ラスボスにはラスボスをぶつけんだよォ 作:ヒャッハァー!
ガゼフ・ストロノーフは、貴族たちと王へのアインズ・ウール・ゴウンの報告を終えて、王城の廊下を歩いていた。
貴族たちの反応はやはり、あまり芳しくなかった。王国の貴族たちのおおくは、以前の「大粛清」により亡くなっていた。そのうち最も傷が深かったのは貴族派閥だった。しかし旧派閥の影は依然として濃く、不安定な内政において、強大な力を持つ魔法使いを取り入れることを恐れていたのだ。
貴族たちは、自身の利権と権力を守るために、アインズという存在を過小評価し、ガゼフの言葉に耳を貸そうとはしなかった。
「今、この国が不安定だと思うなら、なおさら力あるものを取り入れていくべきではないのか…。」
心の中でガゼフはため息をつく。彼は常に国家のために戦い、命を懸けて王国を守ってきた。そして平民が戦士として得られる最大の地位を得たという自負はある。しかし、そこで見えたのは、腐敗にまみれ、平民を搾取の対象としか考えない貴族たちだった。
それが、少しずつ変わりつつある。そう思った矢先にこれだ。国王派は貴族派の土地や旧利権を取り込み力を得たが、逆にそれらを得たことで改革に臆病になってしまった。このままでは力あるものは帝国のような実力主義の国に流れていき、国は衰退していくだろう。
確かに今、土台を固めるべきだというのはわかる。しかし、臆病になっていては、多くのものを取りこぼすのではないのか。
ガゼフは深い焦燥感に囚われつつも、忠義を尽くすために頭を上げ、歩を進める。そんなとき、背後から聞き慣れた声が彼を呼び止めた。
「お~っとォ?そこにいるのはビーフ・ストロガノフ君じゃないかなァ?おっひさしぶりだね~ん!たっこにんげんだよ~ん!」
突然、響いたふざけた声にガゼフは眉をひそめ、振り返る。そこに立っていたのは、緑の道化のような格好に、黒い長髪の男だった。しかし、その服装に意識が向くことはない。なぜなら、男は舌を出し、顔を人間ではありえないほどに伸ばしていたからだ。
「…何の用だ、ナイアー。あと、私はビーフ・ストロガノフではない、ガゼフ・ストロノーフだ。」
ナイアー・ルラトホテップ。宮廷道化にして、「無貌」の二つ名を持つ変装の達人。その変装の手腕ゆえに、誰も本当は彼が誰なのかを知らず…、そして彼自身名すら適当に着けたと公言している男。
ガゼフはこの男が苦手だった。そのふざけた態度が気に食わないわけではない。この男は、かつての「大粛清」を起こした元凶であり…そして「ラナー第三王女の誘拐の実行犯」にして、「八本指」あらため現「
無論、このことは公然の秘密である。公には、かつての「八本指」は「大粛清」の際に完全に解体されたとされている。しかし、事実としては「八本指」は犯罪者ギルドとしての側面は薄くなっているものの存続していた。王国の影として。
かつての「大粛清」は、一歩間違えば国が崩壊していた。しかし、あのレベルの改革をしなければ腐敗のままいつかこの国が衰退していき帝国に合併されていたであろうことは事実であった。そして、ガゼフはおそらくこの男がそのことを理解したうえで行動していたことわかっていた。それゆえ、男のことを完全に嫌うことはできなかった。
血でえらばれず、実力で選ばれたものとして親近感を覚える部分はあれど、一時は王国に弓引いたもの。正直戦士長として彼に対してどのような感情を向ければいいのか…。はかりかねていた。
「おっとっと、いやぁ、すまないね。ちょっと最近昔食べた料理が恋しくなってサ。ついまちがえてしまったよ。ま、正直恋しさでいえばもっとほかにも恋しいものが山ほどあるんだけどネ。いやぁ、ストロノーフ、ストロガノフ、まったく紛らわしいったらありゃしない!」
ばちん、という音とともに顔の皮を離すと、その皮が瞬時に収縮し、元の形へと戻る。丸いがどこか切れ長の目に、凛々しげな顔。目は輝いており、口角は上がっている。しかし、その笑顔にどこかまがまがしさを感じさせる男。
げらげらげら、と一笑いして落ち着いた男は、その笑顔のまま、ガゼフを向いた。
ガゼフは、その言動に少し奇妙な警戒心を覚えつつも、彼を無視することはできなかった。
「…それで?私に何の用だ?何か伝えたいことがあるから話しかけたんじゃないのか?」
その瞬間、ぎゅるり、とナイアーの目がこちらを向いた。
「あぁ、そうそう。君が話していた『アインズ』についてのことだよ。」
ガゼフは、思わず唾をのんだ。これが本題───。いや、わかり切っていたことだ。この男はこれでも、国の暗部のトップなのだ。ならば、内憂について対処するのは当たり前。所属不明の強大な魔法詠唱者など、まさしく危険そのもの。ならば─────。
「アインズ殿を、どうするつもりだ」
「いんやァ?僕はどうもしないよ。ただ、この喜劇に参加するキャストくらいは、事前に把握しときたいもんでね。歯車一つ狂うだけで、機械は全部ぶっ壊れるもんだからサ。必要なら、手を加えないといけないってわけだよ。」
「アインズ殿は…、お優しい御仁だ。少なくとも、助けても何の得にもならない村人を、わざわざ助けに来るほどには。少なくとも…私は彼が王国に害為すものでないと…信じている。」
「だからといったって、そいつが必ずしも常に味方でいてくれるとも限らないってことは、分かってんだろ?ま、そう悪いようにはしないさ。懐柔して味方にできるんなら、そのほうがいい。それに───興味もある。」
ガゼフは彼の言葉を聞きながら、その真意を探ろうとする。
「興味?」
「ああ、そうだね。ま、おそらくそろそろ揺り戻しだからネ。」
「……?」
言っていることの意味は分からなかったが…。だが、少なくともすぐにアインズと敵対する意思はない―――、そのことだけは事実のように感じられた。
「とりあえず、ちょっとそのカルネ村ってトコに行ってみることにするよーん。」
にやり、と口元をゆがめてナイアーは言った。
「な…!正気か!?私が貴族たちに言ったことを忘れたのか!?確かに温厚で理知的な方だったが、一度敵とみなせば容赦はしない!下手に刺激すれば大惨事になりかねんぞ!?」
「だからこそ僕が行くのサ。何よりも信頼できるのは自分自身だからね。良くも悪くも。まぁ、一つしかない命だ、少なくともなるべく死なないように、敵対は避けるさ。」
「そ、そうか。だが…。いいのか?一応、ラナー第三王女の道化として常にそばにいるよう、雇われているのではなかったか?」
その瞬間、この男にの先ほどからの演技をしているような雰囲気ではなく、本当に非常に嫌そうな顔を浮かべた。
「あの女のことはいいよ。ま、これでも僕がいろいろ功績はあげていたしね。あぁ…。ただ、一人…。見込みがあるヤツがいるんだ。ちょっと僕が留守にしてる間、見てやってくれないか?」
あの女、とは仮にも王女殿下に対してずいぶんな口の利き方だ。だが、道化としての特権で、王族に対する不敬は限定的に許されている。気分はよくなかったが、放置せざるを得ない。
「…わかった。一度見て、見込みがあれば鍛えることも考えよう。お前に頼まれたとは言えど、そのものも王国の一部。強くなる意思があるなら、それに越したことはない。それでは、カルネ村のことは…くれぐれも慎重に行動しろ。」
「ハハハ、もちろんさ。ゆっくり急いで行ってくるとするよ。僕はじっくりやっていくのは得意な方なのサ。」
くるり、と背をむけて、軽やかなステップで踊るようにその場を離れ、ナイアーはガゼフの前から消えていった。
「…どうすることもできない、か。」
ガゼフは、その背中を見送りながら、深い溜息をついた。自分の警告が彼に届くことを期待するしかない。ただ…。ガゼフはどこかで感じ取っていた。世界のいびつな歯車が、ゆっくりと音を立てて回りだしたことを───────。
ナイアルラトホテップ(無貌の神)なんて名前を付けてるのは、主にフェイスレス(かおなし)と、元副官のナイア、あとは単純にいろいろ心理的に思うところあってのことです。
あとメタ的に某ギャップ萌え触手さんの影響もあったりなかったりします。
フェイスレスっぽい口調とは何だ…?