遊戯王GX 宝玉獣に選ばれし少女   作:アロイ

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#2 ブルーの洗礼!? VS万丈目

 

 エリートデュエリストを養成する学園、『デュエルアカデミア』。その新学期は秋から始まる。狭き門を通り抜けた新入生たちが、続々と学園に集まっていた。

 

 他の新入生たちが学園用のヘリで向かう中、カノンは自家用ヘリに乗って移動し、デュエルアカデミアの港付近にあるヘリポートに着陸する。

 

「ここが、デュエルアカデミアか」

 

 ヘリから降りたカノンは学園を一望する。

 

 一番手前に、こじんまりとしたレッド寮が見える。続く道沿いに、別荘のようなイエロー寮、さらに向こうには城のようなブルー寮があった。

 そして、それらの中間点にある、一際大きい建物がアカデミアの校舎だろう。他にも、煙を噴き出す火山や、様々な施設が確認できた。

 

 

 

 この学園は寄宿制で、生徒たちは個人の成績によって三つの寮に振り分けられる。上から『オベリスクブルー』、『ラーイエロー』、『オシリスレッド』の順で、制服の色も寮と対応している。

 オベリスクブルーにいる生徒は、中等部からの成績優秀組で占められているので、高等部から入った女子生徒以外の編入組は、残りの寮に振り分けられている。

 

 カノンは事前の説明通り、オベリスクブルーの女子寮に配属され、そこで与えられた個室で、オベリスクブルーの制服に着替えていた。

 

「よし、こんなところかな」

 

 フリルのある長袖の白ブラウスに、丈が短い青紫色の学園規定のジャケット。紫のラインが入った黒のミニスカートに、白色のベルトを着けている。新品のショートブーツも履き心地がいい。

 

『あら、カノン。とっても可愛いわ。まるで妖精のようね』

 

 宝玉獣の紅一点、アメジストキャットが目を細めながら褒めてくれる。

 

「そうかな?」

『ああ、よく似合っとる。シゴト?というやつで着ていたものより、こっちの方がカノンらしい』

 

 今度はエメラルドタートルが孫可愛がりするような声で、カノンを褒める。

 カノンは一色グループの会長を務める母の手伝いで、ファッションモデルのような仕事を任されているのだ。

 

 

 

 制服に着替えた入寮生はロビーに集まり、寮長からの挨拶に耳を傾ける。

 

「オベリスクブルー女子寮の寮長、鮎川恵美です。みなさん、どうぞこれからよろしくね」

 

 鮎川先生は美人な大人の女性だ。アカデミアの保険医を担当しているので、普段は保健室にいるらしい。

 

「入学式が終わったら、男子寮の方でオベリスクブルーの入寮歓迎会が開かれる予定なので、そちらに集合してくださいね」

 

 新入生の中でも、カノンのような途中編入組だけが、アカデミアの校舎まで向かう。その途中、カノンの肩にルビーが姿を見せた。

 

『ルビィ…?』

「どうした、ルビー?」

 

 ルビーが何かを気にするように、鼻をぴくぴくとさせているので、カノンも思わず立ち止まった。

 

『ルビィ!』

「待って、ルビー!」

 

 その出処を探るように、肩から降りたルビーが駆け出す。見失わないように、カノンも慌てて追いかける。

 

 

 しばらくして、アカデミアにある森の近くで、ようやくルビーが立ち止まった。

 

「そっちに何かあるの?」

『ルビビ…?』

 

 カノンが話しかけるも、ルビーは不思議そうにこちらを見上げて、首を傾げるだけだった。

 引き返そうか迷っていると、今度はサファイアが姿を見せる。

 

『カノン、この島の地下深くから、強い気配を感じる』

「強い気配って?」

『分からない。だが、精霊の気配と似ているような気がする』

 

 精霊同士であるためか、カノンには感じ取れない力が、宝玉獣たちには分かるようだった。

 

「どうして、アカデミアの地下に精霊が…?」

 

 デュエルアカデミアは、カードの精霊に関する研究をしている。その一環で、地下施設があってもおかしくはない。

 しかし、離れていても気配を感じ取れる精霊は、とてつもなく強大なはず。そんな精霊が存在するのだろうか。

 

『ビ?』

「ルビー?」

 

 何かにピクリと反応したルビーが、今度は入学式が行われている方角に視線を飛ばす。カノンもつられて校舎に顔を向ける。

 

「もしかして、新入生の中に面白いデュエリストでも見つけた?」

 

 カノンがそう問いかけても、ルビーはまた首を傾げるだけだった。

 

 結局、カノンは入学式を無断欠席した。特待生として授業が免除されているので、さして重要でもない入学式をサボっても問題はないだろう。

 

 

 

 入寮歓迎会の時間となり、オベリスクブルーの生徒が、ブルー男子寮に集合する。

 立食パーティーの形式をとっており、寮生たちはグラス片手に談笑している。

 

 カノンは好物の寿司をお皿に取って食べていると、二人の男女が近くに寄ってきた。

 

「ごきげんよう。あなたが特別措置で入学した特待生かしら?」

「そうだけど、あなたたちは?」

 

 美男美女の組み合わせで、並んで立っているだけで絵になっている。

 

「あなたと同じ、1年生の『天上院明日香』よ」

「オベリスクブルーの3年、『丸藤亮』だ」

 

 女子の方は知らなかったが、男子の方は有名人なので噂を聞いたことがある。

 3年のオベリスクブルーのトップ。生徒たちは彼のことを、デュエルアカデミアの帝王『カイザー』と呼んでいる。

 

「一色カノン。よろしく」

 

 カノンが名乗ると、カイザーの眉がぴくっと動いた。

 

「一色カノン…?」

「亮?」

 

 妙な反応をするカイザーを、明日香が怪訝そうな顔で覗き込む。

 

「君のことはよく知っている。2年前に行われたヨーロッパデュエル大会での準決勝。君が逆転勝利した試合は、一時期ネットニュースでも取り上げられていたからな」

「へぇ。結構有名なのね」

 

 有名というわけではなく、そんな場末の情報まで仕入れているカイザーが勉強熱心なだけだろう。

 

「ぜひ手合わせ願いたいものだ」

「いつでも歓迎するよ。なんなら、今からでも」

 

 より強い相手と闘いたいのは、デュエリストとしての本能だ。

 二人の間にひりつくような空気が流れ、明日香が息を呑む。その高ぶりが最大に達しようとしたとき、男子生徒がカノンにぶつかったことで霧散した。

 

「おっと、悪いね」

「おいおい、気をつけろよなー」

 

 不注意な生徒が、カノンの存在を初めて認識すると、連れの男共々、何かに気づいたように目を丸くした。

 

「誰かと思ったら…!」

「万丈目さん、こいつですよ。特待生に選ばれたやつって」

「何!?」

 

 その男子生徒たちに呼ばれてやって来た、意地の悪そうな少年が、カノンを見下ろす。

 

「貴様が、この万丈目様を差し置いて特待生になった無礼者か」

「万丈目…?」

 

 どこかで聞いた名前で、引っかかる。

 

「お前、万丈目さんを知らないのか!? 同じ1年でも、中等部からの生え抜き。超エリートクラスのナンバーワン!」

「未来のデュエルキングとの呼び声高い、『万丈目準』様だ!」

 

 何度も名字を聞かされてハッとする。

 

「もしかして、あの万丈目グループと関わりがあるのか?」

 

 一色グループは、万丈目グループや千里眼グループに並ぶ大企業だ。当然、その名前も耳に入ってくる。

 

「フン。俺の偉大さは知っているようだな」

 

 ひとまず満足した万丈目は、ブルー男子寮の寮長、『クロノス・デ・メディチ』先生に抗議する。

 

「クロノス教諭。どうして特待生に選ばれたのが、エリートの僕じゃなく、こんなちんちくりんなんですか!」

「そんなことを言われテーモ、万丈目グループより一色グループの方が、アカデミアへの寄付金が多いノーネ」

「バカな。コイツに、万丈目グループより財力があるはずが──」

 

 そこで、万丈目には思い当たる節があったのか、途中で言葉が切れる。

 

「一色…? 一色カノン!? まさか宝玉獣デッキを持つ一色カノンか!?」

「宝玉獣…?」

「知ってるんですか、万丈目さん?」

 

 全く聞き覚えのない取り巻きたちに、宝玉獣の成り立ちを話す。

 

「I2社が発見した古文書によれば、かつてのローマ帝国を支配したユリウス・カエサルは、ローマが世界に君臨する証として、各地から7つの宝石を集め、石版を作ろうとしたことがあった。だが、その宝石はローマに運ばれる途中、嵐に遭って、海の藻屑と消えた。それをペガサス会長が見つけ、7つの宝石の成分を使った、7枚のカードを作りあげた」

「それが宝玉獣?」

 

 万丈目が肯定するように頷く。明日香やカイザーたちも、万丈目の話に聞き入っている。

 

「ペガサス会長は、そのカードを金では売らず、ある大会のチャンピオンとなった少女に譲ったんだ」

「あなた、そんなに凄いカード持っていたのね」

 

 初耳だった明日香が、カノンに驚きの目を向ける。

 

「ずいぶん詳しいんだな」

「当たり前だ。かつて万丈目グループは、I2社から、宝玉獣のカードを買い上げようとしたことがあったからな」

 

 しかし、ペガサス会長はその要求を拒み、万丈目グループの買収は失敗に終わっている。

 

「ちょうどいい、そいつを俺に寄越せ! お前なんかより、この万丈目様が使うのに相応しいカードだ!」

「ちょっと、何よそれ!?」

 

 万丈目の身勝手な言動を、明日香が止めようとする。

 

「宝玉獣は私を選んでくれたんだ。誰にも譲るつもりはない」

 

 カノンがそう言い返すと、万丈目が勝負をふっかけてくる。

 

「だったら見せてもらうぜ。特待生と宝玉獣に選ばれた実力が、本当かどうか!」

「私も知りたかったところだ。デュエルアカデミアのエリートという奴らが、どれほどの実力か」

 

 勝負に乗ってきたカノンに、ある提案を持ちかける。

 

「貴様の宝玉獣を賭けてのアンティルールだ!」

 

 宝玉獣を賭けるというのは、カノンにとって、命を賭けるも同じこと。

 

「アンティルールは校則で禁止されているはずよ! 先生たちも止めてください!」

 

 デュエルの中止を願い出る明日香。だが、意外にも待ったをかけたのはカノン自身だった。

 

「何でもいいさ、ルールなんて」

「大した自信だ。その強がりだけは褒めてやろう」

「ちょっと…!」

 

 デュエルを始めるために、二人が背を向けて歩き出す。もはや止めらないことを悟った明日香がため息を吐いた。

 

「いきなり万丈目くんに目を付けられるなんて、ツイてないわね彼女」

「ああ。だが、このデュエルは見ものだぞ」

 

 万丈目はろくでもないやつだが、デュエルの腕前だけは本物だ。宝玉獣の力を引き出すのに、これ以上はない相手と言える。

 

 

 

 向き合った二人がデッキをセットすると、デュエルディスクが変形する。

 

「「──決闘(デュエル)!!」」

 

カノン LP4000 VS LP4000 万丈目

 

「先行は俺がもらう! ドロー!」

 

 万丈目がデッキに指を添え、力強くカードを引き抜いた。

 

「俺は、《地獄戦士(ヘルソルジャー)》を攻撃表示で召喚!」

 

 黒い鎧を身に着けた大柄な戦士が現れる。その手には、切れ味の鋭そうな剣と黒い盾が握られている。

 

 地獄戦士(ヘルソルジャー) 攻撃力1200

 

「さらに、《手札抹殺》を発動だ! お互いに手札をすべて捨て、その枚数分だけデッキからドローする!」

 

 デュエルディスクの墓地スロットに、それぞれ手札から捨てたカードの束が吸い込まれていく。

 その後、お互いにカードをまとめて引き直し、補充した手札に視線を巡らせる。

 

「フッ…中々良いカードを引いたぜ。俺はカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 万丈目のフィールドに裏向きのカードが出される。

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 カノンにターンが回ったことで、ギャラリーの熱量が上がる。万丈目も視線をギラつかせていた。

 

「来るかっ、宝玉獣…!」

 

 カノンが召喚するモンスターカードをかざす。

 

「出ろ!《宝玉獣 トパーズタイガー》!」

 

 トパーズの宝玉が砕け、中から強面のホワイトタイガーが現れる。その頭部と脚からは、尖った刃が生えている。

 

 トパーズタイガー 攻撃力1600

 

「これが宝玉獣…!」

 

 観戦している明日香たちも、食い入るように宝玉獣を見ている。

 

「頼りにしてるよ」

『フン! やはり俺様が出ないことにはな、カノン』

 

 勝気な性格のトパーズが、戦意を高揚させる。

 

「どんなモンスターが出てくるかと思えば、たった攻撃力1600のモンスターとはな」

「宝玉獣の力はこんなものじゃない。トパーズタイガーはモンスターに攻撃する時、攻撃力が400ポイントアップする!」

「なにっ!?」

 

 トパーズタイガー 攻撃力1600→2000

 

「行け、トパーズタイガー! トパーズ・バイト!」

 

 トパーズが地獄戦士(ヘルソルジャー)に飛びかかって、自慢の牙で噛みつく。モンスターが破壊されたことで、爆発が起こった。

 

「くっ…! 予想外にダメージを食らっちまったぜ!」

 

 万丈目 LP4000(-800)→3200

 

 立ち込める黒煙の中から、地獄戦士(ヘルソルジャー)の剣が手放された。上空を舞った剣がカノン目掛けて飛んでいく。

 

「こっちもモンスター効果発動だ! 地獄戦士(ヘルソルジャー)は、破壊された時にプレイヤーが受けたダメージを、相手プレイヤーにも与える効果があるのだ!」

 

 来るのが分かっていたカノンは、眉一つ動かさず、効果ダメージの衝撃を受け入れる。

 

 カノン LP4000(-800)→3200

 

「さらに俺は、このタイミングでリバースカード、《オプションハンター》も発動!!」

 

 自分フィールド上のモンスターが戦闘で破壊された時に発動できる罠カードだ。

 

「この効果で、俺は自分の墓地に送られた、地獄戦士(ヘルソルジャー)の攻撃力分のライフを回復する!」

 

 コントローラーである万丈目の体に、ライフ回復のエフェクトがかかる。

 

 万丈目 LP3200(+1200)→4400

 

「万丈目さんのライフが上回ったぞ!」

 

 万丈目の取り巻きたちが盛り上がる。その反対側では、カイザーと明日香の二人が先程のコンボを分析していた。

 

地獄戦士(ヘルソルジャー)と組み合わせることで、相手にダメージを与えつつ、自分は一方的に回復できるというわけか。考えたな」

「万丈目くんらしい、ずる賢い戦法ね」

 

 他に攻撃可能なモンスターはいないため、カノンのバトルフェイズは終了する。

 

「私はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

 2つのスロットにカードを差し込むと、フィールドに裏向きのカードが2枚現れる。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードを確認した万丈目が、カードの切っ先を突きつける。

 

「一色カノン! アンティルールを撤回するなら今の内だぞ! この万丈目さんに頭を下げて許しを乞えば、勘弁してやらんこともない!」

「ずいぶんと自信家なんだな。万丈目」

「万丈目“さん”だ!」

 

 デュリストとして、互いに己の勝利を疑わない。

 

「下手をすると、このターンに決着がつきかねんからな。さあ、どうする!」

「断る。自分のデッキを信じられない奴は、デュエリスト失格だ!」

「そうか…。ならば! 宝玉獣は俺のものだ!」

 

 万丈目が手札のカードを、カノンに見せつける。

 

「俺は魔法カード《火炎地獄》を発動! 貴様に1000ポイントのダメージを与え、自らも500ポイントのダメージを受ける!」

 

 カノンと万丈目の真下から業火が逆巻き、二人を焼き尽くす。

 

「ぐぅ…!」

「フハハハハ!」

 

 カノン LP3200(-1000)→2200

 万丈目 LP4400(-500)→3900

 

「これで終わりではない! さらに俺は、《早すぎた埋葬》を使用!」

 

 ディスクの空きスロットに差し込むと、表向きに立てられたカードが、フィールドに出現する。

 

「800ポイントのライフコストを支払い、効果発動だ! 墓地にある俺のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する!」

 

 万丈目 LP3900(-800)→3100

 

「でも、万丈目くんの墓地には、地獄戦士(ヘルソルジャー)しかいないはず」

「いや、ヤツは1ターン目に《手札抹殺》を発動していた。ということは…」

 

 あの時点で、すでに万丈目のコンボは完成していた。堂々とした立ち姿で、天を指さす。

 

「俺は最初のターンに墓地へ送っておいた、《炎獄魔人ヘルバーナー》を選択! 蘇れ、ヘルバーナー!!」

 

 胴体だけ膨れた蜘蛛のような怪物が、墓地から這い上がる。その頭部には人型モンスターの上半身が、寄生されているかのように埋まっている。

 

 ヘルバーナー 攻撃力2800

 

「そして、ヘルバーナーの効果! 相手モンスター1体につき、攻撃力が200ポイントアップする!」

 

 カノンの場にはトパーズタイガーが1体のみ。よって、攻撃力は200アップだ。

 

 ヘルバーナー 攻撃力2800→3000

 

 思わぬ上級モンスターの登場に、カイザーも感心する。

 

「通常召喚の難しいヘルバーナーでも、墓地からの特殊召喚なら関係ないということか」

「まずいわね…」

 

 ヘルバーナーを通常召喚するには、他の手札をすべて捨て、攻撃力2000以上のモンスター1体を生贄にする必要がある。だが、特殊召喚はその限りではない。

 

「フハハハハ! どうだ一色カノン! こんな超強力モンスターを呼び出しても、俺のライフの方が勝っているぞ! ライフとは、それすなわち財力! やはり、万丈目グループの方が優れているようだな!」

 

 高笑いをする万丈目に、明日香が呆れ果てる。

 

「妙にライフを意識していると思ったら、そんなくだらないことを考えていたのね…」

 

 クロノス先生が言っていことを気にしていたのだろう。

 万丈目がビシッと指をさす。

 

「一色カノン! 所詮、貴様と俺とでは『一』と『万』! 9999ほどの違いがあるのだ!」

 

 その口上をものともせずに、カノンが切り返していく。

 

「私は新しいモンスターが特殊召喚されるのを待っていた!」

「なに…!?」

「罠発動!《誘発召喚》!!」

 

 カノンが腕をバッと払うと、同時にセットカードも開かれる。

 

「相手フィールドにモンスターが特殊召喚された時に発動が可能! 互いのプレイヤーは、手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚できる!」

「モンスターを召喚する罠だと!?」

 

 相手モンスターを増やしてしまうカードだが、ことこの場面に関しては有効に働く。

 

「私が呼び出すのは、《宝玉獣 アンバーマンモス》!」

 

 アンバーの宝玉が砕け、六本の牙を持つマンモスが現れる。額に埋め込まれた琥珀には、トンボのような昆虫の影が浮かんでいる。

 

 アンバーマンモス 守備力1600

 

『カノン、私がお前の盾となろう』

「うん」

 

 今度はカノンが、万丈目を挑発する。

 

「さぁ、どうする万丈目。モンスターを召喚するのか?」

 

 万丈目が手札にあるモンスターカード、《地獄の番熊》を睨みつけて、頭を悩ませる。

 

「ぐっ…俺はモンスターを召喚しない…!」

 

 万丈目はこのターン、攻撃力1300の《地獄の番熊》を召喚し、カノンのライフを削り切るつもりだった。

 しかし、それは相手の場がトパーズタイガー1体だけに限る話だ。壁モンスターを並べられては召喚する意味がない。

 

「上手い…! ヘルバーナーには、自分以外のモンスターが存在するとき、攻撃力が500ポイント下がってしまう効果がある!」

「それを逆手にとったことで、見事に《誘発召喚》のデメリットを回避したな」

 

 このターンに倒せないなら、ヘルバーナーの攻撃力を下げるのは悪手だと、万丈目は判断した。

 

「ええい! だが、貴様の場にモンスターが増えたことで、ヘルバーナーの攻撃力はさらに200ポイントアップ! 攻撃力3200だァ!!」

 

 ヘルバーナー 攻撃力3000→3200

 

「トパーズタイガーを攻撃ッ! 焼き尽くせ!」

 

 万丈目が攻撃宣言をすると、ヘルバーナーの口から、地獄の炎が吐き出された。

 

「そうはいかない! 私はアンバーマンモスの効果発動!」

「なにっ!?」

「アンバーマンモスは、このカード以外の宝玉獣が攻撃される時、その対象を自分に移し替えることができる!」

 

 アンバーの額にある琥珀が輝き、威嚇するように鼻を高らかに上げた。その瞬間、トパーズへと向かう炎が曲がり、アンバーに直撃して爆発する。

 

「くっ…! ありがとう、アンバーマンモス…! これで、ライフを失わずに済んだ!」

 

 衝撃に耐えるカノンが、盾となってくれたアンバーに礼を言う。

 

「チィ…! だが、貴様の自慢のモンスターは粉々だ!」

 

 宝玉獣を破壊したことで、カノンより優位に立とうとする万丈目。その調子に、取り巻きたちも勢いづく。

 

「やった! 万丈目さんが宝玉獣を倒したぞ!」

「いや…」

 

 カイザーのデュエリストとしての直感が働く。その予想通り、カノンのフィールドには、アンバーの宝玉が残っていた。

 

「なに!? なぜ宝玉獣が消えていない!?」

 

 動揺を抑えきれない万丈目に、カノンが理由を明かす。

 

「宝玉獣の特殊効果! モンスターゾーンで破壊された場合、永続魔法カード扱いの宝玉となり、魔法&罠(マジック・トラップ)ゾーンに置くことができる!」

「なんだと!?」

「それじゃあ、あの結晶も取り除かない限り、宝玉獣は倒せない!?」

 

 万丈目のバトルフェイズが終わり、手札にセットできるカードもないため、エンドフェイズを迎えた。

 

「くっ…! 俺のターンは…終了だ…!」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で、カノンにターンを渡す。

 

 

「宝玉獣の力は、まだまだこんなものじゃない…! ドロー!」

 

 カノンが引いたカードによって、勝利の条件がすべて揃った。

 

「来いっ!《宝玉獣 コバルトイーグル》を攻撃表示で召喚!」

 

 コバルトの宝玉が砕け、中からオレンジ色のたてがみを生やした鷲が現れる。胸を覆う革の防具には、コバルトの宝石が飾られている。

 

 コバルトイーグル 攻撃力1400

 

『うっひょ〜! 今日はギャラリーが沢山いるな〜!』

「頼んだぞ、お前がみんなの血路を開くんだ」

『任せとけ!』

 

 お調子者なコバルトに、カノンが発破をかける。

 

「何をブツブツ言ってやがる!」

 

 精霊が見えていない者には、真剣勝負の最中に、カノンがひとりごとを呟いているように見えている。

 続いて、手札の魔法カードを空きスロットに差し込んで発動させた。

 

「私はさらに、《宝玉の解放》をトパーズタイガーに装備! 効果で攻撃力を800ポイントアップ!」

 

 表向きに立てられた装備カードが出現すると、トパーズに攻撃力アップのエフェクトがかかった。

 

 トパーズタイガー 攻撃力1600→2400

 

「だが、まだ俺のモンスターの方が攻撃力が上だ!」

 

 万丈目の言う通り、トパーズタイガーの効果を使っても、最大攻撃力は2800。ヘルバーナーを倒すことはできない。

 

 だから、カノンはバトルフェイズに入った。

 

「コバルトイーグル、ヘルバーナーを攻撃だ!!」

「バカめ! 勝負を諦めたか!?」

 

 攻撃力1400のコバルトイーグルで、攻撃力3200のヘルバーナーに特攻する。当然ながら返り討ちにあって破壊され、差し引き1800ポイントのダメージを受けた。

 

 カノン LP2200(-1800)→400

 

「ぐうううッ!!」

 

 コバルトの戦闘によって起こった爆風がカノンまで届き、そのダメージの衝撃に耐える。

 

『あとは頼んだぜ、カノン』

「コバルトイーグル、お前の思いは無駄にはしない!」

 

 役目を終えたコバルトは宝玉となって、デュエルの行く末を見守る。

 

「どう転んでも俺様の勝ちは決まったようだな。アンティルールにより、お前の宝玉獣をもらうぞ!」

「そんなことはさせないっ!」

「なにっ!?」

 

 カノンの自滅行為。その本当の目的が、彼女の場に伏せられているカードと共に明らかになる。

 

「私はこの瞬間、リバースカードオープン!《ダメージ・キャプチャー》!!」

「今さら足掻いても無駄だ!」

 

 無駄なんてことはない。これこそが、勝利への一手だ。

 

「自分がダメージを受けたときに発動できる! 私の場のモンスター1体に、ターン終了時まで、受けたダメージの数値分を攻撃力に加える!」

「ダメージを攻撃力に変換だと!? ライフを削ったのはこのためか!?」

 

 力が漲っていくの感じたトパーズタイガーが、『ウオオオーーッ!!』と雄叫びを上げる。カノンが受けたダメージ分、1800ポイントのパワーアップだ。

 

 トパーズタイガー 攻撃力2400→4200

 

「こ、攻撃力4200!?」

 

 その大幅な上昇値に、万丈目が思わず後退りする。

 

「さらに、私の場のモンスターが減ったことで、ヘルバーナーの攻撃力はダウンする!」

 

 ヘルバーナー 攻撃力3200→3000

 

「トパーズタイガーの攻撃ッ! トパーズ・バイト!!」

 

 トパーズタイガー 攻撃力4200→4600

 

 強化されたトパーズが、ヘルバーナーに飛びついて噛み砕く。モンスターが破壊されたことで、大爆発が起こった。

 

「ぐわあ゙あ゙あ゙ッ…!?」

 

 ライフが削られた衝撃によって、万丈目が体勢を崩しかける。

 

 万丈目 LP3100(-1600)→1500

 

「ハァ…ハァ…! ヘルバーナーを倒したことは褒めてやる。だが、この万丈目準様には、あと一歩及ばなかったようだな」

 

 息を切らした万丈目が、自分をここまで追いつめたカノンを睨みつける。

 

「貴様の場に攻撃できるモンスターはいない! 残りの手札1枚で何ができる!」

 

 この状況を覆すような1枚が、カノンの手札にはあった。

 

「宝玉獣の本領が発揮されるのはここからだ!」

 

 そして、カノンの最後の手札がかざされた。

 

「速攻魔法、《E・フォース》を発動!! この効果でモンスターを特殊召喚する!」

「速攻魔法!? だが、どこからモンスターを呼び出すというのだ! 貴様の手札はそれで最後なんだぞ!」

 

 手札でも墓地でもない。カノンの場にある、アンバーの宝玉が強い輝きを放った。

 

「私は魔法&罠ゾーンにいる、アンバーマンモスを特殊召喚ッ!!」

「宝玉となったモンスターを召喚だと!?」

「再び蘇れ! アンバーマンモス!!」

 

 アンバーの宝玉が砕け、中から六本の牙を持つマンモスが現れた。

 

 アンバーマンモス 攻撃力1700

 

『準備はいいぜ!』

 

 まるでこの状況を予期していたかのように、その目はカノンへの信頼に溢れている。

 

「そのモンスターは盾にするためだけじゃなく、初めからこれを狙ってのことだったのか…!?」

 

 全く予想外の場所からモンスターが増えたことで、万丈目が目を剥く。

 カノンが打っていた布石に、明日香やカイザーたち観戦者も戦慄を覚えた。

 

「宝玉獣たちが、フィールドを自在に行き来している…!」

「これが宝玉獣に選ばれた決闘者(デュエリスト)、一色カノン…!!」

 

 カノンがディスクを着けた左腕を突き出して、ラストアタックを仕掛ける。

 

「アンバーマンモスで攻撃! アンバー・スタンプ!!」

『ハァァァーーッ!!』

 

 カノンの攻撃宣言と共にアンバーが駆け出す。ドスドスと重い足音を響かせ、その太い足で万丈目を踏みつける。

 

「ぐわああああッッッ!?」

 

 ソリッドビジョンなので、アンバーの攻撃はすり抜けるが、ダイレクトアタックの衝撃は受ける。万丈目のライフ表示が減っていった。

 

 万丈目 LP1500(-1700)→0

 

 相手のLPが0になったことでデュエル終了の電子音が鳴った。同時に、ソリッドビジョンのモンスターたちも消える。

 

 

「万丈目さんが、負けた…!?」

 

 苦しげに片膝をつく万丈目を、彼の取り巻きたちが唖然とした表情で見つめる。

 カノンもまた、そんな彼に声をかける。

 

「どれだけライフを増やしても、望んだ勝利が得られるとは限らない。だから、デュエルっていうのは面白いんだ、万丈目」

「黙れっ…! 知った風な口を聞くな…!」

 

 つまらないことに囚われて、デュエルを楽しめないのはもったいない。財力があったところで、心の虚しさを埋めてくれるわけではなかった。

 万丈目にもいつか、誰かに背負わされたものではなく、自分で選んだ大切な存在ができてほしい。カノンは心の中でそう思った。

 

 

 

 万丈目とのデュエルに勝利したことで、宝玉獣デッキの『一色カノン』の存在は、学園中に広まっていくことになった。

 

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