直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です 作:じゅぺっと
秋のファン感謝祭も終わり、すっかり寒くなってきた。眠気覚ましにあつあつのホットコーヒーでも飲もう」
昼下がり、トレーニング終わりのライトオは人気のないカフェテラスに移動していた。
お昼や夕飯時は大混雑だが、それ以外は基本的に静かなものだ。
おかげでライトオも直線でスムーズに動ける……と思いきや、たまたま誰かにぶつかってしまった。
「おっとすまん。ついうっかり直線に気を取られすぎていたようだ」
「……失礼」
相手はそそくさと歩き去っていってしまった。ライトオが振り向いてそちらを向くと、真っ赤な長髪を靡かせ、頭にヴェールを被ったウマ娘だった。
両手に何かを大事そうに抱えており、俯いて歩いていく。あれではぶつかるのも無理はないだろう。
「はて、知り合いのようなそうでもなかったような。まぁコーヒーを飲んで頭をシャキッとさせれば思い出すだろう」
こうしてライトオが改めてカフェテラスで自分のコーヒーを注文したとき、事件は起こった。
「ウワッー! 俺の写真集がねえ!!」
「バカねウオッカ! なんで大事なものなのに忘れるのよ!!」
「なんだウオダスか。もはや焼肉定食のように聞きなれた会話だが、何かなくなったのだろうか」
ライトオが振り向くと、やはりというべきかそこにはウオッカとダイワスカーレットが口喧嘩をしていた。
ウォッカがカフェテラスの一つの席をうろうろし、スカーレットが呆れているようだ。
「こんにちは2人とも、今日も仲良しですね。それで探し物はなんですか?
見つけにくいものですか? カバンの中や机の中は探してみましたか?」
「ライトオ先輩! いや、実は俺の新しい写真集の見本がなくなっちまって……」
「15分くらい前にカフェテラスで写真集を眺めてたら、ギムレット先輩に柵の修理手伝いを頼まれてつい忘れていっちゃったみたいなんです、ホント、ドジなんだから」
「う、うるせー! スカーレットだって、昨日タキオン先輩に実験の手伝いを頼まれてうっかり撮影を忘れそうになったりしたろ!」
「タキオンさんのお願いなんだから仕方ないでしょ! 今日から全国興業に出掛けるからどうしてもそれまでにすませたい実験があるって……」
「もういい。わかった。話が長い。とにかく写真集の紛失だな? 私が最速で解決してやる」
2人の口喧嘩を最速で中断させるライトオ。そして、この事件にはわかりやすい心当たりがあった。
「さっき真っ赤な髪のウマ娘が何かを大事そうに抱えて歩いているのを見た。今のカフェテラスにほとんど人はいないしそいつが持ち去った可能性がある」
「真っ赤な髪のウマ娘……ラヴズみたいな感じですか?」
「あとはシオン先輩とか……?」
真っ赤な髪のウマ娘、と聞いて真っ先に思い浮かぶのはラヴズオンリーユーにウィンバリアシオンだ。ライトオは頷く。
「色合いとしてはそんな感じだな。だがあの2人ではない。見たことあるのに無いような、不思議な感じだった。まるで違うセカイからいきなり現れたようにも感じる」
「2人以外で真っ赤な髪のウマ娘……うーん、俺もなんだか喉もとまで出てきてるような……そうでもねぇような……」
「とにかく! 赤い髪のウマ娘が写真集を持ってっちゃったなら探してみましょ。案外、向こうもウォッカを探してるかもしれないし」
スカーレットのいう通り、ウオッカのものを持ち去ったからといって盗難目的とは限らない。善かれと思って本人に渡そうと持っていった可能性もあるだろう。
「ちなみにその写真集はどんな表紙なんだ? ウォッカが映っている以外の特徴はあるか」
「へへっ、今回は赤いバイクに乗ってハードボイルドなポーズを決めた写真ですよ! ついでにスカーレットも一緒に撮ったんだよな」
「ついでとは何よ! ……まぁ、たまにはウオッカの趣味に付き合うのもいいかなって。私の写真集の見本ならありますけど見ます?」
スカーレットが脇に挟んでいた自分の写真集を見せる。白いバイクに跨がる彼女の姿が綺麗に納められ、『王女の鼓動、今ここに列を成す!』とキャッチコピーが振られていた。ウォッカも似たような感じで撮られているのだろう。
3人で地道に赤い髪のウマ娘を探し始めようとしたとき、1人のウマ娘がカフェテラスにやってきた。
「あれ? ライトオちゃんにスカーレットちゃんにウオッカちゃん……なんだか、珍しい組み合わせだね?」
「ダンツか。なに、ちょっとした事件を━━いやまて、その髪はどうした。まるで格闘ゲームの2Pカラーだぞ!」
「ダンツ先輩の髪が……赤い!?」
ライトオの同期であり極度のお人よしでまるまるかわいい振り回され役なウマ娘、ダンツフレームの髪が赤く染まっていた。
少なくとも昨日まではいつも通りだったはずだ。
「ま、まさか……ダンツ先輩が犯人!?」
「異議あり! 私の見た赤い髪のウマ娘は長髪の細身だった。髪の色は同じだがダンツとは長さや体型は全く違う」
「……? どういうこと、ライトオちゃん?」
「バカねウオッカ、いきなり犯人呼ばわりなんて失礼すぎるじゃない! すみませんダンツ先輩、実はかくかくしかじか……」
スカーレットが優等生らしく率先してダンツに経緯を説明する。
説明を受けたダンツは、見るからに驚いて髪色とは対照的に顔を青くした。
「…………そ、そうなんだ。大変だねぇ。じゃあわたしは用を思い出したからこの辺で━━」
「待った!!」
そそくさと立ち去ろうとするダンツに、ライトオは勢いよく待ったをかけた。
「ダンツの突然の赤髪2Pカラー、そしてウオッカが困っているというのに我関せずと立ち去ろうとするその態度。どう考えてもいつもの優しいフレちゃんではない。知っていることを話してもらおうか」
「な……なにも知らないよ? ウオッカちゃんの写真集なんて……」
「フッ、とぼける気か。ならば確実に知っていることについて話してもらおう」
「ダンツ先輩が確実に知っていること……?」
ウオッカとスカーレットが首をかしげる。
ライトオは、ダンツに揺さぶりをかけていくことにした。
「何故ダンツの髪は赤くなったのだろうか?」
「……ライトオちゃんなら言わなくてもわかるでしょ? タキオンちゃんの薬だよ。明日には戻るって」
「だろうな。で、今日タキオンから薬を直接もらったのだろうか?」
「う……うん! もちろんだよ!」
目が泳いでいるダンツの言葉。その言葉にイチバンに反応したのは、ライトオではなくタキオンが娘のように愛するスカーレットだった。
「ちょっと! タキオンさんは今日から全国興業に出かけたのよ、タキオンさんから薬をもらえるわけないじゃない! ……ですか!!」
「ひゃうう!!」
スカーレットの迫力ある言葉に縮こまるダンツ。
ライトオはダンツに近づき、そっと自分の持っていたコーヒーを差し出した。
「やはり今のダンツは記憶がコンランしているようだ。ここは一度落ち着いてコーヒーを飲むといい。さっき淹れたてホヤホヤだ」
「あ、ありがとう。あつあつだねぇ」
ダンツはコーヒーを受けとり、なんとか笑顔を浮かべてライトオに礼をする。
ライトオは、いつも通りの真顔で続けてこう言った。
「あつあつ? それは氷をたっぷり淹れてもらったアイスコーヒーだが?」
「え? あはは、なんだビックリした。そうだよね冷たいもんね」
「ウソだ。それは普通にホットコーヒー。この寒いのに氷なんて淹れるわけないだろう。どれだけ動揺しているんだ」
「ライトオちゃん!!?」
ライトオに連続で騙されたダンツが驚きの目でライトオを見る。
しかしそれ以上に、ウォッカとスカーレットが疑いの眼をダンツに向けていた。
ウオッカが、後輩として丁寧に頭を下げる。
「ダンツ先輩……頼みます、なんか知ってるなら教えてください。うっかり忘れちまった俺が悪いとはいえ、まだ発売もされてない新しい写真集なんです。もしネットに公開でもされたら、撮影してくれた皆さんに顔向けできません」
「……タキオンの実験に毎回付き合ってくれるダンツさんがウソをつくなんてよほどのことがあったんですよね。でも、あたしからもお願いします」
「フッ、さすがギムレットとタキオンの愛娘。いつもはケンカばかりでもこういうときはキチンとしているな」
2人の真剣な頼みを断れるダンツではない。ゆっくり深呼吸をしたあと、言いにくそうに話し始めた。
「……ごめんね、黙ってて。この髪は……赤い髪をしたカフェちゃんからもらったヘアスプレーなんだ。タキオンちゃんの特製なんだって」
「あのカフェが、タキオンの薬を使ったあげくダンツにまで渡しただと?」
非常にらしくない行動に驚くライトオ。お人よしのダンツやタキオンの光に関する実験に付き合うライトオと違い、カフェは基本的にタキオンに塩対応だ。
「だが確かに、私がすれ違った赤髪ウマ娘も細身の長髪でカフェに似ていた気がする。まさか、カフェがウオッカの写真集を持ち去ったというのか」
「でも……それならダンツ先輩はなんで黙ってたんですか?」
「……カフェちゃんにね。今日のイメチェンは内緒にしてってお願いされたんだ。勝手にタキオンさんの薬を使ったのが本人にバレると面倒くさいからって……それに、カフェちゃんがドロボーなんかしないだろうし」
「なるほどな。自分が赤い髪になったとバレないようにダンツの髪を赤くして自分以外にも赤髪のウマ娘を増やしてカモフラージュしようとしたのだろう」
事前にカフェから赤い髪になっていることは言わないよう頼まれたダンツは、ウオッカの写真集騒ぎに巻き込まれカフェからのお願いと困っているウォッカの板挟みになりどうすればいいか混乱してしまったのだろう。
「まったくフレちゃんはお人よしが過ぎる。あまりに天使すぎていつか本当に天使になってないか心配だ」
「お、大げさだよぉ……」
「とにかく、そうと決まればカフェ先輩のところにいきましょう! きっと理科準備室ですよね!」
「だろうな。タキオンが全国興業で出かけているならあそこはカフェのプライベートルームのようなもの。カフェはあんまりスマホを見ないから直接向かった方が速い」
そうして4人はカフェのいるであろう理科準備室に向かった。
ドアを開けると、そこには赤い髪をしたカフェがいつも通りコーヒーを淹れていた。
「やはり、来ましたね……ウオッカさん」
「カフェ、お前が窃盗なんかするわけがない。きっとウオッカに写真集を返すために持ち去ったのだろう?」
開口一番、ライトオはカフェに告げる。
しかし、カフェは申し訳なさそうに首を振った。
そして、ウオッカに丁寧に頭を下げる。
「そのつもり、だったのですが……実は、カフェテラスでウオッカさんの写真集を見つけたとき、誤って手元のコーヒーを溢してしまい……どうにかシミ抜きできないかと、この部屋に戻ってきたのです……申し訳ありません」
それを聞いたウォッカは驚いた顔をしたが━━すぐに笑って、犯人であるカフェに言った。
「なんだ、そういうことだったんすね! それならしょうがないですよ、そもそも忘れてった俺のせいだし、むしろカフェ先輩が持っていってくれたおかげで少なくともネットに流出とかはなくなりましたよね!」
ウオッカはカフェを咎めなかった。自己責任でもあるし、何より真剣に謝っている相手を責めるのはカッコ悪いと思ったのだろう。
あっさり許したウオッカの代わりに、スカーレットは少し唇を尖らせて言った。
「カフェ先輩にしては珍しい……でも、これからは気をつけてくださいね。昨日ブエナがカフェさんに桜花賞とオークスのレイを貸したって聞いて驚きましたけど。それにうっかりコーヒー溢したら本気で怒りますからね、写真集もレイも大事なティアラの輝きなんですから!」
「ええ……心から気をつけて扱いますよ。あれは……私にとっても大切なものですから」
それで、ウオッカとスカーレットはカフェを許すことにしてこの事件は一件落着となった。
「しかしカフェにブエナビスタとの繋がりなどあっただろうか? タキオンやギムレットと違って愛娘のようなウマ娘など……いたような、いなかったような……」
「ああっ、ライトオちゃん! わたしにコーヒーを渡したばっかりに……!」
頭のスタミナが切れ、その場で寝落ちそうになるライトオをダンツがしっかりと支える。
そうして4人が去り、再びカフェは1人きりになった。
「まさかあそこでライトオさんとぶつかってしまうとは……おかげでウオッカさんがあんなに早くここにたどり着いてしまいました。どうでしたか? 『こちらのセカイ』のウオッカさんは」
カフェは1人きり。しかしナニかに話しかける。
するとカフェの赤い髪がいつもの漆黒の髪に戻り━━カフェから、真っ赤な魂のような抜け出た。
その魂を、カフェは愛娘のように見つめる。
「ふふ……ウオッカさんやみんなと仲良くなれるか心配ですか? 大丈夫ですよ。先程みた通りみなさん優しいですから……あなたもすぐ……始めからここにいるのが当たり前のように、馴染みます」
カフェはコーヒーを淹れる作業を再開する。いつものブラックコーヒーではなく、甘いカフェラテを用意し。
隠していた、ウオッカの写真集を取り出した。
真っ赤なバイクに跨がるウォッカの表紙の写真、『光さす道となれ』と書かれた文字もまったくコーヒーで汚れていない。
カフェがさっき写真集を汚してしまったと言ったのは、真っ赤な嘘だ。
「本当は明日ウォッカさんに返すつもりでしたが……こうなってしまったからにはこの写真集はあなたへのプレゼントにしましょう。
ウオッカさんの写真、ブエナさんの桜花賞とオークスのレイ。そして私が淹れたカフェラテがあれば……向こうのセカイから来たあなたの魂に、ウマ娘としての存在を与えてあげられる」
1人きりの理科準備室で、マンハッタンカフェは愛する娘の帰宅におかえりなさいを言うように。
あるいは、この世ならざるものを呼び出す恐ろしい儀式の呪文のように唱えた。
「深紅の炎が、セカイの全てを包み込む。漆黒の華よ、今ここに開け。
私の可愛い……『レッドディザイア』」
ダンツフレーム実装にレッドディザイアの発表とライトオの周囲の供給が止まりませんでしたね。ダンツフレームが天使すぎる。
レッドディザイアのビジュアルがどストライクだったのでどんな娘なのか楽しみで夜しか眠れません。
追記。11/2天皇賞秋イラストのバイクに乗ったウオダス高でした。これにはレッドディザイアもニッコリ