遊戯王GX 宝玉獣に選ばれし少女   作:アロイ

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#6 兄への思い!カノンVS明日香

 

 それは真夜中のことだった。テストの補講で疲れ果てたカノンが寮で眠っていると、ルビーが警告するように鳴き出した。

 

『ルビィ!! ルビルビルビィー!!』

「うぅん…。どうしたの、ルビー?」

 

 その声に起こされたカノンが、眠い目を擦ってルビーの様子をうかがう。

 

『ルビビィ!』

「え? 邪悪な気配がするって?」

 

 その出処は気になるが、寝巻きのためすぐには外に出られない。急いで制服に着替えて女子寮を出る。

 懐中電灯で暗闇を照らしながら、前を走るルビーを追いかけると、廃墟のような建物にたどり着いた。

 

「ここは…廃寮になったっていう特待生寮」

 

 『KeepOUT』と記された看板と共に、ワイヤーで簡易的に塞がれていたが、誰でも入れるような粗末なものだった。

 その塀の前には、最近摘まれたであろう薔薇が一輪だけ添えられていて、関係者の訪れた痕跡があった。

 

 早速入ろうとしたが、懐中電灯の光がチカチカと点滅し始めて、ついに電池が切れてしまう。

 

「しまったな…」

 

 月明かりを頼るにしても、割れた窓ガラスを放置しているあたり、ろくに整備もされていないだろう。

 

 そうこうしている内に、ルビーが落ち着きを取り戻したので、また後で来ようと、いったん引き返した。

 

 

 

 二度寝から目覚めたカノンは、準備を整えて特待生寮に侵入する。

 

 ガラスの破片や壊れた家具などが散らばり、埃かぶってはいるが、元はブルー寮と遜色ない豪奢な内装だった面影がある。

 

 部屋を漁っていくと、特待生たちは伝説のアイテムによって発動する、闇のゲームに関係する研究をしていたらしい。安易に結びつけるなら、その実験の最中で事故に遭って消えたのかもしれない。

 精霊が見えるカノンにとって、闇のゲームは一笑に付すようなことではなく、十分にありえる話だった。

 

 さらに階段を降りると、特に隠されているわけでもなく、地下への入口を見つけた。

 

「ここは…廃坑か?」

 

 その地下通路を進んでいくと、デュエルリングが設置されている場所に着いた。一般的なデザインとは異なり、どこか儀式めいたものを感じる。

 

 邪悪な気配、闇のゲーム、行方不明者、異様な設備。カノンの頭の中で点と点が繋がっていく。憶測の域を出ないが、アカデミアが生徒を使って人体実験をしていた可能性もある。

 

「どうにもきな臭い気がする」

 

 この島には不可解な現象が多すぎる。地下から感じる強い気配も、未だ見つけられておらず、精霊にまつわる事件も隠蔽していた。

 

 特待生寮を丸ごと調べ上げた方がよさそうだと判断し、カノンは探索を切り上げる。精霊を研究しているという大徳寺先生に、一度話を聞いてみてもいいかもしれない。

 

 

 

 カノンが廃墟から出ると、ワイヤーで封鎖された向こう側で、驚きに目を見開いた明日香の姿があった。

 

「ちょっとあなた、ここは立ち入り禁止よ!」

 

 どうして彼女が、こんな辺鄙なところに居るのだろうかとカノンは訝しむ。

 

「昨日、ここに立ち入った生徒たちがいて、それを知った査問委員会は、懲罰タッグデュエルを命じたわ。そうなりたくなかったら、早く戻ってきなさい」

 

 ということは、その生徒たちが邪悪な気配を目覚めさせたのだろうか。しかし、行方不明になっていないなら、関連性は今ひとつだ。

 

「私は問題ない。立ち入り禁止区域への侵入は、特待生権限で許可されてるから」

「それだけじゃない。あなた知らないの? ここで何人もの生徒が行方不明になっているって」

 

 怒っているというより、やや心配しているようだった。カノンが敷地の外に出て、明日香と対面する。

 

「風の噂で聞いたことはある。でも、私はこうして無事だったわけだし」

「この寮の話は本当よ。遊び半分で来る場所じゃない」

 

 ただの噂を断言した明日香は、この寮に対して、並々ならぬ思いがあるようだった。

 

「私は真剣だよ。これから、この寮を改装して、徹底的に調べ上げる」

「え?」

「この寮には何か秘密が隠されてる。それを暴けば、行方不明者だって見つかるかもしれない」

 

 邪悪な気配を感じた場所に、行方不明者が多数。怪しくないところを探せと言うほうが難しい。

 

 カノンは名案を提案したつもりだったが、明日香はひどく取り乱して、彼女を非難する。

 

「ちょっと待って! そんなこと許さないわ!」

「どうしてあなたが怒ってるの?」

「それは…」

 

 理由を問われた明日香が口を重くする。

 

「…ここで消えた生徒の中には、私の兄もいるの」

 

 色々と疑問に思っていたことが納得した。そして、あの薔薇は明日香が兄へ手向けたもののようだ。

 

「だったら尚更、私に任せた方が、何か手がかりも見つかるかもしれない」

「で…でも、兄さんが戻ってくるまで、この寮を変えてほしくないの。先生たちもそう思っているからこそ、放置されているんでしょう?」

 

 遺された者たちの思いは理解できる。しかし、カノンには見つかってまずいものがあるから、学園があえて放置しているようにも見えていた。

 

「確かにそうかもね。先生には私から話を通しておくことにするよ」

「あくまでも、やめるつもりはないのね?」

「そうだと言ったら?」

 

 カノンが挑発を含んだ視線を投げる。それを受けた明日香の目に決意が宿る。

 

「実力で止めるまでよ! 一色カノン、デュエルで私と勝負なさい! 私が勝ったら、寮への手出しは諦めてもらう!」

「デュエルなら、望むところだ」

 

 余裕ぶったカノンが、デュエルディスクを変形させる。

 

「あなたがどれだけ強くても、私の兄さんを思う気持ちには勝てない!」

 

 そう強く言い放ち、明日香もデュエルディスクを変形させた。

 

「いくわよ!」

「来い!」

 

 お互いにデュエルディスクを構えて向き合う。

 

「「──決闘(デュエル)!!」」

 

カノン LP4000 VS LP4000 明日香

 

「先行はいただくわ。私のターン、ドロー!」

 

 明日香の凛々しい指先が、デッキのカードを引き抜く。

 

「《エトワール・サイバー》召喚!」

 

 くるくると回転しながら現れたエトワールが華麗にお辞儀をする。美しいダンサーでありながら流麗な戦士だ。

 

 エトワールサイバー 攻撃力1200

 

「さらにリバースカードを1枚セットし、ターンエンドよ」

 

 明日香のフィールドに裏側のカードが出される。

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 カノンが手札のカードをディスクに置いた。

 

「来いっ! 《宝玉獣 コバルトイーグル》!」

 

 コバルトの宝玉が砕け、中からオレンジのたてがみを伸ばした鷲が現れた。胸を覆う革の防具には、コバルトの宝石が飾られている。

 

 コバルトイーグル 攻撃力1400

 

「来たわね…宝玉獣…!」

「速攻で仕留める! 魔法カード《宝玉の解放》を、コバルトイーグルに装備! 攻撃力を800ポイントアップだ!」

 

 装備カードでコバルトを強化して、勝ちに行こうという腹づもりだ。

 

 コバルトイーグル 攻撃力1400→2200

 

『オレの出番だぜ!』

「やれ、コバルトイーグル! エトワールサイバーを攻撃!」

『おうよ!』

 

 獲物を狙うコバルトの爪が、エトワールに襲いかかる。

 

「甘いわっ! リバースカードオープン! 《ドゥーブル・パッセ》発動!」

「──!?」

 

 明日香が腕を前に突き出し、仕掛けていた罠カードを開いた。

 

「《ドゥーブル・パッセ》は、相手の攻撃をプレイヤーのダイレクトアタックに切り替える。そして、攻撃対象となったモンスターは相手にダイレクトアタックができる!」

 

 コバルトの攻撃を芸術的な身のこなしでひらりと躱し、カノンに向かっていく。

 

「《エトワール・サイバー》の特殊効果。ダイレクトアタックの時、攻撃力が600アップ!」

 

 エトワールサイバーは直接攻撃に作用する能力を持っている。

 コバルトが明日香を引っ掻き、エトワールがアラベスクを決めながらカノンにダメージを与えた。

 

「きゃあっ!?」

「くっ…!」

 

 明日香 LP4000(-2200)→1800

 カノン LP4000(-1800)→2200

 

「自分のライフなんてお構い無しに、こんな罠を発動するとはね」

「これくらい当然よ!」

 

 モンスターを守りたかったのだろうが、コバルトの攻撃をその身に受けたのは、大きすぎる代償だ。

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 カノンの場に裏側のカードが出される。明日香にターンが回った。

 

 

「ドロー! 《強欲な壺》発動!」

 

 開始早々、デッキからカードを2枚引いて、手札を増強する。

 

「魔法カード《融合》! フィールドのエトワールサイバーと、手札のブレードスケーターを融合し、《サイバー・ブレイダー》を召喚する!」

 

 融合素材となった2体の空間が歪み、渦巻いて混ざり合う。風を纏った高速スピンで戦場に現れたのは、気高く凛々しい銀盤の女王。

 

 サイバーブレイダー 攻撃力2100

 

 相手モンスターの数によって多彩に効果が変わる、面白い融合モンスターだ。

 

「さらに私は、《ペア・レッスン》を発動!」

 

 明日香が魔法カードをかざす。

 

「相手の手札を確認し、その中にレベル4以下のモンスターがあったとき、相手は自分の場に、効果を無効にして特殊召喚しなければならない!」

「なにっ!?」

「ただし、この効果で特殊召喚されたモンスターに、私は攻撃できない」

 

 手札を反対向きにして明日香に見せる。カノンの手札にあるレベル4以下のモンスターは、《ルビーカーバンクル》と《アンバーマンモス》の2枚だ。

 

「アンバーマンモスを、あなたの場に特殊召喚!」

『おっと、もう私の出番か?』

 

 アンバーの宝玉が砕け、六本の牙を持つマンモスが、無理やり呼び起こされる。

 

 アンバーマンモス 守備力1600

 

「そして、相手モンスターが2体になったことで、サイバーブレイダーの攻撃力は2倍になる! ──パ・ド・トロワ!!」

 

 《ペア・レッスン》とのコンボで、サイバーブレイダーの効果を自在に引き出している。さすがは、オベリスクブルーの女王と呼ばれるだけはある。

 

 サイバーブレイダー 攻撃力2100→4200

 

「攻撃力4200の強力モンスターか…!」

「まだよ! 私はさらに《サイバー・チュチュ》を召喚!」

 

 レオタードに身を包んだピンク髪の少女が、つま先立ちでくるくると回転し、ポーズを決める。

 

 サイバーチュチュ 攻撃力1000

 

「……」

 

 息つく暇もない怒涛の展開に、明日香の本気が伝わってくる。よほど兄のことが大事らしい。

 

「《サイバー・チュチュ》は、相手フィールドにこのカードよりも攻撃力が低いモンスターがいない場合、プレイヤーへ直接攻撃することができる。ヌーベル・ポアント!!」

 

 アンバーマンモスの攻撃力は1700なため、条件は満たしている。お辞儀をしたチュチュが回転し、つま先でカノンをキックする。

 

「ぐうぅっ!」

 

 カノン LP2200(-1000)→1200

 

 ダメージの衝撃を受けるカノンに、攻撃を畳み掛ける。

 

「これで終わりよ! サイバーブレイダーで、コバルトイーグルを攻撃! グリッサードスラッシュ!!」

 

 優雅な高速スピンで移動しながら、コバルトを足裏のブレードで切り裂こうとする。

 この攻撃を受ければ、ライフは0になってしまう。カノンは咄嗟に、伏せていたカードを発動した。

 

「リバースカードオープン! 速攻魔法《宝玉の閃光》! 手札の宝玉獣を魔法&罠(マジック・トラップ)ゾーンに置き、その戦闘ダメージを0にする! 現れろ、ルビー!」

『ルゥ…ビィーッ!』

 

 手札を飛び出したルビーの尻尾から閃光が走り、攻撃を受ける直前にコバルトの身を包み込んだ。 

 破壊されたコバルトと、力を使い果たしたルビーが宝玉となった。

 

「往生際の悪い…!」

「宝玉獣は破壊されたとき、魔法&罠ゾーンに置かれる宝玉となる。そして、《宝玉の解放》が破壊されたことで、デッキから新たな宝玉を呼び出す。現れろ、トパーズ!」

 

 カノンの場にトパーズの宝玉が増える。一気に宝玉を3つも揃え、次のターンへの布石も打った。

 

「リバースカードを1枚伏せて、ターンエンドよ」

 

 明日香の足元に、裏側のカードが出される。

 

「この瞬間、《ペアレッスン》の効果で特殊召喚されたモンスターは、エンドフェイズに持ち主の手札に戻る」

 

 アンバーマンモスが戻され、手札のカードが1枚増える。次はカノンが攻める番だ。

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 デッキからカードを引くのと同時に、明日香が動く。

 

「この瞬間、《プリマの光》を発動!」

「──!?」

 

 カノンが何かする前に、速攻魔法で先制を仕掛ける。

 

「サイバーチュチュを墓地へ送って、手札から《サイバー・プリマ》を攻撃表示で召喚!」

 

 サイバーチュチュが踊り手の頂点に登り詰めた姿。派手な仮面と美しく流れる銀髪がフィールドという大舞台によく映える。

 

 サイバープリマ 攻撃力2300

 

「《サイバー・プリマ》の効果発動! このカードが特殊召喚された時、フィールドの魔法カードをすべて破壊する!」

「なに!?」

 

 魔法&罠ゾーンにいる宝玉獣は、永続魔法カード扱いとなっている。3つあった宝玉がすべて消滅する。

 

「宝玉獣デッキにとって、魔法&罠ゾーンのカードが重要なのは、万丈目くんとのデュエルで予習済みよ!」

 

 これで、ルビーからの大量展開ができなくなった。宝玉獣の弱点を突く戦術は見事だ。

 

「くっ…私は《アンバーマンモス》を守備表示で召喚」

 

 アンバーの宝玉が砕けて、中から宝玉獣が現れる。その巨体でカノンの場を固めた。

 

 アンバーマンモス 守備力1600

 

『まずい状況だぞ、カノン』

「ああ…」

 

 生命線の宝玉を除去され、手札も残り少ない。非常に苦しい状況を強いられている。

 

「リバースカードをセットして、ターンエンド」

 

 モンスターとセットカードが1枚ずつ。とても盤石とは言えない布陣でターンを渡す。

 

 

「すぐに楽にしてあげるわ! ドロー!」

 

 勝ちを確信している明日香がカードを引いて、すぐに攻撃へ移る。

 

「バトルよ! サイバーブレイダーの攻撃! グリッサードスラッシュ!!」

 

 手始めに、邪魔なアンバーを倒しにかかる。サイバーブレイダーが迫る中、カノンもリバースカードで応戦した。

 

「まだだ! 罠発動《イタクァの暴風》! 相手モンスターの表示形式を入れ替える!」

 

 コバルトイーグルの幻影が羽ばたくと、相手フィールドに暴風が起こる。モンスターたちが吹き飛ばされないように、風を腕で庇いながら膝をつく。

 

 サイバーブレイダー 守備力800

 サイバープリマ 守備力1600

 

「なんとかしのげたか…」

「まだそんなカードを残していたのね」

 

 とどめを刺し損ねた明日香が、悪あがきだと切り捨てる。

 

「サイバープリマを攻撃表示に変更して、ターンを終了するわ」

 

 まだ攻撃宣言をしていないモンスターは、表示形式の変更ができる。膝をついていた姿勢から立ち上がった。

 

 サイバープリマ 攻撃力2300

 

「このターンを耐えたのはさすがだわ。でも、幸運はそう何度も続くものじゃない」

「だったら、引き寄せるまでさ」

 

 カノンがデッキに指を添える。このターンが、勝負の明暗を分けることになるだろう。

 

「私のターン、ドロー! 《強欲な壺》を発動し、デッキからさらに2枚ドローする!」

 

 足りない手札を一気に補充し、頭の中でタクティクスを瞬時に組み立てる。ここからが、カノンの反撃の始まりだ。

 

「まずはお前の力が必要だ! 魔法カード《宝玉転生》を発動! 場の宝玉を1体魔法&罠ゾーンに置くことで、墓地から宝玉獣を呼び戻す!」

『あとは頼むぞ!』

 

 アンバーが宝玉に戻った代わりに、墓地の宝玉獣がフィールドに転生する。

 

「蘇れ! 《宝玉獣 トパーズタイガー》!!」

『今度はオレ様の刃を喰らわせてやるぞ!』

 

 トパーズの宝玉が砕け、中から強面のホワイトタイガーが吼える。その頭部と脚からは、尖った刃が生えている。

 

「そして私は手札から、《宝玉の双晶》を発動! このターン、宝玉獣は攻撃力を半分にして2回攻撃できる!」

 

 その魔法効果により、トパーズの攻撃力が半減するが、その目は依然として、敵を見据えている。

 

 トパーズタイガー 攻撃力1600→800

 

「そんなことをして、いったい何の意味があるっていうの?」

「すぐに分かるさ」

 

 足りない攻撃力を下げてまで、攻撃回数を増やしたことに疑念を抱く。

 

「トパーズタイガーで、サイバーブレイダーを攻撃!」

「無駄よ! サイバーブレイダーは、相手のモンスターが1体の場合、戦闘では破壊されない!」

 

 飛びかかるトパーズを前にして、特殊効果が発揮される。だが、カノンは一切動じていない。

 

「トパーズタイガーの戦闘時、その攻撃力は400ポイントアップする!」

『ハアァァァ!』

 

 トパーズタイガー 攻撃力800→1200

 

「いくら攻撃力を上げたところで、サイバーブレイダーの前では無力よ!」

「それはどうかな!」

「──!?」

 

 トパーズの攻撃が届く直前、カノンが手札のカードをかざした。

 

「速攻魔法《M・フォース》!! トパーズタイガーの攻撃力を500ポイントアップする! そして、守備表示モンスターとの戦闘で攻撃力が守備力を上回っていれば、その数値分だけ相手にダメージを与える!」

「まさか…!?」

 

 トパーズに貫通効果が与えられる。それが意味するところを、明日香の優秀な頭が導き出す。

 

 トパーズタイガー 攻撃力1200→1700

 

「トパーズ・バイト!!」

 

 サイバーブレイダーの体を、トパーズの刃が切り裂こうとする。特殊な力で守られてしまったが、その切れ味はプレイヤーに流れていく。

 

「攻撃力1700と守備力800の差は900! よって、900ポイントのダメージを受けてもらう!」

「きあああっ!!」

 

 貫通したダメージの衝撃に、明日香が悲鳴を上げる。

 

 明日香 LP1800(-900)→900

 

 戦闘は終了したが、カノンにはもう一回攻撃が残されている。そして──。

 

「戦闘で破壊されないサイバーブレイダーは、私の場に残り続ける…」

 

 サイバーブレイダー 守備力800

 

 本来ならメリットになるはずの効果を逆手にとったタクティクス。

 目の前の小柄な少女が、明日香には恐ろしく大きな存在に感じた。

 

「これで終わりだ!」

「(ごめんなさい、兄さん…!)」

 

 明日香の脳裏には、兄の優しい笑顔が浮かんでいた。

 

「トパーズタイガーで、もう一度サイバーブレイダーに攻撃! ──トパーズ・ツイン・バイト!!」

「きゃあああーっ!!」

 

 トパーズタイガーの刃が、モンスターごと明日香を貫いた。与えられたダメージにライフが減っていく。

 

 明日香 LP900(-900)→0

 

 デュエル終了の電子音が鳴り、ソリッドビジョンのモンスターも消える。

 兄への思いを破られ、明日香が崩れ落ちた。

 

「…言い訳するつもりはないわ。この寮は、あなたの好きにしてちょうだい」

 

 暗い顔をする彼女に、カノンは呆れ混じりに声をかける。

 

「何言ってるの? あんな熱いデュエルを見せられて、お兄さんへの気持ちを無視できるわけないでしょ」

「えっ…?」

 

 明日香が繰り出す一手一手に、カノンの心は揺さぶられていた。

 

「デュエルを通して、あなたの本気は伝わってきた。もうこの寮に手出しはしない」

「本当に…!?」

「うん。お兄さんの行方についても、気づいたことがあれば教えるよ。不安にさせてごめん」

 

 バツが悪そうに笑うカノンを、明日香は見つめていた。感謝の言葉が口をついて出る。

 

「ありがとう。──カノン」

 

 下の名前で呼ばれた彼女は、少し驚いた顔で返事をする。

 

「早くお兄さんが見つかるといいね。明日香」

 

 森の中にある不気味な廃墟の前で、少女たちの絆が結ばれた。

 




“男女CP要素なし”のタグ付けを忘れてたので修正しました。ヨハンの立場にいる女主人公ということで、十代との恋愛要素を期待されている方がいたら申し訳ありません。
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