デュランダル。
現代で数える程しか残ってない聖遺物の一つ。
本来はEU連合が所有していたが、数年前の経済破綻を機に日本政府が管理することになった。
特異災害対策機動部二課本部最奥区画にて厳重保管されていたのだが、周辺に頻発するノイズの発生ケースから、政府は移送を計画。
今回のシンフォギア奏者の任務はコレの護衛である。
そして今、移送途中に襲撃してきたノイズと交戦していた。
「ああクソ!多すぎる!」
「ゼウスよ!駆けつけてくれたことはありがたいがもう少し早く来れんかったのか!?」
「お前らのところの防衛大臣守ってたんだよ!暗殺されそうになってたからな!」
「何だと!?」
ゼウスの発言内容に一瞬驚くもすぐに目の前のことに向き合う。
先日の闘いで弦十郎は実感したが、ゼウスは高いラーニング能力を持つ。
一度戦ってデータを収集した相手には新技や予測不能な攻撃でもしない限り先ず負けない。
ソレは目の前の敵にも言える。
「やっと追い詰めたぞ銀色。そのはた迷惑な聖遺物、今度こそ破壊してやる」
「クソ!」
雪音クリス。
彼女こそ今回の襲撃者であり、ノイズをけしかけた張本人。
完全聖遺物ソロモンの杖。これによってノイズを呼び出し、無作為に暴れさせていた。
「年貢の納め時だ。72種類もコマンドがあるのに使いこなせないお前など敵じゃねえ」
「ッハ、流石は女好きのゼウス様!お見通しってか!」
ゼウスの目、正確に言えばドゥゼスの写輪眼がソロモンの杖の特性を見抜いていた。
まあ、原作知識もあるのだが。
『レディゴー!』
ノイズの集団を突破し、すり抜けてクリスの眼前まで接近。
ベルトのレバーを回してエネルギーを籠め、必殺の構えに入る。
ゼウスの拳に雷が集中した途端、クリスは苦々しい顔で歌い出した。
「よくもアタシにクソみたいな歌を歌わせたな!」
瞬間、彼女は赤いシンフォギアを身に纏った。
イチイバル。遠距離型のシンフォギアである。
「くらいやがれ!」
様々な遠距離攻撃を仕掛ける。
矢、銃弾、砲弾、更にミサイルまで。
聖遺物は古代兵器だというのに、これでもかと現代兵器を投入していく。
だが、それでもゼウスには届かなかった。
次々と迎撃していくゼウス。
自身の聖遺物に因んだ天候操作で迎撃。
電撃で撃ち抜き、暴風で吹き飛ばし、熱線で焼き、吹雪で凍らせて。
迎撃しながら確実にクリスへと接近した。
「才能はあるがソレだけだな。戦略も技術も無い。そんなので俺に勝てると思ったのか」
「………!」
無言。
言い返したいが出来ない。
ゼウスの言う通り勝てるとは思って無いし、そもそもそんな余裕などない。
「(クソ、こんだけ弾薬ばら撒いてるのに全然効かねえじゃねえか!)」
如何なる攻撃も迎撃される。
あらゆる属性攻撃によって。
天候そのものと戦ってるような気分。
ではどうするか。戦い方を変えるのか。その選択肢も存在しなかった。
「(コイツあのライオンみたいなおっさんとマトモに殴り合ってたんだろ!?勝てるわけねえだろ!?)」
彼女の判断は正しい。
原作でもミサイルを放つが、弾頭を受け流され無力されたという意味わからんことをされている。
そんな化物と殴り合いが成立する相手に接近戦など愚の骨頂。何が何でも近づかせないのは正解と言える。
まあ、遠距離戦でもこの有様なのだが。
「正面ばかりに気を取られ過ぎだ」
「!!?」
閃光と共にクリスの背後に現れるゼウス。
肉体を雷化させることによる瞬間移動。
戦闘時は隙が多いためやらないのだが、今回は使える機会があった。
イチイバル一斉射撃。
巨大すぎるアームドギアは咄嗟の反転が効きにくい。
隙が多い瞬間移動を使っても十分お釣りがくる。
「今度こそ終わらせる」
『レディゴー!エレクトリックフィニッシュ!』
右拳に電気のようなエネルギーを纏う。
音声と共にソレをクリスに叩き込んだ。
「ああああああああ!!?」
強制解除。
シンフォギアの破壊まではいかなかったが、無力化には成功した。
だが、その寸でのところで彼女は聖歌を謡った。
「…このアマ!」
「っへ、お優しいゼウス様にはこの手が使えるって聞いたぜ?」
遠くの方から膨大なエネルギーを感知した。
デュランダルの強制発動。
破壊される直前、クリスの歌声によって起動してしまったのだ。
デュランダル。
名前の意味は不滅不朽。
発動すれば圧倒的なエネルギーを無尽に生み出す剣として機能する。
ちゃんした施設で起動すれば大きな恩恵を得られるが、この場ではノイズの襲撃よりもタチが悪い。
「面倒なことしてくれたな!」
ゼウスはわざと余裕が無さそうに振舞ってその場を後にした。
『レディゴー!エレクトリックフィニッシュ!』
デュランダルに踵落としを繰り出す。
エレクトリックフィニッシュを叩き込まれてデュランダルは活動を強制的に停止。
エネルギーの暴走を抑えるための“箱”も十分な事を確認したゼウスは安堵の息をついた。
気を抜いた。
変身解除こそしてないが、隙を晒した。
チャンスを虎視眈々と狙っている者にとっては大きな好機。
彼女がソレを見逃す筈がなかった。
「ッ!?」
突如、ノイズが現れた。
ゼウスの背後から、狙ったかのように奇襲を仕掛ける。
流石のゼウスも反応出来ずに直撃。ダメージを受けた。
「クソ、まだいるのかよ!?」
反撃するゼウス。
彼の撃ち出した拳がノイズを破壊する。
しかしたった一体だけ。次々とノイズ共が彼を囲むかのように湧いてくる。
「限界時間スレスレだってのに!」
既に彼の鎧からは粒子が零れ落ちていた。
重力が逆転しているかのように、身体の端々から粒子が上に落ちて行く。
活動限界。鎧を維持するための時間が刻々と削られていった。
逃げる事は出来ない。
ノイズを放置出来ないというのもあるが、一番は彼の周囲だった。
先日の会議で櫻井了子が提案した電磁牢らしきものが展開されている。
電子化による瞬間移動が封殺されてしまっているのだ。
「なんだアレは!?あんなの聞いてないぞ!」
「どういう事ですか了子さん!?…あれ、何処行ったあの人!?」
「さっきまでいた筈よね!?」
いつの間にかいなくなった了子。
そのことに一瞬疑問に思うも今はそんな事に構う余裕はない。
「まずい、このままではゼウスがやられるぞ!」
「しかし相手はノイズです!我々には何も……」
「………」
二課は、孤立奮闘するゼウスに手を貸すことはしなかった。
恨みはある。何度も邪魔をされ、シンフォギア奏者が一人再起不能にされた。
恩もある。何度もノイズから救われ、翼も奏も直接助けられた。
「(私は…どうすればいいの!?)」
恩を優先すれば、友を裏切ることになる。
恨みを優先すれば、矜持を裏切ることになる。
どちらが自身にとっての正解か、翼には答えを出す事は出来なかった。
「お…のれ………」
遂に、鎧が完全に消失した。
現れたのは精悍な顔の男。
西洋の血が入ったと思われるその美貌は、どこぞの国の王子様のようであった。
「………え?」
途端、翼は膝を付いた。
その顔には覚えがある。
彼女の心の闇と隙間を埋めてくれた人の顔。
決して戦場に出ていいものでは無い。増して、怨敵の鎧の下から出てきていいものではない。
「嘘、だよね………」
認めたくない。
優しい言葉をささやいてくれた彼が、奏に寄り添ってくれた彼が。こんなところにいる筈が無い。
「………悪いが、君の質問に答える余裕はないな」
目の前の敵に目を向けるゼウス―――大和。
アメジスト色の瞳には一人の女性の姿が映っていた。
「初めましてゼウス。まあ、貴方と長く話すつもりはないけどね」
フィーネ。
彼女こそこの事件の黒幕であり、今期で世界を滅ぼそうとするラスボスである。
「この時を待っていたわ!邪魔なお前をこの手で始末する日を!」
「ああ、俺も待っていたぞ」
『ドゥゼスドライバー!』
瞬間、世界の時間が止まった。