直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です   作:じゅぺっと

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覗きなんて騎士として最低だわ (後編)

「デュランダル……覗いていたのは、君だったのか? 湯煙がすごくて、わからなかった」

 

 ある昼下がり、トレーナー寮の浴場でデュランダルのトレーナーの悲鳴が上がった。

 カルストンライトオが最高速で駆けつけ、騒ぎを聞きつけたシリウスシンボリの協力のもと調査の結果デュランダルが自ら覗きを認める発言をした。

 今は浴場から服を着てやってきたデュラトレと、担当を同じくするカレンチャンやドリームジャーニーがデュランダルの処遇をどうするかで騒いでいる。

 

「お兄ちゃん、デュランダルさんを許してあげて? 悪気はなかったの、カレンが保証するよ」

「どこぞのウマの骨ならともかく、いつもトレーナーさんを支えてくださるデュランダルさんです……赦しを与えるのも、王の務めではありませんか?」

 

 カレンもジャーニーも許す方向に持っていこうとしているし、デュラトレもウマ娘に対して相当器の広い方だ。

 放っておいても、大した罰は与えられないだろう。

 

「けど私は……我が王を辱めてこんな騒ぎを……」

 

 しかし、それではデュランダル自身の気が済まないことをライトオは長い付き合いで知っていた。

 やはり、ハレンチな目的で覗いたという誤解は解く必要がある。

 

「待って欲しい、デュランダルとは3年以上過ごしてきたが今まで浴場どころか寝室に入り込むことすらしていなかった。ハレンチな覗きに走る度胸があるとは思えない」

 

 そして、ライトオには覗きの理由にも心当たりがあった。

 

「デュランダルのトレーナー、略してデュラトレは、石鹸で足を滑らせて尻もちをついたそうだ。それで上を見上げた時に誰かが覗いているのに気がついたとな。

 デュランダルは転んだ音を聞きつけたのではないか?」

「ああ、どこかの検事さんもトレーナーの悲鳴を聞きつけて覗き込んでたしな。ウマ娘の聴覚ならわけもねぇ。どうなんだ? 騎士さん」

 

 一緒に調査をしていたシリウスシンボリも同意する。

 

「それは……はい、確かにトレーナー殿が滑って転ぶ音を聞いて……思わず駆けつけようとしたのです」

「やはりデュランダルにハレンチな覗きをする度胸などなかった。これは不可抗力と言えるのではないか?」

「少なくとも悪意ある行動とは言えねぇだろうな。検事さんと一緒にペナルティの反省文一枚でも提出すれば済むだろ」

「解せぬ。なぜ私まで」

「覗きこんでるお前を見つけたのが私じゃなかったら今頃指導室だからな? 感謝しろよ」

 

 浴場にデュラトレ一人で入っていた。もし風呂場で転んで気絶でもしたら命に関わる可能性は0ではない。覗き込んで確認してもハレンチな行いとは言えないだろう。

 

「いえ……わかっていました。我が王に怪我はないことは。それでも私は……胸の内の誘惑に負けてしまったのです」

「さっきも言っていたな。もう少し具体的に頼む」

「トレーナー殿の転ぶ音を聞き、慌てて壁際まで駆けつけました……だけど声が聞こえて、安心した時。私の胸の奥から声がしたのです。

『もしかしたらトレーナーさんどこかケガをしちゃったかも……』

『無事だったとしてもトレーナーさんなら許してくださいますよ』

 きっとあれは私の心の弱さが生んだ欲望……自分が情けないです」

 

 胸の奥から声が聞こえたらしい。デュランダルは自分の欲望が生み出したものだと思っているようだ。

 そこもライトオには疑問があったので、デュラトレ相手に話していた2人に話を振った。

 

「カレン、ジャーニーさん。今の話を聞いてどう思う?」

「カ、カレンもデュランダルさんを信じたいですけど……本人がそう言うなら、他にないんじゃないでしょうか?」

「私たちがいつも安心してトレーナーさんのご指導を頂けるのも彼女の献身あってこそ。たまの過ちを許せないほど狭量ではありませんよ」

「へえ……どんな荒くれたウマ娘も会話だけで黙らせるお2人も身内には随分甘いんだな?」

 

 シリウスも2人の態度に違和感を覚えたようだ。

 しかし、デュランダルが涙を拭い、2人の前に立って言った。それはまさに仲間を守ろうとする騎士の姿だった。

 

「ライトオさん……ありがとう。心配してくれてるのよね。でも、悪いのは私1人。だってトレーナーさんの警護をしていたのは私だけで他に誰もいなかったのだから。他の2人には何の関係も」

「異議あり!!」

「だから人の話を遮るのはやめなさいといつも言っているでしょう!? 真面目に話してちょうだい!」

 

 しかし、その発言をライトオは迷わず割り込んだ。思わず素に戻ってツッコむデュランダル。

 

「私は至極真面目だ。今の発言は真実ではないということを証明してやる」

「ど、どういうこと……?」

「というわけでデュランダル。今着ている制服を脱げ」

「脱げ!? そ、それは……」

 

 デュランダルが後ろを見る。話の成り行きを見守っているデュラトレを見てまた顔を赤らめた。

 

「さっきどんな罰も辱めでも受けると言っていたはずだが?」

「そうね……トレーナー殿を辱めた私は、裸でトレセンを引き回されるのがお似合いだわ……」

「怖っ。変態ですかアナタ。いいからさっさと上着をよこしてください」

「上だけでいいならそう言いなさい!? 仮に変態だとしても変態という名の騎士よ私は!」

「……お前ら毎日こんな会話してんのか?」

 

 シリウスがやれやれとため息をつく。

 ライトオ独自のテンションに少しずつ平常心を取り戻しつつあるデュランダルは言われた通り制服の上を脱いで渡した。

 すっかり冬になった今シャツだけで寒そうにしているが、すかさずカレンチャンが抱きついて温めたりジャーニーがカイロを渡している。

 

「で? なんでまた追い剥ぎじみた真似をしたんだ、検事さんよ」

「デュランダルはさっきから胸の内の声に負けたと言っています。しかし、その声がもしデュランダルのものではなかったとしたら……」

 

 ライトオが制服をまさぐる。ポケットの中、裏地の中。そして……制服のリボンの裏側に、何か黒い粒のようなもの2つ見つけた。

 

「やはり……デュランダル、これがお前の聞いた声の正体だ」

「これは……盗聴器の類か?」

「父さんも仕事でよくお世話になるそうです。ターゲットに仕込むことで音声を聞いたり……あるいは、ターゲットに声を聞かせることもできる。制服リボンの裏側につければ、まさに胸の奥から声が聞こえたように感じるだろう」

「そ、そんな……まさか!?」

 

 ライトオは確信を持って、頭を指でトントンと叩く。そして思い切りその指をデュランダルに突きつけた。

 

「デュランダルはハレンチな気持ちで覗きをしたのではなく、このイヤホンの声に誘導された結果デュラトレの安否を確かめるために覗き込んだ。それがこの事件の真実だ!!」

「な……なんですってぇええくしゅん!!」

 

 デュランダルが驚きとともに思い切りクシャミをした。ライトオももう上着に用はないので返してあげたが、冷えた体はすぐに温まらない。

 その時この事件の被害者であるデュラトレが、彼女に優しく自分の上着をかけた。

 

「デュランダル……やはり君は最高の騎士だ。いつも本当に感謝してる。……だから、もう自分を責めないでくれ。君は俺を守ろうとしてくれたんだな」

「我が王……! なんと勿体ないお言葉でしょうか……!」

 

 トレーナーと担当ウマ娘の感動的な和解をよそに、シリウスが件の盗聴器を指で摘みながら訝しんでいた。

 

「しかし、あの騎士さんに盗聴器をつけて覗きに誘導するなんてこれの持ち主は何がしたかったのかね」

「気になるなら直接聞いてみたほうが早い。

 ━━ジャーニーさん。何故です?」

 

 デュランダルとトレーナーの抱擁を見ていたドリームジャーニーに聞く。彼女は一緒にいるカレンチャンに何か目配せしたあと一歩前に出た。

 

「はて、何のことでしょう。デュランダルさんに盗聴器が仕掛けられていたとは驚きですが……私のものだという証拠でもありましたか?」

「証拠はない。だがデュランダルの制服に頻繁に触る機会がある人物は限られる。同室である私と、同じチームのウマ娘。そしてデュランダルの服に盗聴器なんて仕込みそうなのは、ジャーニーさんしかいないと思う」

「おやおや……これは手厳しい。私はなんだと思われているのでしょう」

「それと、ジャーニーさんはここに来た時妙に顔を赤らめていたな。あれはデュランダルが覗いたあと、羞恥に悶えているのを知っていたからではないか?」

「ジャーニーがそんな女子高生みたいな恥ずかしがり方するタマかねぇ……」

「お2人とも私が何を言われても傷つかないと思っていませんか?」

 

 ジャーニーの目が鋭くなる。その気迫にさすがのライトオもほんの少しビビった。まるで獲物を狙う黒豹のようだ。

 

「とはいえ豹の最高速度は時速60km。なかなか速いが最高速の私が怯む相手ではない、うん」

「どうした急に。……まぁ、証拠がないなら話はここまでだな。そもそも担当契約しているウマ娘とトレーナー同士のいざこざだ。多少のヤンチャはお咎めなしさ。そうだよな、子犬ちゃん?」

 

 シリウスが自分のトレーナーを指さす。要は今回の件は大ごとにするなということなのだろう。シリウスのトレーナーも察して頷いた。

 

「ライトオさん……今日は私のせいで騒ぎに巻き込んでしまってごめんなさい。それにありがとう。あなたが真実を教えてくれなければ私は自分の欲望に負けたハレンチな騎士として罰を受けなければ気が済まなかったでしょう」

「君が覗き込んできたときは思わず悲鳴をあげてしまったが、デュランダルが汚名を着ずにすんでよかった……ありがとう!」

 

 デュランダルとデュラトレがライトオにお礼を言ってくる。

 ライトオはやれやれと肩を竦めて笑った。

 

「ふっ、アナタたちはやはりそうして一直線に並んでいるのがよく似合う。さすが一生を共にした騎士と王だな」

「まだ一生は共にしてません! 時間の感覚どうなってるのよ!?」

「毎年自分の墓にトレーナーを偲ばせてる奴に言われたくな……い……」

 

 ライトオの体は最高速だがスタミナは少ない。それは頭も例外ではなく事件を解決すると電池が切れたように眠ってしまう。

 倒れそうになったライトオを、デュランダルが受け止めた。

 こうして、デュラトレの覗き事件は平和的に幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

「目を覚ますと自分の部屋だった。さすが私、今回も事件を最高速で解決できたな。父さんに褒めてもらおう」

 

 その夕暮れ、寮室で目を覚ましたライトオがスマホを確認すると一件の留守番電話が記録されていた。しかも非通知だった。

 再生すると、ボイスチェンジャーを通した声が聞こえてくる。

 

【……今日は事件解決、ありがとうございます。アナタのおかげで、私のファミリーは誰も傷つかずに済みました。

 ……聞けば近頃、検事としていくつかの事件を解決されたそうですね。

 ……私は私の家族を傷つけるモノを最もニクんでおります。どうにも、最近はトレセン内で不審な事件が多い。カレンさんにも確認しましたが、2つ目の盗聴器など全く心当たりがありませんでした。

 ……またアナタの力を頼らせていただくことがあるかもしれません】

 

 録音はこれだけだった。誰の声かわからないがライトオは素直に思った事を言った。

 

「何故こんな遠回りをするのでしょう。直接はっきり言えばいいのに。そんなことより明日のためのご飯だ」

 

 このメッセージも誰が送ったか確認できない様になっているのだろう。嘆息して、夕ご飯を食べに行くライトオだった。

 

 

 

 




ギャグ漫画日和の新アニメ化楽しみにしてます。
次の更新はいつになるか不明ですが助手枠にダスカかキタちゃんを出したいです。
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