直線検事カルストンライトオ 事件解決も最速です 作:じゅぺっと
「やはり休日のリラックスタイムは私の勝ったレース映像を見ながらネコちゃんの毛づくろいに限る。本当は全力で走りたいがトレーナーに絶対安静と言われたからな」
最高速のウマ娘、カルストンライトオにも休息はある。瞬間最高速を目指せばこそ身体を休める時も必要だ。……とトレーナーに言い聞かされているライトオは大人しく自分のレース映像を見ていた。
「さすが私。レースが変わるたびに最高速を更新していま……チッ、電話か」
ライトオのスマホに着信が来る。相手はこの前一緒に事件を解決した警察ウマ娘のフェノーメノからだった。
とはいえ、電話はワンコールで出るのがライトオの流儀。
「なんですか。今いいとこ」
「ライトオ検事! 事件であります、レース賭博であ゛り゛ま゛す゛! 至急視聴覚室までお越しください!」
「わかった。最高速で駆けつけよう」
カルストンライトオの父親は検察官をしており、真実を最速でまっすぐ追いかける志はライトオにも受け継がれている。
故に事件と聞けばその最高速の足で誰よりも速く駆けつけるのだ。
フェノーメノによれば事件が起こったのは視聴覚室、つまり大型のプロジェクターでDVDが見れる部屋だ。
「カルストンライトオ、最速で到着です。事件とは何ですか?」
「ライトオ検事、お疲れ様であります! 実は、昨晩この部屋でレース賭博が行われたとのタレコミがありまして……」
警察官の父を持つウマ娘、フェノーメノがライトオに敬礼して出迎える。
この前フェノーメノが捜査した事件をライトオが検事として解決して以来、事件解決に協力するようになったのだ。
そして、この部屋にはフェノーメノ以外にもう2人のウマ娘がいた。
模範的学級委員長のサクラバクシンオーに、アウトロー勝負師ナカヤマフェスタだ。
「おはようございますライトオさん! 今日も模範的なスピードですね、花丸です!」
「へぇ、アンタがメノやシリウスが話してた検事さんかい。ククッ……楽しませてくれよ?」
「なるほど、バクシンオーがナカヤマさんをレース賭博の犯人として検挙したということですね。完璧に理解しました」
「さすがライトオ検事、理解が早い……」
「いや、見たまんますぎるでしょう。しかもナカヤマさん、なんですかその手と目は」
ナカヤマの腕には物々しい手錠がかけられていた。昨晩寝ていないのか、目には大きなクマも出来ておりまるで囚人のようだ。
手錠をかけた側のバクシンオーは自信満々に胸を張っている。
「そう、この事件は見たまま聞いたままなのです! 昨晩この部屋でレース賭博が行われ、犯人はギャンブル大好きナカヤマさん……これがバクシン的結論です! あとは賭博の共犯者を聞き出すだけですね」
「メノが珍しく私を庇いやがるもんでなぁ。ウワサの検事さんを呼んで判断してもらえと言ったのさ」
「ふむ、バクシンオーが検挙し、ナカヤマさんも犯行を認めていると。帰っていいですか? 私も休日を満喫したいので」
ライトオが踵を返そうとすると、呼び出したフェノーメノが慌てて待ったをかけた。
「お待ちくださいライトオ検事! 自分には、ナカヤマさんがこの部屋で賭博行為を行ったとは思えないであ゛り゛ま゛す゛!」
「その言葉を待っていた。では事件の詳細を聞こう」
「さすがライトオさん、切り替えもバクシンしていますね! では学級委員長がご説明しましょう」
バクシンオーは自分の生徒手帳を胸ポケットから取り出し、勢いよくページを開いて突きつけた。
「レース賭博は昨晩、この視聴覚室で起こりました。たまたまこの近くを通りすがった生徒によると、この部屋の使用時間をとっくに過ぎているのにレースに熱狂する声、さらにはナカヤマという音も聞こえたそうです」
「なるほど、それでナカヤマさんを怪しんだのか」
「そして私はこの部屋を調べると、ビデオデッキからレース着順を予想したメモを発見したのです! 本命、大穴とまさにギャンブルな用語が使われていました」
「待った、ビデオデッキとか旧世紀の産物でしょう。ここにあるのはDVDプレイヤーです」
「ちょわ! 今時はそう呼びましたね。フッフッフ、私の発言のムジュンをつくとはさすがライトオさん。ともあれナカヤマさんを尋ねると彼女は明らかに徹夜明けの目をしており、犯人だと確信したのです、エッヘン!」
驚くバクシンオーだが、こんなものは言葉の綾でしかない。ライトオは一旦フェノーメノに話を聞く。
「それで、メノがナカヤマさんを犯人でないと思う理由は?」
「レース賭博をしていたのなら、共に賭けをした共犯者がいることになりますが……今日のナカヤマさんは自分の犯行は否定しないのに自分以外の事を一切口にしないであります。普段ゴルシさんやシリウスさん、オルフェさんと違法行為をしているときはむしろ仲間を売り飛ばすくらいの発言をするというのに!!」
「ククク……ひどい言われようだな……まぁ事実だからしょうがねぇけど」
ナカヤマは愉快そうに口を抑えて笑っているが、話好きの彼女にしては口数が少ない。
バクシンオーもそれについては思うところがあるのか、急にしょんぼりして胸の前で指を合わせてつついている。
「そうなのです、ナカヤマさんが犯人なのは確実なものの、賭博の共犯者については完全な黙秘を貫いているので、仲間の情報がありません。かくなる上は手錠もかけて更生を促そうかと」
「ナカヤマさんと普段つるんでいるゴルシやシリウスさんのアリバイは?」
「少なくともシリウスさんは昨夜スピードシンボリさんや彼女のトレーナーと外泊しており、ゴルシさんはマックイーンさんと共にいたとのアリバイを確認しております」
「なるほど、共犯者のアテはないと。━━わかりました、ここからは真実一路に一直線です」
「ライトオ検事! 真犯人がわかったでありますか!」
カルストンライトオは自信満々に言い切った。バクシンオーが顎に手を当てて、桜色の瞳で見定める。
「ほほう。共犯者がわかったのでしょうか?」
「そもそもだ、昨日この部屋で聞こえたナカヤマという声は本当にナカヤマフェスタの事を指しているのだろうか?」
「ハッハッハ、それ以外に誰がいるんです?」
「バクシンオー、公式レースから離れた時間が長すぎて自分の走ったレースも忘れたのか? 百見は一聞にしかず、証拠を突き付けてやるとしよう」
ライトオはこの部屋にあるDVDをプレイヤーに差し込み、最高速度で早送りを始めた。目的のところで止める。
「これがこの部屋で聞こえたナカヤマの正体だ!」
【━━今一着でゴールイン! 実力を遺憾無く発揮し、レースを制した!】
「はて、どこにナカヤマがあるのでしょうか?」
「フッ、私が真実にたどり着くのが早すぎて着いてこれないか」
「ライトオ検事……早送りしすぎたなら素直にそう言うべきであります!」
総スカンを食らってしまったライトオはしぶしぶ巻き戻しをする。最大速度で巻き戻して即座に指を止めた。
気を取り直して、もう一度宣言する。
「これがこの部屋で聞こえたナカヤマの正体だ!」
【━━中山の直線は短いぞ! 後ろの子たちは間に合うか!】
「こ、これは……中山レース場の!」
「ククッ……私にとっちゃ親の声より聞いた実況かもなぁ」
「ナカヤマさん、もっと親の声に耳を傾けるべきだと思いますよ!」
バクシンオーはいつもの調子だが、ナカヤマの声の正体がわかったことにフェノーメノは色めき立つ。
「ともかくこれでこの部屋にナカヤマさんがいたとは証明できないであります! やはり再捜査を━━」
「黙りなぁ、メノ!」
すると、今まで大人しくしていたナカヤマが声を上げた。勝負師の目で、ニヤリと笑う。
「この検事さんはまだ何も証明しちゃいねぇ。確かにナカヤマの声は中山レース場かもしれねぇが、昨夜ここで私がレース賭博をしてない根拠にはならねぇだろ?」
「おおナカヤマさん! やはり自分の罪をお認めになるのですね、花丸です!」
バクシンオーが手で丸を作ってニッコリ笑う。ナカヤマ本人が犯行を否定しないが、ライトオの自信は揺るがない。
「フッ、確かにな。ナカヤマさんはここでレース賭博があったと思われている限り、自分が犯人であることを否定しないつもりだろう。違いますか?」
「さてね、この学園でレース賭博があったなら犯人は私に違いない。学級委員長サマの言う通りだと思うが?」
「そもそも、この部屋で夜中にレース賭博なんかできるわけないんですよ。せいぜいチンチロとか麻雀が関の山です」
肩を竦め、やれやれと笑うライトオ。もちろんバクシンオーは即座に反論してくる。
「レース賭博なんかできる訳ない……? 聞き捨てなりませんね。ここにはレースの映像がたくさんあり、本命や大穴を予想されたメモも見つかっているのですよ!」
「そう、ここにあるのは記録映像だけだ。━━予め結果の確認できるレースでギャンブルをするマヌケがどこにいる!」
「ちょ……ちょわあああああ!?」
「た……確かにその通りであります!!」
決定的なムジュンを突きつけるライトオに、バクシンオーとフェノーメノが驚きで吹っ飛びそうなくらい仰け反る。
ナカヤマは、そんな3人の様子を見てテーブルに手を叩いて大笑いした。
「ハッハッハ! てっきり委員長サマやメノと同じ生真面目一直線の嬢ちゃんかと思ってたが、少しは賭けの基本がわかってるじゃねぇか」
「当然でしょう。検察官の父さんも学生時代は犯罪者の心理を知るためという名目で賭け麻雀やチンチロに興じていたそうですから。私も伊達に父さんの検事バッジを賭けて事件に臨んでいません」
「名目、ではダメでありますよ!?」
家族の犯罪歴をしれっと口にするライトオに思わずフェノーメノが突っ込んだが、ライトオは首を振って否定する。
「何を言う、学生のうちから将来を見据えた訓練を積む父さんの真面目なエピソードですよ」
「面白ぇなアンタ……だがまだ問題はある。委員長サマが見つけた本命や大穴の予想メモさ。レース賭博じゃないなら、何のためにこんなメモが用意されたってんだ?」
「そ、その通りです! これこそ賭博があった証拠に他なりません!」
バクシンオーがメモを握りしめて口にするが、ここまでくれば結論は見えている。
「結果の分かっているレースでは他人との賭けは成立しませんが、出走者を見て誰が勝つか予想する遊びは可能。……さてメノ、頼みがあります」
「なんでしょうか、ライトオ検事?」
「校内放送で昨日視聴覚室を使用した生徒がいたらここに来るようアナウンスしてください。あと間違っても賭博の件は言わないように」
「それで犯人が素直に名乗り出ますか?」
「犯人がナカヤマさんのようなアウトローならまず出てこないだろうが、恐らく違うはずだ。だってナカヤマさんはずっと真犯人を庇っているから」
「了解であります!」
フェノーメノは敬礼したあと早足で放送室に向かった。それをナカヤマは意外そうに見ている。
「こうなっちまったら後は時間の問題だが、しかしメノをあそこまで手懐けるたぁね……」
「ナカヤマさん! まさか、本当に真犯人を庇っていたのですか?」
「さてね、委員長サマはどっちに賭ける? メノが放送しても真犯人なんて出てこねぇ可能性もあるぜ」
「むむむ……! 私をギャンブルに巻き込もうとするとは、やはり更生が必要ですね!」
ピンポンパンポーン、と校内放送のアナウンスが始まる。風紀委員から、視聴覚室を利用した生徒への呼びかけが行われた。
そして程なくしてフェノーメノが戻って来るとほぼ同時に、灰色の髪をした見るからに大人しそうなウマ娘が視聴覚室に入ってくる。
身体の小ささと少し大きな制服からして、まだ入寮して間もない新入生だと察せられた。
フェノーメノが、呼び出した風紀委員として真っ先に声を掛ける。ついでにライトオも追走した。
「君、名前は?」
「あなたが犯人ですね? よく最速で名乗り出ました。許します」
フェノーメノは出来るだけ優しく話しかけたつもりだが、とにかく雰囲気の圧が強い。ついでに言えばライトオも表情はキリッとした吊り目のため、新入生はすっかり萎縮してしまっている。
「フェノーメノさん、ライトオさん、新入生さんが怖がっていますよ! もっと笑顔でバクシンしましょう!」
「クロノジェネシスです……昨晩、この部屋でレースを見ていたのは、わ、私です……ごめんなさい」
「やれやれ、しらばっくれればバレなかったのによ」
ナカヤマが呆れた顔をする。とはいえ、怒るでもなく薄く笑みを浮かべていた。
「やはり新入生を庇っていましたか。悪い遊び仲間を平気で売れるナカヤマさんが何も言わなかったのは真面目な新入生に賭博レースの噂をつけないため。そうですね?」
「まぁな。このお嬢ちゃん、トレセンのレース資料に興味津々でね。正式に入学するまで待ち切れないってんで私がこの部屋の入り方を教えてやったのさ。賭博の疑いがかかるとは思わなかったが」
トゥインクルシリーズのレースは健全なスポーツであり、賭博の対象にするなどもってのほか。まして新入生がそんな嫌疑をかけられれば始まったばかりの学生生活に大きく響くのは間違いない。故にアウトローのナカヤマは自らが犯人であるということにして新入生を庇ったのだ。
「……って、じゃあこの子を唆したのは結局ナカヤマさんではありませんか!」
「ククッ、だから犯人であること自体は否定してねぇだろ? 委員長サマの推理も的外れじゃなかったってことさ」
「ナ、ナカヤマ先輩は悪くありません……! 全て、私がレース資料漁りを我慢できなかったせいなんです……!」
新入生のクロノジェネシスが震えながらも頭を下げる。
「私、レースの史料を見ながら展開予想や着順を予想するのが好きで……一度このトレセン大型プロジェクターでじっくりレースを見たかったんです」
「本命や大穴の予想メモは、そういうことだったんですね……いいでしょう、呼び出しがあってからすぐに名乗り出たバクシンを認め許します! 学級委員長ですから!」
「ありがとうございます……! 短距離最強サクラバクシンオーさんに、直線最高速カルストンライトオさん……凱旋門を叩いたナカヤマフェスタさんに春の怪物フェノーメノさん。私は、本当にトレセン学園に足を踏み入れたのですね」
トレセン学園には輝かしい歴史を刻んだウマ娘が大勢集う。その存在に目を輝かせる新入生は多く、またそんな新入生も新たな歴史を作っていく側になるのがトレセン学園の伝統だ。
感慨にふけるクロノを見つつ、ライトオはこっそりとナカヤマに話しかけた。
「しかし、ナカヤマさんは何故彼女を唆したのですか? 率直に言って、普段あなたがつるんでいる仲間とはタイプが違うように見えますが」
「さぁ、なんでだろうなぁ……」
そう答えるナカヤマの態度は、最初のしらを切るものではなく本人にもよくわかっていないような曖昧なものだった。
バクシンオーとフェノーメノから視聴覚室の正しい利用法を教わるクロノを見ながら、ナカヤマはこう口にした。
「あんなにちっこくて真面目そうな嬢ちゃんなのに、初めて見たときから……こいつなら私やゴルシと同じくらい、ヒリつくレースを見せてくれるんじゃねぇか。そんな気がしてね。ま、勝負師の勘ってやつさ」
「未来のレース結果は誰にも分からない。だからこそ賭ける価値がある。クロノジェネシスというウマ娘の行く末は分かりませんが、ナカヤマさんが言うならきっと凱旋門賞を走ったり宝塚記念を連覇するようなウマ娘になるのでしょうね」
ライトオのクールボケとフェノーメノの熱血ツッコミが意外と噛み合ってて書きやすいです。事件を考えるのは難しいですか不定期で少しずつやっていくと思います。