直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です 作:じゅぺっと
秋のファン感謝祭。ライトオのクラス、1年D組は和カフェを行っていた。
「ご注文改めです、お客様。一番隊コーヒーセットと八番隊ケーキセットが1つずつでお間違いありませんね? では迅速にお楽しみください」
ライトオはウェイトレスとして和装……背中に『誠』と書かれた浅葱色の羽織を着ている。いわゆる、新撰組のコスプレだ。腰には模擬刀も差している。
ケーキとコーヒーを受け取ったお客は、ライトオの友人であるケイエスミラクルと、クラスメイトでありケイエスミラクルの同室であるダイイチルビーだ。
「ありがとう、ライトオ。その服、よく似合っているよ」
「そうでしょう。なにせビリーヴが用意してくれた衣装です。ルビーさんも午後からはこの衣装になるので楽しみにするといい」
丁寧なミラクルの言葉に真顔だが得意げに答えるライトオ。和カフェになったのも、ビリーヴのファンであるご老人達が新撰組の羽織をたくさん用意してくれたからだ。
話を振られたルビーは、淡々と言葉を返す。
「ありがとう存じます、ライトオさん。準備の方には家の都合で顔を出せませんでしたが、午後はこのクラスの一員として接客を担当させていただきます」
「気にするな。ルビーさんが忙しいことなど同じクラスになったときから知っている。なんでも結婚式の準備で忙しかったとか」
「はい。一族に関わる大事な門出です」
「では私は次のご注文改めに向かう。さらば!」
ウェイトレスとしてお客と長話をするわけにはいかない。ライトオはその場を立ち去った。
ちょうどビリーヴも接客を終えたところらしく、控えに戻ってきた。
「さすがビリーヴ発案の和カフェ、大盛況だな。これならファンのみんなも大喜びだろう」
「ええ。さっきも僕にこの衣装をくれたおばあさんが着てくれて。すごく似合うと褒めてくれました。洋装も好きですが、やはり和服はいいですね」
そう口にするビリーヴの言葉は淡々としているが、普段よりは綻んでいる。
ウマ耳と尻尾がなければ美少年にも見えるビリーヴには新撰組の羽織が殊更よく似合っていた。
「洋装といえばデュランダルは日本の剣士になるのを嫌がるかと思ったが案外素直だったな」
「僕やクラスのために合わせてくれて。ありがたいことです。ファン感謝祭の安全性を考慮して、柔らかい模擬刀を用意してくれたのもデュランダルさんですからね」
「さすがデュランダル。おもちゃの剣の扱いは天下一品だ」
「それ本人に言わないでくださいね。彼女きっと怒りますよ」
聖剣の名を持ち、西洋の騎士に憧れるデュランダルも新撰組の羽織を着て接客をしている。腰につけているのも、いつもの聖剣レプリカではなく日本刀風の模擬刀だ。
「今ルビーさんがミラクルさんとお客として来ているが、彼女は新撰組の羽織を着てもお嬢様らしさは抜けなさそうだ。ナカヤマさんとアキュートさんはほんとに新撰組の隊長っぽいが」
「……でもきっと、気品に溢れた姿になると思いますよ」
午前中の接客は、ライトオビリーヴデュランダルの3人。午後の接客はダイイチルビーにナカヤマフェスタ、ワンダーアキュート3人が行うことになっていた。
「せっかくだからジョーダンも着ればよかったのに。ギャル風の新撰組というのも斬新でいいだろう」
「彼女には夜のサーカスもありますから。……シチーさんが新撰組の衣装を着たら土方さんのような大騒ぎになりそうですね」
「ふむ、イケメン過ぎて困っちゃうぜというやつだな」
残るゴールドシチーとトーセンジョーダンは、厨房担当だ。といっても注文された品を皿に乗せてウェイトレスに渡す単純な仕事である。ゴールドシチーは朝が弱いので、今はジョーダンが厨房を担当していた。
次のお客が来るまでの束の間、2人で雑談をしていると。お客であるケイエスミラクルとダイイチルビーに異変があった。
「ルビー……? ほんとに大丈夫?」
ケイエスミラクルの不安そうな声。それを聞いた瞬間、ライトオは駆け出していた。そして次の瞬間━━気品ある振る舞いでコーヒーを飲んでいたはずのダイイチルビーの体が、ぐらりと横に倒れる。
「ルビー!!」
「危ないところだった。さすが私。誰かを助けるのも最速です」
ミラクルが叫ぶ。ライトオは最高速でルビーに駆け寄り、倒れるルビーの体が床に倒れる前にキャッチした。
「ありがとうライトオ、助かったよ……!」
「完全に眠っているな。午前中にいきなり寝落ちなどゴールドシチーならともかくルビーさんにはあり得ない。これは事件だ」
突然の事件に、どよめく店内。ビリーヴやデュランダルも何事かと近づいてきた。
「ライトオさん! これは何事!?」
「ルビーさんは……眠っていますね。しかし、何故こんなことに……」
「ミラクルさん、ルビーさんを保健室へ。ただその前に、あなたから見たルビーさんの状態を教えてください」
ライトオは、眠っているダイイチルビーをケイエスミラクルに渡す。小さな体に大きすぎる責任感を宿したルビーを抱き締めるミラクルは白馬の王子さまのように絵になる。ファン達もカメラを構えたそうにしているが、あいにく今はそれどころではない。
「うん、眠ってるだけ。顔を見ても、健康を害してるようには見えない……」
「眠る前の様子は? 一族の都合で最近忙しかったとは聞いていますが今にも寝落ちそうでしたか?」
「まさか。ルビーに限ってあり得ないよ。少し疲れてはいたけど、コーヒーが届いてからいきなり瞳を閉じて……言葉を返すのも辛そうになったんだ」
ルビーのことはこの場の誰よりよく知っているミラクルがそう言うなら間違いないだろう。ライトオは頷いた。
デュランダルは少し考えた後、いきなりライトオに腰の模擬刀を突きつけた。
「なんの真似だデュランダル。チャンバラごっこなら後にしろ。今は事件解決が最優先だ」
「ええ、騎士として……いえ、今は新撰組として御用改めといきましょう。この事件の犯人はライトオさん、あなたね!」
堂々と宣言するデュランダル。彼女がふざけているわけではないことは態度からわかった。
ビリーヴも、顎に手をあてて思案顔で言った。
「……2人に注文の品を届けたのはライトオさんですからね。確かに容疑者にはなります」
「いいだろうデュランダル。私がどのように犯行に及んだのか証言してみるがいい。検事の娘として……いや、今は新撰組として、その言葉斬らせてもらう!」
ライトオの父親は検察官を勤めており、真実をまっすぐ追求する志は娘のライトオにも受け継がれている。
しかし、今はビリーヴが発案した新撰組風和カフェの最中。
騎士のデュランダルも検事のライトオも、日本刀のレプリカを手にかけながら言葉を交わすことになった。
ライトオを疑うデュランダルが、証言を開始する。
「ルビーさんが倒れる少し前、ライトオさんは注文を届けていたわ。
そして、ルビーさんが倒れるのがわかっていたみたいに真っ先に駆け寄った。
つまり……ライトオさんは、注文を届けたときに目にも留まらぬ模擬刀の先制攻撃で」
「異議あり!!」
いつもはまっすぐ指差す代わりに模擬刀をつけつけるデュランダル。
ビリーヴは即座にその模擬刀を確認した。
「……この模擬刀は、感謝祭での『安全性』を考慮してプラスチック性のものにしています。仮にライトオさんが目にも留まらぬ早業でルビーさんに模擬刀を振ったとしても、気絶することはあり得ません」
「そういうことだ。さすがビリーヴ。だいたい、人間相手ならともかくスプリンターのミラクルさんの目をごまかせるわけがないだろう」
ビリーヴとライトオが、デュランダルのムジュンを指摘する。しかし一刀両断されたデュランダルは、むしろホッとしたように自分の模擬刀をしまった。
「……その通りね。ごめんなさいライトオさん」
「皆まで言うなデュランダル。私が犯人と疑われないために我先にアホな推理を買って出てくれたのだろう。これで私も本気で推理ができる」
「さぁミラクルさん。ルビーさんを保健室へ。犯人は、必ず僕たちで見つけ出します」
「うん。頼んだよ3人とも。……必ず犯人を捕まえてね」
ビリーヴが、眠るルビーを抱えるミラクルに言う。ミラクルも頷いて、ルビーをお姫様抱っこで保健室へ運んでいった。
何も知らないファン達の黄色い悲鳴とアグネスデジタルの断末魔が聞こえたが、ライトオ達はこれから最速で犯人捜しをしなければならない。
……のだが。
「なにやら妙な騒ぎ声が聞こえてくるからやってきてみれば……なんじゃ、新撰組風和カフェをするとは聞いておったが内ゲバ要素まで再現しておるのか?」
「ノリ子さんか。またややこしいのが来ましたね」
「にゃっはっは! 相変わらず無礼講よのうライトオ殿」
ライトオとは違うクラスの武将系ウマ娘、ノーリーズンがやって来た。ファン感謝祭ということもあってか、織田信長のようないつもより華美な戦装束に火縄銃らしきものまで持っている。
そして、やって来たのは彼女だけではない。
「デジタル君の断末魔を聞いて来てみれば……何事だい、私たちにも事情を教えてくれないか?」
「さっき、コーヒーを飲んで倒れたとの声が聞こえてきたのですが……」
「なぜタキオンさんとカフェさんまで和服を!?」
「ウララ君から坂本龍馬とおりょうさんのコスプレセットを渡されたからねぇ、せっかくなのでカフェと着てみたというわけさ! トレセンの夜明けぜよ!」
「取って付けたようなぜよはやめて下さい……恥ずかしい」
「くっ! やかましいのが集まってぐだぐだしてきた、どうするビリーヴ!」
ファン感謝祭の中でこんな事件が起これば野次ウマ娘が集まってきて当然だが、騒がしいことこの上ない。集中を乱されるライトオ。
「皆さん、お静かに。……恐らくですが、コーヒーの中に睡眠薬の類いが入っていてそれを飲んだルビーさんが眠ってしまいました」
ビリーヴは、こんな騒ぎの中でもいつも通り自分の仕事を遂行していた。淡々と、ライトオとデュランダルすら言い聞かせるぶれない態度に周囲もしんと静まり返る。
ビリーヴはルビーが口をつけたコーヒーカップを持っている。
「睡眠薬か。タキオン、このコーヒーに入っている薬物を調べられるか?」
「ふゥん。可能ではあるが……検査キットを持ってくる必要があるからねぇ。この人混みの中では時間がかかると思うよ?」
ビリーヴの真剣な態度にふざけている場合ではないと判断したのか、タキオンも真面目に答えてくれる。
「犯人を見つけ出して、お店も一刻も速く再開する必要があります。……このコーヒーに睡眠薬が入っているかどうか。━━こうすれば、一番速くわかる」
ビリーヴは、ルビーが飲んでいたコーヒーを躊躇いなく一気に飲み干した。驚くライトオ
「なっ!? 血迷ったかビリーヴ。睡眠薬が入っていたらお前も寝てしまうんだぞ!」
「だからですよ。僕がルビーさんのように眠りに落ちればそれがコーヒーに睡眠薬が入っていた何よりの証拠です」
「だとしても、あなたが飲まなくても……!」
「それよりデュランダルさん、念のためライトオの身体検査を。ライトオさんが犯人なら、まだ睡眠薬を入れた袋なりを持っていることになりますからね。僕がずっとそばにいるので捨てる暇はありませんでした」
矢継ぎ早に指示を出すビリーヴ。ルビーがコーヒーに口をつけてから眠りに落ちるまで5分と経っていなかった以上、時間をかけていられないのだろう。
事実、あれだけてきぱき動いていたビリーヴの体が、突然ぐらりとよろめいた。
しかしこうなる覚悟はしていたのだろう。なんとか膝をつき、教室の壁に自力でもたれ掛かった。
「後は頼みますよ、デュランダルさん、ライトオさん。最速トリオとして……この事件、最速で解決してください」
その言葉を最後に、ビリーヴは目を閉じた。そっとノーリーズンが近づき、顔を覗きこむ。
「……本当に眠っておるな。ビリーヴ殿の仕事は最速と知ってはおるが、ここまでするとは見上げた度胸よのう」
「やはり、ライトオさんの持ち物に不審なものはないわね。彼女は潔白だと保証します」
デュランダルは、言葉通りライトオの身体検査を終える。当然、睡眠薬の袋などなかった。
「ルビーさんとビリーヴの仇は必ず取る。コーヒーに睡眠薬が入っていて、これは私が運んだ。私が犯人でないと証明された以上、犯人はもはやコーヒーを入れた本人以外あり得ない」
「……誰なんですか? それは」
カフェがわずかに怒りを孕んだ声で聞く。
コーヒーを粗末にされたからだろう。
ライトオは真犯人の名を口にする。
「トーセンジョーダンだ。さっそく本人を捕まえに━━御用改めに行くとしよう」
ライトオ達は和カフェの厨房……として扱われている隣の部屋に向かった。
ジョーダンは暇そうにスマホを弄っていたが、ライトオ達を見て目を丸くする。
「え、何起き? ライトオデュランダルはいつメンだけどノーリーズンとタキオンにカフェってどういう組み合わせよ? なんかのイベント?」
「御用改めです、ジョーダン。コーヒーに睡眠薬を入れてダイイチルビーさんを眠らせたのはあなたですね」
「は? いきなり意味わからんけど。なんであたしがそんなことするわけ?」
ジョーダンは肩を竦めて真っ向から否定した。
ついてきたノーリーズンはニヤリと笑ってライトオに問う。
「して、どうするライトオ殿? 睡眠薬の袋などこの厨房ならいくらでも処分してしまえる。ジョーダン殿が認めぬ限り物証を用意するのは不可能じゃと思うが」
「ならば尋問で証言させるまで。ジョーダン、ダイイチルビーにコーヒーを淹れたときのことを証言してください」
「いや、受け取ったのライトオじゃん。……でも、とりま付き合ったげんよ!」
「ふゥん。切り替えが速いねぇ……」
「ギャルだかんね! なんのイベントか知んないけどアゲてくしかないっしょ!」
ジョーダンは言われたとおり証言を開始する。
「あたしは受け取った注文の通りコーヒーを入れただけだし!
てかコーヒーは淹れてたけどどれがルビーのコーヒーだったなんかわかるわけねーじゃん!
仮にわかったとして、あたしがルビーに睡眠薬飲ませてどーすんのよって話じゃない?
多分だけど、ルビーめっちゃ疲れてたんじゃね?」
自分は知らないし、そもそも動機がない。もっともな証言だった。
ジョーダンとルビーはクラスメイトだしノリは違うが、仲が悪いわけではないし、ジョーダンは悪戯を働くタイプではない。
ライトオにも、異議を唱える余地がなかった。
だが、既に最速で手は打ってある。
「さて、ジョーダンはこう言っているわけだが。お前はどう思う? ポッケ」
「………………は?」
ライトオは、自分のスマホをつきつける。画面はライトオの同期でありジョーダンにとっては家族のように親しいジャングルポケットと繋がっていた。ジョーダンが一気に青ざめる。
「……おい。誰だ、テメェ。ジョーダンの顔と名前で妙な真似したらマジで潰すぞ」
スマホから聞こえてくるポッケの声は、ライトオでも滅多に聞いたことがないほど冷えきっていた。
しかもこいつはジョーダンではないと言ったので驚くライトオ達。
「待て、こいつジョーダンじゃないのか? 髪の毛も振る舞いもギャルギャルしいいつものジョーダンにしか見えないが」
「だいたい、アイツが今トレセン学園にいるわけねぇんだ。━━北海道のファンにサーカスを届けに行ったんだからよ」
「サーカスの場所はトレセン学園ではなく北海道だと!?」
ジョーダン以外の全員が驚いた。ジョーダンがサーカスの練習をしていることは知っていたが場所が北海道とは初耳だ。
ジョーダンの姿をしたウマ娘は、無言で顔を真っ青にしている。
その情報を元に、ライトオは最速で思考を直進させる。
「つまりこいつはジョーダン本人ではなく、ジョーダンが北海道に行くことを知っていて本人になり済ました。そしてクラスメイトである私でもわからないほどジョーダンのギャルメイクやギャル語に詳しく━━ケイエスミラクルと一緒にいるダイイチルビーを狙って睡眠薬を飲ませる理由がありそうなウマ娘」
そんなウマ娘は、ライトオの知る限り一人しかいない。
「お前はダイタクヘリオスだな? 今すぐジョーダンのふりをする冗談はやめてお縄につくがいい。でないとポッケがなにをするかわからない」
「ううっ……ごめんねミラクル、お嬢、ジョーダン……こんなつもりじゃなかった……ぴえんこえてぱおん……」
観念して、ダイタクヘリオスがジョーダンの髪型を真似たウィッグを外した。
いつものパリピギャルっぷりはどこへやら、本気で落ち込んでべそべそ泣きはじめた。
「どういうことだ。まさかお前にもルビーが眠ってしまうなんて知らなかったのか?」
「だって……ウチ、お嬢に元気なってほしくね……そんで……」
「ライトオさん、落ち着いて話ができる状態ではなさそうよ」
ダイタクヘリオスの言葉は要領を得ない。彼女自身、混乱しているのが伝わってくる。
ちょうどそのタイミングで、一人のウマ娘があくびをしながら厨房に入ってきた。
「ふぁーあ……あれ、ヘリオス? ジョーダンの変装やめたの? てかライトオにデュランダルはともかく他のみんなは……何?」
「相変わらず朝はおそようですねゴールドシチー。もしかしてヘリオスがジョーダンの変装をすることを知っていたか?」
100年に一度の美少女とも言われるモデルウマ娘、ゴールドシチーは事も無げに頷いた。
「え、うん。どうせならクラスメイトも驚かせたいってジョーダンが言ってたから。ヘリオスがジョーダンの変装して午前中の厨房担当して、夜になったら北海道にジョーダンがいることがわかって瞬間移動マジック~的なね」
「なるほど、つまりこの変装はジョーダン本人の許可をとっているわけだ。人騒がせなやつめ」
「アイツ……まぁ、そういうことなら俺からは何も言わねぇよ。フジさんとのサーカス、最高に盛り上げたい気持ちはわかるしな」
ポッケが一方的に通話を切った。ジョーダン本人が認めた以上、自分がとやかく言うことではないと判断したのだろう。
「それで……ヘリオスさんは何故、コーヒーに睡眠薬を入れてルビーさんを眠らせたのですか?」
「落ち着きたまえよカフェ。ヘリオス君だって悪気はなさそうじゃないか。もしかしたら砂糖と間違えただけかもしれないだろ?」
怒るカフェを宥めるタキオン。ヘリオスは泣きながら懺悔をする。
「ウチは……お嬢が最近めっちゃ忙しくて、元気がなさそうで……だから、元気になってほしくて、元気が出る薬を作ってもらって……」
そこまで聞いて、ライトオは最速でヘリオスの犯行動機と方法を理解した。
「なるほどな。出所のわからない薬を責任感の塊なルビーさんが口にするわけがない。断られて仕方なく、ジョーダンの変装をしているタイミングで一服盛ったというわけだ。ヘリオスならミラクルとルビーの声などどんなに遠くからでも聞き分けられるのだろう」
ルビーは怪しいものを口にしない。このクラスでコーヒーを頼んだのも、ビリーヴが用意したコーヒー豆だと事前に確認しているからだ。
ヘリオスはジョーダンに変装を頼まれた状況を利用しルビーがやってきたタイミングで良かれと思って薬を入れたコーヒーを飲ませたところ。彼女は突然眠ってしまった。
「ウチ……お嬢のために何もできなかった……結婚式、ウチは誘ってもらえんかったけど、でもせめてお嬢には元気に出てほしくて……」
「ヘリオス……辛いのはわかるけど、ちゃんと謝りな。私も一緒に謝るからさ」
ヘリオスのルビーへの想いをよく知るシチーがそっとヘリオスに近づいて肩を叩く。
「うん……ほんとゴメン、みんな……全部、ウチが悪かった……」
ヘリオスはみんなに頭を下げる。本人は完全に良かれと思ってやったことだったのでライトオ達から特に責めようとは思わなかった。
あとはミラクルとルビーがどう受け止めるか、それだけだろう。
「というわけでデュランダル、私は眠ってしまったビリーヴをちゃんとしたところで寝かせてくる。というか私も眠い。和カフェはお前一人に任せたぞ」
「ひ、1人でできるわけないでしょう!? 3人も欠けが出てしまっては和カフェが成立するわけ……」
そこで、デュランダルはこの場にいる信長風衣装のノーリーズンと、坂本龍馬とおりょうさん風衣装のタキオンとカフェをじっと見つめた。
「3人とも……無礼なお願いとは思いますが、ご協力願えますか?」
「にゃーはっはっは! 是非もなし!」
「ふゥん……まぁ、坂本龍馬だけに乗りかかった船というやつぜよ!」
「語尾をぜよぜよさせすぎです……私も、せっかくのコーヒーを無駄にしたくはありません……」
そして午後の昼下がり、ビリーヴは保健室のベッドで目を覚ました。隣には、自分をみていたであろうライトオが突っ伏して眠っている。
「……この感じだと、ライトオさんは事件を解決してくれたみたいだ」
ライトオが事件を解決するとスタミナ切れで眠ってしまうことはビリーヴも知っていた。
ふと枕元をみると、ライトオのまっすぐで鋭い字で書き置きがしてあった。それを見るビリーヴ。
【ビリーヴへ。事件は最速で解決した。トーセンジョーダンの正体はダイタクヘリオスだった。
なんでも、ルビーさんの親族が結婚式をするのをルビー本人が結婚すると勘違いしていてもたってもいられなくなったらしい。ぶっちゃけ私も勘違いをしてた】
「ああ……なるほど。なんとなく察しました」
ダイタクヘリオスのルビー大好きっぷりはビリーヴも知っている。ビリーヴとルビーはスプリンターであり後輩を育てる側のウマ娘としてそれなりに話を聞いているからだ。
【それと、事件の様子を見ていたファン達が驚いていた。ビリーヴもあんな突拍子もない行動に出るのだと】
睡眠薬の入りのコーヒーを躊躇わず飲み干したことを言っているのだろう。ビリーヴにとってはあれが最速だと判断しての行動だが、確かに見ているファンへの配慮に欠けていたかもしれないと内省する。
【だが私にはお見通しだ。ビリーヴはルビーのためを思ってあんなことをした。ルビーさんは完全に被害者とはいえ、ファン感謝祭の日に自分だけ眠りこけてしまったと自責の念に駆られるに違いない。なのでビリーヴも一緒に眠りに落ちることでルビーに恥をかかせないようにしたのだろう? なんか外国の王女様の話でそういうのがあった気がする】
「……あなたには敵いませんね、その通りです」
自分のそばで一直線のよだれを流すライトオの寝顔を見ながら苦笑する。
【午前中の和カフェはデュランダルがノーリーズンとカフェとタキオンを使ってなんとかしてくれた。さすがデュランダル、普段から曲者揃いのチームを纏めているだけのことはあるな。おかげで店がぐだぐだにならずにすんだ】
「よかった。……ライトオさんはもっと直接デュランダルさんを褒めてもいい気がします」
書き置きももうすぐ終わりそうだ。最後まで目を通す。
【目が覚めたら3人で感謝祭を回ろう。夜はジョーダン本人のサーカスを見よう。やはり私たちは3人が一番しっくり来る。だって私がどれだけ速く走ってもビリーヴはついてこれるし私たちをコントロールできるから】
「……そうですね。僕も日本にいてあなた達と行動してると楽しいですよ。アメリカで話を聞いていると、ほんの少しだけのけものにされているみたいで寂しくなるくらいに」
本人達には言わないし言えない、小さなささくれのようなもの。だけどこうして日本に帰ってきて一緒に行動していると最速で吹き飛ばしてくれる。
「ああビリーヴさん、目が覚めたのね。よかった……ルビーさんも先刻目を覚まされてヘリオスさんからの謝罪を受け入れたし、これで完全解決だわ」
「おはようございます、デュランダルさん。和カフェを切り盛りしてくれたそうですね、助かりました」
デュランダルが、新撰組の羽織を着たままやってきた。
ビリーヴもライトオも和カフェで接客の時間は終わったが、まだビリーヴが用意した新撰組の羽織を着ている。
「……せっかくだから、今日はこの格好で回りましょうか。起きてくださいライトオさん。新撰組らしく、ファン感謝祭の見回りに行きますよ」
なんて、普段は言わないような冗談を口にしながら。ビリーヴはライトオの体を揺さぶるのだった。
ライトオの固有演出『無二無三なる一条の路』を初めて見たとき某新撰組の無明三段突きみたいなだなと感じたりビリーヴにも新撰組の羽織似合いそうだな~と思って書きました。
ちょっとぐだぐだしたかもしれませんが最速トリオ揃って事件解決する話が書けて満足です。