遊戯王GX 宝玉獣に選ばれし少女   作:アロイ

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#15 カノンとE・ヒーローデッキの十代

 

 第2回戦の十代VS三沢は、十代が勝利した。これにより、次の最終戦でアカデミアの代表が決まることになる。

 

 

 

「えぇ〜!? アニキ、カノンさんのこと知らないんっすか〜!?」

 

 オンボロなレッド寮が揺れるほどの声量で、翔が叫んだ。

 

「な、なんだよ。そんなに大声出して」

 

 十代が咄嗟に両手で耳を塞いだ。

 

「大声出すのも当然なんだな。彼女は入学したときから、全校生徒の間で騒ぎになってたんだな」

 

 隼人にまで信じられないと言われ、十代はようやく彼女の知名度を理解する。

 

「ふーん、そんなに有名なやつなのか?」

「この学園で知らない人なんかいないっすよ」

「ここにいるじゃん」

 

 十代がおちゃらけた様子で自分を指さす。

 

「とにかく! いくらアニキとはいえ、カノンさん相手じゃ勝ち目ないっす! なんたって、あのお兄さんに勝ったこともあるんっすよ!?」

「カイザーに!?」

 

 その名を聞いて、さすがの十代も顔色を変える。前に闘ったことがあるが、力及ばず敗北してしまったからだ。

 

「そうっす! “宝玉獣”っていう世界で1枚しかないカードの使い手で、三沢くんとのデュエルを見てても、めちゃくちゃ強くて驚きっす!」

 

 他にも、十代が強敵だと思った決闘者(デュエリスト)を軒並み倒していて、好奇心をくすぐられる。

 

「カノンってやつ、そんなすげぇカード持ってんのかよ。うひょ〜! 早くデュエルしてみてぇ〜!!」

 

 胸の奥底から湧いてくる疼きが止まらない。居ても立ってもいられず、ついにはレッド寮を飛び出した。

 

「あっ! どこいくんすか、アニキ!?」

「ちょっと、そのカノンってやつを探してくる!」

「えぇ〜!? 対戦するんだから、これから会えるじゃないっすか!?」

 

 それすら待てないという勢いで、カノン探しの旅に出かけた。

 

「そういえば、翔のやつに名前以外聞くの忘れてたな…まあいっか!」

 

 十代がアカデミア中を探し回る。道行く生徒たちにも聞き込み、一色カノンの目撃情報を辿っていく。

 

 しかし、すべて空振りに終わってしまう。

 

「ダメだ…ぜんぜん見つかんねぇ…」

 

 歩き疲れた十代が屋上で大の字になる。快晴の空の下、心地のよい太陽の日差しに、意識が沈んでいく。

 

 

 夢を見ていた──。

 

 

 そこでは、名も知らぬ青年が虹色の竜を従えていた。

 

 対峙するのは得体の知れない光。

 

 激闘の末に、青年と竜が光に幽閉される。

 

 その狭間から、竜の苦しむ悲鳴が漏れる。

 

 七色の虹に一色が足されたことで、世界が創り変えられていく。

 

 崩壊していく世界に、異変を察知した十代が必死に叫んだ。

 

「『ーーー』!!」

 

 ──まただ。またオレは救えなかった。またオレのせいで…。

 

「待ってくれよ、『ーーー』!!」

 

 視界が真っ白な光に染まった。

 

「うあああーーッ!?」

 

 凄惨な出来事に、十代が慟哭しながら飛び起きる。すぐ傍には、ハネクリボーの精霊が姿を見せていた。

 

『クリクリ〜!』

「ハネクリボー…。そっか、変な夢から、お前が起こしてくれたのか」

 

 安堵したのも束の間、彼の頬からぽたっと水滴が落ちる。

 

「あれ…? オレ、なんで泣いてるんだ…?」

 

 何か悲しい夢を見ていたような気がしたけど、よく思い出せない。無造作に袖で目元を拭った。

 

『クリクリ〜!』

「どうしたんだよ? んっ…?」

 

 ハネクリボーの鳴き声に、十代が横を向く。

 

 赤く発光する玉が、物陰から揺れ動いていた。そこからぴょこっと覗いたのは、デュエルモンスターズの精霊だった。

 

「なんだこいつ…リス?」

 

 近寄ってきた精霊を見下ろしていると、どこからか誰かを呼ぶ声が聞こえた。

 

「おーい、ルビー!」

『ルビ?』

 

 十代が視線で追いかける。その精霊は、ブルーの制服を着た女子生徒──カノンの肩まで登って、頬ずりをする。

 

「こんなところにいたのか」

 

 突然走り出したルビーを追いかけて、カノンはここまでやってきたのだ。

 

「よぉ!」

「ん?」

 

 オシリスレッドの制服を着た男子生徒が、カノンに声をかけてきた。

 

「そいつ、ルビーって言うのか?」

「ああ。このコはカーバンクルのルビー」

「カーバンクル?」

「伝説上の生き物さ」

 

 カノンがルビーに微笑みながら答える。

 

「ふーん、伝説って?」

「ああ! それってハネクリボー?」

『クリクリ〜!』

 

 ハネクリボーの精霊を見つけたカノンが、すぐに反応する。レッドの制服に、精霊が見える男子生徒。聞いていた特徴と一致する。

 

「それじゃあ、キミが遊城十代!!」

「そうだけど…。お前、ハネクリボーが見えるのか!?」

 

 カードの精霊が見える人間と初めて遭遇した十代が、信じられないというように驚く。

 

「私には小さい頃から、デュエルモンスターズの精霊が見えるんだ。それはキミも同じでしょ?」

「うん、オレもずっと小さい頃から……あれ?」

 

 自然と口から出た言葉に、妙な胸騒ぎが十代を締めつける。

 

「(──いつからだっけ? オレに精霊が見えるようになったのは…?)」

 

 強烈なデジャブに襲われる。

 

 すごく大切な存在を忘れているような。

 

 何かが致命的に歪められているような。

 

 だけど思い出すことができない、そんな記憶。

 

「見ない顔だけど、もしかして上級生?」

「え? いや、私は1年生だよ。特待生だから、授業に出てないんだ」

「同級生だったのか。よろしくな!」

 

 二人が握手を交わし、目を見合わせる。

 

「…なんか、不思議な気がする」

「私もだ。初めて会った気がしない」

「うん」

 

 ずっと前から、お互いのことを知っていたような、旧友であったかのような運命を感じていた。

 

「…なぁ、お前の名前って───」

 

 十代が深刻そうな顔で何か言おうとしたが、呼び出しの校内放送がかかる。

 

『ドロップアウトボーイ!! 物理学のレポート提出がまだナノーネ! 至急、物理学教室まで持って来るノーネ!!』

 

 校内放送で呼び出しがかかり、十代がハッとする。

 

「やっべぇー! じゃあ、オレ行くわ! またどっかでな! いくぞ、ハネクリボー!」

『クリクリ〜!』

 

 慌てて去っていく十代の後ろ姿を、カノンが「ふふっ」と微笑みながら見送った。

 

 

 

 その日、カノンは鮫島校長から呼び出しを受けていた。途中でルビーがどこかに行ってしまったのは驚いたが、時間通りに校長室の扉をノックする。

 

「入りたまえ」

 

 そう促されて入ると、室内には鮫島校長の他にもう一人いた。その人物とは、カノンに宝玉獣を託してくれた、ペガサス会長だ。

 

「オー! 一色ガール、お久しぶりデース!」

「ペガサス会長!? どうしてここに?」

 

 歓迎するように両腕を広げられ、カノンは視線を鮫島校長に向けた。

 

「急遽、君に話すことがあると言ってね。私に連絡がきたんだ」

 

 その説明に、ペガサス会長が頷く。忙しいはずの会長が、わざわざアカデミアに来てまで話したいことが想像つかない。

 

「私がここに来た理由。それは、ユーに伝えなければならない、ビッグニュースがあるのデース!!」

「ビッグニュース? なんですそれ?」

 

 嬉しそうに語るペガサス会長に、カノンが首を傾げた。

 

「実は、レインボードラゴンの反応があったのデース!!」

「レインボードラゴン!?」

 

 待ち望んでいた存在に、カノンの胸が高鳴る。

 

「アカデミアで冬休みが開けた頃でしょうか? これまで手がかりすら見つけられなかったレインボードラゴンが、一瞬だけ反応を示したのデース!」

 

 早く成否が知りたくて、カノンが食い気味に質問する。

 

「それで、レインボードラゴンの石版は見つかったんですか!?」

「ソーリー…。本当に一瞬だったので、位置を特定するには至らなかったのデース…」

 

 レインボードラゴン入手までの道のりが、また遠のいたことに強く落胆する。

 

「そうですか…」

「そこで原因を調査するべく、アカデミアに足を運んだのデース。ここ最近で、何か変わった出来事はありませんでしたか?」

 

 カノンが顎に軽く手を当て、記憶を遡っていく。

 

「冬休み開けにすぐ…変わった出来事…あっ!」

「どうやら心当たりがあるようですね。聞かせてくだサーイ」

「えぇ」

 

 カノンはアカデミアの古代遺跡から、精霊界と思われる異世界に行き、墓守の精霊と出会ったことを語った。

 

「…なるほど。一色ガールが異世界に迷い込んだから、レインボードラゴンは反応したのですね?」

「はい」

「それは実にワンダフォーな体験でしたね」

 

 荒唐無稽な話を疑うことなく、あっさりと信用してくれる。

 

「しかし、再現するにはあまりに危険が多すぎマース。他の方法を探すしかないようデスね」

 

 残念そうに頭を振った。カノンもあれから古代遺跡を調査したが、異世界に行くことはできなかった。

 せめて、レインボードラゴンの石版が、現実世界にあるのか異世界にあるのかは特定したかったが仕方ない。

 

「それではこれで失礼しマース」

「もうお戻りに? これから、カノンくんの学園代表決定デュエルがあるんですよ。ペガサス会長もどうですか?」

「オー…それはぜひとも見たいのですが、予定が詰まっていて忙しいのデース。では」

 

 別れを告げて、ペガサス会長が校長室から出ていく。それを見送った鮫島校長が、カノンに視線を向ける。

 

「呼び出してすまなかったね。十代くんとのデュエル、心から楽しみにしているよ」

「はい」

 

 その激励に、カノンが気負うことなく返事する。十代とのデュエルを楽しみにしているのは、カノンも同じだ。

 

 

 

 最終戦が行われるデュエル場には、すでに十代がスタンバイしていた。遅れて登場したカノンに対して、気さくに声をかける。

 

「よぉ! カノンってやつ見なかったか?」

「えっ? カノン…?」

 

 そういえば、十代に名乗ってなかったことに気付く。

 

「そのカノンってやつは、私なんだ」

「えっ?」

 

 目を瞬かせる十代。クロノスが彼女を急かした。

 

『シニョーラ・一色。早く、デュエルリングに上がるノーネ!』

「はい」

 

 自分の目の前に立った少女に、ようやく理解が追いつく。

 

「お前がカノンだったのか!?」

「悪いね。別に騙すつもりじゃなかったんだけど」

「そうだったのか」

 

 よくよく考えてみれば、答えにたどり着けるピースは散らばっていたのだが、宝玉獣と彼女とが、十代の中ではなぜか結びつかなかった。

 

『このデュエルに勝利した者が、我が校デュエルアカデミアの代表となるノーネ!』

 

 クロノスが開戦のアナウンスをする。二人のデュエルを、今か今かと観客たちが待ち受ける。

 

「アニキ、頑張ってー!」

「負けるな、十代ー!」

 

 翔と隼人が声を張り上げて応援する。

 

「実力で言えば彼女が上。だが、十代にはそれを覆すような、奇跡を起こす力がある」

「全く勝敗が読めないわね」

 

 三沢と明日香がそれぞれの所感を述べる。

 

「この二人がぶつかったとき、いったい何が起こるのか。オレ自身が一番楽しみにしている」

 

 二人を推薦した張本人のカイザーが、デュエルリングを見下ろした。

 

「カノン、お前みたいなやつと闘えるなんて、ワクワクするぜ!」

「私もキミとデュエルするのを、ずっと楽しみにしてたんだ!」

 

 好敵手の予感。こうして向き合うことで、そんな感覚が、二人の間に生まれていた。

 

「いくぜッ!!」

「来いっ!!」

 

 お互いにデュエルディスクを構える。

 

「「──決闘(デュエル)ッ!!」」

 

カノン LP4000 VS LP4000 十代

 

「私のターン、ドロー!」

 

 カノンの先行で、デュエルが始まった。

 

「出ろ! 《宝玉獣 コバルトイーグル》を攻撃表示で召喚!!」

 

 コバルトの宝玉が砕け、中からオレンジ色のたてがみを生やした鷲が現れる。胸を覆う革の防具には、コバルトの宝石が飾られている。

 

 コバルトイーグル 攻撃力1400

 

「これが、宝玉獣…!!」

 

 初めて見るモンスターに、十代が目を奪われる。

 

『さっそくオイラの出番かよ、カノン』

「今日の相手は油断ならないよ」

『なるほどな。アイツはかなり良い目をしてるじゃねぇーの?』

 

 カノンがコバルトイーグルの精霊と話していると、十代が子供のように目をキラキラと輝かせる。

 

「すげー! お前の精霊、ちゃんと話せるのか!?」

「このコたちは、私の友達…。いや、家族だからね!」

「デュエルモンスターズが家族か…お前、面白いこと言うなぁ!」

 

 精霊を家族と呼ぶことに、少しも疑問に思わない笑顔に、カノンも頬が緩む。

 

「さっきからアニキたち、何を話してるんすかね?」

「似た者同士って感じがするんだな」

 

 

 そして、十代のターンがやってくる。

 

「よっしゃー! オレも負けてられねーぜ! ドロー!」

 

 十代が勢いよくカードを引き抜き、ディスクにモンスターカードを置いた。

 

「オレは《E・HERO スパークマン》を召喚!」

 

 青いヘルメットシールドで顔を隠した光の戦士。胴体を覆う黄色の装甲には、背中にジェットパックの翼がある。

 

 スパークマン 攻撃力1600

 

「へぇ、ヒーローデッキか!」

「ああ! オレの大好きな仲間たちさ!」

 

 デュエルで人を救いたいと思っているカノンは、ヒーローに憧れがある。

 だが、今は倒すべき相手であるため、目の前のデュエルに集中する。

 

「スパークマンで、コバルトイーグルを攻撃! スパークフラッシュ!!」

「うあ゙っ…!」

 

 スパークマンの両手から、聖なる輝きをした雷がコバルトに放たれる。爆散した衝撃が、カノンを襲った。

 

 カノン LP4000(-200)→3800

 

「へへん! どうだ、お前の宝玉獣を倒してやったぜ!」

「アニキってば、調子乗っちゃって…」

「見てるこっちが恥ずかしいんだな…」

 

 ピースマークを掲げる十代に、翔と隼人が頭を抱えた。二人は宝玉獣の特性を知っている。

 

「えっ…なんだ…?」

 

 フィールドに漂う爆煙の隙間から、藍色の粒子が舞う。煙が晴れる頃には、コバルトの宝玉に結晶化していた。

 

「残念だったね。モンスターゾーンで破壊された宝玉獣は永続魔法扱いの宝玉となり、魔法&罠(マジック・トラップ)ゾーンに置くことができる」

 

 宝玉獣の特殊効果に、十代は驚くどころか、歓喜に打ち震えている。

 

「すげぇ…すげぇー!! お前のモンスター、最高だぜ!!」

「これこそが、宝玉獣に宿る力。私と共に、決してデュエルを諦めない力さ!」

 

 デュエルは始まったばかり。勝負の流れを相手に譲るつもりはない。

 

「おもしれぇ! こんなモンスターは今まで見たことないぜ! オレはカードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

 二人のデュエルエナジーが高まり合う。変わった少年──遊城十代との出会いが、お互いの運命を歪なほど左右してしまうことを、二人はまだ知らなかった。

 

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