エリートデュエリストを養成する学園、『デュエルアカデミア』。その新学期は秋から始まる。狭き門を通り抜けた新入生たちが、続々と学園に集まっていた。
他の新入生たちが学園用のヘリで向かう中、カノンは自家用ヘリに乗って移動し、デュエルアカデミアの港付近にあるヘリポートに着陸する。
「ここが、デュエルアカデミアか」
ヘリから降りたカノンは学園を一望する。
一番手前に、こじんまりとしたレッド寮が見える。続く道沿いに、別荘のようなイエロー寮、さらに向こうには城のようなブルー寮があった。
そして、それらの中間点にある、一際大きい建物がアカデミアの校舎だろう。他にも、煙を噴き出す火山や、様々な施設が確認できた。
この学園は寄宿制で、生徒たちは個人の成績によって三つの寮に振り分けられる。上から『オベリスクブルー』、『ラーイエロー』、『オシリスレッド』の順で、制服の色も寮と対応している。
オベリスクブルーにいる生徒は、中等部からの成績優秀組で占められているので、高等部から入った女子生徒以外の編入組は、残りの寮に振り分けられている。
カノンは事前の説明通り、オベリスクブルーの女子寮に配属され、そこで与えられた個室で、オベリスクブルーの制服に着替えていた。
「よし、こんなところかな」
フリルのある長袖の白ブラウスに、丈が短い青紫色の学園規定のジャケット。紫のラインが入った黒のミニスカートに、白色のベルトを着けている。新品のショートブーツも履き心地がいい。
『あら、カノン。とっても可愛いわ。まるで妖精のようね』
宝玉獣の紅一点、アメジストキャットが目を細めながら褒めてくれる。
「そうかな?」
『ああ、よく似合っとる。シゴト?というやつで着ていたものより、こっちの方がカノンらしい』
今度はエメラルドタートルが孫可愛がりするような声で、カノンを褒める。
カノンは一色グループの会長を務める母の手伝いで、ファッションモデルのような仕事を任されているのだ。
制服に着替えた入寮生はロビーに集まり、寮長からの挨拶に耳を傾ける。
「オベリスクブルー女子寮の寮長、鮎川恵美です。みなさん、どうぞこれからよろしくね」
鮎川先生は美人な大人の女性だ。アカデミアの保険医を担当しているので、普段は保健室にいるらしい。
「入学式が終わったら、男子寮の方でオベリスクブルーの入寮歓迎会が開かれる予定なので、そちらに集合してくださいね」
新入生の中でも、カノンのような途中編入組だけが、アカデミアの校舎まで向かう。その途中、カノンの肩にルビーが姿を見せた。
『ルビィ…?』
「どうした、ルビー?」
ルビーが何かを気にするように、鼻をぴくぴくとさせているので、カノンも思わず立ち止まった。
『ルビィ!』
「待って、ルビー!」
その出処を探るように、肩から降りたルビーが駆け出す。見失わないように、カノンも慌てて追いかける。
しばらくして、アカデミアにある森の近くで、ようやくルビーが立ち止まった。
「そっちに何かあるの?」
『ルビビ…?』
カノンが話しかけるも、ルビーは不思議そうにこちらを見上げて、首を傾げるだけだった。
引き返そうか迷っていると、今度はサファイアが姿を見せる。
『カノン、この島の地下深くから、強い気配を感じる』
「強い気配って?」
『分からない。だが、精霊の気配と似ているような気がする』
精霊同士であるためか、カノンには感じ取れない力が、宝玉獣たちには分かるようだった。
「どうして、アカデミアの地下に精霊が…?」
デュエルアカデミアは、カードの精霊に関する研究をしている。その一環で、地下施設があってもおかしくはない。
しかし、離れていても気配を感じ取れる精霊は、とてつもなく強大なはず。そんな精霊が存在するのだろうか。
『ビ?』
「ルビー?」
何かにピクリと反応したルビーが、今度は入学式が行われている方角に視線を飛ばす。カノンもつられて校舎に顔を向ける。
「もしかして、新入生の中に面白いデュエリストでも見つけた?」
カノンがそう問いかけても、ルビーはまた首を傾げるだけだった。
結局、カノンは入学式を無断欠席した。特待生として授業が免除されているので、さして重要でもない入学式をサボっても問題はないだろう。
入寮歓迎会の時間となり、オベリスクブルーの生徒が、ブルー男子寮に集合する。
立食パーティーの形式をとっており、寮生たちはグラス片手に談笑している。
カノンは好物の寿司をお皿に取って食べていると、二人の男女が近くに寄ってきた。
「ごきげんよう。あなたが特別措置で入学した特待生かしら?」
「そうだけど、あなたたちは?」
美男美女の組み合わせで、並んで立っているだけで絵になっている。
「あなたと同じ、1年生の『天上院明日香』よ」
「オベリスクブルーの3年、『丸藤亮』だ」
女子の方は知らなかったが、男子の方は有名人なので噂を聞いたことがある。
3年のオベリスクブルーのトップ。生徒たちは彼のことを、デュエルアカデミアの帝王『カイザー』と呼んでいる。
「一色カノン。よろしく」
カノンが名乗ると、カイザーの眉がぴくっと動いた。
「一色カノン…?」
「亮?」
妙な反応をするカイザーを、明日香が怪訝そうな顔で覗き込む。
「君のことはよく知っている。2年前に行われたヨーロッパデュエル大会での準決勝。君が逆転勝利した試合は、一時期ネットニュースでも取り上げられていたからな」
「へぇ。結構有名なのね」
有名というわけではなく、そんな場末の情報まで仕入れているカイザーが勉強熱心なだけだろう。
「ぜひ手合わせ願いたいものだ」
「いつでも歓迎するよ。なんなら、今からでも」
より強い相手と闘いたいのは、デュエリストとしての本能だ。
二人の間にひりつくような空気が流れ、明日香が息を呑む。その高ぶりが最大に達しようとしたとき、男子生徒がカノンにぶつかったことで霧散した。
「おっと、悪いね」
「おいおい、気をつけろよなー」
不注意な生徒が、カノンの存在を初めて認識すると、連れの男共々、何かに気づいたように目を丸くした。
「誰かと思ったら…!」
「万丈目さん、こいつですよ。特待生に選ばれたやつって」
「何!?」
その男子生徒たちに呼ばれてやって来た、意地の悪そうな少年が、カノンを見下ろす。
「貴様が、この万丈目様を差し置いて特待生になった無礼者か」
「万丈目…?」
どこかで聞いた名前で、引っかかる。
「お前、万丈目さんを知らないのか!? 同じ1年でも、中等部からの生え抜き。超エリートクラスのナンバーワン!」
「未来のデュエルキングとの呼び声高い、『万丈目準』様だ!」
何度も名字を聞かされてハッとする。
「もしかして、あの万丈目グループと関わりがあるのか?」
一色グループは、万丈目グループや千里眼グループに並ぶ大企業だ。当然、その名前も耳に入ってくる。
「フン。俺の偉大さは知っているようだな」
ひとまず満足した万丈目は、ブルー男子寮の寮長、『クロノス・デ・メディチ』先生に抗議する。
「クロノス教諭。どうして特待生に選ばれたのが、エリートの僕じゃなく、こんなちんちくりんなんですか!」
「そんなことを言われテーモ、万丈目グループより一色グループの方が、アカデミアへの寄付金が多いノーネ」
「バカな。コイツに、万丈目グループより財力があるはずが──」
そこで、万丈目には思い当たる節があったのか、途中で言葉が切れる。
「一色…? 一色カノン!? まさか宝玉獣デッキを持つ一色カノンか!?」
「宝玉獣…?」
「知ってるんですか、万丈目さん?」
全く聞き覚えのない取り巻きたちに、宝玉獣の成り立ちを話す。
「I2社が発見した古文書によれば、かつてのローマ帝国を支配したユリウス・カエサルは、ローマが世界に君臨する証として、各地から7つの宝石を集め、石版を作ろうとしたことがあった。だが、その宝石はローマに運ばれる途中、嵐に遭って、海の藻屑と消えた。それをペガサス会長が見つけ、7つの宝石の成分を使った、7枚のカードを作りあげた」
「それが宝玉獣?」
万丈目が肯定するように頷く。明日香やカイザーたちも、万丈目の話に聞き入っている。
「ペガサス会長は、そのカードを金では売らず、ある大会のチャンピオンとなった少女に譲ったんだ」
「あなた、そんなに凄いカード持っていたのね」
初耳だった明日香が、カノンに驚きの目を向ける。
「ずいぶん詳しいんだな」
「当たり前だ。かつて万丈目グループは、I2社から、宝玉獣のカードを買い上げようとしたことがあったからな」
しかし、ペガサス会長はその要求を拒み、万丈目グループの買収は失敗に終わっている。
「ちょうどいい、そいつを俺に寄越せ! お前なんかより、この万丈目様が使うのに相応しいカードだ!」
「ちょっと、何よそれ!?」
万丈目の身勝手な言動を、明日香が止めようとする。
「宝玉獣は私を選んでくれたんだ。誰にも譲るつもりはない」
カノンがそう言い返すと、万丈目が勝負をふっかけてくる。
「だったら見せてもらうぜ。特待生と宝玉獣に選ばれた実力が、本当かどうか!」
「私も知りたかったところだ。デュエルアカデミアのエリートという奴らが、どれほどの実力か」
勝負に乗ってきたカノンに、ある提案を持ちかける。
「貴様の宝玉獣を賭けてのアンティルールだ!」
宝玉獣を賭けるというのは、カノンにとって、命を賭けるも同じこと。
「アンティルールは校則で禁止されているはずよ! 先生たちも止めてください!」
デュエルの中止を願い出る明日香。だが、意外にも待ったをかけたのはカノン自身だった。
「何でもいいさ、ルールなんて」
「大した自信だ。その強がりだけは褒めてやろう」
「ちょっと…!」
デュエルを始めるために、二人が背を向けて歩き出す。もはや止めらないことを悟った明日香がため息を吐いた。
「いきなり万丈目くんに目を付けられるなんて、ツイてないわね彼女」
「ああ。だが、このデュエルは見ものだぞ」
万丈目はろくでもないやつだが、デュエルの腕前だけは本物だ。宝玉獣の力を引き出すのに、これ以上はない相手と言える。
向き合った二人がデッキをセットすると、デュエルディスクが変形する。
「先行は俺がもらう! ドロー!」
万丈目がデッキに指を添え、力強くカードを引き抜いた。
「俺は、《
黒い鎧を身に着けた大柄な戦士が現れる。その手には、切れ味の鋭そうな剣と黒い盾が握られている。
「さらに、《手札抹殺》を発動だ! お互いに手札をすべて捨て、その枚数分だけデッキからドローする!」
デュエルディスクの墓地スロットに、それぞれ手札から捨てたカードの束が吸い込まれていく。
その後、お互いにカードをまとめて引き直し、補充した手札に視線を巡らせる。
「フッ…中々良いカードを引いたぜ。俺はカードを1枚伏せてターンエンド!」
万丈目のフィールドに裏向きのカードが出される。
「私のターン、ドロー!」
カノンにターンが回ったことで、ギャラリーの熱量が上がる。万丈目も視線をギラつかせていた。
「来るかっ、宝玉獣…!」
カノンが召喚するモンスターカードをかざす。
「出ろ!《宝玉獣 トパーズタイガー》!」
トパーズの宝玉が砕け、中から強面のホワイトタイガーが現れる。その頭部と脚からは、尖った刃が生えている。
トパーズタイガー 攻撃力1600
「これが宝玉獣…!」
観戦している明日香たちも、食い入るように宝玉獣を見ている。
「頼りにしてるよ」
『フン! やはり俺様が出ないことにはな、カノン』
勝気な性格のトパーズが、戦意を高揚させる。
「どんなモンスターが出てくるかと思えば、たった攻撃力1600のモンスターとはな」
「宝玉獣の力はこんなものじゃない。トパーズタイガーはモンスターに攻撃する時、攻撃力が400ポイントアップする!」
「なにっ!?」
トパーズタイガー 攻撃力1600→2000
「行け、トパーズタイガー! トパーズ・バイト!」
トパーズが
「くっ…! 予想外にダメージを食らっちまったぜ!」
万丈目 LP4000(-800)→3200
立ち込める黒煙の中から、
「こっちもモンスター効果発動だ!
来るのが分かっていたカノンは、眉一つ動かさず、効果ダメージの衝撃を受け入れる。
カノン LP4000(-800)→3200
「さらに俺は、このタイミングでリバースカード、《オプションハンター》も発動!!」
自分フィールド上のモンスターが戦闘で破壊された時に発動できる罠カードだ。
「この効果で、俺は自分の墓地に送られた、
コントローラーである万丈目の体に、ライフ回復のエフェクトがかかる。
万丈目 LP3200(+1200)→4400
「万丈目さんのライフが上回ったぞ!」
万丈目の取り巻きたちが盛り上がる。その反対側では、カイザーと明日香の二人が先程のコンボを分析していた。
「
「万丈目くんらしい、ずる賢い戦法ね」
他に攻撃可能なモンスターはいないため、カノンのバトルフェイズは終了する。
「私はカードを2枚伏せて、ターンエンド」
2つのスロットにカードを差し込むと、フィールドに裏向きのカードが2枚現れる。
「俺のターン、ドロー!」
引いたカードを確認した万丈目が、カードの切っ先を突きつける。
「一色カノン! アンティルールを撤回するなら今の内だぞ! この万丈目さんに頭を下げて許しを乞えば、勘弁してやらんこともない!」
「ずいぶんと自信家なんだな。万丈目」
「万丈目“さん”だ!」
デュリストとして、互いに己の勝利を疑わない。
「下手をすると、このターンに決着がつきかねんからな。さあ、どうする!」
「断る。自分のデッキを信じられない奴は、デュエリスト失格だ!」
「そうか…。ならば! 宝玉獣は俺のものだ!」
万丈目が手札のカードを、カノンに見せつける。
「俺は魔法カード《火炎地獄》を発動! 貴様に1000ポイントのダメージを与え、自らも500ポイントのダメージを受ける!」
カノンと万丈目の真下から業火が逆巻き、二人を焼き尽くす。
「ぐぅ…!」
「フハハハハ!」
カノン LP3200(-1000)→2200
万丈目 LP4400(-500)→3900
「これで終わりではない! さらに俺は、《早すぎた埋葬》を使用!」
ディスクの空きスロットに差し込むと、表向きに立てられたカードが、フィールドに出現する。
「800ポイントのライフコストを支払い、効果発動だ! 墓地にある俺のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する!」
万丈目 LP3900(-800)→3100
「でも、万丈目くんの墓地には、
「いや、ヤツは1ターン目に《手札抹殺》を発動していた。ということは…」
あの時点で、すでに万丈目のコンボは完成していた。堂々とした立ち姿で、天を指さす。
「俺は最初のターンに墓地へ送っておいた、《炎獄魔人ヘルバーナー》を選択! 蘇れ、ヘルバーナー!!」
胴体だけ膨れた蜘蛛のような怪物が、墓地から這い上がる。その頭部には人型モンスターの上半身が、寄生されているかのように埋まっている。
ヘルバーナー 攻撃力2800
「そして、ヘルバーナーの効果! 相手モンスター1体につき、攻撃力が200ポイントアップする!」
カノンの場にはトパーズタイガーが1体のみ。よって、攻撃力は200アップだ。
ヘルバーナー 攻撃力2800→3000
思わぬ上級モンスターの登場に、カイザーも感心する。
「通常召喚の難しいヘルバーナーでも、墓地からの特殊召喚なら関係ないということか」
「まずいわね…」
ヘルバーナーを通常召喚するには、他の手札をすべて捨て、攻撃力2000以上のモンスター1体を生贄にする必要がある。だが、特殊召喚はその限りではない。
「フハハハハ! どうだ一色カノン! こんな超強力モンスターを呼び出しても、俺のライフの方が勝っているぞ! ライフとは、それすなわち財力! やはり、万丈目グループの方が優れているようだな!」
高笑いをする万丈目に、明日香が呆れ果てる。
「妙にライフを意識していると思ったら、そんなくだらないことを考えていたのね…」
クロノス先生が言っていことを気にしていたのだろう。
万丈目がビシッと指をさす。
「一色カノン! 所詮、貴様と俺とでは『一』と『万』! 9999ほどの違いがあるのだ!」
その口上をものともせずに、カノンが切り返していく。
「私は新しいモンスターが特殊召喚されるのを待っていた!」
「なに…!?」
「罠発動!《誘発召喚》!!」
カノンが腕をバッと払うと、同時にセットカードも開かれる。
「相手フィールドにモンスターが特殊召喚された時に発動が可能! 互いのプレイヤーは、手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚できる!」
「モンスターを召喚する罠だと!?」
相手モンスターを増やしてしまうカードだが、ことこの場面に関しては有効に働く。
「私が呼び出すのは、《宝玉獣 アンバーマンモス》!」
アンバーの宝玉が砕け、六本の牙を持つマンモスが現れる。額に埋め込まれた琥珀には、トンボのような昆虫の影が浮かんでいる。
アンバーマンモス 守備力1600
『カノン、私がお前の盾となろう』
「うん」
今度はカノンが、万丈目を挑発する。
「さぁ、どうする万丈目。モンスターを召喚するのか?」
万丈目が手札にあるモンスターカード、《地獄の番熊》を睨みつけて、頭を悩ませる。
「ぐっ…俺はモンスターを召喚しない…!」
万丈目はこのターン、攻撃力1300の《地獄の番熊》を召喚し、カノンのライフを削り切るつもりだった。
しかし、それは相手の場がトパーズタイガー1体だけに限る話だ。壁モンスターを並べられては召喚する意味がない。
「上手い…! ヘルバーナーには、自分以外のモンスターが存在するとき、攻撃力が500ポイント下がってしまう効果がある!」
「それを逆手にとったことで、見事に《誘発召喚》のデメリットを回避したな」
このターンに倒せないなら、ヘルバーナーの攻撃力を下げるのは悪手だと、万丈目は判断した。
「ええい! だが、貴様の場にモンスターが増えたことで、ヘルバーナーの攻撃力はさらに200ポイントアップ! 攻撃力3200だァ!!」
ヘルバーナー 攻撃力3000→3200
「トパーズタイガーを攻撃ッ! 焼き尽くせ!」
万丈目が攻撃宣言をすると、ヘルバーナーの口から、地獄の炎が吐き出された。
「そうはいかない! 私はアンバーマンモスの効果発動!」
「なにっ!?」
「アンバーマンモスは、このカード以外の宝玉獣が攻撃される時、その対象を自分に移し替えることができる!」
アンバーの額にある琥珀が輝き、威嚇するように鼻を高らかに上げた。その瞬間、トパーズへと向かう炎が曲がり、アンバーに直撃して爆発する。
「くっ…! ありがとう、アンバーマンモス…! これで、ライフを失わずに済んだ!」
衝撃に耐えるカノンが、盾となってくれたアンバーに礼を言う。
「チィ…! だが、貴様の自慢のモンスターは粉々だ!」
宝玉獣を破壊したことで、カノンより優位に立とうとする万丈目。その調子に、取り巻きたちも勢いづく。
「やった! 万丈目さんが宝玉獣を倒したぞ!」
「いや…」
カイザーのデュエリストとしての直感が働く。その予想通り、カノンのフィールドには、アンバーの宝玉が残っていた。
「なに!? なぜ宝玉獣が消えていない!?」
動揺を抑えきれない万丈目に、カノンが理由を明かす。
「宝玉獣の特殊効果! モンスターゾーンで破壊された場合、永続魔法カード扱いの宝玉となり、
「なんだと!?」
「それじゃあ、あの結晶も取り除かない限り、宝玉獣は倒せない!?」
万丈目のバトルフェイズが終わり、手札にセットできるカードもないため、エンドフェイズを迎えた。
「くっ…! 俺のターンは…終了だ…!」
苦虫を噛み潰したような表情で、カノンにターンを渡す。
「宝玉獣の力は、まだまだこんなものじゃない…! ドロー!」
カノンが引いたカードによって、勝利の条件がすべて揃った。
「来いっ!《宝玉獣 コバルトイーグル》を攻撃表示で召喚!」
コバルトの宝玉が砕け、中からオレンジ色のたてがみを生やした鷲が現れる。胸を覆う革の防具には、コバルトの宝石が飾られている。
コバルトイーグル 攻撃力1400
『うっひょ〜! 今日はギャラリーが沢山いるな〜!』
「頼んだぞ、お前がみんなの血路を開くんだ」
『任せとけ!』
お調子者なコバルトに、カノンが発破をかける。
「何をブツブツ言ってやがる!」
精霊が見えていない者には、真剣勝負の最中に、カノンがひとりごとを呟いているように見えている。
続いて、手札の魔法カードを空きスロットに差し込んで発動させた。
「私はさらに、《宝玉の解放》をトパーズタイガーに装備! 効果で攻撃力を800ポイントアップ!」
表向きに立てられた装備カードが出現すると、トパーズに攻撃力アップのエフェクトがかかった。
トパーズタイガー 攻撃力1600→2400
「だが、まだ俺のモンスターの方が攻撃力が上だ!」
万丈目の言う通り、トパーズタイガーの効果を使っても、最大攻撃力は2800。ヘルバーナーを倒すことはできない。
だから、カノンはバトルフェイズに入った。
「コバルトイーグル、ヘルバーナーを攻撃だ!!」
「バカめ! 勝負を諦めたか!?」
攻撃力1400のコバルトイーグルで、攻撃力3200のヘルバーナーに特攻する。当然ながら返り討ちにあって破壊され、差し引き1800ポイントのダメージを受けた。
カノン LP2200(-1800)→400
「ぐうううッ!!」
コバルトの戦闘によって起こった爆風がカノンまで届き、そのダメージの衝撃に耐える。
『あとは頼んだぜ、カノン』
「コバルトイーグル、お前の思いは無駄にはしない!」
役目を終えたコバルトは宝玉となって、デュエルの行く末を見守る。
「どう転んでも俺様の勝ちは決まったようだな。アンティルールにより、お前の宝玉獣をもらうぞ!」
「そんなことはさせないっ!」
「なにっ!?」
カノンの自滅行為。その本当の目的が、彼女の場に伏せられているカードと共に明らかになる。
「私はこの瞬間、リバースカードオープン!《ダメージ・キャプチャー》!!」
「今さら足掻いても無駄だ!」
無駄なんてことはない。これこそが、勝利への一手だ。
「自分がダメージを受けたときに発動できる! 私の場のモンスター1体に、ターン終了時まで、受けたダメージの数値分を攻撃力に加える!」
「ダメージを攻撃力に変換だと!? ライフを削ったのはこのためか!?」
力が漲っていくの感じたトパーズタイガーが、『ウオオオーーッ!!』と雄叫びを上げる。カノンが受けたダメージ分、1800ポイントのパワーアップだ。
トパーズタイガー 攻撃力2400→4200
「こ、攻撃力4200!?」
その大幅な上昇値に、万丈目が思わず後退りする。
「さらに、私の場のモンスターが減ったことで、ヘルバーナーの攻撃力はダウンする!」
ヘルバーナー 攻撃力3200→3000
「トパーズタイガーの攻撃ッ! トパーズ・バイト!!」
トパーズタイガー 攻撃力4200→4600
強化されたトパーズが、ヘルバーナーに飛びついて噛み砕く。モンスターが破壊されたことで、大爆発が起こった。
「ぐわあ゙あ゙あ゙ッ…!?」
ライフが削られた衝撃によって、万丈目が体勢を崩しかける。
万丈目 LP3100(-1600)→1500
「ハァ…ハァ…! ヘルバーナーを倒したことは褒めてやる。だが、この万丈目準様には、あと一歩及ばなかったようだな」
息を切らした万丈目が、自分をここまで追いつめたカノンを睨みつける。
「貴様の場に攻撃できるモンスターはいない! 残りの手札1枚で何ができる!」
この状況を覆すような1枚が、カノンの手札にはあった。
「宝玉獣の本領が発揮されるのはここからだ!」
そして、カノンの最後の手札がかざされた。
「速攻魔法、《E・フォース》を発動!! この効果でモンスターを特殊召喚する!」
「速攻魔法!? だが、どこからモンスターを呼び出すというのだ! 貴様の手札はそれで最後なんだぞ!」
手札でも墓地でもない。カノンの場にある、アンバーの宝玉が強い輝きを放った。
「私は魔法&罠ゾーンにいる、アンバーマンモスを特殊召喚ッ!!」
「宝玉となったモンスターを召喚だと!?」
「再び蘇れ! アンバーマンモス!!」
アンバーの宝玉が砕け、中から六本の牙を持つマンモスが現れた。
アンバーマンモス 攻撃力1700
『準備はいいぜ!』
まるでこの状況を予期していたかのように、その目はカノンへの信頼に溢れている。
「そのモンスターは盾にするためだけじゃなく、初めからこれを狙ってのことだったのか…!?」
全く予想外の場所からモンスターが増えたことで、万丈目が目を剥く。
カノンが打っていた布石に、明日香やカイザーたち観戦者も戦慄を覚えた。
「宝玉獣たちが、フィールドを自在に行き来している…!」
「これが宝玉獣に選ばれた
カノンがディスクを着けた左腕を突き出して、ラストアタックを仕掛ける。
「アンバーマンモスで攻撃! アンバー・スタンプ!!」
『ハァァァーーッ!!』
カノンの攻撃宣言と共にアンバーが駆け出す。ドスドスと重い足音を響かせ、その太い足で万丈目を踏みつける。
「ぐわああああッッッ!?」
ソリッドビジョンなので、アンバーの攻撃はすり抜けるが、ダイレクトアタックの衝撃は受ける。万丈目のライフ表示が減っていった。
万丈目 LP1500(-1700)→0
相手のLPが0になったことでデュエル終了の電子音が鳴った。同時に、ソリッドビジョンのモンスターたちも消える。
「万丈目さんが、負けた…!?」
苦しげに片膝をつく万丈目を、彼の取り巻きたちが唖然とした表情で見つめる。
カノンもまた、そんな彼に声をかける。
「どれだけライフを増やしても、望んだ勝利が得られるとは限らない。だから、デュエルっていうのは面白いんだ、万丈目」
「黙れっ…! 知った風な口を聞くな…!」
つまらないことに囚われて、デュエルを楽しめないのはもったいない。財力があったところで、心の虚しさを埋めてくれるわけではなかった。
万丈目にもいつか、誰かに背負わされたものではなく、自分で選んだ大切な存在ができてほしい。カノンは心の中でそう思った。
万丈目とのデュエルに勝利したことで、宝玉獣デッキの『一色カノン』の存在は、学園中に広まっていくことになった。