直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です 作:じゅぺっと
直線最高速ウマ娘·カルストンライトオは、悪に染まっていた。
「スピード制限など知ったことか。私の最高速の邪魔はさせない……行くぞ、スピードの向こう側へ!」
全国興業用のイベント会場を直角にジグザク走っていると、2人のウマ娘が前に立ちはだかる。
「ライトオさん! 交通違反は犯罪であ゛り゛ま゛す゛!」
「ウマ娘たるもの、スピード制限は自分の足で守らなくては模範生にはなれませんよ!」
警察ウマ娘のフェノーメノと、模範的委員長のサクラバクシンオーだ。ライトオは渋々立ち止まり━━用意したカンペをクールな表情で読み上げた。
「例えば赤信号、スピード制限、ウマ娘専用レーン。この世にはなくなった方がいい交通ルールがたくさんあります。それらを全て魔王ウインディちゃんの力で消し去ります」
イベントの観客席から黄色い声が上がる。その大半が小学生ウマ娘の声だ。
『そうだそうだー!』
『ウマ娘レーン以外もほんきで走りたい!』
『魔王ウインディちゃん、ライトオ、がんばれー!』
「魔王ウインディちゃんですって!」
「なんということでしょう! 魔王ウインディさんを倒せるのはヒーローだけ……ジャスティスビコーさんがいなければ勝ち目がありません!」
「その通り、魔王ウインディちゃんの前では警察と学級委員長の速さなどナマケモノに等しい。さぁいでよ、魔王ウインディちゃん!」
ライトオが勢いよくイベント会場の舞台袖を指差す。
そう、これは全国興業のイベントの一貫だ。
幼いウマ娘達に交通ルールの大切さを理解してもらうためのヒーローショーであり、サクラバクシンオー、フェノーメノ、ビコーペガサス、シンコウウインディが定期的にイベントで行っている。
今回はライトオもそこに加わることになり、悪の怪人として出演することになった。
台本では今から主役である魔王ウインディとジャスティスビコーが登場し、魔王ウインディをやっつける形で子供達に交通ルールの大切さを教えるはずなのだが……
「出てこないでありますね……」
「フッフッフ。どうやら学級委員長に恐れをなして出てこれないようですね!」
「……おいどうした出番だぞ。いでよ魔王ウインディちゃん!!」
出てこないウインディにライトオ達ではなく観客の子供達もざわめき始める。
しびれを切らしてライトオが舞台裏を覗き込もうとしたとき、現れたのはヒーロースーツを纏ったジャスティスビコーだった。
【みんな! 魔王ウインディちゃんはジャスティスビコーがやっつけたぞ! もう安心だ!】
ジャスティスビコーはいつもの決めゼリフを言いながら魔王ウインディの衣装を担いでいる。魔王ウインディはぐったりして動かない。
「なんだと!? もう倒したのか、速い!」
「来た! ジャスティスビコーさん来た! これで勝ちですね!」
「えっ!? いや、台本ではウインディさんが来るはずでは……」
台本とは違う行動にフェノーメノは納得できないようだが、ライトオとバクシンオーはさっさと話を進めてしまう。
【さあよい子たち! 今日もルールを守って栄養満点なご飯を食べて立派に大きくなろうな! ではさらばだ!】
ジャスティスビコーは恒例の台詞を言うだけ言って一足先に舞台裏へと引っ込んでしまった。
当然、いつもと違う展開に子供達の反応は様々だ。
『えーもう終わり?』
『あっぱれジャスティスビコー、魔王ウインディが悪いことする前にやっつけた!』
『ライトオがめっちゃ速くてかっこよかった!』
「さあ子供達、ヒーローショーはおしまいです。ジャスティスビコーの言う通り帰る時間ですよ」
「よい子の皆さん! これからもルールを守って楽しくバクシンしてくださいね!」
ライトオとバクシンオーが子供達を出口に誘導していく。フェノーメノは呆然と立ち尽くしていた。
「それにしても渡された台本と違ったな、これが千秋楽ハプニングというやつか」
「魔王が悪いことをする前に倒してしまう……バクシンの極みかもしれませんね!」
「いえ……それは違うであります!」
バクシンオーの言葉に、フェノーメノが異議を唱える。やはり納得がいかないらしい。
「相手が魔王といえど、悪事を働いていない者を倒すのは正義に反します。ビコーさんがそれをわかっていないはずがないのですが……」
「現実ならその通りですが、ヒーローショーであれば気にする必要もないのでは?」
「バクシンオーさん、これは子供達への啓蒙のためのヒーローショーでありますよ!」
「まだるっこしい。ビコー本人に真意を問いただせばいいだろう」
バクシンオーとメノの意見が対立しそうになったので、さっさと舞台裏のビコーに声をかけようとした。
「待った!」
その時、まだ幼い子供の声が会場に響いた。3人が声の方向を向くと、風船を大事そうに抱えた小学生のウマ娘が1人残っていた。どうやら帰らなかったらしい。
「ジャスティスビコーは、魔王ウインディちゃんをやっつけてくれたの! わたし、舞台裏でちゃんと見たんだよ!」
「君、舞台裏に勝手に入ったのでありますか?」
「ひっ……ごめんなさい……」
フェノーメノがその鋭い目で子供を見る。悪気はないのだが小学生のウマ娘は怖がってしまった。風船を抱えて俯いてしまう。
バクシンオーが率先して小学生のウマ娘に近づき、膝をついて目線を合わせてあげた。
「まぁまぁ、ここは話を聞いてからにしましょう。あなたのお名前は?」
「わたし、タイトルホルダー。友達にはタイホって呼ばれてます! 夢はトレセン学園に入ってGIタイトルを取ることです!」
「タイホちゃんですね! はきはきした自己紹介、花丸です!」
「さすがバクシンオー、子供の相手も手慣れたものだ。それで、舞台裏で何があったのだろうか?」
小学生ウマ娘、タイホに証言を促すライトオ。タイホはさっきまで悪の怪人だったライトオに少し後ずさりしたが、勇気をもって証言してくれた。
「わたし、どうしても確かめたいことがあって舞台裏に入ったの。
だけど途中で風船が天井にいって、柱を伝ってのぼったら降りれなくなっちゃって……
そしたら、魔王ウインディちゃんとたまたま目があったの!
だけどジャスティスビコーが魔王ウインディちゃんをやっつけて、わたしと風船を助けてくれたんだよ!」
幼いウマ娘が高いところに登ってしまい降りられなくなるのはよくある話だ。風船を大事に抱えているのはジャスティスビコーに助けてもらったかららしい。
バクシンオーはニコニコして手のひらを叩いた。
「なるほど、舞台裏でやっつけてしまったからヒーローショーではあんなことになったのですね! さすがビコーさん、完璧な判断です!」
「いやおかしいだろう。舞台裏はヒーローショーとは違う。ビコーがウインディをやっつける必要などない」
ライトオが即座に否定する。魔王ウインディとヒーロービコーの敵対はお芝居であって、2人の仲は悪くないしウインディもいたずらの相手は弁えている。
仮にウインディとタイホが鉢合わせたとして、ビコーが止める理由はないのだ。
しかしバクシンオーは、笑顔にままライトオの肩に手を置いた。
「……ライトオさん。残酷な真実をつきつけるより、都合の良い嘘で上手く騙し続けてあげるのが年上の役目ではありませんか?」
バクシンオーの瞳の桜模様が見えないくらい目を細めている。その本心はライトオにも伺えない。
「メノ、お前はどう思う。私はヒーローショーは門外ウマ娘だ。2人がそれでいいなら何も言わない」
「いえ……本官もライトオ検事と同意見です。悪事を働いていない者を倒す行いを子供達に正義だとは言えないであります!」
「けんじ……?」
タイホは首をかしげる。警察やヒーロー、委員長と違い、検事という役職を知る小学生は少ないだろう。
ライトオはタイホに近づき、いつもの真顔で説明する。
「検事とは悪事を働いたのが誰なのか探す人だ。タイホちゃんが望むなら真実を一緒に見つけてやる。どうする?」
「うん……わたし、ほんとうのことが知りたい。魔王ウインディちゃんとジャスティスビコーは……仲良しなの?」
魔王とヒーロー。敵対する立場同士が実は仲良しという噂を聞いたらしい。舞台裏に入ってしまったのも、それを確かめたかったからだそうだ。
ライトオは、もちろん最高速で真実を口にする。
「仲良しだ。だがウインディが悪戯や悪事を働けばビコーは本気で止める。そうだなメノ?」
「……はい。ウインディさんも今ではトレセンで悪戯をすることも減りましたが、たまに思い出させるように悪事をするとビコーさんが真剣に止めます」
「……でも、わたしはほんとうに見たんだよ! ウソじゃないの!」
舞台裏でジャスティスビコーが魔王ウインディを倒し、自分を高いところから降ろしてくれた。それは間違いないらしい。
「ライトオさんもメノさんも、タイホちゃんがウソつきだなんて思っていませんよ!」
「とはいえ不自然なのはジジツ。やはりビコー本人に確認しないと始まりませんね」
「……そういえば、2人とも一向に出てこないであります。やはり何かあったのでしょうか?」
すると、ウインディが舞台裏からひょっこり顔を出した。さっき倒された魔王の衣装をしっかり身に纏っている。
「わっーはっは! 何とんちんかんな事を言ってるのだライトオにメノ! 魔王ウインディちゃんがにっくきジャスティスビコーと仲良しなわけないだろ!」
「ま、魔王ウインディちゃん……!」
タイホが魔王の衣装を来たウインディを見て咄嗟にバクシンオーの背に隠れる。
ウインディは両手を挙げてタイホに向けて噛みつきのポーズをした。
「やいお前、勝手にウインディちゃんのアジトに入ってきたな! さっきはビコーに邪魔されたけど今度こそガブガブしてやるのだ!」
「ひい……!」
「待てウインディ。本当にタイホに噛みつこうとしたのか? その時の証言をお願いしたい」
あからさまにタイホを脅かすウインディに待ったをかけるライトオ。
「ライトオ、怪人のくせにウインディちゃんを裏切るのだ!?」
「もうヒーローショーは終わりだ。今の私は直線検事カルストンライトオ。例えお前が本物の魔王だとしても真実を証言してもらう」
「ちょくせんけんじさん……」
「フフン、なら怪人はクビだ。魔王の証言で噛みついてやるのだ!」
タイホがライトオの背中をまっすぐに見つめる。ウインディは両手を挙げた噛みつきのポーズのまま証言を開始した。
「ウインディちゃんは魔王の衣装を来て準備していたら、そこのタイホが天井で震えてるのを見たのだ。
勝手にアジトに入った命知らずに噛みついてやろうと思ったら、ビコーが突然蹴っ飛ばしてきやがったのだ!
それでさっき目が覚めたらお前がウインディちゃんがビコーと仲良しだとかわけわからんこというのが聞こえてやってきたのだ」
天井で震えるタイホを見つけたらビコーに蹴っ飛ばされて気絶していた。
ライトオは証言を聞いて少し人差し指で頭を抑えた。
「どうだ! これがウインディちゃんの完璧な真実なのだ! 手も足も出ないだろう!」
「確かに困ったな。ムジュンがありすぎてどこから突っ込めばいいか逆に困る」
「な、なんだとー!」
余裕綽々で肩を竦めるライトオにウインディが噛みつかんばかりに近づく。
そこで一旦、メノがウインディに問いかけた。
「あの、ウインディさん。ビコーさん本人は今どこに?」
「アイツなら今は寝てるのだ。こんなこともあろうかと本番前にビコーに毒入り饅頭をくれてやったのが今頃効いてきたのだ! 悪は最後に必ず勝つのだ!」
「ど、毒入り……!?」
剣呑なワードにタイホが怯えるが、バクシンオーが元気よく補足した。
「ああ! ウインディさん、ヒーローショーの前はいつもお菓子を差し入れてくださいますものね! 花丸です!」
「バクシンオーお前どっちの味方なのだ!? 黙ってて欲しいのだ!」
「失礼しました! 立派な行いだったのでつい!」
「フッ、なるほどそういうことか。今ので真実にゴールしたぞ」
ライトオはまっすぐ伸ばした人差し指で頭をトントンと叩く。もう既に脳内では事件が解決していた。
ライトオはウインディに背を向け、しゃがんでタイホに目を合わせて質問する。
「タイホちゃん。君を助けてくれたジャスティスビコーはなにか喋っていただろうか?」
「う、ううん。なにも言わずに私と風船を降ろしてくれて、助けてくれてありがとうって言ったら、頷いてくれて……」
「やはりな。ではもうひとつ。……君は、ジャスティスビコーが魔王ウインディを蹴り飛ばすところを直接見たのだろうか?」
「み、見てない……一度魔王ウインディが見えない場所に隠れて、わたしを脅かそうとしてるんだって震えてたら、ジャスティスビコーが出てきて……」
「ま、まさか……!?」
メノも真実に気付き、驚いた顔をする。
魔王ウインディは天井で震えるタイホを見つけ、一度引っ込んだあとジャスティスビコーが無言でタイホを助けた。
それの意味するところは━━
「ウインディ。お前は天井のタイホを見つけ、ジャスティスビコーの衣装を纏って彼女を助けたのだろう?」
「は、はあ~~~!? なんでウインディちゃんがそんなことしないといけないのだ!」
「決まっている。魔王とヒーローとしてのイメージを守るためだ。……少女の夢を守るために!」
「やーめーるーのーだー! 魔王ウインディちゃんは人助けなんてしないのだ!」
「あの時わたしを助けてくれたのは……ウインディちゃん……!?」
タイホが驚いてしりもちをつく。ヒーローが助けてくれたと思ったらスーツの中には魔王が入っていたと聞けば当然だ。
だが、バクシンオーは勢いよく手を上げて反論を始めた。
「異議あり! ライトオさん、そんなことはあり得ませんよ!」
「バクシンオーさん、なにか問題が?」
「当然でしょう! ヒーローショーでビコーさんはキチンといつもの決めゼリフを喋っていたではありませんか! あれこそジャスティスビコーの中にビコーさんがいた証拠です!」
「た、確かにあれはビコーさんの声に間違いないであります……! ライトオ検事、これは一体!?」
ヒーローショーで聞こえたジャスティスビコーの声。
【みんな! 魔王ウインディちゃんはジャスティスビコーがやっつけたぞ! もう安心だ!】
【さあよい子たち! 今日もルールを守って栄養満点なご飯を食べて立派に大きくなろうな! ではさらばだ!】
この2つの台詞を、この場に入る全員が聞いている。
「ふふん、そんなことを忘れるなんてやはりスプリンターは鳥頭の集まりなのだ! ビコーはちゃんと決めゼリフを喋っていたのだ!」
得意気に胸を張るウインディ。
しかし、ライトオは自信たっぷりにやれやれと肩を竦めた。
「確かに聞こえたな。これまでのヒーローショーで何度も使われたであろう決めゼリフが。……ウインディ、お前はヒーローショーを成立させるために録音した音声を使ったのだ!」
「ぬわぁーーーー!! なんでわかったのだーーーー!!」
「だいたいさっきは蹴られてヒーローショーが終わるまで気絶していたと言っていたのに何故ヒーローショーでビコーが喋った内容を知っている? どうやら鳥頭はそちらの方だ、せめてダチョウ並みの速さになって出直してくるがいい!!」
「し、し、し、しまったのだぁぁぁぁ!?」
ウインディは頭を抑えてうずくまる。もう反論できないらしく震えていた。
タイホはおずおずとウインディに近づき、重圧をはねのけて勇気を振り絞って言った。
「た、助けてくれてありがとうウインディちゃん! わたし、天井の柱に登ったあと降り方がわからなくて怖くて……助けてくれて、嬉しかった!」
「……ふん、あんまり怖がりすぎてて驚かす気もなくなっただけなのだ」
あくまで魔王としての振る舞いを続けようとするウインディ。
その時、舞台裏からヒーローであるビコーペガサスがマッハの如き勢いで飛び出してきた。
「ゴメン! アタシ、お饅頭を食べたら急に眠くなって……ヒーローショーはどうなっちゃったんだ!?」
「おはようございますビコーさん。ヒーローショーなら、ウインディさんが代わりにしっかり演じてくれましたよ!」
バクシンオーが、ビコーに経緯を説明する。ウインディが代わりにジャスティスビコーの衣装を着てヒーローショーを成立させたと。
それと同時に、ビコーの顔をぺたぺたと触り頷いた。
「ウインディさん、あなたはビコーさんに酒饅頭を差し入れたのですね?
まだちょっと顔が赤いです」
「すんすん。本当だ、微かに水カステラの匂いがする」
「未成年に飲酒させるのは犯罪……いやしかし、酒饅頭は合法……これは悪事とはまた違うでありますね……」
ライトオが鼻をならして匂いを嗅ぐ。するとバクシンオーの言葉通りビコーからアルコールの匂いがした。
「まさか饅頭1個で酔っぱらうどころか揺すっても起きないなんて思わなかったのだ……どうしようかと思っていたら、そこの子供が天井にいるのが見えて……」
「なるほど、放置できないが魔王が人助けするわけにはいかない。慌ててヒーロースーツを着て助けたあと、そのまま魔王の衣装を担いでショーに登場したのですね」
事の成り行きを聞いたビコーは、ウインディの肩を手を置いてヒーローらしく真っ直ぐ感謝を伝えた。
「ウインディ先輩、ありがとう! ヒーローショーだけじゃなくて、小さい子のことも守ってくれたんだな!」
「ふん、もうヒーローの真似事なんてこりごりなのだ! ウインディちゃんは悪役の当てウマの方が楽しいのだ」
熱い目で見つめるビコーに舌を出してそっぽを向くウインディだったが、そこにはヒーローと悪役を演じ子供達の夢を守ろうとするウマ娘同士の絆が確かに感じられた。
「ウインディちゃんは魔王……でもわる者じゃなかったんだね」
成り行きを見守っていたタイトルホルダーは、納得して頷いた。
ライトオは検事として、そしてトレセンウマ娘としてまだ小学生の彼女に告げる。
「レースは真剣勝負でありそれ故に事件が起こることもある。ヒーローと正義があれば悪役も犯人もいる。だが己の最速を極めようとするやつに悪いウマ娘はいない。
君も最速の世界に飛び込みたいと思ったらトレセン学園に入学するといい」
幼いタイトルホルダーは頷く。トレセン学園に入学した彼女がその名の通りダービーのタイトルホルダーになるのはまだ未来の話。
逆裁シリーズ特有の事件といえばヒーローもの。
ウマ娘の世界にまだタイトルホルダーはいませんが逆裁シリーズパロディでタイホくんを出さないのも勿体ないので書きました。