Call of Duty : Kivotos Warfare 作:海藻サラダの佃煮
Welcome To 141 / 地獄へようこそ
───SRT特殊学園
”
その特性上、人員装備共に質はキヴォトス最高クラスであり、さらに必要とあれば他自治区への武力介入も可能である。その権力の大きさは、まさしく”超法規的機関”と表現しても申し分ないだろう。
そんなエリート校に今春、憧れと正義感を抱えて入学したばかりのうら若き少女、月雪ミヤコは朝の訓示に向かおうとした矢先、全校放送で呼び出しを喰らってしまった。それも上官が数多く出入りする執務室に、所属する小隊諸共でだ。
何かやらかしてしまったのだろうかと、えも言われぬ不安を抱きながら早歩きで廊下を進めば、目的地に辿り着いたのはすぐであった。
執務室の扉の前ではすでに他の隊員達が全員揃っていた。放送で呼ばれたのもミヤコの名前だけであったあたり、彼女らは自室で待機中に直接招集されたのだろう。
「おはようございます」
「遅かったな。もう全員揃っているぞ」
「訓練場に向かう最中だったもので……」
軽い会釈と挨拶を同時に済ませながらミヤコは小隊の輪に入り込む。
同年代の、それも他学園で例えるところの同じ班同士というポジションでありながら各々の距離感は少し遠い。まだ互いの顔合わせから一ヶ月も経っていないのだからこんなものだろうとミヤコは思うようにしていたが、やはり他の部隊と比べると仲間の間に壁があるように感じた。
しかし何はともあれ面子は揃った。
───厳格な性格で規律を何よりも求めるボーイッシュな少女。ポイントマン、空井サキ。コールサイン、”RABBIT2”
───勝ち気な性格、強気な言動、重度の兵器マニアでありながら役割は後方支援のメガネっ娘。オペレーター、風倉モエ。コールサイン、”RABBIT3”もしくは”キャンプRABBIT”
───気弱でネガティブだが狙撃の腕はSRTの範疇すら超え、キヴォトスに敵う者無し。スナイパー、霞沢ミユ。コールサイン、”RABBIT4”
───そしてこれらメンバーを引っ張るのは冷静沈着な小隊長。リード、月雪ミヤコ。コールサイン、”RABBIT1”
この四人によって結成されたRABBIT小隊。その隊長であるミヤコは軽い深呼吸の後、執務室の扉を叩いた。
「RABBIT小隊、総員揃いました」
「入れ」
一瞬、返って来た上官の声がいつもよりも若干緊張しているように感じたミヤコだが、特段気にすることでは無いだろうとドアノブを回した。
「RABBIT小隊、招集命令を受けて参りました」
「───これが、例のか? 」
入室して早々、ミヤコらに声が掛けられる。しかしその声音は凛とした上官のものではなく、低い男のものであった。
(大人……? それも四人も……)
本来ならキヴォトスに存在しない種族であるはずの人間のオス種。それも大人である。しかも一気に四人も。
執務室に居座るそれらの存在は、まだまだ好奇心旺盛な思春期の少女たちの視線と思考を奪うのには十分であった。
「お前たちが”RABBIT小隊”、その一味で間違いないか? 」
「えっ、あ、は、はい。RABBIT小隊長の月雪ミヤコと申します。こちらが左から───」
「いや、名前はいい。書類は手元にある」
そう言って目の前の男は手元の書類へと目線を落とした。
チラリと見えた書類には、何故かミヤコらの顔写真が貼り付けられていた。
「月雪小隊長。こちらは順にジョン・プライス大尉、カイル・ギャリック軍曹、ジョン・マクタビッシュ軍曹、サイモン・ライリー中尉だ。身だしなみから大方察しは付いただろうが、彼らは私達と同じ部類だ」
「つまり特殊部隊、と? 」
確かに目の前の大人の格好をよく見ると防弾チョッキを身に纏っており、マガジンポーチはカートリッジがキッチリと納められている。ホルスターには収納されたサイドアームのグリップが黒光りしており、背中からはスリングされた小銃のストック部分が覗いている。
まだこの世界に身を投じてから日が浅いミヤコから見ても充実した装備類から、彼らが非常に洗練された戦闘員だということが見て取れる。
現にミヤコよりもそういった類の事情に詳しいであろうモエが、さっきからずっと隣でグヘグヘ言っていることからその印象は間違っていないのだろう。流石に涎を垂らしかけるのはどうかと思うが……。
「ブラボー、挨拶しておけ」
未だ書類を読み漁っているプライス大尉がそう指示すると、先程から置き人形を演じていた残りの大人たちが魂を吹き込まれたかのように動き出す。
「カイル・ギャリックだ。ギャズと呼んでくれて構わない。期待しているぞ、リード・RABBIT」
差し出されたギャズの手を、ミヤコは恐る恐る握り返す。
初めて触る成人男性の手は、グローブ越しとは言えゴツゴツとした、ミヤコには未知の感触を与えた。
「ジョン・マクタビッシュ軍曹。呼び名はソープでいい。変な名前だが、お気に入りなんだ。よろしく頼むぞお嬢さん」
モヒカンヘアーが目立つ彼からは、”
しかし握手の時に感じた手の感触から、彼もまた一人の兵士なのだとミヤコは感じ取った。
「……階級は中尉。スナイパーだ。呼び名は───」
「”ゴースト”以外がいいらしい」
「……ゴーストかコールサイン以外で呼ばれた場合は応答しない。いいかRABBIT。邪魔だけはするなよ? 」
骸骨のバラクラバを被った彼からはなんというか……、SRTのどの上官よりも恐ろしい気配が感じ取れた。少なくとも彼だけは敵に回してはいけない。ミヤコはそう固く誓った。ミユはと見れば今にも泣き出しそうである。
ちなみに握手は無かった。仮に手を差し出されても、握り返せていたかは怪しいが。
「挨拶は終わったか? 本題に移るぞ」
書類を読み終えたらしきプライスがそう告げると、近くの来賓用のソファへと腰を落とした。それに残りも続く。
「座らないのか? 」
「えっ、あ、では、失礼……します」
対面になる形で両者はソファに腰を落とす。机の上に置かれた紅茶セットから今から始まるのが長話になるのだろうと、ミヤコは高い洞察力で皮肉にも勘ぐってしまった。
「RABBIT小隊については色々と調べさせて貰った。なんでも、SRTの初等部では随一の練度を誇るらしいな」
「お褒めいただき、光栄です」
RABBIT小隊はプライベートなどの個人間での距離感こそイマイチ定まらずも、小隊としての任務遂行能力と連携力は他の同級生らと比べても飛び抜けて高い。
経験が浅い初等部故、まだまだ銃弾を恐れる者が多い中、ガンガンと銃弾の雨の中を突き進むポイントマン。
入学から早々にヘリコプターの操縦資格を所持し、さらにドローンやハッキングなどの電子戦もこなせる何でも屋のオペレーター。
入学初日の実技試験で1900m超えの超遠距離狙撃に成功したロングスナイパー。
そしてこれら隊員を巧みに采配し、能力を最大限に引き出すリード。
これほどの濃ゆい面子を揃えている部隊は初等部はおろか、高等部でさえ数えるほどしかいないだろう。
ミヤコ自身もそのことは少なからず認識していたが、いざ面と向かって褒められると照れるものだ。それも他所の同業者からとなると尚更である。
「実は俺らの部隊は、ここキヴォトスで近々任務を行うことになっている」
ヘイローも無い人員をキヴォトスに送り込んで任務を遂行させるなんて、外の世界の指揮官も随分と酷なものだ。
紅茶を啜りながら、ミヤコはどこか他人事のように話を聞いていた。
それにしてもこの紅茶は美味しい。どうやらプライス大尉らの祖国であるイギリスという国の品らしいが……。
この前SRTのとある部隊がトリニティ自治区で事件を解決した際、お礼として贅沢にも全校生徒分が送られて来たトリニティ印の紅茶を飲んだことがあるが、もしかするとそれすらも越えているかもしれない。
「キヴォトスと俺らが元居た世界は違う。兵器に関する価値観や倫理感。そして何よりも生物としての耐久性……。挙げだすとキリがない」
「外の世界の方々は銃弾一発で重症と聞きますからね。大変そうです」
「あぁ。だからキヴォトスでの用が済むまでだが、現地人のサポーターを俺らの部隊に引き入れようと検討している」
「悪くない考えだと思いますよ」
「……? なに他人事みたいな顔をしているんだ? その”サポーター”の第一候補こそがお前達、RABBITチームだ」
「……はい? 」
ミヤコは思わず紅茶を吹き出しそうになる。スッと消えていく紅茶の味と美しい風味と共に、頭もそれに連動するようにスッーっと白くなっていく。
他の隊員らも驚愕の表情を隠しきれていない。唯一モエだけは何だか楽しいことでも起こりそうだと言わんばかりにニヤニヤしていたが。
「ちょ、ちょっと上官!? どういうことですか! 説明を求めます! 」
「……すまない月雪。これは連邦生徒会長命令なんだ」
そう言って上官から差し出された資料には、しっかりと連邦生徒会長の刻印が。
資料を見るに、SRTから離脱中のRABBIT小隊は長期的な強化合宿として扱われるらしく、出席日数等に関しては問題なくカウントされ、進級も無事に行われるし、期間が終わればこれまで通りの学園生活に戻れるとの記載はあるが……
「そもそも何で私たちが……」
「分からん。あの連邦生徒会長のことだから何か裏はあるのだろうが……」
唸り声を上げるミヤコらとは対照的に、ニコリと笑みを浮かべたプライス大尉は告げた。
「もしこの話にお前らが乗るのなら、俺たちが徹底的に鍛え上げてやる。いつかはあのFOXでさえ歯牙にもかけない程にまで、な。お前らにはその素質がある」
───”FOX"
それは猛者揃いのSRT特殊学園において、その頂点に君臨する部隊のコールサイン。
ミヤコがSRTを志したのも、この部隊の活躍を知ったからだ。
何度かFOX小隊とは交流があったし、戦闘技術の幾つかは直々に仕込まれたものも幾つか存在する。
しかしその実力差はあまりにも大きすぎた。
過去、まだRABBIT小隊が編成されたばかりの頃、都合が重なり模擬戦の場を用意して貰ったことがあった。
結果は───言わずもがな惨敗。こちら側が一発も撃つことすらなく、徹底的に叩き潰された。
そんな圧倒的エースのFOX小隊ですら歯牙にもかけないほどにまで鍛え上げてみせると、目の前の男は豪語した。
その目は全くの疑いなど無い、確信めいたものだった。少なくとも、ミヤコはそう捉えた。
彼らに付いていけば、真に求めていたものが手に入るかも知れない。
「───分かりました。その話、”私は”承諾しましょう」
「っ! おいミヤコ! 正気か!? 」
ミヤコの出した答えにサキが噛みつく。
折角入学したSRTで、優秀な成績を収めて先輩たちにも認められてきたのに、それらをいきなり全て捨ててどこの馬の骨かも分からない大人にホイホイ付いていくなど、そんなものは論外だとサキは半ば怒鳴りつける形でミヤコを説得しようとする。
しかし小隊長たるミヤコは動じない。むしろサキを諭す構えだ。
「サキ、私はあくまで個人として受け入れたまでです。小隊全員を引き抜くことに同意したわけではありませんよ」
「でもお前は隊長なんだぞ! 隊長がいなくなったらチームは機能しなくなるだろうが! もしそうなったらRABBIT小隊は解散させられる。ミヤコ、お前はそれでいいのか? 」
「……ミユ、モエ。お二人はどうしますか? 」
先程から黙ってばかりの残りの二人の意見をミヤコは汲み取ろうとする。もし自分以外の三人が全員SRTに残ったら、流石に心細いなと心の奥底で思いながら。
「う〜ん、そうだねぇ……。ねぇねぇプライスのおやっさん。SRTとおたくの部隊だったら、どっちの方が最新の兵器を扱えるの? 」
「そうだな。ミレニアムの兵器の、そこから更に半世紀先の代物だったら状況次第では触らせてやる」
「えっ、マジで!? あのミレニアムよりも凄いものがあるの!? じゃ、決まりだね! 私はプライスのおやっさんたちに付いてく! 」
「おいモエ、そんなホラ吹きに騙されるな! ミユも何か言ってやれ! 」
元々SRTの保有する兵器類目当てで入学してきたモエは、プライス大尉の売り文句にあっさり乗っかり部隊入を宣言。意気揚々と自分の名前を部隊転属書へと記入していく。
サキは最後の望みをかけてミユを引き込もうとするが、基本的にミユのようなタイプは同調圧力に弱い。
サキがミユへ振り向いたときには、時すでに遅し。部隊転属書にはミヤコやモエに続き、ミユの名前が記入されていた。
「えっと……ご、ごめんねサキちゃん……。私のことをちゃんと忘れないでいてくれるのなんて、ミヤコちゃんぐらいしかいないし……。だ、だったら私は、ミヤコちゃんたちに付いていこうかなって」
「くっ……」
とうとう三対一。室内中の視線がサキに集まる。
何も言わないミヤコの視線が逆に圧力になっていた。
「あーー、もうっ! ここに書けばいいんだろっ! 書けば! 」
とうとうサキが折れた。書類に乱雑に空井サキの文字が殴り書きされる。
これで晴れてRABBIT小隊は皆揃って転属である。
「……これで確定でいいな? いや、連邦生徒会長命令だからほぼ強制みたいなもんだが……」
そんなことを言いながら上官は責任者の欄に刻印を押し、プライス大尉らに書類を渡した。
受け取ったプライス大尉は、受け取ったそれを舐め回すように見て確認すると、満足そうに頷き、今日一番の笑みで言った。
「
こうして兎たちの新たな巣は、タスクフォース141という名の地獄に決まったのだ。
─────チェックポイント到達─────
TF 141側の時系列はMW2019(2019)とMWll(2022)の間ぐらいとだけ思っとけば多分大丈夫です。