ラスボスにはラスボスをぶつけんだよォ   作:ヒャッハァー!

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反応がめちゃくちゃ好評でうれしい。過去一難産でした。リアルが忙しすぎるんじゃぁ…。


第八幕 薬師と狂女

吹き飛ばされたクレマンティーヌは空中でクルリ、と1回転して地面に着地した。

 

すたり、と降り立ったその顔に、けられた跡はついていない。僅かにじわり、と頬に細い赤の線が現れる。

 

突然かけられた奇襲を、彼女は頭を攻撃に合わせてのけぞらせ、バク転をする要領で、ほとんど完璧に回避していた。

 

彼女は、人形を、多少目を細めながら睨んだ。人形は、四本の腕のうち二本にうねるような紋様が刻まれた爪を装備し、二本に赤いグローブをはめていた。白い顔の上には、ジェスターハットを被っている。まるでふざけた道化だ。

 

にやりと嗤ってクレマンティーヌは言った。

 

「へぇ、ずーいぶん面白いもの持ってんじゃん。流石は生産職っていったところかなー?いやぁ、でも惜しかったね?もう少しその木偶の動きが速ければ、死ぬ前にこのクレマンティーヌちゃんにいい一撃を入れたっていう、死後の土産話ができたのにさぁ?」

 

「…殺さず捕らえる、という話ではなかったんですか?それに、ちゃんと狙い通りですよ。」

 

「はは、後でどうせ心を壊して、死ぬまで使いつぶすんだから一緒だ───。」

 

何、今何と言った?その瞬間、クレマンティーヌの足元がふらついた。そして、思考が多少ぼやけるのを感じ始める。

 

「…何?…いや、あぁ、そうか。毒、ね」

 

「えぇ。この人形は、なるべく即効性を高めるようにブレンドした痺れ薬と眠り薬の混合薬を、針に塗って足と腕に着けています。一滴でも血管に入れば、大型の魔獣でもすぐ動けなくなるくらいの効力はあるはずです。本来は、この人形も、魔獣からしか取れない素材をとるために作ったものだったんですけどね…。」

 

「へぇ、そっか。でもさぁ、悪いけど、獣如きとこの私を同列に語らないでくれるかなぁ?この程度で音を上げるほど、私は弱くも経験不足でもないんだよぉ!」

 

そして、クレマンティーヌはぐさり、と軽く左腕を突き刺した。

 

「なっ…。」

 

「『精神覚醒』…。残念ながら、私はこれでも人生で拷問には事欠かなくてねー?するのもされるのも、数え切れないほどあったんだよー。だから、毒の耐性だって多少以上はあるし…、拷問をより楽しむために、こんなものだって持っている。この魔法ならー、体は多少動かしづらくても、意識はちゃ―んと覚醒させれるの。このくらいなら、むしろいいハンデだよぉ。ゆっくりと首を絞めて意識がなくなっていくように、殺してア・ゲ・ル!」

 

クレマンティーヌは瞬間的に体を沈めて、猫のように体のばねを生かして、人形を破壊せんととびかかる。ンフィーレアは、糸を操り、人形の爪を振り下ろして、彼女を迎撃する。しかし、遅い。彼女の体に多少の痺れがあっても、その速さに彼の目は追い付けない。

 

そして、クレマンティーヌのスティレットが人形の体を切り裂く───。その瞬間に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…流水加速。」

 

瞬間的に加速して、拳をよけて瞬間的に部屋の壁まで飛びずさるクレマンティーヌ。その体を炎をまとった爪が襲う。彼女は瞬間的にその腕を踏んで跳躍し、天井から彼に攻撃せんと迫る。

 

しかし、その攻撃が当たる前に、ンフィーレアが手を動かすと、人形の頭がにょきり、と彼女に向かって大口を開いて伸びる。

 

その口の中にあるぬらり、と毒に濡れた牙を見たクレマンティーヌは、その頭に向かってローブを投げつける。そしてそのまま空中で回転して、人形の顎を切り裂こうとする。

 

しかし、ローブを貫いた舌が、彼女の体に巻き付き、そのまま勢いよく巻き上げられる。舌を振りほどこうとするが、その力が十分にはいらない。まとわりつくねばついた粘液が、彼女の動きを阻害する。

 

「しゃらくっせぇなぁ!『能力向上』!」

 

そのまま舌により振り回され、壁にたたきつけられようとする中、彼女は瞬間的にスティレットを宙に放り投げ、口でつかむ。そのまま叩きつけられた瞬間、壁にあった戸棚を足場にして跳ね跳び、回転するようにして口の刃で舌を切り裂く。

 

酸の矢(アシッド・アロー)!!」

 

ンフィーレアが唱えた瞬間に、人形の爪が装備された腕が縦に開き、左右2本の杖が露出する。そしてその先に魔法陣が描かれ、計4本の酸の矢が放たれる。

 

彼女の体が地面に向かって落下するまでの間に、その体に向かって放たれた酸の矢を、空中で体勢を変えて躱す、躱す、躱す。しかし、避けきれずに一つが体をかすり、むき出しの肌がじゅう、と僅かに焼ける。

 

「あっハァ!」

 

そして、口を開けてスティレットを落とすと、そのまま右手でキャッチして振り、ルクルットが投げつけた薬草箱と、ペテルの斬撃を跳ね飛ばした。

 

ルクルットは歯をぎりり、と噛みしめるようにして言った。

 

「クソ、大道芸人か何かかよ…!」

 

「大道芸人?それなら芸を見せた対価に、あんたらの命とその坊ちゃんをいただくってのはどう―?このお姉さんのかわいさに免じてさぁ。」

 

「ふざけろ、クソ女。お前のどこに可愛げなんてもんがあるってんだ。ナーベちゃんを見習って出直してこい。踊りたきゃ勝手に踊ってろ!」

 

「あら、つれないなぁ。でも、そもそもあなたもその人形も、私と一緒に踊れるほどの体力はない───、そうでしょぉ?ンフィーレア・バレアレくーん?」

 

ぼたり、と赤い血が落ちた。

 

ンフィーレアの目と鼻から、赤い血がどくどくと流れていた。

 

女の口角が、三日月の様に吊りあがる。

 

「んふふ、やっぱそうだよねぇ!?だってそもそもそんなことができるなら、護衛を雇う必要なんてないもんねー!」

 

クレマンティーヌは思考する。

 

恐らく、ンフィーレアの元々の難度は、調べた情報や、第2位階魔法を使える点などから、高めに見積もっても三、四十いくか行かないか程度であろう。

 

しかし、今のこの人形を使っている姿はどうだ。クレマンティーヌは、これまでの経験から、手加減しているとは言え、自身と勝負になるのは、最低難度四,五十程度ないと不可能である、と判断していた。

 

生来の才能(タレント)があると言え、ここまでの成長には何か代償がある、と考えるのが自然だろう。

 

事実それは正しい。この人形は、オルドナンスが渡した人形を軸とし、ンフィーレアが無数のマジックアイテムを組み合わせ、遠隔発動させることで、無理やり稼働させている。しかし、それを完璧に制御し続けられるほどの処理能力を、彼は持っていなかった。稼働可能は極めて短時間。

 

故に、ンフィーレアは戦いを急いだ。

 

そして、それをクレマンティーヌは理解した。

 

故に。

 

「はは、あはははは!あぁ、なるほどねぇ。でもさぁ、やっぱ理不尽だねー、生まれながらの才能(タレント)ってやつはさぁ。その程度の代償で、いとも簡単に力を得られるんだからさー。」

 

 

 

哄笑。顔を手で覆い、笑って、嗤って。そして、ふ、と手を離した。

 

その顔には、表情がなかった。

 

「はは、いいさ…。なら、お望み通り、お前のその全力を、正面から叩き潰してやるよ。一瞬でもこのクレマンティーヌ様と拮抗できると思った、その傲慢さを…痛みでその体に、直接教え込んでやる。」

 

彼女はゆっくりと構え、精神を研ぎ澄ませた。マジックアイテムを条件を無視して使用可能な生まれながらの才能(タレント)。今まで発動させたアイテム以外にも、自動迎撃を含む様々なアイテムが含まれているだろう。そしておそらくそのほとんどに彼手製の毒が仕込まれている。

 

そして、骨格自体が自由自在であり、関節の構造上ありえない動きすら可能。まるで複数の亜人を混ぜ合わせた混合獣(キメラ)だ。

 

だが、それなら発動をまともにできないほどの速度で、相手を破壊すればいい。自動迎撃など、すべてよけてしまえばいい。

 

予測不能な動きをするなら、動きが追い付かないほどの速度で叩きのめせばいい。

 

「『疾風走破』。『超回避』。『能力向上』。『能力超向上』。」

 

体に力が満ち満ちていくのを感じる。発せられる圧が、どんどん増していくのがわかる。異常なほどの強者。ピリピリと、空気が震える。対峙するだけで、精神が摩耗していくのを感じさせられる。そんな強者。

 

だが、目くばせをして、ペテルとダインがその前に出た。狂女と向き合い、剣と槌矛をかまえる。

 

「へぇ…。安っぽい英雄主義(ヒロイズム)にでも目覚めちゃった感じ?知ってる?命を粗末にするのはいけないんだよ?」

 

「そうだな。だから私は、命を捨てる気はさらさらない。今、一番高い可能性に賭けるだけだ。そうでしょう?ダイン。」

 

「全く持って同意するのである…!それに、若い者だけ戦わせて、我ら大人が体を張らずに済むものか…!」

 

「ふふ、いいじゃん。なら、その自分たちの甘さを後悔して、死ねぇ!」

 

瞬間、跳躍。

 

「お、おおおお!」

 

「次。」

 

ペテルが放った斬撃をよけ、腕の関節部分にスティレットを突き刺し、動きを封じる。そしてそのまま、取り出した新しいスティレットで、がら空きになったわき腹を突き刺す。

 

そのすきを見て、ダインの槌矛がおろされた瞬間に、腕に乗り、跳躍する。そして、背中にスティレットを投げ刺し、その内側から解放された電撃が、彼の体を焼く。

 

「が、ぁぁあ!」

 

「次。」

 

ルクルットが放った矢をスティレットで受け流し、そしてそのまま相手の胸にダガーのように投げ刺す。

 

「がっ…」

 

「次。」

 

体を沈めて、瞬間的に加速する。炎をまとった爪を強引に突き刺して内側を壊す。そして、赤いグローブにより放たれた拳を足場に、跳躍。

 

そして、口を開き、噛み付いてきた人形の喉奥に、思い切り勢いをつけて、スティレットを突き刺した。

 

そして、その瞬間に、人形の頭部から胸元近くにかけてを、刹那で解き放たれた炎が焼き尽くす。

 

突撃と、一瞬で解放された炎による衝撃で、ンフィーレアとピエロットは、壁まで飛んで、強く打ちつけられた。人形のネジと歯車が外れ、ンフィーレアの血とともに、周囲に飛び散る。

 

「っ…あっ・・!」

 

「終わり。ははっ、ははははっ!あー、やっぱこういう、自分の鍛えた力で、「勝てるかも〜」なんて、一瞬でも幻想をいだいた雑魚をぶっ飛ばすのって、最っ高に気持ちいいねー!」

 

彼女は立ち上がり、辺りを見回す。動かなくなったピエロットの人形と、血を吐き、死にかけている冒険者たちの姿が散らばる。ンフィーレアも壁に寄りかかり、血を流しながら息を荒くしている。

 

クレマンティーヌはゆっくりと歩み寄る。その姿に向かって、最後の抵抗をするように、よろよろと立ち上がったンフィーレアは、無理やり人形を操り、手を横薙ぎに払って、机の上のものを投げつける。

 

しかし、いとも容易くそれらを躱すと、彼女は蹴りで人形ごと彼の腹を蹴りつける。べき、という何かが折れる音がした。

 

彼は膝をつき、血を吐く。膝をつき、芋虫のように丸まる。その姿を見たクレマンティーヌは、彼の前で腰をかがめ、にこり、と歪んだ笑みを浮かべた。

 

「うふふふ、あぁ…。やっぱり全部無駄だったねぇ。ねぇ、今どんな気持ち?私はね、今とっても気分がいいんだぁ。だからさぁ。

 

もし今から、私の靴をなめて、ごめんなさいって。このクレマンティーヌ様に楯突いた自分が愚かでしたって。そう言うなら…今からでも見逃してあげてもいいよぉ?」

 

もちろん、そんなつもりはサラサラないが。

 

嗜虐心を抑えきれぬままに、彼女は笑う。傷つけるのはなんと楽しいのか、殺すのはなんと楽しいのか、とでもいうように。暴力を振るうことは、あまりにも快楽的だ。そして尊厳を破壊することも、同様に。

 

ンフィーレアは歯を食いしばりながら、震える手は恐怖を隠せない。そして、ぽつり、と呟いた。

 

「…あなた、弱いな。」

 

「…ぁあ?」

 

クレマンティーヌはンフィーレアの髪を強引につかみ、その頭を無理矢理引き上げた。

 

「…おい、お前の前に立っているのが、誰だか教えてやろうか?英雄の域に踏み入ったクレマンティーヌ様だぞ?それを今、お前、なんて言った?」

 

「弱い。あなたは…弱いよ。だって、自分で自分を、本当に強いと思えていないじゃないか。」

 

髪がぱらり、と乱れ、その隙間から、青い真っ直ぐな目が、クレマンティーヌの目を覗き返す。

 

クレマンティーヌの目が、一瞬揺らいだ。

 

「僕も…同じだから多少は分かる。生きてるだけじゃ自分を誇らしく思えないから…だから、形のある何かや、自分の成果にすがろうとするんだろ?本当に自分の生き方を信じて…肯定できているなら、そんなことはしない。」

 

「黙れ…。」

 

「お前がそうやって…自分を強く見せようと、狂人のように見せようとしているのも…本当の自分を見られるのが怖いからなんじゃないか?笑顔と狂気の仮面で、自分も周りもだまして、自分の弱さから目を背けようとしているんだろ?」

 

「黙れ…!」

 

「でも、そんなのはただの逃避だ。そこに倒れている必死にあなたに立ち向かった高潔な彼らを…。殺して強気になっている。そのことがいかにあなたが幼稚で惨めかを証明している。

 

日々日常を…辛いことがあっても、笑ってその人生を肯定して、前を向いて生きようとする人のほうが、お前なんかよりもずっと強い。それに比べて…お前はただの弱虫で、戦う以前に負け犬だ。」

 

「だまれぇッ!」

 

この男に、自分の何が分かるというのか。

 

生まれたときから、生みの親にいるものとすらまともに扱われない絶望。人生のあらゆるすべてかけても、はるか目的には届きようがないという挫折。人生をかけてえた強さすら、容易く鼻歌を歌って手にする化け物どもがいるという悲観。守るべきはずのものを、見れば見るほど醜いとしか思えない。そこから脱しても、結局社会の異端者にしかなり得ない。

 

そんな人生で、何を誇れる?何を肯定できる?

 

強さだ。それだけだ。クレマンティーヌには、もはやそれしか残っていない。

 

故に、クレマンティーヌは激昂した。そしてその感情に任せて、その腕を思い切りンフィーレアの首に振り下ろす。

 

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「がっ…!?」

 

反射的に、屈んでいた姿勢から、上体を回転させて、そのまま後ろの敵に向けてスティレットを突き刺さんとする。誰だ。新たな敵か?いつの間にやってきた?

 

そして、腹にぶすり、とスティレットが突き刺さり───。そして、そのまま体が抱きとめられる。

 

「なっ…!」

 

そこにいたのは、電撃によって殺したはずの森司祭(ドルイド)だった。ぽたり、と血ではない赤い雫が、男の体から垂れる。

 

植物の絡みつき(トワイン・プラント)!!!」

 

先ほど投げつけられ、地面に散らばった薬草の植物たちが成長して、クレマンティーヌの肉体に絡みつき、拘束する。一瞬、いや一秒もない。オーガの行動を阻害できるほどの魔法でも、稼げる時間はその程度でしかない。

 

だが、それで十分だ。

 

戦いのアート(レ・サァ・マシオラ)…!」

 

ンフィーレアが両腕をクロスさせ、振りかざすようにして頭の上に掲げる。人形が、軋みを上げながら駆動する。

 

この一発。おそらく、全てを賭けた一撃であることは、誰の目から見ても容易にわかった。

 

ゆえに、クレマンティーヌは思い切り頭をのけぞり、後頭部を思い切りダインの頭にぶつける。そして、拘束がわずかに緩んだ刹那に、全力を持ってその体をはねのけた。

 

そして、足に絡みつく植物を、足から血を出そうとも、無理やり引きちぎって跳躍する。

 

「おらぁぁあああああああ!」

 

そして、強引に縦に振り下ろされたスティレットが、人形の前面を砕いた。散る歯車を見ながら、クレマンティーヌは笑みをこぼす。

 

虎乱(コラン)!!!!」

 

その瞬間、破壊された人形の内側から、一回り小型の人形が飛び出す。そして、その人形は、勢いよく抉るように回転しながら、クレマンティーヌの鳩尾をおもいきり打って吹き飛ばした。

 

 




さぁ、ンフィーレアが放った必殺の一撃は、果たしてクレマンティーヌを倒しきることができたのか!?

そして、今回一度も出てこなかったフェイスレスは無事なのか!?さすがに明らかに戦力不足な気がするぞ!

お願い、死なないでフェイスレス!あなたが今ここで死んだら、この作品は今後どうなっちゃうの!?

次回「フェイスレス死す」デュエルスタンバイ!

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