直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です   作:じゅぺっと

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デジタルさん、肖像権の侵害は犯罪であります!

 

 

 その事件は、カルストンライトオの握手会イベントで起こった。新しいフォトブック発売を記念した握手会には大勢のファンが最速で駆けつけていた。

 

「ファンのみなさん、今日は私の握手会に来てくださりありがとうございました。私はこの後最速で手洗いうがいをしますので皆さんも帰ったらすぐ手は洗うように」

 

 普通の握手会なら顰蹙を買ってもおかしくない言い回しだが、ライトオのファンなので彼女の言い回しにも慣れたものでみんな苦笑いしつつも満足していた。

 そして、イベントが最速かつ平和に終わろうとしていた時だ。イベント会場の端で、あるウマ娘の迫真の叫びが響き渡る。

 

「そこを動くな! 犯人確保ーーーー!!」

「ぬわあっーー! 誤解ですーーーー!!」

 

 ライトオとそのファン達が目線を向けると、警察ウマ娘のフェノーメノが、ウマ娘ヲタクウマ娘のアグネスデジタルを取り押さえていた。デジタルの持つカメラを押収しようとしているようだった。

 それを見たライトオは、誰よりも速く最高速で2人に駆け寄った。

 

「何事ですか? ここは私のイベント会場です。寸劇がやりたいなら他所でやってください。迷惑です」

「ライトオさん! これは寸劇ではなく肖像権の侵害に対する現行犯逮捕であります!」

「こ、これはきちんとイベントの範囲内での撮影でして……」

「ウソであります! デジタルさん、あなたは━━トレセンウマ娘でありながら、盗撮した写真販売に手を染めていますね!!」

 

 フェノーメノの真剣な声に、周囲のファン達もざわめき始める。

 中央トレセンウマ娘達は一流のアスリートであり、うら若き乙女たちである。不当に撮影された写真の流通はたびたび問題になることもあった。

 しかし、ライトオにはその言葉は信じられなかった。アグネスデジタルとそこまで親交はないが、同世代のアグネスタキオンから彼女のウマ娘愛はたびたび聞いているからだ。

 

「確かにデジタルは変態だが、変態という名の勇者である彼女がそんなことを? 何か根拠があるのだろうか」

「当然、確固たる証拠があるであります! まず、こちらが最近違法に流布された写真のコピーであります」

 

 フェノーメノが自信満々にスマホから写真データを見せる。

 デジタルが特に敬愛するキングヘイローにテイエムオペラオー、メイショウドトウの写真だ。

 それらは明らかに本人から見えないアングル、そして他のファンから離れた場所で撮られていた。

 その写真を見たデジタルは、顔を青くする。

 

「そ、そんな……アングルもけしからんですけどこの写真の取り方は……」

「そう、デジタルさん。あなたが普段SNS等に投稿している写真の撮り方と一致しているであります!」

 

 アグネスデジタルのSNSには彼女が推しているウマ娘達(ほぼ全員)の写真が投稿されている。

 そちらは当然本人の了承を得ているものだが、撮り方は確かに酷似していた。

 

「ふむ、たしかによく似ているが……これだけでは犯人と断定するのは難しいと思うが?」

「他にもダンツフレームさんやヒシミラクルさんに、ネオユニヴァースさん等。彼女と近しい世代のウマ娘達が多数被害にあっております。そして……本官が盗撮現場を調べたところ、ピンク色の髪の毛が残っているのを発見し、犯人はデジタルさんだと確信したのであります!」

「ふむ、それが事実なら当分写真撮影は禁止、イベントの出禁も免れないだろうな」

「そ、そんな……違うんです、デジたんは決してウマ娘ちゃん達を辱めるようなことなんて……」

 

 アグネスデジタルは顔を真っ青にしている。誰よりもウマ娘を愛し、こっそりカメラを構える光景はトレセン学園の日常だ。

 逆に言えば、それを知っていても誰も咎めない程度には彼女のウマ娘への想いは信頼されているのだ。今回の事件はそれを大きく揺るがすものだと言える。

 ライトオのファン達もデジタルを不審がる目で見ている。

 

『あの子、どのウマ娘のイベントにもいるわよね……』

『全員が推しなんて言いながら、違法な販売をしてたのか……?』

『失望しました、ペリースチームのファンやめます……』

 

 そのざわめきを聞いたライトオは、まずファンたちに恭しく一礼した。

 

「ファンの皆さん、ご安心ください。ご存じの通り私の父は検事を務めており、その心得は私の勝負服と心に受け継がれています」

 

 ライトオが、自分の着ている勝負服を示す。シワ一つないその服は、検事である父親の仕事着からイメージしたものだと彼女は普段から語っている。

 

「━━私が、父の検事バッジを賭けてこの事件を解決してみせましょう。真犯人は最速で捕まえます」

 

 おおおお……! とデジタルへの不審の声がライトオへの期待の声に変わる。

 ライトオの一声で、イベントを台無しにする盗撮騒ぎはむしろイベント主役を盛り上げる推理ショーへと変わってしまった。

 しかし、フェノーメノはこの空気に流されない。その鋭い目でデジタルとライトオを睨む。

 

「ライトオさん、あなたの父親が検事だということはわかりました。事件への協力は感謝するであります。しかし、ここからデジタルさん以外の犯人候補がいると思うのでありますか?」

「ああ、先ほどの見せてもらった写真と証言で気になったことがある。違法販売されたものに、アグネスタキオンの写真はなかったのか?」

「1枚もないでありますね」

「やはりな。それ自体が、アグネスデジタルが盗撮写真を販売していることとムジュンしている!」

「いきなり本官の捜査を全否定でありますか!?」

 

 お互い鋭い目で睨み合うライトオとフェノーメノ。

 

「デジタルとタキオンは同室。盗撮写真の販売でお金を稼ぎたいなら真っ先にタキオンが標的になるはずだ。タキオンはよくデジタルに身の回りの世話を任せているから、着替え中だろうと下着だろうと撮り放題に違いない」

「なっ……ライトオさん、発想がハレンチでありますよ!」

「フッ、盗撮犯の話をしているのだから当然だろう。ハレンチ警察なのか?」

 

 顔を赤くするフェノーメノ。しかし彼女にも警察官としてのプライドがある。すぐさま反論を返してきた。

 

「だいたい、そんなことをしたらデジタルさんが犯人だとすぐに分かるであります! それを避けたのでは?」

「ほう、思ったより頭の直進が速いですね。確かに言われてみればそのとおりです」

「ライトオさーん!? 納得されるところ大変恐縮ですがおデジは決してやってません!」

「慌てるな、気になることは他にもある。おそらく、アドマイヤベガやタニノギムレットの写真もないのでは?」

「……ライトオさん、なぜ一部しか見ていないのに分かるでありますか!?」

 

 フェノーメノが驚く。ライトオが見たのは、キングヘイロー及びテイエムオペラオーメイショウドトウの写真のみ。

 そして被害者としてダンツフレームにヒシミラクル、ネオユニヴァースの名を挙げた。

 盗撮被害に遭っているのは所謂98〜03世代のウマ娘達だが、ここまで出てきたウマ娘には共通点がある。

 

「あ、ああああっ! もしかして……盗撮されたウマ娘ちゃん達は、私と……」

「デジタルも気づいたか。なにせ、被害者にはデジタル自身が公式レースで共に走ったウマ娘の名前しか挙がっていない。自分が犯人とバレたくないなら、こんなあからさまな共通項を残したりはしまい」

 

 写真を撮られていないアグネスタキオンにアドマイヤベガ、タニノギムレットはそれぞれのクラシック期で公式レースを退いている。いくらデジタルがどこでも走れる変態という名の勇者であっても、公式レースを共に走ることは叶わない。

 

「ぐううっ……し、しかし! 現場にはデジタルさんと同じピンク髪が……! 写真の撮り方も酷似しているのであ゛り゛ま゛す゛!」

「よく調べたものだ。それこそが、真犯人の手がかりを示している。━━つまり、犯人はデジタルではなくネコちゃんだ!!」

「ネコちゃん……?」

 

 ライトオが、ビシッと一直線にフェノーメノに指を突きつける。しかし、その場の誰もライトオの言葉の意味は分からなかった。

 デジタルが恐る恐る、頭の大きなリボンを揺らしながら尋ねた。

 

「あの、ライトオさん。ネコちゃんとは一体? まさか猫が盗撮をしたと仰るんじゃ……」

「おっと間違えた。ネコちゃんではなくコピーキャット、つまり模倣犯です。真犯人はデジタル本人ではなく、デジタルの大ファンなのでしょう。髪をピンクに染め、デジタル流の写真の撮り方もマスター、デジタルと対決したウマ娘達の写真を撮った。しかしその力を、盗撮でお金を稼ぐことに使ってしまった」

「も、模倣犯ですと!? 証拠は! 証拠はあるのでありますか!」

「ふっ、それをこれから捜査して見つけるのだ。最速の方法でな」

 

 今ライトオが口にしているのはあくまで可能性だ。証拠はない。しかし、ライトオの自信は揺るがない。

 ここでライトオは、フェノーメノではなく己のファンに向き合い再び一礼した。

 

「ファンの皆さん、お願いがあります。今から問題の違法写真をお見せしますので、探してほしいものがあります。━━デジタルが真犯人でなければ、写真のどこかに必ずアグネスデジタルのクソデカリボンが映っているはず!」

「クソデカリボン!?」

 

 アグネスデジタルは生粋のウマ娘ヲタクである。故に彼女が撮っていない写真ならば、必ず何処かに写り込んでいるはずだ。

 まさかの捜査協力要請に沸き立つファン達。しかしフェノーメノは隠すようにスマホを押さえた。

 

「ま、待つであります! これは違法に盗撮された写真で、一般の方に見せていいものでは……」

「ここにいるのは私のファン達だ。ここで見たものを不当にばらまく不届き者はいないと信じている。それが、自分を応援してくれるファンへの一直線な真心というものだ」

「ライトオさんの自分のファンへの熱い信頼……! こんな状況ですが尊すぎる……!!」

「それに握手する時に顔は覚えたし入場時に住所なども控えている。もし犯罪したら一瞬で分かるからフェノーメノも安心するといい」

「一直線な真心とは!?」

 

 上げて落とされたファン達は、それでこそカルストンライトオだ! と大興奮状態だった。このライトオにしてこのファン達だ。

 ともあれ、観念して写真を共有するフェノーメノ。大勢のファンによる人海戦術によってウォ◯リ◯を探せ感覚でデジタルの姿は最速で見つかった。

 

『『『あっちにも、こっちにも、デジタルちゃんが!』』』

「な、なんか恥ずかしいですねこうやって探されると……」

 

 ペイント機能でデジタルのいる場所に◯マークが付けられて返ってくる。画面端に小さくだが、トレードマークの大きなリボンがしっかり映り込んでいた。

 動かぬ証拠を手に入れたライトオは、その指を一直線にフェノーメノにつきつけた。

 

「さぁ、これで分かっただろう。デジタルが盗撮犯ならば写真に彼女本人が映るはずがない……真犯人は、アグネスデジタルの模倣をしているのだ!」

「ぬおおおおおおっ! 本官は、誤認逮捕をしてしまったのでありますかぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 フェノーメノが頭を抱えて紫の髪を振りかざす。大きな帽子が落ち、膝をついた。

 

「うう……本官は……私は警察失格であります。申し訳ありません、デジタルさん……」

「い、いえ……おデジの日頃の行いを考えれば、疑われても仕方のないことだったとは思います! どうか顔を上げてください!」

 

 見事な検察でデジタルの無実を証明したことに、ライトオのファン達は大拍手を送る。

 ライトオはそれに軽く手を振って応え、そのままその手をフェノーメノに差し出した。

 

「父さんが言っていた。検事をしていれば警察の調べた容疑者が間違っていることと証明することもあると。だがそれは警察が無能だからではない。むしろ警察が必死に情報を集めてくれるから我々検事も真犯人を見つけ出すことができると」

「確かに……それが警察と検事の関係というものでありますが……」

 

 ライトオは真っ直ぐ過ぎる目でフェノーメノを見つめる。その瞳は、事件を最速で解決することしか映っていない。

 

「今回も、フェノーメノが写真や被害者の情報を集めてくれたから真犯人の手がかりを見つけることが出来た。真犯人を最速で捕まえるためにも、協力して欲しい」

「ラ、ライトオさん……! いえ、ライトオ検事! このフェノーメノ、真犯人逮捕のために全力を尽くすであ゛り゛ま゛す゛!!」

 

 誤認逮捕という過ちを犯した己を警察として頼ってくれたことに感極まったフェノーメノは、目を赤くしながらも全力の敬礼をライトオに向けた。

 ライトオは得意げな顔で腕を組みながら、最速で真犯人を捕まえるためにデジタルに聞く。

 

「真犯人はデジタルの大ファン。ならばお前のイベントには必ず出てくるはずだ。次のイベントはいつある? 私も同行する」

「じ、じつは今日……あっー! もう開始まであと30分しかない!? い、急がないと……!」

「ちょうどいい。フェノーメノ、デジタル、最高速で会場に向かうぞ! それではファンの皆さん、ご協力ありがとう。共有した写真は消しておくように!」

 

 最後にファンへと一礼し、ライトオは最速で走り出した。

 

「速っ!? スプリンターとはいえなんという……待ってほしいであります、ライトオ検事!!」

「お二人とも、おデジのイベント会場は逆です!!」

 

 こうして、ライトオ達3人のウマ娘は走ってイベント会場へ向かった。ライトオの速さはもちろん、フェノーメノとデジタルの走りに脳を焼かれたファン達が出たことは言うまでもない。

 

 

「そこを動くな! 確保ーーーー!!」

 

 

 かくして、デジタルのイベント会場にて真犯人は捕まった。あらかじめ盗撮が行われるであろう位置をデジタルが割り出し、こっそりカメラを構えたピンク髪の犯人が現れたところをフェノーメノが確保したのだ。

 後で事情を聴けば、ウマ娘箱推しのアグネスデジタルに憧れるうちに推しがどんどん増えてしまい、イベント等に出るお金に困って悪いことと知りつつも盗撮写真の販売に手を染めてしまったらしい。

 とても大人しいウマ娘で本来なら決して悪事を働くタイプではないそうだ。

 

「最近、トレセン学園の治安が乱れている気がするであります。ゴルシさんのような警戒対象だけでなく、普段からは考えられない者が犯罪をすることが……これからも協力をお願いするであります、ライトオ検事!」

「フッ、任せておくといい。どんな事件だろうと最速でスタミナが切れる前に解決してみせよう。父さんの検事バッジを賭けて」

「人のものを勝手に……それ以前に賭博は犯罪であります!!」

 

 警察官の父を持つウマ娘、フェノーメノが仲間に加わり、最高速で一直線なウマ娘カルストンライトオは事件に突っ込んでいくのだった。 

 




連載を続けるか悩んでいましたが新ウマ娘のフェノーメノが好みで警察キャラだったので続きを書くことにしました。よろしくお願いします。
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