【カオ転三次】連木で腹を切る 作:苺ベリー
感想、評価、ここすき、ありがとうございます。
R18も書いてみたので良ければ……
【コックリさん】の件から、3日が過ぎた昼下がりである。謎のガス爆発で、旧理科室の窓ガラスが全て割れるという事態が起きたため、部室を理科準備室へと移しての活動である。
まだ疲れの抜け切らなそうな栞と、発情期の猫が我が物顔で、理科準備室を占領していた。
「栞先輩、いい匂いしますね」
「最近コーヒーを人に振る舞う機会が増えたので、コーヒーサイフォンを買ってみました」
赤い火が揺れている。
揺れ動く橙色の炎を見ていると、何故か心が澄んでいくような気がする。
揺れるアルコールランプの火が、コーヒーサイフォンの底を熱していく。周囲にはフルーティーなコーヒーの香りが立ち始める。
「キリマンジャロは、さわやかでフルーティーな香りが特徴で……」
「はい、ミルクみたいに甘くていい匂いします」
2人の少女が、真夏の暑さの中で薄暗い密室に寄り添って座っている。いや、寄り添うという距離ではなく、抱き合うようにして座っているのだ。銀の髪を揺らす少女の首筋に顔を埋めて、千景は僅かに頬を染めている。
「……あの、『ご褒美』とはいえ、そんなに嗅がれると恥ずかしいのですが」
「私、危険を顧みずにドアを開ける大役を果たしました。その正当な報酬ですから、諦めてください」
「うっ、そうですね。
私も魔女の一門の端くれ口約束とはいえ……」
銀の少女にしなだれかかるようにして、濡羽色の少女は、その銀の髪を一房つまみ上げて指でもて遊ぶ。艷やかで潤いのある銀の髪は、細い指の隙間をハラリハラリと流れていく。
「栞先輩の髪は、月光で染め上げたみたいで綺麗ですね。あぁ、本当に綺麗です」
「貴女の髪も綺麗ですよ」
妖精じみた美貌は、中学生という肩書きからは外れた美しさを持っていた。スラリと長い手足と出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる肢体は、多くの男性の視線を誘うものだ。
煌めく銀糸に隠された素肌は、透き通るように白く、覗く瞳はまるで宝石のようだ。
えっ?何この美少女……!?
「はぁ、しゅき……」
「あの、コーヒー出来ますし、クッキーも焼いてきたので、一緒に食べましょう?」
そんな、千景のじゃれつきを制しながら、栞はアルコールランプをコーヒーサイフォンの下から取り出し、蓋をして火を消した。
フラスコに黒黒とした液体が、ゆっくりと落ちて溜まっていく。
「ほら、犬吠埼さんの件の話をするので」
「すぅ……はぁ……。
ふぅ、その件ですか?」
首筋に顔を埋めて、深く呼吸をしていた千景が、ゆっくりと顔を離す。先日の件と聞いて、蕩けていた理性を立て直す。
「ぁ、もとに戻った……
こほん、先日の【コックリさん】の件ですが、あの【悪魔】はしっかりと祓えました。あのあと再び現れる事はなかったそうです」
「わぁ!よかったですね!」
栞によって【悪魔】が祓われ、その後犬吠埼風の身の回りで異常な何かは起きていないという。それを聞いて、千景もわっと喜んでみせる。
「そして、犬吠埼さんの容態の方も順調に過ぎるくらいに回復しているようです。ただ……」
「ただ?」
「その、魔力に目覚めているかもしれません……」
「おぉー!すごいですね!」
「……そう、でしょうか」
やけに暗い顔で、視線を僅かに彷徨わせる。
何か不都合でもあったかのような様子に千景は思わず小首をかしげる。
「その、少々生活に支障が出ているようでした」
「魔力に目覚めたなら、病院という施設は居心地の良い場所ではないですから」
「あー、気持ちは分かります」
「それで、犬吠埼さん。
とても怖がりみたいなんです……!」
「それは、大変ですね」
そういえば、犬吠埼風は【悪魔】を見ていた。
栞の魔法によって上半身吹き飛ばされた【悪魔】を見て、自分の身に降り掛かった凶事の終わりを理解していた。
それは、犬吠埼風の【覚醒】を意味していた。
「それでですね、犬吠埼さんの件で、千景さんに御相談があるんです」
「この【オカルト研究部】に犬吠埼さんを誘っても構いませんか!」
栞が、千景の両手を包むように握り、上目遣いで見つめてくる。その紫水晶の瞳は、僅かな興奮と歓喜を映していた。その仕草に思わず胸をときめかせながら、その手の温かさを味わっていると、答えを催促する様子に慌てて口を開く。
「は、はい。
部長は、栞先輩ですから判断はお任せします。
だだ、その誘っても大丈夫なんですか?」
「大丈夫というと?」
「失礼な話ですが、この部活は評判はあまりよろしくはないですから。その、扱いが悪くなったりとか……」
「いえ、大丈夫です。
遅かれ早かれ、そうなると思いますから」
遅かれ早かれ。
もしかして、犬吠埼風はクラスではイジメられてる……?な、なんてことだ!あんなにも優しい子なのに!
「誘いましょう!コミュニティというのは、とても大切なものです。人には、憩いの場が必要ですから」
「はい、そうですね
なら、後でお電話をしなくては」
「……お、お電話?」
「ふふ、連絡先交換したんですよ……!」
「れ、連絡先の交換……!?」
千景は、慄くようにして椅子からか立ち上がった。
両手を口元に寄せて、わざとらしく「はわわ」と声に出している。
それも当然である。
千景の私用の携帯電話には、母と祖母の2人と御園栞の3人しか登録されていないのだ。
「今度会う時に、千景さんも交換してもらうと良いかと。口添えはいたしますから」
「うぅ、勝者の余裕を……」
「ふふん♪」
哀れ、ここにボッチ同盟は破却された。
打ちひしがれる千景を横目に、栞はすっかり落ちきったコーヒー入りのフラスコから、マグカップへと黒い液体を注いだ。白い湯気を立ち上らせて、芳ばしい香りが室内に広がった。
マグカップの数は3つ。
「クッキーもありますからね」
「わ、美味しそう!」
可愛いパッケージされた手作りクッキーをお皿に取り分ける。無地のお皿は3枚。
「それで、何方かいらっしゃるんですか?」
「はい、これから御一人」
───コン、コン、コン。
栞が、そう言った瞬間にノックの音が響いた。
見計らったように、鳴ったノックに栞は得意げに微笑んでいた。
「どうぞ」
「失礼します」
理科準備室のドアはギシリと軋みながら開き、ドアの向こうの人物を招き入れた。
ドアから入ってきたのは、一人の少女だった。
腰まで伸びる茶髪を二つ結にして、オリーブ色の瞳が特徴的な少女だ。その手には、近くのシュークリームが有名なお店の紙袋がぶら下がってる。
「はい、先ずはお座りください
コーヒーを淹れたところですから、一緒に飲みましょう?」
見慣れた讃州中学のワンピースタイプの制服を着ている。内履きの色からして、栞と同学年だろうと分かる。
「えっ、ぁ、はい!」
オリーブの少女が、緊張しながら四角い椅子に腰掛けた。そこに千景が、すかさずマグカップとクッキーを置いた。
「えっと、ご依頼ですか?」
「……えっ?」
小首をかしげて、オリーブの瞳が困惑げに揺れている。ふむ、依頼ではないのだろうか?と千景も困ったように固まった。
「ふふ、千景さん?
彼女、犬吠埼さんですよ」
「犬吠埼……、犬吠埼イツキさん?」
「い、いえ、犬吠埼風です
あの、姉の方です……」
「ふう、風?姉の方……?」
もう一度、少女を足元から舐めるように見てみる。
細くはあるが程よく肉付きの良い太もも、安産型の魅力的なヒップライン。腰はくびれているのが分かる程で、バストは制服を押し上げる程度にはある。
つい先日までは、枯木のように窶れて老婆のような姿だったというのに、健康的な美少女がそこにいた。
「……すごいね人体」
「ふふ、驚きました?」
栞は、むふっとニマニマしている。
そう、彼女は知っていたのだろう。
「快復、おめでとうございます」
「あ、ありがとう」
座った状態で、軽くお辞儀をする。
少し驚いたように犬吠埼風は、嬉しそうに微笑んだ。そして、手元にあった紙袋をテーブルの上に置いて、袋から紙箱を取り出す。
「これ、お礼になるかは分からないのですが……」
「わっ!栞先輩!柞田の喫茶店のやつですよコレ!」
「シュークリームですか……!」
喜色満面で、箱の中身を2人で覗く。
中には、少し大きめのシュークリームが6個入っている。1人2つも食べれる。
「取り敢えず、取り分けましょう!」
食欲に突き動かされて、千景は若干残像すら残す勢いで、全員分のお皿にシュークリームを取り分けた。
「喜んでいただけてよかったです。
それで、【コックリさん】の件なのですが、依頼の謝礼はどれ程になるのでしょうか……」
犬吠埼風が、背筋を伸ばして栞に向けて口を開いた。依頼という形で【コックリさん】を解決したのだから、報酬を払うのは道理だと、そのオリーブの瞳が語っていた。
「……なるほど」
「こういったオカルトの関わる事件の依頼の相場は、貴方が想像する以上に高額なものになります」
「今回の件であれば、相場は100万円といったところでしょう。道具の消耗も含んでの値段ですが、大凡この値段になるでしょう」
まるで、脅すような声音で栞は話す。
あくまで、事実だけを事務的に話していく。
「……100万円ですか」
「巻き込まれただけの貴方に、この額を請求するのは酷だと思います。ですが、この業界では金銭のやり取りは【無用な悪縁】を生まない手切れ金という意味もあります」
金の切れ目が縁の切れ目。
この言葉は、オカルト的な事象に関わっている人間なら、決して悪い言葉ではないと分かるだろう。
「わかりました。
時間がかかるかもしれませんが、必ずお支払いします」
「ぁ、えっ!」
事務的な様子が僅かに乱れた。
おそらく、「払う」と返って来るとは思っていなかったのだろう。
「あっと、ひゃくまんえんだよ……?」
「大丈夫です。
私に出来る事をして、必ずお金を用意してみせます。」
「御園さん、郡さん!
ありがとうございました!
御二人がいなかったら、私は妹を残して死んでいました。本当に、本当にありがとうございました」
犬吠埼風は、椅子から立ち上がって深々と頭を下げる。栞が命を懸けて自分を助けたのだと、風は理解しているのだろう。
犬吠埼風は、恩を仇で返すような真似をするような人間ではない。そう確信を持って、思わせてくれる姿がそこあった。
「栞先輩、そういう取引は必要ないと思いますよ?」
「で、でも、私は【魔女】ですから、しないわけには行かないというか……」
「えっと、どうしたんですか?」
「犬吠埼先輩『金の切れ目は縁の切れ目』ですよ?栞先輩は、犬吠埼先輩と仲良くなりたくてこんな回りくどいことをしてるんですよ」
金の切れ目が縁の切れ目。
逆を言えば、お金があれば縁は切れないのだ。
実に【魔女】的というか、不器用な方法で人との縁を結ぼうとしている。
「あの、どういうことですか?」
「犬吠埼先輩、オカルト研究部に入りませんか?」
「私が、オカルト研究部にですか……?」
不思議そうにしている風に向けて、手を差し出す。それを拒まずに握り返してくれる。
「こんな風に握り返してくれる方は少ないんです」
「な、何故ですか?」
「……私も栞先輩も、友達がいないんです」
「えっ?」
キョトンとした顔で、風は固まった。
固まった風に着席を促して、ついでに手をニギニギしてから離す。
「新しくお友達になれそうな犬吠埼先輩と仲良くなりたくて、ちょっとインパクトのある事をしちゃっただけなんです」
「栞先輩は『100万円をチャラにしてあげるから、オカルト研究部に入れ、お友達になれ』ってするつもりだったみたいですよ」
「えっ、えっーと?」
困惑に困惑を重ねている風は、ちらりと栞を見る。すると、栞の頬が赤く染まった。その白い肌は、羞恥に染まるとよく映える。
「ぷっ、あははっ!そんなことしなくたって友達になれるわよ!」
栞の手を握り、真っ直ぐに見つめる。
犬吠埼風は、今まで見てきた中で一番の笑顔で笑っている。
「決めたわ!私、オカルト研究部に入部するわ!」
「もともと、私もね。
中途半端な時期に転校した来たから、部活には入ってなかったのよ。渡りに船ってやつね」
「にゅ、入部してくれるんですか!」
「えぇ、それとお友達の件もね!」
栞は喜びのあまりに、目尻を僅かに光らせるほどだ。しかし、彼女の孤独を思えばそれは共感も出来るといえものだ。年頃の少女が学校ぐるみでイジメをしてくるなど、年相応な少女には、辛いなどと言い表せるものではないだろう。
「ところで、栞先輩?」
「何ですか?」
「犬吠埼先輩が今日ここに来るなら。
さっきの連絡先の下りは何だったんです?」
「自慢したかっただけです……」
覚醒者:LV-24
ドアを開ける大役のご褒美は【毎日30分のハグ】である。多少のお触りも許してくれるらしい。
高位の覚醒者特有の環境耐性によって、真夏の密室でも抱きついてくる。しかも、首筋でハァハァしてる。
覚醒者:LV-1
友達は近所の猫とカラス。そして、千景が1人だけだった。万年ボッチの子。
人との関わり方が分からず、【魔女】の教えをもとに『等価交換』と『契約』を持って友達作りに挑んだ。
100万円払うとお友達が出来る算段だった。
ちなみに、千景が自分に対して好意的な感情を持っているのを理解しているし、素直に容姿を褒められる経験が少ないので、内心喜んでる。
覚醒者:LV-1
やさしい人。
でも、これからクラスの皆から無視される。
身に纏う雰囲気で、覚醒者かは何となく分かるため、クラス仲の良かった友達が、揃って無視しだす。
ちなみに、転校生属性が千景と被ってる。
両親が事故で亡くなり、管理費の嵩む大きな実家を売り、両親の遺産の一つであるマンションの一室に姉妹で住んでいる。その際に丸亀市から、観音寺市へ引っ越して来た。
そのため、大赦による【覚醒者】と話すと悪魔に狙われやすくなるというネガティブキャンペーンを知らないため、栞や千景と普通に話してくれた。
遺産の管理やらは、親戚の叔父がしてくれているらしい。ただ、出張が多いらしく会ったのは数回だけ。