直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です   作:じゅぺっと

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さらば、最速~メジロの末っ子はメジロ家再興の夢を見るか?

「ライトオ検事! 年明けから学園に出入りしたウマ娘やトレーナーについて、調査完了であります!」

「ありがとうメノ。これで私の身体データを盗み出した犯人を絞り混むことができる」

 

 正月明け、帰省から戻ってきたカルストンライトオのトレーナー室から、ライトオの身体検査のデータが盗まれていることがわかった。

 ライトオのトレーナーに記憶によれば今回の身体データも衰えはないはずとのことだが、アスリートであるトレセンウマ娘にとって基本的な身体データは機密情報。

 身体データを盗み出した犯人を突き止めるため、ライトオは警察ウマ娘のフェノーメノに調査を依頼した。

 

「私のトレーナーは大晦日にトレーナー室の鍵を閉め、1月7日まで帰省していた。つまり、鍵を開けられるのは学園のマスターキーのみだ」

「つまり、何者かがマスターキーを拝借しトレーナー室を開け、ライトオ検事の身体データを盗み出した……紛れもなく犯罪! 犯罪であります!!」

 

 警察ウマ娘、フェノーメノは学園の風紀を守るものとして怒りを露にする。

 ライトオは走りも推理も最高速だが、時間のかかる地道な調査や裏付けは苦手だ。フェノーメノの地道かつ力強い確かな捜査にはよく助けられていた。

 

「年始ならば学園の人やウマ娘の出入りは少ない。そしてマスターキーを拝借できるのは学園の運営に関わるような立場の者のみだ。これだけでも十分な手がかりになるはず」

 

 メノが学園に年始から出入りしたものの記録を確認し、さらにマスターキーを借りられそうなウマ娘達をリストアップした表を見る。

 

「主に怪しいのはメジロ家、シンボリ家、サトノ家。そして理事長にたづなさんといったところか」

「ステイゴールドさん一門はゴルシさんのラストランが終わった後、全員で旅行をしていましたからね。今回の容疑者から外れたのは幸いであります」

 

 ステゴファミリーと呼ばれるウマ娘の中には、遠征支援委員会の主であるドリームジャーニーが含まれる。彼女に犯行の可能性があれば、事件はさらにややこしくなっていただろう。

 

「フッ、さぞやドタバタコメディのような旅だったのだろうな」

「……もう少し落ち着きをもってもらいたいですが、本官も楽しかったのは認めるであります」

 

 メノは苦笑したが、本当に楽しかったであろうことはライトオにも伺えた。

 

「本官の競争生活にも、一区切りがついたのだと実感しました。これからは、学園の風紀を守るために粉骨砕身するであります」

 

 フェノーメノ本人は去年の春に公式レースを引退している。しかし同期であり宿命のライバルともいえるゴールドシップは年末の有馬まで走っていたためなにかと気が抜けなかったのだろう。

 

「メノは引退してこれからどうするんだ。一生風紀委員として学園を守るのか?」

 

 公式レースから退いたウマ娘達の進路は様々だ。就職のためにトレセン学園で勉強したり、トレセン学園の職員として働いたり、様々なイベントに出てファンやレース界のために活動したり、それぞれの道を行く。

 

「いえ、本官はリードホース課への配属を目指し、勉強中の身であります」

「リードホース。入学してすぐ、まだ体も未発達なウマ娘達に体の使い方やトレーニングの指導をするウマ娘のことだったな」

 

 トレセンウマ娘を導くのは、トレーナーや教官だけの仕事ではない。ウマ娘同士だからこそ出来る筋トレや、基本的なトレセンでの過ごし方を教える役目としてリードホースと呼ばれるウマ娘達がいる。

 公に名前が出ることこそ少ないが、レースを引退した後学園を支える立場に就職するウマ娘は少なくない。

 

「本官はメジロマックイーンさんからメジロ家の育成ノウハウを学びました。未来あるウマ娘達が健全に走れるよう、立派なリードホースになってみせるであります!」

「ふむ、メジロ家は確か若いウマ娘達の教育に関わる一族だったな。話を戻すが、犯人候補の1つだ」

 

 今回の犯人候補であるメジロ家、シンボリ家、サトノ家はそれぞれ得意分野が違う。

 ライトオとメノは、改めて新年に学園に出入りしたウマ娘達の情報を見た。

 

「メジロ家はこの時期、来年入学してくるウマ娘達の受け入れで忙しいのか。お正月だろうと学園に出入りもしていたと」

 

 トレセン学園には、毎年多くのウマ娘が入学する。その半分は半年以内にトレーニングの厳しさや才能の違いに学園を去ってしまう厳しい現実があるが、少しでも新しい才能を伸ばそうとメジロ家は尽力している。

 

「ええ。今年はメジロドーベルさんとメジロブライトさんのお2人が担当するとマックイーンさんより伺っております」

 

 メジロの末っ子、とも呼ばれる2人だがレース界ではライトオやメノよりも先輩、ステイゴールドと同じ世代だ。メジロ家の歴史が伺える。

 メノは学園スケジュール表を取り出し、今日の予定を確認した。

 

「今日はお2人が、希望した入学生たちにVRウマレーターの体験会を行う日のようです。話を聞きに行きますか?」

「そうしよう。彼女たちが犯人でなくとも、年始のトレセン学園での情報が聞ければ手がかりになるかもしれん。なんなら入学生達に私たちの走りをみせてやっても良いだろう」

 

 そして、2人がVRウマレーターのある体育館に向かったとき、事件は起こった。

 

「フンギャロオオオオオオオ!?」

 

 極めて特徴的なウマ娘の悲鳴。この声の主は明らかだった。

 

「今の声、マチカネフクキタルだったな。行くぞメノ!」

「はっ! 現場へ急行するであります!」

 

 校則違反にならないていどの駆け足で2人がVR ウマレーターの部屋に入ると、そこにはオドロキの光景が広がっていた。

 

「メ……メジロドーベルさんが倒れている!?」

「そして現場には割れたガラス玉にフクキタルか」

「霊験あらたかな水晶玉ですよ!?」

 

 VR ウマレーターのすぐ側で、メジロの末っ子たるメジロドーベルが力なく倒れていた。

 そしてそのすぐ側にはフクキタルがいつも大事にしている水晶玉が真っ二つに割れて転がっていた。フクキタルは青ざめた顔をしている。

 

「単刀直入に聞こう。フクキタルさん、あなたがメジロドーベルをガラ……水晶玉で殴ったのか?」

「と……とんでもございません! シラオキ様に誓って無実です! それより、ドーベルさんは大丈夫なのでしょうか!?」

 

 フクキタルは水晶玉よりも意識を失ったドーベルの心配を優先している。

 嘘っぽくは見えないが、まだ演技かどうかはわからない。

 ライトオはさっと倒れたドーベルに近づき、眠っている姿を見た。

 

「見たところ外傷はない。水晶玉の破片が刺さったりもしていなさそうだ。保健室につれていこう」

「本官が運びます! ライトオ検事、この場はお任せしました!」

 

 メノはメジロドーベルを抱きかかえ、保健室に急行した。後にはライトオとフクキタルが残される。

 

「わ、私はどうすれば……」

 

 フクキタルはおろおろしている。ライトオは1本指で頭をトントンと叩きながら冷静に口にした。

 

「フクキタルが犯人でないのなら、あなたが第一発見者ということになる。いったい何があったのだろうか?」

「私は、今朝水晶玉を失くしてしまって……探していたら、親切な方にドーベルさんが水晶玉を持っていたと教えてもらったのでここに来たのですが……」

 

 その言葉で、ライトオはフクキタルの主張を理解した。

 

「なるほどな。そしてここに来てみれば割れた水晶玉のとなりにメジロドーベルが倒れていて思わず絶叫したというわけか」

「ええ……大凶です……。まさか災いがドーベルさんに及んでしまうなんて……」

 

 フクキタルは真っ青な顔で真っ二つに割れた水晶玉を拾い上げて、パズルのように重ね合わせる。もちろんくっつきはしない。

 その様子を見て、ライトオの脳裏に1つの疑問が浮かんだ。

 

「フクキタル、水晶玉とはこんな風に真っ二つになるものなのだろうか?」

「水晶玉の硬度は高いので簡単には割れませんが……ウマ娘の全力で思いきり壁にぶつければこうなるかと」

 

 レース場にすら水晶玉を持ち込むフクキタルが言うのなら間違いないのだろう。

 ライトオは辺りを見渡す。すると近くの壁にわずかだが真新しい凹みを見つけた

 

「フム、なるほどな。この水晶玉は壁に叩きつけられて粉砕されたようだ。お悔やみ申し上げる」

「それより今は、ドーベルさんです……どうして気絶されてしまったのかわかりませんが、ご無事だと良いのですが」

 

 その時、体育館のドアが開く音がした。

 ライトオとフクキタルがそちらを見ると、そこには数人の小学生ウマ娘と、メジロ家の末っ子ことメジロブライトが入ってきた。

 

「あらぁ~? フクキタル様、ライトオ様、ごきげんよう。メリークリスマスですわ~」

 

 ブライトは、新年も明けているというのに

クリスマスカラーの服を着ていた。

 ライトオは真顔で時期外れの挨拶に言

葉を返す。

 

「メリークリスマス、ブライトさん。あなたは学園一のんびりやと聞いていたのですがなかなか気が早いですね。好印象です」

「のんびりすぎるブライトさんとせっかちすぎるライトオさんで一周回って噛み合っておられる!?」

 

 フクキタルのツッコミでブライトの回りの子どもたちから笑いが起こった。

 

「今のはおちゃめなジョークというものですわ~。最高速のライトオ様ならきっと合わせてくれると思いましたので~」

「フッ、さすがメジロ家、数々のウマ娘を導いてきただけはある。私の速度を逆手にとるとはやるな」

 

 ライトオが肩を竦める。ブライトはキョロキョロと体育館の中を見渡した。

 

「ところで、ドーベルはどちらに? 先にVR ウマレーターの電源を入れにここに来ているはずなのですが~」

「えー……それが、その……大凶です……」

「古畑任三郎かお前は。じつはドーベルは体育館で気を失っていてな。現場にはフクキタルの水晶玉が無残な姿で転がっていた」

 

 要領を得ないフクキタルの代わりにライトオは事件のあらましを説明する。

 フクキタルの悲鳴を聞きライトオとメノが駆けつけ、メノがドーベルを保健室に運んだことを話した。

 

「まぁ……ドーベルがいなくては、VRウマレーターが使えませんわ~」

「おや、ドーベルさんよりも水晶玉やVRウマレーターの方が心配ですか?」

 

 困ったように首をかしげるブライトに、ライトオは疑問を投げる。

 

「メノさんが保健室につれていってくださったのなら、きっと大丈夫でしょうし……それに、今はこの子達の引率が私の務めですので~」

 

 ブライトの周りにいる小学生ウマ娘たちは、ことの成り行きを不安そうに見守っている。

 

「皆さん。落ち着いて、リラックスしましょう。ほら、シャボン玉ですわ~」

 

 ブライトがどこからかストローを取り出してシャボン玉を吹く。

 ブライトの心持ちのようにぷかぷかと、シャボン玉が体育館が舞って子どもたちは目を奪われる。

 ブライトは、子守唄のように歌い始める。

 

「しゃぼん玉とんだ~屋根までとんだ~屋根までとんで~壊れて」

「やめてくれブライトさん。その歌は私に効く。なぜかわからんがミラクルさんを思い出して今にも泣いてしまいそうだ」

「ライトオさん真顔のままですが……」

 

 いつも通りの明るい会話で子どもたちを深刻にさせまいと振る舞うブライト、ライトオ、フクキタル。

 しかし小学生の1人、黒いくせっ毛のウマ娘が心配そうな声を出す。

 

「ドーベル先輩、怪我をされてしまったのですか……?」

「おっと奇遇。ゆこま温泉以来ですね、タクト」

 

 話しかけるタイミングを伺っていたのだろう。昨年秋に温泉で出会った小学生ウマ娘、デアリングタクトがいた。まだポニーちゃんなのにずいぶん落ち着いた物腰だったことをライトオも記憶している。

 

「せっかくだからタクトに聞いておこう。お前たちはメジロブライトとはずっと一緒にいたか?」

「はい、ブライト先輩はお会いしてからずっと学園を案内してくださいました。ドーベル先輩は一時間近く前に先にVRウマレーターの用意をしてくると離れて……」

「そしてタクトたちがこの体育館に入ると、私たちがいたというわけですか。ありがとう」

「つまり、わたくしたちにはアリバイがあるというわけですわ~。ずっと一緒でしたもの。体育館でドーベルをどうこうできるはずありませんもの~」

 

 ブライトの言い分は尤もだ。ドーベルが離れてから全員で行動していたのなら

 

「ライトオ先輩……今回も、事件を解決してくださいますか?」

「当然だ、既に犯人の目星はついている。今日も最速で解決してやる」

 

 不安そうなタクトの声に、ライトオは即答した。ライトオの中では、真実への道が一直線に見えていた。

 ライトオは、タクト含めた小学生達に声をかける。

 

「だが、ポニーちゃんたちは一度校庭で思いきり走ってくるといい。案内も大事だが、ウマ娘ならば思いきり走りたいだろう」

「そうですわね~。わたくしのようなのんびり屋さんに合わせて足が溜まっているでしょう。一度かけっこタイムですわ~」

「もちろん、VRウマレーターの埋め合わせはしてやろう。後で私が直々に最高速を見せてやる。メノの超スタミナもセットでな」

 

 引率役のブライトがポニーちゃんに声をかけると、大人しく小学生ウマ娘たちは校庭に出ていった。

 そのタイミングで、ライトオのスマホにメノから電話が掛かってくる。ワンコールで出てスピーカー機能をつけるライトオ。

 

『ライトオ検事! ドーベルさんが目を覚まされました!』

「ご苦労メノ。ドーベルさんは犯人を覚えているか?」

『それが……ドーベルさんは、よく思い出せないと。ここ数日の記憶が判然としないようであります!』

 

 その報告にブライトは沈痛な面持ちで顔を伏せた。

 

「まぁ……ドーベル、かわいそうに。フクキタル様の水晶玉で頭を打ってしまわれるなんて……」

「ブライトさん。あなたは本気でフクキタルが犯人だと主張するつもりなのか?」

 

 ライトオはブライトにゆさぶりをかける。

 

「ブライトさんとフクキタル、そして被害者のドーベルさんは同期として付き合いが長いはず。

 ブライトさんにとってフクキタルは水晶玉で同期を殴るようなやつなのか?」

「………………」

「ブ、ブライトさん……?」

 

 俯いて黙ってしまったブライトに、不安そうにフクキタルが覗き込む。

 しかしライトオの耳にも、その息づかいははっきり聞こえた。

 

「すやぁ~」

「寝るなッ!」

 

 なんとブライトは立ったまま寝ていた。異議を唱える勢いで声をだし覚醒を促すライトオ。

 

「はっ……そう、犯人ですわよね? もちろん、フクキタル様に罪はありません。ただ……水晶玉さんが、いたずらをしてしまったのですわ~」

「ほう、どういうことだろうか? 証言をお願いしたい」

「かしこまりました~。メジロの末裔として、ふさわしき発言をいたしましょう」

 

 ブライトはゆったりとした言葉の中にメジロとしての強い意思を滲ませて。しっかりと証言を開始した。

 

「ドーベルはフクキタル様の水晶玉を拾ってこの部屋に来ました。

 そしてVRウマレーターを操作しようと床においたのです。

 しかしその途中、うっかり水晶玉を踏んで滑って転んでしまったのですわ~」

「そ、そういうことだったのですか!?」

「ええ、その通りですわ~。だって、ドーベルが気絶する原因はそれしか」

「異議あり!!」

 

 ライトオは、体育館に響き渡る声で異議を唱えた。

 しかしブライトは動じることもなく、のんびりシャボン玉を吹く。

 ぽわぽわと浮かび、流されてシャボン玉は壊れて消えるのを見てライトオは言った。

 

「倒れているドーベルさんの体を調べたが、どこにも外傷はなかった。それに、体育館の壁にわずかだが固いものを叩きつけたことによる凹みがある。つまり、犯人は何らかの手段でドーベルを気絶させたのち、フクキタルの水晶玉を叩き割ることでフクキタルを犯人に仕立て上げようとしたのだ」

「……え? そんな……フクキタル様、その水晶玉は……」

 

 フクキタルは、重ね合わせた水晶玉をパカリと割れた状態に戻した。

 ブライトはいつもののんびりした態度から一変、明らかに動揺している。

 

「なぜ、こんなことに……?」

「先日、うちのタキオンが自分の薬を誤飲して記憶を失う事件があった。今回のドーベルさんにも、同様の症状が出ている」

「え!? タキオンさんにそんなことが!?」

 

 驚くフクキタル。そしてライトオは言った。

 

「ドーベルの体に目立った外傷はなかったのに体育館で気絶し記憶を失った。であれば、考えられるのは服薬、誰かが一服盛ったとしか考えられない。

 ━━そうなんだろう? メジロブライトさん」

「……………………まぁ。わたくしが?」

 

 ブライトの表情に緊張が走り、一瞬目が鋭くなった。

 フクキタルも、同期を疑われて思わず反論する。

 

「お……オマチ下さいライトオさん!? ブライトさんがドーベルさんに一服盛るなんて……何故そんなことをしなければならないのですか!?」

「知らん。そんなことは私の管轄外だ。だがおそらく、ドーベルさんに知られたくないことを知られてしまったのだろうな。それで記憶を失う薬を飲ませた」

「いやしかし!? 小学生の皆さんはずっと一緒だったと証言していたではありませんか!」

 

 タクトが言っていた。今日出会ってからはずっと学園の案内を受けていてドーベルは一時間前に離れて先に体育館に向かったと。

 

「もちろん、薬はそれより前に飲ませたのだろう。そしてフクキタルの水晶玉を拝借して体育館に転がしておき、効果が発揮される頃に先に体育館に向かうよう頼んだ。

 あたかも、フクキタルの水晶玉で滑って転んで気を失ったように見せかけるためにな」

「いやしかし! そんな証拠はあるのですか!?」

「ブライトさんは事件の話を聞いてから、ドーベルの心配よりも自分のアリバイ証明や子どもたちのメンタルケアを優先していた。不自然ではないだろうか?」

 

 いくらメジロ家が後任育成のプロでも、同期の身内が倒れたと聞いては普通は冷静ではいられないはずだ。

 その点をつきつけたが、やはりフクキタルは納得できないようで反論を重ねた。

 

「ライトオさん、それはおかしいですよ!」

「ほう、どこがおかしいと?」

「もしブライトさんが先に私の水晶玉を割って体育館に置いていたなら、後で体育館に来たドーベルさんは私の壊れた水晶玉を見て驚くはずですし……」

「ふむ、確かにそうかもしれないな。だがその時ドーベルさんはすでに一服盛られた後だ。体育館に来た時点で朦朧としていた可能性がある」

 

 ライトオの持論に対して、フクキタルの反論はまだ続く。

 

「いやいや、私は水晶玉を持ったドーベルさんを見たと聞いて、この体育館に来たのですよ!?

 ブライトさんが水晶玉を体育館に置いたのなら、彼女が見たものは何なのですか!?」

「ああ、その点は大いに問題だな。そもそも、何故ドーベルがフクキタルの水晶玉を抱えて体育館に向かう必要があるのか甚だ疑問だ。お前たちは連絡先を交換していないのか?」

 

 ライトオはやれやれと首を振る。

 ドーベルとフクキタルも同期なのだから、もしドーベルがフクキタルの水晶玉を拾ったなら電話の1本でもして受け取りに来てもらえば済む話だ。

 フクキタルはそこで言葉につまり、胸の前で人指し指を突き合わせて困り顔になった。

 

「いやまぁ……なんで私に連絡してくれなかったのかは不思議に思いましたが、体育館に来てみたらドーベルさんは気絶されていたもので……」

 

 そこでライトオは、ブライトをまっすぐ指差して告げた。

 

「ブライトさん、あなたから反論は? あなたが犯人でないならフクキタルが犯人になるわけだが。それで異論はないと?」

「え!? 私が犯人ですか!?」

「今さらなにを。ブライトさんが犯人でないならフクキタルが犯人だ。ドーベルさんがフクキタルに連絡もせず水晶玉を持って体育館に移動したなど不自然にも程がある。その証言はアキラカに変だ」

「フンギャロォ!? 私はシラオキ様に誓ってウソなどついておりません! ブライトさんだって、水晶玉が割れたことに驚いているじゃありませんか!?」

 

 フクキタルが必死に反論するが、不自然さは拭えない。

 

「フクキタル様。もうよろしいですわ。反論など必要ありません」

 

 その様子を見ていたブライトは、今までとは違うハッキリした言葉でもういいと言った。

 

「よろしくないですが!? このままでは私とブライトさんのどちらかが犯人扱いされてしまいますよ!?」

「ええ。わたくし、どうかしておりましたわ。……フクキタル様の水晶玉に罪を擦り付けようとするなんて」

 

 フクキタルがブライトを二度見し、しゃかしゃかと近づいていく。

 今の言葉が信じられないし信じたくない。その気持ちがありありと表れている。

 

「は……!? スミマセン、聞き間違いですよね? 今、なんと?」

「ハッキリ聞こえた。やはりブライトさんがドーベルさんに記憶を失うクスリを飲ませ、そしてフクキタルの水晶玉を拝借して体育館に転がした。

後はドーベルを先に体育館に向かわせ、子どもたちとずっと一緒にいれば自分は完璧なアリバイを作りつつフクキタルの水晶玉で気絶したように見せかけることが出来るというわけだ」

「……………………ええ。なんの反論もありませんわ。すべて、わたくしの責任です」

 

 ブライトはすべての罪を認め、頭を下げた。自分を庇い続けるフクキタルを見て、良心の呵責に苛まれたのだろう。

 

「ちょっと待ってください! おかしいですよこんなの!? 先に水晶玉を割って体育館に置いたらドーベルさんが無視するはずありませんし、そもそもヴィルシーナさんが見た水晶玉を持ったドーベルさんはなんなんですか! ムジュンだらけですよこんなの!」

 

 フクキタルは、友人を守るため徹底的に反論する。

 ライトオは、その発言の中の新しい情報に目を付けた。

 

「ほう、ドーベルが水晶玉を持っていたとフクキタルに教えたのはシーナさんなのだな?」

「そうです! かくなる上はヴィルシーナさんをお呼びして証言していただく他ありません! 確か、彼女はメノさんと同期でしたよね!?」

「ああ、お前がヴィルシーナの名前を出した瞬間最速でメノに連絡してある。ヴィルシーナを呼んでほしいとな」

 

 ライトオはスマホを見せる。メノとのLANEメッセージにヴィルシーナが事件関係者なのがわかったので呼んでほしいと伝え、メノからも了解でありますと返信されていた。

 

「私は……私は認めませんよ、心優しいブライトさんがドーベルさんを気絶させて、しかも霊験あらたかな水晶玉を叩き割るなんて!! どんな大凶仏滅13日の金曜日だろうと起こりません!!」

「フクキタル様……わたくしは……」

 

 ブライトは、瞳に涙を浮かべて苦しそうにしている。

 しかし、その涙を拭って普段のゆるさが嘘のようにはっきり言った。

 

「フクキタル様。きっとシーナさんはわたくしとドーベルを間違えてしまったのです。同じメジロの末っ子。メジロの栄光は過去のもの。名前を間違えられても仕方ありませんわ」

「フッ、なるほどな。本来はブライトが持っていたと伝えようとして間違えてドーベルと言ったなら一応つじつまは合う。尤も、メノはめちゃくちゃメジロ家に感謝しているがな。多分ステゴ一族はみんなそうだろう」

「ええ……メジロの名は消えても、その走りは確かに受け継がれている……でも、わたくしは……」

 

 ブライトは頷いて、懐から2本の空の試験管を取り出した。

 ライトオには、その試験管の中身が瞬時にわかった。

 

「タキオンの試験管だな。やはりヤツのクスリが関わっていたか」

「そ、そんな……!?」

 

 フクキタルが顔面蒼白になる。

 ドーベルに飲ませたものだろう。これは自白したのと同じだ。

 

「ライトオ様、ありがとうございます。友を、ドーベルを裏切ったわたくしを……止めてくださって」

「何故こんなことをしたのかは話すつもりは無いか? この事件、まだ気になることがあるのだが」

「一言だけ申し上げるのなら……わたくしは、どうしてもメジロ家の栄光を取り戻したかった。ライトオ様のような。スピードこそが至上の現代レースにおいても。

 メジロ家こそが至高であると夢見たかったのです」

 

 メジロ家は、長距離を中心としたスローペースのレース展開には長い歴史による一日の長がある。

 しかし、新時代からレースの高速化はどんどん進み偶然か必然かメジロの名を持つウマ娘は生まれなくなった。

 フクキタルが泣きながらブライトにすがり付く。

 

「ブライトさん……あなたは、メジロのためにそこまでしなくてはいけなかったのですか……」

「これ以上は申し上げられません。ライトオ様……差し出がましいとは思いますが。引率してきた子どもたちをお願いしてもよろしいですか?」

「ああ、瞬間で学園全てを案内してやろう。誰にも追い付けないスピードでな」

「ふふ……ライトオ様、案内役が子どもたちを置き去りにしてはいけませんわ。落ち着いて……ですのよ……」

 

 ぐらり、とブライトの体が揺らいだ。

 クスリを飲んで気絶したタキオンと同じように、そしてドーベルと同じように、その場に倒れる。

 

「ブライトさん!!」

 

 フクキタルが慌てて体を抱き止めた。ブライトはうとうとと、本来の彼女に戻ったように緩やかに口にする。

 

「わたくしは、メジロの末裔……けどドーベルと一緒に、ラモーヌ様やライアン様のように……後に続くメジロの子たちを、導きたかった……」

 

 眠りに落ちるブライトの様子に、ライトオは最速で駆け寄り、ブライトが吹いていたシャボン玉の溶液を見た。

 

「ここにクスリを仕込んでいたか。シャボン玉を吹いて遊ぶフリをしながら自分もクスリを飲み、自分の記憶をインメツするつもりだったのだろう。起きた頃には自分のやったことやなぜこんなことをしたのかまで、全て忘れているだろうな」

 

 その時、体育館のドアが勢いよく開いた。そこには、フェノーメノとヴィルシーナ。そして、ブライトとドーベルが案内していた子どもたちがいた。

 

「ライトオ検事! シーナさんをお連れしました! それと子どもたちがそろそろ案内を再開してほしいとのことです!」

「ああわかった。ポニーちゃんたち、ブライトさんはお疲れで眠ってしまった」

 

 えー!? とショックを受ける子供たちに、ライトオは人差し指をチッチッチと振って言葉を続けた。

 

「代わりといってはなんだが私とメノが案内をしてやろう。VRウマレーターでチーターよりも速く走る私を見せてやる」

 

 ブライトとの約束通り、案内を引き受けるライトオ。

 ヴィルシーナは、入ってきてすぐにフクキタルに頭を下げた。

 

「フクキタルさん、どうやら私の勘違いで混乱させてしまったようで……申し訳ありません。女王として、お恥ずかしい限りです」

「い、いえ……いいんです……もう……これはきっと……悪い夢なんです……一眠りすれば、なにもかも元通りで……」

 

 フクキタルは、目の前で起こったことを受け入れられていないようだった。割れた水晶玉のように心にヒビが入っている。

 ヴィルシーナは、フクキタルと眠りに落ちたブライトに近寄ってこう言った。

 

「お詫びにもなりませんが……せめて、保健室までブライトさんを運ばせてください。ドーベルさんと一緒に寝かせてあげましょう」

「ああ、任せた。子供たちの相手は私とメノに任せておけ。だがその前に1つ、聞きたいことがある」

 

 そんなシーナに、ライトオはまっすぐに尋ねた。

 

「シーナさん、あなたは本当に水晶玉を運ぶブライトさんを見ただけなのだろうか? 私には、ブライトさんがフクキタルの水晶玉を叩き割ったとは思えないのだが」

「……仰る意味がわかりかねますわ。先輩の名前を間違えてしまったことは謝罪いたしますが、それ以外に私がなにをしたと?」

 

 ヴィルシーナは女王らしく、まるでトリプルティアラのメジロラモーヌのように堂々と答えた。

 そして、何事もなかったかのように子供たちに優しいお姉さんの口調で告げる。

 

「さぁみんな。VRウマレーター体験をしましょう。メノさんとライトオさんが見ていてくれますからね」

「はっ! 後は本官達にお任せください、ヴィルシーナさん!」

「よしメノ。ここは1つ、VRウマレーターで直線2000mで勝負するのはどうだ? 直線最高速が勝つか、それともメジロ仕込みのステイヤーが勝つか。ポニーちゃんたちはどっちが勝つと思う?」

 

 口々に答える小学生ウマ娘達の相手をしつつ、VRウマレーターを操作する。

 気絶する前のメジロドーベルが操作していたのだろう。もう既にいつでも使える状態になっていた。

 ライトオにメノ、VRウマレーターでセッティングしたレース場で直線2000という現実にはないレースを開始する。

 

「……なんでレース場にチーターとパタスモンキーが紛れ込んでいるでありますかーーー!?」

「ふはははは! VRウマレーターだぞ、ウマ娘だけが走ると思う浅はかさは愚かしい! そしてやはり2000は私には無理だった!」

 

 結果としてはメノの圧勝。あくまで直線1000が適正のライトオが、本業はステイヤーとはいえダービー2着の実績のあるメノに2000で勝てるはずもなかったが。

 

「覚えておくがいいポニーちゃんたちよ。最高速とまっすぐは素晴らしいがそれなりの代償もあるということを……! ガハッ!!」

「ああっ、ライトオ先輩がお倒れに……!? でも、さすがトレセン学園はすごいです!」

 

 トレセン屈指のスプリンターとステイヤー、そして図鑑の中でしか見れない動物たちのレースに子供たちは多いに盛り上がった。

 そして一方その頃、保健室にブライトを運び、ドーベルの隣に寝かせたヴィルシーナは呟く。

 

「ブライトさん。お疲れ様でした。ドーベルさんにご協力いただけず、2人とも記憶を消す形で対処せざるを得なくなったのは残念ですが……あなたの協力のお陰で会長さんの理想はきっと実現されます」

 

 その言葉はさっき子供たちに向けていた優しいお姉さんのものとは明らかに違う、鬼気迫るものがあった。

 

「私はお姉ちゃんでティアラの女王だもの。公式レースは引退しても妹達のためにできることはなんでもするわ。ええそうよ、なんでも……どんな夢だって、見せてあげる」

 

 




逆転検事のパロディでもあること作品でヴィルシーナを出すならあのポジションだろうなとは連載初期から思っていたのでようやく出てきて少し満足しています。
 それと最近ネトフリで相棒やガリレオを見始めました。推理ドラマも面白くてパ……参考になります。

追記。ライトオの早押しクイズ最速でしたね。さすが公式ライトオは私の想像を遥かに越える速さで駆け抜けていく……
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