直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です 作:じゅぺっと
「開廷ッ! これより、エアグルーヴが笹針で刺され気絶した事件の裁判を執り行うッ!」
体育館の壇上で、理事長代理・秋川やよいが宣言する。
トレセン学園の体育館は、普段ならトレーニングやスポーツで活気に満ちている。だが今日に限っては、裁判所のような厳粛さに包まれていた。
大勢のウマ娘たちが見守る舞台の両側には、検察側と弁護側と呼ばれた二人のウマ娘が立っている。
「検察側、弁護側、準備はよろしいだろうか!」
「検察側、カルストンライトオ。元より」
ライトオは父親が検事を務めており、彼女の勝負服も検事服をモチーフにしている。
勝負服姿で立つその様子は、まるで本物の検事のようだった。
「弁護側、ダンツフレームは……だ、大丈夫です!!」
弁護側に立つのは、ライトオと同期のダンツフレーム。彼女は特に弁護士と縁があるわけではないが……自分の勝負服を着て、大きな声で返事をした。
理事長は、扇子でビシッとライトオを指す。
「ではカルストンライトオ、冒頭弁論を頼むッ!」
「わかりました。冒頭弁論から有罪判決まで、三分でカタをつけましょう。それくらい、この事件も一直線です」
ライトオは手元に用意した資料を、早口で読み上げはじめる。
「事件は、パーティーホールで起こった。ファインモーションとそのトレーナーの結婚を祝うセレモニーが行われ、エアグルーヴをはじめ、ファインと近しいウマ娘たちが参加していた」
「うむ。君たちも参加していたのだったな」 「ええ。私とファインは友達ではありませんが、私の友達のダンツ、ミラ子さん、デュランダルはファインと友達ですからね」
ファインモーションとダンツフレーム、ヒシミラクル、デュランダルはレースでの対決経験もある仲だ。特にヒシミラクルとデュランダルは同期でもある。
「私もお祝いの合唱に参加する予定でした。あの事件でエアグルーヴが刺されるまでは」 「そんなめでたい席で刃傷沙汰が起こってしまうとは……ファインモーションも心を痛めていることだろう」
ファインモーションとエアグルーヴは同室のウマ娘であり、良き友人だ。
アイルランドからの留学生であり、政府高官の娘でもあるファインを、エアグルーヴが何かと気にかけていることは、学園のみんなが知るところである。
「パーティー中に停電が起こり、三十秒後に電気がつくと、エアグルーヴの姿が消えていた。参加者が捜索すると、テーブルの下から真っ赤な液体を流したエアグルーヴの姿が発見されたというわけだ」
ライトオは一枚の写真をプロジェクターに映す。テーブルの下で少なくない量の赤い液体を流し、気絶しているエアグルーヴの姿に、傍聴しているウマ娘たちが息を呑むのが聞こえた。
「事件は停電中に起こり、エアグルーヴは刺されたショックで気絶してしまった……被害者である彼女にも犯人はわからない、ということだな」
「だが、幸い犯人はすぐに判明した。電気がついてすぐ、ヒシミラクルが笹針を持って立ち尽くしているのが発見されたのだ」
ライトオは真っ直ぐ、人差し指を被告人席のヒシミラクルに突きつけた。
「停電時間は三十秒。その間にエアグルーヴを刺し、その身体をテーブルの下に隠したとなれば、いくらウマ娘といえど現場から逃走する時間は存在しない。よって犯人は、ヒシミラクル以外あり得ない!」
被告人席のヒシミラクルは、まるでプールを目の前にしたかのような絶望的な表情で立っている。
「ミラ子先輩は、誰かを刺したりしません! ライトオちゃんだって、ミラ子先輩の優しさはわかってるはずです!」
「ううむ……確かにヒシミラクルがそんな凶行に走るとは思えないな」
ダンツの反論に、ライトオは肩をすくめ、やれやれと首を振った。
「フッ。では手短に回想に入らせてもらおう。そうすればミラ子さんが犯人だという残酷な真実がわかるだろう」
「昨日のパーティーのことだね……」
ライトオとダンツは、ファインの結婚記念パーティーのことを思い出す。
「まさかアイルランド王族としてやってきたファインさんが、実は政府高官の娘で、しかも三年経っても日本にいられることになり、トレーナーと結婚するにまで至るとは。ウマ娘の生とは数奇なものですね」
「清々しいまでの説明台詞ね……でも、本当にめでたいことよ。騎士として……いえ、友人として心から祝福するわ」
「勝負服をモチーフにしたウェディング姿のファインさんは、まさに妖精姫ティターニアのようだった」
昨日、ライトオとデュランダルはドレス姿でパーティー会場にいた。
ファインのウェディング姿が披露された後、今はお色直しのために着替え中で、しばし歓談の時間となっていた。
「それにしてもファインの結婚式とはいえ、エアグルーヴさんやSPの皆さんの警戒ぶりはすごいな。服装は全員指定のドレス、入場時には直々にボディチェックまでするとは」
参加者は、ファインとトレーナー以外全員、指定された薄手のドレスを着ており、余計なものの持ち込みは禁止されていた。
「これでは体の曲線まではっきり見えてしまう。デュランダルの最近だらしない体なんて特にだ」
「誰の体がだらしないと!? 今日は殿下の前でフェンシングの試合も披露するのだから、体の管理も抜かりありません!」
「フッ。出会った頃は騎士ごっこだったデュランダルが、ぱっと見で本物の騎士らしくなったのはファインのお陰なのは間違いないな」
ライトオとデュランダルがいつも通り漫才をしていると、ダンツフレームが皿に料理を山盛りに盛り付けてやってきた。
「ライトオちゃん、デュランダルちゃん! お食事、みんな美味しいよ。食べよ?」 「ダンツさん。ずいぶん山盛りのお皿ね」 「えへへ、このドレスを着るためにダイエットしてたらお腹空いちゃって……」
「料理は色々あるからな。豪華な料理にノンアルの赤ワイン。これらを全部味見したエアグルーヴさんが太りぎみになるほどだ」
エアグルーヴ本人も会場の隅で全体を警戒しているが、普段と違い、すっかり太りぎみになってしまっていた。この結婚パーティーのために尽力した結果だろう。
「後はこれで漫画肉であれば完璧だったが」 「結婚パーティーに漫画肉があるわけないでしょう!」
たくさんのテーブルに多国籍料理が並べられており、ウマ娘の食欲をもってしても食べきれないほどの量だった。
「えへへ、ミラ子先輩と一緒にダイエット頑張った甲斐があったよ」
「それはさぞ頑張ったのだろうな。来られなかったケイちゃんの分まで張り切っているのだろう」
そのヒシミラクルは離れた席、ファインとトレーナーの近くで談笑していた。
いつもは誰かとのんびりご飯を食べるのが好きな彼女だが、今は特に料理を口にしている様子はない。
「ミラ子さんが料理に目もくれていない。妙だな」
「ミラ子先輩、緊張してるのかな……」
「ここは、ファイントレさんにご挨拶もしたいし、私たちも行きましょうか。ミラ子さんも、我々がいれば気兼ねなく食べられるでしょう」
しかしその時、事件は起こった。
どこかで火花の散る音がした後、会場の電気が突然消えて真っ暗になったのだ。
「えっ!? 何、停電!?」
「くっ、何も見えん! ネコちゃんのごとき夜目があれば!!」
「ブレーカーが落ちたのかしら……?」
ライトオも、周囲のウマ娘たちも同様に動揺を隠せない。
そこで響いたのは、エアグルーヴの声だった。
「おいたわけ何をしている! やめろっ!!」
勢いよく走り、誰かを突き飛ばす音がした。
「いたっ!」
ヒシミラクルの声が聞こえた。どうやらエアグルーヴに弾き飛ばされたようだ。
そして数秒後に電気がつくと、エアグルーヴの姿は消えていた。
「大丈夫かミラ子さん! あとついでにファイントレ!」
ライトオは、電気がついた瞬間、最高速でミラクルの側へ駆け寄る。
そこでライトオは、ミラクルの手に妙なものが握られているのを見た。
「ミラ子さん、なんだその笹針は? どうやって持ち込んだ」
「こ、これは、その……」
このパーティーに入るにはボディチェックを受ける必要がある。鋭利な刃物など持ち込めるはずがない。
「大丈夫ですかファイントレさん? お怪我は?」
「俺は大丈夫だ。それよりエアグルーヴはどこに? 確かに彼女が突っ込んできたはずなんだが」
「エアグルーヴ先輩、どこに……?」
ダンツとデュランダルも追いついてきて、ファイントレを気遣ったり、エアグルーヴを探したりする。
すると、ファイントレとミラクルがいたテーブルのワインが倒れ、真っ赤な染みを作っているのが見えた。
「いくら女帝と呼ばれたウマ娘でも、あの暗闇の中で二人を突き飛ばして逃走までするのは無理だ。エアグルーヴはこのテーブルの下に隠れたに違いない」
「その衝撃で、ワインが倒れたのね。でも、何故彼女はそんなことを……?」
「本人に聞けば済む話だ。ミラ子さんが笹針を持っている理由も含めて説明してもらおうか!」
ライトオは勢いよくテーブルクロスを剥がし、テーブルの下をあらわにした。
それを見たダンツが、大きな悲鳴を上げた。
「ひっ……きゃああああ!? エ、エアグルーヴ先輩が……死んでる!?」
エアグルーヴは、真っ赤な液体の海に沈むように倒れ伏していた。側には、この暗闇の中を走るために使った暗視ゴーグルまで落ちている。
「落ち着けダンツ、これは致死量の出血ではなく━━」
しかし、ライトオが説明しようとした時には、もう悲鳴の波は広がっていた。
「皆さん落ち着いて! ウマ娘がパニックになって走り回ったら危険よ! SPの皆さんの指示にしたがって避難してください!」
デュランダルによる騎士の一喝で、集団パニックという最悪の事態は防がれたが、もはやパーティーどころではなくなってしまった。
「━━というわけで今日裁判を開き、エアグルーヴさんに命は無事であることを発表することにしたわけです」
「あの赤い液体は血ではなく、テーブルの赤ワインが倒れたエアグルーヴさんにかかってしまったんです。私の早とちりで、皆さんにご迷惑を……」
ライトオとダンツは事情を説明した。理事長は頷く。
「事情はわかった。しかし、エアグルーヴが刃物で刺され傷を負ったことも確かなのだな?」
「ええ。腹部を針のようなもので刺されましたが、不幸中の幸い、太りぎみだったおかげで刃は内臓まで届きませんでした。事前に太りぎみだったエアグルーヴさんのファインプレーですね」
ライトオは検事席に立つものとして、淡々と、今見えている状況を述べる。
「ですが刺さりどころが悪ければ亡くなっていてもおかしくなかったことも事実です。昨夜、検事の父さんに確認しましたが、もし故意に刺した場合は殺人未遂が適用されてもおかしくない」
「ふーむ……やはりヒシミラクルがそんな凶行に走るとは思えないのだが」
青ざめた顔で怯えているヒシミラクルは、トレセンウマ娘の中でものんびりしたタイプだ。
しかし、ライトオはチッチッチと立てた指を振った。
「もちろん、ミラ子さんは意図してエアグルーヴさんを刺したのではない。これは停電中の事故なのだ。検察側はその証拠を提示したい」
「なんとッ! 停電中の暗闇の中に証拠があるというのかッ!」
「ラインクラフトが、エアグルーヴの許可を得てパーティーの様子を撮影していたそうなのだ。こちらをお聞きいただこう」
ライトオは一台のビデオカメラを取り出し、録音を再生する。
「おいたわけ何をしている! やめろっ!!」
「いたっ!」
停電中のエアグルーヴと、ミラクルの声だ。そして即座に再生を止め、ライトオは自信満々に言った。
「ミラ子さんは停電中に隠し持っていた笹針を取り出した。それをエアグルーヴに見つかってしまい、突き飛ばされてしまった」 「何故笹針を取り出したのだろうか?」
理事長の当然の質問に、ライトオは首を振った。
「ミラ子さん本人が黙秘しているので不明だ。とにかくその際、持っていた笹針は勢いよくエアグルーヴさんの腹部に刺さってしまった」
「納得ッ! 理由はわからないが、それならヒシミラクルに悪意があったとは言えないな」
大きく頷いた理事長に、ライトオは自信満々の真顔で言った。
「検察側は、ヒシミラクルが犯人。しかしその犯行は事故だったと主張する。……弁護側のダンツに異議がなければ、これで裁判を終わらせるが?」
ライトオがダンツを指差す。ダンツはミラクルを見て、深呼吸してはっきり言った。
「異議は……あります! ミラ子先輩は、エアグルーヴ先輩を刺してません!」
「ほう、根拠は?」
「だってミラ子先輩は……昨日私に言ってくれたんです。『わたしはエアグルーヴさんを刺してない、信じて』って!」
「ヒシミラクル、では君は自分が犯人ではないと主張するのだな?」
理事長がミラクルに確認する。ミラクルは震えながらも、小さく頷いた。
「はい……わたしは、あの暗闇の中でエアグルーヴさんを刺してないんです。笹針は、エアグルーヴさんに突き飛ばされて転がっちゃって……拾ったときに電気がついて、ライトオちゃんに……」
「もしミラ子先輩が犯人なら……正直に言ってくれるはずです! 私は、ミラ子先輩を信じます!」
「感動ッ……! 同室ウマ娘の強い絆、信じてやりたいが……!」
ライトオは、やれやれと肩をすくめた。検事モードの時の彼女のお決まりの仕草だ。
「フッ、口先ではなんとでも言える。ミラ子さんが犯人でないなら、何故エアグルーヴさんは針で腹部を刺された? ミラ子さんは、そもそも何故笹針を持っていた? 説明のつかないことばかりだ」
「ヒシミラクル、君が笹針を持っていた理由は教えてくれないのだな?」
理事長が問いかけると、ミラクルは青ざめたまま頷いた。
ダンツは、勢いよく弁護側の机を叩く。
「ミラ子先輩には、何か言いたくても本人の口から言えない理由があるんです……! それをこの裁判で明らかにします!」
「いいだろう。三分はとっくに過ぎてしまったが、ミラ子さんとファインのためだ。こうなることは予測して証人も用意してある」
ライトオも、事故とはいえミラクルを犯人扱いしたくはないのだろう。
「証人とは誰だろうか?」
「むろん、我々と共に現場にいた目撃者だ。では出てきてもらおう。哀れなナイト……デュランダルに」
「だから裁判だとなんで毎回哀れむのよ!?」
デュランダルは怒りながら証言台に出てきた。
「デュランダル! 昨日は君のお陰で事件発生後のパニックを回避できたと聞いた。感謝する!」
「騎士として当然の働きです。むしろ私がもっと速く行動を起こしていれば、ファインさんが悲しむこともなかったかと思うと……不甲斐ありません」
「デュランダルは昨日からファインについて心のケアを担当していた。騎士の誉れと言えるだろう。多分」
ライトオらしい物言いだが、彼女なりにデュランダルのことも心配しているようだった。
「デュランダルちゃんも……ミラ子先輩が犯人だと思いますか?」
「ええ、信じたくないけれど……彼女があの暗闇の中、笹針を取り出したのは疑いようのない事実。私ははっきり見ました。停電前の彼女は笹針など持っていなかった」
「では、ミラ子さんについて証言してもらおう」
「わかったわ。騎士デュランダル……参ります」
騎士としての勝負服と模擬刀を携え、デュランダルは証言を開始した。
「停電前、ミラクルさんは笹針など持っていませんでした。
そして電気がつくと、彼女は笹針を持って立ち尽くしていたのです。
その時すでに彼女の顔は絶望に染まっていました。
きっと、エアグルーヴさんに突き飛ばされた弾みで彼女の腹部を刺してしまったとわかったのでしょう」
証言はシンプルに終わった。デュランダルが嘘をつく理由もなく、見たものをそのまま語っているのだとわかる。
「ううむ……悲しい事件だ。ダンツフレーム、この証言に矛盾などあるだろうか?」
(ここでライトオちゃんみたいに矛盾を指摘できなかったら、ミラ子先輩は犯人になっちゃう……!)
理事長からの質問に、ダンツは真剣に考える。
「……デュランダルちゃん。笹針を持って困っていた以外に、変わったことはありませんでしたか?」
「ええ、着ていたドレスも指定されたものだったし……なにもおかしくはないわ」
「けど、それはおかしいですよ!」
「ほう、何がおかしいのだろうか?」
ライトオの問いに、ダンツは深呼吸した後、答える。
「もしミラ子先輩の持っていた笹針が凶器なら……エアグルーヴ先輩はそこで出血していたはずだよね。なのに、返り血がドレスについてないのはおかしいです!」
「ああっ!? 確かに、彼女の体はキレイなままだったけど……」
「ふむ……確かに、ドレスが汚れていないのは不自然だな」
ヒシミラクルの姿は昨日と同じドレス姿のままだが、血痕のようなものは付いていない。
「それに、お腹を刺されたエアグルーヴ先輩が、わざわざテーブルの下に隠れた理由もわかりませんし……」
「ヒシミラクルが刺したと考えるには、いささか不自然なのは間違いないようだ。検察側はどう考える?」
理事長がライトオに尋ねると、ライトオは指でトントンと頭を叩く仕草をした。
「もちろん、それはムジュンでもなんでもない。エアグルーヴは、ヒシミラクルを庇うため腹部を押さえて出血しないようにしたのだ」
「じゃ、じゃあテーブルの下に隠れたのは?」
「当然……ヒシミラクルに刺された事実を隠蔽するためのとっさの行動だろう。しかしそこで力尽きてしまい、気絶した状態で我々に発見されたというわけだ」
ライトオは、検察側の机を片手でバンと叩く。
「そもそも、あのパーティー会場はエアグルーヴ自身の手によって刃物の持ち込みは厳重に禁止されていた。凶器があの笹針しか考えられない限り、笹針を手にしていたヒシミラクルが犯人以外あり得ない!」
「ライトオちゃん……だったら、笹針以外の凶器があればミラ子先輩が犯人じゃないって認めてくれるんだよね?」
「そんなものがあるならな。だが昨日、会場を天井から床下まで探しても尖った凶器らしきものはなかった」
ライトオとて、ミラクルが犯人でない可能性を考えて必死に捜査したのだろう。その言葉に、一切の嘘や誤魔化しはなかった。
「……あのパーティー会場には、床下があったんだね」
「先に言っておくが、床下に入るには一度パーティー会場に入る必要がある。エアグルーヴやSPたちによるボディチェックを免れることはできないぞ」
「私もファインさんに確認しましたが、エアグルーヴさん自身もSP隊長さんと相互にボディチェックを行ったそうです」
その点も既に確認したのだろう。ライトオとデュランダルは、さすがのチームワークで他の凶器の可能性も検討したようだ。
それを聞いた理事長が、デュランダルの所持する騎士の模擬刀を見て言った。
「そう言えば、その模擬刀は持ち込んでよかったのだろうか? いや、別にデュランダルを疑うつもりはないが……」
「ええ、この模擬刀はプラスチックでできたものですし……仮にあの暗闇の中でこれで突いたとしても、出血させるのは不可能です」 「模擬刀で、突いた……」
その言葉で、ダンツはパーティーにおけるデュランダルのある言葉を思い出した。
その時、ふと閃く。このアイデアは、ヒシミラクルの無罪証明に活かせるかもしれない。
「もしかして……エアグルーヴ先輩を刺したのって、模擬刀だったんじゃないかな」 「ち……違うわ! わ、私は犯人じゃない!」
「怪しいリアクションをするなデュランダル。そもそも、その模擬刀で出血はできないと今言ったばかりではないか」
「ううん、デュランダルちゃんの今持ってる模擬刀じゃなくて……あのパーティーでは、フェンシングの試合を披露することになってたんだよね?」
ファインを祝う余興としてフェンシングをする予定があると、デュランダルが言っていたのを思い出したのだ。
「フェンシングの剣って確か先が尖ってたし……あれを使って床下からエアグルーヴ先輩を刺せば、笹針以外の方法で犯行が━━」
「異議あり!!」
ライトオの声が、体育館に響き渡った。検事の娘としての迫真の異議だった。
「これだからしろうとはダメだ。フェンシングの剣で刺殺するなど、豆腐で撲殺するくらい無理がある」
「と、豆腐……!?」
「私も初めてフェンシングの剣を見たときは、なかなかの直線だと思った。だが試合用フェンシングの剣は、すぐふにゃふにゃと曲がって直線の風上にも置けない」
「闘牛用の実剣じゃなくて試合用なんだから、安全第一に決まってるでしょう!」
デュランダルはライトオの直線ジョークに律儀に突っ込んだあと、こほんと咳払いをしてダンツに言った。
「……でも、試合用のフェンシングで人を刺すのは無理よ。騎士として断言させてもらうわ」
ライトオの直線第一な発言にいつもなら笑うところだが、今はそれどころではない。
(模擬刀……フェンシング……なにか……頭の中で閃きそうな気がする……!)
ダンツはライトオほど思考の直進が速くない。
それでも、自分にできる必死の努力で、尊敬する先輩を守るために考えた。
「そうか……! 試合用のフェンシングの剣は、模擬刀だったんだ……!」
「ダンツフレーム、どういうことだろうか?」
理事長の質問に、ダンツは深呼吸して、自分のたどり着いた結論を話す。
「試合用フェンシングの剣で人を刺すことはできない……でも、もし闘牛用のフェンシングの剣なら、エアグルーヴ先輩を刺せたはずです」
「あ、ああああっ! まさかっ!!」
ライトオが、その最高速でもってダンツの言いたいことを最速で理解して悲鳴を上げた。
「つまり犯人は、試合用のフェンシングを闘牛用のフェンシングにすり替えて会場に持ち込んで……床下から、エアグルーヴ先輩を刺したんです!」
「そ、そんなバカな!?」
ライトオとデュランダルが驚く。そのリアクションこそが、二人がフェンシングの剣で人を刺せるわけがないと思っていたことの証明だった。
「ライトオちゃんもデュランダルちゃんも……きっとエアグルーヴ先輩も、試合用のフェンシングが安全だと思っていたからこそ見逃してしまったんです」
「クッ……いや、その犯行には致命的な問題がある! 床下からエアグルーヴさんを刺すには、彼女がテーブルの下に潜り込まなければ成立しない!」
しかし、ライトオもさすが検事の娘。即座に反論を組み立ててきた。
「床下から闘牛用フェンシングで刺すにしても、立っている人を刺すのは長さ的に無理だ。被害者が四つん這いになってギリギリ届くかどうかだろう。いったい何故、そんな犯行をする必要がある!」
「っ、それは……!」
ダンツには、答えられない。理事長は扇子を広げて声を上げた。
「中断ッ! 現時点では床下から刺したとは言えないが、少なくともその可能性が生まれたことは事実だ! よって本法廷は、三十分の休憩を取る!」
学園の生徒を守る立場としての、有無を言わせぬ決定事項だった。
「その間にデュランダル、昨日のフェンシングで使われるはずだった剣を確認してほしいッ!」
「畏まりました。騎士の誇りにかけて、必ずや成果を」
デュランダルが、恭しく礼をする。
「そして検察側には、床下から刃が飛び出た可能性があるか調査を依頼するッ!」
「……了解した。冷静なご判断、痛み入ります理事長代理」
ライトオも、直角九十度の礼をする。
「ダンツフレームは、ヒシミラクルから何があったのか話を聞いてあげてほしい! では、これにて一旦本法廷を中断するッ!」
傍聴していたウマ娘たちのざわめきに包まれながら、裁判は一時中断となった。
「行くぞデュランダル。こうなっては一分一秒が惜しい。パーティー会場の再調査だ」 「ええ。まさかそんな可能性があったなんて……ミラ子さんが犯人でないなら、それが一番だもの」
ライトオとデュランダルは、急いで事件現場へと向かった。被告人のヒシミラクルを思えばこその迅速な行動だった。
ダンツは、被告人席で真っ青なミラクルに話しかける。
「ミラ子先輩……あなたの無実は私が必ず証明します」
「ダンツちゃん……わたし……」
「だから、本当のことを教えてくれませんか? 笹針を持っていた本当の理由……」
できるだけ優しく、ふだんミラクルが自分に優しくしてくれる、その恩返しも込めて。
「私、ミラ子先輩のこと信じてます。ライトオちゃんもデュランダルちゃんだって……」 「うん……ごめんね……」
二人で体育館の舞台袖に下がり、ミラクルはゆっくりと話してくれた。
「あのね……わたし、テーブルの下にある懐中電灯を取ろうとしたんだ」
「懐中電灯?」
ミラクルが手にしていたのは笹針だった。懐中電灯とは初耳だ。
「もしパーティー中に停電が起こったら、ファイントレさんのテーブルの下に懐中電灯が用意してあるから、それで明かりをつけてほしいって……」
「もしかして……それが、あの笹針!?」
ミラクルは、震えながらこくりと頷いた。
「暗闇の中で取り出してみたら、スイッチがどこにもなくて……ファイントレさんに聞こうとしたら、エアグルーヴさんに突き飛ばされちゃって……なんとか拾ってみたら、電気がついて……エアグルーヴさんが、机の下で刺されてて……!」
「そんな、じゃあもしかしたら、ミラ子先輩が……!」
タイミングが悪ければ、ヒシミラクルが床下から刺されていたかもしれない。そして死んでいてもおかしくなかった。
怯えて何も言えなくなるのも当然だろう。
「ミラ子先輩……! 怖かったですよね。でももう、大丈夫です……!」
「怖かった……それに、わたしの代わりにエアグルーヴさんが刺されたんだって思ったら……犯人扱いされても、しかたないのかもって……!」
ダンツはヒシミラクルを抱きしめて、少しでも安心させようとする。
十分以上、二人で何も言わず抱きしめ合った。事件の真相も大事だが、ミラクルの心に寄り添いたかったから。
「それでね……懐中電灯……あの笹針があるって教えてくれたのが……」
「誰に言われたんですか? もしかして、その人が犯人なのかも……」
ライトオの推理でも、床下から刺した場合、被害者をテーブルの下に四つん這いにさせることでようやく刺せるとのことだった。つまり、ヒシミラクルに懐中電灯を取り出すよう指示した人物こそが限りなく怪しい。
ミラクルはゆっくり、ゆっくり深呼吸して。
その人物の名前を口にした。
「それが……ファインちゃんなんだよ」
「えっ!?」
ファインモーション。
このパーティーの主役であり、事件の時はお色直しで退席していた彼女こそが、ミラクルにテーブルの下に潜るよう指示した張本人だと告げた。
「お色直しが終わったら停電が起こるから、そこで懐中電灯で花嫁の席を照らしてほしいって……そしたら、お色直しが終わったファインちゃんが現れるはずだったんだけど……」
「そ……そんなことって!!」
実際にテーブルの下にあったのは笹針で、しかも電気がついた時もファインは現れなかった。
「話は聞かせてもらったぞ。花嫁のファインこそが、ミラ子さんにテーブルの下へ潜り込ませようとしたとはな」
「ラ、ライトオちゃん……!」
ライトオとデュランダルは、舞台袖に戻ってきていた。
時計を見ると、三十分の休憩はもう終わる頃だった。パーティー会場の調査を終え、戻ってきたのだろう。
「ファインさんが真犯人なの……!? だって彼女はエアグルーヴさんの親友で、昨日の結婚パーティーを誰よりも楽しみにしていたはずなのに……!」
デュランダルも、動揺を隠せないようだった。
花嫁が親友を刺そうとしていたなど、とても信じられないのだろう。
「その答えは法廷で見つけるしかない。調査の結果、フェンシングの剣がすり替えられていたことと、床下に作られた隙間から刃物を差し込んだ跡を発見した。少なくとも、ミラ子さんが犯人ではあり得ない」
だがライトオは、検事の娘として努めて冷静に事実を口にする。
そして、九十度の礼でミラクルに頭を下げた。
「ミラ子さん、疑って本当にすまなかった。もはや不幸な事故ということでしかあなたを守れないと思い込んでしまった。心から謝罪するし、許さなくてもいい」
「そうね……。友人であるあなたに疑いを向けたこと、心より申し訳なく思います。この事件が終わった後、どのようなお詫びでも致します」
デュランダルも、膝をついてミラクルに謝罪した。
ミラクルも、まだ青い顔のままだが、それでも彼女の優しさが答えを返さないことなど許さなかった。
「ううん、二人は悪くないよ……わたしこそ、怖くてなにも言えなくて、ごめん……」 「では気持ちを切り替えて、チームミラクルズ全員で真実を見つけることにしましょう。ケイちゃんにお願いしてエアグルーヴさんを診察してもらったところ、興味深い事実もわかった」
「切り替えが速すぎるでしょう!?」
ノータイムで謝罪から真実究明に切り替えたライトオに、デュランダルが突っ込む。
「今は一分一秒が惜しいと言ったはずだ。ファインと、お付きのSPたちを召喚する準備も完了している。行くぞみんな」
あまりにいつも通りのライトオと、真剣なダンツに。
初めて、ミラクルは小さく笑った。
「ありがとう。ダンツちゃん、ライトオちゃん、デュランダルちゃん……絶対、真実を見つけようね」
ここからが後半戦。
真犯人は誰なのか。全員で真実を追い求める勝負が始まる。
久しぶりの逆転裁判モチーフです。
逆転裁判6の追加シナリオが結婚式の事件だったのと、スーパーダンガンロンパリメイクが待ちきれない気持ちが高まったので書きました。来週後編を投稿します。