直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です   作:じゅぺっと

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はぐれ風紀純情派~オルフェの黄金の下賜~

 

「ババンババンバンバン! ババンババンバンバンはぁー直線!」

「ライトオ検事、見回り中でありますよ。タルマエさんが熱心にPRするこの温泉街の風紀……必ず本官たちが守るであります!」

 

 直線最高速ウマ娘、カルストンライトオは警察ウマ娘、フェノーメノとともにゆこま温泉郷に来ていた。

 メノと同期にあたるロコドルウマ娘、ホッコータルマエが宣伝に力を入れており、人やウマ娘が増えたことで事件が起こる可能性が高いため2人で見回りをしているのだった。

 

「しかしメノ、ここは保養のための温泉郷。見回っているやつが露骨に目が血走っていては一般ウマ娘はリラックスできまい。お前も肩の力を抜いて楽しむべきそうすべき」

「まぁ……それはそうかもしれませんが」

 

 とはいえ、ライトオにとって見回りは名目のようなものでメノに誘われたから温泉を満喫しに来たというのが本音だ。

 

「最高の速度は最高の休養から。なかなか面白い発想だ。気持ちよすぎて思わず私も長風呂をしてしまうほどだしこんなところで物騒な事件を起こすやつなどいるはずが━━」

「きゃ~!」

「ウマ娘の悲鳴! 事件でありますライトオ検事!」

 

 噂をすればなんとやら。突如温泉郷に響いた悲鳴の方向へフェノーメノが走っていくとそこにはアイルランド政府高官の娘、ファインモーションがスカートを押さえつつ優雅に走っていた。

 ただし、その表情に恐れや焦りはなくむしろ満面の笑みであった。

 

「助けてくださ~い! 悪魔に襲われてま~す♪」

「誰が悪魔だ待てコラ!」

「なんだシャカファイか。ローマの休日ならぬさしずめアイルランドの休日といったところだな」

「……ずいぶんな笑顔で襲われているものだといっそ感心するであります。事件性はなさそうですね」

 

 ファインは満面の笑みだしそれを追いかける悪魔衣装のエアシャカールも怒ってはいるがいつもの日常風景だ。完全におてんば娘のお目付け役である。

 

「ほれ見たことか、やはり温泉郷で事件など起こるはずが━━」

「ひええええっ~!」

「またしてもウマ娘の悲鳴!? 今本官が急行するであります!」

 

 メノは悲鳴の声のもとへ走る。

 そこでは、世紀末覇王テイエムオペラオーが壁にめり込む勢いで激突し、カボチャとランタン衣装のメイショウドトウが泣きながら駆け寄っていた。

 

「オ、オペラオーさ~ん! ごめんなさい、私のせいで~!!」

「はーはっはっは! 壁にめり込み壁画となるボクも美しい! 温泉にあって覇王に不可能なし! 万物万象我が手中にあり!

 これくらいまた温泉に浸かればすぐ元通り━━いやさらに美しくなるさ! ボクが入った温泉はテイエムオペラオー温泉としてさらに美しくなる!」

「さ……さすがオペラオーさんですぅ~!」

「大方ドトウのドジでオペラオーがギャグ漫画のように吹っ飛んだのだろうな。関わると話が長くなるしさっさといきましょう。アヤベさんのデカ耳も見えたので彼女に丸投げすれば安心です」

 

 ライトオは相変わらず仲良しの2人を見てさっさと踵を返した。

 メノも一条の流星のように2人に近づいていくアドマイヤベガを確認してライトオのとなりに戻る。

 

「ふむ……これも異常はなさそうですね。ライトオ検事の言う通り、肩肘張るべきではないのかも……」

「ぬわっーーーーーー!!」

「三度ウマ娘の悲鳴! 今度こそ事件であります!!」

 

 再びメノは走り悲鳴の方へ向かう。今度は人だかりができており、その中心にはメノと同じステゴファミリーにしてレースの王、オルフェーヴルがいた。

 

「どいつもこいつも。無礼極まりない。跪け、王の御前だぞ」

 

 その言葉に、回りの人だかりは一斉にしゃがむ。小さな人々の中心で堂々と佇むオルフェはまさしく王の威容を放っていた。

 

「これはまさか……話しかけてきたファンに暴行を!?」

「あり得なくはないな。寝起きのオルフェさんの機嫌はめっちゃ悪いってデュランダルが言ってた」

 

 さすがに警戒して近づく2人。

 オルフェの足元には、キョンシー衣装を纏った小さなウマ娘、アグネスデジタルが転がっていた。

 

「なんだ勝手にデジタルが尊死しただけか。実にいつも通りだな。この前なんてオペラオーが妖精王の衣装を着て歩いていただけで爆発していた」

「これも事件性は……いや! オルフェさん、ファンを怖がらせるのは犯罪であります!!」

 

 メノは勇敢にも不機嫌そうなオルフェに注意を促す。

 オルフェは目線だけをメノに向けたあと、無視して回りの小さき人々━━子供達に言った。

 

「余の恐ろしさが理解できたか。ならば貴様らに下賜をくれてやる。余の黄金を賜ることに感謝せよ」

「わーい! ありがとう王様!」

「ハッピーハロウィン!」

「ああ、そういえば世間的には今がハロウィンでしたね。この前のファン感謝祭でだいたいやったので忘れていました」

 

 オルフェは子供達に手持ちのお菓子を配り終え、手を振る子供達を満足げに見送っていた。

 

「ああ……突然子供達にハロウィンと漫画の王様の真似を要求されても完璧なファンサをするオルフェさん尊すぎる……!」

「復活しましたねデジタル。それで今度は何故死んでたんですか?」

 

 ムクリと起き上がったデジタルにライトオが話しかけると、デジタルはさっきまで地面にめり込む勢いで倒れていたのが嘘のような笑顔で答えた。

 

「ライトオさん! 今日も直線がお麗しい……! オルフェさんが私めに━━」

「我々は共に『GⅠ6勝』という等級で括られているそうだ。余と……(オマエ)がだぞ? とな」

「アバッーーーーーーー!? まさかのアンコール!?」

 

 オルフェの言葉でまたしてもデジタルが死んだ。とりあえずオルフェがめちゃくちゃご機嫌なことはライトオにもわかった。ただのしかばねになったデジタルを見て笑っている。

 

「さすがのオルフェさんでも温泉郷ではのんびり上機嫌になるということか」

「ともかく、事件ではないようで何よりですが……デジタルさんもあまり大声を出してはいけませんよ」

「メノ、いつもの哨戒だな。ならばゆこまの宿へ向かえ。姉上からの使いが出ている」

 

 オルフェはメノに一言告げ、そのまま悠々と歩き去ってしまった。

 ゆこまの宿、とはこの温泉郷の中心人物である女将の保科健子と若女将であるユノハナブルームが経営する宿だ。

 

「ジャーニーさんからゆこま旅館へ使い? そういえば、トレセン学園からゆこま温泉郷へのバスは遠征支援委員会が手配していると聞きましたが……」

「ジャーニーさんはもはや学生というよりトレセン職員だな。見た目は小さい眼鏡っ娘だがスジモンのような貫禄に磨きがかかっている」

「ライトオ検事、失礼でありますよ。ともかく、現場百遍。今一度ゆこまの宿で異常がないか確認するのは悪くありませんね」

「いいだろう。そして帰って今度は別のお湯に浸かるのも悪くない」

「完全に観光気分でありますね……」

 

 ともかく、2人はゆこまの宿に戻った。そしてフェノーメノがユノハナブルームに異常がないことを報告しようと向かったとき━━なにやら、物々しい声が聞こえてきた。

 

「なぁユノハナさん。うちも花の名前を持つウマ娘同士仲良くしたいのはやまやまやけど。

 お金の話で、なあなあはアカンやろ?」

「この声は、ラッキーライラックさん?」

「ふむ、オルフェさんの秘蔵っ子でビリーヴの同室のウマ娘だったな。ビリーヴがアメリカに行く前は小さかったのにいつの間にか大きくなっていてビックリしたぞ」

 

 メノとライトオが声のする部屋に向かう。厨房のそばで、若女将のユノハナブルームとステゴファミリー期待の花、ラッキーライラックが何やら話し込んでいた。

 メノは温泉郷の風紀を守るものとして話しかける。

 

「ユノハナさん、温泉郷の見回り完了であります。皆さん楽しそうで事件はありませんでした」

「あらメノさん。ご苦労様です。ライトオさんも楽しんでいってくださいね~」

「私は既に最速エンジョイ中だが、ララの方はそうでもないようだ。なにか金銭トラブルだろうか?」

 

 ライトオがララを指差す。ララは気品あるにこりとした笑みを浮かべて答えた。

 

「ライトオさん、メノさん。こんにちは。うちはジャーニーさんからお使いを頼まれて……」

「トレセン学園からゆこま旅館への直通バスを無料で手配していただく代わりに遠征支援委員会の皆さんに『山吹色のお菓子』を渡す約束になってるんですよ~」

 

 くすくすと、ユノハナは悪戯っ子のように笑いながら言う。

 それを聞いて、メノは沸き上がる温泉のように沸騰した。

 

「んなっ! 賄賂の要求とは……犯罪であ゛り゛ま゛す゛!!」

 

 メノが大声を出し、思わずララとユノハナが耳を押さえた。

 お金の話、山吹色のお菓子と聞けば刑事ドラマ好きのメノが賄賂を連想するのも当然だ。

 ライトオは、腕くみして指をとんとん叩きながら訪ねる。

 

「ともかく、その『山吹色のお菓子』がなくなったということですか?」

「……そうなんですよぉ。旅館の人には遠征支援委員会の皆さんにお渡しするものと言ってありますから勝手に持っていくことはしませんし」

 

 ユノハナが、少し困り顔で言う。若女将としても、不本意な状況なのは間違いなさそうだ。

 

「となると、お客として来ている誰かがこっそり持っていたのだろうか?」

 

 その言葉に、ララは少し目を鋭くして言った。

 

「変ですねぇ。『山吹色のお菓子』のことは遠征支援委員会しか知らんはずやのに……もしお渡しいただけへんとなると……えーと……」

「となると、どうなってしまうのでしょう……?」

 

 ユノハナの問いにララが少し考える。

 彼女としては、尊敬するオルフェの姉であるジャーニーからお使いを頼まれた手前『山吹色のお菓子』はありませんでした、では済ませられないのだろう。

 

「……ファミリーのみんなで旅館に押し掛けてダンスレッスンさせてもらうで!!」

「なんだその可愛い脅しは。いやステゴファミリーの皆さんがどんちゃん騒ぎしてたら保養どころではなくなるかもしれないが」

「ララさん! いくらジャーニーさんのお願いとはいえ、あなたらしくないでありますよ!」

 

 ライトオとメノのツッコミに顔を真っ赤にするララ。ジャーニーからの使いとして気品ある態度を心がけていたが想定外の事態に内心いっぱいいっぱいだったのが伝わってくる。

 

「だってうち……オルフェさんがここのお菓子をずいぶん気に入ったって聞いたからお使いを引き受けたのに誰かに持っていかれてないって言われて……」

「待った! 『山吹色のお菓子』とはやはり賄賂ではなくただのお菓子ということで間違いないだろうか?」

 

 ライトオが確認すると、ユノハナはにっこり笑って答えた。

 

「はい~。うちの手作り栗きんとん、ウマ娘の皆さんにも好評なんですよ。1個1個手作りなので時間はかかりますが……」

「なんですと!? 紛らわしい!」

「メノ、お前は刑事ドラマの見すぎだ。だいたいジャーニーさんがこんな大っぴらに賄賂の要求なんかするわけないだろう。この純情派め」

「うぐっ……!」

 

 メノが黙る。ジャーニーがどういうウマ娘かはよくわかっているだけに、反論の余地がない。

 

「とはいえ、ゆこま旅館からお渡しするはずのお菓子がなくなったのは事実。後日私から直接トレセン学園にお渡ししにいきますから、それでお許しいただけませんか?」

 

 ユノハナが、若女将としてララに丁寧に頭を下げる。

 ララとメノの反応が可愛らしいとはいえ、現状落ち度はゆこま旅館側にある以上、若女将としてケジメをつける必要はあると判断したのだろう。

 ララもそれに頷いて、気品ある態度を取り繕って頭を下げた。

 

「……はい。うちも熱くなってすいませんでした。ジャーニーさんにはうちから連絡しておきますんで、そういうことで━━」

「異議あり!!」

 

 しかし、そこでライトオはこの山吹色のお菓子事件に検事として異議を唱えた。

 ユノハナもララもメノも、驚いてライトオを見る。

 

「ライトオ検事、この話にいったい何のムジュンが?」

「メノ、気付かないか? 若女将は旅館の人間が勝手に『山吹色のお菓子』を持っていくはずがないと言っている。であれば、やはりお客のウマ娘の誰か。

 いや、遠征支援委員会の関係者が持ち去ったのだ」

「……ライトオさん、まさかうちを疑ってるんですか?」

 

 ララの目が据わる。『山吹色のお菓子』について知っているのは遠征支援委員会の関係者だけ。

 しかしライトオは肩を竦めてやれやれと首を振った。

 

「まさか。ララがどういうウマ娘かはビリーヴから聞いている。恩義のあるドリームジャーニーの使いとして恥ずべきことはしないだろう。

 裏を返せば、ジャーニーさんに対してもお構いなしに振る舞える王族のようなウマ娘であれば勝手に持っていくくらいわけないということだ」

「ジャーニーさん相手に恐れないウマ娘……はっ!! まさか!?」

 

 メノが目を見張る。

 そう、この旅館に戻る前ライトオとメノは王族のようなウマ娘達を目撃している。

 アイルランドの姫、ファインモーション。

 賞金王にして世紀末覇王、テイエムオペラオー。

 そして……子供達に『黄金の下賜』を渡していた暴君オルフェーヴル。

 

「恐らくオルフェさんはこの旅館に来たときに子供達にハロウィンのお菓子をねだられたのだろう。そして子供には優しいオルフェさんは自分への献上品である『山吹色のお菓子』を持ち去り、『黄金の菓子』と言って子供達に配った。これがこの事件の真実だ!」

「な……なんやってええええええええええ!!」

 

 今日一番のララの大声が旅館に響いた。すると同時、メノとララのスマホに着信音がなる。

 

「ジャーニーさんから連絡ですね。オルも満足したようなので、あとはお二人ともゆっくりゆこま旅館を満喫して下さい、だそうです」

「なるほどな。ジャーニーさんなりのファミリーへの粋な計らいというやつか。どうせなら本人も来ればよかったのに」

 

 ララのスマホには『お使いを引き受けてくださりありがとうございます。想定外の状況での取引……よい経験になりましたか?』とメッセージが来ていた。

 恐らく、ジャーニーにはあらかじめこの状況を予測できていたのだろう。

 

「うう……ほんま、あのお二人にはかなわんなぁ……」

「ララさんもお疲れさまでした。ジャーニーさんからきっちりおもてなしするよう仰せつかっておりますので━━ゆこま温泉、楽しんでいってくださいね?」

 

 ユノハナブルームが、若女将として自慢の温泉を手のひらで示す。

 お言葉通り、ライトオ達は3人で温泉を満喫することになったのだった。

 

「しかしこうしてみるとララは本当に大きくなったな。ビリーヴと変わらないくらいだったのが嘘のようだ。既にオルフェさんやメノより大きいのでは?」

「ライトオ検事! セクハラは犯罪であ゛り゛ま゛す゛!」

「いえまぁ、ライトオさんに悪気がないんはビリーヴさんから聞いてるし……レースでも、オルフェさんみたいに大きな結果を出せるとええんやけどねぇ……」

 

 3人でのんびりお湯に浸かりながら珍しくのんびり話すライトオ達。

 そしてこれがこのゆこま温泉で起こる事件の始まりにすぎないことはまだ誰も知らないのだった。

 




久しぶりのフェノーメノとステゴファミリー回です。
ゆこま温泉はユノハナブルームも保科健子さんも良いキャラしてて楽しかったですね。
最近チェーンソーマンの映画を見たりポケモンレジェンズが楽しすぎたり新シナリオ育成が忙しかったりしますがなんとか定期投稿は続けようと思います。
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