それは真夜中のことだった。テストの補講で疲れ果てたカノンが寮で眠っていると、ルビーが警告するように鳴き出した。
『ルビィ!! ルビルビルビィー!!』
「うぅん…。どうしたの、ルビー?」
その声に起こされたカノンが、眠い目を擦ってルビーの様子をうかがう。
『ルビビィ!』
「え? 邪悪な気配がするって?」
その出処は気になるが、寝巻きのためすぐには外に出られない。急いで制服に着替えて女子寮を出る。
懐中電灯で暗闇を照らしながら、前を走るルビーを追いかけると、廃墟のような建物にたどり着いた。
「ここは…廃寮になったっていう特待生寮」
『KeepOUT』と記された看板と共に、ワイヤーで簡易的に塞がれていたが、誰でも入れるような粗末なものだった。
その塀の前には、最近摘まれたであろう薔薇が一輪だけ添えられていて、関係者の訪れた痕跡があった。
早速入ろうとしたが、懐中電灯の光がチカチカと点滅し始めて、ついに電池が切れてしまう。
「しまったな…」
月明かりを頼るにしても、割れた窓ガラスを放置しているあたり、ろくに整備もされていないだろう。
そうこうしている内に、ルビーが落ち着きを取り戻したので、また後で来ようと、いったん引き返した。
二度寝から目覚めたカノンは、準備を整えて特待生寮に侵入する。
ガラスの破片や壊れた家具などが散らばり、埃かぶってはいるが、元はブルー寮と遜色ない豪奢な内装だった面影がある。
部屋を漁っていくと、特待生たちは伝説のアイテムによって発動する、闇のゲームに関係する研究をしていたらしい。安易に結びつけるなら、その実験の最中で事故に遭って消えたのかもしれない。
精霊が見えるカノンにとって、闇のゲームは一笑に付すようなことではなく、十分にありえる話だった。
さらに階段を降りると、特に隠されているわけでもなく、地下への入口を見つけた。
「ここは…廃坑か?」
その地下通路を進んでいくと、デュエルリングが設置されている場所に着いた。一般的なデザインとは異なり、どこか儀式めいたものを感じる。
邪悪な気配、闇のゲーム、行方不明者、異様な設備。カノンの頭の中で点と点が繋がっていく。憶測の域を出ないが、アカデミアが生徒を使って人体実験をしていた可能性もある。
「どうにもきな臭い気がする」
この島には不可解な現象が多すぎる。地下から感じる強い気配も、未だ見つけられておらず、精霊にまつわる事件も隠蔽していた。
特待生寮を丸ごと調べ上げた方がよさそうだと判断し、カノンは探索を切り上げる。精霊を研究しているという大徳寺先生に、一度話を聞いてみてもいいかもしれない。
カノンが廃墟から出ると、ワイヤーで封鎖された向こう側で、驚きに目を見開いた明日香の姿があった。
「ちょっとあなた、ここは立ち入り禁止よ!」
どうして彼女が、こんな辺鄙なところに居るのだろうかとカノンは訝しむ。
「昨日、ここに立ち入った生徒たちがいて、それを知った査問委員会は、懲罰タッグデュエルを命じたわ。そうなりたくなかったら、早く戻ってきなさい」
ということは、その生徒たちが邪悪な気配を目覚めさせたのだろうか。しかし、行方不明になっていないなら、関連性は今ひとつだ。
「私は問題ない。立ち入り禁止区域への侵入は、特待生権限で許可されてるから」
「それだけじゃない。あなた知らないの? ここで何人もの生徒が行方不明になっているって」
怒っているというより、やや心配しているようだった。カノンが敷地の外に出て、明日香と対面する。
「風の噂で聞いたことはある。でも、私はこうして無事だったわけだし」
「この寮の話は本当よ。遊び半分で来る場所じゃない」
ただの噂を断言した明日香は、この寮に対して、並々ならぬ思いがあるようだった。
「私は真剣だよ。これから、この寮を改装して、徹底的に調べ上げる」
「え?」
「この寮には何か秘密が隠されてる。それを暴けば、行方不明者だって見つかるかもしれない」
邪悪な気配を感じた場所に、行方不明者が多数。怪しくないところを探せと言うほうが難しい。
カノンは名案を提案したつもりだったが、明日香はひどく取り乱して、彼女を非難する。
「ちょっと待って! そんなこと許さないわ!」
「どうしてあなたが怒ってるの?」
「それは…」
理由を問われた明日香が口を重くする。
「…ここで消えた生徒の中には、私の兄もいるの」
色々と疑問に思っていたことが納得した。そして、あの薔薇は明日香が兄へ手向けたもののようだ。
「だったら尚更、私に任せた方が、何か手がかりも見つかるかもしれない」
「で…でも、兄さんが戻ってくるまで、この寮を変えてほしくないの。先生たちもそう思っているからこそ、放置されているんでしょう?」
遺された者たちの思いは理解できる。しかし、カノンには見つかってまずいものがあるから、学園があえて放置しているようにも見えていた。
「確かにそうかもね。先生には私から話を通しておくことにするよ」
「あくまでも、やめるつもりはないのね?」
「そうだと言ったら?」
カノンが挑発を含んだ視線を投げる。それを受けた明日香の目に決意が宿る。
「実力で止めるまでよ! 一色カノン、デュエルで私と勝負なさい! 私が勝ったら、寮への手出しは諦めてもらう!」
「デュエルなら、望むところだ」
余裕ぶったカノンが、デュエルディスクを変形させる。
「あなたがどれだけ強くても、私の兄さんを思う気持ちには勝てない!」
そう強く言い放ち、明日香もデュエルディスクを変形させた。
「いくわよ!」
「来い!」
お互いにデュエルディスクを構えて向き合う。
「先行はいただくわ。私のターン、ドロー!」
明日香の凛々しい指先が、デッキのカードを引き抜く。
「《エトワール・サイバー》召喚!」
くるくると回転しながら現れたエトワールが華麗にお辞儀をする。美しいダンサーでありながら流麗な戦士だ。
エトワールサイバー 攻撃力1200
「さらにリバースカードを1枚セットし、ターンエンドよ」
明日香のフィールドに裏側のカードが出される。
「私のターン、ドロー!」
カノンが手札のカードをディスクに置いた。
「来いっ! 《宝玉獣 コバルトイーグル》!」
コバルトの宝玉が砕け、中からオレンジのたてがみを伸ばした鷲が現れた。胸を覆う革の防具には、コバルトの宝石が飾られている。
コバルトイーグル 攻撃力1400
「来たわね…宝玉獣…!」
「速攻で仕留める! 魔法カード《宝玉の解放》を、コバルトイーグルに装備! 攻撃力を800ポイントアップだ!」
装備カードでコバルトを強化して、勝ちに行こうという腹づもりだ。
コバルトイーグル 攻撃力1400→2200
『オレの出番だぜ!』
「やれ、コバルトイーグル! エトワールサイバーを攻撃!」
『おうよ!』
獲物を狙うコバルトの爪が、エトワールに襲いかかる。
「甘いわっ! リバースカードオープン! 《ドゥーブル・パッセ》発動!」
「──!?」
明日香が腕を前に突き出し、仕掛けていた罠カードを開いた。
「《ドゥーブル・パッセ》は、相手の攻撃をプレイヤーのダイレクトアタックに切り替える。そして、攻撃対象となったモンスターは相手にダイレクトアタックができる!」
コバルトの攻撃を芸術的な身のこなしでひらりと躱し、カノンに向かっていく。
「《エトワール・サイバー》の特殊効果。ダイレクトアタックの時、攻撃力が600アップ!」
エトワールサイバーは直接攻撃に作用する能力を持っている。
コバルトが明日香を引っ掻き、エトワールがアラベスクを決めながらカノンにダメージを与えた。
「きゃあっ!?」
「くっ…!」
明日香 LP4000(-2200)→1800
カノン LP4000(-1800)→2200
「自分のライフなんてお構い無しに、こんな罠を発動するとはね」
「これくらい当然よ!」
モンスターを守りたかったのだろうが、コバルトの攻撃をその身に受けたのは、大きすぎる代償だ。
「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド」
カノンの場に裏側のカードが出される。明日香にターンが回った。
「ドロー! 《強欲な壺》発動!」
開始早々、デッキからカードを2枚引いて、手札を増強する。
「魔法カード《融合》! フィールドのエトワールサイバーと、手札のブレードスケーターを融合し、《サイバー・ブレイダー》を召喚する!」
融合素材となった2体の空間が歪み、渦巻いて混ざり合う。風を纏った高速スピンで戦場に現れたのは、気高く凛々しい銀盤の女王。
サイバーブレイダー 攻撃力2100
相手モンスターの数によって多彩に効果が変わる、面白い融合モンスターだ。
「さらに私は、《ペア・レッスン》を発動!」
明日香が魔法カードをかざす。
「相手の手札を確認し、その中にレベル4以下のモンスターがあったとき、相手は自分の場に、効果を無効にして特殊召喚しなければならない!」
「なにっ!?」
「ただし、この効果で特殊召喚されたモンスターに、私は攻撃できない」
手札を反対向きにして明日香に見せる。カノンの手札にあるレベル4以下のモンスターは、《ルビーカーバンクル》と《アンバーマンモス》の2枚だ。
「アンバーマンモスを、あなたの場に特殊召喚!」
『おっと、もう私の出番か?』
アンバーの宝玉が砕け、六本の牙を持つマンモスが、無理やり呼び起こされる。
アンバーマンモス 守備力1600
「そして、相手モンスターが2体になったことで、サイバーブレイダーの攻撃力は2倍になる! ──パ・ド・トロワ!!」
《ペア・レッスン》とのコンボで、サイバーブレイダーの効果を自在に引き出している。さすがは、オベリスクブルーの女王と呼ばれるだけはある。
サイバーブレイダー 攻撃力2100→4200
「攻撃力4200の強力モンスターか…!」
「まだよ! 私はさらに《サイバー・チュチュ》を召喚!」
レオタードに身を包んだピンク髪の少女が、つま先立ちでくるくると回転し、ポーズを決める。
サイバーチュチュ 攻撃力1000
「……」
息つく暇もない怒涛の展開に、明日香の本気が伝わってくる。よほど兄のことが大事らしい。
「《サイバー・チュチュ》は、相手フィールドにこのカードよりも攻撃力が低いモンスターがいない場合、プレイヤーへ直接攻撃することができる。ヌーベル・ポアント!!」
アンバーマンモスの攻撃力は1700なため、条件は満たしている。お辞儀をしたチュチュが回転し、つま先でカノンをキックする。
「ぐうぅっ!」
カノン LP2200(-1000)→1200
ダメージの衝撃を受けるカノンに、攻撃を畳み掛ける。
「これで終わりよ! サイバーブレイダーで、コバルトイーグルを攻撃! グリッサードスラッシュ!!」
優雅な高速スピンで移動しながら、コバルトを足裏のブレードで切り裂こうとする。
この攻撃を受ければ、ライフは0になってしまう。カノンは咄嗟に、伏せていたカードを発動した。
「リバースカードオープン! 速攻魔法《宝玉の閃光》! 手札の宝玉獣を
『ルゥ…ビィーッ!』
手札を飛び出したルビーの尻尾から閃光が走り、攻撃を受ける直前にコバルトの身を包み込んだ。
破壊されたコバルトと、力を使い果たしたルビーが宝玉となった。
「往生際の悪い…!」
「宝玉獣は破壊されたとき、魔法&罠ゾーンに置かれる宝玉となる。そして、《宝玉の解放》が破壊されたことで、デッキから新たな宝玉を呼び出す。現れろ、トパーズ!」
カノンの場にトパーズの宝玉が増える。一気に宝玉を3つも揃え、次のターンへの布石も打った。
「リバースカードを1枚伏せて、ターンエンドよ」
明日香の足元に、裏側のカードが出される。
「この瞬間、《ペアレッスン》の効果で特殊召喚されたモンスターは、エンドフェイズに持ち主の手札に戻る」
アンバーマンモスが戻され、手札のカードが1枚増える。次はカノンが攻める番だ。
「私のターン、ドロー!」
デッキからカードを引くのと同時に、明日香が動く。
「この瞬間、《プリマの光》を発動!」
「──!?」
カノンが何かする前に、速攻魔法で先制を仕掛ける。
「サイバーチュチュを墓地へ送って、手札から《サイバー・プリマ》を攻撃表示で召喚!」
サイバーチュチュが踊り手の頂点に登り詰めた姿。派手な仮面と美しく流れる銀髪がフィールドという大舞台によく映える。
サイバープリマ 攻撃力2300
「《サイバー・プリマ》の効果発動! このカードが特殊召喚された時、フィールドの魔法カードをすべて破壊する!」
「なに!?」
魔法&罠ゾーンにいる宝玉獣は、永続魔法カード扱いとなっている。3つあった宝玉がすべて消滅する。
「宝玉獣デッキにとって、魔法&罠ゾーンのカードが重要なのは、万丈目くんとのデュエルで予習済みよ!」
これで、ルビーからの大量展開ができなくなった。宝玉獣の弱点を突く戦術は見事だ。
「くっ…私は《アンバーマンモス》を守備表示で召喚」
アンバーの宝玉が砕けて、中から宝玉獣が現れる。その巨体でカノンの場を固めた。
アンバーマンモス 守備力1600
『まずい状況だぞ、カノン』
「ああ…」
生命線の宝玉を除去され、手札も残り少ない。非常に苦しい状況を強いられている。
「リバースカードをセットして、ターンエンド」
モンスターとセットカードが1枚ずつ。とても盤石とは言えない布陣でターンを渡す。
「すぐに楽にしてあげるわ! ドロー!」
勝ちを確信している明日香がカードを引いて、すぐに攻撃へ移る。
「バトルよ! サイバーブレイダーの攻撃! グリッサードスラッシュ!!」
手始めに、邪魔なアンバーを倒しにかかる。サイバーブレイダーが迫る中、カノンもリバースカードで応戦した。
「まだだ! 罠発動《イタクァの暴風》! 相手モンスターの表示形式を入れ替える!」
コバルトイーグルの幻影が羽ばたくと、相手フィールドに暴風が起こる。モンスターたちが吹き飛ばされないように、風を腕で庇いながら膝をつく。
サイバーブレイダー 守備力800
サイバープリマ 守備力1600
「なんとかしのげたか…」
「まだそんなカードを残していたのね」
とどめを刺し損ねた明日香が、悪あがきだと切り捨てる。
「サイバープリマを攻撃表示に変更して、ターンを終了するわ」
まだ攻撃宣言をしていないモンスターは、表示形式の変更ができる。膝をついていた姿勢から立ち上がった。
サイバープリマ 攻撃力2300
「このターンを耐えたのはさすがだわ。でも、幸運はそう何度も続くものじゃない」
「だったら、引き寄せるまでさ」
カノンがデッキに指を添える。このターンが、勝負の明暗を分けることになるだろう。
「私のターン、ドロー! 《強欲な壺》を発動し、デッキからさらに2枚ドローする!」
足りない手札を一気に補充し、頭の中でタクティクスを瞬時に組み立てる。ここからが、カノンの反撃の始まりだ。
「まずはお前の力が必要だ! 魔法カード《宝玉転生》を発動! 場の宝玉を1体魔法&罠ゾーンに置くことで、墓地から宝玉獣を呼び戻す!」
『あとは頼むぞ!』
アンバーが宝玉に戻った代わりに、墓地の宝玉獣がフィールドに転生する。
「蘇れ! 《宝玉獣 トパーズタイガー》!!」
『今度はオレ様の刃を喰らわせてやるぞ!』
トパーズの宝玉が砕け、中から強面のホワイトタイガーが吼える。その頭部と脚からは、尖った刃が生えている。
「そして私は手札から、《宝玉の双晶》を発動! このターン、宝玉獣は攻撃力を半分にして2回攻撃できる!」
その魔法効果により、トパーズの攻撃力が半減するが、その目は依然として、敵を見据えている。
トパーズタイガー 攻撃力1600→800
「そんなことをして、いったい何の意味があるっていうの?」
「すぐに分かるさ」
足りない攻撃力を下げてまで、攻撃回数を増やしたことに疑念を抱く。
「トパーズタイガーで、サイバーブレイダーを攻撃!」
「無駄よ! サイバーブレイダーは、相手のモンスターが1体の場合、戦闘では破壊されない!」
飛びかかるトパーズを前にして、特殊効果が発揮される。だが、カノンは一切動じていない。
「トパーズタイガーの戦闘時、その攻撃力は400ポイントアップする!」
『ハアァァァ!』
トパーズタイガー 攻撃力800→1200
「いくら攻撃力を上げたところで、サイバーブレイダーの前では無力よ!」
「それはどうかな!」
「──!?」
トパーズの攻撃が届く直前、カノンが手札のカードをかざした。
「速攻魔法《M・フォース》!! トパーズタイガーの攻撃力を500ポイントアップする! そして、守備表示モンスターとの戦闘で攻撃力が守備力を上回っていれば、その数値分だけ相手にダメージを与える!」
「まさか…!?」
トパーズに貫通効果が与えられる。それが意味するところを、明日香の優秀な頭が導き出す。
トパーズタイガー 攻撃力1200→1700
「トパーズ・バイト!!」
サイバーブレイダーの体を、トパーズの刃が切り裂こうとする。特殊な力で守られてしまったが、その切れ味はプレイヤーに流れていく。
「攻撃力1700と守備力800の差は900! よって、900ポイントのダメージを受けてもらう!」
「きあああっ!!」
貫通したダメージの衝撃に、明日香が悲鳴を上げる。
明日香 LP1800(-900)→900
戦闘は終了したが、カノンにはもう一回攻撃が残されている。そして──。
「戦闘で破壊されないサイバーブレイダーは、私の場に残り続ける…」
サイバーブレイダー 守備力800
本来ならメリットになるはずの効果を逆手にとったタクティクス。
目の前の小柄な少女が、明日香には恐ろしく大きな存在に感じた。
「これで終わりだ!」
「(ごめんなさい、兄さん…!)」
明日香の脳裏には、兄の優しい笑顔が浮かんでいた。
「トパーズタイガーで、もう一度サイバーブレイダーに攻撃! ──トパーズ・ツイン・バイト!!」
「きゃあああーっ!!」
トパーズタイガーの刃が、モンスターごと明日香を貫いた。与えられたダメージにライフが減っていく。
明日香 LP900(-900)→0
デュエル終了の電子音が鳴り、ソリッドビジョンのモンスターも消える。
兄への思いを破られ、明日香が崩れ落ちた。
「…言い訳するつもりはないわ。この寮は、あなたの好きにしてちょうだい」
暗い顔をする彼女に、カノンは呆れ混じりに声をかける。
「何言ってるの? あんな熱いデュエルを見せられて、お兄さんへの気持ちを無視できるわけないでしょ」
「えっ…?」
明日香が繰り出す一手一手に、カノンの心は揺さぶられていた。
「デュエルを通して、あなたの本気は伝わってきた。もうこの寮に手出しはしない」
「本当に…!?」
「うん。お兄さんの行方についても、気づいたことがあれば教えるよ。不安にさせてごめん」
バツが悪そうに笑うカノンを、明日香は見つめていた。感謝の言葉が口をついて出る。
「ありがとう。──カノン」
下の名前で呼ばれた彼女は、少し驚いた顔で返事をする。
「早くお兄さんが見つかるといいね。明日香」
森の中にある不気味な廃墟の前で、少女たちの絆が結ばれた。
“男女CP要素なし”のタグ付けを忘れてたので修正しました。ヨハンの立場にいる女主人公ということで、十代との恋愛要素を期待されている方がいたら申し訳ありません。