直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です   作:じゅぺっと

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番外編:気性難の子供たちに死ぬほど愛されて夜も出歩けないステイゴールド

「新年明けましておめでとうデュランダル。今年も一年よろしく頼む」

「まだ年末よ! 今日は有マ記念でしょう!」

 

 朝のトレセン学園で、カルストンライトオとデュランダルの元気な声が響いた。

 

「どうせ新年はお互い帰省しているのだから今のうちに言ってもいいだろう。しかしあの小さかったキタサンブラックが有マ記念に出走するとは時が経つのも最速だな」

 

 あらゆるイベントを前倒しするライトオには来年のことを言えば鬼が笑うなどという言葉は通用しない。鬼すらぶっちぎりで駆け抜けるだけだ。

 デュランダルは、やれやれとそんな同室ウマ娘にため息をつく。

 

「まったく……もう子供じゃないんだから、少しは時勢を弁えなさい」

「失礼な。私だってTPOは弁えている。デュランダル相手なら最速全ツッパでもいいやと思っているだけだ」

「はいはい。信頼と受け取っておくわ」

 

 そんな会話をしながら寮室から食堂へ向かう。年の瀬ということもあり、学園はいつもより閑散としていた。

 

「いただきます。ハムッ、ハフハフッ」

「いただきます。少しは落ち着いて食べなさい。そんなんじゃ新年にお雑煮で喉をつまらせるわよ」

 

 いつも通りのやり取りをしながら朝食を取っていると、1人のウマ娘がデュランダル達に近づいてきた。

 品のある、栗毛のウマ娘だ。

 

「……おはようございます。相席、よろしいですか? デュランダル様、カルストンライトオ様」

「あら、オリエンタルアートさん。お久しぶりです。もちろん構いません」

 

 栗毛のウマ娘の名前はオリエンタルアート。メジロ家が世話をしたウマ娘で、レースでの勝利記録もあるが、彼女を象徴する実績は他にある。

 ライトオも、ちゃんとTPOを弁えて挨拶をした。

 

「おはようございます。あなたは確か、オルフェさんとジャーニーさんの育ての親だったな」

「ええ。入学したばかりのお2人の面倒を見させていただいて……光栄なことです」

 

 入学したばかりのウマ娘は、右も左もわからないものだ。そんなウマ娘を、先輩が半年くらい面倒を見る文化がある。

 このオリエンタルアートは、ドリームジャーニーとオルフェーヴル姉妹の面倒を見たことで有名だ。

 

「アートさんのステイゴールドさんへの忠誠は、私が我が君を想う心にも劣らぬもの……今のジャーニーさんとオルフェさんの栄光があるのも、あなたの心配りあってこそと言えるでしょう」

「いえ、私など……あの子達の活躍はあの子達の素質と、あなたのトレーナー様のご指導の賜物です」

 

 デュランダル及びドリームジャーニーとオルフェーヴルのトレーナーは同一人物。

 お互い丁寧にお辞儀をする様は、社交辞令でもあり心からの敬意が見て取れた。

 そして、そんな2人を見てライトオは思い出したように言った。

 

「デュラトレがまだデュランダルしか担当していなかった時、デュランダルが浮気だ出家だと騒ぎ倒したことがあったな。確かデュラトレがアートさんにレースのアドバイスをしていたとかで」

「うぐっ……! 忘れてほしいわね、ムカシのことは」

 

 今ではすっかり大所帯のデュラトレチームも、最初はデュランダルが他のウマ娘を面倒見たり褒めたりすると掛かってしまう癖があった。

 そんな状態でデュラトレがアートにアドバイスをしてレース勝利まで導いたと知った時は大騒ぎになったのをライトオは記憶している。

 

「フッ、あの頃のデュランダルはまさに子供だったな」

「あなたに言われたくないのだけれど!?」

 

 漫才のようなやり取りに、オリエンタルアートは品のある仕草でクスクスと笑う。

 

「ご指導のおかげで、私も少しはレースに勝てました。その結果ジャーニーやオルのお世話を授かることもできて……感謝の至りです」

「その言葉、我が王にも必ず伝えます。東洋の女王からの感謝、心から喜ばれることでしょう」

 

 ここぞとばかりにデュランダルが騎士らしい恭しいムーヴを決める。

 ライトオにしてみれば自分の前倒しムーヴと同じくらい変なことをしていると思うのだが、オリエンタルアートの手前流石に空気を読んで別の話題を振ることにした。

 

「ところで、そのジャ二オル姉妹とステゴ本人はどこに? 確かクリスマスのあとしばらく学園にとどまると聞ききましたが」

「今日は有マ記念ですから……ゴルシさんの公式ラストランを見に中山へ行きました。フェノーメノさんやナカヤマフェスタさんも一緒に」

「ステゴファミリー総出で有マ観戦か。ならアートさんも行けば良かったのでは?」

「いえ、ジャーニーやオルはともかくナカヤマさんとメノさんに気を遣わせるわけにはいきませんから……あの人ったら、前夜も少し騒いでいたみたいで」

 

 そう言って、オリエンタルアートは自分のスマホを取り出す。

 ドリームジャーニーとのLANE画面を開き、昨晩の深夜に送られた動画を見せる。

 

「ここは校門の手前か。深夜だから見づらいが」

「ステイゴールドさんが歩いてきたわね……」

 

 深夜の校門に、リュック装備で歩いてくるステイゴールド。またいつものようにこっそり旅に出ようとしたのだろう。

 ドリームジャーニーの声が、それを呼び止めた。

 

『どちらに行かれるのですか? アネゴ』

『……やぁジャーニー、おまえと一緒にお出かけする準備さ』

 

 ステイゴールドの飄々とした声が聞こえる。小さな声なのに闇夜でも煌めく黄金のように存在感があった。

 それを咎めたのは、金色の暴君の声だった。

 

『一人用のキャンプセットでか?』

『なんだ、オルもいたのか。夜更かしは体に良くないぞ』

『こちらの台詞だ。逃がすな。引っ捕らえよ』

 

 その声に、隠れていたメノとナカヤマが飛び出てくる。

 

『有マ記念の前日だからこそこっそり抜け出そうとする……あんたらしいなぁ、ステイゴールドよ』

『ゴルシさんのラストランを皆で見届けるためにも、ここは麻袋に入れてでも連行させていただきます! 確保ーーーー!!』

 

 囲まれたステイゴールドに逃げ場はなかった。肩を竦めて四人にもみくちゃにされる姿は、まるでわんぱくな息子達の遊び相手をする父親のようでもあった。

 

「相変わらずハジけているわね、あの黄金組は……」

「五等分の父親。もしくは気性難の子供たちに死ぬほど愛されて夜も出歩けないステイゴールドと言ったところだな」

「ええ。でも……そんなところも、愛おしくて仕方ないのです」

 

 画面の中で麻袋に放り込まれ連行されるステイゴールドを見て、オリエンタルアートは微笑んでいた。

 だが、デュランダルは腑に落ちないようで首をかしげていた。

 

「でも……なんでジャーニーさん達にはステイゴールドさんが抜け出そうとするのがわかったのかしら? こっそり出掛けようとしていたみたいだけど」

 

 ステイゴールドは神出鬼没。いつの間にか忽然と学園から消えていることが多い。

 ドリームジャーニーといえど簡単に居場所がつかめないことはデュランダルも同じチームにいて知っていた。

 しかし、ライトオはやれやれと首を振った。

 

「なんだわからないのか? そんなもの、アートさんの顔を見れば明らかだろう」

「とても幸せそうな顔をしているけど、それがどうしたというの?」

 

 配偶者と子供を愛するウマ娘の顔をしているアートを見てライトオは結論を口にした。

 

「簡単な話だ。ステゴさんは事前に自分がちょっと出掛けてくることをアートさんに伝えた。ちょっとで済まなくなると判断したアートさんはジャーニーさんに伝え、校門で待ち伏せるよう提案したのだろう」

「ああ……なるほど。ジャーニーさん、ステイゴールドさんのこと大好きだものね」

「ふふ……さすが直線検事ライトオ様ですね。クリスマスではステゴ様がお世話になりました」

 

 クリスマス翌日にステゴが起こした事件をライトオは解決に導いている。そのことだろう。

 そしてアートは上品な仕草で指を1本たててこう続けた。

 

「……でも1つだけ、違うことがありますよ」

「ほう、なんだろうか?」

「ステゴ様は、有マ記念の前に私とあの子達にも思い出を作りたいと。あえて脱走計画を話してくれたのです。そうすれば、ジャーニーもオルも私に感謝しつつ話をしに来るからと……本当に、優しい方」

 

 ステイゴールドの脱走自体が思い出作りのためのマッチポンプだった。

 そう聞いたライトオは肩を竦めてやれやれと首を振った。

 

「フッ、これは私の早とちりだったと認めるほかないようだ。ステゴさんは本当に愛されているな」

「ライトオさん……少し大人になったわね」

 

 デュランダルの前ではノーブレーキ最速一直線ライトオも、他所様の前ではそれなりに丁寧に振る舞えるようになった。

 

「ステゴ様は昨晩仰られました。私たちウマ娘の魂はいつか消える。でも、魂が消えたとしてもウマ娘としての人生は終わらないし魂はバトンのように繋がっていくのだと」

「ステゴさんはなかなかポエミーなことを言うんだな。まるでデュランダルの引き出しの中のノ━━」

「ライトオさん!! しっ!!」

 

 デュランダルの秘め事を暴露しようとしたライトオの口が一瞬で塞がれる。

 オリエンタルアートは、ドリームジャーニーやオルフェーヴルが優勝した有マ記念に想いを馳せて言った。

 

「……私の魂はジャーニーとオルに繋がりました。ステゴ様にとってはその2人だけでなく今日走るゴルシさん含めたくさん魂で繋がっているのでしょう。……今年の有マ記念どんなレースになるか楽しみですね」

「フッ、流石に有マ記念の日とあっては誰も事件は起こさないようだ。スプリンターである私やデュランダルには直接縁のないレースであるが、楽しませてもらうとしよう」

 

 




今回の話は事件と言うほどのことが起こっていないので暫定的に番外編としております。日常回に近い話は今後番外編とするかもしれません。

ステイゴールドシナリオに出てきた品のある栗毛のウマ娘ことオリエンタルアートさん、勝利したレースは2002年頃で池添氏が騎乗されてるのでデュランダルとも関わりあるんだろうな~と思って書いたらかなりしっとりした話になってしまいしました。
有馬記念は特に血統の繋がりが見やすくて面白いですね。

来年も今くらいの頻度で投稿していきたいと考えていますのでよろしくお願いします、良いお年を。
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