラダに手をつけた頃に母が口を開いた。
「ねぇ、学校にはもう慣れた?クラスの子とは仲良くなれたの?」
「ん?またその話?
残念ながら、部活の先輩以外はゼロ」
「はぁ、ごめんなさいね。
お母さんの転勤に付き合わせちゃったから……」
母は、額に手を当ててヤレヤレとオーバーなリアクションをとって見せる。
「別に困ってないし、仲良くなろうとも思わないよ。誰も、挨拶の一つも返さないんだよ」
「……いじめ?」
「あ、そうじゃなくてね」
今度は、心配そうな表情で箸を止めてこちらを見つめる母に、首を横に振り、違うと合図する。
心配をさせたくないという気持ちも勿論あるが、私自身、今の状態を十分に利用しているのだ。それはもう、授業をサボりにサボっている。
「やっぱり、山梨の方のお祖母ちゃんと暮らす?」
「もう、大丈夫だって」
母の仕事の都合で、私は山梨から香川に引っ越してきたのが、3ヶ月前の事だ。春休みに合わせて、香川へと移ったのだ。
転校してからは、あまり言いたくはないのだが、イジメの様な扱いを受けている。誰も挨拶どころか、英語の授業の会話すらも相手をしてくれないのだ。
酷いことに教員すらイジメに加担しているらしく、授業に影響がでるような事態になっても一緒になって、無視するのだから、閉鎖的な田舎とは恐ろしい。
「ごめんね
千景が高校卒業するまで、転勤は無いようにしたかったんだけど」
「大丈夫!
お陰でお給料上がったんでしょ?
それで、私のお小遣いもアップしたんだから文句なんて言わないって!」
「そう、無理してないなら良いけど……」
中学2年の春に引っ越しということで、母としては申し訳ないようで、頻りに戻りたいかと聞いてくるのだ。まぁ、学校とか、進学とは別の理由で不便はあるのだが、仕方のないことだ。
「それと、お母さん。
今日も遅いから夜ご飯は、お金置いていくから好きにしなさい」
「わかった」
パタパタと準備を進める母の横顔を見る。
私が、中学に上がる頃に法的に父と離婚し、実質的に女手一つで私を育ててくれた女性だ。
忙しなく動く母に近寄り、背中に五芒星を指で書く。
「【エストマ】
はい、行ってらっしゃい」
「ふふ、それなんなの?
ありがと、行ってくるわね」
安全のお呪いを一つ。
母はそれを面白がるように笑いながら、娘の悪戯くらいに受け取って玄関に向かった。
「千景も、物騒みたいだから気を付けるのよ」
「はーい、心配性だなぁ」
私は、そんな母にすら前世の記憶のことを隠している。気味悪がられたくなかったから、申し訳なかったから、色々な理由はあるが、どれも自分勝手なものばかりだ。そのくせ、それで罪悪感を感じているのだから、私という人間はどうしようもない。
「あっ!好きにしなさいって言ったけど!カップラーメンとかコンビニ弁当は駄目よ!ちゃんと作って食べなさいね!あと、夜は絶対に出歩いちゃダメだからねっ!」
「はーい!わかってる!遅刻しちゃうよ!」
玄関口から、顔を覗かせてそんな風に言って、母は足早に姿を消してしまった。陰気な自分とは違い、バイタリティに溢れる人間なのだ。
母が会社に向かえば、我が家は静まり返る。その静寂が耳に痛くて、テレビのリモコンに手を伸ばした。番組は何でも良い、静寂が耳に痛いから、少しでも音が欲しいのだ。
『連日、お伝えしている。
連続猟奇殺人の件については、以前進展はなく、調査中とのことです』
『今回の事件は既に被害者が確認されだけでも、10人ですからねぇ。警察には、早く何とかしてもらわないと市民の方々も不安でしょう』
『えぇ、それに被害者の中には幼い子供もいらっしゃるとか、お子さんを持つ親御さんは心配してますよきっと!』
テレビには、仰々しく台本を読むスーツ姿の男性と流行りのタレントが、ニュースの内容に付いて話している。
最近のニュースは、何時もこればかりだ。
数日前にも中学校で、体育の授業で離れたグラウンドに向かっている途中に2人が被害にあっていたらしい。
それによって学校側の責任問題や、当時の担当教師の状態だとか、教師の労働時間についてだとか、断線しながらグダグダと話が続く。
しかし、この事件は決して他人事ではないのだ。
その事件の起きた学校こそが、私の通う讃州中学である。
それによって、学校は一時休校。
我がクラスは学年も違うため無関係の生徒達ばかりだが、突然の休校に皆動揺していた。その動揺も収まらないままに夏休みが始まったのだ。
「野良悪魔でも出たのかな」
ボヤくように独り言をこぼす。
私が転生した世界には、【悪魔】という一般人には見ることのできない猛獣のようなものがいる。
それは、日常に影を落とすように現れ、何も知らない一般人が犠牲になる。
それが、私の転生した世界。
【女神転生】というゲームの世界観を含んだ世界なのだ。
「近くにいるなら、私が狩っても良いのかな」
そして、日に日に世界は終末へ向けて進んでいるらしく、各地でこういった悪魔関連の事件が増えている。
こんな、地獄のような世界だが。少なからず救いはあった。それは【転生者】という存在は、私だけではないということだ。
そして、【転生者】は一人二人などではなく、100を超えるらしい。そして、人が集まればコミュニティが生まれる。
いずれ来る【終末】に備えて、転生者同士で力を合わせようという互助組織である。それこそが【ガイア連合山梨支部】である。
「それにしても、【大赦】だっけ?」
「どのくらいの規模の組織なのかな?」
「ねぇ、どう思う?」
───ガァー!
リビングからガラス戸越しに見える庭に向けて声をかける。すると、一羽のカラスが庭に降りて、大きな声で一鳴きする。
「開けるから待ってて」
ガラス戸を開ければ、ぴょっんと室内に入ってくる。
そして、カラスは僅かに体を震わせるとその身を青白く発光させて、みるみる姿を変える。
一秒も経たないうちに、カラスは美しい女性へと姿を変える。その姿は、濡羽色の美髪を腰まで流した美しい少女だった。まるで、郡千景を鏡写しの如き相貌を持っていた。
「それで、どうだった?
【異界】はあった?」
「周辺地域に異界の存在は確認できません」
「……ないの?」
この世界には【異界】と呼ばれるものがある。
界と名がつくように、異界とは一つの世界のようなもの。現実世界という布地の上に出来たシミのようなものであり、物理法則すら曖昧になる世界のことだ。
「なら、【悪魔】の方はどう?」
「発見できませんでした。
しかし、残留するMAGから痕跡を発見しました」
「そう、【異界】はない。
でも、【悪魔】はいると」
おかしな話だ。
【悪魔】とは、その身をMAGによって構成する存在だ。そんな存在が【異界】の外に出るというのは、魚が陸に上がるようなものだ。仮に、【異界】の外で活動するような【悪魔】がいたとしたら、常に人を喰らいMAGを補給し続けるしかない。
それにしては、被害が少ないのだ。
ろくな霊地も無いの中で、たったの10人で1月も異界の外を彷徨ける【悪魔】なんて、よっぽどの雑魚か超強い【悪魔】しかいない。
そんなのが、討伐もされずに放置など有り得ないだろう。となれば話は、単純なものになる。
「ダークサマナーってことかなぁ?」
ここ最近の事件は、人の行ったことなのだろうか?なら自分が出来る事は少ない、こうなると現地の霊能組織の判断に任せるべきなのだろう。
【魔法】や【異能】で人を殺してはいけない。
そんな法律は日本にはないのだから、通報したところで警察を困らせるだけだ。
そういった、事態の対処は現地の霊的組織が基本的に行うものだ。一部では、【地方名家】などと呼ばれることもある。
「リコは、そこのところどう思う?」
「……手出しは不要かと」
「まぁ、そうだよね。
事件がテレビに取り上げられて、もう一月だからね。現地勢力だって動いてるだろうし、私が手を出したら向こうのメンツに傷付くかな?
うん、忘れよう!
リコも調査ありがとね!」
恭しく一礼をして、自身を模した式神が食器を片付けてくれる。
「あっ、ありがとね」
「水に浸けないと、後で洗う時大変なんですよ?」
食べ終わった朝食の食器を台所へ持っていき、水をかける。転生してから、一番感じたのは親の偉大さである。
朝起きて、お米があるのだ。
しかも、炊きたての温かいご飯だ。一人暮らしをしていた前世では、お米を炊くなんて面倒臭がって、炊飯器なんて埃を被っていたほどだ。
「まったく、ご主人様はいずれ一人暮らしをするんですよね?ちゃんとしないといけませんよ」
「はーい、がんばりまーす。
でも、リコがいるから大丈夫でしょ?」
「もう、調子良いんですから」
自分にそっくりな美少女に叱られるという、とても珍しい経験をしながらも、手早く家事を行う姿を眺める。
「うむ、かわいい」
「自画自賛ですね。
ほら、ご主人様?
部活動に行くんですよね、準備は出来ているんですか?」
「はいはい」
「『はい』は一回ですよ」
「は〜い」
「伸ばさない」
自分の式神に急かされて、仕方なしと立ち上がる。重い足取りで、外出の準備を進める。
とはいえ、準備自体は大した手間もなくハンカチやティッシュ等の物をカバンに詰めて行くだけだ。部活と言っても運動部ではないので、ユニフォームや運動靴もいらないのだ。
「よしっと、おいでリコ」
「はい、忘れ物は無いかの確認をしてから出るんですよ?あと、鍵の閉め忘れはないように」
「ん、ありがとね」
チェーンを通して首から下げたピルケースサイズの封魔管の蓋を開ける。すると、千景に瓜二つの式神は、解けるように形を崩して封魔管に吸い込まれる。
封魔管を指で撫でて、見えないように制服の内側に封魔管をしまい。リコに言われたとおりに忘れ物の確認をして、玄関へと向かう。
真新しいローファーを履き、玄関ドアに手を掛ける。このドアを開ければ、真夏の熱気が襲い来るのだと心の準備をして、ドアを開ける。すると、水を多く含み熱い風が頬を撫でる。
「……よし、行ってきます」
覚醒者:LV-24
成長傾向:バランス
年齢:13歳
出生:2月3日
身長:158cm
耐性:【物理耐性】【破魔無効】【呪殺無効】【
スキル:【ひっかき】【鉄拳パンチ】【ヒートウェイブ】【ファイアブレス】【ダストマ】【マカジャマ】【マリンカリン】【ラクカジャ】【タルンダ】【反撃】【エストマ】【食いしばり】【逃走加速】
濡羽色の髪を腰まで伸ばしている。
端正な顔立ちに柔和な笑顔を見せる少女。
俗に言う【原作のある姿】をしている。
TS転生者ではあるが、
趣味は、コスプレである。
最近は、露出の多い衣装に挑戦し始めた。アカウント名『Shadow』で顔を隠して画像をUPしてる。
最近の悩みは、レベルアップで物理耐性を獲得したのだが、美容室で髪が切れなくなったのである。髪を切りたくなったら、星霊神社に行くしかない。
リコ
専用式神:LV-16
成長傾向:体
耐性:【物理耐性】【火炎耐性】【呪殺耐性】
スキル:【アギ】【ジオ】【ディア】【パトラ】【ランダマイザ】【マリンカリン】【リカームドラ】【精神状態異常無効】
汎用スキル:【念動】【念話】【変身S】【房中術(高級)】【家事】
郡千景の武器型式神である。
形状は、身の丈を超える大鎌である。
刃渡り140cm 柄長170cm
刃を折り畳むことが出来る。
制作時には、千景の肉体を1人分使用した。
一時の気の迷いで依頼してしまったコスプレ用の大鎌である。デザインは『大葉刈』をモデルにしている
【変身S】によって様々な姿に変身することができる。人型に変身する際は、郡千景と瓜二つの姿を取る。
異様にスキル類が揃っているのは、千景のガチャ運によるものである。
ところで、高嶋友奈ちゃんが主人公のカオ転三次はいずこに……?