ラスボスにはラスボスをぶつけんだよォ 作:ヒャッハァー!
彼がこの世界に生まれ落ちて、最初に聞いたのは誰かのすすり泣く声だった。
そして、最初に見えたのは自分のものにしては細ばった手、そして自分を囲む古ぼけた鉄の檻。
彼は、しばし時間を置き、そして「理解」をした。自分が何者かの手によって、再び人生という舞台に上がらされたということを。人生3度目の…「転生」を果たしたということを。
しかし、それは彼にとっては望んでいたことではなかった。
彼は、なんだかんだあの終わり方に満足していた。罪をすべて償ったとは言えないし、間違いだらけの人生だったことは否定するべくもない。しかし、それでも最後に全てにケリをつけることができた。
1度目や2度目と違い、自分は自分の人生を生ききった。自分のサーカスをやりきったのだ。夥しいほどの反省はあれど、後悔はない。
ではなぜ自分はここに生きているのか?彼には理解できなかった。そして、その思いはこの世界を知るほど顕著になった。
知らない国。知らない種族。知らない技術。知らない常識。
同じ檻の中の人間たちから、聞けば聞くほどこの場所は自分がかつて生きていた世界ではない。時代や技術レベルこそかつて自分が生きた中世にこそ近いが、その中身は別物だ。
当然ながらというべきか、自身が愛した女性も兄も、影も形も存在しないだろう。自分の犯した罪をせめて謝る機会すら、彼には与えられていなかった。
そもそもなぜ自分なのだろうか?なぜあれほど多くのわがままを通し、人を傷つけた自分が蘇えらされたのか?はたまたこここそ地獄とでも言うつもりなのだろうか?
彼は、何をする気もわかなかった。ただ、いまいち生きる気のわかない、虚脱感のみがあった。
やろうと思えばすぐにこんな檻は「分解」できる。しかし、そんなことをするやる気すら彼にはわかなかった。
そして、流されるままに、彼は奴隷として売られることを待った。
そんな彼に転機が訪れたのは、彼がしばらく誰も食事を持ってこず、夜露を飲んで飢えをしのいでいる時だった。
「ほんとにいいのかよ?いくら上の指示とは言えどよ、ほんとに潰しちゃっていいのか?」
「ったく、分かってねぇな。奴隷ってのはただでさえ維持するのにも運搬するのにも金がかかんだよ。ま、前回戦争で内側の警戒が甘くなってたからって狩りすぎだったんだよ。ま、しゃーねーよ。無駄飯食いは消しとくに限る。死体も死体で使い道があるしな。」
「ま、そうか。じゃ、仕事するとすっかぁ。ま、いくら俺でも、こんな無抵抗な奴らを殺すなんて、良心が痛むねぇ。」
「ハハハ、冗談よせよ。そもそもそんな良心があったら、こんな仕事してねぇだろ」
「ハハ、違ぇねぇや」
そんな事を言いながら、大きな斧と大槌を持った、筋肉質な男たちが扉をくぐって現れる。
そして、檻の鍵を開けると、そこらにうずくまっていた片足片腕の少女を強引に掴んで外に出すと、そこらに放り投げた。
少女の目は、生きながらにして、何の感情も映していなかった。死んでいる、ただすべてに絶望している、そんな顔をしていた。
「あらよっと」
そして、その頭に大槌が振り下ろされた。
そして、血の花が咲いた。
「お?お、お、おぉ?」
ごきり、と大槌を持ったその腕はありえないほどに伸びて、そして体を一周して後ろの男まで届いていた。大槌は斧を持った男の腹に激突していた。
理屈は簡単。少女の頭に大槌が振り下ろされるその瞬間に、男の腕の骨を全て外して、軌道を逸らした。ただそれだけ。
そして当然、斧を持った男の体は折れ曲がり、壁まで吹き飛ばされていた。
「な、なん…」
「分解」
瞬間、大槌を持った男の体がぐにゃり、と沈む。
脚。腕。腰。その他あらゆる箇所の骨が、瞬間的に外されたのだ。
男は地面に頭を打ち付ける。瞬間的に骨がいくつも外された痛みで、涙を流し、地に伏せている。
「…気に食わないな」
そして、地に静かに伏せる少女の傍らに、いつ移動したのか、かつてフェイスレスと呼ばれた男が立っていた
男は、ただ苛ついた。それは、彼女の目に見覚えがあったからだ。それはかつて、自分が泣かせた女の目に、唯一子守唄を歌ってくれた女の目にどこかよく似ていた。だからつい、手を出してしまった。
「なんで…」
「?」
「なんで…助けたんですか?やっと…死ねたのに。」
「…。理由なんてないさ。ただ…お前のその、諦めたような目がムカついた。だから、少し…嫌がらせをしてやろうと思ってね。」
少女は、男を見た。そして、ゆっくりと、その言葉を咀嚼するように、首を動かして…、そして再度男を見た。
「身勝手、ですね。私は…これから生きる意味なんて…存在しないのに。死ぬ勇気もなく、ただ…死んでないだけなのに。」
少し、更に苛ついた。少女の目だけではない。他に何か…そう考えて、気づいた。
そう、か。きっと、あの時と、同じだ。
この少女は、自分だ。生きる意味もなく、ただ、死んでないだけの屍である自分と同じ。
自分の人生を愛することができず、何もかもどうでもよくなって、そして全てを投げ出そうとした、過去の自分と。そしてまた投げ出そうとしていることに気づかず、再び投げ出そうとしていた今の自分と。
ならきっと。それに気づいたなら。今の自分がやるべきことは。あの「弟」と…、同じなのだろう。
「…君は、サーカスを見たことがあるかい?」
「え?」
「サーカスさ。芸人が次々に芸を見せて、お客さん達はそれを見て大笑い。僕ぁサーカスが好きでね。それでさ…前に生意気なガキが言ったんだよ。誰もが自分の人生っていうサーカスの舞台に立ったら…最後まで演目をやらなきゃいけないって。」
「何を…。」
「君も僕も、まだ演目の途中ってことさ。辛くても、苦しくても…。それだけで人生が終わるなんて虚しいだろ?だったらせめて…誰かが笑ってしまうような、誰かと笑い合えるような…そんかサーカスをできるよう。最後まで…足掻くのさ。」
少女は、その無気力な目の中に、僅かな反感を覚えたように呟く。
「…足掻く、ですって?もう…やりきりました。私はもう…十分頑張りました。なんで…休ませてくれないんですか?なんで…続けなきゃいけないんですか?」
「…。本当に、君が辞めたいんだったら。もっと早くに…舌でも噛み切っていたんじゃないか?食事ももっと取らずに…死のうとするのは簡単だったんじゃないか?」
「…」
彼は、少女に向かって手を差し出した。
「僕は、過去に色々やらかしてね。少し…やり直す機会を求めてたんだ。だから…もし良ければ、君を、そして後ろの君たちを…助けるために手を貸そう。君たちがやり直して進むために…手を貸そう。」
後ろの、檻の中の生き残っている数人にも、聞こえるように、肺から声を出す。
「一つ、宣言してやる。君たちがどれだけ絶望してるかはしらない。どれだけ苦しんできたかも知らない。でも…。それでもだ。言ってやるよ。
諦めなければ、夢は、必ず叶う!」
この日、フェイスレスは、再び舞台に上がる事を決意した。
⚙⚙⚙
そんな過去を思い出しつつ、男───今はナイアーと名前を変えている───はエ・ランテルに来ていた。
目的としては、護衛の冒険者を雇うためである。
無論、ここからであればカルネ村には例え一人であっても問題なくたどり着くことはできるだろうし、不測の事態があっても問題ないように近くに自動人形も配置しているし、ほかにもいろいろな手段は講じてきた。
だが、土地勘があるものがいたほうが早くつくし、距離が近い以上、もしかしたら件の魔術詠唱者が冒険者として登録、あるいは目撃をした冒険者がいるかも知れないと考えてのことだった。
戦闘に優れた自動人形───ザンニは、遠隔通信でナイアーに問いかける。
『ナイアー殿、土地勘に優れたものを雇いたいなら、わざわざ冒険者をやとわなくても、組織のものから選べば良かったのではないですか?それに、何故エ・ランテルなのですか?他にも周囲に都市はあるのでは?』
「いやぁ、できるだけ僕につながりうる情報は、なるべく今回は残したくなくってね。エ・ランテルに来た理由としては、知り合いの顔を見たかったってのもあったんだけどねーん」
『なるほど、それでは私めは隠密を徹底すればよろしいのですね?』
「あぁ、そうだ。よろしくたのむネ」
そう、この街には薬師として色々と教えた知り合いがいるのだ。
薬品関係は錬金術の基本である。草の種類などは多少変わっていたが、それでも十分前世からの知識で対応可能な範囲と言えた。中世から20世紀まで知識を蓄え続けたナイアーに隙はない。
もっとも前世ではその知識の大半をろくなことに使わなかったが。
会うときは顔や骨格を変えているので、彼は自分のことをナイアーと同一人物とは見なしていないだろう。そのため、彼から自身にたどり着ける可能性は極めて低い。
それに一応彼らはカルネ村に縁があったはずだ。情報を得られるならそうしたい。
そして、彼は通話を切り、知り合いの店の扉を開けた。
「やぁ、ンフィーレアくん。元気にしていたかな?」
「!オルドナンスさん、ひさしぶりです!」
長めの金髪で目元を隠した少年が、そこにいた。彼の名はンフィーレア・バレアレ、この町一の薬師であり、錬金術師でもある。
王国内の他の人からの評価
胃に穴が開いてる国王 「良くも悪くも劇薬。うまく扱わんと国ごと滅ぼしかねん。個人的には?まあ、少なくともしっかり実績があるのは素晴らしいと思うぞ。あぁ。」
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