直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です 作:じゅぺっと
「残酷な真実が、君たちを幸せにするとは思えない。この薬を飲んで、全て忘れて。これからも、平穏な学園生活を満喫してほしい。
……俺の願いは、ただそれだけだよ」
ライトオの身体データを盗んだ犯人は、生徒会長シンボリルドルフだった。
生徒会室に踏み込んだライトオとメノを待っていたのは、記憶を失うクスリの飲んで倒れ付した姿だった。
「ヴィブロスが、ヴィルシーナを思うあまりルドルフを問い詰め、暴力に及んだ……本当なんだろうな、スーさん!」
シリウスシンボリが、スピードシンボリを問い詰める。
「もちろん、キチンと調べればわかってしまうことさ。今朝俺がこの部屋に入るまで、この部屋に入ったのはルドルフとヴィブロスだけ……シンボリ家で内々に済ませられれば良かったんだが」
「グッ……」
「どうしても学園で解決するというなら……そうだな。まずヴィルシーナを呼んでもいいかな」
「……姉による泣き落としが狙いか?」
「尊重敬意。こうなってしまった責任は私とルドルフにある。どんな結末を迎えるにしても、彼女の意思は確認されるべきだろう?」
一連の事件には、ヴィルシーナも深く関わっている。それが災いして、ヴィブロスがルドルフを攻撃する事件を招いてしまったと。
「ヴィルシーナさんには知る権利があります。しかしこれではあまりに……あまりに残酷ではありませんか!」
メノが頭を抱えてもがき苦しむ。
誰も何も言えないでいると。ほどなくしてヴィルシーナはやってきてしまった。
「ごめんなさい。実は全て……聞いていましたわ。ヴィブロスが……ルドルフさんを……傷つけてしまったと」
「ヴィルシーナ、すまないね。老いぼれの力不足で何もかもが裏目に出てしまった」
「いえ……全ては、姉である私の責任です。だから……だからどうか……!」
ヴィルシーナは、この場全員に頭を下げる
。
「この事件、ルドルフさんを傷つけた犯人は私ということにしていただけませんか……! 私はどんな処分でも受けます。ですからどうか……ヴィブロスを、何も知らず走らせてあげてください……」
「本官は……この事件は、どうすれば正義ある結末を迎えることが出来るのでありますか!!」
事件の犯人と真実を歪めるなど正義とはいえない。だがこのまま正義を追求すればヴィブロスのレース生命が終わりかねない。
「正義か。確かにそれも大事だがね。君たちはまだ現役アスリートなんだ。君達は走り、後輩たちを走らせることに全力を尽くしてほしい」
スピードシンボリは、手にした記憶を失うクスリを見せる。
「さぁ、この薬を飲んでこの事件のことは全て忘れると良い。後は俺に任せておいてくれればいいんだ」
「それで本当に……ヴィブロスは責任を問われず、私は最高速を求めて走り続けられるんですね?」
ライトオは、必死に声を張って確認する。
この部屋に置かれたライトオの身体データ。既にピークアウトし、最高速の更新は不可能という事実。
それを忘れ、後はトレーナーがうまく誘導すればライトオはこれからもトレセン学園で走り続けることができる。
「もちろん、君のような唯一無二の存在は学園に存在してくれることが皆の道標になる。どうかこれからも、君の最高速を皆に見せてあげてくれ」
「……わかりました、その薬を渡してください」
「ライトオ検事……よろしいのですね?」
メノの問いかけに、ライトオは返事をせずスピードシンボリからクスリを受け取った。
普通に何か言えば、直線の欠片もない怯えた弱音を口にしてしまいそうだったから。
代わりに、力一杯。ウイニングライブの歌のように渾身叫んだ。
「うおおおおおおっ! 一・直・線!!」
誰にも止められない最高速で、生徒会室の窓から思いっきり放り投げた。
ガラスをぶち破り、事件の元凶たるクスリは窓の向こうに消えていく。
「何をしているでありますかっーー!? 器物損壊及び不法投棄でありますよ!?」
「フッ……メノ、それでいい。どんな状況でルール違反を取り締まってこその警察、そして検事だろうメノ」
「……なんてことを。これで君はもう最高速を求めて走れなくなるんだよ」
ライトオの暴挙に、苦々しげなスピードシンボリの言葉。
ライトオは額から脂汗を流し、虚空の彼方に消え去った最高速の更新を名残惜しく見ながら。
それでも検察官の娘として直線最高速のウマ娘として言った。
「私がこの学園に来たのは最高速を求めるため。叶わない夢に縋るためではない。
この後どうするかは……この事件の真実にたどり着いてから決めることだ」
ライトオは、額の汗を拭い。乱れた髪を整えて。
事件の黒幕であるスピードシンボリに、一直線に指をつきつけた。
「スピードシンボリ。今朝この生徒会室に入ったのはルドルフさんとヴィブロス。間違いありませんね」
「ああ、さっきも言ったが確認すれば明らかになることだ」
「そこに嘘はないのでしょう。だからこそあなたはルドルフとヴィブロスに記憶を失うクスリを飲ませた」
「間違いないよ。だからヴィブロスがルドルフを気絶させたことに間違いな」
「異議あり!!」
そこでライトオは、チッチッチと指をふった。
「いいえ。この事件、もうひとつの可能性が残されています。むしろ、そちらの方が真実である可能性の方が高いでしょう」
「何……?」
「メノ、シリウスさん。思い出してください。昨日ルドルフさんは少しヴィブロスを睨んだことがありましたね」
「ええ、ヴィブロスさんは怖がっていましたね」
「いくら姉を思う妹の気持ちが強いとはいえ、デビューしたばかりのヴィブロスと七冠会長シンボリルドルフの実力差は歴然だ。疑いの余地もないだろう」
ライトオは、真っ直ぐ伸ばした人差し指で頭をトントンと叩き、ふてぶてしく笑ってみせた。
「本当に、ヴィブロスに会長さんを殴ることなどできたのでしょうか?」
その言葉に、シリウスはハッとして牙を剥いた。
「そうか……本当は逆だったのか!」
「ええ、まさに逆転の発想です。この事件、ヴィブロスがシンボリルドルフを殴ったのではない」
「……違う、やめてくれ!」
焦るスピードシンボリ。だがライトオはここで逆転のチャンスを逃さない。
「真実はシンボリルドルフが、自分を問い詰めに来たヴィブロスをうっかり気絶させてしまったのだ!」
「しかしライトオ検事! ルドルフさんは誰よりも全ウマ娘の幸福を願うお方。そんな彼女が、後輩に手を上げることなどあり得るでしょうか?」
「フッ、その答えならあのVRウマレーターの中でスピードシンボリ本人が自白している。バルブさんがログを保存しているからな言い逃れは出来ない」
ライトオはスマホを操作し、まだスマホの中にいる三女神Ai、ゴドルフィンバルブを見せた。
「スピードシンボリはヴィルシーナさんに言っていましたね。『彼女の起床難が災いしてね。老いぼれが代役ですまない』と」
「ええ……確かに、ルドルフさんではなくスピードシンボリさんにお祝いしていただきましたわ」
慎重に頷くヴィルシーナ。
「つまり。恐らくヴィブロスはシーナさんについて問い詰めるために会長さんのいる生徒会室へ向かった。そして寝ている会長さんを無理やり叩き起こしたのでしょう」
「ヴィブロスなら……それは、やりかねませんね」
「そうでしょう。小さな子供は、大人を叩き起こすのに容赦しませんからね。……会長さんの起床難を知らずに」
「アイツの寝起きの悪さはライオンなんて可愛いもんじゃねえ……そんなやつに、あのちっこくて体格不十分なヴィブロスが寝起きにあれこれ話しかけたら……」
ヴィブロスはデビューしたウマ娘にしてはかなり小柄だ。ルドルフをよく知るシリウスが納得する。
「そう、眠れる獅子を起こしたヴィブロスはその怒りに触れ、突き飛ばされでもして気を失ってしまった。そして、ほぼ同じタイミングで、スピードシンボリは部屋にやって来てさぞ驚いたでしょうね」
「……大切な妹分が、後輩に手を上げる姿を目撃してしまった……手元に記憶を失うクスリがあれば、隠蔽を図るのは当然でしょうね」
ヴィルシーナが、姉としての立場からスピードシンボリの行動を推察する。
「そう、だからこそスピードシンボリはルドルフにも記憶を失うクスリを飲ませるしかなかった」
「寝起きとはいえ、ヴィブロスさんに手を上げてしまったら、会長さんも落ち込むでしょうからね……」
「そして、事件を隠蔽するなら会長さんが自ら記憶を失う選択をした風にしなければいけない」
ライトオは件の書き置きを指で示す。事件の責任を取り、自ら記憶を失う選択をしたという文章だ。
「それが、あの書き置き……」
「ハッ、そもそもルドルフの書類の字はスーさんの書き方を真似てんだ。スーさんならルドルフの筆跡を真似るくらい屁でもねえな」
「異議あり!」
しかしそこで、スピードシンボリは手を上げて異議を唱えた。その神秘的な威圧感に、ライトオ達の言葉が止まる。
「……月並みな発言だが、証拠はあるのかな? 俺の可愛いルドルフが後輩に手を上げたなんてことを根拠もなく言われると……さすがの俺も気分が良くないんだ」
その言葉は、正しくOGウマ娘として、シンボリ家の麒麟児として出た発言だろう。
しかしライトオは、その指を気絶しているルドルフ本人に突きつけた。
「では実際にやってみようではないか。今気絶しているルドルフさんを無理やり叩き起こせばどうなるのかな」
「なっ……待てカルストンライトオ、危険だ!!」
「どのみち私はもう最高速の更新はできない。なら、この五体など砕け散っても構いません」
スピードシンボリが慌てて止めようとする。だがライトオの最高速に引退したOGウマ娘が追い付けるはずがない。
「起きろ会長! いつまで寝ている、朝の六時はとっくに過ぎたぞ!」
間髪を容れず、ライトオはルドルフの脳天にウマ娘チョップをした。最高速のライトオを止められるものはおらず、ビシッという音が生徒会室に響く。
「貴様……! 誰を殴っている……!」
数秒後、普段のルドルフの穏やかさ素振りなど何処にもない唸り声がした。
目の前のライトオを睨む眼光は正に百獣の王ライオンのようだ。
しかし、ライトオにしてみればライオンの速度など恐れるに足らない。
「あなたを詐欺罪と器物損壊罪で訴えます。理由はもちろんおわかりですね? あなたが私利私欲で皆を騙し、VRウマレーターを破壊したからです。生徒指導室にぶちこまれる楽しみにしておくがいい」
早口で捲し立てるライトオに、ルドルフが取った行動は単純だった。
普段生徒の前では決して見せない怒りの形相を浮かべ、獅子のようにしなやかにライトオの胸ぐらを掴み━━
「待てルドルフ!!」
「スーさん……!?」
スピードシンボリがライトオのルドルフの間に割って入り。代わりに彼女が突き飛ばされた。
卒業したとはいえルドルフと同じ三冠ウマ娘。その動きは周りが止められないほど早かった。
吹っ飛ばされ、壁に体を打ち付けて倒れ込むスピードシンボリ。
「良かった……今度は間に合った。はは、最初に止められていれば……こんなことにはならなかったんだがな……」
「おいおい、血が出てるじゃねえか。老いぼれが無茶するんじゃねえよ……」
「スーさん……いったい何があったんだ? 何故カルストンライトオがここに? これでは……これは、なんだ……?」
混乱するルドルフ。彼女がどこまで覚えているかわからない。
ライトオは、さっそく自身の身体データをルドルフにつきつけた。
「会長、あなたに確認します。私の身体データに関して何か言うことはありませんか?」
「君の……そうだ、私は君の身体能力がピークアウトしていることを知って……何か対策を打たなければと考えていたんだが……」
どうやらライトオの身体データの事を隠蔽したことは忘れているようだ。
だが、今の言葉で何かしようとしていたことは確定だ。
恐らくそれが、トレーナーと共謀してライトオを騙し続ける魂胆だったのだろう。
「四字熟語とか抜きで、はいかいいえで答えて下さい。私の最高速がもう更新できないことは、やはり事実なのですね」
もはやライトオの言葉に動揺はなかった。それはもう、過去の出来事として受け入れたから。
「ああ。だが私は……君に学園を去ってほしくはない。君の走りは存在すること自体に価値がある。だから私は……私は……何をしていたんだ……?」
「甘いな!!」
そこで、シリウスが割って入った。
「会長サマよぉ……いつまで忘れたフリをしてるつもりだ。一度見た顔は忘れない記憶力が自慢じゃなかったか?」
「シリウスさん? しかし、事実会長さんは記憶を失うクスリを……」
メノが事件の前提となる記憶を失うクスリについて触れると、シリウスはせせら笑った。
「ハッ! コイツがそんなクスリ1つで綺麗さっぱり忘れるくらいアホウなら、全ウマ娘の幸福なんて夢もとっくに忘れてるさ」
「やっぱりシリウスさんって会長さんのこと大好きですよね」
「うるせえ! さっさと気合入れて全部思い出して……生徒会長として責任を取りやがれ、七冠ウマ娘、シンボリルドルフ!!」
ルドルフは、シリウスからの敵意とそれ以上の絶対的な信頼を聞いて。
目を覚ましてから初めて笑った。
「君は相変わらずだなシリウス。だがその信頼に答えなくては……ね」
ルドルフが、目を閉じ、クスリによって閉じ込められた記憶を呼び覚まそうとする。
「といっても、できるのか? いくら会長さんでもクスリの効果を自力で無力化するなんて」
「私達ウマ娘には対毒耐性があんだろ。自分が毒と認識したものは大体拒絶できる。ルドルフがクスリのことを知っていて、それを毒だと認識すりゃあ……他のウマ娘ならともかく、コイツならできるさ」
その間、スピードシンボリは本物の老人のように力なく膝をついたまま。
事件の被害者であるヴィルシーナに謝っていた。
「すまなかった、俺のせいで……君達姉妹を、深く傷つけてしまった。あのVRも、俺が発案したんだ。この生徒会室で」
最初は、ただの雑談だった。レースを走り終わったウマ娘にも、自分の理想が叶えられる夢を見せられたらいいのに。
「VRウマレーターを使えば、映像の投影は難しくない。しかしその夢を信じてもらうためには、一時的に記憶を消す必要がある。どんどん話は膨らんでいき、タキオンやサトノ家の子達も巻き込んでしまった……彼女たちはちゃんと未来を見ているというのに」
タキオンはとっくに公式を引退しているが、未来あるウマ娘への実験を惜しまない。先日も傍若無人に振る舞ったかと思えばヴィブロスが気持ちよく走れるよう心配りをしていた。
サトノ家のウマ娘は、初のGⅠ勝利に燃えている。ただ、シンボリ家からの要請とあってはVRウマレーターの開発側として断れなかったのだろう。
「ルドルフも協力してくれたが……本当の責任は全て俺にある。ルドルフを……許してやってくれ」
「いいえ。ヴィブロスを突き飛ばしたルドルフさんにも責任はあります。しっかり、償っていただかなければいけませんわ」
ヴィルシーナは、エリザベス女王杯を制したティアラウマ娘として。ヴィブロスの姉として毅然と口にする。
「でもそれは、ヴィブロスが無理やり問い詰めたせいでもあります。私も姉として……あなたの行動の気持ちはわかりますから」
「妹達が望んだ光景を、いつかVRで見せることができるようになるように……だったね」
「ええ。だけどあの子達にそんなもの要らなかったみたいです」
ヴィルシーナは、これからクラシックやシニアを走る妹達の走りに想いを馳せる。
シュヴァルグランはクラシックの終わりに4連勝を果たした。今年のシニア期ではGⅠ出走も叶うだろう。
ヴィブロスも未勝利戦を勝ち、今年はクラシックでヴィルシーナには掴めなかったティアラの栄光を勝ち取れるかもしれない。
「私が思っていたより……私よりずっと、あの子達は強いですから」
「はは……そうだな……ルドルフもシリウスも、小さかった頃に比べてとても強くなった……」
そして、ルドルフは目を開ける。いつもの頼れる生徒会長の顔だ。
「カルストンライトオ……フェノーメノ……ヴィルシーナ……シリウスにスーさん。私はひどい過ちを犯していたようだ」
「フン、ようやく思い出しやがったか」
「これで事件は解決……でありますね」
「ああ、この償いはこれからしっかりさせてもらうとしよう。ヴィブロスにも……しっかり謝って、彼女の希望を叶えてあげてならないとな」
ヴィブロスが海外、ドバイレースを目指していることは会長もスピードシンボリも把握している。シンボリ家のつてがあれば、便宜を図ることは十分にできるだろう。
「カルストンライトオ。君の最高速を……おや?」
「ライトオ検事!? どこへ行ったでありますか、ライトオ検事ー!?」
しかし既に、直線最高速ウマ娘カルストンライトオの姿は生徒会室に存在しなかった。
「まさか、最高速更新が出来ないから今すぐ退学して出ていきますとかやり始めるんじゃねえだろうなアイツ!?」
「やりかねないのが怖い!! ほ、本官……直ちに探してくるであります!!」
続けて生徒会室を飛び出すフェノーメノ。
それから約一時間後。ライトオが見つかったのは芝のターフだった。
ターフには、ライトオトレーナーによって彼女の一番得意な、象徴でもある1000直レースが用意されていた。
「ライトオ検事!! いったい何を!?」
「ちょうどいいところに来ましたねメノ。お前も見ているといい私の最高速を」
コースにはライトオだけではなく彼女の同室にして最終直線最速の聖剣デュランダル。 最速トリオの1人ビリーヴに短距離絶対王者サクラバクシンオーまで揃っていた。
ライトオの近くに置かれたスマホから、彼女を見守り続けた三女神ゴドルフィンバルブの声がする。
『ライトオちゃん……これからも、走り続けるの? あなたの走りは、もう……』
「私が直線最高速であることに変わらない。誰かに直線で負けたときこそが、私がウマ娘としての死を選ぶ時です」
そう宣言して、ライトオは自分の知る限りもっとも自分に近い最速達に声をかけた。
「私の最後になるかも知れない走りをするには十分なメンバーだ。手加減はなしだぞデュランダル、ビリーヴ、バクシンオー」
「起きたら部屋にいないと思ったら、いきなりレースとはね……まぁ、あんなに真剣に頼まれたら断るわけにはいかないわ」
「ええ。事情はわかりませんがあなたの引退がかかっていると言われれば。僕も最高の仕事でもって答えましょう」
最高トリオ達は、以心伝心のやり取り。
そして短距離絶対王者は、瞳の桜を爛々と
輝かせて笑う。
「ハッーハッハ! ライトオさんもこの学園の真実を知ったのでしょう! ならばこの学級委員長が華麗に引導を渡してやろうではありませんか!」
「1200曲線ならともかく。1000直ならお前だろうと負ける気がしない。私に勝ちたければ全盛期の短距離絶対王者でも連れてくるんだな」
「ならば駆け抜けましょう! いざ、遥か万里の彼方までっ!!」
かつて全距離制覇を目指していた短距離の絶対王者の号令に、ライトオは肩をすくめて笑った。
「フッ、スプリンターである我々に万里は走れないがな。だがやはり、バクシンオーはそんなめちゃくちゃを言っている時が一番輝いている」
「待った!」
そこに飛び込んできたのは、輝く瞳をしたデビュー前のウマ娘だった。
「お願いします、そのレース……アイも混ぜてもらえませんか!?」
そのウマ娘はアーモンドアイ。いずれどんな偉業も伝説にも勝利して見せると豪語する勝ち気な性格で。
ライトオにとってはラッキーライラックやブラストワンピースの事件を解決したときに名前を度々聞いている。
「ほう、まだデビュー前のアイが私達に敵う可能性は0だと思うが?」
ライトオの発言はアイを侮っているのではなく事実だ。
将来どれ程伝説級のウマ娘となる存在であっても、デビュー前で勝てるほどライトオ達は甘くない。
アイもそれは承知の上で、しっかりとライトオを見据えた。
「だとしても……私には、短距離絶対王者の力が流れてるってパンドラさんが教えてくれました。だからあなた達を通して……その強さ、必ずモノにしてみせます」
「ああ、そういえば以前ロードカナロアなるウマソウルと走ったことがあったな。あの時のビリーヴは弱ったニャンコだった」
「……僕とライトオさんでも勝てなかったあの魂ですか。懐かしいですね」
ビリーヴの前に現れ、1200で何度も完勝した謎のウマソウル。それをマンハッタンカフェの協力で招待を突き止めたことがあった。
カフェ曰く、本来サクラバクシンオーに匹敵する短距離王者だが、まだこの世界に実体を持って現れてはいないらしい。
「さしずめアイはロードカナロア2世の事件簿といったところか」
「事件簿どっからでてきました!? とにかく……勝負よ!!」
そう言いつつも、軽やかにアイはターフに立つ。
まだデビュー前ながら気合の入れ方は大したものだ。デュランダルがライトオに小さく囁く。
「彼女、かなり出来るわね……マイラーとして、既にかなりの力を感じるわ」
「今マイルの話しました!? 負けませんよ!」
「カルストンライトオさんとデュランダルさんとビリーヴさんとサクラバクシンオーさんが人知れずレースしていいわけないでしょう……! このレースを歴史に納めなければ……!」
「久しぶりに学園に来てみれば、何やらスプリントレースの気配。スイープさんの魔法で蘇ったマーチャンの復活劇に相応しい舞台です」
「これは大バズの予感! カレンも一緒に走らせてくれますか?」
レースの気配を感じてやいのやいのとウマ娘達がやってくる。今まで事件で関わってきたウマ娘達に、ライトオは肩をすくめて言った。
「もうこの際走りたいやつは全員まとめてかかってこい。私は……この学園で最速でなくなるまではこの学園に残る」
ライトオは、そう宣言した。
デュランダルは、その言葉でこのレースが開かれた理由を全て理解する。
「そう……あなたにも、ピークアウトはやってきたのね」
「お前はもっと早かったのだろう。途中から明らかに自分の走りよりもチームのサポートによっていたからな。
だが私は、走り続ける。いつか、誰かが私の速さを上回るまで」
「ライトオさんらしい区切りだと思いますよ」
デュランダルもビリーヴも、ライトオの決意を認めた。
ライトオのトレーナーも、近づいて言う。
「君との時間が終わることを恐れて、君を欺こうとしていた……それでも君は、俺と契約を続けてくれるのか」
「何を今さら。一度や二度の過ちで絶ちきれる関係で一生は添い遂げられませんよ。それに私も……一瞬だけ、あなたとの今の関係が終わることが怖くなりましたから」
「ライトオ……」
「なので突っ立っていないでさっさと位置についてのコールをしてください。私もう待ちきれません」
「ライトオ……!」
相変わらずせっかちなライトオにおもわずコケそうになるトレーナー。
だが彼はトレーナーとして、すぐにスタートの用意をし。
1000直の最速を決めるゲートを開いた。
(この学園には回りくどいやつが多すぎる。事件が起こるたび、速い&真っ直ぐは世界を救うということを教えてやらなければいけない)
こうしてライトオは今日も、直線を最高速で走っていく。
例え更新は出来なくても、誰に最高速のバトンを渡すそのときまで。
(いつか、誰かが私の速さを上回るだろう。だがそれは今日ではないしこいつらでもない。いつか訪れるその時まで私は……走り続けるまでだ!!)
そしてライトオは今日も、直線最高速で1000直を駆け抜けた。
いつか、誰かがカルストンライトオの速さを上回るでしょう。だがそれは今ではないし現実でもない。
というわけで直線検事カルストンライトオ、これにて完結となります。
ウマ娘カルストンライトオのお父さんが検察官と聞いて『直線検事カルストンライトオ』というフレーズを思い付いたのがきっかけで始めたこの作品が、数々のウマ娘や読んでくださる読者様のお陰で一年以上続き私がハーメルンに投稿した作品の中で尤も評価された作品になったのはとてもオドロキです。
この作品の主役であり、全てにおいて最高速を求めるまっすぐなカルストンライトオ。
序盤の捜査役であり、群れをなすクールな狼のボス、シリウスシンボリ。
ライトオのツッコミ役兼ツッコまれる役もこなせる騎士デュランダル。
そしてこの作品がここまで続くきっかけとなった熱血警察ウマ娘フェノーメノ。
他にも登場してくれたたくさんの魅力的なウマ娘達によってこの作品は成り立っております。
私はミステリー作品、特にコメディ色の強いものが好きなので逆転シリーズやダンガンロンパ、果てはギャグ漫画日和などさまざまな作品を参考にしています。
最近は名探偵プリキュア見てますし今年は魔法少女の魔女裁判とかダンガンロンパのリメイクを楽しみにしてますね。
話は変わってこの作品は一話毎に事件を解決するスタイルなので、終わり方をどうするかはかなり悩みました。
長い話を作るのは苦手なのですが連載である以上何かしらのエンドマークはつけないと落ち着かない性分なので。
ただ逆転検事がモチーフなので、最後の対決は緑の服に勲章をつけたウマ娘、シンボリルドルフかスピードシンボリのどちらかであることは決めていました。
最高速の追求が出来なくなっても回りくどいウマ娘達を真っ直ぐ導くために学園に残る……というのはこの作品のライトオならではの結論だったかなと思います。基本は身体がピークアウトしたらさっさと引退しそうな気がするので。
完結ではありますが、またなにか思い付いたら特別法廷や追加シナリオ感覚で直線裁判エピソードが投稿されるかもしれません。
次回作はロードカナロア二世の事件簿が始まるのか、それとも全く関係ない別の話が始まるのかはまだ未定です。
アプリウマ娘も5周年。これからの公式の物語に大いに期待を込めつつ私も書きたい二次創作を楽しませていただこうと思っています。
最後までお読みくださった方々、本当にありがとうございました。速い&真っ直ぐは世界を救う!