直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です 作:じゅぺっと
「そ、それなのに、どうして……どうしてこんなことを?」
「忘れてしまったかい? 私はウマ娘の速さのためならば……手段を選ばないんだよ」
「私は、超光速のウマ娘。これからもずっと……そうでなければならないんだ」
「楽しいお正月だった。新年の挨拶は去年のうちに済ませておいたが、母さんと父さんには新年じゃないと会えないからな」
直線最高速ウマ娘、カルストンライトオは正月帰省を終えトレセン学園に帰ってきた。
ひとまず寮室に荷物をおいた後、己のトレーナー室に向かう。
「トレーナーにも改めて新年の挨拶をしよう。更なる最高速にたどり着くには、トレーナーが必要不可欠。今年は0.1秒の更新を目指したい」
カルストンライトオの身体能力はとっくにピークを迎えこれ以上上がることはないところまで来ている。
それでも最高速がわずかずつ更新されているのは、トレーナーの尽力のおかげだ。
身体能力が落ちないようにトレーニングを行い、せっかちなライトオのモチベを管理し、刹那の最高速更新すら見逃さないよう専用の計測具まで導入してくれた。
彼の働きには感謝してもしてもし足りないし、もし自分が引退した後は残りの余った人生は全てくれてやってもいいくらいにライトオは思っている。
「鍵は空いているな。ならばトレーナーがいるに違いない。ハッピーニュー最高速!!」
ライトオは勢いよくトレーナー室のドアを空ける。
しかし、そこにライトオのトレーナーの姿はなかった。
見慣れたはずのトレーナー室には、明らかに異常な存在が横たわっていた。
「なっ……何故、タキオンのトレーナーが私たちの部屋で倒れている!?」
ライトオの同期であり光の名を冠するアグネスタキオン。そのトレーナーが、本棚の側で倒れていた。意識はなさそうだ。
「トレーナーもウマ娘に負けず劣らず奇人変人揃いのトレセン学園と言えど、体が光っているやつなどタキオンのトレーナーしかいない。何があった!?」
流石のライトオも慌ててタキオンのトレーナーに駆け寄る。彼は体を揺さぶられて目を覚ます。
「カルストンライトオ……?」
「気がついたかタキトレ。何故私たちのトレーナー室に入っている?」
ウマ娘の身体情報を守るため、トレーナー室は担当ウマ娘を持つトレーナーにそれぞれ用意されている。基本的に、アグネスタキオンのトレーナーがライトオのトレーナー室に入ることはできないはずだ。
彼は頭を抑え、説明しようとするが、言葉が出てこないようだった。
「わ、わからない……なにも、思い出せない……」
「気絶したショックで意識が混乱しているようだな。私が保健室まで最速で連れていってやる」
「えっ、いや。自分で行くよ」
「人間の足では遅すぎる。注意一瞬ケガ一生。一刻も速く治療を受けるべきです」
ウマ娘パワーをもってすれば成人男性一人を担ぎ上げて運ぶなど造作もない。
ライトオがタキオンのトレーナーを問答無用でお姫様抱っこしたところ、ちょうどこの部屋の主が戻ってきた。
「お帰りライトオ、明けまして……えっ!? なんでタキオンのトレーナーがここに?」
「トレーナー、ハッピーニュー最高速。あなたもここにタキトレがいた理由は分からないのですね」
「ああ、全く心当たりがない。特に会う予定もなかった」
ライトオとタキオンは同期であり、それぞれ距離適性は違えど光の速さを追い求め協力する仲だ。
トレーナー同士もそれなりに交流があるが、ライトオのトレーナーにも身に覚えはないようだった。
「トレーナーくーん? どこに行ったんだーい?」
「ふむ、ちょうどタキオンも近くにいるようだ。話を聞いてみるとしよう」
廊下からタキオンの声がしたので、ライトオは部屋の中から聞こえるよう声をかけた。
「タキオン! お前のモルモットは預かった!」
「誘拐犯の物言い!!」
「なんだいライトオ君、君が私のモルモットに一体何の用……」
タキオンがトレーナー室に入ると。
出迎えたのは、ライトオがタキオンのトレーナーをお姫様抱っこしている姿だった。
「私のだぞっ! 今すぐ下ろしたまえ!」
「声がでかい。ポッケかお前は」
ともあれ、ライトオはタキトレを下ろして立たせる。ひとまず立って歩けるくらいには元気そうだ。
「というわけで私がトレーナー室に来ると鍵が空いていて中にはタキトレが倒れていて、記憶を失っていたわけだ」
ライトオがことの経緯を説明する。相変わらずタキトレは前後の記憶がないらしい。
するとタキオンは、己のトレードマークでもある白衣を翻して━━ライトオのトレーナーを指差した。
「なら犯人は分かりきっているねぇ! ライトオのトレーナーくん……君が、私のトレーナーを気絶させたんだろう!」
「なっ! ち……違う! お……俺じゃない!」
慌てて反論しようとするライトオのトレーナー。
タキオンはわざとらしく白衣をバタバタと広げ、薬をひとつ取り出してライトオのトレーナーに近づいた。
「ライトオ君のトレーナー……縮めてライトレ君。犯人は君しかあり得ないんだよ! さっさと白状したまえ! 自白剤を使ってもいいんだよ、ンンッ?」
「待った! タキオン、私のトレーナーにしか犯行は不可能と言いたいのか?」
「ああ、当然だとも。言っておくが、君が庇っても無駄なことだよ」
「ならばコンキョを述べてもらおう。父さんの検事バッジを賭けて、この事件を最速で解決してやる」
カルストンライトオの父親は検察官を務めており、真実をまっすぐ最速で追求する志はライトオにも受け継がれている。
ゆえに事件が起こったときは直線検事として最速で解決するのだ。
「知っての通り、トレーナー室には鍵がかかる。そして鍵を開けられるのは部屋を与えられたトレーナーだけ……つまり! この部屋でモルモット君が倒れていたならそれはライトレ君のしわざ以外あり得ないのだよ!」
「ふむ……確かに筋は通っていますね」
「でも、俺はそんなことしてない。ライトオ、信じてくれ」
ライトレは真剣に訴える。彼が嘘をついているようにはライトオには思えなかった。
「トレーナー、部屋の鍵は持っていますか? 誰かに盗まれた可能性は?」
「え!? い、いや大丈夫だ。ちゃんとポケットに入ってるよ」
ライトレが慌てて、自分のポケットをまさぐり鍵を取り出す。確かにトレーナー室の鍵だ。
「ではマスターキーの類いは?」
「一応、たづなさんに連絡してマスターキーで部屋を空けてもらうことは可能だが……年末年始だからな。対応してもらうのは難しいだろう」
建前上、年末年始はトレーナー業務もお休みということになっている。トレーナーがマスターキーで開けるようお願いすることは出来ない決まりだ。
「ライトオ君、わかっただろう? この部屋の鍵はライトレ君にしか開けられなかったのさ!」
自信満々に宣言するタキオン。しかしライトオはその態度にいつもとは違ううさんくささを感じていた。
ライトレは、どうにか反論しようとする。
「しかしアグネスタキオン、君と俺は1時間前に会ったばかりじゃないか! それなのに君のトレーナーを傷つけるなんて……」
「待った! トレーナー、今日タキオンと話をしたのですか? 私をおいて、何のために?」
ライトオの目が鋭く光る。その言葉に答えたのは、タキオンだった。
「クックック! そう妬かなくても、ただ身体測定の結果を受けとるときに顔を会わせただけだよ」
「ほら、12月に学園で身体測定をしただろ? その結果を受け取りに行ったら、タキオンと会ったんだ」
ウマ娘の身体データは基本的にトレーナーが管理するものだが、学園としてもウマ娘全体のデータを収集し、今後の発展に繋げるためウマ娘全員の基礎体力をチェックしている。
「脚力に腕力、心肺に背筋などトレセンウマ娘全体の基本身体データを覗けるチャンスだからねぇ。私もお邪魔したというわけさ」
「それで私のトレーナーに話しかけたと?」
「あわよくばライトオ君の最新データを見せてもらおうと思ってね。君がいまだに最高速更新を続けていることは、素直に興味深いからねぇ」
「当然だ、私の最高速に果てはない。このトレーナーと応援してくれるファンがいる限りな」
ライトオの肉体は上限に達している。だがタキオンの理論によればウマ娘は応援してくれる人たちのためなら限界を超えられる。
だがそれも、肉体そのものが衰えてしまえば元の木阿弥だ。
タキオンは少し考えた後、とにかくと仕切り直した。
「そう、確かに1時間前に私とライトレ君は顔を合わせている。しかしだからなんだというんだい? 私と話した後、モルモット君と出会い、なんらかの理由でモルモット君を気絶させることはライトレ君にしか出来ないことに何の違いも」
「異議あり!!」
ライトオは、まっすぐ指をつきつけて異議を唱えた。
タキオンは、ゆっくりと首だけをライトオの方に向ける。
「タキオン、今の発言は明らかにムジュンしている!」
「……へえ。何がおかしいんだい? 実は君が合鍵を持っていてモルモット君を気絶させたとでも言うのかな」
タキオンが白衣をパタパタとはためかせ、クスリを何本を取り出す。返事によっては実験台にすることも厭わない構えだ。
「いや、確かにこの部屋を開けられるのはトレーナーの持つ鍵だけだ。私は合鍵を持ってないしマスターキーも使えないならそれしかあり得ん」
「だから、さっきからそう言ってるじゃないか」
「いいや、トレーナーの持つ鍵でしか開けられないならトレーナーから鍵を盗み出せば済む話だ」
「けど、ライトオ。俺は鍵を紛失してなんか……」
ライトレが口を挟む。事実として鍵は今ライトレの手の中にあった。
だがライトオは、そんな己のトレーナーにやれやれと肩をすくめた。
「いいや、トレーナーはさっきまで鍵を盗まれていた。━━そうなんだろう、タキオン!」
「えっ!?」
トレーナー2人が、タキオンを見る。今度はタキオンが肩を竦めた。
「ふゥん……私を疑うだって? 私はこの白衣のようにセイレンケッパクさ」
タキオンは、自らの真っ白な白衣を広げてみせる。そこにはたくさんのケミカルな試験管が入っていた。
「まず第一に、私がどうやってこの部屋に入ったって言うんだい?」
「お前は、まず最初に1時間前に出会った私のトレーナーからこっそり鍵を拝借してこの部屋に入ったんだ。そしてついさっき、トレーナーに疑いをかけてクスリをつきつけるフリをしながらこっそり鍵を返した」
タキオンはさっきから白衣をパタパタとはためかせ、体を覆い隠している。ウマ娘としての身体能力も合間って鍵を取ったり返したりするのは不可能ではない。
疑いをかけられたタキオンは、怒ることもなくニヤリと笑って返した。
「私が、何のためにそんなことを? 私にはフジキセキ寮長のように手品をする趣味はないんだがね」
「お前が言った通りだ。私の身体データが欲しかったのだろう。この部屋には私の最高速の歴史が全て置いてあるからな」
ライトオは、トレーナー室の本棚を指差す。そこにはおびただしい量のファイルが並んでいた。全て、ライトオの記録および最高速を求める過程で手に入れたものだ。
「まぁ、そうしようと思ったことはないわけじゃないが……だからって、何故モルモット君を気絶させたんだい? 私だって、トレーナーとしての働きには感謝しているんだよ?」
「タキオン……君にも、感謝の心が……!」
「モルモットくーん? 失礼じゃないかーい?」
タキトレが記憶もないのに感動しているが、ライトオは首を振った。
「こっそり忍び込んだ以上、簡単なことだ。お前はタキトレに見つかってしまったのだろう。慌てたお前は、タキトレを気絶させて記憶を失わせ、まんまと逃げたというわけだ」
「でもライトオ、それならタキトレさんを持ち帰ればいいだけじゃ……」
ライトレの疑問に、ライトオは指を1本立てて答えた。
「チッチッチ。甘いですねトレーナー。おそらくタキオンもそうしようと思ったが、そこで私が帰ってきたのでしょう。
私が全力ダッシュでトレーナー室を開けたらタキオンがタキトレを抱き抱えていたりしたら、言い逃れの余地もありませんからね」
「うぐっ……! い、いや! そのロジックは根本的に破綻しているねぇ!」
タキオンに動揺が走った。しかし、流石に天才マッドサイエンティストウマ娘。
即座に反論を用意してライトオの追求を躱そうとした。
「私がモルモット君を記憶がなくなるくらい気絶させただって……そんなことして、肉体に支障が出たらどうするんだい!
彼は良いモルモットなんだ。科学者がモルモットを実験以外で傷つけるわけがないだろう!?」
トレーナーをモルモット扱いしていることを除けば、科学者として尤もな意見だった。
これといったムジュンは見当たらないので、ライトオは揺さぶりをかけることにした。
「フム、では実験なら気絶させたり記憶を失くしても構わないということだな?」
「そりゃあそうだとも、私のモルモットなんだから。もちろん、私以外が手を出したら許さないがね」
「タキオン……!」
「タキトレさん、今のときめくとこじゃないですよ。これ以上眩しくならないで下さい」
独占力を発揮するタキオンにトキメキの発光をするタキトレにライトレが突っ込んだ。
そして、ライトオは今の発言に重要な要素を発見した。
「今のタキトレは前後の記憶を失っている。これはお前の実験薬のせいなのだろう?」
「な、何を根拠に!」
「今もまだタキトレが光り輝いている。それがお前のクスリによって影響を受けている何よりの証拠だ」
「うぐぐぐっ……!!」
タキオンのクスリを飲むと光るのは最初は偶然の産物だったが、今ではクスリの効果時間を示す指標として意図的に光らせていることをライトオは知っていた。
立場が逆転し、ライトレはタキオンに疑いの目を向ける。
「アグネスタキオン……本当に君は、俺たちの部屋に侵入したのか?」
「いいや! 私は断じて認めないぞ! 私が鍵を盗んで戻した? モルモット君の記憶を奪うクスリを飲ませた? 何の証拠もないじゃあないか! ライトオ君の言ってることはただの憶測だねぇ!」
タキオンは子供のように駄々をこねて断固拒否の構えを取る。
ライトオは苦笑して、更なる追求を続けた。
「フッ、それだけではない。タキオンは最初に失言をしているからな」
「失言だって? 私がそんな失敗をするはずがない!」
「いいや、私が最初に『タキトレが倒れていて記憶を失っている』と説明したとき。
お前は全く心配する素振りもなくいきなり私のトレーナーを疑っていたな」
「ふゥん、だってモルモット君はこうして立って歩いているじゃないか。心配しなくとも━━」
「ほう、どの程度記憶を失ったのか……自分のトレーナーであることすら覚えているかわからないのにか?」
ライトオは『記憶を失った』としか口にしていない。いつからの記憶がないのかは、ライトオにもわからなかったからだ。
「もう何年も共に過ごした相手が、自分を覚えているかもわからない状況で。科学者たるお前が確認しないなどあり得ない」
「う……そ、それはだね……」
一転してしどろもどろになるタキオン。タキトレも、疑いの眼をタキオンに向けている
「お前自身が私のトレーナーから鍵を奪い、タキトレに記憶を失くすクスリを飲ませた。だからこそお前は真っ先に私のトレーナーを疑うフリをしたのだ!!」
「い、いいや……認めないぞ! 具体的な証拠は━━」
「どうしても認めんというのなら、タキトレをここでクスリの効果が切れるまで軟禁して記憶が戻るまで待たせてもらうが?」
タキオンのクスリの効果は永続ではない。今は光り輝いているタキトレも、そのうち光が消えて記憶も戻るはず。
それが、チェックメイトだった。
タキオンの体が大きくよろめき、ふらつく。
「そ、そんな……私の完璧な計画がっ!!」
タキオンの体がひっくり返り、白衣から試験管が何本も飛び出る。そのクスリは狙い済ましたようにタキオンの口に吸い込まれ、自身のクスリによってタキオンの体は光り輝き始めた。
その体が床に倒れるまえに支えたのは……被害者の、タキトレだった。
「……うちのタキオンが迷惑をかけてしまったみたいだ。申し訳ない」
「フッ、よくあることだ。念のため、身体検査をしておこう」
ライトオが倒れたタキオンの白衣を脱がせ、服を確かめる。なにか書類を隠し持っている様子はない。
本人が記憶をなくすクスリを飲んでしまったため目的は聞き出せないが、少なくともタキオンは盗みを働いていないようだ。
「とにかく、タキオンが目を覚ましたらきつく言っておきます。本当に申し訳ない」
「まぁ、大事にはならなかったし……ライトオも、タキオンにはお世話になっているから。それでおあいこにしましょう」
トレーナー同士の和解が成立したところで、タキトレはタキオンをお姫様抱っこしてライトオ達のトレーナー室を後にする。
なにも言わず眠っているタキオンは、超光速のプリンセスの名前がふさわしいほど儚く見えた。
「やれやれ、新年早々騒がしい同期だ。今年も事件は多そうだな」
「お疲れ様ライトオ。おかげで助かったよ」
いつもの2人に戻ったライトオとライトレ。ライトオは、事件とは別に気になっていたことを尋ねる。
「そういえば、身体測定の結果が出たのでしたね。トレーナー、今回もキープできていますか?」
「ああ、そのはずさ。念のため前回のデータと比較してみよう」
トレーナーは持っていた身体検査の書類を開く。そこには現在のカルストンライトオの身体スペックが全て記載していた。
「よろしくお願いします。今年も更なる最高速を目指しましょう。そのためならトレーニングもレースもファンサービスもいくらでもします」
カルストンライトオの走る目的は、最高速の更新に集約されている。体を鍛え、レースセンスを磨き、ファンからの応援が力をなると知ってからはファン向けのイベントにも積極的に出るようになった。
「ああ、今年も頑張ろう。ライトオが最高速を更新する限り、君がウマ娘の中で一番速いんだ」
トレーナーは本棚から迷いなく一冊のファイルを取り出し、前回の身体検査ファイルを開く。
「な……ない! ライトオの、前回と前々回の書類が……」
「なんだと!?」
ライトオもトレーナーの持つファイルを覗き込む。ライトオには読んでもわからない大量の資料があったが、そこから2ページだけ抜き取られていることはわかった。
「トレーナー、最後にこの書類を確認したのはいつですか?」
「年末だ。そのあと鍵をかけて、さっきタキオン達が入ってくるまで誰も開けなかったはずなのに、何故……」
タキオンが書類を盗んでいないことは、ライトオがさっき確認した。
鍵はライトレしか持っておらず、マスターキーはたづなさんのような学園の管理者にしか開けられないはずだ。
ライトレは震える声で、自らの担当愛バに確認する。
「なぁライトオ……もしも、身体能力が下降していて、最高速更新が不可能になったら」
「私の走りは最高速のためにある。それが出来ないのなら、ウマ娘としての死を選びます」
「そんな物騒な」
「もちろん、アスリートとして引退するという意味ですよ」
トレーナーが言うまえに、ライトオが力強く宣言した。
最高速に集約されているがゆえに、それを果たせなければ潔く引退するとデビューする前から決めていたことだからだ。
「ああ……そうだよな。悪い、まださっき疑われて弱気になってるのかも」
「ヨワムシケムシグソクムシ。まだ引きずっているとは相変わらず最速指導以外はすっとろいですね。でも私を最高速に導いてくれるのでOKです」
「とにかく、書類のことはたづなさんに報告しておくよ。……俺の記憶する限り、今回と前回で特に差はなかったはずだ」
「さすが私のトレーナー、記憶力も優秀ですね。信じていますよ。私も犯人を捜します」
そんないつも通りの調子から、2人の新年の会話は始まった。
去年も一昨年も、担当契約をしてから毎年変わらないやり取りが。
今年で終わりになることを、まだライトオは知るよしもなかった。
読者の皆様、ハッピーニュー最高速。
新年一発目ということで初心に帰り、逆転検事一話をモチーフにした話を書きました。
今年はウマ年ということでどんな展開が来るかなおのこと楽しみですね。