直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です 作:じゅぺっと
直線最高速ウマ娘、カルストンライトオは同室であるデュランダルのチームと共にトレセン島で夏合宿を行うことになった。
タッカーブラインによって開拓された島には独自のトレーニング設備があり、ライトオにも興味があったからだ。
「対戦ありがとうございました、ダチョウ。この島にきて本当によかった」
そしてトレセン島独自トレーニングの一つダチョウとの対決を行い、見事勝利した。
目の前のダチョウは、ライトオを見て鳴き声を発する。
『ハッハッ、ハ! ありが、とう!』
「ふーむ、本当に人語を理解していますね。タッカーさん、一体どんな技術を?」
トレーニング用のダチョウが言葉を発するようになったことは聞いていたが、やはり目の前でダチョウが喋るとライトオも驚きは隠せない。
ダチョウ及びトレセン島の管理者であるタッカーブラインに尋ねると、彼女は元気よく答えた。
「ハッハッハ! わからん! 長年ウマ娘と触れあっているうちにダチョウにも言葉がわかるようになったのかもしれんなぁ!」
「異議あり! ダチョウの頭は小さい。走っているうちに走っている理由を忘れるやつが自然に言葉を覚えられるわけがない」
「そう言われてもわからんものはわからん!」
ライトオは人差し指をまっすぐ伸ばしてタッカーに突きつけたが、タッカーは腹を抑えて元気よく笑うだけで真面目に答える気はなさそうだ。
追求しようとするライトオをデュランダルが諌めた。
「ライトオさん、タッカーさんを困らせないの。きっと公にはできない技術とかがあるのよ」
「む、確かに。科学者の母さんも自分の専門技術を教えるのはお金を渡すのと同じことだと言っていた。それも父さんに渡すお小遣いなんて目じゃないほどの大金だと」
「あなたのお父さんが時々かわいそうになるわね……」
「そんなことはない。母さんも私も父さんのことは好きだ。愛ゆえの束縛というやつだな」
ライトオの母親は科学者で、父親は検察官である。ライトオの最速を求める性格も、母親の最速で真理を求める姿勢と父親のまっすぐ真実を追求するやり方に影響されたものだ。
「……さて、せっかくだし私も勝負しようかしら。ダチョウであっても我が聖剣の切れ味からは逃れられないと知りなさい」
「次はデュランダルか! よし、もう一勝負いくぞダチョウよ!」
ダチョウはデュランダルの方を見て、再び鳴き声を発した。
『異議あ、り! 私が、最速!』
「ダチョウがライトオさんのような喋り方を!?」
驚くデュランダル。その時ライトオの頭に蛍光灯のように一直線の電流が走る。
「そうかわかったぞ! ダチョウの脳の容量は小さく、まともに人語など覚えられない。おうむ返しという言葉があるように、さっき喋った相手の言葉を真似るのが限界なのだろう。だから最初はタッカーさんのように、そして今度は私の喋り方になったのだ!」
ライトオの閃きに、タッカーは思わずといった様子で口にした。
「……ふむ。流石科学者のお母様を持つだけはある。実は君の母上の論文は私も拝読しておりその理論は━━」
「タッカーさんが素になっちゃったじゃない! ライトオさん、この事は言いふらしてはダメよ?」
「くれぐれも秘密で頼む。このダチョウは大事なトレーニング仲間であり観光資源だからな」
そんなこんなでデュランダルもダチョウと勝負し、最速の追い込みがダチョウを追い抜いたりしていると。
「じゃーん、ピンクなレインコートのカワイイカレンチャンでーす!」
「おおカレンさん! よく来てくれた、今日はよろしくお願いします」
デュランダルのチームメイトであり、SNSの女王とも呼ばれるカレンチャンがやってきた。その手には愛用のスマホを構え、撮影の準備はバッチリのようだった。
「ふむ、カレンには対応が少し違いますね。タッカーさんもカレンのファンなのですか?」
「実は彼女には、このダチョウの宣伝をお願いしていてな。なぁに、もちろん君たち9名のことは等しく大事な客人として扱わせてもらうぞ!」
「9名?」
この島に来たのはライトオ、デュランダル、スイープ、ドリジャ、オルフェ、カレン、ワンピース、デュラトレで8名だったはず。数え間違いだろうか、とライトオは思った。
「フフッ、ダチョウさんとおしゃべりできるなんてドキドキのファンタジアですよね! カレン、ダチョウさんの魅力をいっ~ぱい宣伝しちゃいます!」
カレンは両こぶしを口元に寄せてカワイイポーズを取る。
「なるほど、そういうことなら私とデュランダルは邪魔にならないように別のトレーニングをした方がいいな。行くぞデュランダル、直線迷路が私たちを待っている!」
ライトオがトレセン島に来た理由はダチョウ以外にもある。それがトレセン島の巨大迷路だ。
全ての道、全ての通路が直線で構成されたその迷路はライトオの興味を大きく刺激していた。
「あなたは早く迷路に行きたいだけでしょう!? 行くのはいいけど、他の皆の様子を見させてちょうだい」
「チッ、まぁいいだろう。あの迷路を最速で攻略するための対策もトレーナーと相談してしっかり用意してきた。デュランダルには是非タイムを計ってほしい」
「カレンも皆さんにこのレインコートを見せてきましたけど、楽しくトレーニングしてましたよ!」
カレンは改めて着ているレインコートを強調する。フードをすっぽり被っていて彼女の特徴である耳と白髪は見えないが愛らしさは変わらない。
ともあれ、ダチョウはカレンの宣伝のために譲ってライトオとデュランダルは別のトレーニング施設を見て回ることにした。
「見てごらんオル、オルの石像だよ」
「うむ、母上にも劣らぬ精巧なアートである」
「母さんの技術には遠く及ばないけど、オルを表現するのならば手を尽くさないとね」
海岸沿いに行くと、ドリームジャーニーとオルフェーヴルの姉妹が石像作りをしていた。
オルフェの威厳が見事に表現されており、物言わぬ石像でありながら王に見られているような威圧感を放っていた。
「さすがジャーニーさん、まるで錬金術師のような錬成ですね」
「オルフェさんもご機嫌みたいね……よかったわ。確か今は我が君とワンピースさんが海でトレーニングをしているはずよ」
トレセン島の海ではコインや宝物探しといった潜水トレーニングがある。
肺活量を鍛えるためとはいえ呼吸の限界まで潜る苦痛はなかなか耐えがたいものだが、それを海の景色のなかでの宝探し形式にすることで緩和するものだ。
「我が君! ワンピースさんとのトレーニングは順ちょ……」
海面の上に立てられた板に立つデュラトレにデュランダルが話しかけようとした時。
海面からド派手な水しぶきがあがった。
「トレーナー! コインとったぞー!」
「うわっー!?」
海面から勢いをつけて飛び出したブラストワンピースが、その勢いのままトレーナーに抱きついた。
人間であるトレーナーにその勢いが支えきれるはずもなく、2人の体は再び海に落ちるのだった。
「我が君ー! 今お助けいたします!!」
「さながらシャチですね。デュラトレが担当にしただけはある暴れっぷりです」
「我が君を暴れウマ娘専門トレーナーみたいに言わない! あなたも手伝って!!」
デュラトレを海から助けだし、ワンピースに海面から飛び上がって人間に抱きつくのは危ないと注意した。
「我が君! 一旦お着替えに戻った方がいいのでは……」
「大丈夫さ、こんなこともあろうかと服の下は水着にしてある。さっきもカレンチャンにふざけてジョウロで海水を浴びせられたしな」
「もう、カレンさんったら……ワンピースさんも気をつけてね」
「はーい! 全身全霊で頑張るぞー!」
「さて、後はスイープか」
スイープは新しい魔法を試すために根性トレーニングを行っているらしい。
ライトオとデュランダルが移動すると、大量に重ねた丸太で出来たシャッターのような設備の前でスイープが杖を構えていた。
積まれた丸太の高さはスイープの何倍もあり、ウマ娘といえども容易に持ち上げることはできない重さだ。
「トゥインクルトゥインクル~動け、木よ!」
「動きそうにないな。当たり前だが」
「しっ、本人に聞こえたら怒られるわよ!」
物陰から見守っているが、スイープが呪文を唱えても丸太は動かない。
業を煮やしたスイープは丸太に近づき、すっと片手で下を持った。
「ブルームブルーム……木よ……動いてって言ってんでしょ!!」
スイープが気合いを込めると、大きな音とともに丸太のシャッターは持ち上がり、経年劣化もあるのかそのまま上で止まった。
「……ふん、今日のところはこれくらいにしとくわ。いつか魔力だけで動かしてやるんだから」
「無理を通せば道理は引っ込むとはこの事ですね。さて、全員の様子は見たしいよいよ直線迷路に━━」
ライトオがワクワクした真顔で巨大迷路に向かおうとしたとき。
島全体に聞こえる放送音が響いた。
【タッカーブラインだ。みんな、もうすぐ大雨が降るかもしれないとの予報があった。トレーニングの途中だとは思うが、今すぐロッジに戻ってくれ】
「む、残念だが仕方ない。デュランダル、最速でロッジに戻るぞ」
「そうね……さすがにみんなも素直に戻ってくるでしょうしまっすぐ帰りましょうか」
今は晴れ渡っているが、トレセン島は海上の小さな島だ。天候の変化や影響は受けやすい。島の管理者であるタッカーが言うなら逆らう選択肢はない。
「カルストンライトオ、帰宅も最速です」
「騎士デュランダル、ただいま帰還しました」
「ハッハッハ! いいコンビだな。雨がやむか、予報が解除されるまではロッジから出ないようにな!」
ほどなくして、他のメンバーも戻ってくる。
『はーい! カワイイカレンチャンです!』
「王の凱旋である。もてなすが良い」
「オル、雨に備えてゲームをたくさん用意してきたんだ。コヨーテもあるよ」
「アタシも混ぜなさい! 魔女のカード捌きを見せて上げる」
「ただいまー! たくさんコインを見つけてきたぞ!」
これでウマ娘は全員戻ってきた。
デュランダルはキョロキョロと見回し、自分達のトレーナーを探す。
「ワンピースさん、我が君はどこに?」
「トレーナーはトレーニングの片付けがあるから先に戻ってくれって言ってたぞ!」
「ああ、君たちのトレーナーであればさっき私が見たぞ! 片付けたいデスクワークがあるからしばらく部屋に入らないでほしいとの事だ!」
タッカーがデュランダルに言う。デュランダルはほっと胸を撫で下ろした。
「スマホも通じないトレセン島でもデスクワークですか。社会人は大変ですね」
「ダッハッハ! 例えリアルタイムで繋がらなくても報告書の用意は欠かせんからなぁ! 君たちは好きに寛いでくれたまえ!」
「ではせめて私が騎士としてお側に……」
デュランダルがいつもの騎士ムーヴをしようとすると、すっとタッカーが遮った。
「いやいや! 慣れない環境で君たちも疲れているだろう。ここは子供らしく仲間たちに混じってゲームで遊んで休んだ方がいい!」
ジャーニー、オルフェ、スイープ、ワンピースがボードゲームを広げているのを手のひらで指すタッカー。
ライトオは頷き、部屋の隅でスマホを弄っているカレンチャンに話しかけた。
「ふむ、一理ありますね。━━カレンチャン、一緒にどうですか?」
『カレンは大丈夫でーす! お部屋に戻ってますね』
彼女はピンクのレインコートのフードを上げようともしない。そのまま立ち去ろうとしたとき、ロッジの中に一匹のダチョウが走って入ってきた。
「どうどうどう! お腹が減ったのか? 予報が止まったらみんなにエサを……」
タッカーがダチョウの側にかけより、その体を受け止める。
タッカーに話しかけられたダチョウは、人語でこう返した。
『お、兄、ちゃん』
その言葉に。朗らかにカードを配っていたジャーニーの目が鋭くなった。
ジャーニーは手元のカードには目もくれず、タッカーに尋ねる。
「タッカーさん。このダチョウと最後に遊んでいたのは誰ですか?」
「ええと……カレンチャンだな」
続けて、ジャーニーはライトオ達にこう尋ねた。
「ロッジに戻ってからトレーナーさんを見た方は?」
「……おいおい、私が見たし仕事部屋にいると言っただろう?」
タッカーはそう言うが、逆に言えばそれ以外の目撃証言は上がらない。
ジャーニーは再びタッカーを見た。その瞳に普段の穏やかさは欠片もない。
「ではもう一つ質問を。
━━カレンとトレーナーさん。どこに行きました?」
「……君のようなカンのいい子供は苦手だよ」
タッカーが普段の熱血キャラを忘れて冷徹な言葉を返す。その対応にライトオ以外の全員がどよめいた。
「姉上、まさか……」
「そのまさかだよオル。きっと今ごろ島のどこかに2人きりだ。誰かの言葉を真似るダチョウが『お兄ちゃん』と言ったということはカレンさんはトレーナーさんといることになる」
オルフェはジャーニーの言いたいことに気付いたようだったが、スイープ、ワンピースはキョトンとしている。
デュランダルは皆のリーダーとして、部屋の隅でピンクのフードを被ったカレンチャンを指差した。
「ちょっと待ってジャーニーさん、我が君はともかくカレンさんならそこにいるじゃない!」
「なんだデュランダル、気付いていなかったのか? そこにいるのはカレンではない」
「嘘!? だって彼女が着ていたピンクのコートで……」
さっきカレンに話しかけていたライトオが、スタスタと近づいてピンクのフードを無理矢理外す。
現れたのは、カレンの白い髪と耳ではなく、茶髪に青い髪飾りのウマ娘。
カレンチャンの同室ウマ娘のアドマイヤベガだった。
「何やってるんですか? アヤベさん」
「……変装」
「は!? なんでアヤベがここにいるのよ! アタシ聞いてないわよ!?」
「それに、さっきの声は間違いなくカレンだったぞー!? アヤベは声真似の達人なのか!?」
スイープとワンピースが驚く。アヤベはやれやれとため息をつき。手元のスマホを操作した。
『カレンチャンです、私だけを見ていてね』
録音されたカレンの声。これを使ってカレンを演じていたという彼女なりの自白だろう。
「カレンは島についた後ピンクのレインコートを私たち全員に見せていた。そうしてピンクのレインコート=カレンチャンという状況を作りだし、ピンクのコートを着たアヤベさんをロッジに戻ることで替え玉にしたのだろう」
「待って。ライトオさん、もしかして最初から気付いていたの?」
デュランダルが慌てて聞く。ライトオはさも当然のように頷いた。
「タッカーさんは私たちの事を最初に9人来たと言った。私たちは8人のはずなのに。その時点で誰かが密航している可能性は考えていたからな。そんな状態で部屋の中でフードを外さず、遊びに混じろうともしないカレンがいたら入れ替りを疑うのは当然だろう」
「そう言えば、トレセン島への連絡はカレンさんに任せていた……まさか、タッカーさんもグルということ!?」
デュランダルがタッカーを見る。彼女は眼鏡を押さえて表情を隠していた。
「恐らく大雨予報も嘘なのでしょう。私たちがロッジに戻るしかない状況を作り、カレンは替え玉、デュラトレは仕事で忙しいから部屋に入るなと嘘をつけばカレンとトレーナーは島のどこかで当分2人きりです。
まぁ、だからどうしたって感じなのであまり気にしませんでしたが。ジャーニーさんにとっては一大事のようですね」
「私にとっても一大事よ!?」
ライトオにしてみればカレンとデュラトレがこっそり2人きりになったところで何の事件性もない。なのでカレンに変装した者の正体だけは気にしつつ話しかけていた。
ジャーニーは珍しく余裕がなさそうにスマホや謎の機械を弄っている。
「姉上。やつの居場所は? スマホにGPSをつけていただろう」
「この島ではスマホはオフライン……それに、こっそり服に着けた発信器も潰されている……!」
「ああ、ワンピースが海にダイブさせていましたからね。どんな機械をつけていてもオシャカでしょう」
「えー!? ブーのせいで居場所わかんなくなっちゃったのかー!?」
「カレンさんもジョウロで海水をかけていたみたいだし、そうでなくても使えなくしてたでしょうね……」
ジャーニーが一通り手持ちの機械を操作しても、トレーナーの居場所はわからなかった。
普段は恐ろしいほど冷静で理知的なジャーニーが、へにゃへにゃと崩れ落ち突っ伏した。小さな体が、長い髪ですっぽり埋もれてしまう。
「まるでゴンズイですね」
「言ってる場合!?」
「もうダメだ……おしまいだ……きっとトレーナーさんを籠絡する気に違いない……【結婚するならカレンチャン】というトレーナーさんの言葉を実現するつもりなんだ……」
「落ち着け姉上、やつとてカレンの色香に容易く惑わされるうつけではない。今すぐ居場所を吐かせれば済むことよ」
オルフェは共犯者のアヤベとタッカーを見て王の威圧を放つ。
「……居場所は言えない。私が許せないなら煮るなり焼くなり好きにすればいいわ。カレンさんには借りがあるもの」
「この件に協力すればダチョウやこの島を大々的に宣伝してくれるとカレンチャンは約束してくれたからな……この島の存続のために、私も手段は選んでいられんのだ……!」
「貴様ら……!!」
てんやわんやの状態を見て、ワンピースはスイープに朗らかに聞く。
「なぁなぁ、よくわかんないけどカレンとトレーナーが2人きりだとダメなのか?」
「まぁ、アタシは正直どうでもいいけど……ジャーニーとデュランダルにとってはそうね。ワンピースだって、トレーナーがカレンを好きになりすぎて自分のことを見てくれなくなったらイヤでしょ?」
「えー! それは困るぞー! ブーもトレーナーとまだまだトレーニングやお出かけしたい!」
「ライトオさん! なんとか検事として2人の居場所を特定できない!? このチームの代表として、お願い!!」
デュランダルがライトオに頭を下げる。
ライトオは肩を竦めてやれやれと首を振った。
「お前のチーム全体のためと言われれば仕方ない。カレンアヤベタッカーによるデュラトレ誘拐事件とでも考えよう。
━━よし、だいたい見当はついた」
「速っ!?」
ライトオは最速で思考を直進させ、すぐさまカレンとトレーナーの居場所を導きだした。
「前提として、ジャーニーさんが気付かなくてもこの犯行はそのうちバレる。
タッカーさんがデュラトレは仕事で忙しいから部屋に入るなと言ったところで、スイープやオルフェさんが大人しく聞くわけがないからだ」
「ちょっとそれどーいう意味よ」
「よい、無視して続けよ」
「つまり、バレた時の言い訳を予め用意しておく必要がある。
自分達もロッジに戻ろうとしたが道に迷ってしまった、とな」
その言葉にへにゃへにゃになっていたジャーニーが顔を上げる。
「この小さな島で迷ってしまって出られないと言い訳ができる場所……まさか」
ライトオはロッジに張られたトレセン島の地図を1ヵ所を自信満々に指差した。
「そう、このトレセン島にそんな場所は一つしかない。━━巨大迷路、カレンとトレーナーの居場所だ!」
「姉上、皆で探そう。カレンの抜け駆けは余とて見過ごせぬ。あれは姉上のものであり姉上のものということは余のものでもある」
オルフェがへたり込むジャーニーに手をさしのべた。
普段は尊大極まる振る舞いのオルフェだが、この件に関しては姉の恋路を素直に応援する妹のように見えた。
しかし、カレンに協力するタッカーがそうは問屋が下ろさない。
「フッフッフ……そううまく行くかな。仮にカレンとトレーナーさんが迷路にいたとして、迷路のどこにいるかまではわかるまい!
あの巨大迷路を攻略するのには最低でも一時間はかか」
「異議あり!!」
ライトオがまっすぐ指を指して異議を唱える。
「私はこの島の巨大直線迷路を最速で攻略するのをとても楽しみにしていた。もちろん準備は万全です。━━既に、迷路の全貌は把握しているのだ!」
ライトオがスマホに用意した迷路の全体図をつきつける。
「何を言うかと思えば。あの迷路は賢さトレーニングのために用意した複雑なもの。この島に今日始めてきた君に全貌がわかるわけが……バ、バカな!!」
全体図を見たタッカーの顔が青ざめていく。
その反応こそが、ライトオの用意した迷路の地図が正しいことを示していた。
ジャーニーも急いでその地図を見る。そして少し瞳を閉じ、その明晰な頭脳を回転させた。
「……ライトオさん、感謝します。デュランダルさん、ワンピースさん、ライトオさんは入り口から。私とオルとスイープさんは出口から入って私の指示通りに。……30分以内に見つけますよ」
迷路の地図を頭に叩き込み、効率よく探す方法を考えたのだろう。すっかり調子を取り戻したようだ。
「せっかくだ。私はスタートからゴールまで最速で進もう。RTAというやつだ」
そこから先はカレンとトレーナーの捜索に一直線だった。
ライトオはスタートから巨大迷路を最速で踏破し、ゴールを駆け抜ける頃にはカレンチャンとトレーナーが見つかった声が聞こえてきた。
カレンは迷路に迷ってしまった状況をいいことにデュラトレに抱きついて誘惑していたが、デュラトレは鋼の意思で耐えたらしい。
「カレンさん……この企みに関して何か申し開きはありますか?」
「貴様と言えど戯れが過ぎる。返答次第ではただでは済まぬぞ」
ドリオル姉妹によって簀巻きにされたカレンは、うるうると瞳に涙をにじませていった。
「ごめんなさい……心配かけちゃいましたよね……でもカレン、ちょっと嬉しかったです。
ブーちゃんが加わって、後輩ができたのは嬉しいですけど……カレンのことを皆で気にしてくれる時間は減っちゃったから……みんながカレンのことを気にしてくれて……」
「確かにちょっと悪戯が過ぎたかもしれないが……みんな俺の大事な愛バだ。カレンも反省しているし、許してやってくれないか?」
「我が君がそう仰るなら……」
「ま、アタシは最初から気にしてないけど。むしろジャーニーの慌て顔が見れて面白かったわ」
「オルフェも親切なんだな! ブーの知らないみんなが知れて嬉しかった!」
カレンの泣き落としと、トレーナーもカレンに籠絡されたわけではないこともありそれ以上カレンが咎められることはなく。無事事件は幕を閉じた。
「カレンチャンと私が考えた計画を容易く見抜くとは……君は、一体……」
最後にタッカーはライトオへ悔しげに聞くと、ライトオは背筋をピシッと伸ばしてまっすぐ答えた。
「カルストンライトオ、最速です」
ちなみに後日、カレンチャンによる喋るダチョウの動画は大バズりしトレセン島には久しぶりに大量のトレセン生徒が押し掛けたらしい。
トレセン島でタッカーブラインという名前を聞いてかなりの人が思い浮かべたであろうネタです。
全部ライトオが解決してもよかったのですが、せっかく元ネタ兄弟で兄が超小柄で金が関係するドリオルコンビがいたので半分くらいドリジャに解決してもらいました。
次の話はトレセン学園に戻るのかトレセン島でもう一波乱あるかは考え中です。