【カオ転三次】連木で腹を切る   作:苺ベリー

4 / 17





3話

 

 

 

 

 

「「「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください」」」

 

何処かで聞いたことのある言葉を自分の口から発する。薄暗い理科室の中で、3人の少女が声を揃えて、その呪文を唱えている。

 

「「「おいでになられましたら、『はい』へお進みください」」」

 

使い込まれた画用紙に描かれた鳥居の上に置かれた10円玉は、人差し指で押さえられているというのに、ゆっくりとひとりでに動き出し、『はい』へと向かう。

 

「っひ……」

 

「大丈夫です。

 落ち着いて、指を離さないで」

 

「は、はい」

 

コックリさんなんてインチキだと、多くの人は言う。『不覚筋動』だとか、『予期意向』だとか、科学的に解明できているのだと多くの人がそう言う。

 

大人は、病気だと言う。

 

なら、今動いている10円玉は何なのだろうか?

こんなにも力を込めて押さえつけているのに、何も気にせずに画用紙の上を移動する。

 

少し前に友達と『コックリさん』をしてから、おかしなことが続いた。

 

誰もいないのに気配を感じることや、一人で歩いているのに何かの足音が聞こえたり、黒い影が視界の端で揺れることもあった。

 

恋のお呪いだと、【コックリさん】を行った仲の良い友人は、もうすでに亡くなった。まるで枯れ木のように窶れた姿で亡くなっていた。

 

今の自分のような姿で。

 

 

───ガタンっ!

 

 

小さくはない物音が理科室の外から響いた。

まるで、何者かが扉を叩いたような音が部屋中に響いていた。

 

 

───コン、コン、コン

 

 

ここは、2階だというのに窓の隙間から何者かが覗いながら、ノックするように窓を叩いている。まるで入り口を探すかのように、この部屋の周囲を移動している。

 

「っ、そこ、にいるんですか……?」

 

「はい、ですが心配は要りません。

 ここには、結界が張られています。

 礼儀のなってない者は通しはしません」

 

栞は、安心させるように毅然と言い放つ。

吹けば飛ぶような結界だというのに、それでも彼女は微笑んで見せる。

 

「ですが、何時までも籠城とは行きません」

 

「なら、どうしたら……!」

 

10円玉を押さえる腕が怯えで震えている。

この指を離してしまえば、取り返しのつかない何かが起きるのだと理解しているのに、力が入らない。

 

「先ずは、自己紹介をしてもらいましょう?」

 

「自己紹介……?」

 

「こっくりさん、貴方は誰かしら」

 

栞が、そのよく通る声で誰何する。

しかし、それは【コックリさん】におけるタブーの一つだ。コックリさんに名前を聞いてはいけない。

 

「さぁ、名乗りなさい」

 

10円玉は動かない。

 

「目的は何かしら、何故この子を狙うの」

 

栞の言葉に反応するように10円玉は動き出した。

 

『タ』『べ』『ル』

 

隣に立つ窶れた少女の体が粟立つように震えるのを感じる。叫びたいほどの恐怖を抑え込もうと唇を噛み、顔を伏せる。

 

自分自身に得体の知れない何がが取り憑いているという事実が、犬吠埼風の精神を蝕んでいく。

 

「なら、姿を見せなさい」

 

「その扉を開けて入ってみなさい」

 

 

───ドンっ!ドンっ!

 

 

結界を破ろうとしているのか、力任せにドアを叩く音が響く。僅かに空の薬品棚がカタカタと揺れている程だ。

 

 

─── ねちゃん おねえちゃん

 

 

理科室の扉越しに、ぎこちない少女のような声が聞こえる。お姉ちゃんと呼びける声は、誰を指しているのかは考えるまでもなかった。

 

「い、つき……?」

 

「いいえ、違います。

 あれは、妹さんではありません。

 貴方の妹さんの声を真似ているだけです」

 

今にも飛び出しそうになる風の体を制しながら、栞は真っ直ぐにドアへと視線を向けている。瞬きの一つもせずに、呼吸一つの一つにも気を使っている。

 

 

────おえ ちゃ おねえちゃん

 

 

空いている左手は、しきりにスカートの裾を握りしめては離してを繰り返す。

 

「それで栞先輩、どうしますか?

 向こうはお腹ペコペコみたいですよ」

 

「そう、ですね」

 

栞は一度瞼を落として、深く息を吸ってゆっくりと吐いていく。そして、覚悟を決めたのだろう。その紫水晶のような瞳を真っ直ぐにドアへと向けて言う。

 

「ここで、あれを祓います」

 

「っ、祓うって、出来るんですか……?」

 

「最善は、交渉による退散です。

 しかし、鳴き真似が得意なだけの獣のようですから、交渉は難しいでしょう。

 

 大丈夫、貴方は何も心配しないでください」

 

栞は、握り締めていたスカートから手を離して、テーブルの上のレターナイフを手に取る。儀式用に簡単な聖別を施したそれは、人を殺めるには不足だが、【悪魔】に対してならばその力を期待できる。

 

「千景さん、危ない事を頼んでも良いですか?」

 

「ふふ、何でもどうぞ」

 

「今から、悪魔を迎え入れます。

 そのためには、あのドアを開く必要があります。危険な役割ですが、おそらく悪魔は一番に犬吠埼さんを襲いに来ます。千景さんは、ドアを開けたら姿勢を低く隠れてください。

 

 ご褒美は期待していてください」

 

「ふふっふー!ご褒美期待してまーす!」

 

その言葉を聞いて、千景は何の躊躇いもなく10円玉から指を離し、ドアへと向かった。

 

 

───ドンっ!ドンっ!ドンっ!

 

 

「三つ目のタブー。

 もうガマンならないよね?」

 

「千景さん、合図したら勢いよく開けて、ドアの裏に隠れてください」

 

「はい、何時でも良いですよ」

 

ネジの緩んだドアノブに手を掛ける。

後ろを振り返れば、栞も指を離す。犬吠埼風を守るようにして、地面に敷いたダンボールに描かれた魔法陣の前に立つ。

 

「スリーカウントで行きます!」

 

「3」

 

「2」

 

「1」

 

よく通る声で、3つ数えたのを確認してドアノブをひねり、ドアを盾にするように勢いよく開く。

 

悪魔が来る。

ペタリ、ペタリ、と足音を立てて部屋の中に踏み込んでくる。千景からは、その後ろ姿だけが映る。痩せ細り全身の骨を浮き上がらせたヒトガタの何かが現れた。

 

ぁ、あぁ、あァああ゛ぁああああ!!!

 

悪魔が叫ぶ。

ご馳走を隠された怒りか、それとも、新しいご馳走を見つけた歓喜の叫びなのかは分からない。

 

両腕をめちゃくちゃに振り回して、悪魔は栞に向けて駆け出す。

 

古き星よ!我を庇護し救い給え!

 

突撃してくる悪魔に対して、栞は足元の魔法陣を蹴り上げる。すると、魔法陣は宙に浮き栞と悪魔を隔てる一時的な壁となった。

 

「犬吠埼さん!机の下に隠れて!」

 

しかし、所詮はダンボールでしかない。

悪魔の爪の前では、数秒で紙屑へと変わるだろう。

 

故に、次の一手の為にレターナイフを構えた。

 

父よ!母よ!我に力を貸し給え!

 

そして、均衡の象徴たる悪魔よ!

 汝が血脈の末たる我が希う!

 我が言霊に破滅の力を授け給え!

 

栞が、大仰な呪文を唱え終えて、その手のレターナイフを悪魔へと投擲した。それと、同時に魔法陣はバラバラに引き裂かれ、悪魔が一歩踏み出す。

 

その悪魔の頭部へとレターナイフが深々と突き刺さった。

 

がァっ!ぁああっ!

 

しかし、悪魔は構わずに栞の柔肉に喰らいつかんと迫る。それでも、栞は一歩も下がることなく悪魔へと手をかざす。

 

 

「───粉砕せよ!(ザン)

 

 

轟音───理科室を大きく揺らす衝撃波がレターナイフを中心に放たれる。窓ガラスは悉く割れ、重くそう簡単に動かない筈の実験台すら僅かに動いている。

 

パラパラと天井から埃が落ちている。

その埃の堕ちる先には、上半身失い沈黙した悪魔の姿がある。それも次第にMAGの粒子へと崩れていく。

 

「犬吠埼さん、もう大丈夫ですよ」

 

「……お、終わったんですか?」

 

怖ず怖ずと実験台の下から顔を出して、風は周囲を見渡している。崩れ落ちていく悪魔の体を見てピタリと固まる。その数秒の間に【悪魔】は塵も残さずに消え去った。

 

「見ての通り、貴方に取り憑いていた悪魔は祓いました。もう、安心して……」

 

風を安心させようと微笑んで見せていた栞だが、電池が切れたようにふらりと体を傾ける。それを千景が側に駆け寄り支える。

 

「おっと、魔力切れかな?」

 

「……ん、そうみたいです」

 

立っているのも限界なのか、千景に体重を預けるようにして、気怠げに言葉を返した。

 

「だ、大丈夫ですか!」

 

「大丈夫ですよ

 ちょっと、電池切れなだけです」

 

ふにゃふにゃになった栞を抱えて、散乱してしまった四角い椅子を起こして座らせる。背もたれ替わりに千景が肩に手を置いて支えている。

 

「ふぅ、思ったよりも大物が出てきました。

 今回ばかりは、死んだかと思いました……」

 

「そうですね、動物霊とかじゃなさそうでした。

 多分、餓鬼のなりそこないですかね?」

 

「あ、あの、いいですか?」

 

そんなふうに話していると、犬吠埼風が小さく手を上げて質問をしてくる。

 

「ぁ、気が緩んでました。

 ごめんなさい、放ったらかしになってしまって……。あ、お茶をお出ししないと!」

 

「栞先輩、アドレナリン出てますね。

 ちょっと落ち着きましょうね?

 お茶は私が淹れますから

 

 インスタントコーヒーで良いですか?」

 

「は、はい、大丈夫です」

 

ゆっくりと、栞の肩から手を離して倒れないかを確認してから、千景は理科室の隅の棚からアルコールランプと五徳を持ってくる。そのついでに、乱れた実験台を軽く直していく。

 

「それで、何か聞きたいことがあるんですよね?」

 

「あの、私はどうすれば」

 

「ふむ、先ずは……

 

 入院した方が良いかもしれないです」

 

「えっ、入院ですか?」

 

「貴方の生命を喰らっていた【悪魔】は祓いました。しかし、失った体力は戻りません」

 

アルコールランプの芯に向けて、千景は軽く息を吹きかける。すると、ポッと火が点く。五徳をセットし、水を入れたビーカーを置く。

 

「でも、妹が……」

 

「妹さんは、御幾つですか?」

 

「12です。この学校の1年生です」

 

「犬吠埼先輩、妹さんが心配なのは理解できます。ですが、そのまま帰ったところで過労か栄養失調で倒れますよ?妹さんも、その歳なら一人で数日は問題ないでしょう」

 

「それは、はい……」

 

犬吠埼風は、目を伏せて小さく答えた。

よほど心配しているのだろうか、自分の体調だって放って置けるような状態でないのは、本人も理解してるだろうに。

 

そのまま、沈黙が場を支配していく。

そんな時にパンっ!と栞が手を叩く。

 

「私からも一つ、犬吠埼さんに聞きたいことがあります」

 

「は、はい!なんでしょうか?」

 

「コレについてです」

 

栞は、テーブルの上に残っていた【コックリさん】に使用した画用紙を指差した。

 

「これは、貴方の物ではありませんね?」

 

「はい、アユ…、友達が持って来たものです」

 

「ふむ、その子は【コックリさん】を日常的に使用するようなオカルトに傾倒するような子でしたか?」

 

「えっと、多分違います」

 

違う。その言葉を聞いて栞は眉を顰めた。

それはそうだろうと納得する。

 

「この【コックリさん】の画用紙は、随分と使い古されているのが分かりますか?僅かに日焼けて、何度も折り曲げた曲、おそらくコインで削れたインク跡」

 

「何か、ご存知ではございませんか?

 誰から、この画用紙を渡されたとか。そういった事は言っていませんでしたが?」

 

「いいえ、ごめんなさい。

 そう言う話は聞いたことはありません」

 

「……そうですか」

 

また、しばしの沈黙が訪れるが今度は長続きはしない。ビーカーからボコボコと沸き立つ湯の音がなり始めたからだ。

 

「先輩方、お砂糖ミルクは入れますか?」

 

「私は、お砂糖とミルクお願いします」

 

「千景さん、お砂糖を3つとミルク多めで」

 

気分は喫茶店のマスターだが、淹れているものはインスタントコーヒーである。人数分のカップに目分量で粉を入れて、沸騰したお湯の入ったビーカーを千景は、素手でつかみお湯を注ぎ入れ始めた。

 

「ぁ、えっ?や、火傷するからやめなさい!」

 

「い、犬吠埼先輩!大丈夫だから!こら!火傷するからビーカーに触らないの!」

 

そんな千景の奇行に思わず、ビーカーを取り上げようと手を伸ばす風と、その手を押さえる千景という謎の構図を横目に、ちゃっかりと自分の分のコーヒーを確保し、お砂糖とミルクをドバドバと入れてる栞。

 

ここに平和が戻った証拠だった。

 

「千景さん、火元でそんなふうに巫山戯てはダメですよ。犬吠埼さんも一緒になって遊ばないの」

 

「は、はい」

 

「わたし、わるくない」

 

 

 

 

 

 




(こおり) 千景(ちかげ)
覚醒者:LV-24

ドアを開けただけ。
栞のカッコイイ勇姿を見てキュンキュンしてた。しゅき……!ちゅーしたい!って見てただけ。


御園(みその)(しおり)
覚醒者:LV-1

大事に育ててた【聖別されたレターナイフ】が壊れた。毎日手入れを欠かさずに、少しづつMAGを込めていた大切なレターナイフ……

大切に育てていた【五芒星の魔法陣】が壊れた。何ヶ月も掛けて、重ね塗りして作った血の魔法陣だったのに……


皆、麻痺してるけどレベル1は、自衛隊きっての精強部隊『第1空挺団』の中でも特に才能がある人が稀に【覚醒】するくらいである。

レベル1でも、これくらいはできるのだ!


犬吠埼(いぬぼうざき)(ふう)
覚醒者:LV-0.5→1
成長傾向:力・体
年齢:15歳
出生:5月1日 
身長:163cm 
耐性:━
スキル:━

実は、今回の件で【覚醒】をしていた。
『【悪魔】を召喚し討伐する』という行為は覚醒するにたる経験でした。

ただ、俗に言う【Dレベル】の【覚醒】なので、本覚醒はまだしてない。四捨五入してレベル1みたいな感じ。

このあと、入院した。


【コックリさん】として姿を現した悪魔
外道:Lv-1
ステータスタイプ:バランス
耐性:【破魔弱点】
スキル:【ひっかき】【かみつき】

連続猟奇殺人事件の犯人。
超小規模な【異界】とも呼べない吹き溜まりから、迷いでた【弱い悪魔】である。そのため、月10人程度の被害しか出さなかった。

その後、MAG不足で餓死する寸前に『犬吠埼風』含めて3人と【コックリさん】による契約をして生きながらえていた。

雑魚過ぎて【アナライズ】をしても名前が出て来ない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。