休日の昼下がり。女子寮の一角で、明日香が大きな声を上げた。
「信じられない!」
「そんなに驚くこと?」
どうして彼女がこれほど衝撃を受けているかというと、その理由はテーブルに広げられているカノンのデッキにあった。
「当然よ! デッキにモンスターカードを7枚しか入れていないなんて…。普通ありえないわ!?」
デュエルモンスターズのデッキは40枚以上のカードで構築される。その内の7枚しかないカードを毎回引く確率というのは到底高くはない。
「だって仕方ないでしょ。宝玉獣は世界に1枚しかないカードなんだから」
「だからって…。なんて引きをしてるのかしら」
明日香が頭痛を堪えるような顔で呆れ返る。このデタラメなデッキに自分は負けたのだと思うと、少し複雑な気持ちになってしまう。
明日香と一緒に部屋を出て、寮の共有スペースまで移動する。その途端、和気あいあいと話していた女子軍団に囲まれた。
「カノンさん、今月のデュエルマガジン買いましたわ! いつも通り、素敵なお姿でした!」
「ありがとう」
「カノンさん、一緒にお昼に行きませんか!」
「また今度ね」
「カノンさん!」「カノンさ〜ん!」
カノンが明日香と仲良くなったことで、気安さを感じたのか、他の生徒たちから声をかけられることが多くなった。
その中には、明日香の友人の『枕田ジュンコ』と『浜口ももえ』の姿もある。
カノンの人目を惹く外見と、唯一の特待生という立場、トップモデルとして活躍中ともなれば、嫌でも目立ってしまう。
一色グループは女性デュエリストからの支持が高く、カノンの隠れファンたちはそこかしこに潜んでいたのだ。
──しかし一方で、そんな変化を好ましく思わない者もいる。
その女子生徒は雑誌で顔を隠しながら、持て囃されているカノンに歯ぎしりしていた。
「一色カノン…! あの一色グループの娘で、宝玉獣デッキの使い手…! どうしてあんな小娘ばっかり目立っているのかしら…! 気に入らないわ…!」
彼女のテーブルにはカノンが載っている雑誌が大量に置いてあった。その表紙を飾っているのはすべてカノンだ。
『デュエルで痩せる』『美しいデュエルマッスルの身に付け方』『美少女デュエリストのルーティーン』『デュエルでカロリーカット』『デュエルで理想の体型を』『異性にモテるデッキ構築論』『デュエル大会の着回しコーデ』『気になる彼をドキッとさせちゃう小テクプレイング』
カノンを持ち上げるばかりの記事に、苛立ちを抑え切れなくなり、雑誌を持つ手に力がこもる。
「ムッキィィィーー!!!」
彼女が力任せにそれらを引き裂く。さらに、ページをビリビリに破いて捨てた。
「ふぅ…ふぅ…ふぅ…!」
荒い鼻息を整えながら、とある決意を固める。
「あんな小娘ごとき、ワタシの手で叩き潰してあげるわ!」
聞いた話によれば、あの天上院明日香を負かしたらしい。つまり、明日香を倒したカノンを倒せば、ブルー女子の女王の座は自分のものとなる。
「一色カノン! これを受け取りなさい!」
カノンの目の前にズカズカと進み、その胸に白手袋を叩きつけた。
「手袋…?」
「フッ…拾ったわね」
ニヤリと唇を吊り上げて、立ち尽くすカノンを指差した。
「オベリスクブルーの女王の座を賭けて、あなたにデュエルを申し込むわ!」
「は?」
自分勝手な宣言に、カノンが面食らう。
「場所はブルー専用のデュエル場! 時刻は1時間後よ! もし時間内に来なかったら、アナタの敗北とするわ。逃げるんじゃないわよ!」
一人で勝手に盛り上がって、女子寮から出ていくのを見送る。
「なんだったんだ、今の…」
「面倒な相手に絡まれたわね、カノン」
一部始終を見ていた明日香が、どういう人物なのか説明してくれる。
「彼女は『
「知ってるの、明日香?」
「亮…カイザーの熱狂的なファンで、中等部時代に、何度か目の敵にされたことがあったのよ」
明日香の兄がカイザーの友人なので、その繋がりで二人も仲が良いらしい。
「あなたが私に勝ったから、目をつけられたのね」
「なんでそうなるのか分からないけど、デュエルなら断れないな」
オベリスクブルーの女王云々はどうでもいいが、決闘の誘いを受けて立つカノン。
「私たちも行きましょう」
「はい、明日香さん」
明日香がジュンコとももえに声をかけて、ブルー専用のデュエル場まで移動した。
カノンがデュエルすることを耳に挟んだ生徒たちが、続々と集まっている。デュエルができるのはブルー寮の生徒だけだが、観衆の中にはラーイエローやオシリスレッドの生徒も大勢紛れている。
デュエルリングの上では、カノンと蘭が睨み合っていた。
「怯えずに来たようね」
「デュエルとなれば、逃げる理由がないからね」
「逃げた方がマシだったと、後悔させてあげるわ」
一歩も引かない様子を見せる二人。
「用意はいい?」
「いつでも来い」
お互いにデュエルディスクを構えた。
「アタシのターン、ドロー!」
蘭がデッキからカードを1枚引いて、ディスクにモンスターを置いた。
「《
青い巨大コオロギが翅を立てて、コロコロと鳴き声を出す。耳慣れない音に、カノンが顔を顰めた。
「ワタシはカードを1枚伏せて、ターンエンドよ」
フィールドに裏側のカードが出される。
「私のターン、ドロー!」
カノンがデッキからカードを引く。
「《宝玉獣 アンバーマンモス》を攻撃表示で召喚」
アンバーの宝玉が砕け、六本の牙を持つマンモスが現れる。額に埋め込まれた琥珀には、トンボのような昆虫の影が浮かんでいる。
アンバーマンモス 攻撃力1700
「アンバーマンモスで攻撃!」
『おぉう!』
アンバーがドタドタと駆け寄り、共鳴虫を踏み潰して爆散させる。その活躍に、ジュンコが歓声を上げた。
「カノンさんが、モンスターを倒したわ!」
「いいえ、まだよ」
「え?」
明日香の見立て通り、モンスターを破壊されても、蘭の顔に焦りはない。
「戦闘で破壊された《共鳴虫》の効果発動! デッキから攻撃力1500以下の昆虫族モンスターを特殊召喚する!」
共鳴虫がけたたましい鳴き声を上げて、新たな仲間を呼んだ。
「《
その鳴き声に呼び寄せられたのは、緑色の巨大鈴虫だ。翅を立ててリーンリーンと鳴き声を上げる。
「そんな! せっかく破壊したのに、新しいモンスターが出てくるなんて!?」
「これが虫を操る、インセクトプリンセスの実力よ」
明日香も認めるデュエルの腕前。調子づいた蘭がカノンを煽った。
「そんな古臭い動物で、ワタシの虫のしぶとさに敵うわけないじゃない」
「へぇ。アンバーの宝石は、別名『琥珀』と言って、出来上がる過程で虫が閉じ込められるんだけどね」
上手く言い返された蘭がピキッと青筋を立てる。
「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド」
カノンが空きスロットにカードを差し込むと、場に裏向きのカードが現れた。
「生意気な! アタシのターン、ドロー!」
虫を侮辱された蘭が、怒り任せにカードを引き抜いた。
「アタシの可愛い虫たちを甘く見ると、痛い目に遭うわよ!」
それを今から証明するために、蘭が攻勢に出る。
「手札から魔法カード《アリの増殖》を発動! 共振虫を生贄に、兵隊アリトークン2体を攻撃表示で特殊召喚!」
共振虫が光の粒子となり、フィールドに緑色のアリが2匹増殖する。
兵隊アリトークン×2 攻撃力500
「さらに、《共振虫》が墓地へ送られた場合、自分の墓地に《共鳴虫》がいれば、デッキからレベル5以上の昆虫族モンスターを手札に加えることができる! 《インセクト・プリンセス》を手札に!」
危険を知らせる2匹の鳴き声が増幅し合い、《インセクト・プリンセス》を呼び寄せた。
「だけど、兵隊アリトークンは生贄召喚には使えない。このターンに上級モンスターの生贄を揃えることは不可能だね」
「それはどうかしら?」
蘭が不敵な笑みを浮かべて、手札のモンスターをかざす。
「《代打バッター》を攻撃表示で召喚」
「そのモンスターは…!」
鋭い爪と牙を持った巨大バッタのモンスターが現れる。彼女の余裕は、このカードが手札にあったからだろう。
代打バッター 攻撃力1000
「そして、罠発動《
爆弾のはまった指輪が、代打バッターの前脚につけられた。導火線がじりじりと短くなっていく。
「自分のモンスターに爆弾を!?」
「虫は王女のために、その身を捧げるのよ」
爆薬に火がつき、代打バッターごと吹き飛んだ。
「ぐううう…!!」
カノン LP4000(-1000)→3000
胡蝶蘭 LP4000(-1000)→3000
両者1000のダメージ。しかし、ライフを削ることが目的ではない。蘭にはさらなる狙いがあった。
「《代打バッター》が墓地に送られた時、手札から昆虫族モンスターを特殊召喚できる!」
「やっぱり、そのコンボを狙ってたか!」
先ほど手札に加えたモンスターは、このための布石だ。
「代打バッターの特殊効果発動! 手札から《インセクト・プリンセス》を攻撃表示で特殊召喚!」
蝶が人型に進化したような昆虫の王女。四本の腕と、背中に黒とピンクの翅が生えている。そのつぶらな瞳には不気味な影を感じてしまう。
インセクトプリンセス 攻撃力1900
「生贄なしで上級モンスターを召喚するとはね」
「これくらい序の口よ」
蘭が髪を払ってツンとした態度を取る。よく練られたタクティクスを使いこなしていた。
「インセクトプリンセスには、戦闘によって昆虫族モンスターを1体破壊する度に、攻撃力が500ポイントアップする効果があるわ」
「残念だったね。私のデッキには宝玉獣以外のモンスターは入っていない」
カノンが正直に告げるも、余裕の表情を崩さない。
「ふっ。手札から、フィールド魔法《
ディスクの横にある、フィールド魔法専用のスロットが開いた。蘭がそこにカードを置くと、元の形に収納される。
「これは…!?」
発動されたフィールド魔法が、ソリッドビジョンに反映される。デュエルリングが草花の生える土に、まるで小人が庭に迷い込んだような風景に切り替わった。
観客席の明日香たちも、その様子に驚く。
「なんなの!? あのフィールド魔法!」
「花の香りよ! それで昆虫族モンスターを、カノンのフィールドに呼び寄せるつもりだわ」
彼女の名を冠する鈴蘭から甘い香りを漂わせ、兵隊アリを魅惑する。
「自分のフィールドのレベル4以下の昆虫族モンスターを、相手フィールドへ移す!」
「カノンさんのところに、アリさんが来ましたわっ!?」
《
「さらに装備魔法、《インセクト・フェロモン》を発動!」
インセクトプリンセスの翅がピンクに発光する。フェロモンによって、興奮状態になっているようだった。
「兵隊アリトークンを攻撃! ステム・シャワー!!」
インセクトプリンセスが跳躍し、背中の翅を羽ばたかせて突風を起こす。
その攻撃が届く前に、カノンが罠で妨害した。
「リバースカードオープン《宝玉割断》! デッキから宝玉獣と名のつくモンスター1枚を墓地に送り、インセクトプリンセスの元々の攻撃力を半減させる!」
「──!?」
デッキホルダーからデッキを取り出す。《宝玉獣 エメラルドタートル》のカードが墓地スロットに吸い込まれる。
インセクトプリンセス 攻撃力1900→950
「ぐうう…!!」
元は味方だった兵隊アリを粉々に破壊して、カノンにダメージを与える。
カノン LP3000(-450)→2550
「チッ! だけど、これでインセクトプリンセスの攻撃力は500ポイントアップするわ」
祈りを捧げるように手を組み、背中の翅が濃いピンクに発光する。
インセクトプリンセス 攻撃力950→1450
「さらに、《インセクト・フェロモン》の効果で、相手のコントロール下にある昆虫族モンスターと強制的に戦闘を行う!」
虫の王女から発せられるフェロモンに惹きつけられた兵隊アリが、自ら王女の糧となりに行く。
「やっておしまい!」
「うあああっ!!」
兵隊アリが粉々になり、そのダメージの衝撃がカノンを襲った。
カノン LP2550(-950)→1600
「ターンエンド」
昆虫族モンスターを破壊したことで、蝶の翅がさらに濃いピンクに発光する。
インセクトプリンセス 攻撃力1450→1950
「中々やるじゃないか」
相手のモンスターを無視するようなデッキは、彼女の性格をよく表していた。何とかダメージを抑えたものの、かなりライフを削られてしまった。
「サレンダーするなら、今のうちよ」
「そんなもったいないことしないさ。私のターン、ドロー!」
たった今引いたカードに対し、アンバーが指示を出す。
『私で攻撃するんだ、カノン』
「ああ、わかってる」
言わずとも通じ合うカノンたち。しかし、その前に戦力を追加しておく。
「《宝玉獣 アメジストキャット》を、攻撃表示で召喚!」
アメジストの宝玉が砕け、中からしなやかな猫が鳴き声を上げた。その胸元には、アメジストの宝石がブローチのように飾られている。
アメジストキャット 攻撃力1200
『アタシも力を貸すわ、カノン』
「ありがとう、アメジスト」
バトルフェイズに移ると、予め決めていた作戦を実行する。
「アンバーマンモスで、インセクトプリンセスを攻撃!」
「あらやだ、ヤケになっちゃって。攻撃力1700ぽっちで、玉砕するつもりかしら」
笑いを堪えるように手の甲を口に当てる。
「いいや! 私は手札から、速攻魔法《M・フォース》を発動! アンバーマンモスの攻撃力を500ポイントアップ!」
「なっ!?」
突進していくアンバーに、攻撃力上昇のエフェクトがかかる。
アンバーマンモス 攻撃力1700→2200
『ハアァァァー!!』
力を増したアンバーが、インセクトプリンセスを踏み潰す。ターンを跨いでも有効な《宝玉割断》のおかげで、わずかに攻撃力は上回っている。
「うわあああーー!?」
モンスターが戦闘破壊されたことで、爆風による衝撃が蘭を襲う。
胡蝶蘭 LP3000(-250)→2750
「ワタシのインセクトプリンセスをよくもっ…!」
鬼の形相でカノンを睨むが、攻撃の手を緩めない。
「アメジストキャットでダイレクトアタック!」
『シャーッ!』
アメジストが飛びかかる。鋭利な爪を振り下ろして、蘭の顔を引っ掻いた。
「アアアァーーッ!!」
胡蝶蘭 LP2750(-1200)→1550
ダメージを与えたカノンが、ターンを終了する。
「このエンドフェイズ、《宝玉割断》の効果対象モンスター、インセクトプリンセスが破壊されたことにより、相手プレイヤーはカードを1枚ドローする」
「このっ…!」
カノンを睨みつけながらカードを引く。エースモンスターを倒されて、形勢は完全に逆転した。
「負けるもんですか! あなたに勝って、ワタシは女王の座を手に入れる! そして、亮様の隣に立つのよ! ワタシのターンドロー!」
言ってることは支離滅裂だが、その気迫は本物だった。
「フッ…見せてあげるわ。ワタシの最強のモンスターをね!!」
「なにっ?」
ドローしたカードを見た彼女が、勝ちを確信したような表情になる。まだ余力を残しているとでもいうのか。
「ワタシは《ネオバグ》を召喚して、《皇帝の孵化》を発動!!」
蘭がかざした魔法カードを説明する。
「《皇帝の孵化》は、墓地に“インセクトプリンセス”がいるときにのみ発動できる特殊な魔法カード。自分の昆虫族モンスターを生贄に捧げ、デッキから虫の皇帝を呼び出すのよ!」
ネオバグに植え付けられた王女の卵が孵化し、寄生していた体を突き破り、体液に塗れた皇帝が目覚める。
「《インセクト・カイザー》を攻撃表示で特殊召喚ッ!!」
「──!?」
インセクトプリンセスにネオバグの特徴を引き継いだ昆虫の皇帝。硬そうな甲殻で覆われ、鎌のような口と、鋏のような尻尾が増えている。
インセクトカイザー 攻撃力2100
「インセクトカイザーは、墓地に“インセクトプリンセス”が存在するとき、自分の墓地の昆虫族モンスター1匹につき、その攻撃力を200ポイントアップさせる!」
彼女の墓地にいる昆虫族モンスターの数は5体。よって、合計1000ポイントのパワーアップだ。
インセクトカイザー 攻撃力2100→3100
「攻撃力3100!?」
「まずいわ! あのモンスターに攻撃されれば、カノンのライフは0になってしまう…!」
まさしく皇帝の名に相応しいパワー。蝶の翅が濃いピンクに発光し、全身の筋肉が膨張する。
「インセクトカイザーで、アメジストキャットを攻撃! ステム・スコール!!」
インセクトカイザーが素早く跳躍し、背中の翅を羽ばたかせて暴風を起こす。
『私に任せろ、カノン!』
「アンバーマンモスの効果発動! 他の宝玉獣が攻撃される時、その攻撃対象をこのカードに移し替える!」
「なんですって!?」
アンバーの額にある琥珀が輝き、威嚇するように鼻を高らかに上げた。相手の攻撃が曲がり、アメジストキャットの盾となる。
「ぐああああーっ!!」
カノン LP1600(-1400)→200
大ダメージを受けたが、ギリギリで持ちこたえた。
「ありがとう、アンバーマンモス…!」
カノンの
「しぶとい小娘ね! だけど、ライフポイントたった200で、いったい何ができるっていうの?」
次々に昆虫モンスターを召喚し、ついには攻撃力3100の強力モンスターにたどり着いた。負けるはずがないと蘭は豪語する。
「私のターン、ドロー!」
デッキから引いたカードを手札に加え、カノンは蘭へと視線を向けた。
「虫は次々に世代交代を繰り返し、より強く進化する。だけど宝石が生まれるには、長い時間の蓄積が必要なんだ」
「あら、負け惜しみかしら?」
墓地、フィールド、手札。これまでのターンで、勝利に必要な条件は整った。
「その蓄積された力が今、解き放たれる!」
この状況を覆すために、カノンが動き出した。
「装備魔法《宝玉接合》を発動。墓地の宝玉獣と名のつくモンスター1体を、自分の場に特殊召喚する!」
「墓地にモンスターなんて…ハッ!? まさか、あのとき…!?」
「ああ、《宝玉割断》のコストとして、墓地に送っておいたのさ! 出ろ、《宝玉獣 エメラルドタートル》!!」
エメラルドの宝玉が砕け、中から皺だらけの亀が現れる。その甲羅からはエメラルドの結晶が突き出ている。
エメラルドタートル 攻撃力600
「フ、フン! 何かと思えば、攻撃力たった600の雑魚モンスターじゃない!」
「エメラルドタートルの底力はここからだ」
カノンと力を合わせることで、宝玉獣たちはより輝くのだ。
「魔法カード《宝玉の含浸》発動! エメラルドタートルに装備して、その攻撃力を元々の守備力分アップする!」
『おぉ〜! 力がみなぎるぞぉ〜!』
エメラルドは宝玉獣の中で最高の守備力を誇る。それが攻撃力に加われば、2000ポイントものパワーアップとなる。
エメラルドタートル 攻撃力600→2600
「こ、攻撃力2600ゥ!?」
コーティングにより光沢を増すが、耐久性は落ちる。《宝玉の含浸》がフィールドを離れた時に、装備モンスターは破壊されてしまう。
「そ、それでも、インセクトカイザーの方が攻撃力は上よ!」
「これで最後だ!」
そして、カノンが逆転のカードをかざす。
「手札から《アンバー・ジェイル》を発動!! このカードは、自分の魔法&罠ゾーンに、“宝玉獣アンバーマンモス”が存在する場合にのみ発動が可能な魔法カード」
特殊な条件下で発動できる、アンバーマンモス専用カードだ。
「その効果で、相手の墓地のモンスターを自分フィールドに特殊召喚し、魔法&罠ゾーンのアンバーマンモスを装備カード扱いとして装備する!」
「ワタシの墓地のモンスターですって!?」
「《インセクトプリンセス》を特殊召喚!」
彼女の墓地に眠るインセクトプリンセスが、樹液に取り込まれて固まった。カノンの場に現れた琥珀の結晶からは、その姿が透けて見える。
インセクトプリンセス 攻撃力/守備力0
この琥珀に閉じ込められたモンスターは攻撃と効果を封じられ、攻守も0となる。だが、モンスターを増やすことがカノンの狙いではない。
「インセクトプリンセスが墓地から消えたことで、インセクトカイザーの攻撃力は元に戻る!!」
「そんなっ…!」
王女を失ったことで、皇帝が力を失う。翅の発光が薄くなり、筋肉も萎んでいく。
インセクトカイザー 攻撃力3100→2100
「いくぞ! エメラルドタートルで、インセクトカイザーを攻撃! エメラルド・カッター!!」
エメラルドが首と四肢を引っ込めて、甲羅を高速回転させる。その勢いに乗せて、刃状のエネルギーが飛び出した。
インセクトカイザーが尻尾の鋏で攻撃を受け止めるが、弾き返すことができずに、バキっと折れる。
「イヤァァァーー!!!」
エメラルドの攻撃によって爆散する。自慢の最強モンスターを破壊されたことで、蘭が悲痛な叫び声を上げた。
胡蝶蘭 LP1550(-500)→1050
「アメジストキャットでダイレクトアタック! アメジスト・ネイル!」
「キャアアアーー!?」
アメジストの攻撃によって、ライフが削れていく。
胡蝶蘭 LP1050(-1200)→0
デュエル終了の電子音が鳴り、ソリッドビジョンのモンスターも消える。
無事に勝利を収めたカノンが、肩の力を抜いた。
「やったー!」
「カノンさんの勝ちですわ!」
ジュンコとももえが跳ねるように喜ぶ。その間に挟まれていた明日香も、ホッと息をついて安堵する。
「悔しいー! 亮さまーー!!!」
滝のような涙を流しながら、噛んだハンカチを引っ張る。胡蝶蘭の叫び声によって、決闘は幕を閉じた。