直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です   作:じゅぺっと

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前回のあらすじ。
直線最高速ウマ娘、カルストンライトオは気がつくとタイキシャトル主催のバーベキューに参加していた。
 そこではタイキシャトルのチームに所属する新入生のグランアレグリアの短距離コーチとしてサクラバクシンオーが参入していた。
 タイキとグランはマイラーによる三階級制覇を強く夢見ており、かつて全距離制覇を掲げていたバクシンオーも共感して協力しているように見えた。
 しかし、バクシンオーはウマ娘が距離適性を越えられることをもはや信じておらずただ短距離王者として力を貸しているだけだった。
 そんなことでお前がバクシンできるはずがない、ライトオはなんとかしようとしたが、一発の大きな銃声が響き渡り、最速で駆けつけたライトオが見たのは手にした拳銃の轟音で気絶したグランの姿。
 タイキのチームのゼンノロブロイがグランを保健室に運び、シンボリクリスエスが指紋鑑定キットでタイキのピストルを調べた結果。触った記憶のないそれにライトオの指紋がハッキリついていることがわかったのだった。


直線検事VSマイル少女と私たちのバクシンはこれからだ!

「カルストンライトオ━━何故。グランアレグリアを撃ったタイキシャトルのピストルにお前の指紋がついている?」

「私が聞きたい。先手を打って前書きで回想しておいたがそんな記憶はない」

 

 まさかの銃撃犯として疑われることになった直線検事ライトオ。シンボリクリスエス相手に自分は犯人ではないと反論する。

 

「そもそも、私が駆けつけた時グランアレグリアは自分の手でピストルを握っていた。私が撃ったわけではない」

「……確かに。だがそれはお前がグランを撃った後ピストルをグランに握らせただけではないか?」

「くっ! 最高速で駆けつけて少し時間に余裕があったのは事実。反論できん!」

「現場にはライトオさんが最速で駆けつけましたからね! クリスエスさんの言うことにも一理あると思いますよ」

 

 バクシンオーは細目でニコニコしながらあっけらかんと口にする。

 指紋に加え第一発見者でもあるライトオが犯人ではないと自力で証明するのは非常に困難だ。

 

「だが、グランは轟音で気絶しただけで死んだわけではない。不本意だが目を覚ましてから本人に聞けば真実は明らかになるはずだ」

 

 目を覚ますまで待つ、というのは直線検事たるライトオにとって望むところではないが一番確実なのは間違いないだろう。

 しかし、クリスエスは少し考えた後首を振った。

 

「それは━━Difficult.あのピストルを耳元で撃たれたものは……記憶を、Lostしてしまう」

「記憶を失うだと!? まさか、タキオンのヤバイ発明品か!」

「Yes.日本でも有名な映画……Men in Blackから思い付いたそうだ。このピストルのことは……チームだけの秘密にしてあった」

「なんと! それでは被害者のグランさんも誰に何故撃たれたかわからないということではありませんか!」

 

 驚くべきことに、あの銃で撃たれたものは直前の記憶や何をしようとしていたかを忘れてしまうらしい。

 クリスエスは無表情だが重厚な威圧感を持ってライトオを見る。

 

「目を覚ましたグランは……なぜ自分が気絶したのかわからず不安になるだろう。それまでに必ず犯人を突き止めて。安心させなくてはいけない」

「さすがクリスエスさん! 後輩を守ろうとするその心意気……花丸です!」

「ふむ、むしろスッキリした。やはり最速で解決するしかない。クリスエス、私を疑う理由を改めて証言してもらおう。そこに私が犯人であることのムジュンがあるはずだ」

「ムジュン……Contradictionか。いいだろう。ただし見つからなければ、このまま生徒会に連行させてもらう」

「さすがシンボリの仕事人にしてこのチームの保安官ですね。話が早い」

 

 ここでムジュンを指摘できなければ犯人扱いを受けてしまう。緊張感の走る部室内でクリスエスは証言を開始した。

 

「あのピストルにはグラン、タイキ、そしてライトオの指紋がついていた。

命に関わることはないが、あのピストルで撃たれたウマ娘は、直前の記憶をLostしてしまう。

ライトオ、お前が犯人なら━━正直に、グランに謝って欲しい。

あのピストルのことはグランも知らない。目を覚ましたら不安になるは」

「異議あり!! その発言は、明らかにムジュンしている!!」

 

 ライトオが、勢いよく指をまっすぐクリスエスに突きつけた。

 クリスエスは無表情のままだが、ピクリと大きな耳を動いたのが見えた。

 

「ライトオさん、今の発言にムジュンなどあったでしょうか?」

「あのピストルで記憶を失うことはグランも知らないのだろう。私がタイキの銃を盗み、グランの耳元で引き金を引いたのなら……記憶を失うことなど知っているはずもない! つまり、犯人でないととぼけることに何の意味もないということだ!」

「それは......Exactly。確かに、そうなるな」

「なるほど! タイキさん本人がライトオさんに教えていないのなら、そういうことになりますね!」

 

 クリスエスは元々あのピストルのことを知っていたので、グランが記憶を失うのをいいことに、ライトオがどうにか犯人から逃れようとしているように見えたのだろう。 

 しかし、それは犯行前にピストルの性質を知らなければ不可能だ。グランが記憶を失なわなければ目を覚ました後本人の証言だけで全て明らかになるのだから。

 

「というか忘れていた。そういえば私も何故このバーベキューに参加したのかよく思い出せない。もしかしたら、私もその銃に撃たれた可能性すらある。指紋はそのときについたのではないだろうか?」

「……ふむ。タイキ本人に、確認の必要があるな」

 

 クリスエスがスマホを操作し、保健室に向かったタイキに連絡を取る。

 ライトオも、注意が逸れたのをいいことに少しスマホをさわり連絡をした。

 しかしクリスエスも仕事が早い。すぐにライトオの行動を見とがめた。

 

「ライトオ、何をしている?」

「風紀委員のフェノーメノに少し捜査を頼んだ。恐らく最後の決め手になるだろう」

「この事件はチームと生徒会で対応するつもりだが……いや、いい。もうじきタイキが来るはずだ」

 

 言うや否や、とこちらに向かって凄まじい勢いで足音が近づいてくる。

 バン! と部室のドアが開いて、タイキが勢いよく飛び込んできた。

 

「ライトオ! アナタをハンニンなんですね! カワイイグランに何をするデスカ!?」

「落ち着け。私は犯人ではない。さっそく聞きたいのだが、むしろタイキこそが真犯人ではないか?」

「ホワッツ!?」

 

 犯人を捕まえにきたはずが逆に犯人扱いされて飛び上がるほど驚くタイキ。

 

「ライトオ。順序よく、説明して欲しい。私はお前への━━Doubtを止めたわけではない」

「指紋がついているのはピストルを握っていたグランさん。持ち主のタイキさん。そしてなぜかライトオさんだけですからね! 少なくともこの三人の誰かによる行いということになります!」

 

 バクシンオーがタイキへことのあらましを勢いよく説明する。

 そしてそれが終わる前にライトオはタイキへの追求を開始した。

 

「タイキ。お前のピストルには私の指紋がついているのだが私には全く心当たりがないし、そもそもこのバーベキューに参加した理由も覚えていない。

 お前がまずピストルで私の記憶を奪ったのち指紋をつけ、それを利用してグランを撃ち私を犯人に仕立て上げたと考えれば辻褄が合うのだが」

「なるほど! タイキさんのピストルに部外者のライトオさんの指紋がついていればまず疑われる……指紋鑑定キットの存在もこの部室のリーダーたるタイキさんならもちろんご存知でしょう! さすがライトオさん、今日も真っ直ぐな推理ですね!」

「ノ、ノー! ワタシがグランを撃つなんてアンビリーバボー!」

 

 タイキは全力で首を振って否定した。その振るまいには一切のウソが感じられない。……グランを撃った、ということに関しては。

 

「ふむ、ここはマイルの事件らしくデュランダルのやり方を真似てみるか。

 タイキ、ウソはお前のためにもならない。何故なら私は……既にお前に撃たれた時のことを思いだしたのだからな!」

「ウソデショ!?  タキオンによれば記憶を戻すには専用の音が……ハッ!?」

「今のスズカさんの物真似ですね? よく似ていますよ!!」

 

 マイル王からとんでもない失言が飛び出したかと思えば短距離王から明後日の方向の褒め言葉が飛び出した。

 クリスエスが頭痛でも起こったように頭を押さえる。

 

「もちろんウソも方便というやつだが。マヌケは見つかったようだな」

「ノー! チガウンデス! ライトオを撃ったのは……その……」

「私を撃ったことは認めるのだな。やはりキサマがグランを撃ち、私に罪を━━」

「Objections! ライトオ、その発言は━━ムジュンしている」

 

 クリスエスが英語で異議を唱えた。

 短距離とマイル組がドタバタしているなか、中距離路線の革命者としてどっしりと事件を見据えていたようだ。

 

「今日はよく異議を唱えられる日ですね。いいでしょう。グランのように私を論破できるものならやってみるがいい」

「ライトオも言ったはずだ、グランはHandにピストルを持っていたと……タイキがライトオに指紋でヌレギヌを着せるなら……気絶したグランにピストルを持たせる手間をかける意味がない。その間にライトオやバクシンオーが最速でやってきてしまうかもしれないからだ」

「フッ、そんなことか……」

 

 ライトオは最速で反論を考えようとしたが、困ったことに気の利いた異議が思い浮かばなかった。

 

「くっ! またしてもぐうの音もでない反論……このチーム、タイキ以外侮れん!」

「このチームのプレシデントワタシですカラネ!?」

「プレシデントはどちらか言うとトレーナーさんでは?」

「━━撃たれたグランを見たタイキのReactionは間違いなく本物だった。タイキがウソをつき、グランを撃つなどあり得ない」

 

 チームメイトとして、アメリカウマ娘同士としてタイキと過ごしてきたクリスエスの言葉には紛れもない確信があった。

 

「しかし私とタイキが犯人でないなら、残る指紋は被害者のグランのみ。まさか、自分で耳元を撃ったのだろうか?」

「案外、そうかもしれませんね! グランさんはまだ入学した幼いポニーちゃんですから、ちょっとしたいたずら心と好奇心だったかもしれません! 彼女はタイキさんのピストルを拝借し、うっかり自分の耳元を撃ってしまったのです!」

「No。タイキも私もマイピストルを持っているが━━」

「略してマイルですね」

「勝手に触らないよう、グランには伝えてある」

「グランはヨイ子ですからね、チームのルールとマイルール破ったことアリマセン!」

「なんと! では悲しいですがやはりライトオさんが犯人なのでしょうか?」

 

 短距離組が2人でさっさと結論を出そうとするが、タイキとクリスエスが揃って否定してしまった。

 ライトオは最速で事件現場に駆けつけ、指紋という明確な証拠もあった。なのにここまで話し合った結果振り出しに戻ってしまった。

 

(……おかしい。私の記憶が曖昧なせいもあるだろうが、本来なら今頃とっくに事件は最速で解決されているはず。まさか、誰かが私並みの速さで事件を誘導しているのか?)

 

 ここまで話して、ライトオの頭脳に違和感が浮かんだ。

 己の胸の直感に従い、ライトオはタイキに尋ねる。

 

「タイキ。お前はこのピストルのことをチーム以外の誰かに話したことは?」

「モチのロン、ありマセン! チームと発明したタキオンのヒミツです!」

「では……私以外にこのピストルを使い誰かの記憶を奪ったことは?」

「ッ! ソ、ソレハ……」

 

 タイキが、明らかに動揺した。そしてバクシンオーをチラリと見たのをライトオは見逃さなかった。

 しかしそこを追求する前に、バクシンオーが最強最速でタイキに明るく声をかけた。

 

「どうしたのですかタイキさん! 私とあなたは共にグランさんの三階級制覇を夢見る仲間じゃないですか! 私たちの絆にウソ偽りなどあるわけがありませんよね! それとも━━」

「ストッーーーーーーープ!!」

 

 タイキが部室内に響き渡る大声を上げた。

 肩を震わせ、うつむき……絞り出すように言う。

 

「認める……認めマース……ワタシがこのピストルで、グランを……いえ。ロシアンルーレットの名目で、グラン自身にトリガーを引かせたんデース……!」

「ロシアンルーレット……?」

「ああ、タイキさんが犯人だったのですね! 恐らく後輩と楽しくロシアンルーレットごっこで遊ぶつもりだったのが、うっかり記憶を失う機能を入れっぱなしにしてしまい、グランさんが気絶してしまい動転してしまったのでしょう……悲しい事件です!」

 

 バクシンオーが最速でタイキに自白させ、事件を解決してしまった。

 

「タイキ、本当にお前が……ロシアンルーレットをグランに?」

「ソーリークリスエス……ワタシ……パニックになって……」

「ああクリスエスさん、タイキさんを許してあげてください! 大切な後輩を己の不注意で傷つけてしまった……多少の混乱はやむを得ないでしょう! 私も後ろで見ていましたが、タイキさんが本気でグランさんを心配したのも当然です。事故だったのですから!」

 

 訝しげなクリスエスにグランに駆け寄るタイキの動揺は本物だった理由を説明するバクシンオー。

 そしてライトオの脳内には……ロシアンルーレットの一言で確かに存在する記憶が溢れだしていた。

 自分がタイキのチームに駆け付けた理由はバクシンオーがタイキのチームに入った理由を問いただすため。

 タイキに挑まれたロシアンルーレットで5回引き金を引くことで勝利したものの、タイキの自分の手の上から引き金を引かれ意識と記憶を失ったこと。

 本来の記憶を取り戻し調子の戻ったライトオは━━今度こそ、真実にたどり着いた。

 

「……検事の父さんが言っていた。不可能を排除して、残ったものがどんなに信じられなくても、それが真実であると」

「シャーロック・ホームズの台詞ですね! ロブロイさんから聞いたことがあります!」

「む、そうなのか。だが今はそんなことよりバクシンオー。真犯人は、お前だな?」

 

 事件の間ずっといつも通りドタバタ動きながら推理を述べていたバクシンオーの動きが。ピタリと止まった。

 

「ハッハッハ。ピストルには私の指紋はついていませんよ? 私が犯人な訳がありません!」

「ロシアンルーレットだ。相手に引き金を引かせてしまえば、自分の指紋がつくことはない」

「ああ、なんということでしょう! 確かにその可能性を忘れていました、それでは私だけでなくクリスエスさんやロブロイさんにも犯行は可能にだったことになりますね」

 

 大げさに驚いたポーズを取るバクシンオー。思えば、事件が起こってからバクシンオーはずっとこの調子だった。

 

「そもそもロブロイとクリスエスはずっと2人で行動していただろう。このように、自分以外に嫌疑を向け続けて自分への疑いを最速で反らしていたわけだ。この私が真実にたどり着けなかったのも納得する」

「まぁ、もうタイキさんが自白されたので関係ありませんが……何故突然私が犯人だと?」

「バクシンオー。お前はグランアレグリアの三階級制覇など信じていないだろう」

 

 その言葉に、バクシンオーではなくタイキとクリスエスに驚きが走る。チームとグランの夢である三階級制覇を否定したのだから当然だ。

 だが、ライトオは怯まない。頭の中では真実への一直線を既に駆け抜けている。

 

「今のお前はバクシンを忘れたただの短距離オーだ。私もタイキもグランも犯人ではあり得ないムジュンがあるなら、お前しかいない」

「ああ、私のバクシンを信じて貰えないなんて……悲しいです! 私は心の底からグランさんの短距離の才能を信じているというのに! 私が彼女に引き金を引かせ、その罪をライトオさんに押し付ける必要が?」

「グランは初対面で私を論破するほどの天才肌だ。恐らく、お前の本心に気付いてしまったのだろう。その事実を隠蔽するため、ロシアンルーレットに勝てば教えてやるとでも言い彼女の記憶を奪ったのち、他人に罪を着せることにしたのだ」

「ふぅん……あくまで私を疑うんですね」

 

 バクシンオーがその顔に手を当てる。まるでスパイが変装を剥がすように顔から手を離すと、その瞳からは……いつもの綺麗な桜模様が消えていた。

 

「だとしても、私が三階級制覇を信じていないなんてこの場で言わないで欲しかったですね。嘘も方便だとさっきライトオさんも仰ったじゃないですか」

「バクシンオー……そうか……私たちの夢を信じてくれていたわけでは、なかったのか」

 

 クリスエスの耳が心なしかしょんぼりした。バクシンオーはうってかわって淡々と告げる。

 

「誤解なさらず。グランさんの才能やクリスエスさんの中距離指導を疑っているわけではありません。ウマ娘にはそれぞれ距離適正があり、走れる路線は限られる……トレセンに入学一年生でも知っている当たり前の話です」

「かつてスプリンターにして全距離制覇を掲げていたお前がそんなことを言うとはな」

「やめてください。今の私は短距離の王座に座り続けるだけの亡霊……忘れることにしたんです、全距離制覇なんて言葉」

「タイキもさぞ驚いたのだろう。思わず引き金を引き、バクシンオーはピストルによる記憶喪失を知ったはずだ」

 

 タイキが突然自白をしたのは、バクシンオーが三階級制覇の約束を口にした途端だった。よっぽどその時にピストルを使ったことを追求されたくなかったのだろう。

 タイキ本人は、この世の終わりのような顔をして言葉を失っている。

 

「そして私の推理だが、恐らくバクシンオーは記憶を失っていない。むしろ、記憶を失ったのはタイキの方なのだろう? タイキ、お前はバクシンオーにチームに勧誘したときのことを正確に覚えているのか?」

「それは……トーゼン……」

 

 タイキの耳がピクリと動く。思い出そうとして両手でこめかみをぐりぐりとする。

 

「お、思いだせマセン……!? バクシンオーがチームに入ると言ってくれて、でも話の内容はよく覚えてなくて……それでワタシ、きっとグランのために、ワタシの夢のためにこのピストルを使ったとバカリ……!」

「ウマ娘は自分の夢のためなら普段からは考えられないほど思い詰めるやつも珍しくない。タイキにとって三階級制覇は、それほどの夢だったんだな」

 

 グランアレグリアの掲げる三階級制覇はタイキシャトルにとっての夢、その実現のためならなんでもすると意気込んだ。そのためならなんでもして見せるという思いが、皮肉にも記憶喪失によって強まってしまったのだ。

 

「やはりバクシンオーは予めピストルによる記憶喪失を知っていた。故に三階級制覇の夢の真相に気付いてしまったグランアレグリアをまだ気付いていない状態に戻すために記憶を失わせた。これがこの事件の真実だバクシンオー!」

 

 ライトオは真っ直ぐ、最高速で人差し指をバクシンオーに突きつける。

 真実を見破られたバクシンオーは、大げさなリアクションを取ることも狼狽えることもなくただ無表情で受け止めた。

 

「ライトオさんの言うことも辻褄はあっているかもしれません。しかし、何の証拠もありませんよね? 私がグランさんにロシアンルーレットをさせたという根拠は、どこにもありません。指紋が関係ないならもしかしたら部外者の犯行かもしれませんよ?」

「くっ、やはりそうくるか!」

 

 最強最速の反論が飛んできた。今ライトオがたどり着いた真実は犯人はライトオでもタイキでもグランでもないという消去法に過ぎない。バクシンオーが犯人だという決定的証拠をつきつけない限り、彼女は真実を騙しつづけるだろう。

 

「……保健室のロブロイから連絡だ。グランが、無事目を覚ましたらしい。やはり記憶はなく……もうじきここに戻ってくるそうだ」

 

 クリスエスがスマホを見て言う。グランが無事目を覚ましたことは喜ばしいが、戻ってくる前に真実を突き止めなければこの件はうやむやになってしまうだろう。

 バクシンオーは普段のニコニコ笑顔に戻り、タイキに聞く。

 

「さぁタイキさん、どうします? 真実はわからない以上、さっきあなたの自供通りロシアンルーレットで遊んでいたらピストルが暴発してしまったことにでもすればグランさんも怖がることはないでしょう。このチームのプレシデントとして、決定をお願いします」

「バクシンオー……三階級制覇を信じてくれなくても、短距離をグランに教えてくれるのはホントなのですね?」

「もちろんです! 学級委員長として短距離王として、約束を守りましょう! それが私の……バクシンなのですから!」

「わかりマシタ……なら、ワタシからグランに謝りマース……それでこの事件は終わりに」

「異議あり!!」

 

 ライトオが、全身全霊を込めて異議を唱えた。タイキとクリスエスが驚き、バクシンオーが無表情に戻った。

 

「学級委員長にして短距離王。それこそがこの事件最大のムジュンだったのだ。バクシンオー、お前は銃声が鳴ってから一番最後に現場に駆けつけたな。

 学級委員長であり短距離王であるお前がゆっくりやってくるなど、それ自体がムジュンしている!」

 

 銃声がなった時点での各々の細かい居場所はわからないが、同じバーベキューをしていてそう離れていたわけではない。ライトオが最高速で駆けつけたのとほぼ同時にバクシンオーがやってこなくてはおかしい。

 

「……私が最初の三年間を走りきってからもう随分経ちました。私が衰えたとは思わないのですか?」

「当然だ。だってお前はサクラバクシンオーだから。直線最高速は私でも短距離最強はお前しかいない。1200m以内の距離でお前がいの一番に駆けつけないわけがない」

 

 それを正面から指摘されたバクシンオーは……心底おかしそうに、腹を押さえて笑った。

 

「ハッハッハ! それを言われてしまうと認めざるをえませんね! 学級委員長と短距離王であることにウソはつけませんから!」

「下手な嘘や誤魔化しなどすればするほど最高速からは遠ざかるだけだ。グランには全て正直に話してグラン自身がどう指導して欲しいか決めるべきだろう。それが、グランの為ではないか」

「タイキ……私も、そう思う。お前の夢……三階級制覇のことはわかっているが。そのためにグランを混乱させては、ダメだ」

 

 公式レースを引退したウマ娘にもそれぞれ心残りや悔いはあるだろう。しかし未来のレースは未来を走るウマ娘たちのものだ。

 タイキは瞳に涙を浮かべながらも、しっかりと頷いた。

 

「わかりマシタ。グランにはジジツをお話しして……ワタシから、謝りマース。無理やりバクシンオーをチームに入れたワタシの責任であることは、間違いありマセンから!」

「よし、これで一件落着だな。最速とはいかなかったが、まさにマイルレースくらいの速さで解決したといえるだろう」

 

 これで後はグランとロブロイがこの部屋に戻ってくるのを待つだけ。

 クリスエスがふと思い出してライトオに聞く。

 

「Way ……ライトオ。最初にフェノーメノに頼んでいたが。あれはなんだ?」

「あっ忘れてた。もう来るかもしれない」

「来る?」

 

 その時、部室の外から大きなメガホンのスイッチが入る音がした。

 

『タイキシャトルさん!! 今すぐ妙なピストルをこちらに渡すであります!! タキオンさんは既に捕らえました、ウマ娘の記憶に影響を与えるなど、犯罪であ゛り゛ま゛す゛!』

『ライトオくぅん! 事件解決のためとはいえ私を風紀委員に通報するなんてひどいじゃあないか! 私が何をしたって言うんだい!』

『あなたが妙なものを作らなければ事件は起こらなかったであります! グランさんだけでなく関係者全員に謝るように!!』

 

 ……トレセン全体に響き渡る大音響だった。ここに向かってくるグランにもバッチリ聞こえたことだろう。

 

「正直ピストルで記憶がなくなるとかいうトンチキアイテムが出てきた時点で堂々巡りになることは予想できた。なので製造元であるタキオンを締め上げて記憶をもとに戻させた方が速い」

「自分が犯人と疑われても最速を貫く……それがライトオの仕事か。今回のこと……礼を言う」

 

 クリスエスは感心している。タイキは大人しくピストルを渡しに部室から出て行こうとした。

 しかしドアを開ける直前先に向こうから開き、そこには被害者であるグランアレグリアがいた。

 

「グラン……ワタシは……」

「みなさん、おはマイル! ……ご心配お掛けしました!」

 

 言葉に詰まるタイキと反対に、グランは元気よく頭を下げた。

 

「タキオンさんに記憶を戻してもらって、事件のこともロブロイさんとクリスエスさんの連絡で教えて貰いました! 私、聞かれたくないことを聞いてしまったんですね……」

「いえいえ。グランさんに非は全くありませんとも! むしろ怖い思いをさせてしまい、申し訳ない限りです。ごめんなさい!」

 

 バクシンオーは、素直にグランに謝罪した。

 それを見届けてから、ライトオは気になっていたことをグランに尋ねる。

 

「ところで、ロシアンルーレットはバクシンオーの提案で行ったのだろうか?」

「いえ、バクシンオー先輩がタイキ先輩のピストルを拾ったみたいなので、私が勝ったら教えてくださいってお願いしたんです!」

「バーベキュー後のゴミ拾いをしていたら、タイキさんのピストルが落ちていたのでゴム手袋越しに拾ったんですよ」

「でもまさか一発目で音がして気絶してしまうなんて……それで先輩方にもご迷惑をかけちゃいました」

「いやはや、なかなかの早打ちでした。タイキさんやクリスエスさんの愛弟子なだけはありますね!」

「ふむ。つまりまとめるとだ」

 

 ライトオは頭の中の情報を整理して事件を振り返る。

 まずことの始まりとして、先日タイキがバクシンオーをチームに入れるためピストルを使ったが記憶を失ったのはタイキだった。

 バクシンオーはタイキが三階級制覇に思い詰めていると知りせめて短距離だけでも協力しようと同じ夢をみたフリをする。

 今日、ライトオがバクシンオーを連れ戻しにやってきたのをロシアンルーレットを装ってライトオの記憶をタイキが消す。

 しかしグラン本人がバクシンオーの違和感に気付いて質問し、しかも直後にグランはピストルで記憶を失ってしまった。

 

「いやー驚きましたね! これ幸いと私は事件と無関係ということにしてグランさんに気付かないようにしてあげるべきかと思いましたが……ライトオさんの言う通り、真実を最速で伝えるべきだったようです」

「そのために私に濡れ衣を着せようとしたのか?」

「どのみち、記憶がない以上真実はわからないはずでしたから。最終的に誰のせいかはわからないように━━上手く騙してあげるつもりでしたよ?」

 

 バクシンオーがニッコリ笑うが、その心の奥底はライトオにも計り知れない。

 

「だが1つハッキリしていることがある。お前と初代マイル女王のアイツが短距離とマイルを分かち、それぞれの距離適性が存在するからこそ三階級制覇や全距離制覇の夢は終わらない。お前のバクシンもまだこれからだということだ」

「ええ、そうですね……その通りですとも。ありがとうございます、ライトオさん」

 

 2人で話していると、グランが勢いよく手を上げた。

 

「あたしはまだ入学したばかりですけど……必ず示して見せます。マイルの無限の可能性を! マイルを極めれば短距離だって中距離だって、もしかしたら長距離だって勝てるかもしれない、それがマイルなんだって……タイキさんやあの人が教えてくれましたから!」

「フッ、いい心がけだ。私はマイルでも長すぎるくらいだが、直線のことならいつでも聞きに来るがいい。そしてマイルを直線のみの哩表記に変えてや……る……」

 

 バタり、とライトオはその場に突っ伏した。

 ライトオのスタミナはマイルでも長すぎるほど少ない。それは頭のスタミナも同様でありここまで推理するのにかなり無理をしていた。もうなにも考えられないほど眠い。

 

「ああっライトオさん! すぐ保健室に連れていかないと! あたし、もう一往復してきます!」

「いえ、寮室で問題ないかと! この学級委員長にお任せください。グランさんは病み上がりですからね!」

 

 こうしてライトオは、バクシンオーにおぶられて眠ったまま寮室に搬送された。

 

 

 

「……フライトさんと袖を分かち、トレーナーさんが私を騙すのをやめて短距離最強の王座に座り続けて、もう何年か。私の体感的にはもう30年近く経ったような気さえします。

 でもあなたという直線最高速がいてくれて、あなたがいつでもまっすぐ、嘘いつわりなく真実を一直線に追いかけてくれて……これでも感謝してるんですよ? 直線検事ライトオさん」

 

 その呟きは眠るライトオの記憶にはもちろん残ることなく。目覚めたライトオには、今回も無事事件を解決してバクシンオーのことを決着をつけたという記憶だけが残っていたのだった。

 

 




思った以上にバクシンオー編が長引いてしまいました。今回は少し真面目な後書きをします。

この作品におけるサクラバクシンオーは逆転裁判5に出てくる刑事さんがモチーフになっています。いつも元気いっぱいで感情豊かに見えるバンバン正義を貫く人ですね。

直線検事ライトオのお話を考えるに当たって真実をまっすぐ、追い求めるライトオの対となる嘘がつけるウマ娘も話しに絡むと面白いかなと考えた結果、短距離最強にして元気いっぱい、だけど嘘が本人のシナリオに絡むバクシンオーが相応しいかなと考えた次第です。

とはいえ、ウマ娘を逆転裁判原作のような完全な悪者にするわけにもいかないのでどうオチをつけるかはずっと悩んでいたのですが、そこで某満足さんのことを思い出しました。
だったらこれでバクシンするしかねぇ!と思い書き上げたのがここ数話になります。

次からはまたライトオやフェノーメノがドタバタしたり、バクシンオーも普通の委員長スマイルで茶々をいれに来るかもしれません。

話を考えるのに時間がかかるため不定期更新にはなりますが、よければお付き合いいただけると幸いです。
スプリンターつながりで、キングやケイエスもいつか事件に絡んできてほしいところ。
お読みいただき、ありがとうございました。
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