今回からオリカ使用していきます。
SAL研究所での一件から翌日。カノンがブルー寮のロビーを通り過ぎようとすると、そこには、明日香や他の女子たちが集っていた。
「お風呂を覗いていた生徒はどうなりましたの?」
昨夜、女子寮の風呂場付近に覗き魔が出没したらしい。カノンも入浴していた時間帯だったので、彼女たちが騒いでいたのを覚えている。
「あれは濡れ衣だったそうよ。あなたたちも、変な噂を広めないようにしてね」
「明日香さんがそうおっしゃるなら…」
そんなやり取りを聞き流しながら、カノンはブルー寮を出た。
SAL研究所の改革は順調に進んでいる。環境が整い次第、宝玉獣などの精霊、その精霊が見える人間や動物の研究をするつもりだ。
ただ、研究対象がカノン一人だけでは検証が不十分だ。自分と同じように精霊が見えて、暇を持て余している生徒でもいれば協力を求めたいが、そう都合よく見つかるだろうか。
その日、クロノスは気が立っていた。とある生意気な生徒を覗き魔に仕立て上げる計画が、失敗に終わってしまったからだ。
次なる策を企てていると、目の前を特待生の一色カノンが通った。その時、クロノスに天啓が降りる。
「特待生である彼女なら〜ば、ドロップアウトボーイなん〜て、かるーく捻ってくれるノーネ。そうナノーネ」
「シニョーラ・一色!」
「クロノス先生…?」
カノンの目の前を、クロノス先生が機敏な動きで立ち塞がった。
「何かご用ですか?」
「どうしても頼みたいことがあるノーネ!」
哀れっぽい雰囲気で泣き縋る先生を放っておけず、一応耳を傾ける。
「エリート中のエリートであるあなたの手で、あの忌々しいドロップアウトボーイに、格の違いを教えてあげてほしいノーネ!」
名前は知らないが、入学試験でクロノス先生に勝った新入生がいるという噂を聞いたことがある。その逆恨みだろう。
「他を当たってください。私にはやることがあるので」
「ソ、ソンナー!?」
冷たくあしらうカノン。さっさと離れようと足を進めたが、せっかくなので、一つ質問してみることにした。
「クロノス先生は、不思議な力を持ったデュエリストに心当たりはないですか?」
「え? 不思議な力ナノーネ? それなら養鶏場の…な、なんでもないノーネ! カンツォーネ…」
クロノス先生が言葉を濁して立ち去るが、カノンは聴き逃さなかった。
「養鶏場…? あそこに何かあるのか…?」
何の変哲もない場所のように見えたが、とりあえず、SAL研究所の所員を先行させて、調査してみることにした。
「お待ちしておりました、カノン様」
「…大変だったようだね」
養鶏場の鶏たちに襲われ、ボロボロになった所員たちが出迎える。鶏の羽根が至る所にくっついていた。
「この砂場に、地下シェルターへの入口が隠されていました」
「地下、か…」
砂を掻き分けた跡のある地面には、金属製の丸い扉が埋め込まれていた。もしや、宝玉獣たちが感じた力も、ここから発せられているのだろうか。
「私は地下を探索してくる。あなたたちは、誰もここに入らないよう、見張っていて」
「かしこまりました」
カノンが梯子を使って降りていく。数分かけて地面につくと、宇宙服のような装備が置いてある通路に出た。
そこからは一方通行になっていて、狭い通路を進むと自動ドアが開くと、かなりの広さがある空間に出た。
「ここは…?」
カノンが柵越しに見下ろすと、池のように水が溜まっている深部に、大きなドーム状の装置がいくつものパイプに繋がれていた。
「うわっ!?」
いきなり足場が動き出し、ドームの入口に到着した。特待生権限のキーカードでロックを解除して、謎のドームの中に入る。
「っ…!」
最初に目に入ったのは、眩しい光だった。カノンが思わず目を細め、慣れてきた頃には、とんでもない光景が広がっていた。
「ここは本当に、アカデミアの地下なのか…?」
南国のビーチリゾートを思わせるような、真っ青な海と砂浜、他にも超豪華施設がいくつも点在している。いったい誰が何のために、こんな施設を作ったのだろう。
「──あれ? 珍しいなぁ、こんなところで人と会うなんて」
カノンが呆気にとられていると、芝生の上に寝転がっている少年に声をかけられた。ボロボロのシャツの上に、オベリスクブルーの制服を袖を通さず羽織っている。
恐らく、彼がカノンの探し求めていた人物だろう。
「私は、一色カノン。不思議な力を持ったデュエリストっていうのは、あなたのことだね?」
「え? どうかな? そうなのかなぁ?」
煮え切らない態度の男子生徒に、カノンは質問を変えることにした。
「こんなところで何をしてたの? 授業は出なくていいの?」
「何もしてないよ。何もしたくないんだよね」
「はぁ…」
無気力な彼に、カノンの好奇心が削がれていく。地下の強い力というのも、彼とは無関係だろう。
『ルビルビィ!』
カノンが引き返そうとしたとき、姿を見せたルビーに彼が食いついた。
「きみそれ…! それってもしかして、きみの精霊かい?」
「えっ? もしかして、ルビーが見えるの?」
まさかこんなにも早く精霊を見える人に出会えるとは思えず、つい疑いの目を向けてしまう。
「うん、ぼくは
「さっきは何もしたくないって言ってたくせに」
「それとは話が別。だって、デュエルの精霊を知る人と、一度はデュエルしたいじゃないか。ね?」
それにはカノンも同意だった。
「面白い。やろうよデュエル」
「そうこなくちゃ」
夢中になって忘れない内に、茂木から言質を取っておく。
「だけど、ひとつだけ条件がある。もし私が勝ったら、あなたには精霊の研究を手伝ってほしい」
「うん、いいよ」
負けると思っていないのか、精霊に好意的なのかは知らないが、あっさりと受け入れられる。精霊が見えて、暇を持て余している生徒。協力者とするにはうってつけだ。
お互いに変形したデュエルディスクを構えた。
「ぼくの先行で。ドロー」
茂木がデッキから1枚引いて、カードを横向きに置いた。
「ぼくは《もけもけ》を守備表示で召喚するよ」
豆腐のような姿に、はてなマークが頭上に浮かんでいる。何を考えているかさっぱりわからない表情をしたモンスターが現れる。
もけもけ 守備力100
『もけもけ。もけぇ〜』
ソリッドビジョンでもある精霊が、自由気ままに空中を漂っている。
「それが、あなたの精霊?」
「のほほんとしてて可愛いでしょ?」
にこやかな茂木が、もけもけの良さを自慢げに語るも、どこか得体の知れない精霊のように見えた。
「ぼくはカードを1枚伏せて、ターンエンドだよ」
フィールドに裏向きのカードが出される。
「私のターン、ドロー!」
カノンがたった今引いたカードをディスクにセットする。
「《宝玉獣 アンバーマンモス》を召喚!」
アンバーの宝玉が砕け、六本の牙を持つマンモスが現れる。額に埋め込まれた琥珀には、トンボのような昆虫の影が浮かんでいる。
アンバーマンモス 攻撃力1700
『カノンと同じ、精霊が見える相手だ。油断するなよ』
「わかってる」
アンバーとカノンが話していると、茂木が割り込んでくる。
「そんなに熱くならないで、もっとゆる〜くやろうよ」
「調子の狂うやつだな…。でも、デュエルはデュエル!」
ルビーだけでなく、他の宝玉獣たちの声も聞こえている。彼の力は本物だ。
「行け、アンバーマンモス! もけもけを攻撃!」
「ぼくは、罠カードをオープンするよ。《人海戦術》」
カノンが攻撃する瞬間、伏せられていた永続罠が開かれた。
「このカードは各ターンのエンドフェイズに、そのターン破壊された、レベル2以下の通常モンスターの数だけ、デッキから同じレベルのモンスターを特殊召喚するんだよ」
「だけど、バトルは続行する! アンバー・スタンプ!!」
ドタドタと駆け寄ったアンバーが、もけもけを踏み潰して爆散させる。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「この瞬間、《人海戦術》の効果で、《ハッピーラヴァー》を攻撃表示で特殊召喚するよ」
まんまるの体に、4枚の翼が手足のように生えている。あたまとほっぺのハートマークが目立っていた。
ハッピーラヴァー 攻撃力800
「そして、ぼくのターンだからドロー。ぼくは《もけもけ》を攻撃表示で召喚するよ」
もけもけ 攻撃力300
「さらにぼくは手札から、《怒れるもけもけ》を発動する」
表向きに立てられた永続魔法が、フィールドに出現する。その効果を発動することなく、茂木はバトルに移った。
「そして、ハッピーラヴァーで、アンバーマンモスを攻撃だよ」
「馬鹿な! こっちの方が攻撃力は上なんだぞ」
「構わない」
そうあっけらかんと笑った。
「ハッピー・バーニング」
口から炎のようなビームを放つが、アンバーマンモスの長い鼻で跳ね返されて、黒焦げになる。
茂木 LP4000(-900)→3100
「しかしこのとき、悪いけど、魔法カード《怒れるもけもけ》の効果が発動するよ」
『あーあー!? うぅー! ぷぷぷぷぷぷ!!!』
仲間が倒されたことで、もけもけが怒り狂い、真っ白な体が真っ赤に染まる。頭上のはてなマークが、びっくりマークに変化した。
「もけもけがフィールド上に存在しているときに、ぼくの天使族モンスターが破壊された場合、このターン、もけもけの攻撃力は3000に上がるんだよ」
「なに!?」
もけもけの真下から光の柱が立つ。
『もっけー! ぷぷぷぷぷぷ!!!』
もけもけ 攻撃力300→3000
「ぼくはもけもけで、アンバーマンモスを攻撃。いっけぇ、もけもけ! もけもけうぇーぶ!」
『もけもけぇー!』
もけもけの頭にある、小さな天使の羽を必死にばたつかせて、音波攻撃を仕掛ける。その衝撃によって、アンバーマンモスが爆散した。
「ぐっ…!」
カノン LP4000(-1300)→2700
「だけど、破壊されたアンバーマンモスの効果で、
カノンの場に、アンバーの宝玉が留まる。
「それがきみの精霊の力かい?」
「ああ。私の信頼する宝玉獣たちさ」
茂木がエンドフェイズを迎える。
「ハッピーラヴァーが破壊されたことにより、《人海戦術》の効果も発動。ぼくは《はにわ》を守備表示で特殊召喚するよ」
「はにわ…?」
「うん。はにわだよ」
はにわ 守備力500
「はにわだ…」
召喚されたモンスターは岩石族のため、《怒れるもけもけ》発動のトリガーにはならない。しかし、相手モンスターが減らないというのは、カノンにとって相当なプレッシャーだ。
劣勢の状況で、カノンは不思議に思っていた。
「それだけの強さを持ちながら、どうしてこんな地下にいるの?」
「ぼくにもよく分からないんだけど、もけもけと出会ってから、対戦したデュエリストたちがやる気をなくしてしまうんだ」
精霊の力が引き起こした事象。持ち主の意思とは無関係に、周囲に悪影響を及ぼしてしまうこともあるらしい。
「それで、ぼくの力に気づいた学園は、専用の寮を用意してくれたんだよ」
彼を隔離する目的で作られた施設。それがこの地下シェルターというわけだ。
「だったらデュエルなんてしたくないじゃないの?」
「ぼくはね、きみの可愛い精霊を、デュエルから解放してあげたいんだよ」
『ルビビィ!』
余計なお世話だと言うように、ルビーが荒ぶる。
「こうやって、のほほんとしている方が、精霊にとっては幸せだからね」
茂木の精霊たちが空中を漂う。彼の言う通り、どのモンスターも幸せそうな表情をしていた。
しかし、カノンの宝玉獣たちは違う。
『ルビルビルビィ!!』
「人と精霊の絆は、デュエリストの数だけ存在する。私たちのように、デュエルで結ばれている絆もあるんだ…!」
ルビーとカノンの心が重なり合う。
「そうかなぁ…?」
「なら目に焼き付けるといい。デュエルを楽しむ精霊の姿を!」
カノンがデッキに指を添える。
「私のターン、ドロー! 《宝玉獣 エメラルドタートル》を攻撃表示で召喚!」
エメラルドの宝玉が砕け、中から皺だらけの亀が現れる。その甲羅からはエメラルドの結晶が突き出ている。
エメラルドタートル 攻撃力600
『ワシの力が必要なようだな、カノン』
「もけもけを攻撃する! エメラルド・カッター!!」
エメラルドが首と四肢を引っ込めて、甲羅を回転させる。刃状のエネルギーが飛び、もけもけが爆散した。
「うわぁ!」
茂木 LP3100(-300)→2800
「そして、エメラルドタートルの効果発動! このターンに攻撃を行った、自分の攻撃表示モンスター1体を、守備表示に変更する!」
エメラルドの首と手足が甲羅に引っ込む。その暗闇の中で、鋭い目だけがキラリと光った。
「さらにカードを1枚伏せて、このターンを終了する」
カノンが空きスロットにカードを差し込む。
「じゃあぼくも、《人海戦術》の効果により、《ハッピーラヴァー》を攻撃表示で特殊召喚するよ」
モンスターが再び補充される。しかし、カノンも無策でターンを渡したわけではない。
「(私の場にいるのは守備モンスターのみ。天使族モンスターでの自爆は防げるはず…)」
それに、相手は低レベルの通常モンスターを主体としたデッキ。守備力2000のモンスターを倒すの容易ではないはずだ。
「ぼくのターン、ドロー。ぼくは《強欲な壺》を発動。それにより、カードを2枚ドローするよ」
手札を増強したあと、続け様に反撃を企てる。
「まずは、きみの戦略を封じさせてもらうよ。魔法カード《守備封じ》を発動。エメラルドタートルを攻撃表示に」
「なに…!?」
甲羅にこもっていたエメラルドの首と手足が伸びる。無理やり攻撃体勢に変えられてしまった。
エメラルドタートル 攻撃力600
「さらにぼくは手札から、《闇の量産工場》を発動し、墓地から通常モンスターを2体選んで、手札に加えるよ」
墓地スロットから、2枚の《もけもけ》が排出される。
「そして、魔法カード《融合》を発動。手札の《もけもけ》3体を融合」
2体以上のモンスターを融合素材とし、新たなモンスターを呼び出すカードだ。3体のもけもけの空間が歪んで混ざり合う。
「《キングもけもけ》を融合召喚!」
『キングもけもけぇー!』
超巨大サイズのもけもけが、地上には収まりきらず、海上に浮かんでいる。
キングもけもけ 攻撃力300
「ぼくは《はにわ》を攻撃表示に変更するよ」
茂木の場には、攻撃力500のはにわ、キングもけもけ、ハッピーラヴァーが並んでいる。どれも攻撃力の低いモンスターばかりだが、今のカノンには脅威だった。
「キングもけもけ、キングもけもけうぇーぶで、エメラルドタートルを攻撃して!」
『キ〜ングもけもけぇ〜! もけもけぇ〜!』
「怯むな、エメラルドタートル!」
反響したような声を出すキングもけもけを、エメラルドが甲羅を回転させながら、手裏剣のように迎え撃つ。
茂木 LP2800(-300)→2500
キングもけもけが爆散すると、3体のもけもけに分裂して着地する。
「《キングもけもけ》の効果を発動するよ。キングもけもけが破壊されたとき、自分の墓地に存在する《もけもけ》を、可能な限り特殊召喚することができる」
「また…!」
場に3体並んだもけもけの騒音のような合唱に、頭が割れそうになる。
「ぼくはもけもけ1号で、エメラルドタートルに攻撃するよ」
『もけぇ!』
突進したもけもけが、甲羅のスピン攻撃で返り討ちに遭う。
茂木 LP2500(-300)→2200
「この瞬間、《怒れるもけもけ》の効果が発動。天使族モンスターが破壊されたことにより、もけもけの攻撃力は──」
「また3000か…!」
残ったもけもけ2体が顔を真っ赤にして、怒り狂う。エメラルドを指差した茂木が攻撃命令を出した。
「もけもけ2号で、エメラルドタートルを攻撃」
『もけっ!』
音波攻撃によってエメラルドが爆散し、大ダメージを受ける。
「ぐああっ!」
カノン LP2700(-2400)→300
エメラルドが宝玉と化して、魔法&罠ゾーンに置かれる。カノンの場はがら空きとなった。
「もけもけ3号で、きみに直接攻撃」
『もーけーもーけぇー!』
音波攻撃によって、カノンが爆煙に包まれる。
「うわあああーーッ!?」
衝撃を受けたカノンの悲鳴が響く。残りライフ300では、相手の攻撃に耐えることはできない。
しかし、しばらくして煙が晴れると、そこには無事に立っているカノンがいた。
「えっ!? どうしてまだ立っていられるんだ?」
攻撃の直前と違うのは、カノンの場に伏せられていたカードが、今は表側に開かれていることだ。
「残念だったね。私は手札を1枚捨てて、罠カード《レインボー・ライフ》を発動していたのさ」
カノンの減った手札は、墓地スロットに吸い込まれていった。
「このカードの発動前に、このターンで発生したダメージをすべて無効として、発生したダメージ分のライフを回復する!」
もけもけが攻撃する瞬間、虹色のオーラがカノンを包み込んでいた。
それにより、このターンのダメージを無効化して、ライフを2700まで戻し、2400ダメージ分を回復した。その後、もけもけの攻撃で3000ダメージを受けたことになる。
カノン LP2700(+2400,-3000)→2100
「でも、まだぼくの攻撃は残っているよ。ハッピーラヴァーで、ダイレクトアタック。ハッピー・バーニング!」
「させない! リバースカードオープン、《E・フォース》! 出ろ、アンバーマンモス!」
場にあるアンバーの宝玉が輝き、特殊召喚される。カノンを守る盾となって、アンバーマンモスが相手の追撃を防いだ。
アンバーマンモス 攻撃力1700
「なら、攻撃を中止するよ」
カノンの場にモンスターが増えたことで、攻撃を取り止める。
何とかしのいだと安堵したのも束の間、茂木が次の手を打ってくる。
「魔法カード《鹵獲装置》発動。ぼくのもけもけと、きみのアンバーマンモスのコントロールを入れ替えるよ」
「なにっ!?」
もけもけとアンバーが、鹵獲装置に囚われる。二つの装置を結ぶように、バチバチと放電をし始めた。
放電が治まり、装置が開いたときには、お互いのモンスターの位置が入れ替わっていた。
「アンバーマンモス…!」
『お前なら必ず勝てる、カノン』
アンバーのコントロールを奪われたことに、カノンが動揺する。
「きみも精霊もみんな、もけもけみたいになろうよ」
『もけもけ〜』
カノンを堕落させるような鳴き声に、膝がカクッと落ちる。
「っ…」
「そうだよ、力を抜いて」
もけもけのコントロールが移ってから、今まで感じていなかった眠気を、わずかに感じている。これが、茂木の言っていた現象だろう。
さらに人海戦術の効果により、茂木の場に《ハッピーラヴァー》が守備表示で特殊召喚される。
「どうでもいいじゃない、デュエルなんて」
「私のターン…!」
カノンがドローの構えを取ると、もけもけの影響を受けていないことに、茂木が目を丸くした。
「えっ…?」
「──ドロー!」
眠気まで切り裂くようなドローをして、反撃を開始する。
「私は《ルビーカーバンクル》を攻撃表示で召喚! 来い、ルビー!」
『ルビィ!』
カノンがディスクにカードを置くと、肩に乗っていたルビーがフィールドに降り立つ。
ルビーカーバンクル 攻撃力300
「あれ、おかしいな? なんでだろう? なんでまだやる気があるんだ…?」
「当然だろ? 宝玉獣たちと闘えるだけで、私はいつも楽しくて仕方ないんだ!」
カノンを突き動かす原動力は、いつだって宝玉獣だった。
「私は手札から、《宝玉の鏡》を発動!」
カノンが魔法カードをかざす。
「《宝玉の鏡》は、魔法&罠ゾーンの宝玉に、相手の永続魔法カード1枚を映し出す。私が選ぶのは、《怒れるもけもけ》!」
エメラルドの宝玉に、《怒れるもけもけ》のカードが反射する。
「このターンの終了時まで、選んだ永続魔法と同じ効果が、宝玉には宿る!」
「えっ!?」
ルビーが宝玉化している状態で効果を発動できるのと同じ原理が、エメラルドにも適用される。
「ルビー! もけもけに攻撃だ! ルビー・ソニック!!」
『ルービィー!』
口からビームを放つルビーと、音波攻撃を繰り出すもけもけ。二つのエネルギーがぶつかり合い、同士討ちしたルビーが宝玉と化す。
「ぼくのもけもけが破壊されたことで、《怒れるもけもけ》の効果が発動する」
「それはこちらも同じだ!」
鏡写しのように同調するカノンに、茂木が面食らう。
「えっ!? 《怒れるもけもけ》を発動するには、自分の天使族モンスターが破壊される必要が──まさか!?」
「そう、破壊されたルビーカーバンクルは天使族! よってこの瞬間、宝玉に宿った《怒れるもけもけ》の効果は発動する!」
『もけぇー! ぷぷぷぷぷぷー!』
エメラルドの宝玉に反射された光が、もけもけに照射される。ルビーが破壊された怒りで、もけもけの顔が真っ赤に染まる。
もけもけ 攻撃力300→3000
「そ、そんな…!」
「もけもけウェーブで攻撃! とどめだ!」
攻撃力800のハッピーラヴァーに、顔つきの変わったもけもけが、必死に羽をばたつかせる。
「えっ?えっ? もけもけが、あんなにやる気を出している…!!」
『もけもけぇッー!!』
動揺を隠せない茂木に、音波攻撃を繰り出した。
「うわあああーーっ!?」
戦闘による爆発の衝撃で、後ろに吹き飛ばされる。ディスクに表示されたライフがみるみる減っていく。
茂木 LP2200(-2200)→0
デュエル終了の電子音が鳴り、ソリッドビジョンのモンスターが消える。大の字に寝転がったままの茂木に、カノンが近づいた。
「もけもけにも、デュエルに熱くなる気持ちはあったみたいだね」
「ああ。持ち主によって精霊が左右されるなんて、思いもしなかったよ」
カノンにとっても、もけもけの精霊をコントロールすることは難しく、精霊が人間に直接的な影響を与えることがある事実は新発見だった。
「たまにはきみのように、勝負にこだわるのもいいもんだな」
無気力だった茂木が、デュエルに対して前向きな気持ちを抱けたのなら良かった。
「それじゃあ、私の研究の手伝いをしてもらうよ」
「約束だからね。でも、今は頑張りすぎちゃって、眠くなってきちゃった…おやすみ」
「え?」
話している途中だったのに、ものの数秒で眠りについてしまった。
「まったく…。先が思いやられるな」
カノンは、『茂木もけ夫』という協力者を手に入れた。
眠ってしまった茂木は所員たちに運ばせ、今後はSAL研究所に住み込み、研究の手伝いをしてもらうことになった。