直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です   作:じゅぺっと

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オルフェの弔い裁判

 

 

「直線御者カルストンライトオ、誰かを運ぶのも最速です。ただし乗せるのが王様だろうと直進以外はお断り。自分を曲げるくらいなら乗せた人ごと壁にぶつかった方がマシです」

「どうした急に」

 

 直進最高速ウマ娘、カルストンライトオはトレーニングの終わりに突然己のトレーナーにそう宣言した。

 ライトオの発言が最速かつ唐突なのはいつものことだが意図が読めず訝しむトレーナー。

 

「聞いてくださいトレーナー。私は昨日、オルフェさんに余の目の前で事件を解決しろなどという無茶振りをされました。しかし事件解決は被害者と犯人のためにするもので見世物じゃありません」

「さすがオルフェーヴル、噂通りの暴君っぷりだな……それがどうして御者の話に?」

 

 王様、という言葉はオルフェから出てきたのかと納得しつつライトオに話したいようにさせてあげるトレーナー。

 

「代わりに直線最高速度を体感させてあげようかと御者になることを提案してあげたのです。近くにゴルシさんの焼きそば屋台も置いてありましたし」

「ライトオは優しいな」

「そうでしょう。にも関わらずオルフェさんは帰れの一言で話を打ち切りました。その事を思い出してやる気が下がったので代わりにトレーナーを乗せて運んであげます」

「そうきたかー……」

 

 ライトオはいつも通りのキリッとした真顔だが善意を無碍にされて内心モヤモヤしているのだろう。

 トレーナーとしては担当のやる気のためにも運ばれてやりたいところだが、ライトオの直線最高速は70kmすら越える。なにかにぶつかって衝撃を受ければウマ娘ならともかく人間は重傷を負いかねない。

 少し考えてから、ライトオに尋ねるトレーナー。

 

「俺が乗っても直進以外はお断りか?」

「私がトレーナーと走る道なら全てが直進。よってトレーナーの指示通り走ってあげます。人生を共に駆け抜けた仲ですからね」

「まだ人生は駆け抜けてない。……が、それならお願いしようかな」

「やっほう! ではトレーナー、私の背中に捕まってください」

「直乗り!?」

「ここに屋台はないのだから仕方ありません。ほらハリーハリーハリー」

 

 ライトオが背中を向けつつ器用にトレーナーに迫る。

 トレーナーは少し身じろぎしたが、言質は取られているので覚悟を決めてその肩に手を置こうとした時━━ライトオのスマホに着信音が鳴った。

 電話はワンコールで出るのがライトオの流儀だが、珍しく2回目で出た。心の中で葛藤があったのだろう。

 

「なんですか、誰ですか、今すごくいいところ」

「ナカヤマフェスタだ。ククッ……お楽しみ中だったかい? 悪いが、事件さ検事さん」

「…………わかりました、最速で駆けつけましょう」

「遠征推進委員会の部屋の前で待ってるぜ。ちなみに被害者はオルフェ、被告人はゴルシさ。ヒリつく事件になりそうだろ?」

「あまり気乗りしませんが、父さんの検事バッジを賭けて解決してやりましょう」

 

 カルストンライトオの父親は検察官であり、真実をまっすぐ最速で解決する志はライトオにも受け継がれている。

 よって近くで起こった事件は直線検事カルストンライトオとして最速で事件を解決するのだ。

 

「トレーナー。後ろ髪が引きちぎられる思いですがあなたを乗せて運ぶのはまた今度にします。その代わり解決したらたくさん褒めてください。デュランダルのトレーナーにも負けない勢いでお願いします」

「行ってらっしゃい! 立派なお父さんを見習ってて凄いぞ。さすが自慢の担当だ」

 

 言葉とは裏腹にライトオはいつもの最高速ダッシュで駆けていった。トレーナーは手を振って見送りつつ内心ほっとした。

 そしてものの数分でライトオはナカヤマの待つ遠征推進委員会の部屋前に到着した。

 

「カルストンライトオ、現場到着も最速です。けどメノではなくナカヤマさんから依頼されるとは思わなかった」

「もちろんメノのやつもいるが……あいつはゴルシを疑っててね。日頃の行いってヤツさ」

 

 警察ウマ娘、フェノーメノが問題児代表ウマ娘ゴールドシップを追いかける光景はすっかりトレセンやレース場での日常となっている。

 

「とはいえ、私を呼んだからには何か理由があるのでしょう。事件概要の説明をお願いします」

「電話で話した通り被害者はウチの王様オルフェーヴル。あいつがジャーニーの遠征推進委員会の部屋でぶっ倒れてるのが発見された。頬には真っ赤なビンタの跡がついてるそうだ」

「ふむ、その手形がゴルシと一致したと」

 

 ナカヤマは胸ポケットからタバコでも出すような手付きで棒つきキャンディを取り出し、口に咥えた。

 

「事件直後にジャーニーが消毒して保健室で寝かせたようだから指紋はわからねぇが……ビンタの手形からして大柄なウマ娘であることは間違いねぇようだ。そして、現場には食いかけの焼きそばが放置されていた」

「ほう、それならメノが疑うのも当然ですね。しかしなぜ遠征推進委員会で焼きそばを?」

「あの王様は、暇を持て余すと誰かを呼んで余興をさせる癖があってね。事実、ゴルシも呼ばれてたのは間違いねぇようだ。新作焼きそばを食わせろってな」

「そういえば私も昨日無茶振りをされた。明らかに怪しいですがゴルシ本人は今どこに?」

 

 ナカヤマが廊下の端を指差すと、用意されたベンチにゴルシがぐったりと倒れていた。

 

「相討ちにでもなったのか? さっさと犯行を認めてオルフェさんと保健室で寝ることをオススメする」

「なんだぁオメェ、寝る寝るってよぉ……焼きそばは寝かさねー、打ち立て、切り立て、焼きたての三タテらぁ……うぷっ」

「ゴルシは事件の前からご覧の有り様でね。オルフェをビンタして気絶させるほどの元気があったとは思えねぇのさ」

 

 ゴルシの返答はいつも通りふざけてこそいるが、調子は本当に悪そうだ。それを知っていたからこそナカヤマはゴルシが犯人ではないと考えているようだ。

 

「何故ゴルシは不調なのですか」

「ゴルシちゃんの新作焼きそば、ロイヤルカップ焼きそばの試作してたらいまいちでよぉ……」

「高級なのか安物なのかわかりませんね」

「おいおい、ゴルシちゃんの焼きそばをカップ麺と同じにすんなよ? ロイヤルビタージュースを麺に練り込んでソースにカップケーキの甘さを足した新感覚焼きそ……おえっ」

「まずそう。いやクソマズイからご覧の有り様なのですね、わかりました」

 

 ライトオはやったことがないが、一時期トレセンではロイヤルビタージュースを飲んでやる気を下げる代わりに体力を回復させてからカップケーキでやる気をあげる体調管理が流行っていたことがあるらしい。

 それを焼きそばで再現しようとした結果、ただただやる気が下がって不調になっているようだ。

 ゴルシが今にもリバースしそうなのでさっと距離を取りつつナカヤマに話を戻す。

 

「ところでジャーニーさんは? オルフェさんがビンタされて気絶したなら真っ先に彼女が血眼になって犯人捜しをしそうなものですが」

「そこも妙なところでね。オルフェを保健室まで運びたいのもあったろうが、捜査はメノに一任してやがる。オルフェに手を上げたやつの始末を人任せにするなんざらしくねぇ」

 

 ライトオは頭の中で話をまとめる。

 オルフェをビンタしたのは大柄なウマ娘で、現場にはゴルシの焼きそば。

 だがゴルシは今日体調不良で、オルフェの姉であるジャーニーの行動も多少不自然。

 

「しかし、現状ゴルシが犯人でないと言いきる根拠はありませんよね」

「ああ、私も今日ずっとゴルシと一緒にいた訳じゃねえからなぁ」

「私は弁護士ではない。よってメノとジャーニーさんから話を聞いてゴルシが犯人だと判断したら遠慮なくそう言います。構いませんね?」

「構わねぇよ。それなら私が賭けに負けたってだけの話さ」

 

 ナカヤマは仲間のゴルシが犯人扱いされている状況すらギャンブル感覚で楽しんでいるようだ。

 

「まさか昨日事件を目の前で解決しろとか無茶振りしてきたオルフェさんが被害者になるとは思わなかった。せっかくだし弔い裁判をしてやろう。ではお邪魔します」

「死んでねえけどな。ククッ……オルフェには悪いが、楽しませてもらうぜ?」

 

 遠征推進委員会のドアを開けるライトオ。中には警察ウマ娘のフェノーメノと、この部屋の主にしてオルフェーヴルの姉であるドリームジャーニーがいた。

 

「ライトオ検事!? 出動お疲れ様であります! しかしご安心を、この事件は既に本官の手で解決しています!」

「ふむ……ナカヤマさんが呼んだのですね? ですが……フェノーメノさんの捜査に間違いはないかと。立ち話もなんですし、どうぞお掛けください」

 

 ライトオに敬礼するメノに、ナカヤマを注意深く見つめるジャーニー。

 大きなテーブルを挟んでライトオとナカヤマ、メノとジャーニーで両サイドに座って話をすることになった。

 会話の口火を切ったのは、もちろんライトオだ。

 

「メノ、事件概要はナカヤマさんから聞いている。やはりゴルシを疑っているのだろうか?」

「はっ! 本官の捜査によって集めた証拠品は、間違いなくゴルシさんが犯人であることを示しているであります!」

 

 メノはスマホを操作し、2枚の写真をライトオに見せてくれる。

 1枚は、気絶したオルフェの頬に残る真っ赤な大きな手形の写真。犯人が大柄なウマ娘であると示すもの。

 そしてもう1枚は、この部屋のオルフェ専用の机に置かれた焼きそばの写真だ。茶色い麺に紅しょうがの乗った焼きそばを盛ったフードパックに、箸も添えられている。

 

「さらに、今日の余興は事前に予定されていたものらしく、部屋にはゴルシさんの名が書かれた白い紙が置いてありました」

「なに? それは知らなかった。どんな紙だろうか」

「いわゆる……めくりと呼ばれるものですね。漫才や落語の寄席で出演者の名が書かれているものです」

 

 ジャーニーが部屋の隅を示すと、そこにはめくりに『ゴルシの焼きそば』と書かれていた。

 何枚もの白い紙が重なっており、最近動かされた跡もある。

 

「ではメノ、ゴルシが犯人だと思う理由を証言してもらおう」

「了解であります! 本官の捜査にムジュンないことを証明させていただきます!」 

 

 フェノーメノが立ち上がり、再度敬礼のポーズを取る。

 警察を志すものの威信を賭けて、証言を開始した。

 

「オルフェさんをビンタで気絶させたのは、ゴルシさんに違いありません。 

 手の大きさ、現場に招かれたことを示すめくり。そして残された焼きそば。

 匂いを嗅いだところ、紛れもなく普段ゴルシさんが作っている焼きそばであり」

「異議あり!!」

 

 ライトオが立ち上がり、メノの言葉を遮って大声を上げた。

 

「ほう……出やがったか、お得意の異議ありが」

 

 ニヤリと笑うナカヤマ。これがライトオのやり方であり、捜査の情報から相手の証言のムジュンを引きずり出し一直線の真実へ最速で向かっていくのだ。

 異議を唱えられたメノは普段ライトオの推理力を信頼しているが、今回ばかりはにわかには信じられないようだ。

 

「バカな!? 本官の鼻が匂いを嗅ぎ間違えるなどあり得ないであります!」

「メノ、お前の鼻の良さと捜査は信頼している。だからこそ、私の知る情報とムジュンしているのだ」

「ど、どういうことでしょうか?」

 

 フェノーメノの嗅覚はウマ娘の中でもとびきり鋭く、日常とは違う事件の匂いのみならず料理から使われている調味料を正確に判断できるほどだ。

 

「今日ゴルシが用意しているのは普段の焼きそばではなく新作焼きそば……なんでもロイヤルビタージュースを麺に練り込んでいるそうだ」

「あの匂いを嗅いだ瞬間やる気が下がる代物を焼きそばに!? 食べ物で遊ぶなど、犯罪であ゛り゛ま゛す゛!!」

「一応トレセン公認の飲み物なんだがなぁ……ま、私も二度と飲みたかないがね」

「そんな代物の匂いをメノが見逃す……いや嗅ぎ逃すなどあり得ない! これはアキラカにムジュンしている!」

「ぐおおおっ!! し、しかし本官が嗅いだあの焼きそばは一体……!?」

 

 メノが普段のゴルシ焼きそばを見たのは事実であり、証拠写真も残されている。

 メノが頭を抱えると、黙っていたジャーニーがすっと手を上げた。

 

「難しく考える必要はありませんよ、メノさん。ゴルシさんが新作焼きそばを作っていたとしても、今日オルに用意したのはいつもの焼きそばだったのです」

「ほう……我らが若頭はどうお考えだい?」

「若頭。ああ、そういえば今日の事件関係者はステゴファミリーと呼ばれる皆さんですね」

 

 被害者のオルフェに、被告人のゴルシ。警察のメノに、事件現場の主のジャーニー。そして依頼人のナカヤマはステイゴールドを慕うウマ娘としても知られている。

 5人集まるとさながら裏社会の面子のように見えるともっぱらの評判だ。

 

「ゴルシさんはオルに新作焼きそばを作れと言われたものの、上手くいかず普段の焼きそばを出した。

 それに気づいたオルはゴルシさんと口論になった末、ビンタを受けて倒れてしまったのです。これでなんのムジュンもありませんね?」

「……確かに、それなら辻褄は合いますね。オルフェさんとゴルシさんが口論になるのも、過去に全くなかったわけではありません」

「さすがジャーニーさん。デュランダルから聞いた通りの理論展開の速さです」

 

 オルフェとゴルシの仲を一言で言うなら王様と道化。普段は仲良くやっているが、長い付き合いであればたまには喧嘩もあったのだろう。

 しかし、ライトオは指を1本たててチッチッチと振った。

 

「しかし、それでもムジュンはある。ゴルシはさっき焼きそばは打ち立て、切り立て、焼き立ての三タテだと言っていた。彼女は普段焼きそばを作り置きしておくのだろうか?」

 

 ライトオはゴルシの素行を詳しく知っているわけではない。しかしこの場にいるのはゴルシと関わりの深いメンバー。ナカヤマは愉快そうに笑い答えた。

 

「あいつの焼きそばはいつも当日に全部作って全部捌ききるからなぁ。仮に前日に残してたとして、作り置きをオルフェに出すバカじゃねえさ」

「た、確かにいつも出来立ての美味しい焼きそばですが……それでは普段ゴルシさんが作る焼きそばが現場にあった理由に説明がつかないであります!!」

「この状況に説明をつける方法がひとつだけある。そうですよね、ジャーニーさん」

 

 ライトオがジャーニーに問うと、彼女は首をかしげてパッと見柔和な微笑みを浮かべた。

 

「さて、なんのことだか……」

「父さんが言っていた。検事をしていれば裏社会の人物と関わることもある。そういう事件では、証拠のねつ造にも注意しなくてはならないと」

「おやおや……恐ろしいですね。私にはとても真似出来そうにありません」

「冗談は背の低さと性格のミスマッチだけにしてもらおう。ジャーニーさん、あなたがゴルシさんの焼きそばを再現して部屋に置いてから、メノに捜査の依頼をした。ゴルシに罪をなすりつけるために。違いますか?」

「な、なんですと!?」

 

 ゴルシの普段作る焼きそばは今日は新作焼きそばの開発のため存在せず、作り置きも存在しない。

 となれば、誰かがゴルシの焼きそばを真似て作り、この部屋に置いたのだ。

 

「簡単に言いますが、ゴルシさんの焼きそばはプロ級です。私の腕前ではとても再現など……」

「メノが嗅いだのは匂いだけ。食べかけの焼きそばを置いておけば誰も口はつけません。材料さえわかっていれば、匂いは再現できる」

「で、どうなんだいジャーニー? 実際、検事さんの言う通り誰かが焼きそばをねつ造しなきゃこうはならねぇぜ」

 

 ナカヤマが挑発するように指で頭をトントンと叩く。

 ジャーニーはやれやれと溜め息をついた。

 柔和に見せていた微笑みが、一瞬荒々しいものに変わる。

 

「私はねつ造などしておりません。そもそも……何のために私がそんなことを? 

 私が。オルを気絶させた犯人を。庇っているとでも?」

 

 怒気を含んだジャーニーの反論。

 オルフェの姉であるジャーニーの溺愛っぷりは凄まじいことはライトオも知っている。

 ライトオは内心怖いのを圧し殺しつつ真顔を維持して反論した。

 

「確かに、オルフェさんを気絶させた犯人がそこらのウマの骨であれば誰よりも速くジャーニーさんが始末したことでしょう。しかし、ジャーニーさんが大切にしているのはオルフェさんだけではありませんよね。デュランダルから聞いています。あなたは見た目よりもずっと情に厚いウマ娘だと」

「そうさなぁ、オルフェだけじゃなくアネゴやマックイーンへの敬愛も相当なモンだ」

「それで? 何が言いたいのですか? アネゴやマックイーンさんが犯人だと口にしたなら……ド腐れコバエとして始末することになりますよ?」

「ジャーニーさん、落ち着くであります!!」

 

 ジャーニーの中の獰猛な魂が溢れるような殺気に思わずメノが制止に入る。

 だが、ライトオとしても何もステゴやマックイーンを犯人扱いしたい訳ではない。

 

「それはない。オルフェさんの頬のビンタの跡は犯人が大柄なウマ娘であることを示している。焼きそばと違って保健室で寝ているオルフェ本人がいる以上、これはねつ造の出来ない証拠品です」

「つまりアネゴにマックイーン……それからジャーニー自身も犯人ではあり得ねぇってことだな」

 

 ステゴ、マックイーン、ジャーニーはみな小柄なウマ娘だ。手も大きくはない。

 ジャーニーは軽く深呼吸をして、落ち着きを取り戻してからニコリと微笑んだ。

 

「あきらめなさい。私がオルを気絶させた犯人を庇うために証拠をねつ造するなどあり得ません。ライトオさん、あなたはゴルシさんとナカヤマさんに一杯食わされているのです」

「生憎、焼きそばは食べてない。ロイヤルカップ焼きそばなんて食べたくもありませんが」

「ゴルシさんがロイヤルビタージュース入りの焼きそばを作っていたと言いますが、現物をみた訳ではないのでしょう? 私がオルを気絶させた犯人を庇うより、ナカヤマさんが犯人のゴルシさんを庇うためにウソをついた可能性のほうがよほど現実的ですよ」

「確かに……その二つなら後者の方が怪しいと言わざるを得ないであります。めくりからもゴルシさんが呼ばれていたのは事実ですし」

「まぁ、そこは私も認めます。ギャンブラーですし言葉で誘導するのはお手のものでしょう」

「ククク……ひどい言われようだな……まぁ日頃の行いだからしょうがねえけど」

 

 ナカヤマはこんな追い詰められた状況でもふてぶてしく笑っている。

 ライトオは隣のナカヤマに真っ直ぐな目で問いかけた。

 

「ナカヤマさん、もしジャーニーさんが証拠をねつ造したなら、それは身内のために他なりません。もっと言うなら、オルフェさんが目を覚ました後本人にも事実を隠蔽させる必要があります」

「どうやら、そういうことになるなぁ」

「私としても、これ以上付き合えるほど暇ではありません。ゴルシさんが犯人ではないと言うのなら、いい加減真犯人を指名してもらいましょうか」

 

 ジャーニーが急かしてくる。それが後ろめたさからなのか、それとも不当にねつ造を疑われて怒っているからなのかはライトオにもわからない。

 ライトオは、ここまでの議論でわかった情報をまとめる。

 

「犯人はオルフェをビンタした大柄なウマ娘で、オルフェの余興に呼ばれる面白さがあり、ジャーニーさんとオルフェさんから庇われるだけの親しい身内だとロジックは示しています。

 しかし、私はオルフェさんとジャーニーさん自身のことはデュランダルから聞いていてもその身内までは知らない。

 だからナカヤマさん。あなたに心当たりがないなら、この賭けは私たちの負けです」

 

 その言葉に、ナカヤマはトントンと指で頭を叩いて考え━━突然、テーブルをバンバン叩いて笑いだした。

 

「ククッ……ククク……ハッハッハッハ! ジャーニー……どうやらこの賭けは私たちの勝ちのようだぜ?」

「ナカヤマさん、お行儀が悪いであります!」

「お得意のブラフですか? ライトオさんは騙せても、私には通用しませんよ。

 他の事件ならいざ知らず、オルのことは姉である私が一番わかっています。もうあきらめなさい」

「なぁジャーニー、私たちのファミリーもずいぶん増えたよなぁ。最初は私とゴルシだけだったのがウソみてぇだ。もうすぐアネゴ本人もトレセンに戻ってくるかもなんて昔は信じられなかったよ」

「何が言いたいのですか?」

 

 ナカヤマは立ち上がり、『ゴルシの焼きそば』と書かれためくりを捲る。そこには白い紙が連なっているだけで他には何も書かれていない。

 ナカヤマはおもむろに紙を1枚破りポケットに入れた。

 

「おかしいと思ってたんだ。ゴルシを呼ぶのにこんなめくりを用意する必要はねぇ。他にも呼んでたんだろ? ……漫才が好きなやつとかな」

「漫才好きと言えばポッケやタマモクロスさんですね。まぁポッケがオルフェをビンタしたらジャーニーさんが庇うはずもないしタマモさんは大概おチビですが」

「検事さんが知らないのも無理はねぇ。まだデビュー前だがガタイ良し、度胸良し、器量良しのオルフェの秘蔵っ子さ……ラッキーライラック! あいつが犯人なんだろ?」

 

 ライトオの知らない名前だった。だがメノの尻尾がピーン!と延び、ジャーニーさんの表情が鋭くなったので2人の知人であることは明らかだった。

 メノがスマホを取り出しながら、ジャーニーに聞く。

 

「ジャーニーさん、ララさんを召喚します。構いませんね?」

「……いいでしょう。ただし彼女が犯人だと速やかに証明できなかった場合、相応のペナルティを受けていただきます。彼女は明日模擬レースを控えている身。本来こんなことに付き合っている場合ではありません」

 

 ジャーニーは脅しのようにペナルティを口にする。だがライトオにもはや臆す理由はなかった。

 

「これで全ての真実は一直線に繋がりました。オルフェをビンタで気絶させたとなればララさんは少なくとも明日出走停止。オルフェさんの秘蔵っ子という話ならジャーニーさんにも証拠をねつ造してまで庇う理由があることになります」

「ククッ……検事さんを前に今のは失言だったなぁ、ジャーニー。さすがのアンタも、身内の犯行には冷静ばかりでもいられねぇか」

「……彼女がオルをビンタで気絶させるなど信じられません。ましてそんな証拠など……あるわけがない」

 

 メノがラッキーライラックを呼ぶ間、ナカヤマがライトオに耳打ちする。

 

(ジャーニーがララの犯行の証拠をこの部屋に残すわけがねぇ。めくりを見たが、破りとられた跡すら残っちゃいなかった。私がララに隙を作るからジャーニーが誤魔化す前に最速で吐かせてくれ、検事さん)

「任せロリ。ジャーニーさんは黒豹のように恐ろしいが、その時速は約60km。瞬間最高速で私が負けることはあり得ない」

 

 ほどなく部屋をノックする音が聞こえ、オルフェの秘蔵っ子ことラッキーライラックが緊張気味に部屋に入ってくる。

 まだデビュー前、成長期でありながらその体躯はゴルシやオルフェに劣らないほど大きい。犯人の特徴とも合致する。

 

「……ジャーニーさん、メノさん、ナカヤマさん。お疲れ様さんです。ライトオさんとは初めましてよね? うちはラッキーライラック言います」

「随分緊張してるなぁ、ララよ。悪いな、明日模擬レースだってのに呼びつけちまって」

 

 開口一番、ナカヤマが身を乗り出してララに問いかける。事件の話ではなく雑談から持ちかけて口を開かせやすくするつもりだろう。

 

「いいえ、オルフェさんがぶたれて倒れてしもたなんてうちもオドロキで……後でお見舞いさせてください」

「へぇ、ビンタのお代わりをお見舞いかい?」

「……なんの話です? うちが尊敬するオルフェさんにそんなことするわけないやないですか」

 

 ナカヤマの揺さぶりにも、ララは動じない。雅に微笑んでみせた。

 

「ナカヤマさん、ララさんは今日あなたの長話に付き合う暇はありません。速やかに証言を済ませ、明日の準備に戻っていただきます」

「うちが事件について知っていることを証言すればええんですよね?」

「ええ。そこでムジュンがなければ、ナカヤマさんとライトオさんにはオルを気絶させたゴルシさんと同じ罰を受けて頂きましょう。真犯人を弁護したばかりかララさんを告発するとは……あきらめていればよかったと後悔させてあげます」

「まぁ怖い。ジャーニーさんをこない怒らせて……うちとそちら、ペナルティを受けてハレツするのはどっちやろなぁ?」

 

 この証言でララが犯人であると証明できなければジャーニーからオルを気絶させた罰を受ける。

 負ければ破滅のギャンブルとも言える勝負だが、ライトオは勝利を確信した自信満々の笑みを浮かべ、ナカヤマも不敵にふてぶてしく笑っていた。

 レース場のような緊張が走るこの部屋で、ララは最後の証言を開始する。

 

「うち、事件のことなんてなんにも知りませんでした。

 この部屋にも来てへんし、もちろんオルフェさんに触ってません。

 うちが犯人の証拠なんて、どこにもな」

「黙りなァ!!」

 

 シラを切るつもりのララの証言を、ナカヤマが一刀両断で黙らせた。

 ジャーニーが微笑んで、ナカヤマに言う。

 

「血迷いましたか? 頼みの綱の証言を黙らせるとは……もうあきらめても遅いですよ?」

「悪いが、ネタは上がってんだ。アンタの名前が書かれたこのめくりが、ララがこの部屋に来た決定的な証拠さ。オルフェに漫才を披露しに来たんだろ?」

 

 ナカヤマがポケットからめくりの紙を取り出す。それを見たララの顔が一気に真っ青になり、自分のポケットをまさぐったのをライトオは見逃さなかった。

 

「嘘や!! そのめくりをナカヤマさんが持ってるはずない……だってそれはうちが━━」

「ララさん、落ち着━━」

「異議あり!! ラッキーライラック、なぜめくりをナカヤマさんが持っていないなど断言できる? それはこの部屋を訪れ、自分の名が書かれためくりの紙を破りとったからだ! そんなことをしたのはララ、お前が真犯人である以外あり得ない!!」

「し、し、し……しもたぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ジャーニーに誤魔化す隙を与えない最速の異議。勢いに押されて雅さの欠片もない関西風の絶叫がララの口から飛び出した。

 ナカヤマが、折りたたんだめくりの紙を開く。

 当然、それは白紙だ。ついさっきゴルシの名前が書かれためくりを見たときに適当に1枚破りとっただけにすぎない。

 ララはがっくりと膝をつき、涙ながらに語り始めた。

 

「うちは……うちは、アスリートなんよ……今日来たのも……漫才やなくて明日の走りで楽しませてみせますって言いに来ただけやった……それやのに……それやのに……」

「オルフェさんの暴君が炸裂して何か理不尽なことを言われたのですね、可哀想に。それで思わずビンタしてしまったと」

 

 ライトオは最速でララの犯行理由を理解した。ナカヤマも腕くみして嘆息する。

 

「ゴルシは新作焼きそばの開発に手間取っていた。飯がなかなか届かなくてオルフェもイライラしてたところに余興のお預けくらえば暴君にもなろうな。自分の秘蔵っ子が相手で慢心もしてたところにビンタが炸裂って訳か」

「ええ。そして急いで自分の名前が書かれためくりを破りとり、ジャーニーさんに相談した。明日の模擬レースを出走停止にするわけにはいかず、ジャーニーさんは焼きそばをねつ造しゴルシさんに罪を押し付けることにした。これが事件の全貌です」

 

 泣いているララはもちろん、ジャーニーも否定しなかった。完全に自白してしまった以上、これ以上の誤魔化しは聞かないと判断したのだろう。

 風紀委員のメノも、この真相には判断を迷っているようだった。

 

「暴力は犯罪……でありますが、さすがに酌量の余地を認めるべきでありますね。不機嫌なときのオルフェさんの暴君っぷりは本官も身に染みていますから……」

「……オルは保健室で言いましたよ。ララを許せ、此度は余の過ちであると。ですが保健室まで運んだ以上何もなかったとするわけにもいきませんでした」

 

 オルフェは暴君だが人の気持ちがわからないわけではない。だからこそジャーニーもねつ造に手を染めた。ララを明日の模擬レースで走らせるために。

 ライトオは検事として、ララの罪の処遇について語る。

 

「検事の仕事は罪を犯した者を明らかにすること。罪の重さや罰を決めるのは仕事ではない。だが今回は犯人にされたゴルシと話し合って決めるべきではないだろうか。お前たちは、ファミリーなのだろう?」

「うちが……オルフェさんやゴルシさんのファミリー……?」

「……そうさなぁ、オルフェとジャーニーはともかくあとは他人のはずなのに、家族みてぇな情がある。さて、ゴルシのやつはそろそろ調子を取り戻してるかね」

 

 ナカヤマがスマホを取り出す。しかしゴルシを呼ぶ前に本人が勢いよく部屋に入ってきた。そばの出前のように、重なった箱を片手で抱えながら。

 

「ピスピース! ゴルシちゃん、完☆全☆復☆活だぜぇ~? 新作ロイヤルビタージュースカップケーキ焼きそば、5人前お待ちぃ!」

 

 ライトオ、ナカヤマ、メノ、ジャーニー、そしてララの前に緑色の麺に白いソースが絡んだ焼きそばが置かれる。ロイヤルビタージュースの青臭さとケーキの甘さが混じった異臭が部屋を包んだ。

 

「ゴルシさん! 食べ物を粗末にしてはいけないであります!!」

「なんだよ、食わず嫌いちゃんか? 騙されたと思って食ってみろって。不味かったらライラックの木の下に埋めてもらっても構わねーぞ♪」

「露骨に絶好調ですね。余程自信があるようだ」

 

 異臭漂う焼きそばを並べ部屋で踊るゴルシは最初にあったときの不調が嘘のように元気だった。

 ララは自分のためにゴルシに罪を押し付けた罪悪感でどうしていいかわからないみたいだった。

 

「ゴルシさん……うちは……あなたを……!」

「なぁ~にぃ~? やっちまったなぁ!! そんな暴君娘にはオルフェに食わせるはずだった焼きそばを完食してもらう! オルフェに食わせる焼きそばはねぇ!」

「まだ何も言うてません!!」

「おっそのツッコミ……マックちゃんに似てんなぁ! オラワクワクすっぞ!」

「今はふざけてる場合やのうて……!」

「食えよ、オルフェに頼まれたんだ。ララが明日の模擬レースで勝てるよう体力とやる気を両方上げる焼きそば作れって。思ったより時間はかかっちまったけどな。完食したらゴルシちゃんが犯人だったことにしてやる」

 

 ゴルシが一転真面目な顔でララに言った。

 ロイヤルビタージュースにはやる気を下げる代わりに体力が大幅に回復する効果があり、カップケーキには大幅に下がったやる気を絶好調にする効果がある。

 それを上手く合わせれば両取りが出来ると考えたのだろう。

 

「オルフェさん……うちのことを……そんなに……なのにうちは……うちはぁぁぁ!」

「さて、私もねつ造をしたけじめとして頂くとしましょう」

 

 ララは泣きながら、ジャーニーは淡々と焼きそばをすする。

 

「本官も……頂くことにします。知らなかったとはいえねつ造に騙されゴルシさんを疑ってしまった……いえ、これからゴルシさんが犯人だったとウソの報告をしなければなりませんから」

「ククッ……ゴルシの焼きそばは上手くても不味くてもヒリつくからな。当然、私は頂くぜ」

 

 メノとナカヤマも、焼きそばをすすり始める。

 オルフェとステゴはいないが、まるで家族の団らんのような光景だった。

 ちなみにライトオは、そばを目の前に置かれて真っ先に口をつけていた。

 

「ロイヤルビタージュースの苦味が先にきてやる気が下がる代わりにその後来るカップケーキの甘味がやる気を戻すどころか更にあげてくれる……珍味ですが悪くありません」

「すごいでこれ……味の宝石箱や……!」

 

 本来であれば事件を解決するとスタミナ切れで眠ってしまうライトオもロイヤルカップ焼きそばで回復して事件を見届けた。

 翌日の模擬レースで、全力全開となったラッキーライラックがアーモンドアイ相手に模擬レースでは判定がつかないほどの同着だったのをオルフェ含めたステゴファミリーの面々と見守ることになったのだった。

 




今回はステゴファミリーが概ね勢揃い回です。
犯人サイドが賢く抜け目ないほど話が長くなってしまうのが困り者ですが、個性の強い面々で楽しく書けました。
今回は逆転裁判のある事件のパロディ要素が強く出ていますが、わかった人はココロで握手してください。
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