直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です 作:じゅぺっと
「さてヒシミラクル。なぜ私が集めたはずの落ち葉に寝転がっていたのだろうか?」
最速ウマ娘、カルストンライトオが焼き芋をするために集めた落ち葉が何者かによって盗まれた。
過去に同様の被害を受けたアウトローウマ娘たちとリーダーのシリウスシンボリの捜査によって、大豊食祭の畑のそばで大量の落ち葉が発見される。
そして、落ち葉の上に寝転がるヒシミラクルが容疑者としてアウトロー達によって取り囲まれていた。
「なんでって言われても。私、柔らかいところで寝るのが好きで〜。ここに来るとたまに落ち葉絨毯ができてるから寝転がってただけだよ?」
「その言い方だと、以前もここで寝転がっていたようだな。それはいつのことだろうか?」
「えーと、1週間くらい前かな……」
「へぇ……そりゃ、私たちの落ち葉が盗まれたときと一致するな」
アウトロー達をまとめる最上級生、シリウスシンボリが狼のように鋭く笑う。そしてミラクルを思い切り指差した。
「犯人はお前だろう? ヒシミラクル、お前はこの畑にある台車を使い、落ち葉をまとめて運んだあと自分だけの絨毯を堪能してたってわけだ」
「し、知りませんよ〜。私は、ふかふかの落ち葉絨毯があるって教えてもらっただけで……」
盗まれた現場には、タイヤの跡があった。畑のそばには手押し車や台車、小型トラックまであるため運ぶ道具には事欠かない。
「落ち葉くらい黙って持っていっても誰も気にしねぇと思ってたんだろうが……狼の獲物になっちまったテメェの運のなさを悔やむんだな!」
「待った。シリウス先輩、おそらくヒシミラクルは犯人ではありません。事件の情報とムジュンしています」
ライトオが待ったをかけた。シリウスが目線だけをライトオの方に向ける。
「ほう? 理由くらいは聞いてやろうじゃねえか」
「さっき説明した通り、私の落ち葉が盗まれたのは目を離して10分もかかっていない。その間にヒシミラクルが落ち葉を盗み出すのは無理だと思う」
ヒシミラクルとライトオにあまり面識はない。しかしライトオの同室であるデュランダルと同期同クラスなので、彼女がどういうウマ娘かは知っている。
「何故だ? こいつもトレセンウマ娘、しかもヒシミラクルといえば菊花賞に春天、宝塚記念まで制したヤツじゃねえか。手押し車でも使えばできない理由が見当たらねぇな」
「へえ、意外と後輩のことも覚えているのですね」
「トレセン生徒がG1勝ちウマの名前を覚えてないほうがおかしいだろうよ」
「あ、あはは……光栄です……。奇跡みたいなものですけどね〜」
疑われていてアウトローウマ娘から明確な敵意を向けられている状況だが、褒められて嬉しいのかニヤけて頬を掻くミラクル。
そんな彼女には、ある明確な特徴があった。
「ヒシミラクルはズブすぎる。行動がカバのように遅い」
「ひどっ!」
「大丈夫、普段は遅くて水辺で溺れてそうなカバもその気になれば意外と速い。死ぬ気でやればライオンを倒す底力もある。お前にぴったりだ」
「なんのフォロー!?」
「キサマが犯人ではないというフォローに決まっているだろう。話聞いてました?」
「そうかな……そうかも……?」
ライトオの早すぎる理論展開に追いつけないミラクル。その間シリウスはアウトローウマ娘達から話を聞いていたようだ。
「……確かに、速さが全てといえるこの学園じゃ逆に珍しいズブさらしいな。だがそれだけじゃ犯人でない根拠とは呼べねぇ」
「モチロン、理由はそれだけではない。シリウス先輩たちは、キャンプファイヤーをするためにみんなで集めた落ち葉を盗まれたそうですね」
「ああ、私らがやるなら焚き火程度じゃ済まさねぇ。あの皇帝様の目に焼き付けるくらいの炎を出さねぇとな?」
「アナタ会長さんの話になると早口ですね。ともかく、そんな大量の落ち葉をヒシミラクルが盗む理由がありません。彼女は一人で落ち葉絨毯を楽しみたいだけらしいですから」
「チッ……確かにな」
ライトオは彼女らが集めた落ち葉を見ていないが、キャンプファイヤーに使える量なら相当だろう。それをミラクル一人で気づかれず運ぶのは非常に難しい。
とはいえ、シリウスも簡単に納得する気はないようですぐさま反論してきた。
「だが、その時は他にも落ち葉絨毯を一緒に楽しんむために協力した奴らがいるかもしれねぇぜ。それとも……こいつの他に、犯人の当てでもあるのかい? 検事気取りの直線お嬢さん」
「カエルの子はカエル。ウマ娘の娘はウマ娘。つまり検事の父を持つ私は実質検事。父の検事バッジを賭けて真犯人を当ててみせよう」
「この勢いに毎日付き合ってるデュランダルちゃんすごいなぁ……」
ミラクルの感想をよそに、ライトオとシリウスの議論は加速していく。
「まず、私やシリウス先輩の落ち葉が何のために盗まれたのか? その理由は、この畑にある」
「……畑ねぇ。お前と同じく、焼き芋か焼き人参でも作ろうってか?」
「フッ、シリウス先輩には畑仕事の経験がないようだ。私はスプリンターとして大豊食祭には世話になったからこういうところで経験が生きる」
ライトオが勝ち誇ったように肩をすくめる。そして地面を指差した。
「これまで犯人が大量の落ち葉を盗んだ理由……それは腐葉土作りのためだろう。美味しい野菜は美味しい土からだとスペが言っていた」
「つまり……犯人は、大豊食祭のメンバーだってことか」
「ああ、私の落ち葉が盗まれた速さ、シリウス先輩達の落ち葉を盗んだ量。2つを合わせると、犯人は手押し車や台車ではなく小型トラックを使ったはずだ」
手押し車や台車では、一度に運ぶ量に限界がある。そしてウマ娘の速さで走れば、乗せた落ち葉が吹き飛んでしまう。
そうなると、トラックの台車に乗せて走っていったと考えるのが自然だ。
「小型トラック……だと? ハッ、あり得ねぇな!」
シリウスは、畑に置かれているトラックを見て何かを考え、そして即座に否定した。
「犯人が小型トラックを使った? そんなわけがねぇ。
私らトレセンウマ娘は、当然だがみんな学生の身分だ。
普通免許ならともかく、トラックの特殊免許なんか持ってるやつがいるとは思え」
「異議あり!!」
全部言い終わる前に、最速でライトオが異議を唱えた。シリウスとアウトロー達が顔を顰める。
「誰に許可取ってシリウス先輩の言葉遮ってんだテメェ!」
「……躾のなってない犬は嫌いでね。私に噛みつくからには、相応の根拠があるんだろうな?」
シリウスが天狼星のように鋭く光る目でライトオを睨む。
凄まれたライトオは、勢いよく異議を唱えたにも関わらず首をひねっていた。
「うーん、何か今の発言とムジュンする情報を聞いたはずなんだが思い出せない。なんだったか」
「ライトオちゃん!? シリウス先輩相手にそれはまずいよ〜」
「……答えられないってんなら、そこの白いのと一緒にプールの底に1時間くらい沈めてやってもいいんだぜ。犯人には落とし前をつけさせなきゃコイツらも気が済まねぇからな」
「ヤダッー!! ライトオちゃん、なんとか思い出してー!!」
シリウスが指を鳴らすと、アウトロー達がライトオとミラクルを取り囲む。担ぎ上げてプールまで連行するつもりだ。
ウマ娘なら1時間くらい潜水することも出来なくはないが、プール嫌いのミラクルにとっては地獄の刑罰だ。スタミナのないライトオにとってもかなり辛い。シリウスもそれがわかって言っているあたり容赦がない。
「落ち着けミラクル。カフェはこの前2時間くらい潜ってた。ステイヤーのお前なら1時間くらいチョロいことだろう」
「無理だってば!」
「……言い残すことはそれだけか? とんだ期待外れだな」
いよいよアウトロー達によってプールまで担がれそうになったその時、ライトオは思い出した。同期のマンハッタンカフェが言っていた事を。
「特殊免許を持っているトレセンウマ娘はいないとは。さすが最上級生、ウソのつき方も堂々としたものですね。同じアウトローでもポッケとは大違いだ」
「……アイツとも知り合いなのかお前。それで?」
「同期だからな。そして同期のカフェから聞いている。小型飛行機を乗り回すシリウス先輩の話を!」
「なんだと……!?」
「まさか、無免許だったとは言いませんね? 最上級生ならば、特殊免許の一つや二つ持っていてもおかしくはない。シリウス先輩自身がその証拠です。そして、大豊食祭のメンバーで最上級生のウマ娘は、一人しかいない!」
大豊食祭のメンバーの中でもシリウスシンボリと並ぶ最上級生。ニシノフラワーやライスシャワーと畑仕事をする様は先輩を通り越して引率の先生にすら見える彼女の名前はこの場の誰もが知っている。
「私だ。確認したいことがある。まだ畑の近くにいるんだろう? ……カツラギエース」
観念したシリウスが電話をかけてその名を呼ぶ。
シリウス同様、生徒会長シンボリルドルフとも馴染みの深いトレセンのエースが顔を出した。
「よぉシリウス! それにお仲間たちもいるな。何か用か?」
「……ああ。お前、さっきと1週間前にトラックで落ち葉を回収したか?」
一同が息を呑んでエースとシリウスのやり取りを見つめる。これで関係なかったらライトオとミラクルはプールの底に沈められる羽目になる。
エースはそんなこと露知らずといった感じで、晴れ晴れとした笑顔で言った。
「おう、よく知ってるな! 後輩から清掃活動の落ち葉回収を頼まれたんで、トラックでチョチョイとな。いい腐葉土ができそうで助かった!」
「その後輩ってやつは誰なんだ? 大豊食祭のメンバーじゃなさそうだが」
エースはむしろ善意で落ち葉を回収していた。
責めても仕方ないとシリウスは判断したのだろう。
問題なのは、勝手に回収を頼んだ人物がいることだ。
「んー、コートや帽子を被ってたしよくわからないな。声も小さかったし。けどシリウス、何があったか知らねぇけど後輩にあんまキツくすんなよ! そこの白い子なんて泣きそうじゃないか。ライトオはいつも通り元気そうだけどな!」
「チッ……わかったよ。ルドルフの顔に泥をつけたお前の走りに免じてここは下がってやる。
……今回は私の負けってことにしておいてやるよ、検事さん」
シリウスがライトオに鋭い目線を送る。しかし心なしか楽しそう、あるいは認めたような表情をしていた。
「事件解決に勝ち負けはない。ただ最高速で解決できたかどうか、それだけだ。シリウス先輩達が落ち葉とミラクルを早く見つけてくれたから解決できました、ありがとう」
ライトオはシリウスたちにきっぱり言い切って礼儀正しくお辞儀をした。
そしてお辞儀した姿勢のままカツラギエースの方に近づいていった。
「お久しぶりですエース先輩。相変わらず土と泥が似合いますね。すっかり農家の顔です」
「ライトオちゃん言い方!」
「はっはっは! いいんだよ、もうレースから離れてることが多いけど、畑作りで皆の走りに役立ててるんだからさ」
トレセン最上級生、在校生と言っても走りのピークはさすがに過ぎている。エースもシリウスも、直接レースに出ることは少ない。
「ですがエース先輩の最高速もかなり凄い。きっと回収を頼んだ後輩も貴方のジャパンカップの走りに憧れていることでしょう」
「おお、ライトオちゃんが大人の対応をしてる……」
「私は思っていることを言っただけだ……が……」
ライトオが、ふらりとその場に倒れる。検事としての推理力はあるが、まだ頭のスタミナには大きな課題がありエネルギーを使い果たしてしまったのだ。
その体を、エースが背中で受け止めた。眠りに落ちたライトオをおぶりながら、シリウスやアウトロー達に話しかける。
「ま、こうして皆で畑に来てくれたんだ。せっかくだから焼き人参でも作るか! 腐葉土の落ち葉を集めてくれた礼もしたいしな!」
「わ、私もご相伴にあずかっていいんですか?」
「おう、勿論だ! シリウスに詰められて怖い思いしたのも私のせいみたいなもんだしな」
「やったー! ライトオちゃんのおかげで助かったよ〜」
これにて一件落着。直線検事カルストンライトオの名前は、アウトローウマ娘達に知られることとなった。