Call of Duty : Kivotos Warfare 作:海藻サラダの佃煮
”叶わぬ夢”
月雪ミヤコ
タスクフォース141
D.U.577区域
「RABBIT1無事かっ! おい、起きろミヤコ! 」
鳴り響く銃声と爆発音。鼓膜が破れそうな程の轟音の中、戦友の掛け声でミヤコは意識を取り戻した。
目の前に収束手榴弾が転がり込んで来た時は思わず死を覚悟したが、どうやらヘイローのご加護のお陰で一時期意識が飛ぶ程度で済んだらしい。
「サ...キ...? 」
「あぁ、RABBIT2だ。いきなり爆発とともに吹っ飛んで来たからビックリしたぞ」
「それは、ご心配をお掛けしました」
未だ悲鳴を上げる体に鞭を打ち、伸ばされたサキの腕を掴みながらミヤコは立ち上がる。
「RABBIT1、無事か? 」
「大丈夫ですキャプテン。多少耳鳴りが残る程度です」
「嘘つけ。出血がそれなりに酷いぞ。アドレナリンで誤魔化してるだけだ。一応アドレナリン注射があるが、打っとくか? 」
「お気になさらずマクダビッシュ軍曹。キヴォトス人は頑丈ですので。それにその注射は貴方の命綱です」
ソープから差し出されたアドレナリン注射を拒否すると、ミヤコは己の体の状態を確認する。
まず両手を見てみればグローブは手榴弾の破片で切り裂かれており、素肌を晒すことになった白い少女の手の平は切り傷と紅い鮮血でまみれていた。
少し視線を下げれば、爆発の衝撃と熱風でボロボロとなった黒焦げのタクティカルベストが認識できた。恐らく内蔵している防弾プレートはまだ機能しているだろうが、それでも本来のスペック通りの性能を発揮できるかと問われればかなり怪しいだろう。
幸いにも投擲物が視認できた段階で反射的に体を屈めていたため、脚部へのダメージは殆ど無かったが、それでもところどころ出血が見受けられた。
総評として、アドレナリンで痛みを誤魔化しているのは本当らしい。ならばその効果が切れるまでに決着を付けなくては。さもなくば銃すら握れなくなる。
「無茶はするなよ」
サキはそう言いながらTF141時代からのミヤコの相棒であるクリス ベクターを差し出す。
恐らく爆発の衝撃で手放したらしかったそれをミヤコは受け取ると、自然な手付きでマガジンの再装填を行い、コッキングレバーを引いた。
───初めての141での訓練の際、SRT時代の銃を持っていったところ、プライス大尉に『お前らはソビエトと戦争でもする気か? 』と鼻で笑われたのをミヤコは懸命に覚えている。
例えの意味はよく分からなかったが、次の日には小隊全員の銃を更新させられたことから、少なくとも今の銃の方が最的確に近いのだろう。
銃はあくまで弾丸を発射するための筒に過ぎない。だがその筒にも性能の優劣はある。特殊部隊というのは何よりも質を求める組織なのだ。
「全員無事だな。キャンプRABBIT、こちら6。状況は? 」
『う〜ん、SRTが向かって来てるねぇ。信号とか弄ってできる限り妨害してみるけど、持って10分ちょいって感じ』
「それだけあれば充分だ。ブラボー、RABBIT、行くぞ」
道中で鹵獲したのであろうヴァルキューレ警察学校の装甲車の屋根に陣取る仮面を被った少女───”災厄の狐”、狐坂ワカモ。
犯罪者が蔓延っているここキヴォトスで、わざわざ七囚人と区別されるまでの存在に分類されるだけあって、ワカモの戦闘力は桁外れに高い。現にヴァルキューレどころかSRTすら手出し出来ずに、今日の今日までこうやって野放しに放置されてるのがその証拠だ。
今からそんな存在に勝負を挑むのだ。ワカモの脅威はSRT時代から先輩たちから散々聞かされていたし、しっかりと胸に刻まれている。
それでも、挑む。戦う。捕らえる。
たった半月前の自分がワカモと交戦すると聞いたら到底信じてはくれないだろう。
初等部と中等部は永遠に訓練の毎日で、出動してもずっと後方支援ばかりで、こういったSRTの花形を飾るような重要任務は高等部の先輩方の役目で......
(でも、今は違う。今は、私達しかいない......)
怖い。心細い。逃げ出したい。勝てるわけがない。
きっと、今と同じ状況に立たされた時、SRTにいたままだったらそんな言葉が嫌でも脳内に流れていたと思う。
いくら成績優秀とは言え、それはあくまでひよっこ同士での話。先輩チームとの練度の差は、一目瞭然。
だがRABBITは変わったのだ。選ばれて、応えて、鍛えられて、戦って───
「”敢えて挑む者が勝利する”」
その言葉は、プライス大尉らTF141メンバーの出身であるSASという特殊部隊の標語である。
プライス大尉から初めてその言葉を教えられた日から、その言葉はミヤコのお気に入りとなった。何か大きな決断を迫られた時、この言葉を口にすると、それだけで勇気が貰えるのだ。
「ブラボー6。指示を」
「あぁ」
───タスクフォース141
それは世界中の猛者が集う、超精鋭部隊。
地球最強の部隊はキヴォトスでも最強なのか。その証明の第一歩として厄災の狐は申し分ない相手だろう。
「6より0-7とRABBIT4へ。お前らに合わせる」
『だったら今すぐに開始だ。4、お前は脚を撃て。俺は頭をぶち抜く』
『い、イエッサー...! 』
無線終了から直ぐ。何ブロックも後ろから轟いた二発の銃声と共に、火蓋は切って落とされた。
《”厄災の狐”こと狐坂ワカモ、とうとう逮捕か。連邦生徒会が声明発表》
TF141に入ってからは、全てが順調だった。
みるみる上がる技量に、SRTですら上回る上質な装備。頼れる上官に、信じられるようになった味方の背中。
そしてあの”厄災の狐”を捕らえたという実績。部隊の性質上その活躍が公開されることは無かったが、それでも十二分すぎる程の達成感。
このまま141で技量を積み重ねていって、SRTに復帰したら先輩たちにリベンジして、そしていずれはキヴォトス一の部隊に───
そんな兎たちの夢は、ある日突然として脆くも崩れ去るとも知らずに。
それはキヴォトスの統治能力を連邦生徒会が失ったことを意味し、それと同時に指揮権保有者消失によりSRT特殊学園の活動が無期限に停止されることも意味していた。
─────チェックポイント到達─────