遊戯王GX 宝玉獣に選ばれし少女   作:アロイ

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#3 野生解放!SALデュエル

 

 デュエルアカデミアでの生活が本格的に始まった。

 

 他の生徒たちが授業を受けている中、カノンは宝玉獣が言っていた精霊の気配を探るため、島の中を散策していた。

 サファイアに導かれるまま歩いていると、火山の近くに迷彩柄の建物にたどり着く。

 

「強い気配ってここ?」

『分からない。だが、ここからも精霊の力を感じるのは確かだ』

 

 何かの研究施設なのだろうが、さほど大きくはなく、入口は電子ロックで施錠されていた。

 

「問題ないけどね」

 

 カノンは懐からキーカードを取り出す。それは教員が持っているものと同じで、アカデミア周辺施設のロックを解除することができる。特待生試験に合格した後、鮫島校長からもらったのだ。

 

 そのキーカードをかざすと、研究所の扉が開いた。中にあるいくつもの部屋も、すべて同じ方式を取っているようだった。

 

 研究員がいれば話が早かったのだが、どこにも見当たらない。研究所の廊下を歩いていくと、突き当たりにエレベーターが設置されていた。

 外から見て、二階のスペースはなかったはずなので疑問を覚える。

 

「地下に繋がっているのか…?」

 

 宝玉獣たちが最初に感じ取った気配も、地下からだった。もしかしたら、この研究施設で精霊の研究をしているのだろうか。

 

 エレベーターに乗って降りていく。それなりの高さであることを体感しながら、ついに地下に到着する。

 

「なんだこれは…」

 

 そこには、ジャングルと呼ぶに相応しい光景が広がっていた。鬱蒼と生い茂った密林から、飛び立つ鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 

「アカデミアの地下に、こんなものが…」

 

 カノンがジャングルの中を見て回っていく。

 

 目的は不明だが、数階層分のスペースをすべてジャングルにしたのだろう。そこには、多種多様な生物が放し飼いされていた。餌は与えられているのか、飢えている様子はない。

 また、昼間の明るさが再現されていて、地下にも関わらず視界は良好だった。

 

 

 

 カノンがジャングルを歩いていると、黒スーツの所員に鉢合わせた。

 

「アカデミアの生徒…!?」

「部外者は立ち入り禁止だ!」

「部外者だけど、立ち入り許可はある」

 

 カノンを取り押さえようとする所員たちに、キーカードをチラつかせる。

 

「それは…」

「キーカードは持っているようだが、研究所内には触れられたくない物も多いので、お帰りいただこうか」

 

 そう言って強制送還させようとした瞬間、カノンの視界の端で茶色い影が木々の間を移動していく。

 

「ウキィ!」

「また脱走したのか…!」

 

 木の上でこちらを観察している猿に、所員たちが麻酔銃のようなものを構える。その猿は、普通の猿とは様子が違っていた、

 

「デュエルディスクを着けた、猿…?」

 

 カノンが困惑しながら、頭と腕に機械を取り付けられた猿を見上げる。

 

「あれはただの猿ではない。我々が訓練を重ねて育て上げた、デュエリスト猿だ!」

「デュエリスト猿…?」

「ああ。その名も、Super Animal Lerning。略して『SAL(さる)』だ!」

 

 他の所員より偉そうな老人が、わざわざ解説を挟んでくれる。自慢の最高傑作と言ったところだろうか。

 

「博士…!」

「ん? あぁ、つい口が滑ってしまったようだ」

 

 博士と呼ばれた老人を、助手の男が口止めする。

 

「猿にデュエルをさせて、何の意味が?」

「知っているかね。人間よりも猿の方が、精霊の声を聞く能力が高いことを」

「なにっ…?」

 

 聞き捨てならない内容に、カノンが反応する。

 

「そこで我々は猿を使って、デュエルの動物実験をしているのだ」

「博士…!」

「おっと、また口が滑ったようだ」

 

 要らないことまで口走ってくれたおかげで、カノンが今すべきことが見えてくる。

 

「とても興味深い実験だけど、脱走するってことは、帰りたい場所でもあるんじゃない?」

「フン。動物の意志など関係ない」

「だったら、デュエルで決めよう。私が勝ったら、動物を無理やり従わせるようなことは止めさせる」

 

 デュエルディスクを構えるカノンを、ただの小娘だと思っている博士が承諾する。

 

「いいだろう。ただし、デュエルをする相手はSALだ」

「博士…!」

 

 助手が何か言いたげな顔をしたが、博士は前言を撤回しなかった。さらに、こちらを観察しているSALを脅迫した。

 

「わざと負けるような真似をしてみろ。お前の代わりに、群れにいた他の猿を捕まえてやるからな」

「ウ、ウキィ…」

「安心しなよ。勝つのは私だからさ」

 

 デュエルが出来るくらいなのだから、人間の言葉が分かるように改造されたのだろう。SALが木から下りてくる。

 

「相手が猿だからといって見くびると、痛い目に遭うと思うがね」

 

 カノンの前に立ったSALも、デュエルディスクを構える。

 

「いくぞ、決闘(デュエル)!」

決闘(デュエル)!』

 

カノン LP4000 VS LP4000 SAL

 

「喋れるのか…!?」

 

 SALに取り付けられた機械から、合成音声の掛け声が発せられる。

 

「フッフッフッ。デュエルに関する言葉は、すべてプログラムされているのだ」

 

 そう博士が自慢げに語る。カノンの先行でデュエルが始まった。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 カノンが手札のモンスターカードを、ディスクにセットする。

 

「まずはこのカードだ。《宝玉獣 コバルトイーグル》を召喚!」

 

 コバルトの宝玉が砕け、中からオレンジ色のたてがみを生やした鷲が現れる。胸を覆う革の防具には、コバルトの宝石が飾られている。

 

 コバルトイーグル 攻撃力1400

 

『あのサル、ホントにオレたちの声が聞こえるのか?』

「それなら面白いんだけどね」

 

 期待したような目を向けるカノンが、ターンを終了する。

 

 

「さぁ、次はそっちのターンだ」

「ウキィ!」

 

 精霊が見えるかもしれない動物とデュエルできるのは貴重だ。どれほどの腕前なのか、確かめさせてもらおう。

 

『ワタシのターン、ドロー!』

 

 SALが器用にデッキのカードを引いて、モンスターをディスクに置いた。

 

「《怒れる類人猿(バーサークゴリラ)》召喚!」

 

 フィールドに現れたゴリラが、ドラミングをする。その目は真っ赤に染まっていて、怒りが滲んでいた。

 

 怒れる類人猿(バーサークゴリラ) 攻撃力2000

 

「いきなり攻撃力2000のモンスター…!」

 

 その高い攻撃力の代わりに、必ず攻撃しなければならず、守備表示になったら破壊されるモンスターだ。

 

怒れる類人猿(バーサークゴリラ)で、コバルトイーグルを攻撃!』

 

 怒れる類人猿《バーサークゴリラ》が駆け寄ってきて、振りがぶった拳でコバルトを殴りつけた。

 

「くっ…!」

 

 コバルトが爆散した衝撃に、カノンが耐える。

 

 カノン LP4000(-600)→3400

 

「ウッキー! ウキキウッキー!」

 

 相手モンスターを破壊したことを、その場で何度も宙返りして喜ぶも、カノンの場にコバルトの宝玉が残っていることに気が付く。

 

「ウキ!?」

「宝玉獣は破壊されたとき、魔法&罠(マジック・トラップ)ゾーンに置かれる宝玉となる!」

「ほぅ。見たこともないカードだと思ったが、中々面白いデータが取れそうだ」

 

 希少な存在である宝玉獣。その対戦データは、手に入れようと思って手に入るものではない。

 

『リバースカードを3枚セット! ターンエンド!』

 

 大量のリバースカードを見れば、どんな罠が仕掛けられているのか慎重になってしまう。しかし、ドローしたカノンは臆せず進んでいく。

 

「来い! 《宝玉獣 トパーズタイガー》!」

 

 トパーズの宝玉が砕け、中から強面のホワイトタイガーが現れる。その頭部と脚からは、尖った刃が生えている。

 

 トパーズタイガー 攻撃力1600

 

「ウキィ!」

 

 カノンがモンスターを召喚するのを、SALは待ち構えていた。

 

『リバースカードオープン! 《クローン複製》!』

 

 その効果により、SALの場にトパーズタイガーそっくりのクローンが現れる。

 

 クローントークン 攻撃力1600

 

『俺様のクローンか…!』

「だが、所詮は偽物に過ぎない。オリジナルの力を見せてやれ!」

『任せておけ!』

 

 トパーズタイガーが飛びかかると、クローンも全く同じ動きで迎え撃った。

 

「トパーズタイガーが攻撃する時、その攻撃力を400ポイントアップさせる! トパーズ・バイト!!」

 

 トパーズタイガー 攻撃力1600→2000

 

 二体が交差する瞬間、攻撃力が上昇したトパーズが、脚の刃でクローンを引き裂いた。

 

「キィー! ウキキキィ!?」

 

 空中でクローンが爆散したことで、その衝撃をSALが受ける。

 

 SAL LP4000(-400)→3600

 

「リバースカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 カノンの場に裏側のカードが現れる。ターンを終了して、SALを挑発する。

 

「まだまだこんなものじゃないはずだ。私にその力を見せてくれ」

『ウッキー! ワタシのターンドロー!』

 

 ムキになったSALが、デッキからカードを引き抜く。

 

『《アクロバットモンキー》召喚!』

 

 アクロバットな動きで、モンキータイプの自立型ロボットが現れる。

 

 アクロバットモンキー 攻撃力1000

 

『さらに、リバースカードオープン! 《DNA改造手術》発動!』

「DNA改造手術…!? あれは、モンスターの種族を1種類に変える永続罠カード!」

 

 伏せられていたカードが表向きに立てられる。そして、SALが一つの種族を宣言した。

 

『獣族!』

 

 アクロバットモンキーのDNAが、機械族から獣族に改造される。無機質な機械の下で、毛むくじゃらの肉体に変身した。

 

『さらに魔法カード、《野性解放》!』

 

 フィールド上の獣族、または獣戦士族モンスター1体の攻撃力を、そのモンスターの守備力分だけアップさせるカードだ。

 

『アクロバットモンキー!』

「アクロバットモンキーの守備力は1800ポイント…! ということは、攻撃力2800!?」

 

 機械の拘束具が外れ、獣のDNAと共に強靭な肉体を解放する。それは、あたかもSAL自身の未来を暗示してるかのようだった。

 

 アクロバットモンキー 攻撃力1000→2800

 

『アクロバットモンキーの攻撃、アクロバットウッキー!!』

 

 攻撃宣言と同時にドラミングをする。アクロバットに回転しながらトパーズに迫り、組んだ両手をハンマーのように叩き込んだ。

 

「ぐぅ…!」

 

 トパーズが破壊されたことで、爆風がカノンを襲った。場にトパーズの宝玉が増える。

 

 カノン LP3400(-1200)→2200

 

怒れる類人猿(バーサークゴリラ)で、ダイレクトアタック!」

「うあああッ!!」

 

 丸太のように太い腕でカノンを殴りつける。

 

 カノン LP2200(-2000)→200

 

「だが、私のライフは残った…!」

「ウキキ!」

 

 まだだ、と言われているようだった。

 

『さらに、リバースカードオープン! 《キャトルミューティレーション》!』

 

 自分の獣族モンスターを手札に戻し、そのレベルと同じ獣族モンスターを特殊召喚する罠カード。

 アクロバットモンキーを対象として手札に戻す。本来は機械族だが、今は獣族になっているため適用できる。

 

『《鎧ネズミ》特殊召喚!』

 

 SALの手札から新たに呼び出されたのは、鎧のような硬い毛で身を守るネズミだった。

 

 鎧ネズミ 攻撃力950

 

「《野性解放》のリスクを回避しつつ、新たなモンスターで追撃を仕掛ける。これぞ、SALの力だ!」

 

 興奮した様子の博士が、さらに畳み掛けるよう命令する。

 

「ゆけ、SAL! ヤツの伏せカードはブラフだ!」

『鎧ネズミでダイレクトアタック!』

 

 この攻撃を受ければ、カノンのライフは0になってしまう。鎧ネズミの攻撃が迫る中、カノンはブラフと思われたカードを発動する。

 

「リバースカードオープン!」

「なに!?」

「《宝玉の双璧》!」

 

 開いた罠カードの中から、サファイアとトパーズの幻影が飛び出し、相手の攻撃からカノンを守り抜く。

 

 カノン LP200

 

「ウキィ!?」

「なぜライフが減らない!?」

 

 SALと博士たち所員が、無傷のカノンに動揺を隠せない。

 

「《宝玉の双璧》は、宝玉獣が戦闘で破壊されたターンに発動することができる。デッキから新たな宝玉を呼び出し、このターン、自分が受ける戦闘ダメージは0になる!」

 

 いつの間にか、カノンの場には新たにルビーの宝玉が増えていた。

 自らの予想が外れた博士は、カノンが罠を発動するタイミングに疑問を呈する。

 

「どうして、怒れる類人猿(バーサークゴリラ)の直接攻撃で発動しなかった!?」

「その伏せカードが怪しかったから、あえてダメージを受けて誘ったのさ」

「な、なんだと…!?」

 

 自分が作り上げたSALを上回るデュエルタクティクスに、博士が度肝を抜かれる。

 そしてカノンのターンとなり、反撃に出る。

 

「これで伏せカードは使い切った! 《サファイアペガサス》を召喚! サファイア・コーリング!!」

 

 サファイアの宝玉が砕け、中からペガサスが現れる。その蒼角に眩い光が集まり、新たにアメジストの宝玉を呼び出した。

 

 サファイアペガサス 攻撃力1800

 

「そして、ルビーカーバンクル効果発動! ルビー・ハピネス!!」

『ルビィーーッ!!』

 

 宝玉から現れたルビーの尻尾の宝石が赤く眩い光を放つ。そのエネルギーを注がれた、アメジスト、コバルト、トパーズの宝玉が砕け、一斉にフィールドに現れた。

 

 ルビーカーバンクル 攻撃力300

 アメジストキャット 攻撃力1200

 コバルトイーグル 攻撃力1400

 トパーズタイガー 攻撃力1600

 

「1ターンで、5体のモンスターを召喚しただと!?」

 

 モンスターの大量展開に、もはや驚きの限界値を超えたのか、博士が腰を抜かす。

 

「すべてのモンスターで攻撃だ!」

 

 トパーズが相打ちとなり、コバルトが戦闘破壊をする。残った宝玉獣たちで、SALに総攻撃を仕掛けた。

 

「ウキィ…ウキィ…ウキキキ」

 

 怒涛の連続攻撃に、SALのライフが削られていく。ついに、ライフ表示が0になった。

 

 SAL LP3600(-3750)→0

 

 デュエル終了の電子音が鳴り、ソリッドビジョンのモンスターが消える。

 

「ば、馬鹿な…!?」

「約束は守ってもらう」

 

 カノンがデュエルディスクを元に戻して、腰を抜かして動けない博士に詰め寄る。

 

「そ、そんな約束は無効だ! SALを捕まえろ!」

 

 博士の命令を受けた所員たちが、SALを包囲する。

 

「ウ…ウキィ…!」

 

 どんどん追い詰められていく中、デバイスを操作したカノンが、所員たちにその画面を向ける。

 

「たった今、SAL研究所は一色グループが買収した。出資者の意向を無視するのはマズイんじゃない?」

「何を馬鹿なことを…」

「は、博士…! 本当に買収されてます!」

 

 まったく信用しない博士に、デバイスの画面を確認した助手の男が、震えた声で事実を伝える。

 

「な、なんだとぉ…!?」

 

 青ざめた顔の博士が、ジャングル中に響き渡るような声で叫んだ。

 

 

 

 一件落着し、所員たちから機械を取り外してもらったSALが、カノンに頭を下げる。

 

「ウキィ」

 

 すっかり人間に染まってしまったSALに、カノンはある提案を持ちかける。

 

「キミさえ良ければ、今後も研究に協力してくれないかな? もちろん報酬も用意するし、キミを傷つけるような真似は絶対にさせない」

 

 無理強いはしないが、貴重なサンプルを逃するのは惜しい。

 

『オレが保証する。カノンはひどい扱いをするようなやつじゃないぜ』

 

 姿を見せたコバルトが、カノンの口添えをする。その声が聞こえたのか分からないが、SALは「ウキ」としっかり頷いた。

 

「またデュエルしよう!」

「ウキィー!」

 

 遠くから手を振って、SALは野生に帰っていった。

 

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