直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です 作:じゅぺっと
サクラバクシンオーが突如としてタイキシャトルのチームに移籍した。その理由を確かめるためライトオは最高速でタイキシャトルのところに向かった。
「というわけでバクシンオーに会わせて欲しい。どこにいる?」
「おはマイル、ライトオ! バット、今はグランアレグリアのトレーニング中なのでそうもいきまセーン」
「ふむ、新メンバーか。そいつのトレーニングにバクシンオーが付き合っていると」
「イエース! 三階級制覇のため、短距離のコーチとしてバクシンオーにもキョウリョクしてもらえることになりマシタ!」
ライトオの知る限り、タイキシャトルのチームに所属するのは天才バブルガムフェローにマイル王タイキシャトル、仕事人のシンボリクリスエスに大司書のゼンノロブロイのはず。
そこに新入生のグランアレグリアが加わり、バクシンオーはそのコーチとしてチームに加わったらしいのだが、ライトオにはそれが納得できなかった。
「ソイツは入学したばかり、デビューまでには数年かかるだろう。わざわざチームを移籍してコーチにつく理由を本人から聞きたい」
「フフ……噂どおりのマッスグマデスネ! ではこうしましょう、ワタシとのロシアンルーレットっで勝ったらすぐにでも会わせてあげマース!」
「なに、ロシアンルーレットだと?」
タイキシャトルが腰につけたピストルを取り出す。シリンダーに銃弾を一発だけ入れて慣れた手付きでクルクル回した。
ロシアンルーレットのルールはライトオも知っている。お互い交代にこめかみでトリガーを引き、銃弾が出たら負け。
「もちろん、命のキケンはありまセーン! ワタシのピストルは音が出るだけ……ボリュームはポッケの大声にも負けまセンヨ!」
「ポッケ? まぁいい。さっさとピストルを渡せ。こんなネコちゃんも出てこないゲーム、最速でケリをつけてやる」
タイキシャトルの口からジャングルポケットの名前が出たことに違和感を覚えたが、今の話題には関係ないのでスルーすることにした。
タイキシャトルはピストルをライトオに渡す。
ライトオは自分のこめかみに銃口を当て、迷うことなく引き金を━━5回引いた。
「1.2.3.4.5! これで弾は残り一発、最速で私の勝ちだ」
「たった一瞬でゴレンダ、えらいハリキリガールがやってきたデース! 仕方ありまセーン、最後の一発はジブンで引くことにシマース!」
ゲームに負けたというのに全く気落ちすることもなくライトオのこめかみのピストルに手を添えて。
「ゲームはワタシの負け、バクシンオーには会わせてアゲマスが……ここに来た理由は忘れてもらいマース」
「なんだと!?」
タイキはそのまま、ライトオのこめかみに向けて引き金を引いた。
ドンッ!という大きな破裂音が耳元で響き━━ライトオの意識はしばらく途切れることとなった。
「タキオンに貰った忘れろガン……早速2回も使うとはヨソウガイデース……ですが……グランの三階級制覇のためならワタシはどんなことでもシマース……」
耳元で鳴った轟音で気絶したライトオを、タイキシャトルは軽々と担ぎ、どこかへ運んでいった。
「ネコチャンパラダイス! はっ。私はどこ、ここは誰。どうして私はこんなところで寝ているのだろう。寝るのは9時か0時、お昼寝は12時か3時と決めているのに」
ライトオが目を覚ますと、知らない部屋だった。
トレセンにたくさんあるチームの部室であることはわかるのだが、何故自分がここにいるのかさっぱり思い出せない。
とりあえず、ライトオは自分の体をチェックした。
「特に縛られたりもしてないし、着衣の乱れもなくいつもどおりシワひとつなく真っ直ぐ。よし、違法なエロ同人みたいなことはされてないな。とはいえ誘拐でもされたのだろうか。事件の予感がする」
ライトオの父親は検察官であり、真っ直ぐに真実を追い求める姿勢はライトオにも受け継がれている。
よって近くで事件が起こった時は直線検事として最速で解決するのだ。
「ひとまずこの部室を調べてみよう。うん、とにかくめっちゃ英語が多いな。ヒシミラクルが見たら目を回しそうだ」
一目見て、一般的な部室に比べて英語の文章が多い。壁に張られたスローガンも英語、本棚に積まれているのも大半が洋書のようだった。
だが、一番目立つのは日本語で書かれた目標だった。
「『三階級制覇でマイラーこそ最強と示す……』ふむ、どうやらここはタイキシャトル達の部室のようだな。なぜ私はこんなところに運ばれたのだろう。まぁ本人に聞けばいいか」
最速で結論は出たが、結局ここに運ばれた理由は思い出せない。
特に縛られているわけでもないのでさっさと部屋を出ようとしたとき、向こうからドアが開いて天真爛漫な声がした。
「ライトオさん、おはマイル! バーベキューの準備が出来たので一緒に食べましょう!」
「おはようグラン、ところで私は何故ここに?」
ライトオを呼びに来たのは今年入学してきた若きマイル少女、グランアレグリア。
大豊食祭の畑にもさっそく顔を出し始め、底抜けの明るさと独特のマイルールを貫く姿勢はライトオは知っている。
グランはライトオに身に起こったことなど露知らず、キョトンとした顔で言う。
「えっ? バーベキューに参加しに来たんじゃないですか? タイキさんがそう言ってましたけど」
「言われてみればお腹が空いている。あまりよく覚えていないがタイキに誘われたのだろう」
「はい! タイキさんのバーベキューは楽しさ120マイルですから。誘われた人はみんなハッピーです! 行きましょう!」
グランに連れられてコースに向かうとバーベキューの用意は完了しており、タイキシャトルにシンボリクリスエス、ゼンノロブロイ。それと、バブルガムフェローではなくサクラバクシンオーがいた。
それぞれ軽く挨拶をしたが、みんな開口一番はおはマイルで統一されていた。
「おはマイルです、ライトオさん! 私を迎えに来てくださったとか! せっかくなのでバーベキューしていきましょう!」
「おはよう、バクシンオーまでその挨拶なのか?」
「郷に入っては郷に従えと言いますからね! ライトオさんも言ってみますか?」
「断る。マイルは直線ではない。おまえ達がどんな挨拶をしようが勝手だが、私を巻き込むのはやめて貰おう」
ライトオはスプリンター一直線だ。バッサリ否定したが、それを聞いたグランはむしろ目を輝かせてライトオの手を取った。
「どんな時でも最速と直線を貫く……噂どおり、それがライトオさんのマイルールなんですね! 私、自分のマイルールを貫ける人は大好きです! ライトオさんにも是非直線一気のコツとか聞いてみたいです!」
「ふむ。マイルは貫くというには曲線だがその点は同意しよう」
マイルは曲線。その言葉にグランは得意気に指と体を振ってみせる。
「ふっふっふ……異議あり! マイルにもスプリントに負けないくらいの直線はあるんですよ!」
「ほう、スプリンターであり検事である私に異議を唱えるとは良い度胸だ。ならば見せて貰おうではないか。マイルが直線だという証拠品をな」
ライトオも負けじと肩を竦めて応戦して見せた。グランは楽しげにスマホを取り出し、『マイル』と打ち込む。
「そしてこれを予測変換すると……『哩』!!どうです、マイルもすごく直線だと思いませんか?」
「なんだと!? くっ、マイルだけに参ったおは哩!」
「やったー! ライトオさんにもおはマイルって言って貰えましたよ、タイキさん!」
あっという間にライトオと打ち解けるグラン。誰の懐にも柔軟に入り込める明るさは天性のものだろう。
「ライトオもグランと仲良くしてくれて嬉しいデース! それでは野菜も焼けましたし、バーベキューの始まりデース!」
「そういえばバーベキューなのに肉がほとんど見えないな。野菜狂信者にでもなったのか?」
「トレーニング後のサラダがマイルールなんです! そのために私のチームトレーニングの後はいつも野菜バーベキューを開いてくれて……タイキさん、いつもありがとうございます!」
タイキがグランのさらに野菜をたくさん乗せていく。それを美味しそうに食べ始めるグラン。
「グランならワタシの……ワタシたちの夢の三階級制覇をジツゲンにしてくれます! そうですよねバクシンオー?」
「……ええ! グランさんなら全距離制覇だって夢は見れますとも! 少なくとも短距離は私が着いている限りバクシン間違いないです」
「イエース! イッパイ食べてビッグになってくださいね、グラン!」
お互いニコニコしてグランアレグリアに夢を見ているタイキとバクシンオー。
その様子にわずかだがライトオは違和感を覚えたので、タイキとグランが次の野菜を取りに行ったタイミングでこっそりと聞いた。
「バクシンオー、そういえばキタサンブラックのことは見てやらなくていいのだろうか? 今年はクラシック、トウカイテイオーのように皐月ダービーは取れずとも菊花賞こそは勝って見せると意気込んでいると聞くが」
「ハッハッハ! 無茶言わないでくださいライトオさん。短距離、マイルならともかく中距離長距離で私が何を教えてあげられるんです? 彼女にはテイオーさんにネイチャさん、ゴルシさんだってついているじゃありせんか」
「そうかもしれない。だがバクシンオーはかつて全距離制覇に向けてバクシンしていたはずだ。その時の経験が活きるときではないか?」
ライトオがデビューするよりも前、バクシンオーは短距離以外のレースにも度々出ていた。短距離王者として君臨してターフを去りはしたが、その姿勢は他のウマ娘の模範になっていた。タイキが三階級制覇を未だに夢見ているのもその影響はあるはずだ。
その言葉に、バクシンオーはちらりと遠く離れたタイキとグランを見たあと、本当に小さな声で口にした。
「ウマ娘は……どんなに強くても己の距離適性からは逃れられません。夢を見るのは結構ですが、結局は自分の得意な距離でバクシンするしかないじゃないですか」
「そんなことでお前がバクシン出来るはずがないだろう。1200mを三回勝てば実質3600mの勝利とかメチャクチャ言ってた時のお前は、もっと輝いていたぞ!」
そこでライトオはここに来た理由を一部思い出した。自分はバクシンオーに会って話をしに来たのだと。
「私も最初の三年間はずいぶんバクシンオーの世話になった。何か無理をしてここにいるなら教えて欲しい」
「……ありがとうございます。でも大丈夫ですよ! グランさんの走りはマイルだけでなくスプリントでも通用する。そう思って教えているのは紛れもない本心なのですから!」
それ以上の追求はライトオと言えども許さない、見事な花丸笑顔の断言だった。
だがその花丸は、グランの無邪気で生き生きとした笑顔とは別。枯れても決して色褪せないように加工した押し花のようにもライトオには思えた。
「わかった。なら今はなにも言わない。だが事件が起こればお前がどんな嘘をつこうとも必ず最速で真実に向かわせてもらう」
「……構いませんよ、それがライトオさんのバクシンですから! さぁ、私たちもお野菜をいただくとしましょう!」
そうして2人も、野菜メインのバーベキューに加わりご馳走になることにした。
あとは和やかにバーベキューを楽しみ、タイキにハグされたりロブロイの読み聞かせを聞いたりクリスエスと水の拘りについて話したりして平和に終わるかと思われたとき……本当の事件が起こった。
ドンッ! という聞き覚えのある銃声が、部室の裏側から響いたのだ。
「銃声……に似せた音だな。それにしてもデカい。行ってみよう」
事件の予感は正しかった。ライトオは直線検事として最高速で部室裏に駆けつける。
「……グラン?」
部室裏で、グランアレグリアが倒れて伏していた。その手にはタイキシャトルの持つピストルが握られていて、その手は彼女の頭に向けられている。
まるで拳銃自殺でもしたかのような姿だった。
「グラン? ワタシのピストルをどうし……グラン!! What happened!?」
やってきたタイキが血相を変えてグランに駆け寄った。ロブロイやクリスエス、その後ろにバクシンオーも着いてきている。
「Calm down Taiki. Take her to the nurse's office!」
「あんな大きな音が耳元でしたらまだ体の出来てないグランさんの聴覚に悪影響があるかもしれません……すぐ保健室で見て貰いましょう!」
大切な教え子が銃で撃たれて気絶した姿に完全に狼狽するタイキに、タイキと同じアメリカ出身のクリスエスが英語で素早く指示に、ロブロイがライトオにもわかるよう丁寧に日本語で補足する。
2人の声で我に返ったタイキが、グランを背負って猛スピードで保健室に向かう。
ロブロイも先生への説明のために着いていった。
「ライトオ……Situationを、説明して欲しい。ここで、何が、あった?」
残ったクリスエスが、第一発見者のライトオに質問する。まるで軍人の尋問のような重々しさだ。
「私は銃声を聞き付けて最高速でここに来た。そしたらグランがピストルを持って倒れていて驚いた。タイキがピストルを貸したのだろうか?」
「タイキのピストルは━━いつの間にかなくなっていて、一緒に探していた。そうしたら銃声が聞こえて急いで駆けつけた」
「なるほど、クリスエスは第一発見者の私を疑っているというわけだ。気持ちはわかるが、私は犯人ではない。グランは自分の手で銃を握っていたからな。私は銃に触った覚えはないし指紋鑑定でもなんでもするがいい」
ライトオは自信満々に言った。その様子を見てクリスエスは納得して頷く。
「いいだろう。もしもの時のために部室には指紋鑑定、キットがある。タイキのgunで指紋鑑定をすれば━━criminalはすぐわかるはずだ」
「本当にあるのか、なら話は早い。これで最速で事件解決だ!」
「お二人とも迅速な対応、花丸です! 念のためこの学級委員長も指紋を提供しようではありませんか!」
3人はさっそく部室に向かう。そしてクリスエスがテキパキと指紋鑑定キットを用意し、タイキのピストルを調べた結果……ライトオにとっては、驚くべき結果が出た。
「ついている指紋は、タイキ、グラン、そして━━ライトオ。これはどういうことか……Once again、説明をして貰おう。返答次第では━━生徒会に報告させて貰う」
「なんだと……!?」
驚愕を隠せないライトオに、疑念の目を向けるクリスエス。なにも持っていなくともスナイパーライフルを突きつけられているような威圧感を放っている。
「ああ、なんということでしょう! しかし私はライトオさんが犯人ではないと信じています! まぁさっきマイルが直線かどうかで論破されていましたが……そんなことで可愛い後輩に銃を突きつけることはしないと私だけは信じますとも!」
場違いなほど普段どおり明るいバクシンオーの声。だがライトオはそれを問う余裕はない。
(何が起こっている。いつの間に私の指紋がタイキのピストルに……? そもそもグランはどうして自分の耳に引き金を引いた? 最速で解決しなければ、父の検事バッジどころか私の生徒手帳の危険が危ない!)
ライトオは、この事件の真実へ最速でたどり着くために思考を走らせ始めた。
つづく
グランアレグリアとカルストンライトオ、路線は違うけどどっちもマイルールへの拘りは強いので会ったら仲良くなれそうな気がしつつ久しぶりに前後編です。
タイキやクリスエスの西部劇っぽい雰囲気を出せたらいいなと思いつつ後編も話は固まってるので来週末にでも投稿する予定です。