遊戯王GX 宝玉獣に選ばれし少女   作:アロイ

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#10 一色親子のレッスンデュエル

 

 デュエルアカデミアは冬休みを迎えた。ほとんどの生徒たちは帰省するが、寮に居残る生徒もいる。

 カノンも寮で過ごしていたかったのだが、母親や仕事の都合で、日本にある家に帰省することになった。

 

 カノンと母親とには大きな確執があり、顔を合わせることは億劫だった。

 

「おかえりなさい、カノンさん」

「ただいま戻りました、お母様…」

 

 堅苦しい言葉遣いで、長身の女性と挨拶を交わす。

 

 彼女はカノンの母親で、『一色真理亜(まりあ)』という真っ直ぐな黒髪をした日本人だ。カノンに入っている外国の血は、婿入りした父方のものである。

 

 一色グループは元々、モデル業界や美容業界に強い影響力がある一族だった。父親の方も似たような生まれで、結婚することでより影響力を強める狙いがあった。

 

 だが、そこにカノンというデュエルの天才が生まれたことで、新たにデュエル業界に参入。

 『一色カノン』の話題性により、女性層の取り込みに成功し、瞬く間に影響力を増していったのだ。

 

 さらに今では、宝玉獣という世界に1枚しか存在しないカードを手に入れたことで、世界的な注目までをも集めている。

 

 

 

 カノンと真理亜は昼食を一緒に取る予定を立てていたので、テーブルには専属シェフが作った豪華な料理が並んでいた。

 

 この昼食は、カノンにとって憂鬱な小言タイムだ。

 

「アカデミアの成績はどうだったのかしら?」

「筆記試験も実技試験も、満点合格です」

「そう。一色グループの娘として、恥ずかしくない成績を残してちょうだいね」

 

 カノンを褒めることはせず、当然のこととして受け止める。

 

「そういえば、また雑誌のインタビューで、精霊の話をしたんですって?」

「はい」

 

 お母様が顔をしかめる。一色グループの広告塔が、オカルトな発信をするのは歓迎できない。

 

「やめてちょうだい。そんな薄気味悪い話。あなたのイメージダウンに繋がるでしょう?」

「でもお母様、精霊は本当にいるんです!」

 

 子供の頃から繰り返し言っている話。だが、信じてもらえたことは一度もない。

 

「いつまでも妄想に浸ってないで、いい加減に現実を見なさい」

 

 お母様が語気を強めて叱りつける。

 

「あなたには、一色グループを継ぐという“使命”があるのですから」

「っ…」

 

 心の中で違うと否定する。カノンの使命は、人間と精霊の架け橋となることだ。

 

「本当なら、あなたをデュエルアカデミアに入学させるのも反対だったのよ。だけどそっちの方が利益になると思ったから、応援してあげてるの」

 

 宝玉獣のネームバリューを利用するため、カノンのアカデミア入学を許したのだ。そういった意味でも、宝玉獣はカノンを救ってくれた。

 

「なら、私がプロになって一色グループの名を轟かせれば、デュエルを続けさせてくれるんですか?」

「駄目よ」

 

 カノンの提案を一蹴する。

 

「デュエルモンスターズを始めてから、あなたの言葉遣いは乱れています。そんなもの、悪影響しかありません」

 

 言葉遣いが悪くなったのではなく、デュエルを通じて知り合った人たちから、一般常識を学んだのだ。

 

「そんなことはありません。デュエルモンスターズは、私の世界を広げてくれた!」

 

 親の言いなりになるだけの人生だと思っていたが、宝玉獣と出会ったことで、自分だけの夢を見つけることができた。

 

「デュエルをすれば、お母様にもそれが分かるはずです」

 

 デュエルの楽しさに目覚めてくれれば、デュエルを辞めろなんて言うはずがない。きっと分かり合える。

 

「私がデュエルを? 冗談じゃないわ。あんな子供の遊び」

 

 デュエルモンスターズのプロには、大人のファンも多数いるため、子供にだけ人気があるわけではない。

 

「お母様もルールくらいは把握しておいた方がよろしいんじゃないでしょうか。いざという時、デュエルもできないようでは信用を失いますよ」

「それは…」

 

 これからもデュエル界で事業を展開していくなら、デュエルの話は避けて通れない。他人にイメージを大切にしろと言うなら、自ら実行してほしい。

 

「私がレッスンします。せっかくなので、お母様もデュエルを覚えてみてはどうですか?」

「…はぁ。いいわ、ちょっとだけ付き合ってあげる」

 

 

 

 今回二人が使うのは、通常モンスターとシンプルな魔法と罠のみで固めた、初心者用のデッキだ。

 

「ルールは一見複雑そうだけど、やれば簡単です」

 

 あらかた説明して、実践に移る。どうせならと、デュエルディスクを装着することにした。

 

「──決闘(デュエル)!」

「でゅえる」

 

カノン LP4000 VS LP4000 真理亜

 

「手本を見せるため、こちらの先行から始めます。私のターン、ドロー」

 

 ゆっくりとデッキから1枚引いて、5枚ある手札に加える。

 

「《鎧蜥蜴(アーマー・リザード)》を攻撃表示で召喚」

 

 ディスクにカードを縦向きにして置くと、硬い体をした人型トカゲが現れる。

 

 鎧蜥蜴(アーマー・リザード) 攻撃力1500

 

「このモンスターはレベル 4ですが、レベル5以上のモンスターを召喚するには、場のモンスターを生贄に捧げる必要があります」

「ちゃんと覚えてるわよ」

 

 念を押すカノンを鬱陶しそうにする。

 

「そして、魔法カード《レッド・ポーション》を発動し、ライフを500ポイント回復します」

 

 カノンの体に回復のエフェクトがかかる。

 

 カノン LP4000(+500)→4500

 

「最後に、リバースカードを2枚セットします」

 

 空きスロットにカードを差し込むと、フィールドに可視化される。

 

「魔法カードと罠カードは、こうして裏側にして置くことができます」

 

 相手ターンに使える魔法カードは“速攻魔法”だけだが、ブラフにして相手を警戒させる手もあったりする。

 

「最初のターン、先行を取ったプレイヤーは攻撃できないので、お母様にターンが移ります」

 

 

 自分の番が回ってきたお母様が、たどたどしい仕草でカードをめくる。

 

「えっと…デッキから1枚引くのよね? ドローするわ」

 

 しばらく手札を眺めていたが、1枚のカードを選んだ。

 

「星マークが4つ以下なら召喚できるから…一番攻撃力の高い、このモンスターを召喚するわ」

 

 ぶつぶつと言いながら、《闇魔界の戦士 ダークソード》を場に出した。黒い鎧を身につけた戦士だ。

 

 ダークソード 攻撃力1800

 

「自分のモンスターの攻撃力が、相手より高ければ破壊できるから…このモンスターで、カノンのモンスターを攻撃するわ」

 

 ダークソードが鎧蜥蜴(アーマー・リザード)に斬りかかる。両手に持った剣で、体を真っ二つにした。

 

 カノン LP4500(-300)→4200

 

 デュエルディスクの衝撃機能は切ってあるので、爆発は起こらない。

 

「私もカードを2枚伏せて、ターンは終わりよ」

 

 カノンと同じように、セットカードを空きスロットに差し込む。

 

 

「私のターン、ドロー」

 

 手札のモンスターを横向きにして置く。

 

「《ブロッカー》を守備表示で召喚」

 

 体のパーツがそれぞれ分裂しており、攻撃にも回避にも使える。

 

 ブロッカー 守備力1800

 

「ちなみに、戦闘を行うモンスターの攻撃力と守備力が同じでは、どちらも破壊されないで、気をつけてくださいね」

 

 攻撃力1800のダークソードでは、カノンの場のブロッカーを戦闘破壊できない。

 

「ターンエンド」

 

 

「私のターン、ドロー」

 

 カノンのアドバイスを受け取り、自分の手札から解決策を探す。

 

「だったら、モンスターを生贄にして、レベル6の《フレイム・ケルベロス》を召喚するわ」

 

 全身が炎に包まれたケルベロスの魔獣が吠える。

 

 フレイムケルベロス 攻撃力2100

 

「このカードで、カノンのモンスターを攻撃」

 

 ケルベロスが地獄の炎を吐き出して、ブロッカーを処刑しようとする。

 

「リバース罠オープン! 《魔法の筒(マジック・シリンダー)》! 相手モンスターの攻撃宣言時、その攻撃を無効にし、攻撃力分のダメージを与える!」

 

 空中に二つの筒が現れて、片方の筒に炎が吸い込まれる。

 

「ふーん。なら伏せていた《サイクロン》を発動して、そのカードを破壊するわ」

「あっ…!」

 

 お母様が伏せカードが開く。カノンの魔法の筒(マジック・シリンダー)のカードは粉々になるが、ソリッドビジョンの筒は無事に炎を跳ね返した。

 

 真理亜 LP4000(-2100)→1900

 

「ちょっとカノン、この機械壊れてるんじゃない!? どうして、私がダメージを受けているのよ!」

 

 自分の想像とは違う処理が行われたことで、お母様がデュエルディスクにケチをつける。

 

 困り顔になったカノンが理由を説明する。

 

「えーっと、《サイクロン》で可能なのはカードの破壊であって、無効にはならないんです」

「破壊されたのに無効にならない…?」

 

 初心者が陥りやすい典型的な勘違いだ。

 

「だったら返してちょうだい。意味のないところで使うなんてもったいないわ」

「発動可能なタイミングで使ったカードは、もう戻せないんです」

 

 臨場感を味わってもらうために、デュエルディスクを使ったのが裏目に出た。紙のカードだけのやり取りなら、巻き戻すことで、攻撃前に伏せカードを破壊できた。

 

 相手の伏せカードを読むには、勘や閃きが大事になる。そしてそれは、経験によって磨かれていくものだ。

 

「…ターンエンドよ」

 

 納得のいかない不満顔で、ターン終了を宣言する。

 

 

「…私のターン、ドロー」

 

 少し雲行きが怪しくなってきて、カノンもドローする手が鈍る。

 

「私も《闇魔界の戦士 ダークソード》を召喚します」

 

 黒い鎧を身につけた戦士が現れる。

 

 ダークソード 攻撃力1800

 

「ダークソードで、フレイムケルベロスを攻撃!」

 

 ダークソードがケルベロスに斬りかかる。

 

「攻撃力の低いモンスターで攻撃? 何をしてるの?」

 

 カノンの意図が読めずに固まって動けない。

 

「この瞬間、リバースカード《援軍》を発動! ダークソードの攻撃力を500ポイントアップ!」

 

 ダークソードに攻撃力上昇のエフェクトがかかる。これで、フレイムケルベロスの攻撃力2100を上回った。

 

 ダークソード 攻撃力 1800→2300

 

「だったら、私も伏せていた《強制脱出装置》を発動するわ」

「あっ…」

 

 しかし、その伏せカードは発動せず、ダークソードがフレイムケルベロスを斬る。

 

 真理亜 LP1900(-200)→1700

 

「どうして反応しないよ!」

「そのカードはバトルステップまでにしか発動できないんです」

「だから、そのバトルの最中じゃない!」

 

 確かにそうなのだが、ルール上ではきちんと区別されている。

 

「モンスターの攻撃というは、大きく分けて三つのタイミングがあるんです。攻撃宣言、バトルステップ、ダメージステップの順に進みます」

 

 カノンが指を3本立てて説明する。厳密に言うと、かなり細かく分けられているのだが省く。

 

「そして、《援軍》を発動したタイミングは、一番最後のダメージステップなので、攻撃力と守備力を増減させるカードと、その発動を無効にするカードしか使えません」

 

 これもまた厳密には違うのだが、覚えていくしかない。

 

「《強制脱出装置》を発動するには、ダメージステップ以外のタイミングに、発動する必要があったんです」

 

 バトルフェイズ中は、相手がどんな手札を握っているか、伏せているか、常に考えなくてはいけない。

 

 その駆け引きこそが、デュエルの醍醐味というやつだ。

 

 カノンの説明を黙って聞いていた彼女だったが、やがて構えていたデュエルディスクを下げた。

 

「やめよ。こんな子供の遊び、付き合ってられないわ」

「え…」

 

 デュエルディスクの電源を切って、デュエルを強制終了させる。ソリッドビジョンのモンスターが消えた。

 

「ま、待ってください。きちんとルールを覚えれば、きっと…!」

「必要ありません」

 

 追いすがるカノンを、今度はバッサリと切り捨てる。

 

「いい、カノン? カード遊びはアカデミア卒業までですからね。あなたには、一色グループの後継者として、学ぶべきことがたくさんあるのです」

 

 高圧的な態度で母親が娘に命令する姿は、いつもの親子らしい光景であった。

 

「あなたの世界は、この家にしかないのよ」

 

 それは、カノンにとって絶望の一言だった。

 

「ですが…」

「いいですね!?」

「…はい」

 

 二の腕をきつく握ったカノンが、喉から絞り出したような返事をする。進路を勝手に決められようと、カノンに拒否権はない。

 

 ──お母さまにとって、私もデュエルも、所詮は仕事の道具でしかない。

 

 母親が乱暴に部屋を出ていくと、扉がバタンと閉まる音が響いた。

 

 

 

 自室に戻ったカノンは、薄暗い部屋の中で俯いていた。

 

『ルビィ…』

「私は大丈夫だよ、ルビー」

 

 カノンの肩にルビーが姿を見せて、慰めるように身を寄せる。

 ルビー以外の宝玉獣たちも、一斉に姿を見せる。その目はどれも、カノンを心配している気遣いで溢れていた。

 

 宝玉獣とふれあい、宝玉獣(家族)に励ましてもらったことで、少しだけ気持ちを立て直すことができた。

 

「何とかするさ。デュエルを捨てたりなんて、絶対にしない」

 

 無理やり作った笑顔で強がりを言うが、心の隅でそっと闇が漏れる。

 

 ──いっそ、どこか別の世界に消えてしまえたらいいのに。

 

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