日本に移住したカノンは、自室で宝玉獣デッキの最終確認をしていた。前日にデッキを調整したので、違うカードが混ざっていないか等をチェックし、デッキケースに入れた。
「あとは…」
テーブルの上に置かれているペンダントに視線を向ける。その紐部分を手に取って、ペンダントをぶら下げた。
ゆらゆらと揺れるペンダントトップには、ペガサス会長から譲り受けたレインボーの宝玉が飾られている。あれから特に変化はなく、目覚める兆候もない。
そのペンダントを首にかける。レインボーの宝玉を手に入れて以来、カノンはこうして肌身離さず持ち歩いていた。
今日はデュエルアカデミアの入学試験がある。本来なら、カノンは受験会場である海馬ランド内のデュエルドームにいるはずだった。
しかし、前日になって受験会場の変更を知らされて、カノンだげが他の受験生とは違う場所に足を運ぶ。
「失礼します」
呼び出されていた部屋に入ると、中には鮫島校長が長机の上で手を組んでおり、その横には、眼鏡をかけた細身の先生が立っていた。
「おお、来たかね」
「校長先生…? あの、どうして私が呼び出されたんでしょう」
「うむ。単刀直入に言えば、君の合格が決まっているからだ」
「どういうことですか?」
鮫島校長はその理由をカノンに説明する。
「事前に受けてもらった筆記試験は満点。ヨーロッパのデュエル大会で、いくつも優勝を重ねてきた君なら、実技試験を受けるまでもなく、合格基準に達しているというわけだ」
カノンの実力は、プロのデュエルリーグでも通用すると言われているほどで、他の受験生とはレベルが違う。
「ゴホンッ…! そのうえ、一色グループからは大量の寄付金まで頂いているからね」
「はあ…」
ボソッと付け加えた本音に、カノンは呆れてしまった。
「そこで我が校は、一色カノンくん。君のことを“特待生”として迎えたいと思っている」
「特待生…? その制度は廃止されたはずじゃ…」
とっくに学園を卒業しているはずの特待生が帰ってこないことから、行方不明が原因なのではと噂されているが、真相は謎に包まれている。
「そうだ。今のアカデミアに特待生は居ない。特待生寮も廃寮となったため、君はブルー寮に配属されるだろう」
しかし、その待遇が変わらないことをアピールする。
「もちろん、特待生としての立場は保証する。禁止区域への立ち入りも許可されて、月に一度のテストで好成績を収めていれば授業も免除だ。君の仕事の都合で、テストの日程をズラすこともできるが、どうかね?」
「その確認のために、私を呼んだんですか?」
退屈そうなカノンに、鮫島校長は首を横に振る。
「いや。それも含めて、君が本当に特待生としての実力を持っているのか、試験デュエルを実施するために呼ばせてもらった」
「試験デュエル?」
デュエルという言葉に、カノンが反応する。
「この試験デュエルに勝てば、君を特待生として扱うが、負ければ一般生徒と同じ扱いでの入学となる。それでも受けるかね?」
試すような視線を向けられたカノンは、不敵な笑みを浮かべる。
「いいですよ。せっかくデュエルするつもりで来たのに、つまらない話ばかりされて、物足りなかったので」
「ふっ、頼もしいことだ」
「相手は校長先生ですか?」
自分を見据えるカノンの鋭い視線を、鮫島校長が横にいる人物に移す。
「いや、君の相手は彼が務める」
そう促された細身の先生が一歩前に出ると、自己紹介を始めた。
「お会いできて光栄だニャ、一色カノンさん。私はレッド寮の寮長で、錬金術の授業を担当している大徳寺だニャ」
「ニャ…?」
変な語尾をしている大徳寺に、カノンが首を傾げる。
「彼はデュエルモンスターズの精霊も研究していてね。君には、その精霊が見えると聞いて、試験官を担当してもらうことにしたんだ」
それはカノンにとっても興味深い話だった。
「大徳寺先生も、精霊が見えるんですか?」
「残念ながら、私に精霊を見る力はないのニャ。でも、精霊が宿っているカードを持っていた、古い友人なら知っていますよ」
カノンは自分以外に精霊が見える人と会ったことがない。いつか、大徳寺先生の友人と精霊について話がしてみたいと思った。
「カノンくんには、この大徳寺先生とデュエルしてもらいます。準備はいいですか?」
「私はいつでも」
「こっちもOKなのニャ」
向き合った二人が自分のデッキをセットすると、デュエルディスクが変形する。
「先行はカノンさんに譲りますニャ」
「なら、遠慮なく」
カノンがデッキに指を添えて、カードを1枚引く。
「私のターン、ドロー!」
6枚になった手札を眺め、その中から1枚のカードをデュエルディスクにセットする。
「出ろ! 《宝玉獣 エメラルドタートル》を守備表示で召喚!」
エメラルドの宝玉が砕け、中から殻に籠った亀が現れる。その甲羅からはエメラルドの結晶が突き出ている。
エメラルドタートル 守備力2000
「ほぅ…。これが噂に聞く宝玉獣ですか…」
「お目にかかれて嬉しいのニャ!」
世界に1枚しかない伝説のレアカードに出会えたことで、大人たちのテンションが上がる。
『落ち着いて闘うのじゃよ、カノン』
「ありがとう、エメラルド」
先行は最初のターン、攻撃することができない。
「私はさらにカードを1枚伏せて、ターンエンド!」
カノンがデュエルディスクにカードを差し込むと、裏側にセットされたカードが、ソリッドビジョンとして現れる。
「いきなり守備力2000のモンスターを召喚するなんて、さすがですねぇ。私も負けていられないのニャ…ドロー!」
大徳寺がカードを引くと、手札を1枚ディスクにセットする。
「私は、《またたびキャット》を攻撃表示で召喚するのニャ!」
寝転んでいる唐草模様の猫が、「にゃあ〜♡」と甘えたような声で鳴いた。
またたびキャット 攻撃力0
攻撃力0のモンスターを攻撃表示で召喚されたカノンは、それを侮ることなく、逆に顔を険しくする。
「またたびキャット…! あのモンスターには、相手モンスター1体の守備力を0にする効果があったはず…!」
「よく勉強しているようで感心感心なのニャ」
相手モンスターの効果を言い当てたカノンを、大徳寺が教師らしく褒める。
「それでは、またたびキャットの効果を発動させてもらうのニャ。エメラルドタートルの守備力を0に!!」
あざとい猫の可愛さに絆されたエメラルドの警戒心が消えていく。すっかり目尻が下がってしまった。
エメラルドタートル 守備力2000→0
『ほほほ、可愛いのぉ〜』
「だけど、またたびキャットの攻撃力は0! 守備モンスターの守備力と同じ攻撃力では、戦闘破壊はできない!」
カノンの指摘は正しいが、それほど爪の甘い先生ではなかった。
「その通りなのニャ。だから私は、手札から装備魔法《覚醒》を、またたびキャットに装備するのニャ」
またたびキャットが起き上がり、その牙や爪を剥き出しにして、「シャー!」とカノンを威嚇する。
「その効果で、またたびキャットの攻撃力は400ポイントアップだニャ!」
「くっ…」
またたびキャット 攻撃力0→400
エメラルドタートルを倒す手段が整ったことで、バトルフェイズに突入する。
「覚醒したまたたびキャットで、エメラルドタートルを攻撃!」
大徳寺の攻撃宣言と共に、またたびキャットが飛びかかる。エメラルドタートルが破壊されたことで、ソリッドビジョンの爆発が起こる。
「ぐっ…すまない、エメラルド!」
カノンが爆発の衝撃から耐えるように、腕で顔を庇った。
「これでカノンさんの場には、モンスターがいなくなったのニャ……おや?」
爆発によって起こった煙が晴れると、そこにはエメラルドの宝玉が置かれていた。
「ニャッ!? 確かに破壊したはずなのに、どうしてフィールドに残っているのニャ!?」
信じられない光景に、大徳寺がひっくり返ったような声を出す。
カノンが腕をバッと払って、宝玉を示した。
「宝玉獣の特殊能力!! それは、破壊されても結晶となり、
破壊された宝玉獣たちは、カノンを守るように、永続魔法カード扱いの宝玉と化して場に残る。これこそが、宝玉獣に宿る力。カノンと共に、決してデュエルを諦めない力だ。
「ほほぅ。これが、宝玉獣の真の力というわけですか」
「まったく見たことのないモンスターですね」
大徳寺先生と鮫島校長の二人が、宝玉獣に対する思い思いの感想を呟く。
「少しビックリしましたが、まだこっちのターンは続いていますよ。私は速攻魔法、《速攻召喚》を発動するのニャ!」
大徳寺が発動したのは、手札のモンスター1体を通常召喚する、速攻魔法カードだ。
「来るのニャ! 2体目の《またたびキャット》を攻撃表示で召喚!」
「またたびキャットが2体…!」
厄介なモンスターが並んでしまったことで、カノンが眉を寄せる。
「さらにカードを1枚セットして、ターン終了ですニャ」
大徳寺がディスクにカードを差し込むと、セットカードが現れる。
「私のターン!」
デッキからドローしたカードを見て、カノンはそのモンスターを召喚する。
「猫には猫だ! 来い! 《宝玉獣 アメジストキャット》!」
アメジストの宝玉が砕け、中からしなやかな猫が鳴き声を上げて現れる。その胸元には、大きなアメジストの宝石がブローチのように着飾られている。
アメジストキャット 攻撃力1200
『まったく、エメラルドは不甲斐ないわね。あんな媚びた猫の何が良いのかしら』
「頼むぞ、アメジスト」
同じ猫として怒りに燃えるアメジストと共に、バトルフェイズに突入する。
「バトル!」
攻撃を行おうとするカノンに、大徳寺が慌てて待ったをかける。
「おっと、お忘れですか? またたびキャットがフィールドに2体いるとき、相手はどっちのモンスターにも攻撃できないのニャ!」
《またたびキャット》は、自分以外の獣族モンスターが存在する場合に、自分を攻撃できなくなるという効果を持っている。
その効果をお互いに適用し合い、どちらも攻撃対象にできない、というのが今の状況だ。
それは所謂、ロック戦術と言われるもので、突破口を見つけられなければ、永遠に苦しめられてしまう強力なタクティクスだ。
だが、それに気づかないカノンではない。
「無駄だ! アメジストキャットの特殊効果! 攻撃力を半分にすることで、相手プレイヤーに直接攻撃ができる!」
「そ、そんな効果があったんですかニャ!?」
アメジストキャット 攻撃力1200→600
「行け、アメジスト・ネイル!」
『シャーッ!』
「ひぃ!?」
身軽な動きでモンスターを飛び越える。アメジストのダイレクトアタックを受けた大徳寺先生の顔に、猫の引っかき傷が残る。
大徳寺 LP4000(-600)→3400
「いたた…! ファラオより強烈なのニャ!」
ソリッドビジョンなのだが、彼の飼い猫であるファラオに引っ掻かれるより痛い気がしていた。
『ざっとこんなもんよ』
「ご苦労さま」
攻撃から戻ってきたアメジストを、カノンが労う。
「私はもう1枚カードを伏せて、ターンエンド」
すでに2つ埋まっている、ディスクの空きスロットにカードを差し込み、場にセットカードを増やす。
「──またたびキャットのロック戦術にも動揺せず、冷静に対処する。実に素晴らしいデュエリストだ。…しかし、我が校の教師も中々負けてはいませんよ」
鮫島校長の言葉通り、大徳寺が動きを見せる。
「この瞬間、私はリバースカードをオープンするのニャ! 永続
「なにっ!?」
《底なし流砂》は、相手エンドフェイズに1度だけ、フィールドに存在する攻撃力が一番高いモンスターを破壊するカードだ。
「その効果により、攻撃力が一番高いアメジストキャットが、破壊されるんだニャ」
細い目をした笑顔で、アメジストを指差す。
『カノン…!』
「アメジストキャット!」
底なし流砂に呑まれて、アメジストが破壊されてしまう。
「くっ…アメジストキャットの効果発動!」
カノンの魔法&罠ゾーンに、アメジストの宝玉が追加される。しかし、苦しい状況に変わりはない。
「(この先生…。頼りなさそうな見た目のくせして強い…!)」
仮に《覚醒》が、《団結の力》のような攻撃力を大幅アップさせるようなカードだった場合、《底なし流砂》は使えなかった。
攻撃力の低いモンスターだからこそ、強く使えるカードがデッキに組み込まれている。レッド寮の寮長だけある戦術だった。
すでにターン終了を宣言しているカノンにできることはない。がら空きの盤面で、相手にターンが回ってしまう。
「私のターン、ドロー! そして、《底なし流砂》の効果発動。自分のスタンバイフェイズに、手札が4枚以下の場合、このカードは破壊されてしまうのニャ」
先生の手札は2枚なので、表側表示の《底なし流砂》は場から消滅する。
LPはカノンが優勢だが、戦況は圧倒的に不利。幸いにして、相手は攻撃力の低いモンスターばかりなので、このターンに倒される可能性は低い。
カノンがそう目算していると、大徳寺先生が魔法カードをディスクのスロットに差し込む。
「私は《強欲の壺》を発動! デッキからカードを2枚引いて、このカードを破壊するのニャア」
気味の悪い壺がフィールドに現れて粉々になる。手札増強カードにより、大徳寺の手札が、2枚から3枚に増えてしまった。
何をしてくるのか、カノンが身構えていると、大徳寺先生が「ふぅー」と小さく息を吐く。
「まことに残念ですが、カノンさんの特待生試験デュエルは、不合格となりそうだニャ」
「なに…?」
唐突な勝利宣言に、カノンの顔が険しくなる。
「すでに必殺のコンボは完成しているのニャ! 私はこのカード、《ミリス・レディエント》を攻撃表示で召喚するのニャ!」
青い布を前掛けのように着けた、毛むくじゃらの猛獣が現れる。「グルルッ…!」と機嫌悪そうに唸る口からは、鋭利な牙が覗いている。
ミリスレディエント 攻撃力300
「ミリスレディエントの効果で、フィールドの地属性モンスターの攻撃力を500ポイントアップさせる!!」
「またたびキャットの属性は地…!」
「そういうことなんだニャ」
またたびキャット 攻撃力400→900
またたびキャット 攻撃力0→500
ミリスレディエント 攻撃力300→800
「確かにパワーアップはした…。でも、その程度の攻撃力では、私を倒せない!」
カノンのLPはデュエル開始時から、4000のまま減っていない。3体の合計攻撃力では、このターンに減らしきることは難しいはずだ。
しかし、その指摘に慌てることなく、彼は余裕の笑みを浮かべた。
「フッフッフッ。これで終わりではないんだニャ。私はさらに、速攻魔法、《百獣大行進》を手札から発動するのニャ!!」
カノンを敗北に追いやるためのカードを見せつける。
「その効果によって、自分フィールドの獣族モンスター1体につき、私の獣族たちの攻撃力は200ポイントアップするのニャ!」
「先生の場にいる獣族は3体…。攻撃力は600ポイントアップ!? まずいっ!」
度重なるパワーアップにより、獣たちが「ウォォォォ!!」と雄叫びを上げて、その体が巨大化していく。
またたびキャット 攻撃力900→1500
またたびキャット 攻撃力500→1100
ミリスレディエント 攻撃力800→1400
「攻撃力の合計は4000ポイント! カノンさんに一斉攻撃だニャ!」
大徳寺先生の号令で、巨大な獣たちが土煙を上げて大行進を始める。
手始めに、またたびキャット2体がカノンを見下ろし、その鋭い爪でカノンのLPを削り取った。
「うわああーッ!!」
LP4000(-2600)→1400
ダメージの衝撃に耐えるカノンに、ミリスレディエントがとどめの攻撃を仕掛ける。まるで、お手でもするかのようにカノンを踏み潰した。
「ぐわあああッ!?」
ダメージを受けたカノンの悲鳴が響く。誰もが決着がついたと思った瞬間だった。
「ニャ…?」
モンスターの攻撃によって舞い上がった土煙が晴れると、そこにはカノンが無事に立っていた。
カノン LP150
「ニャアッ!? どうしてライフポイントが残っているのかニャ!?」
デュエルが終わっていないことに、大徳寺が狼狽える。口角を上げたカノンが、その訳を明かした。
「先生が攻撃する直前、私はこのカードを発動していた!」
先ほどまでカノンの場に伏せられていたカードが、今は表側に開かれていた。そのカードの名前は《宝玉割断》。
「《宝玉割断》は、デッキから宝玉獣と名のつくカード1枚を墓地へ送り発動できる、罠カード!」
カノンはこのカードを発動した瞬間を思い出していた。
「その効果により、ミリスレディエントの元々の攻撃力は半減! 攻撃力がダウンしたことで、3体の合計ダメージは3850ポイントとなった!!」
「そ、そんニャア…!?」
あと一歩届かなかったことに、大徳寺が肩を落とす。
「私は最後の手札を伏せて、ターンエンドなのニャ…」
先生がターンの終了を宣言したことで、《百獣大行進》の効果が消える。《宝玉割断》によって半減した分以外の、獣族モンスターの攻撃力と巨大な体が戻っていく。
またたびキャット 攻撃力1500→900
またたびキャット 攻撃力1100→500
ミリスレディエント 攻撃力1250→650
「確かに、ダメージは少し足りなかったのニャ…。だけど、ライフポイントたったの150では何もできないんだニャ!」
負け惜しみのような言葉を吐く大徳寺に、カノンは不敵に切り返す。
「いいえ。このデュエル、私の勝ちですよ」
「ニャッ!?」
自信満々の勝利宣言に、大徳寺が面食らう。
「な、何を言ってるのニャ!? またたびキャットのロックコンボがある限り、カノンさんがライフを削るのはすご〜く難しいんだニャ!」
今の状況は、戦闘が封じられているのと同じことだと力説する。
その言葉を聞き流しながら、カノンはデッキからドローしたカードを手札に加えた。
「先生の猫へのこだわりは十分伝わってきました。でも、そのコンボを破る術はできている! リバースカードオープン! 《宝玉の祈り》!!」
「ニャ?」
カノンが罠カードを発動したのを見て、大徳寺が間の抜けた顔をする。
「《宝玉の祈り》は、魔法&罠ゾーンの宝玉を1つ墓地へ送ることで、相手フィールド上のカードを1枚破壊する! 私は、装備カードを装備しているまたたびキャットを選択!!」
『最後の力を振り絞るかのぉ…』
オーラを漂わせるエメラルドの宝玉が、ピシッ…!と欠ける。すると、エメラルドタートルの祈りが青い雷となって、またたびキャットを消し飛ばした。
「片方が破壊されれば、またたびキャットのロックコンボは消滅する! これで、再び攻撃が可能となった!」
「ニャニャア〜!?」
頼みのロック戦術が突破されたことで、大徳寺が取り乱す。
「──ロック戦術の弱点。戦闘には滅法強いが、効果で破壊されると、途端にコンボが崩れてしまう難しさ。それを、上手く利用されましたな」
鮫島校長が顎を撫でながら冷静にデュエルを分析する。
さらに、カノンは手札のモンスターをかざした。
「少しだけ本気を見せてあげます。──来い、《宝玉獣 サファイアペガサス》!!」
サファイアの宝玉が砕け、中から翼と蒼い角を持った白馬、ペガサスが現れる。その凛々しい瞳は、主のカノンに向けられていた。
サファイアペガサス 攻撃力1800
『待たせたな、カノン』
「頼むぞ、サファイアペガサス! 効果発動、サファイア・コーリング!!」
サファイアの蒼角に眩い光が集まり、新たな宝玉を呼び出す。
「サファイアペガサスの召喚に成功した時、デッキから宝玉獣を、魔法&罠ゾーンに置くことができる! 《宝玉獣 ルビーカーバンクル》!」
アメジストの横に、ルビーの宝玉が追加される。
「さらにルビーの効果発動! このカードが魔法&罠ゾーンにある時、ルビーは特殊召喚され、魔法&罠ゾーンにあるすべての宝玉獣を特殊召喚する! 出て来い、ルビーカーバンクル!!」
『ルビィ!』
ルビーの宝玉が砕け、中から青いリスのような生物、カーバンクルが現れる。その額と尻尾の先には、丸いルビーの宝石が埋まっている。
ルビーカーバンクル 攻撃力300
「ルビー・ハピネス!!」
『ルビィィィーーッ!!』
ルビーの尻尾の宝石が赤く眩い光を放つ。そのエネルギーを注がれたアメジストの宝玉が砕け、中からアメジストキャットが場に現れる。
アメジストキャット 攻撃力1200
「い、いっきに3体もモンスターが並んでしまったのニャ…!」
前のターンまでは、完全に優位に立っていたはずが、今では立場が逆になっている。
「だ、だけどそれじゃあ、攻撃力が足りないんだニャ!」
3体の合計攻撃力は3300。特殊効果持ちのミリスレディエントから撃破するとしても、ライフは750ポイント残る。このターンに倒すことは不可能だ。
「まだ私のメインフェイズは終わっていない! 魔法カード《宝玉の解放》!! このカードをアメジストキャットに装備し、攻撃力を800ポイントアップする!」
カノンが《宝玉の解放》のカードをかざすと、アメジストに攻撃力上昇のエフェクトがかかる。
アメジストキャット 攻撃力1200→2000
「ニャア!?」
「バトル!」
バトルを仕掛けようとするカノンに、冷や汗を浮かべた大徳寺が、起死回生の手を打つ。
「さ、さすがだと褒めてあげたいところですが…このセットカードを見落としていたのニャ。リバースカードオープン! 《守護霊のお守り》!」
墓地にいるまたたびキャットが守護霊となって、ミリスレディエントの攻撃力を100ポイントアップさせる。
ミリスレディエント 攻撃力650→750
「これで次のターン、こちらが攻撃力450以上のモンスターを引ければ、カノンさんの負けなのですニャ」
最後は運否天賦になってしまったが、このターンの敗北を回避するためには仕方ない。
大徳寺がそう割り切っていると、カノンにとあるカードを名指しされる。
「先生こそ、《ミリス・レディエント》の効果を忘れてるんじゃないですか?」
「ニャ?」
そう言われた大徳寺が、カードのテキストを思い出す。
「ミリスレディエントの効果は、フィールドにいる地属性モンスターの攻撃力を……ハッ!?」
「そう。そのモンスターは、相手の地属性モンスターの攻撃力まで上げてしまうデメリットがある!!」
「あわわわっ…!」
カノンの場にいるモンスターを見て、大徳寺の顔色がどんどん悪くなっていく。
「そして、アメジストキャットの属性は地! 攻撃力は2500ポイントにアップ!!」
アメジストキャット 攻撃力2000→2500
「し、しまったニャァァァ〜〜〜!?」
思わぬ大誤算に頭を抱える先生に、カノンは無慈悲な攻撃宣言を行う。
「アメジストキャットの攻撃!」
『さあ、行くわよ!』
先陣を切って、アメジストが飛びかかる。鋭利な爪を振り下ろし、ミリスレディエントを撃破した。
「ニャアアア〜〜ッ!?」
大徳寺 LP3400(-1750)→1650
これにより、大徳寺先生の場に残っているのは、攻撃力0のまたたびキャット1体のみ。
カノンは手札を持っている左手をバッと突き出した。
「これで終わりだ! サファイアペガサスの攻撃! サファイア・トルネード!!」
『ハァーッ!!』
サファイアが飛翔し、光り輝く角に風が渦巻く。その蒼角を振り下ろすと、細い竜巻が放たれ、またたびキャットを粉砕した。
「ニャアアアーーーッ!?」
爆発の衝撃が、大徳寺先生を襲った。みるみるうちにライフの表示が減っていく。
大徳寺 LP1650(-1800)→0
相手のLPが0になったことでデュエル終了の電子音が鳴った。同時に、ソリッドビジョンのモンスターも消える。
「はぁ…。さすがなのですニャア」
改めてカノンの実力を認める大徳寺。試験官として、目の前の少女に合格を告げる。
「特待生試験デュエルはこれで終了だニャ。おめでとう、一色カノンさん。君の勝利だニャ」
「ありがとうございます。楽しいデュエルでした」
カノンが変形したデュエルディスクを元に戻す。その表情は満足げだった。
「実に素晴らしいデュエルだったよ、二人とも」
ずっと観戦していた鮫島校長が拍手を送る。
「そして、一色カノンくん。晴れて君を特待生として、デュエルアカデミアへの入学を歓迎しよう。我が校での生活を、存分に楽しんでくれたまえ」
こうして、カノンはデュエルアカデミアに特待生として通うことになった。
カノンと精霊を取り巻く、波乱万丈な学園生活が幕を開けるのだった。