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奇妙な空間に一人の男がいた。
その奇妙な空間には何もない。
何も生えていない。
何もいない。
だが、何もないその空間に鍛冶場だけが存在していた。
使われている最中の炉には火が灯り赤熱した鋼が炉の中で輝き、まるで生き物のように脈打つ。
男は慣れた動きで柄を握り、火花が散る音と共に鋼を打ち続けた。
「・・・・」
男は何も喋らない。
カァン…。
奇妙な空間に鉄と鉄がぶつかり合う音が響き渡る。
男はその場でただひたすら槌を振るっていた。
その動きは無駄がなく、鋼が削られていく様子はまるで時間そのものを削るかのように見えた。
槌が鋼を打つたびに、空間が震えるような音が響き、男の心臓の鼓動と重なる。
しかし、目の前の鋼が形を成しつつあるにもかかわらず、男の表情はどこか遠くを見つめているようで、変わることはなかった。
炉の熱気は男の額に汗をにじませ、けれども彼は一度も手を休めることなく鋼を打ち続ける。
その手のひらは汗でべたつき指の力が少しずつ抜けそうになっても、槌は止まらなかった。
鍛冶の音が空間に溶け込むように響き、炉の炎の揺らめきがその音と共鳴していた。
男の手元に現れたのは、まだ粗削りの刀の形だ。
その刃先は鋭さを持つに至ってはいなかったが、完成に向けての道のりは確実に進んでいた。
男の目が刃を見つめる。
その瞳に一切の迷いはない。
そして、槌が再び振るわれた。
カァン…。
鋼が響き、熱を帯びては再び冷やされる。熱い刃を冷やすための水の音が、奇妙な空間にわずかな波紋を生んだ。
その音の後、空間は再び静寂を迎え、男はしばらく何も言わずにただ立ち尽くしていた。
そのとき、突如として――
「足りない。」
男がぽつりと呟いた。目を閉じ、無感動にその言葉を吐き出す。
だが、その言葉が空間に届くと、異変が起こる。
火花が舞い散り、炉の炎が一瞬強く燃え上がった。
何もない空間に、鋼の刃を形作る手がさらに力を込め、時折見せる顔が鋭さを増していく。
その刃が――何かを求めているようだった。
男はその刃が求めるものを理解しているかのように、目を開け、もう一度槌を振るった。
カァン…。
その音が空間に響き渡ると刃の輪郭が少しずつ明確になり、最初の荒削りな形から鋭さと美しさを増していく。
その瞬間、男は初めて、わずかに息を吐いた。
だが、すぐにまた冷徹な手つきで槌を振るい続ける。
その姿はまるで、永遠に完成を迎えない作業を続けているかのように見えた。
何もない空間で、ひたすら鋼を打ち続ける男。
鋼が再び炉の熱を帯び、次いで冷やされる。
熱を奪った水がジュウと音を立て、蒸気が奇妙な空間にわずかな霞を生んだ。
男はその刃を見つめた。
その瞬間、刃がわずかに震え、異様な気配を放った。
その輝きは言葉を持たない。けれども、確かな意思が込められているかのようだった。
刃が放つ気配が、鋭く、重く、男の心に圧し掛かる。
男は槌を強く握り直し、塊に向けて振り下ろした。
カァン…。
炉の熱が一瞬で膨れ上がり、空間全体が焼き尽くされそうな勢いを見せる。
だが男は手を止めなかった。その手は汗に濡れ、力が抜けかけてもなお、槌を握る指には迷いがなかった。
カァン…。
男は槌を止め、初めて刃をじっと見つめた。
刃全体は黒灰色に沈み、角度を変えるたびに赤い燐光が揺らめいた。それはまるで刃が生きているかのように、静かに脈打つようだった。
「お前の銘は――」
口を開きかけたその瞬間、刃が激しく振動し始めた。
男は瞳を細め、低く、静かに言葉を発した。
「燼刃」
その瞬間、刃が鋭い光を放ち、奇妙な空間が砕け散るように消え去った。
男は目を開けた。そこにはいつもの鍛冶場が広がっている。だが、手元にはかつて作ったどの剣とも違う――命を宿した刃があった。
システム通知が目の前に現れる。
『転職の試練をクリアしました』
『超級職『神刀工』を取得しました』
男は刃を鞘に収め、静かに火が消えた鍛冶場を後にする。
「次の刃は、どんな命を宿すだろうな。」
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ここに一つの物語は刻まれた
新たな物語が、今、ここから始まる――。
デンドロは初めて書いたんだけど
マジでwikiの設定量ガチで大量すぎて
これ一本書くだけでも大変でした
意見、感想等是非是非お願いします!
(=ↀωↀ=)<もし好評なら連載になって続くかも