直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です 作:じゅぺっと
直線最高速ウマ娘、カルストンライトオはキタサンブラックの叫び声を聞き大豊食祭の野菜倉庫に駆けつけた。
にんじんが毎日1本ずつ彼女の目の前で盗まれて、追いかけても逃げられてしまうらしい。
キタサンから聞いた情報を一直線につなげた結果、犯人はキタサンと親しい間柄でかつ野菜倉庫の鍵を開けられるウマ娘であるとライトオは推理した。
「キタさん……僕とヴィブロスを疑ってるの? 僕がキタさんから逃げ切るなんてムリだし、ヴィブロスだってまだ本格化はしてない。僕らがにんじんを盗めるはずないよね?」
「も、もちろんだよシュヴァルちゃん!」
その時、犯人候補のシュヴァルグランがやってきてキタサンを問い詰める姿にライトオは違和感を覚えた。
「待った! シュヴァルはさっき自分がキタサンから逃げ切るなんてムリと言っていたが……何故、キタサンの目の前で盗みが行われたことを知っている?」
「えっ!? そ、それは、そのぅ……」
ライトオが容赦なく待ったをかけると、シュヴァルはしどろもどろになる。
「さっき、ヴィブロスの名前を出したタイミングで実にちょうどよく現れたな。お前がにんじんを持ってキタサンを振り切ったあと、外から様子をうかがっていたのではないだろうか? そして妹が疑われていると知り、慌てて飛び出してきたように見えたのだが」
「ち、違う……そんなたいそれた事、僕にできるわけ、ないです……」
カルストンライトオは言葉の勢いも速く鋭い。気弱なシュヴァルグランは問い詰められていきなり涙目になっている。
犯人候補である手前、キタサンブラックもどうしていいかわからずオロオロしていると野菜倉庫の中に更にウマ娘がやってきた。
「シュヴァちにイジワルしないで!」
「ライトオ先輩、シュヴァルやキタサンと何かあったのでしょうか?」
「ヴィブロスちゃん! ドゥラちゃんも!」
シュヴァルの妹でありにんにく畑を管理しているヴィブロスに、キタサンとにんじん畑を管理しているドゥラメンテがやってきた。
これで、ライトオが犯人候補として睨んだ全員が揃ったことになる。
「カモがニンジン背負ってやってきたとは正にこのこと。2人とも最近毎日1本ずつにんじんが盗まれていることを知っているか?」
「知らないし、シュヴァちはそんなことしないもん!」
「1本ずつ……盗まれた? 本当か、キタサン」
「うん……ごめんね、ドゥラちゃん。わたし、言い出せなくて……」
ヴィブロスはシュヴァルに抱きつきながら姉を庇っている。
ドゥラメンテは話を聞いてしばらく考え込んだあと、おもむろにキタサンに頭を下げた。
「ど、どうしたの、ドゥラちゃん!」
「本当にすまない。この事件の犯人は私だ。私がここ1週間毎日1本ずつにんじんを持って倉庫から走っていた。ライトオ先輩にも、シュヴァルにも迷惑をかけてしまった」
「ええっ!? な、なんでドゥラちゃんがそんなことを!?」
自ら犯行を自白するドゥラメンテに驚くキタサン。ドゥラメンテもにんじん畑を耕す立場であり、また非常にストイックな性格で盗みを働くようなウマ娘ではない。
「……ファン感謝祭。そこで私はリレーに出るつもりだ。そのために練習をしようと思った」
「うん?」
ドゥラメンテが至極真面目な顔で説明をし始めるが、いきなりファン感謝祭に話が飛んでピンとこないキタサン。
しかしライトオは最高速でドゥラメンテの犯行理由を理解した。
「なるほどな。確かににんじん一本を手に持って走ればリレーバトンを持ちながら走る練習になる。終わったあとは自分で食べてしまえばいい。にんじん畑を管理するお前が毎日一本にんじんを食べていても敢えて咎めるヤツもいないだろう」
「な……なるほど……?」
「しかし1つだけギモンがある。なぜ事前にキタサンに話さなかったのだろうか? 2人で畑仕事やトレーニングをしているときは仲良く見えたが」
キタサンブラックとドゥラメンテのスピードトレーニングはデビュー前の中等部とは思えないほど張り切っていて激しい。だがお互いの走りへの信頼感はライトオ含めトレセン中が知っている。
ライトオの質問に対しドゥラメンテは、ちらりとシュヴァルの方を見た。ライトオの勢いに怯え震えるシュヴァルの姿を見て、そっと目を閉じる。
「ライトオ先輩の言う通り……きちんと私の口からキタサンに連絡するべきだった。そのせいで、キタサンにもシュヴァルにも余計な心労を与えてしまった。私にできる贖罪なら何でもする」
「そ、そんなのいいよ! でも、ドゥラちゃんだったんだ……追いつけなかったの、悔しいなぁ……」
「誰が相手でも最強は譲らない。しかし……君に本気で追いかけられると、走りに身が入る。いつの間にか、それを楽しんでいてしまったのかもしれない」
「ドゥラメンテさんが犯人……というか、自分で育てたにんじんを食べてたんだね! じゃあこれにて一件落着〜♪ 誤解が解けてよかったね、シュヴァち!」
「う、うん……そうだね」
元より仲良しグループの4人なのもあって、ドゥラメンテがしっかり謝罪して一件落着。
しかし、ライトオは直感的に叫んでいた。
「待った! ドゥラメンテ、最後に一つ証言してほしい」
「何でしょうか」
「君は自分の意志で、キタサンに黙って毎日にんじんを一本ずつ持ち出したのだろうか?」
「ライトオさん! ドゥラちゃんに悪気はなかったんですしもういいじゃありませんか!」
「そ、そうですよ……」
「……いや。自分の過ちを曖昧にするのは良くない。けじめとして証言しよう」
ドゥラメンテは深呼吸し、今回の事件を経緯を証言する。
「私はファン感謝祭のリレーのため、にんじんをバトン代わりにするトレーニングを考えた。
1日1本なら誰も困らないし、キタサンに本気で追いかけられるのも良いトレーニングだと思っていた。
泥棒と勘違いさせてしまったこと。キタサンにも、巻き込まれたシュヴァルにも申し訳なく思う。
全て、私が1人で考えてやっ」
「異議あり!!」
「たこと。私から言いたいことは以上だ」
「ドゥラメンテさんすご~い。ライトオさんが遮ったのに全部言い切っちゃった」
さすがは最強を志す純アスリートなウマ娘。ライトオの異議も御構い無しに己の言うべきことを言い切った。
「フッ、さすがウチのデュランダルと同じく聖剣の名を持つウマ娘。仲間を庇う心意気は大したものだ」
「あの……今のドゥラさんの言葉におかしいところなんてないですよね……?」
シュヴァルがオドオドしながらもライトオの言葉を否定する。
しかし、ライトオは人差し指をピンと伸ばして指を振った。
「ドゥラメンテはリレーの練習としてキタサンに追いかけられていた。キタサンはドロボーだと勘違いして追いかけていた。まずそれがおかしい。
キタサンは、追いかけながら大声でにんじんドロボーと叫んでいたというのに」
「そうだ……! ドゥラちゃん、走って逃げる時に聞こえてなかったの?」
「……そんな、ことは」
ドゥラメンテの顔に、焦りのようなものが浮かんだ。素直に自分の仕業と認めた時と違って、明らかに目線が泳いでいる。
「……走るのに夢中で、気づかなかったんじゃないですか? ドゥラさん、集中力もすごいから」
「シュヴァち、冴えてる〜きっとそうだよ! ドゥラメンテさん、ガチだもんね!」
「シュヴァル……?」
シュヴァルの助け舟に、ヴィブロスはすぐさま同意したが、ドゥラメンテは困り顔でシュヴァルを見る。
ライトオはすぐさま、ドゥラメンテにその理由を聞き出すことにした。
「ドゥランダル、デュラメンテが━━間違えた。ドゥラメンテ、デュランダルが言っていた。同胞が怪しげな企みをしていたらそれを切り払うのも聖剣の役目だと。友達が何かおかしなことを言っていたら、はっきり言ってやるべきではないか?」
「……やったのは私だ。それは揺るがない」
「罪とは、直接犯行を行ったものだけなく唆したものにも適用される。ドゥラメンテが自分の過ちにけじめを付けたいというのなら、すべての真実を明らかにすべきだ」
「確かに、いくらリレーのためとはいえドゥラちゃんらしくないっていうか……もしまだ話してないことがあるなら教えて?」
キタサンが頼み込むと、ドゥラメンテは大きく息を吸って、吐いて。膝を大きく上げる独特のステップを踏んだ。
「なんだそれは、犯人に反省を促すダンスだろうか?」
「これは……ドゥラちゃんが気合を入れる時の足踏み!」
ドゥラメンテは、シュヴァルグランをはっきりと手のひらで示した。
「実は……シュヴァルに言われたんだ。リレーの練習なら畑のにんじんを使えばいいのではと。キタサンには自分から説明しておくからと言われて……だから、キタサンがドロボーと言いながら追いかけてくるのも冗談だとばかり」
「え……シュヴァルちゃんが?」
その場の全員の目線が、シュヴァルに向けられる。シュヴァルは顔を真っ青にして、首をブンブン振った。
「なるほど、だからシュヴァルは私とキタサンの会話に聞き耳を立てていたのか。他のやつに疑いが向くならともかく、妹が疑われそうになったから思わず入ってきたというわけだな」
「ぼぼぼぼ、僕がそんな……た、たまたまキタさんに言い忘れちゃっただけで」
「シュヴァち……そうだよね! うっかり伝え忘れちゃうことくらいあるよ!」
「たまたま忘れていただけならドゥラメンテが自白した段階で名乗り出るはずでは?」
「私も、最初は私と話したことをすっかり忘れてしまっているだけと思った……だが、さっきのシュヴァルの態度は明らかに追求を避けようとしているように感じた。何故だ?」
「ぼ、僕は……!」
ライトオとドゥラメンテの淡々としているが力強い追求に、シュヴァルはとうとうポロポロと涙をこぼし始めた。
「ヤダヤダ! みんなシュヴァちを責めちゃダメ! シュヴァちが人を騙したりするはずないもん! 事件は解決したんだしもうこの話おしまい!」
「ヴィブロスちゃん……」
そして、反論したのはシュヴァルではなく妹のヴィブロスだった。
シュヴァルの前に立って、腕をブンブン振る姿はまるで小学生のようだが、必死に家族を守ろうとしているのは伝わってくる。
実際、ここで追求をやめてもこの事件の解決には変わりない。
しかし、検事の父を持つライトオは知っている。真実を最高速で犯人に突きつけるのが、被害者のためであり犯人のためでもあるということを。
「そういうわけにもいかない。実はここ最近、これ以外にも不審な事件が起きていてな。カツラギエース先輩による落ち葉泥棒に、デュランダルによる覗き事件。事件は私の足で解決したが、その事件には教唆した人物がいることがわかっている」
「まさか……それもシュヴァルがやったと?」
「証拠はない。だが、にんにく畑を管理していれば、エース先輩に落ち葉の回収を頼むこともデュランダルが畑仕事をしているタイミングで制服に小さなスピーカーを仕込むこともできる。そして、この事件ではドゥラメンテがシュヴァルに唆されたと言った。どうなんだ? お前がやったのなら、今すぐ最速で認めれば楽になる」
ヴィブロスの小さな体越しに、ライトオが真っ直ぐ過ぎる瞳でシュヴァルを見つめた。
「そんなのシュヴァちに関係ないもん! なんでひどいことばかり言うの!?」
「ヴィブロス、もういいよ……」
「よくないよ! シュヴァちが疑われたままなんてわたしもお姉ちゃんも嫌!」
シュヴァルがヴィブロスを後ろから優しく抱きしめる。ヴィブロスにだけ聞こえるようになにかを小さく囁くと、ヴィブロスはむくれたままだが大人しくなった。
「だって……本当のことだから。ドゥラさんににんじんドロボーさせたのも、エースさんに落ち葉を勝手に運ばせたのも、デュランダルさんにトレーナーの安全を確認するために覗くよう言ったのも。全部、僕がやりました」
「なんで、シュヴァルちゃんがそんなことを……?」
キタサンも納得できないようでシュヴァルを涙目で見つめている。ライトオはシュヴァルの細かい人物像を知らないが、友人としてとても信頼させれているのが見て取れた。
「トレセンの皆は、姉さんやヴィブロスにも負けないくらい輝いていて……僕なんかとは、大違いだ。入学して、野菜作りをしてスタミナをつけたりトレーニングしてもどんどん差が開いていくばかりで」
シュヴァルがゆっくりと自分の心境を吐露し始める。
劣等感、追い抜きたいのに追いつくことさえできない気持ち。
みんなが緊張した顔で耳を傾ける中、ライトオは速攻で断言した。
「なるほど、それで数々の事件を裏で操って高揚感を得ようとしたのだな? 私にはお見通しだ」
「えっ」
「今謝ればエース先輩もデュランダルも許してくれるだろう。そう思ってさっき2人をここに呼んだ」
「いつの間に!?」
「ドゥラメンテがシュヴァルに反省を促すステップを踏み始めた時だな」
「私がシュヴァルを指差す前に呼んだのですか……?」
「もちろん。だってあの時私の中で全ての事件が一直線に繋がったから。シュヴァルならエース先輩に落ち葉回収を頼み、デュランダルの制服にスピーカーを仕込むこともできる」
「……も、もし間違ってたらどうするんですか」
「その時は私が最高速で謝る。ごめんで済んだら警察はいらないが、警察が来る前に解決すればごめんで済む」
「そうかな……そうかも……?」
ライトオの最高速理論に頭をグルグルさせるシュヴァルやキタサン達。
そうこうしているうちに、野菜倉庫に大豊食祭のリーダーとも呼べるウマ娘、カツラギエースがやってきた。
「よおライトオ! なんでもにんじんドロボー事件を解決してくれたんだって? 相変わらず、頭の回転も最高速だな!」
「エース先輩、私の頭は回転などしていない。いつだって真実一路に一直線です」
「はっはっは、悪い悪い! ……で、にんじんを盗ませたり私に落ち葉を回収させた悪い子がシュヴァルだって?」
「ごめん、なさい……僕なんかに、優しくしてくれた先輩たちにもひどいことを……」
意気消沈するシュヴァルに、エースがその大きな手をかける。さっきまで畑仕事をしていたのか、泥のついた手だ。
「周りのすげえ奴らに囲まれて、自分がちっぽけに感じちまう気持ち……よくわかるぜ。あたしもシービーやルドルフと競う度、そう思ってた。昔はな」
「エースさん……」
「だけどな。周りがいくら凄くても、自分の努力をやめないやつはそれに負けないくらい凄いんだ。シュヴァルだって、ここ最近も自分のトレーニングや畑仕事をサボったりしてなかったのはあたしも知ってるんだぜ」
「でも僕は……周りの強さも自分の弱さも嫌になって……こんな事……」
「だったら、何も考えられなくなるまで走ればいい。走りながら余計なこと考えちまうってんなら━━あたしが前を走って、エースの背中を見せてやるよ」
あまりに力強く、輝きに満ちたカツラギエースの言葉。しかしその強さと輝きが、シービーやルドルフのような三冠ウマ娘達に埋もれそうになりながらもジャパンカップで日本一になって示したものであることはトレセンの誰もが知っていた。
「僕にも、なれるでしょうか……エースさんみたいな、どんな苦境でも諦めず、ジャパンカップみたいな日本一を掴める偉大なウマ娘に」
「きっとなれるさ。だから今は迷惑かけちまった相手に謝ろう。ある意味、妹さんが一番怒ってるかもな?」
ヴィブロスは、シュヴァルが罪を認めてからすっかりむくれてそっぽを向いている。
大好きな姉が人を騙すようなしたことに、ショックと怒りを覚えているのだろう。
「ヴィブロス……キタさんも、ドゥラさんも、本当にごめんなさい。僕……どうかしてた。ライトオさんがなりふり構わず僕が犯人だって言ってくれなかったら、どんな酷いことをしたか……」
「私にも良くないところはあった。驚いたが気にしてない」
「私もドゥラちゃんに追いつけなくて悔しかったし、むしろ私ももっと早く相談すればよかったなって……」
「……シュヴァちのバカ。なんで、私に言ってくれなかったの? そしたら私だって、シュヴァちと一緒に悪い子になってもよかったのに」
「そこなの……?」
予想外の方向に怒っているヴィブロス。だがこれで事件は完全解決だ。実行犯も、教唆した人物も最高速で明らかになった。
「やはり父さんの言ったとおり。最高速の事件解決こそ被害者と犯人のため。それにしてもデュランダルは来るのが遅い」
ライトオがスマホを確認すると、デュランダルから返信が来ていた。
『話はわかったけどそれより大変よライトオさん! カレンさんの部屋に悪質なストーカーから不審な手紙が届いたの!』
「やれやれ、相変わらず騒がしい同室だ。デュランダルはもう少し落ち着きを覚えたほうがいいと思う」
こんな時でなければ全員から総ツッコミが入るような発言とともに、カルストンライトオは最高速でデュランダルの下へ走り出した。
「私は最高速のウマ娘。そして検事の父を持つ私は実質検事であり事件解決も最高速。よって、事件が起こってから駆けつけるのも最高速でなければならな━━いたい!!」
ガンッ!! と派手に音を立ててライトオは倉庫の壁に激突する。
「ラ、ライトオさん大丈夫ですか!? 今私がお助けします!」
事件を解決したライトオの頭のスタミナは既に切れ、激突のショックもあってその場で気絶した。
キタサンに保健室まで運ばれ、目が覚めたあとシュヴァルからお礼と謝罪、これからカツラギエースと定期的にトレーニングをしていくことを聞かされたのだった。
これで一旦話は締めになります。今後はなにか書くことを思いついたら不定期で更新することになると思います。
コメディよりとはいえ、推理ものは難しいですね。