直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です   作:じゅぺっと

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 直線最高速ウマ娘、カルストンライトオの身体測定データが何者かによって盗まれた。
 その犯人を捜すため年始から学園に出入りしていたウマ娘を調べた結果、メジロ家にシンボリ家、サトノ家の関係者が年始から頻繁に学園に来ていたことが発覚。
 新入生の受け入れを行っているメジロブライトとメジロドーベルの元へ向かうと、なんとドーベルは気絶して記憶を失っていた。
 ライトオの最速推理で犯人はブライトと判明したものの、その際事件の目撃者だったヴィルシーナに不審な発言が見られたのだった。


さらば、最速~図書室と鉄球と三姉妹の絆(前編)

 

 

「おはようニャンコ。昨日は今年入学するポニーちゃんたちの相手で疲れて眠ってしまったが、今日こそは問い詰めて私の身体データを盗み出した犯人を捕まえてやる」

 

 事件の翌朝、いつも通り朝6時に目覚めたあとしっかりご飯を食べてランニングをしたライトオはメノに連絡しようとスマホを確認した。

 

「ブライトさんがドーベルと自分の記憶を消してまで知られたくなかった何かが必ずある。おそらくサトノかシンボリも関わっているはずだ。メノは何かわかっただろうか」

 

 スプリンターのライトオとステイヤーのメノではスタミナが段違いだ。事件と子供たちの相手をしたあともピンピンしているメノにライトオはふらふらになりながらも、サトノ家とシンボリ家、それとヴィルシーナについて調べるよう頼んだ。

 メノからの調査報告は、以下のようになっている。

 

【VRウマレーターについて:サトノ家のダイヤさんに確認したところ、VRウマレーターの新機能のテストがあったとのこと。これ以上の捜査に踏みきるには確固たる根拠が必要であります】

「警察もなんでも調べられる訳じゃないって父さんも言ってたからな。サトノ家は現状なにもしていないし」

 

 ライトオの父親は検察官を務めており、事件の捜査や情報を集めることに関わっている。その志は娘のライトオに受け継がれておりまっすぐで最速に、だけどルールを守って事件を解決することの大事さも学んでいた。

 

【これからヴィルシーナさんに聞き込みを行うであります。ヴィルシーナさんに9時に図書室で待っていてほしいと言われたので、何かわかりましたら報告いたします】

 

 そこで、連絡は途切れていた。丁度夜8時だった。

 

「おかしい。メノなら進展がなかったとしてもほうれん草をしっかりしそうなものだが」

 

 違和感を覚えたライトオは、最速で図書室まで向かった。

 そしてドアを開けた瞬間、メノの悲鳴が聞こえてきた。

 

「うおおおおおっ!! 冤・罪でありますっ! 何かの間違いであります!」

「フム、なにか事件があったから報告が途切れたのか。いや、冤罪だと?」

 

 ライトオが図書室のドアを開けると、そこにはフェノーメノの姿。

 

「まだシラを切る気か。昨日はよくも私をぶん殴ってくれたな、お巡り」

「本官は……本官の正義は、例え誰が相手だろうと暴力に訴えなどしません! 誤解であります!」

 

 メノに疑いをかけているのはシンボリ家の一匹狼、シリウスシンボリだった。

 ライトオとは以前事件を解決したこともあったが、シリウスはウマ娘の海外遠征支援などのため国内外を飛び回っておりかなり久しぶりだった。

 

「シリウスさん、間違いありませんね? 昨晩、メノさんが鉄球を持って襲いかかってきたと」

「シーナさん! 本官はそのようなことはしておりません!」

 

 さらに、メノと同期のヴィルシーナがいるのを確認し、ライトオはさっさと話題に入り込むことにした。

 

「話は聞かせてもらいました。シリウスさんは本当にメノに殴られた記憶があるんですか?」

「ライトオ検事殿!」

「……久しぶりだな、検事気取りさんよ」

「気取りじゃありません。蛙の子は蛙。ウマ娘の娘はウマ娘。検事の父を持つ私は実質検事のようなものです」

 

 いつも通りのライトオの登場にメノは目を輝かせ、シリウスは苦々しげにライトオを見た。

 

「とにかく。昨晩図書室に入ったらいきなりこいつが襲ってきたのさ。検事さんの出る幕はねぇよ」

 

 シリウスが顎でメノを示す。

 しかし、ライトオには今のシリウスの状態について思うところがあった。

 

「シリウスさん。あなたはご存じないでしょうが年始から学園ではタキオン製の記憶を失うクスリが何者かによって渡されています」

「タキオン本人の仕業じゃねえのか?」

「いえ、タキオン本人もクスリを飲んで記憶を失ったので首謀者がわからない状態です」

「……やれやれだな。相変わらず迷惑なヤツだ。あれと毎日過ごせるカフェの気が知れねぇ」

 

 凱旋門賞を走ったもの同士として、シリウスシンボリとマンハッタンカフェには繋がりがある。その関係でタキオンのことを聞いているのだろう。

 

「昨日はメジロブライトさんが同じくメジロ家のメジロドーベルさんに記憶を失うクスリを飲ませました」

「……で? それとこのお巡りが犯人であることと何の関係があるってんだ?」

 

 シリウスが結論を急かす。ライトオは人差し指をまっすぐ立てて言った。

 

「シリウスさん、あなた本当にメノに殴られた記憶がはっきりあるんですか? メノがシリウスさんを殴る理由などこれっぽっちも存在しない。被害者であるあなたが嘘をついていると考えた方が自然だ」

「ハッ! そこまで言うなら私の証言にムジュンがあると証明できるんだろうな?」

「もちろんです。あなたが殴られた時のこと、時間と場所まで正確に話してください。ちゃんと覚えてるならそれが出来るはず」

「……いいぜ。ただしそれが出来なきゃコイツを犯人として連れていかせてもらう。私にはここで時間をかけていられねぇんだ」

 

 シリウスは、事件の被害者として証言を開始した。

 

「私は、夜の図書室へ向かったんだ。そこでお巡りが」

「待った! それは何時ごろだろうか?」

「……夜、8時前だったな。図書室へ入ったらお巡りが待ち構え」

「異議あり!!」

 

 ライトオが、勢い良く異議を唱えた。

 ライトオは、メノとのLANE会話履歴をシリウスに突きつける。

 

「メノは昨晩、サトノ家のウマ娘に聞き込みをしていた。夜8時近くまでな。夜8時に図書室でシリウスさんを待ち構えられるわけがない! やはり、シリウスさんはクスリで記憶を失っているのだ!」

「ちっ……!!」

 

 シリウスの舌打ちが響く。それは、ライトオの指摘通りであることを意味していた。

 

「……殴られた一時的なショックだと思っていたが、実際年始から学園に戻った後の記憶がほとんどねぇ。仕事に支障が出るから、隠しておきたかったんだがな」

「シリウスさん! 何故その様な虚偽を……たとえ被害者といえど、偽証は犯罪であ゛り゛ま゛す゛!!」

 

 憤慨するメノ。なにせ被害者本人に偽の告発を受けたのだ。混乱もしたし気が気でなかったことだろう。

 だが、それだけで大人しく引き下がるほどシンボリ家の狼は甘くない。

 

「ハッ! だがな、どのみちそこのお巡りが犯人であることに変わりはねぇんだよ。そうだろ? シーナ」

 

 シリウスは、いつもの気障な態度でシーナを指す。

 シーナは、女王の気品ある仕草で頷いた。

 

「ええ。だって私……妹達とはっきり見たんです。図書室で倒れているシリウスさんの目の前で、鉄球を持って佇むメノさんを」

「なんだと!? シーナさんだけでなくシュヴァルやヴィブロスまでいたというのか」

 

 ライトオやメノはシーナを疑っていた。シーナ1人の目撃証言であればやはりシーナを怪しんだだろう。

 だが、そこに彼女の妹達までいたとなると話は変わってくる。

 

「それだけではありません、昨晩図書室でメノさんとシリウスさんが言い争う声を聞いたという証言もいくつも上がっておりますわ」

「し……しかし! 本官は昨夜シリウスさんと言い争いなどしておりません! 本官は、図書室に入った途端倒れ伏すシリウスさんを目撃し、現場に落ちていた凶器とおぼしき鉄球を拾っただけであります!」

 

 メノは自分の認識を説明する。

 ライトオは、シーナが口を挟む前に確認した。

 

「メノ。お前は昨晩シーナさんへの聞き込みのため図書室へ向かった。だが中に入るとシーナさんはおらず、何故かシリウスさんが倒れていたと」

「はい……そして鉄球を拾い上げたとき、ちょうどシーナさんにシュヴァルさん、それからヴィブロスさんが3人で図書室へやってきて……」

 

 そこで、シーナは会話に割り込んで説明を始めた。

 

「その時はメノさんが自分の仕業ではないと仰ったのでシリウスさんを保健室に運んで、目を覚ましてから事情を聴こうということになったのですが……今朝シリウスさんが、メノさんが犯人だと仰いましたので、間違いないかと」

「し、しかし! シリウスさんが記憶を失っていることは証明されました。きっと、本官が来る前に誰かがシリウスさんを気絶させたのであります!」

「そういうわけにもいきません。証拠はまだあるんです」

 

 メノの反論にシーナは優しく、しかし有無を言わさぬ気迫で言葉を続けた。

 シーナは自分のスマホを操作し、ライトオ達に見せる。

 

「ウマッターのアカウントか。どうやらトレセン学園生徒のようだ」

 

 投稿の内容からしてトレセン学園のデビュー前ウマ娘のようで、レースの目標が固定ウマートになっている。また、レースに関するリウマートもされている。

 

「昨日のウマートで、【風紀委員のメノさんとシリウス先輩が言い争う声が聞こえて怖かった】とあるな。夜8時前か」

「はい。このようにメノさんとシリウスさんの声が聞こえたという書き込みがいくつかありました」

 

 シーナがいくつかのアカウントを表示すると、それぞれのアカウントでシリウスのメノの声を聴いたり目撃情報が書かれていた。

 シリウスが、高圧的にメノを睨む。

 

「わかっただろう? 私の記憶はなくとも、犯人はそこのお巡り以外あり得ねぇ。それこそ何かの間違いで私に殴りかかったとしても、これ以上罪を認めないようならこっちにも相応の態度を取らせてもらうぜ」

「ほう、具体的には?」

 

 ライトオが尋ねると、シリウスは狼のように歯を剥き出した。

 

「リードホースへの就職を目指してると聞いたが……ウマ娘の力で暴力を振るった挙げ句、それを隠蔽するようなヤツにトレセンの職員は務まらねぇ。そうトレセン学園に報告させてもらうぜ」

「んなっ……!? しかし! 本当に本官はやってないであります! シーナさん、シリウスさん、ライトオ検事、信じてください!」

 

 シーナは、メノの痛切の訴えに少し目を伏せている。

 ライトオは、腕くみして一瞬考えてからシーナに尋ねた。

 

「シーナさん。あなたが鉄球を持ったメノを見たとき、シュヴァルやヴィブロスと一緒だった。間違いありませんね」

「ええ、もちろん」

「何故、メノとの約束があったのに姉妹で図書室の外へ出ていたのでしょうか? そもそも、閉館した後の図書室で待ち合わせた理由がわからない」

 

 トレセン学園の図書館は基本的に夜になると閉まる。それ以降に利用するなら相応の理由のもと学園に申請しなければならない。

 シーナは、その事でしたらと簡単に説明を始めた。

 

「私は、会長さんにお願いされてレースの歴史資料を選別しておりました。閉館時に鍵を図書委員の方にお借りして1人で資料をまとめていたんです」

「……皇帝様が直接お前に、か?」

「ええ。私もティアラウマ娘として後輩の指導に携わる立場ですし……会長さんにはよくしていただいているんです」

 

 ほんの少し、会長の名前にシリウスが警戒する。以前ライトオがシリウスと事件を解決したときも、シリウスは生徒会長シンボリルドルフのことになると饒舌だったのを覚えている。

 

「けど、本を運んでいるときに妹が……シュヴァルとヴィブロスが一緒にご飯を食べたいと言ってきて。

 メノさんとの約束の時間まではまだ時間がありましたから、一緒に食事をしました」

「それは、何時から何時までのことだろうか?」

 

 ライトオが訪ねると、シーナは少し目を閉じて答えた。

 

「ええと……確か、夜7時半から9時10分くらいまでですね。

「ふむ、メノとの約束の9時には少し遅れたと」

「はい、恥ずかしながら妹達と話すのが楽しくて……3人で戻ってくると、メノさんとシリウスさんが図書室の中で倒れていたんです」

 

 特におかしなことは言っていない。しかし、ライトオにはメノが犯人とは思えなかったので情報を引き出すためにこう提案した。

 

「やはりシュヴァルとヴィブロスにも話を聞かない限り信用できないな。シーナさん、今すぐ2人を━━」

「待った!」

 

 ライトオでもメノでもシリウスでもシーナでもない、高く幼さのある子供の声がした。

 その声の主は、図書室の外から中に入ってくる。

 

「私たちのお姉ちゃんにイジワルなこと言わないで!」

「ヴィブロス、ダメだよ邪魔しちゃ……」

 

 シーナの最愛の妹達、次女のシュヴァルグランに末っ子のヴィブロスだ。ヴィブロスはライトオがシーナを詰問していることが気に入らないのかプリプリと怒っている。

 とはいえ、そんなものに怯むライトオではない。

 

「呼ぶ手間が省けましたね。シュヴァルにヴィブロス、是非あなた達の話が聞きたい」

「つーん! シュヴァちとお姉ちゃんにイジワルするライトオさんにお話しすることなんかないもん!」

 

 ライトオは以前、シュヴァルが起こした一連の事件を大事になる前に速やかに解決したことがある。

 シュヴァルは、妹の代わりにライトオに頭を下げた。

 

「ヴィブロス……あの時のことは全部僕が弱かったからいけないんだ。ライトオさんは悪くないよ」

「フッ、あのときはデビュー前でネガネガしていたシュヴァルも今ではオリオンをなぞる立派なウマ娘だ。もう心配はいるまい」

 

 ライトオが把握する限り、シュヴァルはクラシック期後半に3連勝している。同期のキタサンブラックやドゥラメンテほど目立ってはいないが、シニア期を迎えた今年はGⅠを走ることも十分視野に入る好成績だ。

 

「さて、本題に入ろう。シュヴァル、君たちは図書室のシーナを呼んで食事に行き、3人で図書室へ戻ったときに倒れているシリウスさんと鉄球を持ったメノを発見した。間違いないか?」

「はい……ヴィブロスが、どうしても姉さんと一緒がいいって聞かなくて」

「それはどうしてだ?」

 

 ヴィブロスは拗ねたようにしながらも、ポツリと答えた。

 

「だってお姉ちゃん、お正月も家に帰ってこないくらい忙しくて……いつもは週に一回は一緒にご飯食べてお風呂に入ってたのに、今年はまだ一回も……」

「ヴィブロスだって、今年はクラシックだろ。今は食事も管理して、目の前のレースに集中しなきゃ」

「だって、寂しいんだもん。シュヴァちも、トレーニングばっかりだし……私たちよりトレーナーさんと仲良くしてるし……」

「ヴィブロス、それは今いいから」

 

 ヴィルシーナはここのところずいぶん忙しくしていたようだ。ヴィブロスもワガママ放題というわけではないらしいが、まだ姉に甘えたいのだろう。

 

「呼びに行った時、シーナは何をしていた?」

「姉さんは……ハシゴで高いところの本を取っていました」

 

 シュヴァルが図書館の端に放置してあるハシゴを指差す。

 

「シュヴァち、あれはハシゴじゃなくてキャタツじゃない?」

「どっちでもいいだろ……」

「フム、ちょっと実際にやってみよう」

 

 ライトオはハシゴ改めてキャタツを本棚の側に立て掛け、一番上まで登った。

 本棚の最上段の上までしっかり見て手が届くほどのキャタツだ。

 シリウスが、本棚の一番上を調べるライトオにヤジを飛ばす。

 

「ハッ! そんなことして何がわかるってんだ、検事さんよ」

「この本棚、綺麗すぎる。年末に大掃除があったとはいえ埃一つないのは変だ」

 

 不自然さを指摘するライトオに、シーナはすぐこう言った。

 

「ああ、少し埃がありましたからついでに掃除をしたんです。女王は跡を濁さず、使ったときより綺麗にするくらいでないと」

「さっすがお姉ちゃん! 今日もキラキラだね!」

 

 尊敬する姉を褒めるヴィブロス。

 シュヴァルはライトオに近づいて、その本棚を眺めた。

 何か違和感を覚えているようで、キョロキョロと本棚の上を見ている。

 

「どうしたの、シュヴァル?」

「姉さん……僕が昨日呼びに行った時、本棚の一番上にも本を並べてなかった?」

「ほう、詳しく聞かせてください。本棚の一番上にどんな風に並んでいましたか?」

 

 ライトオが、スタッと飛び降りてシュヴァルに尋ねた。シュヴァルはビクッとしたが、少し深呼吸してライトオに言った。

 

「ええと、本棚の一番奥から段差のような感じで……」

 

 シュヴァルが適当なメモ用紙と鉛筆を持ってきて、簡単な図を描いてくれる。

 図では緩やかなスロープくらいの段差が奥から入り口の本棚まで続いている。

 ライトオは、シーナに直球で言った。

 

「なんだこれは。シーナさんは本の整理をサボって本で積み木遊びしてもしてたのか?」

「まさか……ねぇシュヴァル。きっと何かの見間違いじゃないかしら。お姉ちゃん、そんなことしてないわ」

「そ、そうだよね……ごめんなさい、姉さん」

 

 にべもなく否定したシーナにシュヴァルはすぐに撤回してしまった。

 そんな妹に、シーナは姉として優しく微笑んだ。

 

「大丈夫、怒ってなんかいないわ。お姉ちゃんはいつでも……どんなことがあっても、あなた達の味方だもの」

「ひ、人前で抱き締められると恥ずかしいよ姉さん……」

「あー、シュヴァちだけずるい! ねね、私ともハグして! ぎゅー!」

 

 三姉妹の睦まじい抱擁。ライトオはその間にさっきシーナが見せてくれたSNSのアカウントを表示し、2人につきつけた。

 

「これが最後の質問だ。シーナさんによるとSNSに昨夜メノとシリウスさんの言い争う声を聞いたとの情報がある。お前達は何か心当たりはないか?」

 

 昨夜8時半ごろに廊下を歩くシリウスの姿を見た。そして9時前にメノとシリウスが言い争う声を聞いたとの書き込みがある。

 

「その時間だと、僕たちは一緒にご飯を食べて、9時過ぎくらいに図書室へ戻ったから……ちょっとわからないですね」

「約束を9時を少し過ぎてしまったから。一緒に謝ろうって言ってくれたのよね」

「ヴィブロスもか?」

 

 ヴィブロスはライトオの質問はそっちのけで、件のアカウントを自分のスマホで開いていた。

 

「ねえねえシュヴァち! この人達、シュヴァちのファンみたいだよ! みんな、シュヴァちの勝ったオリオンSのこととかインタビューのリウマートしてくれてる!!」

「えっ? ほんとだ……すごい偶然……」

 

 ヴィブロスとシュヴァルが同じスマホを眺める。ずっと強ばっていたシュヴァルの頬にもわずかに赤みが差した。

 ライトオは、その様子に肩をすくめる。

 

「フッ、やはり良い走りには見てくれるファンがつくものだ。今後のシュヴァルの走りに多いに希望が持てそうだな」

「ありがとうございます……あ、ヴィブロスのデビュー戦の記事もあ、る……」

 

 その時だった。

 嬉しそうに自分達の記事を眺めていたシュヴァルの顔が、何か気が付いてはいけないことに気が付いたように真っ青になって。

 さっきハグをしたばかりのヴィルシーナを、恐ろしげに見つめた。

 

「ど、どうしたのシュヴァル……何か、嫌なことでも書いてあった?」

「な……なんでもないよ、姉さん……気のせい、だよ……」

 

 明らかに何かに気が付いたシュヴァルに、ライトオはまっすぐ話しかけた。

 

「シュヴァル、お前が起こしたニンジンドロボー事件で、私が言ったことを覚えているか?」

 

 シュヴァルが、ドゥラメンテに大豊富食祭のにんじん畑からにんじんを1本ずつ持ち出し、キタサンに毎日追いかけさせドロボー騒ぎを起こした事件だ。

 

「えっ……? えっと、犯人に反省を促すダンスとか……」

「それじゃない。あの時、私はデュラメンテにドゥランダルが……じゃない。ドゥラメンテにデュランダルが言ったことを伝えた」

「ややこしいなオイ。結局なんて言ったんだよ」

 

 シリウスのツッコミが入る中、ライトオはあの時のことを思い出す。

 

「自分の仲間がおかしなことを言っていたらはっきり言ってやるのも大切だと。

 ━━シュヴァルは、シーナのムジュンに気が付いたのだろう?」

「でも……僕なんかが、姉さんに……」

 

 シュヴァルは俯いて、帽子をきつく被って目を伏せてしまう。

 誰にも目を合わせられず、縮こまるシュヴァルに優しく語りかけたのは、やはり姉のヴィルシーナだった。

 

「シュヴァル、何かわかったことがあるなら言って? お姉ちゃんはメノさんが犯人だと思うけど……シュヴァルの言うことなら、私信じるわ」

 

 シーナが優しく、内気な妹に発言を促す。

 その振る舞いは、いつもの優しい姉のようでいて。どこか、悲壮感すら漂っているようにライトオには見えた。

 そしてシュヴァルも……覚悟を決めたように帽子のつばを持ち上げて。姉であるシーナに言った。

 

「僕は……姉さんが、この事件の犯人だと思う。姉さんが……鉄球を使って、シリウスさんを気絶させたんだ」

 

                

                   つづく

 




今回の話を書き上げたら文字数が15000を越えてしまったので久しぶりに前後編です。

今やってる一連の話は次の後編とその次の事件(おそらく前後編)で完結する予定です。
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