遊戯王GX 宝玉獣に選ばれし少女   作:アロイ

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#9 宝玉獣VSサイバー・エンド・ドラゴン

 

 SAL研究所の実験室では、カノン、博士、研究員たちが詰めていた。レインボーの宝玉を解析して、データを収集しているのだ。

 

「やはり、カノン様がデュエルをすると、微弱なエネルギーが生まれるようですね」

 

 助手の男が実験結果を報告する。

 

「デュエルし続ければ、この宝玉にエネルギーが溜まっていき、いずれカードに変化するということですな」

 

 付け加えるように、博士がレインボーの宝玉が目覚める条件を説明する。

 

「デュエルするだけいいの?」

「恐らくは、カノン様の闘志──“デュエルエナジー”に反応しているので、より強い相手と闘わなければ意味がないでしょう」

「強い相手か…」

 

 それには一人だけ心当たりがあった。

 

「ありがとう。あなたたちは引き続き、精霊の研究をしていて。ローズの件で、まだまだ精霊には謎が多いことを再認識したからね」

 

 SALや茂木の協力の結果、デュエルをすることで生まれる、『デュエルエナジー』という存在を発見できた。そのお礼に、SALにはバナナ百本、茂木にはもけもけ型のベッドをプレゼントした。

 

 最近のデュエルアカデミアでは、万丈目の話題で持ち切りだ。彼が数日前から行方不明らしく、その原因は、寮の入れ替えを賭けたデュエルに負けたことらしい。

 あのプライドの高い万丈目が、このまま引き下がるとは思えない。地獄の底からでも、また這い上がってくるのではないかという、予感があった。

 

 

 

 まだ日も昇らない明け方。朝霧に包まれる港の灯台で、明日香とカイザーは、行方不明の(しんゆう)に関する情報交換をしていた。

 

 いつもなら誰も訪れない場に、コンクリートをカツカツと鳴らす足音が近づいてくる。二人は顔を見合わせて、足音の持ち主を待った。

 

 濃い霧の向こうから現れたのは、金髪に黄緑の目をした小柄な少女、一色カノンだった。

 

「カノン…? どうしてここに?」

 

 明日香が困惑した様子で声をかける。

 

「カイザーは毎朝ここにいるって、明日香から聞いたからね」

「オレに何か用か?」

 

 冷静に話を聞こうとするカイザーに、カノンが闘争心を剥き出しにする。

 

「あんたと闘いたくなった。それだけさ」

「……」

「私とデュエルしよう、カイザー」

 

 学園一と言われるデュエリスト。デュエルエナジーを引き出すのに、これ以上の相手は存在しない。

 

 その突拍子もない発言に、カイザーが小さく笑う。

 

「不思議なものだ。オレも、そろそろお前の方から来るんじゃないかと思っていた」

「なら準備は万端ってことだ」

 

 勝手に進め合う二人に、明日香は何が何だか分からず、傍観していることしかできなかった。

 

「ここは狭い。場所を移そう」

 

 

 

 広いスペースに出た二人は、鋭い視線をぶつけ合う。これから激しい闘いが行われようとしていた。

 

「お前と顔を合わせるのは、入寮パーティーの日以来か」

「あのときから、あんたと闘いたくてうずうずしてたよ」

 

 それはカノンの偽りがない本音だ。レインボーの宝玉は、その後押しに過ぎない。

 

「オレもだ、一色カノン。お前と闘えることをずっと待ち望んでいた。ここで決着をつけよう」

「ああ。あんたとなら、心ゆくまで楽しめそうだ」

 

 お互いにデュエルディスクを構える。

 

「「──決闘(デュエル)!!」」

 

カノン LP4000 VS LP4000 丸藤亮

 

「私の先行、ドロー!」

 

 デッキから1枚引いたカノンが、ディスクに横向きのカードを置く。

 

「《宝玉獣 エメラルドタートル》を守備表示で召喚!」

 

 エメラルドの宝玉が砕け、中から殻に籠った亀が現れた。その甲羅からはエメラルドの結晶が突き出ている。

 

 エメラルドタートル 守備力2000

 

『気をつけるのだぞカノン。この男…かなりの強者(つわもの)じゃ』

「ああ。だからこそ、倒しがいがあるってものだ!」

 

 甲羅の隙間から一目見ただけのエメラルドが忠告する。

 

「ターンエンド」

 

 

「オレのターン、ドロー」

 

 静かな立ち上がりでカードを引いた。いったいどんなモンスターを出すのかと、カノンが身構える。

 

「オレは《サイバー・ドラゴン》を攻撃表示で召喚する」

 

 蛇のような長い体をうねらせて、地中から上昇する。滑らかなメタリック装甲を持つ白銀の機械竜。

 

 サイバードラゴン 攻撃力2100

 

「生贄なしで五つ星モンスターを召喚!?」

「サイバードラゴンの特殊効果だ。お前の場にモンスターがいて、オレの場にモンスターがいないとき、生贄なしで特殊召喚することができる」

 

 宝玉獣最高の守備力を誇るエメラルドを、何の小細工もなしに突破してくるとは。

 

「いきなりピンチか。カイザーと呼ばれるだけの力、しっかり受け止めさせてもらう!」

 

 カノンの好戦的な姿に、カイザーはある決闘者(デュエリスト)を重ねていた。

 

「(似ている…。その目は、あの遊城十代と同じ目だ)」

 

 どこまでもデュエルを楽しもうとする、無限の可能性を秘めた男。

 

「サイバードラゴンで、エメラルドタートルを攻撃! エヴォリューション・バースト!!」

 

 サイバードラゴンが口を開くと、その奥から青く光るエネルギー波が放射される。光線が直撃したエメラルドが爆散した。

 

「破壊されたエメラルドタートルは、魔法&罠(マジック・トラップ)ゾーンに置かれる宝玉となる!」

 

 粉々になったエメラルドの宝玉が集まる。その効果を知っているカイザーは動じずに、次の布石を打つ。

 

「さらに手札より、魔法カード《タイムカプセル》を発動!」

 

 時計の文字盤が記された棺が出土する。ホルダーからデッキを取り出したカイザーが、指の間にカードを挟んだ。

 

「デッキからカードを1枚選択し、このカードをタイムカプセルに入れる。2ターン目のオレのターンに、このカードを復活させる」

 

 カードを封印した棺が、ギギィと軋んだ音を立てながら閉じる。

 

「デッキから好きなカードを持ってこれるということか。2ターン後が楽しみだ」

 

 未来で何が起こるのか、今からゾクゾクしてたまらない。

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 カノンの手札にサイバードラゴンを倒す術はない。ならば、壁モンスターを出して、防御を固める。

 

「《宝玉獣 アンバーマンモス》を守備表示で召喚!」

 

 アンバーの宝玉が砕け、六本の牙を持つマンモスが現れる。額に埋め込まれた琥珀には、トンボのような昆虫の影が浮かんでいる。

 

  アンバーマンモス 守備力1600

 

「さらにカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 サイバードラゴンの攻撃を耐え忍ぶことができれば、必ず勝機は掴める。伏せカードで場をより強固にした。

 

「……」

 

 その盤面を見たカイザーは確信する。彼女のこれまでのデュエルを考察し、宝玉獣の特性に気がついていたのだ。

 

「(宝玉獣は場持ちがいい特殊なモンスター…。だが弱点は、モンスターの攻撃力の低さにある)」

 

 時間をかければ不利となる。リスクを負ってでも、早めに決着をつけにいくべき相手だろう。

 

 

「オレのターン、ドロー」

 

 カイザーが手札のカードをかざす。

 

「出し惜しみはしない。魔法カード《融合》発動! オレの場と手札のサイバードラゴン2体で、《サイバー・ツイン・ドラゴン》を召喚!」

 

 融合素材となった2体のサイバードラゴンの空間が歪み、渦巻いて混ざり合う。メタリック装甲の胴体から、刺々しい頭と丸みを帯びた頭を伸ばした、双頭の機械竜。

 

 サイバーツインドラゴン 攻撃力2800

 

「攻撃力2800!?」

「それだけじゃない。サイバーツインドラゴンは、バトルフェイズに2回の攻撃をすることができる!」

「なに!?」

 

 カノンの戦略を見破るように、カイザーは強力なモンスターを出してきた。

 

「2回目の攻撃が、カノンへのダイレクトアタックになる…!」

 

 ライフが0になるわけではない。それでも、大ダメージは避けられない。

 

「サイバーツインドラゴンで、アンバーマンモスを攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト!!」

 

 双頭の口が開くと、その奥から青く光るエネルギー波がそれぞれ放射される。光線が直撃したアンバーが爆散した。

 

「ぐぅ…!」

「まだだ!」

 

 がら空きの場に追撃を仕掛けるカイザー。サイバーツインドラゴンがエネルギーを溜めた。

 

「リバースカードオープン!《宝玉の双璧》!! 宝玉獣が破壊されたターン、デッキから新たな宝玉を呼び出し、自分のダメージを0にする!」

 

 カノンの身がエネルギー波から守られる。エメラルドとアンバーの横に、ルビーの宝玉が増える。

 

「上手く躱したな」

「なんてことないさ」

 

 軽口を叩き合う二人。互いの実力を高く評価しているからこそ、この程度で驚かない。

 

「ターンエンドだ」

 

 相手のことを考え、すべての可能性に対応した戦術を取る、リスペクトデュエル。これまでの攻防でカイザーの本質が見えてきた。

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 たった今引いたカードを見て、カノンがデュエルディスクの構えを変えた。

 

「こっちも本気でいくぞ!」

 

 ディスクの横にある、フィールド魔法専用のスロットが開いた。カノンがそこにカードを置くと、元の形に収納される。

 

「フィールド魔法《虹の古代都市-レインボー・ルイン》を発動!」

 

 発動されたフィールド魔法が、ソリッドビジョンに反映される。カノンを中心に、虹色のヴェールが広がっていった。

 

「これは…!?」

「フィールドが切り替わったわ!?」

 

 そこは嶺雲(れいうん)の地。古代ローマの遺跡に三人は降り立った。柱がそびえ立つ空には、虹の橋が架かってる。

 

「このフィールド魔法には、5つの効果がある」

「5つの効果を持つフィールド魔法だと…?」

 

 見たことも聞いたこともないカードに、カイザーが訝しむ。いったいどんな強さを秘めているのか。

 

「いくぞ!」

 

 カノンが腕をバッと払い、ルビーの宝玉を指し示した。

 

「ルビーカーバンクルの効果発動! このカードを魔法&罠ゾーンから特殊召喚し、眠れる宝玉獣を呼び覚ます!」

 

 ルビーの宝玉が砕け、中からカーバンクルが現れる。その額と尻尾の先には、丸いルビーの宝石が埋まっている。

 

「ルビー・ハピネス!!」

『ルゥービィィ!!』

 

 ルビーの尻尾の宝石が赤く眩い光を放つ。そのエネルギーを注がれた2つの宝玉が砕け、中から宝玉獣たちが現れる。

 

 ルビーカーバンクル 守備力300

 エメラルドタートル 守備力2000

 アンバーマンモス 守備力1600

 

「宝玉獣の本領発揮か…!」

 

 大量展開に警戒するが、カノンはその逆を行った。

 

「魔法カード《宝玉の封印》を発動! 場の宝玉獣2体を魔法&罠ゾーンに置くことで、お互いのプレイヤーはカードを1枚ドローする。このターン、自分が魔法&罠ゾーンの宝玉獣の効果を発動している場合、相手はさらにもう1枚ドローできる」

 

 ルビーとエメラルドが宝玉に戻る。カノンとカイザーが、同時にデッキのカードを引き抜いた。

 

「この効果で魔法&罠ゾーンに置かれている間、その宝玉獣の効果は封印される」

 

 ルビー、エメラルドの宝玉が色褪せる。ルビーの自身を特殊召喚する効果は使用できなくなった。

 

「宝玉獣を封印だと? 何故わざわざそんな真似を」

「いったい何を考えているの…?」

 

 ルビーは展開の要。その信じられない行動に、カイザーと明日香が戸惑う。

 

「さらに、《宝玉獣 サファイアペガサス》を攻撃表示で召喚!」

 

 サファイアの宝玉が砕け、中から凛々しい瞳をしたペガサスが翼を広げる。その頭部からは、蒼い角が突き出ている。

 

 サファイアペガサス 攻撃力1800

 

「このカードが召喚に成功した時、デッキから新たな宝玉を呼び出すことができる! サファイア・コーリング!!」

『ハァーッ!』

 

 サファイアの蒼角に眩い光が集まり、トパーズの宝玉を呼び出す。

 

「宝玉を封印した答えはこれだ」

 

 カノンが手札のカードを1枚、指の間に挟んで引き抜いた。

 

「私は手札から《宝玉の集約》を発動! サファイアペガサス以外の攻撃を放棄することで、魔法&罠ゾーンの宝玉1個につき、その攻撃力を1000ポイントアップする!!」

『うおおおーーーッ!!』

 

 ルビー、エメラルド、トパーズの宝玉からオーラが漂う。そのすべてのオーラがサファイア1体に集約された。

 

 サファイアペガサス 攻撃力1800→4800

 

「攻撃力4800だと!?」

「このために、自ら宝玉獣を封印したのね!?」

 

 カノンが打った布石に戦慄する二人。

 

「サファイアペガサスで、サイバーツインドラゴンを攻撃! サファイア・トルネード!!」

 

 サファイアが飛翔し、光り輝く角に風が渦巻く。その蒼角を振り下ろすと、大きな竜巻が放たれ、サイバーツインドラゴンを粉砕した。

 

「ぐおぅぅぅ…!!」

 

 予想外のダメージに、カイザーが苦悶の声を漏らす。

 

 丸藤亮 LP4000(-2000)→2000

 

「あのカイザーを相手に、先にライフを削るなんて…!」

 

 明日香の知る限り、初めての光景だった。

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンを終了する」

 

 すでに3つ埋まっている空きスロットに、カードを差し込む。サファイアの攻撃力が元に戻った。

 

 サファイアペガサス 攻撃力4800→1800

 

 

「オレのターン」

 

 ドローの構えを取ったカイザーが、冷静に相手を分析する。

 

「(前のターン、レインボールインの効果は使われていない。ならば、あのフィールド魔法は宝玉獣を守るためのものに違いない)」

 

 相手のターンでこそ真価を発揮するタイプのカードだと結論づけ、ドローと同時にカードをかざした。

 

「手札から速攻魔法《サイクロン》を発動! フィールド魔法を破壊させてもらう!」

 

 サイクロンが渦巻いて、レインボールインの空を荒らしていく。しかし、虹をかき消すことなく、力は弱まっていった。

 

「バカな…! なぜ破壊されない!?」

「レインボールインは、魔法&罠ゾーンに宝玉獣がいるとき、効果では破壊されないのさ」

「すべての宝玉を取り除かなければ、フィールド魔法も退けられないということか…!」

 

 カノンに翻弄されるカイザー。だが、追い詰められているのは彼女の方だ。なぜならば、このスタンバイフェイズに、埋めた棺が復活してしまう。

 

「《タイムカプセル》発動後、2度目のオレのターンだ。オレはタイムカプセルを破壊し、棺に入れたカードを手札に加える」

「いったい何のカードを…!」

 

 今度は、カノンが警戒を強めて睨みつける。

 

「さらに、《強欲な壺》でデッキから2枚ドローし、《死者蘇生》を発動。墓地の《サイバードラゴン》を復活!」

 

 一気に手札を増強し、サイバードラゴンを特殊召喚した。

 

「そして、《融合回収(フュージョン・リカバリー)》を発動。墓地の“融合”と、サイバーツインドラゴンの融合素材となった、“サイバー・ドラゴン”を手札に戻す」

「(融合に2体のサイバードラゴン…またサイバーツインドラゴンを召喚するつもりか?)」

 

 墓地スロットが光り、2枚のカードが排出される。カイザーがそれを手札の中に加える。

 

 これで、勝利への準備は完璧に整った。

 

「いくぞ、カノン!」

「来い!」

 

 カイザーが切り札を天高く掲げる。

 

「手札から、魔法カード《パワー・ボンド》を発動!!」

「パワーボンド!?」

 

 誰もが知る超強力なカードに、カノンが目を見開く。“融合”と同名カードとして扱われる、機械族専用の融合魔法だ。“タイムカプセル”で持ってきたのは、このカードだったのだ。

 

「このカードは機械族モンスターを融合召喚することができる。場に1体のサイバードラゴン、さらに手札より2体のサイバードラゴンを融合!」

 

 融合素材となった3体のサイバードラゴンの空間が歪み、渦巻いて混ざり合う。

 

「──《サイバー・エンド・ドラゴン》を、攻撃表示で召喚ッ!!」

 

 サイバードラゴンの最終進化形態。メタリック装甲の胴体と硬質な両翼には、青いコアが埋め込まれている。異なる三つ首を伸ばした終撃の機械竜。

 

 サイバーエンドドラゴン 攻撃力4000

 

「パワーボンドの効果により、攻撃力は2倍になる!」

 

 多大なる負荷がかかり、サイバーエンドドラゴンの全身から雷のようなエネルギーが迸る。

 

 サイバーエンドドラゴン 攻撃力4000→8000

 

「攻撃力8000だとぉ!?」

「サイバーエンドドラゴンで、サファイアペガサスを攻撃!」

 

 小さなコアが連なる三つ首を逸らし、サイバーエンドドラゴンが、エネルギーを溜める。

 

『カノン!』

「宝玉獣への攻撃は、すべてアンバーマンモスが受け持つ!」

 

 アンバーの額にある琥珀が輝き、威嚇するように鼻を高らかに上げた。守備表示のアンバーマンモスならば、戦闘ダメージを受けない。

 

「無駄だ! サイバーエンドドラゴンは、守備モンスターを攻撃したとき、攻撃力が守備力を上回っていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える!」

「なに!?」

 

 カイザーが左手をバッと突き出すと、サイバーエンドドラゴンも連動する。

 

「エターナル・エヴォリューション・バースト!!!」

 

 それぞれの口から青く光るエネルギー波が放射される。その三つの光線は収束し、アンバーマンモスを爆散させた。

 

「うああああーーッ!?」

 

 黒い爆煙の中で、カノンの悲鳴が響き渡る。誰もが彼女の敗北を思い浮かべた。

 ゆっくりと爆煙が晴れていくと、そこには、何故か余力を残したカノンが立っていた。

 

 カノン LP800

 

「なに!? サイバーエンドドラゴンの攻撃を耐え切っただと!?」

 

 彼女には伏せカードを使った形跡もない。ならばどうして、とカイザーには疑念が尽きない。

 

「レインボールインの2つ目の効果が発動されたのさ。1ターンに1度、魔法&罠ゾーンに宝玉獣が2体以上いるとき、プレイヤーが受けるダメージを半分にすることができる」

 

 レインボールインにより、差し引き6400ダメージを、3200ダメージに半減させた。よって、残りライフは800。

 

「そんな効果が隠されていたとは…! さすがに、一筋縄ではいかないようだな」

「あんたもね、カイザー」

 

 攻撃力4800を見るや、8000のモンスターで超えてくる。そのタクティクスは見事だが、少し決着を急ぎすぎた。

 

「残念だよ。パワーボンドには、発動したターンのエンドフェイズ、融合モンスターの元々の攻撃力分のダメージを自ら負うリスクがある。4000のダメージをその身に受けろ!」

 

 しかし、カイザーは動じることなく、最善手で対処する。

 

「オレは手札から、速攻魔法《融合解除》を発動する!」

 

 サイバーエンドドラゴンが光の粒子となって分裂し、3体のサイバードラゴンが再び姿を現す。

 

 サイバードラゴン×3 攻撃力2100

 

「サイバーエンドドラゴンが場を離れたことで、パワーボンドのリスクはなくなる」

「っ…!」

 

 パワーボンドの自傷効果はフィールドに残っている場合のみ。ダメージを上手く回避してみせた。

 

「これで形成逆転だな。サイバードラゴンの3回攻撃で、お前のライフは0だ」

 

 やはり、この男は強い。ただリスクを回避するだけじゃなく、攻撃にまで転用する。

 

「だが、その手は読んでいた! リバースカードオープン《宝玉の遊撃》!!」

「なに!?」

 

 このタイミングでの発動に、カイザーが意表を突かれる。

 

「バトルフェイズ中にモンスターが特殊召喚された場合、魔法&罠ゾーンの宝玉獣を特殊召喚し、その攻撃力と守備力を500ポイントアップする!」

 

 融合解除で連続攻撃を狙うのは定石。カノンもそれを警戒していた。

 

「再び現れろ、《アンバーマンモス》!」

 

 アンバーの宝玉が砕けて、カノンとサファイアを守る盾となる。

 

 アンバーマンモス 攻撃力1700→2200

 

 攻撃誘導効果を持つアンバーがいるため、サイバードラゴンでは攻撃できない。バトルが終わりを迎える。

 

「ただではやられん! 魔法カード《エヴォリューション・バースト》発動! サイバードラゴンの攻撃を放棄する代わりに、相手のフィールド上のカード1枚を破壊する!」

 

 サイバードラゴンが口を開くと、その奥からエネルギーが眩く光る。

 

「サイバードラゴン! サファイアペガサスを攻撃しろ!」

 

 光線が放射される前に、カノンが応戦する。

 

「サファイアを破壊させはしない! 虹の古代都市レインボールインの3つ目の効果を発動する!」

「──!?」

「魔法&罠ゾーンに宝玉獣が3体以上いるとき、フィールドの宝玉獣のカードを1枚墓地に送ることで、宝玉獣を対象とする魔法・罠の効果を無効にする!」

 

 エメラルドの宝玉が光の粒子となって消える。サイバードラゴンの攻撃が停止した。

 

 高度なカードの応酬を制したのはカノンだ。

 

「(なんてレベルの高い闘いなの…!)」

 

 息つく暇もないやり取りに、明日香が衝撃を受ける。

 

「オレはカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

「このエンドフェイズ、アンバーマンモスは魔法&罠ゾーンに戻る」

 

 カイザーのターン終了と同時に、アンバーが宝玉と化す。

 

 一手間違えれば敗北と隣り合わせな激闘。肌をビリビリと突き刺すような感覚が、カノンの全身をめぐっていた。

 

「ふふっ、あはははっ!!」

「カノン…?」

 

 気が触れたような笑い声を出すカノンに、明日香が困惑する。

 

「カイザー! あんたとのデュエル、やっぱり最高だ!」

「ああ、オレもだ」

 

 めくるめくような興奮で、互いのデュエルエナジーは最高潮に達していた。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 着々と終局に向かっているこのデュエル。惜しい気持ちを抑えながら、持てる力のすべてを出し切る。

 

「速攻魔法《宝玉の旋風》を発動! 場の宝玉獣を手札に戻し、デッキから新たな宝玉を呼び出す。現れろ、コバルトイーグル!」

 

 サファイアが光となって手札に加わり、コバルトの宝玉が増える。

 

「さらに、レインボールインの4つ目の効果発動! 魔法&罠ゾーンに宝玉獣が4体以上いるとき、カードを1枚ドローできる」

 

 引いたカードを確認し、手札に加える。

 

「これで、レインボールインの残りの効果は1つか」

「今に分かるさ」

 

 そのコンボは、すでに完成している。

 

「私は、手札に戻した《サファイアペガサス》を再び召喚! サファイア・コーリング!!」

 

 サファイアの宝玉が砕け、中からペガサスが現れる。その蒼角に眩い光が集まり、新たにアメジストの宝玉を呼び出した。

 

 サファイアペガサス 攻撃力1800

 

 これで、フィールドと墓地に7種の宝玉が揃った。カノンの胸元にある、レインボーの宝玉が入ったペンダントが淡く光る。

 

「7体の宝玉獣すべてを使わせたのは、あんたが初めてだよ、カイザー」

「いよいよ、大詰めというわけか」

「ああ!」

 

 カノンが左手を突き出して、一気に攻勢に出る。

 

「虹の古代都市レインボールインの最後の効果発動! 魔法&罠ゾーンに宝玉獣が5体いるとき、その中から1体を選択して、フィールドに特殊召喚できる!」

「なに!?」

「出て来い! 《宝玉獣 ルビーカーバンクル》!」

 

 ルビーの封印が解かれる。そして、ルビーの尻尾の宝石が赤く眩い光を放った。

 

 ルビーカーバンクル 攻撃力300

 

「ルビーの効果発動! 魔法&罠ゾーンの宝玉獣を、可能な限り特殊召喚する! ルビー・ハピネス!!」

『ルゥビィィィ!!!』

 

 アンバー、トパーズ、アメジスト。コバルト以外の宝玉にエネルギーが供給され、3つの宝玉が砕ける。

 

 アンバーマンモス 攻撃力1700

 トパーズタイガー 攻撃力1600

 アメジストキャット 攻撃力1200

 

「宝玉獣を封印したときに、ここまで見据えていたというのか!?」

「驚くのはまだ早い!」

 

 カノンが手札のカードをかざした。

 

「私は魔法カード《スター・サファイア》を発動! このカードは宝玉獣が7体揃ったときにのみ発動が可能!」

 

 サファイアペガサス専用のカード。厳しい条件があるが、それだけの力を秘めている。

 

「私のライフを7体の宝玉獣に捧げることで、サファイアペガサスを覚醒させる!!」

「──!?」

 

 カノンがライフを700削り、それぞれの宝玉に分け与える。

 

 カノン LP800(-700)→100

 

「みんな、サファイアペガサスに力を貸してくれ!!」

『カノン!!』

 

 各所の宝玉から光が昇る。レインボールインの地に六色の虹が架かり、サファイアペガサスに力を注ぐ。

 両翼に埋まったサファイアの宝石に、六条の光が星彩を描く。蒼角は虹色に輝いて、眩い光が集まった。

 

 サファイアペガサス 攻撃力1800→7800

 

 サファイアの攻撃力は、自分を除いたフィールドと墓地の宝玉獣の種類につき1000ポイントアップする。合計6000ものパワーアップだ。

 

「これが、宝玉獣を7体揃えた姿か…!!」

 

 異彩を放つサファイアに、カイザーがわずかに気圧される。

 

「サファイアペガサスで、サイバードラゴンを攻撃!!」

 

 カノンと宝玉獣の力が合わさったサファイアが飛翔し、虹色に輝く角に暴風が渦巻いた。

 

 その猛威を前に、彼は真正面から立ち向かう覚悟を固める。

 

「カイザーの名にかけて、オレは勝たねばならん!!」

 

 威風堂々とした振る舞いは、アカデミア最強を名乗るに相応しい。

 

 その誇り高き強さが今、証明される。

 

「相手モンスターの攻撃宣言時、オレは手札から《融合》を捨てることで、《フュージョン・デスペラード》を発動ォ!!」

「──!?」

 

 前のターンに、“融合回収(フュージョン・リカバリー)”で加えていた《融合》のカードが、墓地スロットに吸い込まれる。

 

「その効果により、オレの墓地に眠る融合魔法を強制的に発動させる! オレは《パワー ・ボンド》を除外し、場のサイバードラゴン3体で融合!!」

 

 墓地から融合を発動させる無法な罠カード。

 

「──いでよ、《サイバー・エンド・ドラゴン》ッ!!!」

 

 カイザーと呼ばれる男の意地を体現した、最強のモンスター。このデュエルに終止符を打つため、フィールドに舞い戻った。

 

 サイバーエンドドラゴン 攻撃力8000

 

「バカな! そんなことをすれば、パワーボンドの効果で攻撃力分のダメージを受けるんだぞ!?」

 

 相手モンスターの数が変動したことで、カノンは攻撃を止めることができる。ターンを終了するだけで勝利するのだ。

 

 だが、カイザーは不敵な笑みを浮かべていた。

 

「このカードには、もう一つ効果がある。《フュージョン・デスペラード》によって召喚されたサイバーエンドドラゴンに、お前は攻撃しなければならない!!」

「──!?」

 

 戦闘強制効果。これにより、カノンは200ポイントの戦闘ダメージを受けて、敗北する。

 

「カイザー…」

「カノン。これほどまでに心震わせるデュエルは初めてだ。間違いなく、お前は最強の敵だった」

 

 サファイアペガサスが特攻を覚悟する。サイバーエンドが迎え撃つために、三つ首の口を開いてエネルギーを溜めた。

 

「私もだ、カイザー。あんたは最強の敵だ」

 

 カノンが俯いていた顔を上げる。

 

 その瞳には、勝負を諦めてなどいない、強い輝きが宿っていた。

 

「──このカードを引いてなければ、私の負けだった」

「なに!?」

 

 レインボールインの効果でドローしていた、最後の手札。勝敗を分ける、運命のカードだ。

 

「速攻魔法《宝玉の結束》を発動!フィールドの宝玉獣の種類だけ、サファイアペガサスの攻撃力を500ポイントアップさせる!!」

『今こそ、我らの力を合わせるとき!』

 

 サファイア、ルビー、アンバー、トパーズ、アメジスト。5体の宝玉獣の力が結束し、合計2500ポイントのパワーアップを遂げた。

 

 サファイアペガサス 攻撃力7800→10300

 

「攻撃力10300のサファイアペガサスだと!?」

 

 カノンが左手を突き出すと、胸元にあるペンダントが揺れる。レインボーの宝玉が強く反応しているのを感じていた。

 

「行け、サファイアペガサス!! スター・サファイア・トルネード!!!」

 

 暴風を纏った虹色の角を取り囲むように、六つの暴風が渦巻く。虹色の角を振り下ろすと同時に、七つの竜巻が放たれた。

 

 竜巻が吹き荒れる中、カイザーは目を閉じて、敗北を受け入れる。

 

 

 サイバーエンドドラゴンが粉砕された。

 

 

 丸藤亮 LP2000(-2300)→0

 

 デュエル終了の電子音が鳴り、ソリッドビジョンが消える。決着がついたというのに、二人は動かない。

 

 長い沈黙を破ったのは、呆然と立ち尽くしていた明日香だった。

 

「まさか、亮が負けるなんて…」

 

 全力で闘い抜いたカイザーは、満足そうな表情を浮かべていた。このデュエルに、一切の悔いはない。

 

「最高のデュエルだった」

「ああ。私も宝玉獣の力を最大限に引き出すことができた。感謝するよ、カイザー」

 

 レインボーの宝玉は目覚めなかったが、手応えはあった。まるで自分と一体になるかのような、繋がり合う感覚。

 

 カイザーとの死力を尽くしたデュエルは、間違いなく大きな躍進となった。レインボーの宝玉が覚醒する日は、そう遠くないだろう。

 

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