ガシャン!
ブゥゥ〜ン
「おい!スグル、カブトムシ逃してんじゃねーよ!」
「あーあ逃げちゃった、もう捕まえられないね」
僕、夏油傑は一応普通の小学生の筈である。
何で一応をつけるのか?それはたびたび見た事のない光景や人物が見えてしまうのだ。
それらはいつも視界に砂嵐のように現れては一方的に情報を押し付けて来るのだ。
例えば「白い髪で蒼く澄んだ瞳のお兄さん」、これが1番多い、印象的過ぎて忘れない、眼はコンタクトだろうか
例えば「高校の制服を着ているのにタバコを吸ってるお姉さん」、正直健康とか心配になるので忘れられない
例えば「明らかにカタギではありませんという顔のおじさんが可愛いぬいぐるみを作っている」、これもギャップが酷くて忘れられない
他にも「中学生くらいのおさげでヘアバンドの女の子」とか「外国人みたいな顔のお兄さん」とか「すごく元気はつらつとしてそうなお兄さん」などがよく見える。
今日はクラスメートで友達のクマとカンチと一緒に夏休み中の生きもの当番をこなしている最中に急に視界を砂嵐が走ってクラスで飼っているカブトムシのケージをひっくり返してしまった。
そろそろこの視界ジャック(仮)で事故に遭いそうで怖いから帰ったら父さん母さんに相談しようと決めた。
「ごめん、暑いせいかクラッと来たんだ」
「あー今日暑いもんな」
「大丈夫?水飲んでくれば?」
と心配してくれるクマ達に「大丈夫だよ」と返しつつケージを掃除をしながら逃してしまったカブトムシをどうにかしないといけないと考え、2人にどうすれば良いか相談する事にする。
カンチは「新しいの買いに行けば良いじゃん、1000円くらいでしょ」とナチュラルにセレブな意見を挙げてくれた、財布の中を見ると100円玉が数枚に十円が1枚、1円玉がそれなりだったのでこの提案は却下されました。
クマは「せっかくおおもり山が近いんだし捕まえて来いよ、スッゲー虫取りにピッタリなんだぜ!」と僕でも出来そうな意見を挙げてくれた、確かにおおもり山は自然が豊富でカブトムシの1匹や2匹うようよいそうだ、採用。
「お金無いし今から捕まえに行って来るよ」
「僕もついて行きたいけどママとこの後約束があるんだ…代わりにこれあげるよ」
とカンチからはスーパー黒みつを貰った、こういうところ気が利くなぁ
「俺もなー、虫取り行きたいけど父ちゃんの手伝いがあるからな、代わりにナギサちゃんと行けよ!スッゲー虫取り上手なんだぜ!」
「ああ、栗原さんか。今から行って会えるかな」
「さっき理科の先生のところに居たぜ」
栗原渚とは自他共に認める自然派ガールで虫に魚、草木に詳しく「さくら小学校イチの生き物好き」と呼ばれるクラスメートだ。
確かに彼女なら力になってくれるかもしれないと思い理科室に向かう事にした。
◇◆◇
理科室に行くと水槽の魚の世話をしている栗原さんと理科の先生が居た。
「カブトムシ捕り?良いよー、むしろこれから行こうと思ってたんだ」
「ありがとう本当に助かる、あとでジュースでも奢るよ」
低身長であちこちに跳ねたショートカット、独特の目つきに猫口をした彼女は僕のミスを責めること無くむしろ手伝ってくれる本当に良い子だ。
あとでヨカコーラでも奢ろうと心に決めるとプリントの整理をしていた理科の先生から声をかけられた。
「君たちはおおもり山に行くのかい、じゃあおおもり山の伝説は知っているかな」
「聞いたこと無いですね」
「じゃあ教えてあげよう、おおもり山には御神木が生えていてその根本に“回したら願いの叶うガシャガシャ“というものがあるそうなんだ」
「回したら願いの叶うガシャガシャ?」
つい聞き返してしまったが御神木とガシャガシャというのはあまりにもミスマッチだと思う、そこは普通なら祠とか石碑とかもっとご利益ありそうなものが祀られているんじゃないのか…願いが叶うというのも何とも眉唾物だなぁと思っていると栗原さんも同じ気持ちだったらしく「先生、理科教えてるのにそんな非科学なこと言っていいんですか」とツッコミを入れた。
「僕はこう見えて科学じゃ解明出来ないものにロマンを感じるタイプなんだ、それに以前面白いものを手に入れてね」
そういうと先生はスーツのポケットから幾つかのコインを取り出して僕たちに手渡して来た。
「伝説のガシャガシャを回せるというコインだよ、馴染みの骨董屋から押し付けられ…タダで貰ってね、君たちなら役に立ててくれそうな気がするんだ」
「えーと、ありがとうございます」
「見つけたら使ってみます」
「面白い土産話を期待しているよ」
とりあえずお礼を言った僕たちは理科室を後にしたのだった。
この時の僕たちが知る由も無い事だったが、理科の先生がまるで狐のような顔で笑ったのに振り返ったのなら気づけただろう。
◇◆◇
虫取り網を手におおもり山の参道を登りながら、ふと僕は栗原さんに見た事の無いものが見える体質について相談してみようと思った。
両親よりも先に相談するのはどうなんだと思わなくは無かったが今の自分にとっては最適解のように思えたのだ。
これは彼女が生き物大好き少女である以上に成績もクラス1で、どこか小学生には見えない雰囲気を纏っている時がある様に思えるからだろう。
おおもり山の参道を登り終え、神社の境内の木陰で休憩を取ることにした僕は早速同じように足を伸ばして休憩をしている栗原さんに「見た事の無いものが見えて困っている」という事を相談すると彼女はいつになく難しい顔で答えてくれた。
「あぁ、それは虚億だね。」
「キョオク?この症状がかい」
「そう、見た事の無いものが見える事を虚億と呼ぶんだ。私の知り合いが研究していてね、SFみたいな話になるんだけど“未来予知の一種”とか“パラレルワールドのもしもの自分の姿”って説が一般的らしいよ。詳しいことはよくわかってないらしいね」
「未来とかパラレルワールドって…まるでドラえもんの世界だなぁ、よくわからないという事がわかったよ」
そう答える彼女は申し訳無さそうな顔で「力になれなくてゴメンね、でも研究している知り合いに連絡して症状が良くならないか聞いてみるよ」と言ってくれたのでそれだけでも相談して良かったと思えたのだ。やっぱり栗原さんは僕たちの持っていないものを持っているのかもしれない。
◇◆◇
「御神木の根本にあるガシャガシャが先生の言っていたおおもり山の伝説だよね」
「なんかあっさり見つかっちゃって拍子抜けだね…」
「そうだね…」
神社の神主さんに「カブトムシならこの道の奥でよく見るぞ」と勧められて森の奥に来た僕たちだったが、その奥で古びたしめ縄が結びつけられた大木とその根本に石で出来ているガシャガシャマシンを見つけたのだった。
伝説の割にあっさり見つかったなと思いつつさっき貰ったコインを取り出した。
「じゃあ早速回してみよう、先生の話が正しければ願いが叶うらしいし」
「何が出て来るにせよ土産話はしないとね」
コイン投入口に貰ったコインを投入しレバーを思いっきり回すと石で出来たガシャ玉が出て来た。
好奇心のままにガシャ玉を開けると煙が吹き出すと同時に魔法陣?のようなものが勢いよく弾け飛んだ!
思わず目を覆い煙が晴れるとそこには…
「ウィ〜スウィスウィスウィス!数百年ぶりの外でウィス!空気が美味しいでウィスねぇ〜!」
白くて丸っこい体にソフトクリームのようなアンテナを乗せた紫クチビルが特徴的な謎の存在が浮いていたのだった。
あまりにも非現実的な光景に僕たちが思わず「何アレ…」「お化け…?」と声を漏らすとソイツはグリンッ!とこっちを向いて大声を上げた。
「ノンノン!ワタクシはお化けでは無くよ・う・か・い!妖怪でウィス!そちらの本日ウルトララッキーなお坊ちゃん!出してくれたお礼に今日からワンダフルに有能なワタクシが貴方の執事になって差し上げましょう!」
「えぇ…いらない」
怒涛の展開についていけない僕はそう漏らすしか無いのであった。
※難産だったので評価ください!(強欲)