直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です 作:じゅぺっと
「おっと、よりによってドトウに見つかっちゃったか」
「そ、その屋台はファインさんの大事なものなので……」
「悪いが、こっちも引くわけにはいかなくてね。邪魔をするなら……あんたにも、眠ってもらわなきゃいけない」
バン! と衝撃音が響いた。
「ファインたちとラーメン作るの久しぶりだな。あっ、まずい、お土産忘れた。まぁこの辺のプロテインバーでいいか。あとビリーヴにもらった直せんべいも少々」
午前8時。直線最速ウマ娘カルストンライトオはファインモーションに会うために出掛けた。
理由は、ファインから届いたメールだ。
『ライトオへ トレセンラーメンの屋台を作ったんだ。みんなも呼んでるから朝8時に指定の場所まで来てくださる? ファインモーションより』
ファインモーション、ナリタトップロード、メイショウドトウ、ナイスネイチャと共に、ファンへの恩返しとしてラーメン作りに明け暮れた日々をしみじみと思い出す。
「冷静に考えて、ファンへの恩返しならレースとウイニングライブでよかろうに、ラーメンとか意味不明だな。なんであんなに必死だったんだ、あの時の私たちは」
身も蓋もない感想を浮かべながら、添付されていた屋台の場所に向かってみる。
だが、それらしきものはなにもなかった。
「ひどくこざっぱりしている。屋台どころかプレハブすらないぞ。まさかエイプリルフールだったのか?」
ライトオがあたりを見渡すが、屋台らしきものはない。
だが、ライトオを呼びつけた張本人であるファインモーションが、ラーメン作りメンバーの一人、ナイスネイチャと歩いてくるのが見えた。
「挨拶も最速です。おはよう、2人とも」
「おはよう、ライトオ! 良い朝だね♪」
「おいっすー。なにげに久しぶりじゃん?」
「ところで屋台がないのですが、どういうことですか?」
ファインは、さっきのライトオと同じようにあたりを見渡して、首をかしげた。
「……あれ? 昨晩ここに用意したのだけれど……」
「まぁ屋台だし、誰か……トプロかドトウが運んでいったんじゃない?」
「ふむ、よくみれば車輪の跡が残っているな。これを辿れば屋台にはたどり着くだろう。全速前進だ!」
ライトオがしゃがんでみると、地面にうっすらとタイヤの跡があった。
そして、クラウチングスタートの要領で思い切り走り出した。
もちろん、直進で。
「ちょいちょい、どこいくねーん! 車輪の跡はカーブしてこっち!!」
「なんだと! カーブするとは軟弱な車輪め! それでもこの私が経営するラーメン屋台か!!」
しかし、すぐにネイチャに呼び止められる。
それを見て、ファインは楽しそうに笑った。
「ふふっ、懐かしいね、この感じ。ライトオやトプロさんとは時々話す機会があるけど、ネイチャさんやドトウさんとは久しぶりだから」
「いやまぁ、私みたいなド庶民とアイルのお姫様じゃ、本来会う機会の方が奇跡っていうか?」
「ファインからすれば商店街のネイチャも宝石商のドトウもみんな庶民だろう。どんぐりの背比べだから気にすることはない」
ライトオの歯に衣着せぬ物言いに、ネイチャとファインはクスリと笑った。
「ライトオは相変わらず清々しいストレートだねぇ……」
「うん、みんな私の大切なラー友だよ♪」
3人でタイヤが移動した先に向かうと、それらしきものは見つかった。
トレセン学園の外れで、ぽつんと屋台が鎮座している。
「お、あったあった。しかし、いったい誰が運んだんだろうね?」
「誰かが屋台を引いているな。やつが犯人か」
チラリと、屋台の先頭に誰かがいるのが見えた。
ファインは、優雅に屋台を盗んだ不届きものに話しかける。
「貴様~。この屋台が余のものと知っての狼藉か~?」
しかし、その不届きものは返事をすることはなく。
また、その理由も明らかだった。
「ス……ステイゴールドさんが屋台を運んだまま気絶してる!?」
ネイチャが驚く。
ライトオはさっと現場を確認して言った。
「盗んだ屋台で走りながら気絶するとか、いくら黄金一族の主とはいえシュールすぎますね。しかも周りにはどんぶりの破片が散らばっている」
ステイゴールドは屋台を引いた姿勢のまま、前のめりに気絶していた。
しかも、彼女の周りにはラーメンを入れる器の破片が飛び散っている。
「犯行方法は推理するまでもないな。誰かがステゴの背後からラーメンのどんぶりで一撃入れて気絶させ、逃走した。実にシンプルだ」
「ど、どうしようこれ? 風紀委員に連絡する?」
ファインは、一拍深呼吸して。
ラーメン大好きウマ娘ではなく、高貴な生まれの、民を導くものとして発言した。
「そうだね、連絡はしましょう。けど、何故こんなことになったかは私が解決しないと。この屋台の責任者は私なのだから」
「さすが王女から大使にジョブチェンジしても、ファインは格が違った。最速で解決したらメノに連絡しよう」
「ありがとう存じます。ライトオ、ネイチャさん。力を貸してくださる?」
「いやまぁ……協力はするけど、あたしにできることなんて……」
ネイチャが尻込みしていると、3人の近くをとても小さなウマ娘がランニングで通りすがろうとして。
ネイチャとステゴを見て、ぴたりと足を止めた。
「ネイチャ先輩! おはようございます!」
「あ、おいっすメロちゃん。自主トレ中?」
「ずいぶん小さいポニーちゃんだな。ネイチャの娘か?」
「なわけあるかい。チームカノープスの後輩よ」
そのウマ娘はステイゴールドよりも更に小さかった。トレセン学園の指定ジャージを着ていなければ、小学生にしか見えない。
「チームカノープスのメロです! ところで、ステゴさんどうしたんですか? さっき通りかかったときはドトウさんと揉めてましたけど」
「なに、ステゴがドトウと揉めていただと?」
メイショウドトウ。ラーメン作りの日々を過ごしたメンバーの一人で、ステゴとは公式レースでも何度も対決した仲だ。
「メロ、なにがあったか教えてくれる?」
「了解です! ネイチャ先輩のお願いとあらば!」
「ネイチャさん、さすがの人徳だね♪」
渡りに船とはまさにこのこと。小さな小さなウマ娘は、自分の見たものを証言し始めた。
「ランニング中に、屋台を引いているステゴ先輩と、その正面に立って止めようとしてるドトウ先輩を見かけたんです。
お邪魔すると悪いかと思ってそのまま通りすぎたんですけど……揉める声が聞こえてきて」
そこでメロは瞳を閉じて、自分の聞いた声を五線譜の楽譜をなぞるように声に出した。
『ス、ステイゴールドさん!? なんで私たちの屋台を……』
『おっと、よりによってドトウに見つかっちゃったか』
『そ、その屋台は私たちの大事なものなので……』
『悪いが、こっちも引くわけにはいかなくてね。邪魔をするなら……あんたにも、眠ってもらわなきゃいけない』
『ドン!!』
そこでメロは、これで終わりと示すように目を開けた。
「……というわけなんです。だから、きっとドトウさんが正面からステゴさんをノックアウトし」
「異議あり!!」
「わっ!?」
ライトオが、最速で異議を唱えた。驚くメロ。
ライトオは一度メロに丁寧に一礼した。
「まずはありがとう。メロのおかげで犯人がわかった。だが、それはドトウではない」
「今の話を聞く限り、ドトウさんがやったようにしか聞こえないけど、どうしてかな?」
ファインがライトオから意見を聞き出そうとする。
ライトオは人差し指を真っ直ぐ、屋台を引いた姿のまま気絶したステゴに突きつけた。
「ステゴは、どう見ても背後から殴られている。ドトウが正面に立って攻撃したら、後ろに倒れ込んでいるはずだ」
「確かにその通りだね」
「でも、それなら誰がステゴさんを?」
ネイチャの質問にライトオは答えた。
「私はラーメン作りをする前は、ドトウのことを弱虫でドジで暗くて語尾がへにゃへにゃなウマ娘だと思っていた」
「うん?」
話が飛んで首をかしげるネイチャ。ライトオはお構いなしに続ける。
「だが、彼女は仲間想いの聡明なウマ娘だ。彼女が気絶したステゴさんを放置して行ったとしたら、そうせざるを得ない理由があったことになる」
「そうだよね、メロさんが屋台を盗んだステゴさんと、それを止めようとするドトウさんを見ていたのは事実だもの」
「その通り。そしてドトウがステゴを放置せざるを得ない相手、そしてラーメン作りのメンバーでありながらここまで顔を見せていないウマ娘こそが犯人だ」
ファイン、ライトオ、ネイチャにドトウ。
そして、最後の一人であるみんなのまとめ役は━━
「ナリタトップロード。彼女が屋台の裏側からステゴをどんぶりで殴ったのだろう」
「いやいや! そりゃドトウはいい子だけど、トップロードだって相当でしょ。あの子がステゴさん殴る?」
「おそらく、そうするしかなかったのだ。メロの聞いた言葉が確かならな」
2人の言葉を聞いていたメロがハッとした。目を閉じ、問題の言葉を復唱する。
「『邪魔をするなら……あんたにも、眠ってもらわなきゃいけない』ステゴさんはドトウさんにそう言ってました!」
「その通り。あんたにも、という言葉からして、ステゴはまずトプロを気絶させた。そして気絶したトプロを屋台の中に入れて運び出したところをドトウにまで見つかり、そこで目を覚ましたトプロはドトウを守るために咄嗟にステゴをどんぶりで殴ったのだろう」
そこでライトオはスマホを取り出してドトウに連絡した。
ライトオは着信が繋がった瞬間、最高速で捲し立てる。
「ドトウ、トップロードさんを器物損壊罪で訴えます。理由はもちろんお分かりですね。彼女があなたを守るためステゴさんを殴り、どんぶりを破壊したからです。今すぐトップロードさんを問答無用で連れてきて下さい」
「ふええ……」
全てお見通しのライトオに、ドトウも反論できないようだった。
「そ、そのぉ……保健室に、来ていただけますか? 実は……トップロードさんが……」
「うむ、余程のことがあったのだろう。でなければ、ドトウがステゴさんを放置するはずがない」
「まー、どのみち気絶してるステゴさんも保健室に連れていかないとですし、一石二鳥ですな」
「あ、私ステゴさんをお運びします!」
メロがステゴを俵のように担いで保健室へと歩いていく。小さな体で、なかなか度胸が据わっているようだ。
そうしてライトオたちは保健室へ向かう。
すると、すぐにトップロード本人が出迎えてくれた。
「ごきげんよう、トップロードさん。お加減はいかが?」
「おはようございます! ネイチャさんにファインさんにライトオちゃん! 珍しい組み合わせですね!」
「なに?」
「まー普段はなかなか集まりませんわな」
ネイチャは肩を竦めたが、いまのトプロの発言は明らかにおかしい。ファインとライトオは顔を見合わせる。
「ドトウ、どういうことだ」
「じ、実は……トップロードさん、記憶をなくされてて……」
「記憶を? ステゴを背後から殴ったのを忘れているということか」
「それだけじゃなくて……そのぉ……」
ドトウは言いにくそうだ。しかしその答えはトップロード本人からやってきた。
「ところで、どういう集まりなんですか? フットサルなら一緒に参加しますよ!」
「ま、まさか……!」
「トップロードさん……私たちとラーメン作ったこと自体、すっかり忘れちゃってるんです……」
「な、なんだとっ!?」
ライトオの叫びが保健室に響いた。
「ラーメン作りの日々を……あの湯気と涙と小麦粉と、ファンへの恩返しと称して始まった一連の奇行を!?」
「奇行って言い切っちゃったよこの子」
「けれど、私たちにとっては大切な思い出だよ」
ファインは静かに言った。
いつもの柔らかな微笑みは浮かべている。けれど、その瞳はほんの少しだけ寂しそうだった。
「トップロードさん。本当に、覚えていないの?」
「ファンへの恩返しで……ラーメン? 何言ってるんですか?」
「思い出せトップロード。ラーメンってレースなんだ! とか意味不明なことを言っていた時のお前は、もっと輝いていたぞ!」
「ラーメンがレースなわけないじゃないですか!? いくらライトオちゃんでも、あんまり脈絡のないことを言うと怒りますよ!」
困惑しているトプロ。
「うぅ……トプロさん……」
「ドトウ、泣くな。記憶とは直線だ。一度途切れても、ゴールまで走り直せばいい」
「いや、その例えで合ってんの?」
ネイチャが半眼で突っ込む。
その横で、保健室のベッドに寝かされたステイゴールドが、うっすらと目を開けた。
「……あー、いてて。なんだいここは。保健室か?」
「ステゴさん! 目が覚めたんですね!」
「おお、メロじゃないか。相変わらず小さくてかわいいなぁ」
ステイゴールドはメロの頭を優しく撫でる。その様はまるで孫娘を甘やかす好々爺のようだった。
しかし、その表情は同じ保健室にいるライトオやファイン、ネイチャを見て歪んだ。
「ん? なんでお前らが……げっ。ファインまでいるじゃないか」
ステイゴールドはバツが悪そうに視線を逸らした。
ファインはにこりと笑った。
「ごきげんよう、ステイゴールドさん」
「……ごきげんよう、お姫様」
「余の屋台を無断で運び出した理由、聞かせてもらえるかな?」
「王女の圧がすごい」
ネイチャが小声で呟いた。
ステイゴールドはしばらく天井を見つめた後、観念したように息を吐いた。
「海外からちょっと変わった食材を持って帰ってきてな。オルフェ達に食わせるために屋台をちょっと借りようと思ったら、トップロードと鉢合わせたんだ」
「えっ、私がですか!?」
トプロが自分を指さして驚いた。
「屋台を貸してくれって頼んだら、今からファインたちと約束があるって断られたんだが……いやぁ、久しぶりにトップロードと勝負したくなってな。つい熱くなっちまった」
ステゴは、自分の腰に差したモデルガンのようなものを見せた。
そして、ライトオはそれに見覚えがあった。
「タキオン製の記憶を消す銃。メノが押収したもの以外にもまだあったのか! おのれタキオン!」
以前、アグネスタキオンの作った記憶を消す銃で起こった事件を思い出す。あの時もかなりややこしくなった。
「で、トップロードを気絶させたはいいが、誰かに見られるとまずい。とりあえず屋台の中に詰め込んで屋台を引き始めたら……」
「ドトウに見つかって、あとはメロが聞いた通りの展開になったってわけね……」
ネイチャが納得する。
「そして中で目覚めたトップロードさんは、ドトウを守ろうとして咄嗟にどんぶりであなたを殴った」
「らしいね。アタシは後ろからバン、でそこから覚えてない」
「す、すみませんステイゴールドさん! 全然覚えてないですけど、本当にすみません!」
「覚えてない謝罪ってなんか新しいね」
ネイチャが肩をすくめる。
ファインはしばらく考え込んでいた。
そして、顔を上げる。
「分かったよ」
「なにがだ、ファイン」
「トップロードさんの記憶を取り戻す方法」
その場にいる全員の視線が、ファインに集まった。
「記憶というものは、頭だけに残るものではないと思うんだ。香り、音、温度、味。そういうものが、心の奥に眠っている思い出を呼び起こしてくれることがある」
「なるほど。つまり」
ライトオは深く頷いた。
「ラーメンだな」
「うん。ラーメンだよ♪」
「いや、結論が早い」
ネイチャの突っ込みもむなしく、ファインはすでに保健室の扉へと向かっていた。
「行こう。私たちの屋台へ」
トレセン学園の外れに戻ると、屋台は相変わらずぽつんと鎮座していた。
ただし、先ほどと違い、そこに漂う空気はどこか神聖だった。
ファインモーションが屋台の前に立つ。
その姿はラーメン屋台の店主というより、戴冠式に臨む王族のようだった。
「これより、余自ら麺を茹でる」
「急に余に戻った」
「王女モードとラーメンモードが混線しているな」
「ファインさん、がんばってください……!」
ドトウが胸の前で手を握る。
トプロはきょとんとした顔で屋台を見ていた。
「うーん……懐かしいような、そうでもないような……」
「トップロードさん。無理に思い出そうとしなくていいよ」
ファインは優しく言った。
「ただ、食べてみて」
屋台の内側に入り、ファインは手際よく準備を始めた。
鍋に水を張る。火を入れる。スープを温める。麺をほぐす。
湯が沸き始める音が、朝の空気に小さく弾けた。
「懐かしいねぇ。この音」
「はい……ファインさんがスープを見て、トップロードさんが麺の硬さを確認して、ネイチャさんが会計の心配をして……」
「いや実際、かなり心配してたからね? 材料費とか衛生管理とか」
「私は湯切りを任された。理由は当然、最速だからだ」
「あの時はライトオさんの湯切りが速すぎて、麺が一瞬消えたように見えましたぁ……」
「だが光速には至らなかった。無念だ」
「至らなくていいんだよ」
やがて、湯が完全に沸いた。
ファインは麺を投入する。
白い湯気がふわりと立ち上がった。
その瞬間、トプロの耳がぴくりと動いた。
「……あれ」
「トップロードさん?」
「この匂い……」
ファインは麺の茹で加減を見極めると、ライトオに視線を向けた。
「ライトオ!」
「心得た」
ライトオは湯切りざるを受け取った。
そして、構える。
「麺の湯切りも、最速です」
次の瞬間。
シャッ、と空気が鳴った。
湯切りざるが真っ直ぐ振り抜かれ、余分な湯だけが見事に落ちる。麺は一筋も乱れず、まるでゴール板へ向かうスプリンターのように丼へと収まった。
「相変わらず理屈の分からない湯切りだねぇ」
「直線的な動きはすべてを解決する」
「しないよ?」
ファインはそこに黄金色のスープを注いだ。
香味油がきらりと光る。
チャーシュー、メンマ、ねぎ、そしてライトオがお土産に持参した直せんべいが、なぜか当然のように添えられた。
「お煎餅入れた!?」
「お土産なので」
「まあ、これはこれでアリかもしれないね」
ファインは最後に、小さく微笑んだ。
「完成だよ。私たちのトレセンラーメン」
丼がトプロの前に置かれる。
湯気がのぼる。
トプロは箸を手に取った。
「いただきます!」
いつものように元気よく言って、麺をすする。
その瞬間だった。
「――あ」
トプロの瞳が、大きく開いた。
箸を持つ手が止まる。
湯気の向こうで、彼女の表情が少しずつ変わっていく。
「この味……」
静かな声だった。
「最初は、ぜんぜん上手くいかなかったんです。麺は伸びちゃうし、スープは薄いし、ライトオちゃんは湯切りだけ異様に速いし」
「異様とは失敬な。必要十分に速かった」
「ネイチャさんは『これほんとにファンに出して大丈夫?』って、ずっと胃を痛めてて」
「だって大丈夫じゃなかったじゃん、最初」
「ドトウさんは丼を運ぶたびに転びそうになってて、でも絶対に投げ出さなくって」
「ふええ……思い出してくださったんですかぁ……?」
トプロの目に、じわりと涙が浮かんだ。
「ファインさんは、何度失敗しても笑ってくれて。『もう一度作ろう』って、何度も言ってくれて……」
ファインは何も言わなかった。
ただ、嬉しそうに微笑んでいた。
「思い出しました」
トプロは丼を両手で包み込むように持った。
「私たち、ラーメンを作ったんです。ファンの皆さんに、ありがとうを届けたくて。走ることや歌うことだけじゃなくて、温かい一杯でも気持ちを伝えられるんじゃないかって」
「トップロードさん……!」
「はい。全部、思い出しました!」
ドトウが涙ぐみ、ネイチャがほっと息を吐く。
ライトオは腕を組み、大きく頷いた。
「事件解決だな」
「うん。よかった……本当に」
ファインが胸に手を当てた、その時。
ドドドド、と遠くから力強い猛ダッシュの音が聞こえてきた。
「ステイゴールドさん!! 久しぶりに帰ってきたかと思えば盗難及び暴行を働くとは……犯罪! 緊急タイホであ゛り゛ま゛す゛!!」
ステゴファミリーの一角、風紀委員にしてリードホース見習いのフェノーメノがやってきた。
いつも通り、変わらない剣幕にステゴは苦笑している。
「オーケー。今回のことは完全に私に落ち度がある。逮捕でも指導でもなんでも受けるよ」
「待ってください! フェノーメノさん。ステイゴールドさんを許してあげてくれませんか?」
しかし、事実上の被害者であるトップロードが待ったをかけた。
メノは、トップロードに向き直って答えた。
「よろしいのですか? ライトオ検事から、銃で無理やり気絶させられたと聞いておりますが」
「はい! 私も咄嗟のこととはいえ、どんぶりで殴っちゃいましたし……それに、許したいと思うのは、許されたいからでもあります」
「と、言いますと?」
メノの問いに、トップロードはゆっくり言葉を選んで答える。ライトオやファインたちも、今回の事件の顛末を見守っていた。
「ステイゴールドさんと久しぶりに向き合って……私も、公式レースの時みたいに、ラーメン作りに熱中してた時みたいに熱くなっちゃったんです」
「ステゴさんはラーメン作りのメンバーではなかったが、何かと地方でよく会ったからな」
ラーメンのため、地方レース場や各地のラーメンの視察に向かった。それが恩返しとして適当かどうかはともかく、無邪気に熱中していたのは事実だ。
「私たちがただ自由でいられたあの頃は遠くて。今はもう、みんな無邪気な笑顔だけじゃ過ごせませんけど」
アイルランド大使のファイン、トレセンで起こった事件の検察官をしているライトオをはじめ、トップロードにもドトウにもネイチャにもそれぞれの立場がある。
集まるのも久しぶりだし、もうあんな遠回りな恩返しはできないだろう。
「それでも、こうして久しぶりに集まって……ラーメンに向き合っているときは、懐かしい気持ちになれるんです」
「……うん、絶対そうだよ」
ラーメン作りの発案者であるファインが、胸に手を当てて言った。
「……きっと皺だらけになっても、ラーメンを食べているときはただの少女に戻れるわ」
ファインとトップロードの言葉に、メノも心を打たれたようで。用意していた手錠を収めた。
「わかりました。この件は不起訴とします。ライトオ検事、それで構いませんね」
「当然だ。どうせならメノもラーメンを食べていけ。そもそもステゴさんはあなたたちファミリーに海外の食材をふるまうために屋台を盗もうとした。どうせならオルフェとかジャーニーさんも呼ぶといい」
「ああ、せっかくだから作るか。テンペラーメンとアフリカンラーメン」
ステゴも乗り気になったようで、勝手に厨房に入り始める。
小さなウマ娘メロも元気よく手を挙げて発言した。
「妹も呼んでいいですか!? ステゴさんにオルフェ様と一緒にラーメンが食べられるなんて、幸せ……」
「しゃーない。メロもこう言ってるし、いっちょ久しぶりに開店しますか」
「は、はいぃ~。実は、オペラオーさんにアヤベさん、それからタイキさんも呼んでて……」
どうやら久しぶりの開店は、いきなり千客万来になりそうだった。ライトオはそれを確信しながら、自信満々に言った。
「何人でも何杯でもまとめてかかってくるがいい。カルストンライトオ──麺の湯切りも、最速です」
ラーメンシナリオ、全体的にそうかな……そうかも……と思いながら読んでましたが、最後のオチはきれいにまとまったので割と好きです。あと結局原作と公式のライトオが最強なんだ。キャラソンも最速。
次回の更新は未定ですが、明日から魔法少女の魔女裁判を遊ぶので何か思いついたら書くかもしれません。もしくはタイホくんことタイトルホルダーがアプリ内に出てきてキャラクターがつかめたら彼女がメインの話を書くと思います。