直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です   作:じゅぺっと

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直進裁判 絶景のメリークリスマス

「開廷ッ! これよりブエナビスタのトレーナーが毒薬を飲まされ体が縮んでしまった事件の裁判を執り行うッ!」

 

 ステゴファミリー達によるクリスマス会が行われ、最後はステイゴールド本人がサンタ役で登場するサプライズがあった翌日。

 体育館に、秋川やよい理事長の声が響いた。

 

「検察側、弁護側、準備はよろしいだろうか!」

 

 体育館壇上の中央には理事長が、そして両サイドには2人のウマ娘が立っている。

 

「検察側、ナカヤマフェスタだ。ショーダウンといこうぜ」

「カルストンライトオ、弁護側です。まるっきり準備できていません」

「うむっ! ……うむ? カルストンライトオが弁護側?」

 

 カルストンライトオの父親は検察官であり、真実をまっすぐ追求する志はライトオにも受け継がれている。

 そのためトレセン学園で事件が起これば検事として最速で解決してきたのだが……今日は故あって、弁護側に立っていた。

 

「なにしろ30分前にカフェからどうしてもタキオンを弁護してあげてほしいと依頼されましたからね。というわけで事件概要の説明からお願いします」

「そ、そうだったのか。ではナカヤマフェスタ、事件概要の説明を頼むッ!」

 

 理事長はナカヤマフェスタに扇子を向けたが、ナカヤマは欠伸を噛み殺したあと気だるげにこう言った。

 

「……理事長さん、私みたいなアウトローがより、みんなに信頼される理事長さんが説明した方が伝わりやすいんじゃねぇか?」

 

 冬季休暇とあって実家に帰ったウマ娘も多く、普段より数は少ないがそれでも多くのウマ娘達がこの事件の行方を見にやって来た。

 みんなに信頼される、と褒められた理事長は気をよくして話し始める。

 

「承知ッ! まず今朝ブエナビスタがトレーナー室に向かうと、そこには毒薬を飲まされ、小学生くらいまで体が縮んでしまったトレーナーがいたッ!」

「ブエナの悲鳴が聞こえて駆けつけてみたんだが……あんなに狼狽したブエナは初めて見たかもなぁ。今でも小さくなったトレーナーと部屋に籠りきりだ」

 

 ナカヤマはブエナと同期だ。レースでの対決経験もある。ナカヤマが言うなら、ブエナの混乱ぶりはよほどだったのだろう。

 理事長は頷いて、事件の続きを説明する。

 人の体を小学生にまで縮めるようなクスリを作れるウマ娘など、当然1人しかいない。

 

「そして、その毒薬はアグネスタキオンによって作られたものであることが判明ッ! よって、アグネスタキオンを容疑者として確保したが、本人が犯行を否定したのでこうして裁判を開くことになった!」

「薬自体はタキオンが作ったものだと認めたのですね?」

「肯定ッ! アグネスタキオンの言い分では、薬は昨晩いつの間にか1つ盗まれていたそうだッ!」

「まるで子供の言い訳ですね。私が検察側なら聞く耳も持ちません」

 

 弁護側にあるまじき発言ではあるが、客観的に見て苦し紛れの嘘にしか聞こえないのは間違いないだろう。

 

「ククッ……わかってるじゃねぇか。タキオンの薬でトレーナーが縮んだ。おまけに今朝のタキオンのアリバイはない。これじゃあ賭けにもなりゃしねぇ。理事長さん、さっさと判決をくだしちまいな」

 

 ナカヤマは理事長とライトオに背を向けて呟く。まるでこんな裁判など必要ないと言わんばかりに。

 

「待った! ナカヤマさん、それなら何故あなたが出てきたのでしょう」

「どういう意味だい、検事さん? いや、今は弁護士さんか」

 

 ライトオが待ったをかけると、ナカヤマは懐から飴玉を1本取り出して口に放り込んだ。

 

「そのままの意味です。賭けにもならないただの事件なら、いつも通りメノに任せておけばいいのでは?」

 

 ナカヤマは昨日もメノやステゴファミリーの面々と共にいた。事件が起これば、ナカヤマよりも真っ先に警察ウマ娘のメノが出てくるはずだ。

 

「メノはこのクリスマス会で一番頑張ったからなぁ。今日くらい休ませてやりてえ」

「だとしてもナカヤマさんが事件を起こすのではなく解決側にたっているあたり、何か歪みのようなものを感じます。この事件、何かありそうですね」

 

 いつもは検察側のライトオが弁護側で、アウトローのナカヤマが検察側という状況に聴衆のウマ娘たちもざわざわしている。

 ナカヤマは苦笑して、理事長の方を向いた。

 

「ククク……ひどい言われようだな。ま、それなら決定的な証拠ってヤツを出すとするかね」

「決定的な証拠だと?」

「この事件は今朝方に起こったんだが……偶然にも、犯行の瞬間を目撃した聖女サマがいたのさ」

「聖女……カフェの愛娘のレッドディザイアか!」

 

 ブエナビスタやナカヤマフェスタと同期であり、聖女を名乗る神秘的なウマ娘。

 レッドディザイアはライトオの同期であるマンハッタンカフェをとても慕っている。

 アグネスタキオンにとってのダイワスカーレットのように、先輩と後輩でありながら親子のように見えることもままあった。

 

「理事長さん、私はレッドディザイアのカードを切らせてもらうぜ。アイツは犯行の一部始終を見た上で、ブエナに連絡した。そして駆けつけたブエナは体が縮んだトレーナーを見て大泣きした……この事件は、ただそれだけさァ」

「承知ッ! ではレッドディザイアに入廷をお願いするッ!」

 

 理事長の呼び掛けで、舞台袖から深紅の長髪をした細身のウマ娘、レッドディザイアがしずしずと入ってくる。

 

「レッドディザイア……聖女です。皆様にもクリスマスの祝福がありますよう。この場を借りて祈らせていただきます」

 

 中央の証言台に立ち、胸の前で手を合わせて告解をする修道女のように口を開いた。

 ライトオは、ディザイアにまっすぐ指を指して言った。

 

「ディザイア、間違いなくタキオンが犯人だと主張するのだな? カフェは、私に弁護を依頼したわけだが」

 

 ディザイアは、ライトオの方を見て頷いた。目尻に薄くクマが浮かんでいるが、その瞳には確固たる意思を感じる。

 

「はい、三女神様に誓って、あれはタキオンさんに間違いありません」

「承諾ッ! これよりディザイアには目撃したことを証言してもらおうッ!」

 

 理事長が閉じた扇子をまっすぐディザイアに指す。

 ライトオは、これまでの事件の流れを頭の中で最高速で整理した。

 

(確定しているのは、ブエナとナカヤマさんが小学生サイズに縮んだトレーナーを発見したこと。そしてブエナは大きく動揺して、小さくなったトレーナーと部屋に籠ってしまった。

 

無論、そんなふざけた真似ができるのはタキオンの薬品しかあり得ん。そしてタキオンには今朝のアリバイはない)

 

 ここまで考えて、ライトオは表情は変えず内心で苦笑した。

 

(フッ。もしカフェが弁護を頼んでこなければ、私もタキオンをメノにつき出していただろうな。カフェとタキオンの信頼度は違いすぎた)

 

 カフェが普段タキオンとディザイアの言い分どちらを信用するかと言えば、考えるまでもなくディザイアだ。

 にも関わらず、カフェはライトオの元を訪れ弁護を依頼した。

 

『あの子は……きっと何か、思い込みをしているのです。タキオンさんが、無関係の人間に無理やりクスリを飲ませることはしませんから……』

(その思い込みがなんなのか……この証言で最速でアキラカにするとしよう!)

 

 レッドディザイアが祈るように瞳を閉じて、聖女として証言を開始した。

 

「私は今朝、雪の降るトレーニングコースへ向かうと、同じくコースに来ていたブエナさんのトレーナーさんをお見かけしました。

 彼はまだ普段通りで雪の積もったコースを確認していたのですが……その時、背後から白衣を着たタキオンさんが飛びかかり、彼に薬を飲ませたのです」

「待った! それがタキオンだったと断言できるのか? 別のウマ娘である可能性は?」

 

 ライトオが待ったをかける。

 疑われたディザイアは、気を悪くすることもなく微笑んだ。

 

「まぁ、ライトオさんにはタキオンさん以外に白衣を着て人の体を小さくする薬を飲ませるウマ娘に心当たりがあるのですか?」

 

 ディザイアの言葉に、理事長とナカヤマも頷いた。

 

「理事長として全校生徒のことは把握しているつもりだが、そんなウマ娘は良くも悪くもアグネスタキオンしかいないだろうッ!」

「ああ、しかも昨日はクリスマス会だった。寮にいるウマ娘は大抵誰かと一緒だったのに、1人で研究に没頭してたのもタキオンくらいだろうさ」

「グッ……いじめられっ子の席か、ここは……?」

 

 言い返したいがなにも反論できないライトオ。タキオンの薬には最初の三年間でずいぶん世話になった身だが、今日はあのマッドサイエンティストが恨めしい。

 歯噛みするライトオをよそに、ディザイアは証言を続ける。

 

「そしてタキオンさんは気絶して小さくなったトレーナーさんを麻袋に入れ、俵のように担いでトレーナー室の方に戻りました。

 私は急いでブエナさんに連絡し、トレーナーさんのお部屋に向かうと……体が小さくなった彼を見つけたのです。

 あの時のブエナさんの感涙……隣で見ていた私にも、心が伝わってき」

「異議あり!!」

 

 ディザイアは証言を終える直前に、ライトオは最速でまっすぐ指をつきつけてた。

 

 

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 ナカヤマが、ニヤリと笑ってライトオに問う。

 

「へぇ……ついさっきまで事件のことすら知らなかったのに、なんのムジュンがあるってんだ?」

「ムジュンは確かにある。ナカヤマさんはさっきこう言ったはずだ。ブエナの悲鳴を聞いて駆けつけたら彼女はひどく狼狽して泣いていたとな」

「カルストンライトオ、それの何がおかしいのだろうか? 自分のトレーナーが小学生サイズになっていたら動揺して当然だと思うが……」

 

 理事長が首をかしげる。ライトオだってある日突然自分のトレーナーが小学生サイズになっていたら困惑を隠せないだろう。

 

「しかし、ディザイアは今こう言った。ブエナは感涙していたと」

「た、確かにそうだが……要するに泣いていたことに変わりないのでは?」

 

 ライトオは肩を竦め、ブンブン首を振っていった。

 

「狼狽と感涙では、感情がムジュンしている。ディザイアの言い分では、まるでトレーナーが小さくなったことがブエナにとって喜ばしいことのようではないか!」

「か……感情のムジュン!! これはいった━━」

「黙りなァ!!」

 

 突然、ナカヤマが検察側の台をバンと叩いて話の流れを止める。

 ナカヤマは、ライトオを鋭い目で睨んで言った。

 

「検事さん、姑息な時間稼ぎなんてアンタらしくもない。狼狽だろうが感涙だろうがそもそもブエナはトレーナーと同じく被害者。感情がムジュンしていようがいまいがなんの関係もねぇだろ?」

「ふーむ……確かに、その通りだな。カルストンライトオ、ブエナの感情が事件に関係するのだろうか?」

 

 理事長の質問に、ライトオは一直線に立てた人差し指をチッチッチと振って自信満々に答えた。

 

「ムロン、極めて重要だ。なぜブエナが動揺していたかこそ、この事件の真実を最速でつきとめる鍵になる」

「ヘェ……なら聞かせてもらおうじゃねえか。まずブエナは狼狽してたのか感涙してたのか、どっちなんだ?」

 

 ナカヤマが、まるでスリルなゲームをするように熱の籠った声で聞いてくる。

 結末のわかりきった事件に波乱が起こって、内心ヒリついてきたのだろう。

 ライトオは、脳内で思考を最高速で直進させ即興で考える。

 

「ナカヤマさんもディザイアも、ブエナとは親しい同期だ。2人が嘘をついている素振りもない。

 つまり、どちらもジジツではあるのだろう。ブエナはディザイアと共に縮んだトレーナーを見てまず感涙し……その後、ナカヤマさんが駆けつけたあたりで狼狽した」

「ハッ、いきなり意味がわからねぇな。ブエナは子供みたいに感情豊かではあるが、情緒不安定なヤツじゃねえぜ?」

 

 ナカヤマの問いに、ライトオは首を振る。

 

「トレーナーが小さくなったこと自体はブエナの望んだことだった。しかし、なぜ小さくなったのかブエナにはわからなかったのだろう。私やディザイアならともかく、ブエナはタキオンとは特に親しくないからな」

 

 その言葉に、しばらく黙っていたディザイアが頷く。

 

「ええ、ブエナさんには全く心当たりがなかったようで。この裁判が始まる前、タキオンさんのお薬ですよと伝えたところ安心してくださいました」

「……ちょっと待てディザイア、マジでブエナは喜んでたんだな? 幼馴染みでもある自分のトレーナーが小学生サイズに縮んぢまったのに?」

「疑問ッ! ブエナビスタとそのトレーナーは幼少より仲睦まじかったと聞く、何故喜ぶ理由があるのだろうかッ!」

 

 ナカヤマは顎に手を当ててディザイアに慎重に尋ねる。理事長も全く見当がつかないようで首をかしげていた。

 そんな2人に、ディザイアは迷える子羊を導く聖女のように微笑んで……とんでもないことを口に出した。

 

「だって、ブエナさんの悲願が叶ったのですもの。感涙するのもむべなるかな」

「悲願だァ……?」

「ブエナさんは毎年サンタさんに願っていたのです。

『一度でいいからお兄ちゃん……トレーナーさんより年上になってみたい』と」

 

 シン……と降り積もる雪のように全体が静まり返った。

 幼い子供のような、無茶苦茶な願いだ。

 誰に頼んでも叶うはずのない願い。

 ……タキオンの薬というトンデモアイテムを除けば。

 

 

「な…………なんだとっ!?」

 

 

 ナカヤマが、滅多に出さない本気の驚愕をした。理事長に至っては、目を丸くして言葉を失っている。

 ライトオは迷わず、驚くより先に思考を直進させた。

 

「ディザイア、1つ確認したい。ブエナが毎年サンタさんに頼んでいたというのは、トレセン寮のクリスマス会でもか?」

 

 トレセン寮のクリスマス会では、最後にサンタ役からのクリスマスプレゼントが渡される。

 そして、寮生はクリスマスプレゼントを事前にリクエストすることができるのだ。

 ディザイアは、同期でありライバルのブエナへの慈しみをもって語った。

 

「はい、もちろん。ブエナさんも本気で叶うとは思っていない、ただの願望として書いていたのですが……今年は奇跡的に、タキオンさんの薬でそれが叶ったのです」

「つまりブエナ目線だと、半ば冗談だったクリスマスプレゼントが本当に届いたわけか。

感涙したのち、本当にトレーナーが大丈夫なのか狼狽するのも当然だな」

「タキオンさんによれば、明日には元のトレーナーさんに戻るとのことで……それまで、自分がお姉ちゃんになったらやりたいことリストを全部やると意気込んでおりましたよ」

 

 トレセンのスーパーヒロインブエナビスタの秘めたる願いが明かになり、またしても体育館内が静まり返った。

 

「……清く正しいブエナにも、隠された性癖の1つや2つはあったようだ。ディザイア、後で一言ブエナに謝った方がいいと思う」

 

 さすがのライトオも、指摘せずにはいられなかった。

 暴露したディザイアにも悪気はなかったのだろう。まぁ、と目をパチクリさせている。

 そんな静寂を打ち破ったのは、ナカヤマフェスタの笑い声だった。

 

「ク……ククク……ハッハッハ! さすがブエナだ、とんでもねぇ輝きでヒリつかせてくれる……だが! 結局、犯人がタキオンであることになんの変わりもありゃしねぇ! ただブエナの性癖が開示されただけじゃねえか!」

 

 バンバンバン! と検察側の台を叩く。

 しばらく目を丸くしていた理事長も、我に返って事件そのものを振り返った。

 

「フム……ブエナの感情のムジュンはわかったが、とどのつまり、白衣を着たタキオンがブエナビスタのトレーナーに薬を飲ませたことに変わりはないな」

 

 しかし、ライトオは2人に再びチッチッチと大きく指を振った。

 

「いいや、既に真実は明らかになっている。その証拠に……ナカヤマさん、いつもの余裕はどうしました?」

 

 ライトオがナカヤマをまっすぐ指差すと、ナカヤマは舐め終わった飴の棒を吹き飛ばして追加の飴を取り出した。

 

「……ハ、余裕がない? 冗談言うなよ。こんな裁判……キャンディー舐めながらだって私には出来る。こんなもんは所詮クリスマスのパーティーゲームにすぎねぇさ」

 

 ガリ、ガリと。口に加えたあめ玉を噛み砕く音が聞こえる。

 言葉は強気だが、内心の動揺が見て取れた。

 

「それで、結局弁護士サマは誰が犯人だと仰るんだい? タキオン以外に、タキオンの薬で他人の体を縮めるなんて誰がやるってんだ?」

「この事件は、ブエナビスタがトレーナーよりも年上になってみたいとクリスマスに願ったからこそ起こった。であれば、犯人はタキオンのようなマッドサイエンティストではありません」

 

 ライトオは、ここまでの議論でたどり着いた真実を口にする。

 

「犯人は━━サンタクロースだ!」

「なにぃ!? まさか本物のサンタさんがブエナビスタのトレーナーを小さくしたというのかッ!」

 

 犯人サンタ説に驚く理事長。驚く体育館に集まった幼いウマ娘達。

 だが大半のウマ娘は、むしろ冷ややかな視線をライトオに向けた。

 ナカヤマが冷や汗をかきながら、努めて静かに言葉を選ぶ。

 

「オイオイ……勘弁してくれよ。まさか、アンタも信じてるクチか?」

「フッ、サンタが実在するかはともかく。私が言いたいのは伝説上の存在ではない。

 

 いたではないか。昨日久しぶりにトレセン学園に帰ってきたみんなのサンタが。一年に一度必ずやってくる伝説のサンタクロースよりもさらにレアなウマ娘がな」

「グッ…………! アンタ、まさか……!」

 

 ナカヤマも、ディザイアも。昨日クリスマス会に参加した全てのウマ娘がこの事件の真犯人を理解した。

 

「ステイゴールド。彼女は昨夜トレセン学園に帰ってきてサンタとしてみんなにクリスマスプレゼントを配ってくれた。その最中、偶然ブエナビスタの願いを知ったのだろう。

 ステイゴールドはサンタとして、ブエナビスタの願いをタキオンの薬を盗み出すことで叶えた! これが、事件の真実だ!」

「まさか……まさかこんな、バカなことが……!」

 

 ナカヤマが、大勝負した手札を逆転されたギャンブラーのように苦悶の声を漏らした。

 まさかのステイゴールド犯人説にざわめく体育館のウマ娘達。

 

『ステイゴールド先輩が、犯人……!?』

『でも、ブエナさんが望んだことなら悪気はない……のかな?』

『あやつ……途中で抜け出したかと思えば、そんなことを……』

「静粛ッ! 静粛にッ! 静粛にいいい!」

 

 理事長がみんなを静かにさせようとするが、誰もが落ち着かない様子で騒いでいる。

 

 

「黙りなァ!!」

 

 

 その喧騒を、ナカヤマが一喝した。勝負師の力強いコールに、体育館は再び静まり返る。

 完全に黙ったタイミングで、ナカヤマはライトオをギラリとした目で睨んだ。

 

「検事さんよ……まだ決着はついちゃいねえ。最後の勝負といこうぜ」

「いいでしょう。ここまできたら全ての疑問はハッキリすべきです」

 

 ライトオも、背すじをピンと張って気を引き締めた。

 ナカヤマはまだ諦めていない。ディザイアをチラリと見てこう聞いた。

 

「なぁディザイア。アンタは確かに、白衣を着たウマ娘がブエナのトレーナーに薬を飲ませるところを見たんだろ?」

「ええ。神に誓って間違いありません」

「ステイゴールドとは一晩ほぼずっといたが……アイツは白衣なんか着ちゃいなかった。いつもの茶色いコート姿で━━」

「異議あり!!」

 

 ナカヤマが語る言葉を、今度はライトオが最速で中断させる。

 ライトオはナカヤマにまっすぐ指をつきつけて、この事件最後のロジックを口にした。

 

「ディザイアは言っていた。トレーニングコースに雪が積もっていたと。そしてステイゴールドは茶色いコートを羽織っていた……つまり! 

 

ディザイアの見た白衣のウマ娘とは、茶色いコートに雪が積もって白衣のように見えたステイゴールドだったのだ!」

「グッ……!!」

 

 ナカヤマは、言い返す言葉が出ない。

 全てのムジュンは解決されたとき━━ぱち、ぱち、ぱちと。

 静かなのに良く通る拍手をしながら、1人のウマ娘が体育館に入ってきた。

 

「いやぁ、盛り上がってるなぁ。私も帰ってきた甲斐があるってもんさ」

 

 ナカヤマは、そのウマ娘に静かな声で問いかけた。

 

「ステイゴールド……マジで、アンタがやったのかい? タキオンの薬を持ち出してブエナのトレーナーを縮めて……私に、この裁判を丸投げしやがったのか?」

「なるほど。ナカヤマさんが検察側に立ったのはステゴさんの頼みだったというわけか」

 

 ステイゴールドは、悪戯好きな大人の微笑みでナカヤマに返した。

 

「ああ、ブエナにプレゼントを渡したなら、お前にもプレゼントは必要だろう? この裁判、ヒリついたかい?」

「………………ああ。文句は山ほどあるが、最高の賭場だったぜ」

 

 呆れ顔で、ナカヤマは笑った。ステイゴールドは人騒がせで穏やかなのに無茶苦茶をするウマ娘なのに、愛さずにはいられないのだろう。

 

「ステイゴールドッ! では本当に、君がブエナビスタのトレーナーに無理矢理薬を飲ませたのかッ! 例えブエナビスタの幼き願いだとしても、他ウマ娘のトレーナーの業務を妨害するのは許されぬ行いなのだぞッ!」

 

 理事長が、トレセン学園のトップして責任ある発言をする。

 事実、この事件はブエナにもそのトレーナーにも無断でやったことだ。相応のペナルティはあって然るべきだ。

 ステイゴールドは、鷹揚に頷く。

 

「もちろん、罰は私1人で受けるよ理事長。さっきブエナ達にも謝ってきたんだ。いやぁ、近頃のウマ娘はトレーナーとずいぶん仲が良いなぁ」

 

 ステイゴールドは、ナカヤマや傍聴するウマ娘たちにウインクする。傍聴席から黄色い悲鳴が上がった。

 

「……そうか。ではこれよりステイゴールドに判決を言い渡すッ!」

「待った!」

 

 理事長が有罪を宣言しようとしたその時。

 神の宣告のような透き通る声が、体育館に響いた。

 それはライトオでもナカヤマでもステイゴールドでもない、証言者であるレッドディザイアのものだった。

 

「理事長さん、どうかお慈悲を。ステイゴールドさんは、ブエナさんの宿願を叶えてくれたのです。今ブエナさんから連絡が着て……どうか、ステイゴールドさんを許してあげてほしいと」

 

 ディザイアは胸の前で手を合わせ、壇上の理事長の前で膝をつく。それはまさしく、自分達を傷つけた罪人を赦す聖女の振る舞いだった。

 理事長は、困り顔で首をかしげた。

 

「いやしかし、ブエナにも無断だった上タキオンに罪を着せた事実がだな……」

「そうですか……なら仕方ありません」

 

 ディザイアが、スタスタと理事長に近づく。そして理事長の耳元で、祈りを始めた。

 

「三女神よ、この無慈悲な理事長をお赦しください」

「うぐっ……」

「三女神よ、この者が冷酷な判断を下したからといって罰を与えないで下さい」

「むむむ……!」

「三女神よ、この先彼女が善意から過ちを犯してしまったとしても寛大な赦しを与え噛みつかないでください」

「祈りという名の脅しが始まりましたね」

 

 ディザイアは、無垢なる瞳で理事長を見つめ続けるのを見て端的な感想を述べるライトオ。

 

「承認ッ! ブエナビスタ及びレッドディザイアの気持ちは汲もう。ステイゴールドにペナルティは与えるが、最低限のものにするッ! では、これにて閉廷ッ!」

 

 事実上の無罪放免で、この裁判は終了した。

 ライトオは、やれやれと肩を竦める。

 

「まさかの私が弁護側で相手はナカヤマさんだったが真実は私に味方してくれたようだ。これが、私へのクリスマスプレゼントだったのかもしれん」

「ライトオさん……ありがとうございました。あの子の誤解を、解いてくれて……」

「うわビックリした。カフェ、いつの間にいたんだ」

 

 ライトオの後ろに、いつの間にかマンハッタンカフェが立っていた。

 ディザイアも、カフェの姿を見つけて駆け寄ってくる。

 

「ああカフェさん……申し訳ありません、私のせいでタキオンさんに無実の罪を着せてしまうところでした」

「そこは、気になさらず……タキオンさんが一度有罪になった方がいいかなと、私も迷ったくらいですから……」

「だから裁判直前に頼んできたのか、判断が遅いぞカ……フェ……」

 

 カフェとディザイアが微笑ましいやり取りを前に、ライトオは頭のスタミナが切れてその場に崩れ落ちる。

 その体を支えたのはカフェでもディザイアでもなく、真犯人でありサンタのステイゴールドだった。

 

「やぁライトオ。うちのメノやナカヤマが世話になってるみたいだな。この事件を解決してくれたお礼に……私から、海外の6m直線定規をプレゼントだ。お前のトレーナー室に置いてきたから、後で受け取ってくれよ?

 

改めて、メリークリスマス!」

 

 その後目を覚ましたライトオはトレーナー室のクソデカ直線定規に大歓喜したが、トレーナーがどうするんだこれと頭を抱えたのはまた別の話。

 

 




今回の挿絵はスケブで依頼したものなのですがとても素晴らしい直進裁判だったのでタイトルにも入れてみました。

ブエナビスタとレッドディザイアのコンビはライバルというよりも仲良し女の子って感じで和気藹々としてていいですね。

ナカヤマフェスタもウマ娘始めたばかりの頃からかなり好きなのでこれからの絡みも楽しみにしています。

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